第59回理学療法士国家試験 午前76-80の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(76) 末梢血管抵抗が低下するショックをきたす病態はどれか。2つ選べ。(59回午前76)
1.アナフィラキシー
2.消化管出血
3.心筋梗塞
4.心タンポナーデ
5.敗血症
【答え】1・5
【解説】
昨年、心タンポナーデという選択肢が出題されていたので、今年はショックが出題されるとみて、アナフィラキシーショックも以下のように予想問題としてあげていたんですが、少しかすった感じになりました。
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【予想問題】アナフィラキシーショックは以下のどのショックに該当するか。
1.心原性ショック
2.循環血液量減少性ショック
3.血液分布異常性ショック
4.心外閉塞・拘束性ショック
5.脊髄ショック
答え:3
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ショックでは通常心拍出量が減少し、血圧が低下します。低下した血圧を上げようとして、末梢血管が収縮します。末梢血管が収縮する=血管抵抗が増加し、手足の血流は減少し、冷たくなります(cold shockといいます)。
これに対してアナフィラキシーショックでは、アレルギー反応によって肥満細胞から放出されたヒスタミンなどの化学物質により末梢血管が拡張し、血圧が低下し、ショックになります。この場合、適度に輸液すれば心拍出量が増加します(しかし末梢血管の拡張の程度が強いのでたとえ心拍出量が増加しても血圧を上昇させるまでにはなりません)。このような場合は血圧が低くても手足はぽかぽかと暖かいのでwarm shockと呼ばれます。
アナフィラキシーショックのように末梢血管抵抗が低下するショックの事を血液分布異常性ショック (Distributive shock)といいます。
アナフィラキシーショックではヒスタミンが血管を拡張させますが、敗血症では細菌からエンドトキシン(内毒素)と呼ばれる毒素が産生され血中に放出される結果、血管が拡張しショックとなります。敗血症性ショックまたはエンドトキシンショックと呼ばれます。
1.アナフィラキシー:○
2.消化管出血:× →循環血液減少性ショック
3.心筋梗塞:× →心原性ショック
4.心タンポナーデ:× →心外閉塞・拘束性ショック
5.敗血症:○
60回以降は心外閉塞・拘束性ショックとして心タンポナーデや肺血栓塞栓症、緊張性気胸が出る可能性はあるので、勉強しておいてください。また出血性ショックも未出です。出血性ショックの特徴について以下にまとめました。
(77) 咳をしたときに生じる尿失禁はどれか。(59回午前77)
1.溢流性
2.機能性
3.切迫性
4.反射性
5.腹圧性
【答え】5
【解説】
1.溢流性:×
→自分で尿を出したいのに出せない、でも尿が少しずつ漏れ出てしまうのが溢流性尿失禁です。神経因性膀胱などでみられます。
2.機能性:×
→排尿機能は正常にもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症が原因でおこる尿失禁です。たとえば、歩行障害のためにトイレまで間に合わない、あるいは認知症のためにトイレで排尿できない、といった場合です。
3.切迫性:×
→急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、トイレに行こうとしている間に我慢できずに漏れてしまうのが切迫性尿失禁です。多くの場合、特に原因がないのに膀胱が勝手に収縮してしまい、尿を漏らしてしまします。
4.反射性:×
→尿意がないのにもかかわらず、膀胱にある程度の尿がたまると膀胱収縮反射が不随意に引き起こされ、尿が漏れてしまうことを反射性尿失禁といいます。仙髄にある下位排尿中枢は保たれ、より上位の排尿中枢が損傷される脊髄損傷や脳障害などでみられます。これは上位中枢からの排尿抑制が障害されることが原因です。
5.腹圧性:○
→お腹に力が入った時に尿が漏れてしまうのが腹圧性尿失禁です。女性の尿失禁の中で最も多く、骨盤底筋群という尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が緩むために起こり、加齢や出産を契機に出現したりします。
(78) 左右対称のインクのシミでできた図版を順番に提示する検査はどれか。(59回午前78)
1.バウムテスト
2.MMPI
3.P-Fスタディ
4.Rorschachテスト
5.WPPSI
【答え】4
【解説】
心理テストに関する問題です。
1.バウムテスト:×
→バウム (Baum)はドイツ語で木の事です。バウムクーヘンのKuchenはケーキという意味で、バウムクーヘンは木を切ったようなケーキという意味です。
バウムテストはリンゴなど実のなる木を書かせて心理状態を推測する検査です。
似たようなテストでHTPテストというものもあります。これはHouse (家)とTree (木)とPerson(人)を書かせるテストです。
2.MMPI:×
