第59回理学療法士国家試験 午前81-85の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(81) 技法としてホームワーク(宿題)を用いるのはどれか。(59回午前81)
1.支持的精神療法
2.精神分析療法
3.内観療法
4.認知行動療法
5.森田療法
【答え】4
【解説】
1.支持的精神療法:×
→支持的精神療法とは、患者と治療者が話し合いながら、一緒に心の悩みごとを解決する方法です。
治療者に悩みを聞いてもらって、訴えに共感してもらえるだけで心は落ち着きますよね。
2.精神分析療法:×
→精神分析療法は、フロイトによって創始された心理療法です。本人が心にうかぶことを自由に話してゆき(自由連想法)、そのことを通して、治療者といっしょに、心の中でおきていることについて考えてゆきます。
3.内観療法:×
→内観療法は浄土真宗の僧侶だった吉本伊信が提唱しました。身近な人にしてもらった事を思い浮かべ(身調べという)、症状に関係なく、いかなる境遇にあっても感謝の気持ちで幸せに暮らせるように悟りを開く。
4.認知行動療法:○
→認知行動療法を診察室で行う場合、ケース (Case:症例) フォームレーション (Formulation、仮設)という方法をとります。ケースフォーミュレーションは以下のように行います。
(1) 患者のカウンセリングによって得られた情報を元に、問題の成り立ちの仮設を立てます。
(2) それをもとに患者と治療者で介入の方法を考える
(3) 介入の方法が設定できたら、家に持ち帰って、介入方法に効果がある
か試してみる(宿題:ホームワーク)
(4) 次の診察でどうだったか検討する
5.森田療法:×
→森田療法は症状を受け入れて、そのまま生活できるように訓練する治療法です。第1期の絶対臥褥とは終日個室で横になったまま過ごさせる方法です。
51回午前81 の類似問題です。
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技法としてホームワーク(宿題)を用いるのはどれか。(51回午前81)
1.内観療法
2.森田療法
3.現存在分析
4.認知行動療法
5.精神分析療法
【答え】4
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(82) ADLで正しいのはどれか。(59回午前82)
1.環境要因によって影響を受ける
2.IADLが改善の基礎となっている
3.生活機能より包括的な概念である
4.2000年代初頭に世界保健機関によって定義された
5.評価スケールとしてFugl-Meyer Assessment scaleが用いられる
【答え】1
【解説】
1.環境要因によって影響を受ける:○
→ICF(国際生活機能分類)では健康状態に影響する因子のうち、背景因子として環境因子を挙げています。ICFではADLやIADLは「活動」に含まれます。
2.IADLが改善の基礎となっている:×
→ADLに影響するのは生活機能の各因子・背景因子の各因子が影響します。IADLだけではありません。
3.生活機能より包括的な概念である:×
ICFではADLやIADLは「活動」に含まれます。そして生活機能は「心身機能・身体構造」・「活動」・「参加」よりなるため、生活機能はADLより包括的な概念になります。
4.2000年代初頭に世界保健機関によって定義された:×
→ADLの定義というのが何を指しているのかははっきりしませんが、Barthel indexの発表は1965年、FIMの発表は1983年です。また国連からICIDH初版が刊行されたのは1980年。ICIDHの改訂版であるICFが国連で採択されたのは2001年です。
5.評価スケールとしてFugl-Meyer Assessment scaleが用いられる:×
→Fugl-Meyer Assessment scale (FMA) は脳卒中の回復段階や運動機能を観察することが可能な総合的身体機能評価法です。運動機能とバランス(上肢・下肢)、感覚、関節可動域/関節痛で構成され、各項目は3段階の評定尺度で評価します。日本ではブルンストロームステージがよく用いられますが、海外ではFMAが用いられる事が多いそうです。
(83) 改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査(JDDST-R)で「母指と示指によるつまみ動作」の通過率75%が含まれる時期はどれか。(59回午前83)
1.3〜4ヶ月
2.6〜7ヶ月
3.9〜10ヶ月
4.12〜13ヶ月
5.15〜16ヶ月
リ:3 ワ:4 三: 4【答え】4
【解説】
小児発達は項目が多い上に、遠城寺式やデンバー式などがあり、それぞれで違っている項目もあり覚えるのが大変です(ほぼ不可能)。
「母指と示指によるつまみ動作」はいわゆる「橈側にぎり」というもので、以下のように47回午前90で出題されていました。
