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第59回理学療法士国家試験 午後11−15の解説

 息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
 第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
 昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
 理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。


(11) 68歳の女性。外出中、前方に転倒して受傷し、骨折に対して手術療法が行われた。術後のエックス線写真を示す。手術後の理学療法で正しいのはどれか。(59回午後11)

1.骨癒合が得られてから荷重を開始する
2.術直後から膝関節可動域練習を行う
3.スボンを履く際は患肢下肢から行うように指導する
4.両松葉杖で階段を下りる際は健側下肢から降ろす
5.大腿四頭筋の筋力増強練習は等張性運動から開始する
 
                    【答え】3

【解説】
病名が書かれていませんが、膝蓋骨々折ですね。膝蓋骨々折の場合、下図のように横骨折では膝の屈曲時に上下に牽引され、骨折が離開しやすいため手術が必要です。縦骨折の場合は保存的治療となる場合もあります。

福岡の弁護士による後遺障害・等級認定サポート 膝蓋骨々折 より引用
https://www.kouishougai.jp/example/膝蓋骨々折

術後の理学療法については初出ですが、一つずつ考えれば良いと思います。

1.骨癒合が得られてから荷重を開始する:×
 →膝蓋骨は膝屈曲位から伸展位にする場合に、滑車の役割をして、伸展の作業効率を高めています。一旦伸展位になると、加重しても影響しないので骨癒合が得られていなくても荷重しても構いません。


2.術直後から膝関節可動域練習を行う:×
 →膝関節の過度に動かすと、骨折部が離開する恐れがあるので、膝関節可動域訓練はある程度骨が癒合してから行うようにしてください。

3.スボンを履く際は患肢下肢から行うように指導する:○
 →健側下肢からズボンをはくと、患側下肢を通すために患側下肢(膝)を曲げないといけません。患側下肢からズボンをはくと、対側をはくとき曲げるのは健側下肢(膝)なので問題ありません。

4.両松葉杖で階段を下りる際は健側下肢から降ろす:×
 →健側下肢から降ろすと、健側下肢を伸展して体重を支え、患側下肢(膝)を曲げながら下りないといけません。それよりも両松葉杖を用いて患側下肢を伸ばしながら先に降ろしてつっぱり、次に健側下肢(膝)を曲げて下りた方が患側膝を曲げなくて済むので良いです。

5.大腿四頭筋の筋力増強練習は等張性運動から開始する:×
 →大腿四頭筋は不動で容易に筋力低下をきたすので、筋力トレーニングは重要です。ただし、この手術の場合最初は膝の安静が必要ですので、筋力増強運動は等尺性運動から開始した方が良いです。


(12) 58歳の男性。半年前から両手の筋萎縮に気付き、最近しゃべりにくさを自覚するようになった。体重は半年で70kgから60kgに減少。MMTは両上肢の近位筋が2、遠位筋が4、両下肢が4、四肢の腱反射は亢進。舌の萎縮が認められるが明らかな嚥下障害はない。肺機能検査で%VC肺活量は95%、動脈血ガス分析はPaO2: 90Torr、PaCO2: 40Torrであった。現時点で適切な対応はどれか。(59回午後12)
1.BFOの導入
2.胃瘻造設術の施行
3.気管切開術の施行
4.電動車椅子の導入
5.在宅酸素療法の導入
 
                   【答え】1

【解説】
 病名ははっきり記載ないですが、半年前から両手(上肢の遠位)の筋萎縮に気づきと書いているので、ミオパチーではなくニューロパチーと考え、おそらく筋萎縮性側索硬化症 (ALS)と思われます。四肢の腱反射亢進は上位運動ニューロン障害と思われます。
 MMTでは上肢近位筋の筋力低下が強いので、近位筋優位のミオパチー(?)と悩ませますが、おそらく出題委員の嫌がらせでしょう。
 過去問からのALS のリハビリのポイントは以下の通りです(直接今回の問題とは関係ありません)。

では選択肢を見ていきます。このような問題の場合は問題文に示された状況と照らし合わせる必要があります。

1.BFOの導入:○
 →本症例では上肢の近位筋の筋力低下がありMMTは2、遠位筋はMMT 4です。BFOはBalanced Forearm Orthosisの略でバランスを取る (balanced) 前腕 (forearm)の装具 (Orthosis)です。本症例のように上腕の筋力低下がある場合、それを補助するので良い適応となります。