→MMPIはMinnesota Multiphasic Personality Inventoryの略でミネソタ多面人格目録といいます。質問紙法による人格検査です。MMPIのP は人格を表すpersonality (パーソナリティー)から人格検査として覚えてください。550項目を「はい」「いいえ」「どちらでもない」で答えさせるもので、大変ですね…。
似たような検査でMPI (Maudsley Personality Inventory: モーズレイ人格目録)という検査があります。この検査も質問紙法による検査ですが、80項目による検査です。
3.P-Fスタディ:×
→P-F studyとはPicture(絵画)-Frastraion(フラストレーション、不満)の略で下図のように吹き出しのある絵を見せて吹き出しにせりふを入れさせるテストです。左の吹き出しは患者にストレスのかかる不満そうな言葉が入ります。
4.Rorschachテスト:○
→Rorschachテストとは下図のように左右対称の影絵を見せて何を連想するかテストです。
5.WPPSI:×
→WPPSIはWechsler Preschool and Primary Scale of Intelligenceの略でウエクスラー知能検査の幼児版です。preschoolは幼稚園、primary schoolは小学校ですね。
(79) 陽性転移はどれか。(59回午前79)
1.医療者が患者に過剰な親近感を抱く
2.医療者が患者に怒りの感情を示す
3.患者が医療者に好意を寄せる
4.患者が医療者を強く軽蔑する
5.患者が医療者を嫌悪する
【答え】3
【解説】
転移とは患者が治療者にもつ感情です。
・陽性転移………好ましい感情(好き)
・陰性転移………好ましくない感情(嫌い)
逆転移とは治療者は患者にもつ感情です。
(80) 他者の模範的行動を観察して、自らの行動変容をきたすようにする治療法はどれか。(59回午前80)
1.系統的脱感作法
2.行動活性化療法
3.マインドフルネス
4.モデリング法
5.問題解決技法
【答え】4
【解説】
1.系統的脱感作法:×
→系統的脱感作法は曝露療法(エクスポージャー法)の一種です。曝露療法とはExpose (さらす、曝露する)という意味から、ストレスの原因となっている刺激を、少ない刺激から始め、徐々に増やしていく事によって、刺激になれていくという手法です。臨床的には系統的脱感作法が良く用いられます。
系統的脱感作でよく用いられるのは、ウォルビーが提唱している不安階層表を用いる方法です。この方法はあくまでイメージトレーニングで実際の刺激ではありません。下図のように、徐々に刺激のイメージを増やしていって、頭の中で刺激になれていく方法です。
(覚え方) 表の右側にBを並べて、オール(ALL) Bからウォルビーとして覚えました。
2.行動活性化療法:×
→行動活性化療法は特にうつ病の方に使用する方法です。うつ病の患者は意欲の低下のため、活動性が低下します。活動性が低下すると、ますます抑うつ症状を強めてしまうので活動性を高めることが必要となります。
行動活性化療法では、できる範囲から行動を増やし、徐々にさまざまな活動を増やしていきます(活性化)。行動や活動の活性化の結果、快の体験を得ると、それが報酬となり、さらに行動や活動が増えていきます。
3.マインドフルネス:×
→マインドフルネスとは、過去や未来ではなく、今・目の前で起こっていることに集中する状態を指します。例えば、朝コーヒーを飲むときにただ飲むのではなく、香りに集中しながら味わうことで、目の前のものごとに集中している状態になります。
マインドフルネスは、脳を活性化させ、ストレスをたまりにくくしたり、仕事のパフォーマンスを上げる効果があります。
4.モデリング法:○
→観察学習ともよばれます。他者の行動やその結果をモデル(見本)として観察することが、観察者の行動を変化させる現象です。
モデリングの原理を証明したのはバンデューラの実験です。バンデューラの実験ではまず子供たちを実験群と対照群の2つのグループに分け、実験群の子供たちにはおもちゃの部屋で1人の大人が風船のように膨らませた「ボボ人形」に乱暴しているのを見せました。対照群の子供たちには普通に大人が遊んでいるのを見せました。
その後各グループの子供たちを1人ずつおもちゃの部屋の中に入れ、その様子をフィルムで撮影しました。この結果、実験群の子供たちは対照群の子供たちに比べて目に見えて攻撃的になりました。
この実験から子供は直接的に指導しなくても、モデルの行動を自ら模倣することがわかりました。
5.問題解決技法:×
→問題解決療法とは、問題を解決していく方法ではなく、問題を解決するための技術を学ぶ方法です。問題を解決していく一般的な手順や方法論を習得することにより、今後の人生や日常の中で起こってくる問題を自ら解決できるようになっていきます。
具体的な方法としては、以下のように問題の解決のための4段階を意識して、それを具体的に記入し実行していきます。
この方法を習得すると、現在悩まされている事だけではなく、将来別の事に悩んだ場合にでも応用できると思います。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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