第58回理学療法士国家試験 午後26-30の解説
息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。
26.救急措置で正しいのはどれか。(58回午後26)
1.傷病者を発見した場合は一目散に駆け寄る
2.傷病者の体をゆすって反応の有無を確認する
3.応援者への最初の依頼はAEDの手配である
4.気道異物を探してから胸骨圧迫を開始する
5.胸骨圧迫は100〜120回/分を目安に行う
【答え】5
【解説】
救急措置についての問題です。理学療法士さんでも患者が急変する場合がありますので、救急措置については知っておかなければなりませんね。救急措置(心肺蘇生)は勉強する量が少ない割に時々出題されるので、勉強の量に対する効果が高い(いわゆるコストパフォーマンスが高い)ので、こちらも国試直前にやってました。息子は今回の設問であった「胸骨圧迫は100〜120回/分を目安に行う」があまりピンとこないようでしたが、解説にも書いたように「胸骨圧迫による心拍出量は、心臓が自分で収縮する場合の心拍出量よりも少ないから、少ない分を回数で稼ぐために、胸骨圧迫の頻度は正常の心拍数よりも少し多めにするんだよ」と何回か説明すると納得して、それが国試に出題されたので、ばっちり対策が効いた問題でした。
救急措置については一般市民が行う一次救命処置(BLS: basic life support)と病院で医師などが行う二次救命処置(advanced cardiovascular life supprt: ACLS)がありますが、ここではBLSについての問題です。BLSやACLSは5年ごとに改訂されている世界共通のアリゴリズムで、2020年版が最新になります。
では選択肢について解説します。
1.傷病者を発見した場合は一目散に駆け寄る:×
一見正解のように思えますが、実は間違いです。みなさんは病院の中で患者が急に倒れた場合、すぐに駆け寄ると思うでしょうが、傷病者が発生するのはなにも病院の中とは限りません。
たとえば、ガス爆発の現場や、交通事故の現場を考えて見てください。患者に駆け寄った場合に、さらにガス爆発が起こったり、交通事故に巻き込まれるかもしれません。傷病者に駆け寄る場合は必ず周囲の安全を確認してから駆け寄るようにしなければなりません。
問題文が「一目散」と変わった表現をしているのは、出題者が「これは紛らわしいけど間違いですから」というやさしさが現れているような気がしますね。
2.傷病者の体をゆすって反応の有無を確認する:×
「傷病者の反応があるかどうか」どうかは、「傷病者の肩を軽くたたきながら大声で呼びかける」ようにします。何らかの応答や仕草がなければ 「反応なし」 とみなします。
例えば、交通事故で頚髄損傷をきたしている場合は、首を動かしたりすると、頚髄損傷が悪化するおそれがありますし、体をゆする事によって外傷がひどくなる場合もありますので、大きく体をゆすって確認してはいけません。
3.応援者への最初の依頼はAEDの手配である:×
傷病者の反応がない場合、「大声で叫んで周囲の注意を喚起し,周囲の者に 119 番通報と AED の手配(近くにある場合)を依頼」します。具体的には
①大声で「誰かきてください」と応援者を集めます
②119通報を依頼します
③AEDをもってきてもらうように依頼します
救急措置は一人ではできません。たくさんの応援者が必要です。まず最初にできるだけ人(応援者)を集めるようにしましょう。なお病院内では119通報しなくても良いです。医師や看護師を呼ぶようにしましょう。
4.気道異物を探してから胸骨圧迫を開始する:×
心肺停止が疑われる場合は、いかに胸骨圧迫を早く開始するのかが重要です。以前は心肺蘇生の手順はA(気道確保)ーB(人工呼吸)ーC(胸骨圧迫)の順が推奨されていましたが、現在は気道確保や人工呼吸よりも胸骨圧迫を行う事が重要とされ、C(胸骨圧迫)ーA(気道確保)ーB(人工呼吸)の順で行うように推奨されています。
気道異物を探すのに時間をかけるよりも、まず胸骨圧迫を開始するようにします。気道異物を疑う場合には、C(胸骨圧迫)の次のA(気道確保)の段階で、口腔内に気道異物がないか確かめるようにしてください。
5.胸骨圧迫は100〜120回/分を目安に行う:○
正常の心拍数は60〜100回/分です。胸骨圧迫による心拍出量は、心臓が自分で収縮する場合の心拍出量よりも少ないです。したがって、少ない分を回数で稼ぐために、胸骨圧迫の頻度は正常の心拍数よりも少し多めにします。
27.Danielsらの徒手筋力テストの検査肢位において、膝関節の伸展と屈曲が同じになる段階はどれか。
1.段階1
2.段階2
3.段階3
4.段階4
5.段階5
【答え】2
【解説】
MMTの検査です。58回の国試では、ROM・MMTの3点問題がすくなかったですね。59回以降はまた増えると思います。