2.胃瘻造設術の施行:×
 →ALSでは球麻痺から嚥下障害をきたしますが、本症例では舌の萎縮はみられるものの、嚥下障害がないと書かれています。現在胃瘻を造設する適応はありません。

3.気管切開術の施行:×
 →選択肢2のように現在嚥下障害はなく、誤嚥性肺炎をきたしている状況でもありません。またALSでは呼吸筋の筋力低下により末期では換気障害から人工呼吸器が必要になります。
 しかし、本症例では肺機能検査で%VC肺活量は95%で換気障害はないので、現状では気管切開術の適応はありません。

4.電動車椅子の導入:×
 →本症例のMMTは両上肢の近位筋が2、遠位筋が4、両下肢が4と、上肢近位筋の筋力低下がありますが、両下肢の筋力低下はないため、現状では電動車椅子の必要はありません。

5.在宅酸素療法の導入:×
 →本症例では動脈血ガス分析はPaO2: 90Torr、PaCO2: 40Torrと正常なので、現状では酸素吸入は不要です。


(13) 20歳の男性。脊髄損傷。プッシュアップ動作を図に示す。この動作が獲得可能な最も高位な機能残存レベルはどれか。(59回午後13)

1.C4
2.C5
3.C6
4.C7
5.C8
 
                    【答え】3

【解説】
 頸髄損傷の残存レベルを問う問題です。
 C6では肘伸展はできませんが、図のように前腕を回外位とする事によって、肘をロックすることができ、肩を広背筋(C6-8)・三角筋(C5-6)により肩甲骨を下制する事によりPush Upができるようになります。
 C7残存になると肘伸展が可能となるので、肘をついてベットへ側方移動が可能となります。

1.C4:×
 →C4残存のポイントは横隔神経がC4で、横隔膜による腹式呼吸が保たれている事になります。胸式呼吸で用いる肋間筋は胸髄から出ているので頸髄損傷では胸式呼吸はできなくなっています。

2.C5:×
 →Zancolli分類ではC5のKey muscleは上腕二頭筋と上腕筋です。また三角筋もC5になります。C5残存では下のイラストのように肩の外転や肘の屈曲ができます。


3.C6:○
 →Zancolli分類ではC6のKey muscleは長・短橈骨手根伸筋です。C6では手関節の背屈ができます。肘伸展に十分な筋力はありませんが、前腕を回外する事により肘を後方で伸展ロックする事でPush up動作が可能になります。その結果、ベットへの前方移乗が可能となります。

C6残存の詳細については第58回午前11の問題と解説を参照ください。

C6残存の時の床からの起き上がりをイメージするには以下の動画がとても参考になります(リハビリシーンを見ると涙が出そうになります)
0:31〜0:40のところが特に参考になります。


4.C7:×
 →C7残存のKey muscleは総指伸筋・小指伸筋・尺側手根伸筋ですが、上腕三頭筋が機能するため、肘伸展がしっかり可能になります。その結果、ベットへの側方移乗が可能となります。

またC7残存では肘伸展が可能であるため、床から車椅子への垂直移乗が可能となります。

 覚え方としては、下のイラスト左のように、野球の投球をイメージするか、下のイラスト右のようにカンフースタイル「来なさい」をイメージすると良いでしょう。


5.C8:×
 →C8残存では指屈筋群が可能であるため、物をつかめるようになります。その結果、車椅子の操作は容易になります。

移乗に関しては車輪をしっかり持てるため、車椅子から床への移乗(降りる)事ができるようになります。


 
(14) 42歳の男性。2週間前に感冒症状が出現。3日前から両下肢のしびれと脱力を自覚し、症状が進行したため精査入院。握力は両側5kg未満。MMTは上肢3、下肢2。四肢の深部腱反射は消失し、病的反射は認めない。表在感覚は両下肢以下で重度に低下し異常感覚を伴う。神経伝導検査で両側正中神経および両側腓骨神経の活動電位の振幅の著明な減少を認める。最も考えられるのはどれか。(59回午後14)
1.髄膜炎
2.多発性筋炎
3.多発性硬化症
4.筋萎縮性側索硬化症
5.Guillain-Barre症候群
 
