第58回理学療法士国家試験 午前1−5の解説
息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。
1. Danielsらの徒手筋力テストで股関節外転の段階3の測定をする際、図のような代償がみられた。代償動作を生じさせている筋はどれか。2つ選べ。(58回午前1)
1.大腰筋 2.中間広筋 3.腸骨筋
4.半腱様筋 5.半膜様筋
【答え】1,3
【解説】
MMTの代償問題です。図では股関節の外転運動を指示していますが、外転筋の筋力低下があるため、他の筋でその動きを代償しようとしています。具体的には股関節を外旋して、大腿前面を天井に向けて、股関節を屈曲する事によって大腿を持ち上げています。
そのため、股関節を屈曲させる筋として1.大腰筋と3.腸骨筋が正解になります。大腰筋と腸骨筋はそもそも臨床的には腸腰筋と呼ばれて一体の筋と考えて良いです。
ひっかけとしては2.の中間広筋が挙げられます。中間広筋は大腿の前面の中央に位置しているからです。ただし、大腿四頭筋のうち、股関節に関連する(二関節筋)のは大腿直筋のみ(股関節屈曲・膝関節伸展)です。中間広筋は股関節に対する作用はなく、膝関節伸展作用のみですので、設問に対しては誤りとなります。もし、選択肢が大腿直筋なら正解となります。
選択肢の4と5は大腿の後面の筋で、股関節伸展作用になるので×ですね。
2.立位姿勢から股関節を屈曲し、体幹を前傾させて静止した姿勢を図に示す。床反力ベクトルの作用線の向きが正しいのはどれか。ただし、矢印は力の向き、点線はその延長線を示す。(58回午前2)
1.a 2.b 3.c 4.d 5.E
【答え】3
【解説】床反力は身体重心と足圧中心を結んだラインになります。問題では静止しているため(静止しているというのがポイントです)、その時点でバランスがとれています。たとえば、前方に重心が移動しているような運動時には足圧中心は前方に移動しますし、逆に重心が後方に移動しているような運動時には足圧中心は後方に移動しますが、問題では静止している状態ですので、足部の足圧中心は、足部中央付近になります。足部中央と身体重心を通るラインはcのみとなります。というか、そもそも身体重心を通るラインはCのみですので、選択できるのはCのみとなります。
3.82歳の女性。高血圧と糖尿病の治療を長期にわたり行っている。徐々に歩行障害がみられるようになり、転倒することが多くなった。頭部MRIのFLAIR像を別に示す。画像所見で考えられるのはどれか。(58回午前3)
1.視床出血 2.硬膜下血腫 3.くも膜下出血
4.正常圧水頭症 5.多発性脳梗塞
【答え】5
【解説】理学療法士の国家試験の脳画像でMRIがでてくれば、疾患は例外なく脳梗塞と考えてください。
一般的に脳出血はCTが見やすいので、皮質下出血やくも膜下血腫、硬膜外血腫や硬膜下血腫はCTで高吸収域で出題されます。またCTでは脳梗塞が低吸収域として出題される場合もあります。
脳梗塞に関して、脳MRIでは、急性期の病変は拡散強調画像(diffusion weighted image: DWI)で高信号域として描出されます。また急性期を過ぎると、T2強調画像(T2 wighted image: T2WI)またはFLAIR像で高信号域として描出されます。
脳MRIの利用方法としてT1強調画像は主に形をみるためのものです。病気は主にT2強調画像で見ますが、病変の多くはT1では低信号域、T2では高信号域として描出されます。このT1 黒(低信号域: low intensity area )、T2 白(高信号域: high intensity area)のLow-highのパターンは水分の描出パターンと同じです(病気の部分は水分が増えてますので水分と同じようなパターンとなるのです)。
下の図を見るとわかりますが、T1では脳皮質は黒く(低信号)、脳実質は白く(高信号)に描出されますが、T2やFLAIRでは脳皮質は白く、脳実質は黒く描出されています(T2やFLAIRはぱっと見た状態では違うような感じに見えますが、実は基本的には同じ描出法なのです)。そして、FLAIR像では脳室や脳表の水分を黒く反転して描出し、脳室周囲の病変が見やすくなっているのが特徴です。
脳MRIの例外ではT2スターという描出法があり、黒く抜けた点は微小出血を表します。過去に国試で出た事もあり、一応覚えておく必要があります。