さて、膝関節の屈曲と伸展のMMTについてです。
下に膝関節の屈曲MMTについてまとめたものを紹介します。膝屈曲MMTには①全ハム検査と②内側ハム検査、③外側ハム検査がある事は知っておいてください。また10版からは段階4・5は膝屈曲45°から開始する事になっています。
肢位ですが、段階5・4・3は腹臥位、段階2は重力を最小化させるために側臥位、段階1は触診しなければなりませんから腹臥位ですね。
次に膝関節伸展のMMTです。膝伸展のMMTのポイントですが、
①段階5・4・3ではハムストリングスの緊張をゆるめるために体を軽度後ろに傾けて、両手を机につくようにします。
②段階5・4・3で抵抗を加える場合は、膝屈曲15°の位置をとり、抵抗は下方向に床に向かって加えます(9版では角度の指定はありませんでした)。
肢位ですが、段階5・4・3は座位、段階2は重力を最小化させるために側臥位、段階1は触診しなければなりませんから背臥位ですね。
これらから検査肢位が同じになるのは段階2という事になります。
28.GCSの評定で正しいのはどれか。(58回午後28)
1.E2は痛み刺激で眼を開ける
2.E3は自発的に眼を開けている
3.V4は日時や場所を言うことができる
4.M4は痛み刺激に対して手を払いのける
5.M5は指示に従って手を動かせる
【答え】1
【解説】
GCS (Glasgow Coma Scale: グラスゴー・コーマ・スケール)がついに出題されましたね。じつは、GCSに的をしぼって、国試直前1週間ぐらい毎日特訓していたんです。これも予想が的中した問題で、息子もびっくりしていました。
さてGCSですが、3つの要素で評価します。Eye movement (目の動き)、Verbal response (言語の藩王反応)、Motor response (運動の反応)です。それぞれEが4段階、Vが5段階、Mが6段階で分類されます。
これを全て覚えられますか?いろいろなサイトでは単に、表を示すだけです。そんなのでは覚えられません。でも医師は覚えて使ってます。患者をみた時にほぼ瞬間的にGCSのスコアを計算できます。どうしてでしょう?スコアの付け方を理解すれば覚えるようになります(息子も理解して、本番までに覚えて正解しました)。GCSを理解すると、JCSも正確にわかるようになります。以下の説明は、みなさんの今後に役立つと思いますので、是非読んでください。
さて、GCSはE (4)、V(5)、M(6)段階のフルスコアで合計4+5+6=15点です(点数が良い程良い結果になります)。
それぞれ、一番下の1は全くできない、一番上のスコアは正常です。ですから、一番下の1と一番上のスコアの間がどういう分類になっているかを考えれば良いです。ではE・V・Mのそれぞれについて見ていきます。
最初はE (4): Eye Opening (開眼)です。
E (4): 正常→最初から開眼している
E (3):
E (2):
E (1): ダメ→何をやっても開眼しない
です。E (4)とE (1)についてはわかりましたね。ではE (2)とE (3)はどうでしょうか?これは、「最初は閉眼してるけど、刺激すると開眼する」なんです。そして刺激には弱い刺激と強い刺激の2つを考えます。では弱い刺激って何ですか?それは声です。したがって、より良いレベルのE (3)は「軽い刺激で開眼する」で、悪い方のレベル E (2) は「強い刺激で開眼する」です。では強い刺激って何ですか?それは痛み刺激です(わかりますよね?)。では実際はどういう評価の仕方になるかというと、
E (4): 正常→最初から開眼している
E (3): 弱い刺激で開眼する→声で開眼する
E (2): 強い刺激で開眼する→痛み刺激で開眼する
E (1): ダメ→(何をやっても)開眼しない
おわかりいだただけましたでしょうか?これ以上、簡単にGCSを覚える方法はありません。
次にV(5)best verbal response (最良言語機能)です。Eの時と同様に
V (5): 正常→普通に話す
V (4):
V (3):
V (2):
V (1): ダメ→話さない
です。では途中のV(2)・V(3)・V(4)の考え方をお伝えします。V(2)・V(3)・V(4)は以下のように、下からSound - Word - sentenceと覚えてください。
V (4): Sentence(文章)
V (3): Word (単語)
V (2): Sound (音)
具体的にはV(2)は音しかでません。意識障害のある患者を刺激しても「あ〜あ〜」とか「う〜う〜」といった音は出ますが、単語にはならないのがV (2)になります。
V(3) は単語になります。意識障害のある患者を痛み刺激した時には「痛い〜!」と叫びますが、単語以上の文章にはなりません。「苦しい〜」とかぐらいまでです。
V(4)は文章になります。「頭が痛い〜!」「胸が苦しい〜!」です。文章になってますね。
ん?
