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第58回理学療法士国家試験 午前51-55の解説

息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。

51.手の外在筋はどれか。(58回午前51)
 
1.短母指外転筋
2.短小指屈筋
3.短母指屈筋
4.短母指伸筋
5.短掌筋

                    【答え】4
【解説】
 前腕の筋肉については、国試に向けて色んな面から極めておかなければなりません。とくに母指に付着する筋は重要です。
 手に起始停止する筋のうち、起始が手以外にあり手に呈しするものを外在筋(extrinsic muscles)起始が手の中にあって、手に停止するものを内在筋 (intrinsic muscles)といいます。

1.短母指外転筋:×
 手の母指球を構成する4つの内在筋(母指球筋)はとても重要です。
 下図のように短母指外転筋は内在筋です。
 ①母指内転筋:尺骨神経支配
 ②短母指屈筋:尺骨神経支配正中神経の2重支配、
 ③母指対立筋:正中神経支配
 ④短母指外転筋:正中神経支配

手の外科無料相談所HP 母指球筋 から引用
http://hand.raindrop.jp/thenar%20muscles.html

2.短小指屈筋:×
 短小指屈筋は母指球筋である短母指屈筋の反対側に位置する筋で、これも内在筋となります。なお母指対立筋の反対側には小指対立筋があります。

3.短母指屈筋:×
 選択肢1、2の説明のように、短母指屈筋も内在筋です。

4.短母指伸筋:○
 これについては手背の解剖学的かぎタバコ【重要】に関連して知っておかなければなりません。母指の手背側には大きく3本の腱がみえますが、内側と中央の間を解剖学的かぎタバコと呼び、その下に舟状骨があります。臨床的に見逃しやすい舟状骨骨折(骨壊死や偽関節になりやすいですね)の場合、この部分に圧痛があります【国試重要ポイント】
 この3本の腱は、内側から長母指伸筋、短母指伸筋、長母指外転筋になります。なお手掌側の母指球筋には短母指外転筋がありました。
 短母指伸筋は外在筋になります。ちなみに長母指伸筋の起始は尺骨、短母指伸筋の起始は橈骨、長母指外転筋の起始は橈骨と尺骨になります。停止は長母指伸筋が母指の末節骨(IP伸展・MP伸展・CM橈側外転)、短母指伸筋が母指の基節骨(MP伸展・CM橈側外転)、長母指外転筋が母指の中手骨(CM橈側外転)になります。このあたりはMMTで母指の橈側外転・尺側内転、掌側内転・掌側外転とからめて、極めなければならないポイントです。筋肉の位置関係を理解すれば覚えられますので、後日紹介しようと思います。

神奈川県作業療法士会いつでも何度でも再学習☆応援講座 解剖学的嗅ぎタバコ窩 より引用
https://kana-ot.jp/wpm/learning/post/24

5.短掌筋:× 
 長掌筋は外在筋ですが、短掌筋は内在筋です。


52.下行神経路はどれか。(58回午前52) 

1,後脊髄小脳路
2.前脊髄視床路
3.前脊髄小脳路
4.外側脊髄視床路
5.外側皮質脊髄路
   
                    【答え】5
【解説】
 下行神経路とは大脳から末梢へ下行する神経路で、運動神経の伝達路、すなわち外側脊髄視床路(いわゆる錐体路)を指します。神経伝導路はスタートとゴールが名前に入っているので、それをみれば上行路か下行路かがすぐにわかりますね・選択肢4の外側皮質脊髄路はスタートが大脳皮質でゴールが脊髄となっていますので、下行路だとわかります。
 一方、上行神経路は末梢から大脳へ上行する神経路で感覚の神経路を指します。
 選択肢1と選択肢3はスタートが脊髄でゴールが小脳なので上行路、選択肢2と選択肢4はスタートが脊髄でゴールが視床ということで、これも上行路だとわかります。なお、視床には温痛覚や振動覚・位置覚などの感覚が入力しますし、小脳には筋紡錘などからの感覚が入力します。


53.閉鎖神経で正しいのはどれか。(58回午前53)
 
1.第1仙髄神経根からの線維を含む
2.大腿外側の表在覚を支配する
3.仙骨神経叢から分岐する
4.坐骨切痕を通る
5.薄筋を支配する

                    【答え】5
【解説】
 運動学を勉強する場合、腕神経叢についてまず勉強すると思いますが、腕神経叢を覚えるのが大変なので、なかなかその下の腰神経叢や仙骨神経叢までいきつかないという人が多いのではないでしょうか。そして、腰神経叢と仙骨神経叢とでは仙骨神経叢の方が重要だと思われるので、腰神経叢や閉鎖神経の問題が出るとやっかいですね。

