
第60回理学療法士国家試験 午前6−10の解説
(6) 6歳の男児。1年前から歩行時の転倒が頻回にみられるようになったため病院を受診し、遺伝子検査でDuchenne型筋ジストロフィーと診断された。四肢体幹は萎縮しており、MMTで両側下肢の近位筋が2、遠位筋が3である。屋内は四つ這いで移動し、小学校の普通学級に車椅子で通学している。
機能障害度(厚生省筋萎縮症研究班)のステージで正しいのはどれか。
(60回午前6)
1.ステージ4
2.ステージ5
3.ステージ6
4.ステージ7
5.ステージ8
【答え】2
【解説】
Duchenne型筋ジストロフィーのステージ分類は国試頻出です。

要約すると
ステージ1 階段昇降(てすりなし)
ステージ2 階段昇降(てすりあり)
ステージ3 椅子から立ち上がり
ステージ4 なんとか歩行できる (徳大式長下肢装具+ヘッドギア)
ステージ5 四つ這い(歩行不能になれば体幹装具で車椅子)
ステージ6 ずり這い
ステージ7 座位
ステージ8 ねたきり
となります。
問題文では四つ這いなので、ステージ5となります。
(7) 22歳の男性。大学の野球部に所属している。右上肢の投球動作時の違和感を訴えで受診し、理学療法が開始された。図に示す手法で伸張される筋はどれか。(60回午前7)

1.棘下筋
2.棘上筋
3.小円筋
4.前鋸筋
5.大円筋
【答え】5
【解説】
→の方向の意味が曖昧ですので、動きを捉えるまで、少し時間を要するのではないでしょうか?図では背臥位で、肩関節外転位・肘関節屈曲位の状態で、手首に重りを付けて、自然落下させているように見えます。設問では、少なくとも「手首に重りを付けて自然落下させた」などと記載してもらいたいものです。
さて、図ではベット上に寝ているので、肩甲骨は固定されていると考えます。次に、肘は屈曲・進展のみなので、この動きの肩関節の動きと捉えます。そしてこの動きは外旋の動きとなります。
問題文では、この外旋の動きで伸張(ストレッチ)される筋を選べという事なので、内旋する筋(肩関節内旋筋)を選びます。
1.棘下筋:×
棘下筋は肩関節回旋筋群(トーテーターズ)の一つで、肩甲骨棘下窩から起始して、上腕骨大結節に後方から停止し、肩関節外旋作用があります。

2.棘上筋:×
棘上筋は三角筋と共同で肩関節外転作用があります(国試頻出)。なお棘上筋の働きがなければ、三角筋だけでは上腕骨が上にずれるだけで、うまく外転できません。

また肩峰より前を通るので、肩関節屈曲の作用もあります。
3.小円筋:×
小円筋は肩関節回旋筋の一つで、下図のように、肩甲骨下外側面から起始し、上腕骨大結節に後方から停止し、肩関節外旋作用があります。

4.前鋸筋:×
前鋸筋は第1〜第9肋骨から起始し、肩甲骨の上角・内側縁・下角に停止します。上腕骨に付着していないので、肩関節作用はなく、作用は肩甲骨の外転・上方回旋です。

5.大円筋:○ 大円筋は肩甲骨の外側縁・下角から起始して、上腕骨の前方へと回り、上腕骨小結節稜に停止する事から、肩関節内旋作用があります。

(8) 60歳の男性。交通事故による右足部の開放骨折のため入院した。1週後に右足部の腫脹、熱感が出現し、右中足骨の骨髄炎と診断され、右足関節離断術が施行された。制作すべき義足はどれか。(60回午前8)
1.PTB式下腿義足
2.TSB式下腿義足
3.吸着式下腿義足
4.サイム義足
5.足根中足義足
【答え】4
【解説】
開放性骨折で、骨髄炎を引き起こし、足関節で切断になってしまった不幸な患者です。切断は右足関節離断です。右足関節の部分で切断されており、足関節付近での切断は以下のような切断法がありますが、最も重要(唯一といってよい)なのがサイム切断です。