問題ではFLAIR像で大脳基底核や脳室周辺に高信号域が多発しています(判別しずらいです)。したがって多発性脳梗塞が答えになります。国試テクニック的には脳MRIが出た段階で脳梗塞と考えて選択肢を確認するという流れになります。
【ポイント】
1.脳MRI:拡散強調画像は急性期脳梗塞
2.脳MRI:T2強調画像やFLAIR像は急性期を過ぎた脳梗塞
4.NICUに入院中の低出生体重児。在胎週数30週。腹臥位での姿勢を図に示す。この児に対するポジショニングとして適切な肢位はどれか。2つ選べ。(58回午前4)
1.頭部伸展位 2.体幹伸展位 3.肩甲帯前方突出位
4.肩関節外転位 5.股関節内転外転中間位
【答え】3、5
【解説】NICUでの体位(ポジショニング)についての問題です。
「脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2判」の「4 ─ 1 ─ 5.NICU からのポジショニングは,運動機能の予後に効果があるか?」の項目には以下の記載があります。
<エビデンス>
極低出生体重児や低出生体重児に対して,枕,クッション,タオル,砂のうを用いてポジショニングを行い,胎内での屈曲姿勢に近い肢位をとらせると,ポジショニングを行わなかった群に比べて,骨盤の肢位や側臥位での安定性が向上し (Ib),股関節や肩関節の角度を適切に保持することがで
き (Ib),座位も安定した。
…(中略)…しかしながら,ポジショニングの方法には,依然として一定した見解は得られていない。
<解説>
低出生体重児は、胎内で屈曲姿勢をとる期間が少なく、神経系の発達が未成熟なため、在胎週数に応じた筋緊張の低下を認める。したがって、成熟児に比べて、四肢伸展、外転位の不良姿勢や不良運動パターンを認めやすく、発達に従い、股関節外転や肩の retraction が起こりやすい。ポジショニングの目的は、従重力位で四肢が伸展・外転する姿勢をできる限り胎児姿勢に近づけ、知覚・運動覚の発達を促し、その後の運動発達の準備を促すことです。
要点は、四肢伸展位や外転位はだめという事です。
この事から1,2,4はだめという事になります。
しかし、一定した見解が得られていない事を国試問題に出題するのはいかがなものかと思われます。また出題内容はエビデンスとして提示されたものではなく、解説部分の内容ですので、それを受験生に問う姿勢は理解に苦しみます。そもそも学生実習をNICUでおこなった人がいるでしょうか?おそらく皆無でしょう。また、実際PTになった後でも、日常的にNICUに出入りしているPTがいるでしょうか?それも皆無でしょう。この問題の内容は受験生に問うようなレベル・内容ではありません。個人的には不適切問題だと思います。
5.66歳の男性。左下腿切断。30年前からの2型糖尿病で左下肢の閉塞性動脈硬化症のため切断し、下腿義足を製作した。この下腿義足の種類はどれか。(58回午前5)
1.KBM 2.PTB 3.TSB 4.吸着式 5.在来式
【答え】3
下腿義足の種類を問う問題です。下図を参照してください。
現在もっとも多く用いられているのはTSB (total surface bearing)です。
これはシリコンライナーを断端に装着し、義足とはシリコンライナー先端についたピンで接続して、義足を懸垂します。
覚え方はTSB (包む、すべて)です。ちなみにsurfaceは表面という意味です。シリコンライナーで断端表面をすべてぴったり包んでいるというイメージでTSBと覚えるように教えてました。total surfaceを意識するのも良いと思います。膝蓋骨を包むという事ではPTSと混同しそうですが、前から後ろまで全部ライナーで包むのがtotal surface: TSB、膝蓋骨(Patella: P)はすっぽり包むけど、断端の表面を完璧にはおおっていないのがPTS(パテラはつつむすっぽり…だけど表面は完全につつんでないよ)と教えてました。
PTBは膝蓋骨((patella:パテラ)のキーワードで覚えます。カフベルトで懸垂します。
PTSはカフベルトを用いません、膝蓋骨をすっぽり包みます(PTS:パテラをつつむすっぽりと)
KBMは膝蓋骨部分が切れ込んでます。ワニが膝蓋骨をかむ(K)イメージで覚えましょう〜。
従来式はひもで膝蓋骨を覆う古いパターンです。
吸着式は大腿義足で用いられるもの?でしょうか。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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