 下図は腰神経叢と仙骨神経叢の分岐を示すイラストです。仙骨神経叢は覚えた方がいいですね。3本ずつで上殿・下殿・後大腿神経(大腿の後ろを司る感覚神経です)・陰部神経になりますし、脛骨神経と総腓骨神経で坐骨神経になります。

つぼパレット 頚・腕・腰・仙骨神経叢の簡単覚え方!
イラストと筋肉でわかりやすく理解!解剖学 より引用 
https://tmotsubo.com/89massage/class/4231/

 それに対して、腰神経叢は複雑ですね。昨年の勉強時には、下の3つ、外側大腿皮神経・大腿神経・閉鎖神経はおぼえようという戦略でした。その他の神経や分岐についてはややこしいので覚えないという事で割り切りましたね…。

つぼパレット 頚・腕・腰・仙骨神経叢の簡単覚え方!
イラストと筋肉でわかりやすく理解!解剖学 より引用 
https://tmotsubo.com/89massage/class/4231/

 設問にも出ていますので、腰神経叢と閉鎖神経について掘り下げようと思います。国試対策としては、出題された問題について、掘り下げて勉強する事が大切です。

 まず閉鎖神経は腰神経叢(L2・L3・L4)から出て、閉鎖孔(閉鎖管)を通ります覚え方)閉鎖孔からニンジン(L2-4)が出ているのをイメージする。下図左のように閉鎖孔とは骨盤の前で恥骨と坐骨に囲まれてできる大きな穴を指します。ただし、実際は下図右のように、外閉鎖筋・内閉鎖筋とその間にある閉鎖膜によっておおわれていて、内側の恥骨に近いところで小さい穴があいており(閉鎖管といいます)、この中を閉鎖神経・閉鎖動脈・閉鎖静脈が通ります。老人の場合、小腸や大網がこの穴を通って腹腔内から脱出することがあり、閉鎖孔ヘルニアと呼ばれます。このとき閉鎖神経が圧迫され、大腿内側より. 膝∼下腿に及ぶ痛み,知覚異常(Howship-Romberg 徴候)が特徴的とされています。

 閉鎖神経は腰髄(L2-4)から出て、腸骨内側から閉鎖孔(閉鎖管)を通って、大腿内側に分布し、大腿内側の筋肉を支配します。

さて、閉鎖神経がどの筋肉を支配するかですが、下図のように、下肢の神経支配はおおまかに分類することができて、
 ・大腿の前面・外側→大腿神経
 ・大腿内側    →閉鎖神経
 ・下腿外側    →浅腓骨神経
 ・下腿前面    →深腓骨神経
 ・大腿後面    →脛骨神経
 ・下腿後面    →脛骨神経
となります。

PTSのための実習国試対策ノート PTOT下肢の神経支配超絶かんたんな覚え方 より引用https://ptkimura.com/lower-limbs-nerve/

大腿に関して、もう少し詳しく見ると、大腿は前・内側・後ろの3つのコンパートメント(区画)に分かれていて、前区画は大腿神経、内側区画は閉鎖神経、後区画は脛骨神経支配になります。なお縫工筋は大腿近位前外側から大腿遠位前内側を走行しますが、大腿神経支配となります(起始部に神経きているとイメージしてください)。

Rihatora 大腿直筋 より引用・改変
https://rehatora.net/大腿直筋/

また神経の二重支配についても、覚えておかなければなりません。大腿の内転筋のうち、内側と外側の筋肉がそれぞれ二重支配になっています。
内側前面の恥骨筋は閉鎖神経と大腿神経の二重支配
後ろ側に大きくある大内転筋は閉鎖神経と脛骨神経(坐骨神経)の二重支配
になります。

 一方、大腿神経は同じように腰神経叢から出ますが、より浅層を走行します(したがって閉鎖神経L2-4に対して、L2-3となります)。閉鎖孔は通らず、鼠径靱帯の下、スカルパ三角の中を走行し、大腿部前面から外側面の筋肉を支配します。

 スカルパ三角は国試頻出です。下図左のように、三角形を形成するのは、縫工筋・長内転筋・鼠径靱帯で、背面の壁を形成するのは腸腰筋と恥骨筋ですね。なぜスカルパ三角が重要なのかというと、大腿義足の四辺形ソケットではそこで前壁を支持するため、スカルパ三角に合わせて隆起をつけるんですよね。 
 