サイム切断の他は、ショパール切断やリスフラン切断もあります。ショパール関節やリスフラン関節から想像できますね。その他、ボイド切断やピロゴフ切断も名前は覚えておいてください。

そして、サイム切断にはサイム義足が使われます。サイム切断では足関節部で脛骨・腓骨だけが残っており、踵骨などは除去されていますので、踵部が底上げみたいな感じになっています。

1.PTB式下腿義足:×下腿切断に用いられる装具です
2.TSB式下腿義足:×下腿切断に用いられる装具です
3.吸着式下腿義足:× 腿切断に用いられる装具です
4.サイム義足:○足関節部での切断に用いられる装具です。
5.足根中足義足:×
→足根骨部や中足部での切断に用いられる義足です。踵骨が残っているので、踵部で底上げにはなっていません。

(9) 32歳の男性。右上肢の筋力低下を訴えて受診し、理学療法が開始された。筋力を評価するために、右上肢を前方挙上して壁を押させた時の様子を図に示す。その結果、右肩甲骨の内側縁全体が胸郭から離れる現象が認められた。筋力低下が疑われる筋はどれか。(60回午前9)

1.棘下筋
2.肩甲下筋
3.広背筋
4.前鋸筋
5.大円筋
【答え】4
【解説】
図のように、上腕を水平に挙上し、前方の壁を押すような動きは、肩関節単独の運動(屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋)ではできません。この動きには肩甲骨の働きが必要になります。
この動きには、肩甲骨が外転し、胸郭に押しつけられる事によって、肩関節が前方へと移動する事が必要になります。


そのような動きに関与するのは前鋸筋です。前鋸筋の働きは肩甲骨の外転と上方回旋です(国試頻出)。前鋸筋は働けないと、肩甲骨の外転・上方回旋と逆の動きとなり、肩甲骨が内転。下方回旋する結果、下の写真のように、肩甲骨が胸郭から浮き上がるようになり、このような状態を翼状肩甲と呼びます。したがって、問題の答えは4.前鋸筋となります。

(10) 65歳の女性。右利き。突然の意識障害で急性期病院に搬送され、脳出血と診断された。左上下肢の運動麻痺、感覚障害は中等度。端座位では体幹が麻痺側に傾くが、理学療法士の修正に抵抗する事なく正中位に戻ることが可能である。常に非麻痺側を向いているが、麻痺側からの刺激にも反応する。食事や歯磨きは非麻痺側上肢で行うが、麻痺側の食べ残しや、磨き残しが多い。この患者に用いる検査で最も優先順位が高いのはどれか。(60回午前10)
1.WAB
2.WCST
3,線分抹消試験
4.道具を用いたパントマイム
5.SCP (Scale for Contraversive Pushing)
【答え】3
【解説】
脳出血の臨床問題ですが、ポイントは以下です。
#1 常に非麻痺側を向いている
#2 麻痺側からの刺激には反応する
#3 麻痺側の食べ残しや磨き残しが多い
特徴的なものは#3で、麻痺側に意識が乏しいので、食べ残しや磨き残しが多いと考えられ、このような症状は半側空間無視と言われます。
半側空間無視の場合、麻痺側に意識が向かないため、#1のように「常に非麻痺側を向く」事になります。また、半側空間無視は、麻痺側への意識が乏しくなりますが、#2のように麻痺側からの刺激には反応をします。
半側空間無視は右半球の脳梗塞や脳出血で生じます。
そして半側空間無視を検出する検査法には、以下のようなものがあります。
(1)模写試験:あるものを模写すると左側だけ書けない
(2)線分抹消試験:ランダムに書かれた線の真ん中に印を付けてくださいと命じると、左側の線だけ印をつけない
(3)線分二等分試験:紙にかかれた線を半分にするように印を付けてくださいと命じると、左側を無視するので、印が右に偏ってしまう

またこのような検査法は行動性無視検査 ( BIT: Behavioural Inattention Test)と呼ばれます。併せて覚えましょう。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。