                   【答え】5

【解説】
1.髄膜炎:× 
 →感染症が先行していますが、髄膜炎に特徴的な症状(頭痛や項部硬直)などがありません。また髄膜炎では末梢神経障害をきたしません。

2.多発性筋炎:×
 →筋肉の炎症なのでミオパチーです。筋力低下や深部腱反射の減弱をきたしても構いませんが、感覚障害はきたしません。

3.多発性硬化症:×
 →多発性硬化症は中枢神経に多発性に脱髄をきたす障害です。以下に示すような多彩な症状をきたし、また症状は再発と寛解を繰り返すのが特徴です。四肢の筋力に関しては上位運動ニューロン障害で痙縮がみられる事があります。上位運動ニューロン障害なので、腱反射は亢進し、病的反射が認められます。

4.筋萎縮性側索硬化症:× 
 →筋萎縮性側索硬化症は運動ニューロンの障害で、感覚障害はきたしません。

5.Guillain-Barre症候群:○
 →Guillain-Barre症候群はウイルス感染(?)によりできたウイルスに対する抗体が、神経線維の髄鞘に対する抗体として作用してしまい、髄鞘に障害をもたらす末梢神経障害(ニューロパチー)です。髄鞘が障害される髄鞘型と軸索が障害される軸索型があります。

末梢神経は運動神経も感覚神経も障害されますし、自律神経も障害されて起立性低血圧をきたす事もあります。7割の人に先行感染が認められるのが特徴で、上下肢の筋力低下(下肢→上肢、遠位→近位)が見られます。ただし多くは6ヶ月以内に回復します。

診断は髄液で蛋白細胞解離がみられる事と、神経伝導検査で活動電位の振幅の減少と伝導速度の遅延(潜時延長)が見られます。


(15) 5歳の女児。脳性麻痺による痙直性両麻痺。屋内での主な移動は車椅子で、監視下でPCW (postural control walker)を用いた歩行練習をしている。この児に対する動作指導で最も適切なのはどれか。(59回午後15)
1.割座保持
2.補助具なしでの歩行
3.立位保持装置での立位
4.バニーホッピングでの移動
5.膝立ち位でのキャッチボール
 
            リ:3 ワ:3 三: 5【答え】5

【解説】
痙直型両麻痺の女児で主な移動手段は車椅子ですが、PCWで歩行訓練をしているとの事です。両麻痺は両下肢に筋力低下がありますが、上肢の筋力低下はわずかです。したがって下肢を使っての歩行は難しいので車椅子を使っていますが、立位から短距離の歩行訓練はPCWを使って上肢でPCWを把持しながら下肢の訓練をする事ができます。

1.割座保持:×
 →痙直型両麻痺では座る際、膝は屈曲しますが、股関節は内旋しやすいので、あぐらではなく割坐(わりざ)になる(なってしまいます)できればこの姿勢は避けたいところで、動作指導で勧める姿勢ではありません。



2.補助具なしでの歩行:×
 →現状では補助具なしでの歩行は困難だと思われます。

3.立位保持装置での立位:△
 →国試過去問して下図の様な立位保持装置が痙直性両麻痺に対して推奨される事が出題されています。その意味では間違いではありません。ただし、PCWで歩行訓練している状態なら、ある程度立位保持ができているのではないかなと思います。

また、日本リハビリテーション医学会 脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版(2014年)では立位保持装置は推奨としては記載はなく、代わりに座位保持装置に関して以下の記載があります。

6-2. 装具療法(上下肢)、歩行補助具、車いす、座位・立位保持装置
(5)座位保持装置、シーティングシステムの効果は?

座位姿勢コントロール機能に好影響を与えるので,座位保持装置の使用は勧められる。(グレード A )

と記載されています。また立位保持装置に関しては、エビデンスの紹介の中で「⑤主に立位保持装置を使用した検討で,8 カ月間,週 2〜3 回(1 回 60 分)の立位保持訓練で,脳性麻痺児の脊椎と大腿骨の骨密度を増加させるという高いエビデンスレベルの報告がある」と記載されています。

 これらの状況から(厚労省からの発表はまだですが、現時点では)最適なリハビリ法を選択肢5としました(暫定です)。



4.バニーホッピングでの移動:×
 →バニーとはウサギの事です。下肢の交互運動が困難なため、両上肢を前につき、上肢に体重を預けながら、両下肢をそろえるように前に出す。→リハビリはバニーホッピングを指導するのではなくて、交互運動を促通するようにします。



5.膝立ち位でのキャッチボール:○
 →膝立ち位では膝関節・足関節ともに屈曲し、股関節は内転・内旋しないので、痙直性両麻痺のリハビリに適しています。




Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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