 なお、腰神経叢でおぼえるべき(と思っている)もう1本の外側大腿皮神経は上図の右のように、鼠径靱帯の下の一番外側、腸腰筋の外側を走行します。外側大腿皮神経は感覚神経で、大腿部外側部の感覚を司ります。

 一方、大腿前面の感覚は大腿神経(運動枝と感覚枝があります)のうち感覚枝が司っています。大腿神経の枝の伏在神経(表面を走る神経という意味です)がハンター管を通る部分で絞扼されて大腿前面や内側面に痛みやしびれがおこるものをハンター症候群といいます。その他、腰部椎間板ヘルニアで用いる誘発テストでFNSテストはfemoral nerve stretchテストの略で日本語では大腿神経ストレッチテストと言います。FNSのFNは大腿神経の事なのです。

腰神経叢と閉鎖神経について勉強した後、設問の選択肢について解説していきます。

1.第1仙髄神経根からの線維を含む:×
 閉鎖神経は腰神経叢の第2〜第4腰髄神経根から繊維がでています。
 (閉鎖孔からニンジンが出ている事をイメージしてください)

2.大腿外側の表在覚を支配する:×
 大腿外側の表在覚は腰神経叢から出る外側大腿皮神経が支配します

3.仙骨神経叢から分岐する:×
 閉鎖神経は腰神経叢から分岐します

4.坐骨切痕を通る:×
 閉鎖神経の走行は腸骨翼の内側を通って、骨盤前面の閉鎖孔(閉鎖管)を通ります。骨盤後下面の坐骨切痕は通りません。骨盤後面の坐骨切痕部には梨状筋が付着しており、梨状筋上孔には上殿神経が、梨状筋下孔には下殿神経と坐骨神経・後大腿皮神経などが走行しています。

きゅうの独り事 梨状筋の解説 より引用 https://ameblo.jp/kuroneko-hitorigoto/entry-12325658231.html


5.薄筋を支配する:○
 閉鎖神経は大腿内側の内転筋を主に支配します。薄筋もその一つです。

54.大動脈弓から直接分岐するのはどれか。2つ選べ。(58回午前54)
1.腕頭動脈
2.右鎖骨下動脈
3.左鎖骨下動脈
4.右椎骨動脈
5.左椎骨動脈
 
                   【答え】1,3
【解説】
 循環器の解剖に基本問題です。
 大動脈弓からは3つの大きな血管が出ています。右側は右総頚動脈と右鎖骨下動脈が根元で1本になっていて、腕と頭に行く血管という意味で腕頭動脈といいます。左は左総頚動脈と左鎖骨下動脈がそれぞれ大動脈弓からそれぞれ分岐します。
 左右の総頚動脈はそれぞれ頭蓋内にいく内頚動脈と顔面の表面を栄養する外頚動脈に分かれます。
 また、左右の鎖骨下動脈からは左右の椎骨動脈が分岐します。上行大動脈の基部(根元)からは左右の冠動脈が分岐します。なお冠動脈への血流は主に拡張期に流れます。

選択肢を解説します。大動脈弓から直接分岐するのはどれか。2つ選べ。
1.腕頭動脈:○
2.右鎖骨下動脈:×→腕頭動脈から分岐します
3.左鎖骨下動脈:○
4.右椎骨動脈:×→右鎖骨下動脈から分岐します
5.左椎骨動脈:×→左鎖骨下動脈から分岐します。

 これを元にさらに掘り下げます(国試対策としては掘り下げるのが重要です)。
 下図は心臓に帰ってくる静脈をイラスト化したものです。動脈系とはすこし違ってますね(国試未出題)。

(注1)椎骨静脈というものはありません(内頚静脈で帰ってきます)
(注2)静脈系には総頚静脈というものはありません。左右ともに外頚静脈・内頚静脈で帰ってきます。
(注3)静脈系の特徴は総頚静脈というものはありません。鎖骨下静脈に外頚静脈・内頚静脈が合流した部分を腕頭静脈といいます。腕頭静脈の事を無名静脈ともいいます国試出題者はこんな違った呼び方が大好きです)。
動脈系は右側にのみ腕頭動脈がありますが、静脈系は左右に腕頭静脈があります。なお腕頭静脈は上大静脈が右側にあるので、左よりも右が短いです(国試出題委員が好きそうですね)

