第59回理学療法士国家試験 午後61−65の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(61) 末梢神経のC線維で正しいのはどれか。(59回午後61)
1.有髄線維である
2.骨格筋を支配する
3.受容器は筋紡錘である
4.B線維より直径が小さい
5.Aα線維より伝導速度が速い
【答え】4
【解説】
末梢神経(運動神経も感覚神経も合わせた)の分類ですね。このあたりは頻出&基本問題ですので、落としたくはない問題です。
1.有髄線維である:×
→末梢神経のうちC線維のみ無髄神経です。髄鞘がないので、跳躍伝導ができず伝達速度が最も遅いです。
2.骨格筋を支配する:×
→骨格筋を支配するのはα運動ニューロンで、分類ではAα線維になります。
3.受容器は筋紡錘である×
→受容器が筋紡錘であるのはIaおよびII線維で、分類上、Ia線維はAα線維に、II線維はAβ線維になります。
4.B線維より直径が小さい:○
→直径はAαが一番大きく、分類の表で右に行くほど直径が小さくなります。C線維は直径が一番小さく、直径が小さいほど伝導速度が遅くなります。
5.Aα線維より伝導速度が速い:×
→上記のようにC線維は最も伝導速度が遅くなります。
(62) 交感神経の節前線維で直接支配されるのはどれか。(59回午後62)
1.肝臓
2.心臓
3.気管支
4.唾液腺
5.副腎髄質
【答え】5
【解説】
なんだこれは?問題です。もちろん国試では初出です。ときどき訳のわからない、臨床的に意味のない知識を問う問題がでますので、どうにかしてもらいたい問題です。もちろん出題委員は点を取らせるつもりはありません。
(個人的には正解率がとても低い問題の出題者は5年ほど出題委員を辞退させるようなペナルティーを設けた方が良いと思います)。
気を取り直して調べてみると(もちろんそんな知識はありません)、どうやら副腎髄質が答えのようです。下図のように、交感神経の節前線維の神経伝達物質はアセチルコリンで、節後線維の神経伝達物質はノルアドレナリンです。ノルアドレナリンはアドレナリンの類似物質です。
そして、副腎髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンが産生されます。交感神経の刺激で神経伝達物質としてノルアドレナリンが放出されて、その刺激によってアドレナリン・ノルアドレナリンが放出されるってちょっと変な感じになってしまいますね。
それで、以下のサイトでは「かたちとしては、副腎髄質が交感神経の節後線維であり、副腎髄質に到達している交感神経が、節前線維という状態になっているとも見れます。」と書かれています。
ストレスと自律神経の科学 交感神経・副交感神経・運動神経における神経伝達物質のまとめ
結局、下図で、交感神経節後線維の部分を副腎そのものとして捉えると、副腎髄質から産生されるノルアドレナリンが、交感神経節後線維から産生されるノルアドレナリンとして見なす事ができるという事なのでしょう。
1.肝臓:×
2.心臓:×
3.気管支:×
4.唾液腺:×
5.副腎髄質:○
こんな話初めて知りました。でも、でもですよ。そんな話、理学療法士の国家試験の受験生全員が知っておくべき知識ですか?国家試験って資格試験ですよ、大学入試のような上位得点者を選ぶ選抜試験ではありません。国家試験とは理学療法士になる人が適正な知識を持っているかどうかを確かめる試験です。その試験にこのような重箱の隅をつつくような問題を出す試験委員ははっきり言って適性がありません。即刻辞任すべきです。国試出題委員および出題委員会は猛省すべきです。
(63) 呼吸の生理で正しいのはどれか。(59回午後63)
1.呼気時に横隔神経の活動電位が生じる
2.迷走神経が亢進すると気道抵抗は低下する
3.肺コンプライアンスが増加すると機能的残気量は減少する
4.pHが上昇すると酸素はヘモグロビンから解離しやすくなる
5.呼吸商は単位時間あたりの二酸化炭素産生量と酸素消費量の比である
【答え】5
【解説】
1.呼気時に横隔神経の活動電位が生じる:×
→横隔膜は吸気に働きますので、吸気時に横隔神経の活動電位が生じます。
2.迷走神経が亢進すると気道抵抗は低下する:×
→交感神経が亢進した状態、すなわち戦いモードでは呼吸をたくさんしなければならないので、気管支は拡張します(=気道抵抗は低下します)。逆に副交感神経(迷走神経)が亢進すると気道抵抗は上昇します。
3.肺コンプライアンスが増加すると機能的残気量は減少する:×
→コンプライアンスとは肺の柔らかさです。コンプライアンスが小さい=硬い=間質性肺炎をイメージしてください。コンプライアンスが大きい=柔らかい=COPDをイメージしてください。
COPDでは肺胞が壊れる結果、コンプライアンスが大きくなり、全排気量・残気量・機能的残気量すべてが増加し、肺は過膨張となります。
4.pHが上昇すると酸素はヘモグロビンから解離しやすくなる:×