ではV(4)って文章が話せるってなってますが、V (5)の正常と何が違いますか?ぱっと見、同じように思えますね。実はV(4)とV(5)の違いは見当識があるか、ないかなんです。V(5)が見当識があって、V(4)は見当識がありません。見当識とは英語でOrientationといいます。失見当識とはdisorientationといいます。見当識はどうやって評価するかというと、「人・場所・時間」が言えるか、わかっているかで評価します。救急外来に意識障害の患者が運ばれてきたときに、こう質問します。
「ここがどこかわかりますか?」→病院ならOKです。スーパーかな?なら×
「今日は何月かわかりますか?」→○○月ならOK、××(間違った)月なら×
「私何の職業かわかりますか?」→お医者さんならOK、警察なら×です
こういった事で見当識があるか、どうかを調べます。GCSのVをまとめます。
V (5): 正常→普通に話す→見当識あり
V (4): Sentence → 文章を話すが見当識がない→混乱した会話*
混乱した会話*とは見当識がないという事です
V (3): Word (単語)を発する→不適当な発語* 発語*の語は単語の事です
V (2): Sound (音)を発する→理解不明の音声
V (1): ダメ→話さない
おわかりいだただけましたでしょうか?GCSのVはSound-word-sentenceです。
さて、最後のM (best motor response: 最良運動反応) は6段階もあるので、覚えるのが大変そうに思えますよね。でも大丈夫。GCSのM6を覚えるM体操というものがあります。これを体を使って覚えましょう。
以下のようにM(1)〜M(6)まで、数字の形になるように覚える事ができます。自分で実際にやって覚えるようにしてください。これでMも完璧です。
M(6): 正常
M(5): 払いのけ動作
M(4) : 逃避反射
M(3): 除皮質硬直(痛み刺激に対して上肢屈曲)
M(2): 除脳硬直(痛み刺激に対して上肢伸展)
M(1): 反応なし
です。いかがでしょうか?以上GCSの覚え方でした。
では選択肢を解説します。
GCSの評定で正しいのはどれか。(58回午後28)
1.E2は痛み刺激で眼を開ける:○
2.E3は自発的に眼を開けている:×→正常なのでE(4)です。
3.V4は日時や場所を言うことができる:×→見当識があるのでV (5)です
4.M4は痛み刺激に対して手を払いのける:×→払いのけ動作はM (5)です
5.M5は指示に従って手を動かせる:×→正常ですのでM(6)です
GCSのついでにJCSも復習しておきましょう。
JCSの大枠、I桁・II桁・III桁はGCSのEの分類に対応していますね。
I桁:刺激しなくても開眼している →GCSのE(4)
II桁:最初開眼していないけど刺激をすれば開眼する→GCSのE(3)・E(2)
III桁:刺激しても開眼しない →GCSのE(1)
そして、大枠のI桁・II桁・III桁の下の小さい項目について、説明します。
JCSで正常というのは0になります。
I-1:今ひとつはっきりしない(定義もいまひとつはっきりしませんね)
I-2: 見当識障害がある(人・場所・時間がいえない)GCSのV4です
I-3: 自分の名前・生年月日がいえない
→見当識があっても自分の名前・生年月日が言えない場合があるんです
ね・へ〜そうなんだ。
JCSのII桁は「刺激によって開眼する」ですから、GCSのEの部分の評価に対応します。JCSでは刺激の程度を3段階に分けていますね。GCSでは軽い刺激(声)と強い刺激(痛み)の2段階でした。JCSでは中程度の刺激として大きな声を採用しています。