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小児の正常発達で最も早く可能になるのはどれか。(47回午前90)
1.高這いをする。
2.橈側手指握りをする。
3.つかまって立ち上がる。
4.背臥位で足を口に持っていく。
5.座位で上肢の後方保護伸展反応が出る。
【答え】4
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クエスチョンバンクでこの問題の解説をみると、尺側にぎり・手掌にぎり・橈側にぎりについて遠城寺での発達で以下のようにまとめられていました。
これを元に、自分で覚え方を以下のように考案していました。
遠城寺からすると答えは3になるのでしょうが(自分でも最初答えを3としていました)、デンバー式ではどうも違うようです。
下表を見ると、「親指と人さし指の指さきでつまむ」という動作は9ヶ月くらいからできるようになりますが、75%透過率(色が濃くなった左端)は12〜13ヶ月となっています。
1.3〜4ヶ月:×
2.6〜7ヶ月:×
3.9〜10ヶ月:×
4.12〜13ヶ月:○
5.15〜16ヶ月:×
小児発達の問題は数年に1度出題されますが、1点問題で配点も少なく、項目も多く、さらに遠城寺式とデンバー式で違うところもあり確実に対策を取るのは不可能です。
膨大な量の内容なので、少なくともどちらかの基準(できれば遠城寺)のみにしてもらいたいです。
(84) 脳卒中回復期の嚥下障害に対する最も適切な栄養管理はどれか。(59回午前84)
1.水分にとろみは使用しない
2.胃瘻造設後には経口摂取は行わない
3.経鼻胃管による経管栄養は誤嚥の危険はない
4.点滴管理は栄養摂取量を考慮する必要はない
5.経鼻胃管による経管栄養は長期的栄養管理には適さない
【答え】5
【解説】
1.水分にとろみは使用しない:×
水分ととろみでは水分の方が誤嚥しやすいです。したがって誤嚥のリスクのある患者ではとろみ付きの食事にしたり、ゼリー食にしたりします。また嚥下検査では、水分ととろみの嚥下の両方を評価します。
2.胃瘻造設後には経口摂取は行わない:×
胃瘻を作る事を患者さんの家族に説明する際に、患者さんの家族から「胃瘻を作ったらもう食べられなくなるんですか?」と良く質問されます。そのような場合には以下のように説明するようにしています。
「胃瘻を造設したからと言って嚥下機能が失われたわけではありません。ただ、患者さんの体を維持しようとするぐらいのカロリーを口から摂取しようとすると誤嚥性肺炎になる危険性が高くなります。でも、たとえばおやつみたいに少しぐらいなら食べる事も可能な場合もあります。胃瘻をつくって、状態が安定すれば、すこし口からたべさせる事も試してみましょう」。
できれば患者さんに食べる喜びを残してあがたいものです。
3.経鼻胃管による経管栄養は誤嚥の危険はない:×
経管栄養物の嘔吐、体動時の刺激や通過障害および胃内圧の上昇による胃内容の逆流などが原因となって、経管栄養中でも誤嚥が起こることがあります。
4.点滴管理は栄養摂取量を考慮する必要はない:×
→手や足から点滴をする末梢点滴での栄養では、糖の濃度を高くすると末梢血管が傷んですぐに潰れてしまいます。末梢点滴の場合は通常糖の濃度は5%ぐらいで、高くても10%までです。5%の糖液が500mLだと、含まれる糖は25gでカロリーは100kcalしかありません。たとえ1日1,000mL点滴しても200kcalしか入らない事になります。頸静脈などに中心静脈カテーテルを挿入して高カロリー輸液をする場合は1日1,000kcal以上を投与する事ができます。このように点滴管理する場合、どれくらいカロリーを投与できているか常に注意を払わなければなりません。
5.経鼻胃管による経管栄養は長期的栄養管理には適さない:○
経鼻胃管を長期に留置すると、口腔や咽頭の胃管周囲に細菌が付着・増殖し、それら細菌が胃管を伝って喉頭周囲に広がり、誤嚥性肺炎の原因になる事があります。
(85) 出生時に出現していないのはどれか。(59回午前85)
1.Moro反射
2.Galant反射
3.Babinski反射
4.緊張性迷路反射
5.対称性緊張性頚反射
【答え】5
【解説】
1.Moro反射:× 出生からあり、4〜6ヶ月で消失
2.Galant反射:× 出生からあり、2ヶ月で消失
3.Babinski反射:× 出生からあり、12〜24ヶ月で消失
4.緊張性迷路反射:× 出生からあり、4〜6ヶ月で消失:
5.対称性緊張性頚反射:○ 6〜9ヶ月でみられる
→非対称性緊張性頚反射は出生からあり、4〜6ヶ月で消失しますが、それと入れ替わるように対称性緊張性頚反射は6ヶ月ごろから発現し、9ヶ月ごろに消失します。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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