→アシドーシス (pHの低下)やCO2の上昇、体温上昇など組織が酸素をほしい状況になると、酸素解離曲線は右方移動し、酸素がヘモグロビンから解離しやすくなります。
5.呼吸商は単位時間あたりの二酸化炭素産生量と酸素消費量の比である:○
→なお、注意してもらいたいのは、運動負荷試験で嫌気性代謝閾値を決定する際に用いられるガス交換比と呼吸商は良く似ていますが、微妙に違うという事に注意しなければなりません。
ガス交換比のグラフでの回帰曲線の傾きは二酸化炭素排出量/酸素摂取量になります。
一方、呼吸商とは酸素消費量に対する二酸化炭素発生量の比をいいます。
呼吸商は呼吸生理の分野でたまに出てきますが、国試では栄養素の種類によって呼吸商が変わる事は知っておく必要があります。
この傾きが1(45度)となる点で嫌気性代謝閾値を求めるという方法は今年の59回午前5で出題されました。
また以下のような過去問もあります。
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25歳の男性。身長170cm。体重60kg。ランプ運動負荷試験における運動中の呼気ガス分析データを図に示す。正しいのはどれか。 (第44回 午前 10)
1. 回帰直線の傾きは呼吸商を意味する
2. 対象者の最大運動能力は約10METsである
3. 酸素摂取量が1,500ml/min付近に無酸素性代謝閾値(AT)がある
4. 二酸化炭素排出量が2,500ml/minの運動では脂肪が燃焼されやすい
5. 最高酸素摂取量は約3,500ml/minである
【答え】3
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ここで選択肢1について、上記のように傾きは呼吸商に似ていますが、呼吸商ではないのです。
(某YouTubeでこの問題を解説している動画がありますが、選択肢1について「そんな話ではないですよね…」で解説をスルーしていたので、丁寧にコメントで内容を説明してあげましたが、内容が理解できないようで、すぐに削除されてしまいました…ははは。
(64) 各臓器と血流量の局所性調節の組合せで正しいのはどれか。(59回午後64)
1.骨格筋――――乳酸の蓄積が血管を収縮
2.心臓―――――低酸素が冠動脈を収縮
3.脳――――――二酸化炭素分圧上昇が細動脈を収縮
4.肺――――――低酸素が細動脈を収縮
5.皮膚―――――交感神経亢進が細動脈を拡張
不適切問題:選択肢4が難し過ぎる リ:1 ワ:5 三: 4
【答え】4
【解説】
解答速報で3社の解答が見事に割れています。私が選択肢を見た時、その現象を元に過去に研究していたので知っていましたが、おそらく受験生はそのような事を学んでいなかったでしょう。教科書にも載っているはずもありません。おそらくICUやNICUに出入りしている出題委員が新生児肺高血圧症に対して行われている一酸化窒素吸入療法という治療を見て、この現象を知ったのでしょう?しかし、それを国家試験に出題するのは酷です。
さて、この問題で出題者がポイントとしているのはHPV (hypoxic pulmonary vasoconstriction: 低酸素性肺血管収縮)という現象です。これは肺血管の低酸素に対する代償反応です。体血管は低酸素に対して拡張しますが、肺血管は逆に収縮するのです。教科書には載っていませんが、この現象は有名なので、血管の代償反応のうちこれだけ名前がついているのです(ネットで検索してみてください、出てきますから)。
以下にその現象について簡単に説明します。
下の図Aは正常の肺のイメージです。図A左の肺胞①、図A右の肺胞②ともに正常です。肺胞にやってきた静脈血は肺胞から酸素 (O2)をもらって、O2を多く含んだ動脈血として心臓に戻って行きます。
一方、下の図Bは病気の肺のイメージです。図B左の肺胞③では肺胞がつぶれて含気がありません。③のような肺胞ではガス交換が行われず、静脈血はO2を受け取る事ができず静脈血のままの状態で返っていきます。図B右の④の肺胞は正常で、静脈血はO2を受け取って動脈血となって返っていきますが、③の静脈血と合流・混合して返って行きますので、心臓に返る血は酸素分圧がかなり下がってしまいます。③のような肺胞が増えると、酸素をいくら吸入しても酸素分圧が上がらない状態になってしまいます。
何らかの原因で肺胞がつぶれてしまった場合、その肺胞でのガス交換ができなくなり、動脈血の酸素分圧が下がってしまって危険な状況になり得ます。その時、生体が防御反応として起こすのが、つぶれた肺胞に分布し、低酸素にさらされている肺血管を収縮させて、そこに循環する血液を減らしてしまう事です。
下の図Cの左⑤のようにつぶれた肺胞に流れる血管が収縮する事によって、O2をもらえず静脈血のまま心臓に返る血液が少なくなります。その結果、心臓に返る血液の酸素分圧の低下が軽減されます。