また心臓を栄養する冠動脈は、静脈として右心房に注ぎますが、その場合は静脈というよりも筒状の太い構造で戻ってくるので、冠静脈洞と呼ばれます。

 さらに奇静脈・半奇静脈についても復習です。奇静脈・半奇静脈は上大静脈と下大静脈をつなく血管です。右側に奇静脈があり、右の肋間静脈がこれに合流し、上大静脈に注ぎます。奇静脈の下部は右総腸骨静脈に接続しています。左側にも同様の血管がありますが、直接上大静脈には注がずに、中央で二つになり右側の奇静脈に注ぎます。下側のものを奇静脈、上側のものを副半奇静脈といいます。これらは左の腎静脈にも接続しています。
 これらは上大静脈や下大静脈が血栓で閉塞した場合にこれらはバイパス路になります。

画像診断まとめ 【図解】奇静脈とは?走行の解剖をCT画像で解説! から引用
https://遠隔画像診断.jp/archives/4691

また、左右の鎖骨下静脈と内頚静脈の合流部を静脈角といいますが、右リンパ本幹が右の静脈角に、左リンパ本幹が左の静脈角に合流します(国試出題委員は循環器ではリンパが大好きです)



55.小網でつながる臓器はどれか。2つ選べ。(58回午前55)
 
1.胃
2.肝臓
3.十二指腸
4.腎臓
5.膵臓

       不適切問題:正解が3つ【答え】1,2,3
【解説】
 腹壁を手術で開く(開腹する)と、胃の上下が膜で覆われているのがみえます。これらはつるっとした膜ではなく、膜に血管と脂肪がついておりぶつぶつしたように見えます。この事からこの構造物を○○膜と呼ぶのではなく、○○網と呼び、胃の頭側にあるものを小網、胃の尾側にあるものを大網と呼びます。
 大網は大きく尾側に垂れ下がり、小腸や大腸をすっぽりとおおいます。小腸や大腸を保護する役割があります。もし小腸や大腸に炎症などの異常がおこっても、大網が病変部にひっついて、炎症が他に広がらないようにブロックします。

 小網は肝臓の下部から胃や十二指腸につながって、胃が尾側に落ちないように頭側から支えています。また胃の下部から腹膜がエプロンのように垂れ下がり、折り返した後は横行結腸につながったあと、背面で膵臓につながります。折り返し部分は成人では癒合して1枚の膜のようになります。これを大網と呼びます。

徹底的解剖学 大網について正しいのはどれか から引用・改変
https://www.anatomy.tokyo/exam/大網について正しいのはどれか-2015-a24/

 小網に関して、下図のように肝臓と胃の間には左側で肝臓と胃を結ぶ肝胃間膜と右側で肝臓と十二指腸をむすぶ肝十二指腸間膜がありますが、肝胃間膜と肝十二指腸間膜を併せて小網と呼びます。
 小網を横からみると、肝臓・小網・胃・大網・横行結腸・膵臓で囲まれた空間は閉鎖空間のように見えます。この空間の事を網嚢と呼びます。
 網嚢は閉鎖空間のように思えますが、下図のように、左側(体の右側)に網嚢につながる孔があります。これをウインスロー孔と言います。
 ウインスロー孔の前には総肝動脈・総肝静脈・門脈・総胆管が一つの束になって走行しており、その部分の膜構造が特に厚くなっているため、肝胃間膜とは別に肝十二指腸間膜(または肝十二腸靱帯)と呼ばれます。

 網嚢やモリソン窩には腹水や腹部手術後の出血・滲出液が貯留しやすく、術後にこの部分に管(ドレーンといいます)を留置する場合があります。
下図の①はウインスロー孔ドレーン(網嚢に留置しています)、②はモリソン窩ドレーンです。消化器術後の患者をみた場合、このようなドレーンが留置されている場合があるので知っておいてください。

看護Roo! 消化器系ドレーンの位置がわかるイラスト より引用改変
https://www.kango-roo.com/ki/image_225/


 では設問の解説をします。
小網でつながる臓器はどれか。2つ選べ。(58回午前55)
1.胃
2.肝臓
3.十二指腸
4.腎臓
5.膵臓

出題者はおそらく1と2を選ばせようとしたのでしょうが、小網は肝胃間膜と肝十二指腸間膜を併せたものですので、正解は1、2、3となります。
厚労省発表では正解が1,2,3の複数あるという事で不適切問題になりました。



Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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