
第60回理学療法士国家試験 午後01−05の解説
(1) 80歳の女性。右変形性股関節症に対し人工関節全置換術を施行。1週間が経過し、歩行器での移動が可能となった。本症例にDanielsらの徒手筋力テストに基づき、左中殿筋の段階4の評価を行う。適切な測定はどれか。(60回午後1)
1.側臥位を計測姿勢とする
2.右側の股関節は屈曲させる
3.骨盤が回旋しないように固定する
4.左下肢は外旋位とする
5.最大の抵抗を足関節から加え、姿勢を保持できる
【答え】3
【解説】
股関節のMMTのうち、左中殿筋の段階4の評価法について問われています。中殿筋は股関節外転の動きとなります。

1.側臥位を計測姿勢とする:△
→問題文では左中殿筋のMMTを評価すると書かれています。中殿筋自体のMMTは側臥位で測定しますが、厳密に言うと、左中殿筋のMMTを測定するので、右側臥位とした方が良いです。
2.右側の股関節は屈曲させる:△
→股関節外転のMMTを行う場合、下側の下肢は体幹を安定させるために、股関節屈曲位・膝関節屈曲位とします。ここでは股関節を屈曲させると書かれていますが、厳密には股関節屈曲だけでは不十分で、膝関節も屈曲させなければなりません。
3.骨盤が回旋しないように固定する:○
4.左下肢は外旋位とする:×
→左下肢は中間位とします。
5.最大の抵抗を足関節から加え、姿勢を保持できる:×
→股関節外転のMMTの場合、段階4では抵抗は膝関節近位部で加え、段階5では足関節で加えます。
(2) 6歳の男児。右股関節痛を訴えている。単純エックス線写真を別に示す。疑うべき疾患はどれか。(60回午後2)

1.Perthes病
2.大腿骨頭壊死症
3.大腿骨頭すべり症
4.単純性股関節炎
5.発育性股関節形成不全
【答え】1
【解説】
レントゲンでは左大腿骨骨頭に比べて、右大腿骨骨頭が薄くなっています(骨端線はまだ閉じていません)。右大腿骨骨頭が壊死していると思われます)。

1.Perthes病:○
→小児期(6歳ぐらいが多い)に大腿骨頭が壊死するものをPerthes病といいます。大腿骨頭が阻血性に壊死するためと考えられていますが、血行不良をまねく原因は不明です。
2.大腿骨頭壊死症:×
→成人期に大腿骨頭が壊死するものを大腿骨頭壊死症といいます。大腿骨の骨頭が大人で壊死になる病気。原因不明ですが、ステロイド内服中や、アルコールの飲み過ぎが原因として挙げられます。両側に起こる場合もあり、子供のペルテス病と違って直らないので手術(骨頭置換)が必要です。
3.大腿骨頭すべり症:×
→大腿骨の骨頭と頚部の間の骨端線で骨端線離開を起し、さらに離断骨片の転位を生じるものです。大腿骨頭すべり症は通常青年期早期に発生し、特に男児によくみられます。肥満が主要な危険因子です。

4.単純性股関節炎:×
5.発育性股関節形成不全:×
→股関節臼蓋の形成不全です。臼蓋形成が不良で大腿骨頭が後方脱臼しやすくなります。以前は先天性股関節脱臼と言われていました。発育性股関節形成不全では臼蓋角が大きくなります。乳児期ではリーメンビューゲル装具を装着します。

(3) この時期の理学療法で正しいのはどれか。2つ選べ。(60回午後3)
1.右股関節の内転位保持
2.短下肢装具での立位練習
3.対称的な座位バランス練習
4.右側方からの起き上がり練習
5.坐骨結節で負荷できる下肢装具での歩行練習
【答え】3と5
【解説】Perthes病の治療を下にまとめました。

1.右股関節の内転位保持:×
→Perthes病では外転・内旋が制限されやすいので、上図の様な外転・内旋位で保持できる装具(タヒジャン装具あるいはトライラテラル型装具といいます)を装着します。
2.短下肢装具での立位練習:×
→股関節の病気なので、短下肢装具は適応になりません。
3.対称的な座位バランス練習:○
4.右側方からの起き上がり練習:×
→右股関節の大腿骨頭壊死をきたしているので、右股関節に荷重がかかるような右側方からの起き上がり練習は避ける必要があります。
5.坐骨結節で負荷できる下肢装具での歩行練習:○
→Perthes病に用いられる装具では、坐骨支持とバネによる下肢の牽引力で大腿骨頭を免荷し、股関節は軽度外転・内旋位に保持します。
(4) 70歳の女性。急性心筋梗塞で入院した。身長160cm。体重70kg。安静時心拍数 70/分。安静時血圧 130/70mmHg。心臓超音波検査にて低左心機能 (LVEF <40%)が指摘されている。Karvonen法 (k=0.5)を用いた全身持久力運動の目標心拍数はどれか。(60回午後4)
1.90/分
2.100/分
3.110/分
4.120/分
5.130/分
【答え】3
【解説】
運動強度を決める際に心拍数を用いる方法としてKarvonen法があります。
まず予測最大心拍数=220-年齢として求めます。ここでは70歳ですので、予測最大心拍数= 220-70=150となります。
あとは、
目標心拍数= 安静時心拍数+(予測最大心拍数―安静時心拍数)×0.5
で目標心拍数を求めます。
Karvonen法は文字で書くと覚えにくいですが、下図のように、安静時心拍数に、最大心拍数と安静時心拍数の差(薄い青の部分)の半分を加えるとしたらイメージしやすいと思います。

これから、目標心拍数= 70 + (150-70)×0.5
= 70 + 80×0.5
= 70 + 40
= 110
となります。
(5) 関節可動域測定法(日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会基準 1995)に従って図のように背臥位で右股関節の可動域を測定する。正しいのはどれか。(60回午後5)

1.運動方向は内旋である
2.参考可動域は45度である
3,股関節が外旋しないようにする
4.基本軸は両側の上前腸骨棘を結ぶ直線である
5.移動軸は上前腸骨棘と第二中足骨長軸を結ぶ線である
【答え】3
【解説】

1.運動方向は内旋である:×→股関節内転
2.参考可動域は45度である :×→外転45度、内転20 度
3,股関節が外旋しないようにする:○
4.基本軸は両側の上前腸骨棘を結ぶ直線である:×
→両側の上前腸骨棘を結ぶ直線への垂直線
5.移動軸は上前腸骨棘と第二中足骨長軸を結ぶ線である:×
→大腿中央線(膝OAなどで膝関節で軸が変形している場合もあるので、大腿で測定します。
FIMの運動項目は13項目あり、各1〜7点なので、満点は13×7=91点です。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。