このような肺胞の防御・代償反応の事をHPV (hypoxic pulmonary vasoconstriction: 低酸素性肺血管収縮)と呼びます。
HPVは酸素化にとっては有利ですが、実は諸刃の刃です。というのもHPVを起こした肺血管が増えると、肺の血管抵抗が増えて肺高血圧症になってしまうからです。全身の体血圧は多少上がっても良いですが、肺の血圧は高くなってはいけません。それだけ肺の血管抵抗が増えているという事なので、肺にうまく血液が循環せずガス交換が障害される他、心臓に与える負荷が増え心臓も弱ってしまうからです。
肺高血圧症になってしまった新生児において、呼吸器から肺血管拡張作用のある一酸化窒素を吸入させる治療法があります(上の図D)。吸入された一酸化窒素はつぶれた肺胞⑦には分布せず、換気のある肺胞⑧にしか分布しません。その結果、換気のある肺胞に接する肺血管だけが拡張し、血流が増加するため、肺高血圧を軽減しながら、酸素分圧も上昇させるという一石二鳥の治療になります。
一酸化窒素吸入療法については日本集中治療医学会から治療の手引きが以下のように出されています。
https://www.jsicm.org/meeting/jsicm48/web_ex/company/28_2.pdf
1.骨格筋――――乳酸の蓄積が血管を収縮:×
→乳酸が蓄積したらそれを処理しようとして血管が拡張します。
2.心臓―――――低酸素が冠動脈を収縮:×
→冠動脈は低酸素に対して酸素を増やそうとして拡張します。
3.脳――――――二酸化炭素分圧上昇が細動脈を収縮:×
→PaO2の低下、PaCO2の上昇、pHの低下は、直接脳血管に作用して拡張させ、脳血流を増やして酸素供給を維持し、二酸化炭素の排泄を促して、脳を保護しようと働きます。
4.肺――――――低酸素が細動脈を収縮:○
→肺血管は低酸素に対して細動脈を収縮させます。低酸素性肺血管収縮 (hypoxic pulmonary vasoconstriction: HPV)と呼ばれます。
5.皮膚―――――交感神経亢進が細動脈を拡張:×
→交感神経亢進では皮膚の細動脈が収縮します。イメージとしては戦いの場では皮膚の血流を少なくして、ケガした時の出血を少なくします。一方筋肉では細動脈が拡張して、筋肉への血流を増やします。
ここでは正解を4(間違いありません)としますが、内容が理学療法士の学生レベルを超えています。いや、理学療法士・看護師・一般の医師レベルとしてもレベルが高いです。選択肢4は他の選択肢を除外する事によってたどり着けるかもしれませんが、内容はとても高度です。NICUをたとえ実習できたとしても、その内容を勉強できる実習生はほぼ皆無でしょう。このような内容を国家試験問題として出題するのは、どう考えても不適切です。したがって、この問題は「内容が難しすぎる」として不適切問題としました。
(65) ワルファリンの抗凝固作用に拮抗するのはどれか。(59回午後65)
1.ビタミンA
2.ビタミンC
3.ビタミンD
4.ビタミンE
5.ビタミンK
【答え】5
【解説】
59回午前65の問題で凝固因子についてすこし詳しく解説しました。
凝固因子の多くは肝臓で産生されますが、とくに下図のようにII・VII・IX・X因子は産生する際にビタミンKを必要とします。
このためII・VII・IX・X因子はビタミンK依存性凝固因子 (vitamin K dependent coagulation factors)と呼び、ビタミンK欠乏時には未成熟な凝固因子 (蛋白質)ができ、PIVKA (protein induced by Vitamin K absence or antagonists)と呼ばれます。さらにII因子がビタミンK欠乏でできるものをPIVKA-IIと呼び、これは肝臓癌の腫瘍マーカーとしても利用されています。
さて、問題のワーファリンですが、ビタミンKの拮抗剤です。 ビタミンK依存性凝固因子の半減期は因子によって異なり凝固第VII因子が最も短いので、凝固検査としてはプロトロンビン時間 (PT)が延長するので、ワーファリンの効果はプロトロンビン時間を指標にします。
プロトロンビン時間の検査は、以前は血液が固まるまでの時間(秒)で表していましたが、最近はもっぱらPT-INR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio:プロトロンビン時間−国際標準化比)という指標で表される事が多いです。これは正常のプロトロンビン時間と患者のプロトロンビン時間の比で表され、1.0が正常、2.0なら正常の2倍にプロトロンビン時間が延長している事を表します。
心房細動患者などでワーファリンを用いて抗凝固療法を行う場合、PT-INRを2.0〜3.0に延長させます。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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