II-10: 普通のよびかけ(軽い刺激ですね)で開眼する →GCSのE3
II-20: 大きな声で開眼する(中等度の刺激ですね) →まだGCSのE3
II-30: 痛み刺激&体を揺さぶる(強い刺激)で開眼 →GCSのE2
JCSのIII桁は少し覚えにくいのではないでしょうか?でもJCSのIII桁がGCSもMと対比するととてもすっきり覚える事ができます。
III-100: 痛み刺激に対して払いのけ動作をする →GCSのM5です。
III-200: 痛み刺激に対して少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする
→この文章はおぼえられません。III-100がGCSのM5で、もっとも悪いIII-300が全く反応しないのでGCSのM1です。したがってJCSのIII-200はGCSでいうM2・M3・M4という事になります。ここで覚えておかなければならないのはJCSのIII-100は払いのけ動作(GCSのM5)という事ですね。そうするとIII-200はGCSのM2・M3・M4と自動的に出てきますから。
JCS III-100の覚え方です。
GCSのM体操の所で、M5の払いのけ動作で、5本の指で100円玉とつかんでいるのを写真のようにイメージしましょう。これからJCSのIII-100 (100円球球)はM5の払いのけ動作だと覚える事ができます。そしてM2・M3・M4はJCSのIII-200、M1はIII-300です。完璧ですよね。
59回以降はGCSとJCSを組み合わせた問題も出る可能性があります。ぜひJCSとGCSを完璧にするようにしてください。
29.脊髄損傷者(完全麻痺)が両側の短下肢装具と杖によって安全な屋外歩行が可能となる最も上位の機能残存レベルはどれか。(58回午後29)
1.Th6
2.Th12
3.L2
4.L4
5.S1
【答え】4
【解説】
これは、脊髄損傷と書いてあるので、脊髄損傷の分野と思われますが、下肢脊髄損傷というと小児の二分脊椎と関連して、勉強・覚えるのが最適です。小児の二分脊椎は国試の頻出問題ですので、しっかり押さえるようにしてください。下肢脊髄損傷と装具の適応については国試頻出問題です。Sharrdの分類とともに覚える必要がありますね。
さて、下肢脊髄損傷については、下図から、腰椎の各レベルと対応する筋肉を覚えてください。
以下は下肢脊髄損傷のSharrd分類(レベルと残存レベルのみ)とそれに対応する筋や足変形についてを表にしたものです(この表は理解のための表なので覚えなくても良いです)。レベルはT12から始まります(レベルI)。Sharrdのレベルは臨床的に意味のあるレベルが選択されていて、注意が必要なのはL3残存のレベルがない事です。
臨床的に意味のある残存とはMMTが3以上の残存を言います(第56回 午前 8で出題)。L3残存では、本来四頭筋が残存しているのですが、L3残存では四頭筋の筋力が弱いので、四頭筋が機能するのは一つ下のL4残存になります。同様にL4残存では本来、前脛骨筋が残存しているレベルなのですが、L4残存では前脛骨筋の筋力が弱いので、前脛骨筋が十分に作用するのはL5残存になります。同様に下腿三頭筋はS1の機能ですが、下腿三頭筋が十分に作用するのはS2残存になります。
このように、L3以下は残存レベルと対応する筋がひとつずつずれる形になります。すなわち下のようになります。結局、覚えるのは下図になります。
ただし、これなかなか覚えにくいです。長期記憶として記憶を長続きさせるために以下のように覚え方を考えました。
まず、左にレベルI・II・III・IV・Vと縦に書きます。そして、レベルIIから(に・し・こり・ガッツ)と声に出します。(に・し・こり)はテニスプレーヤーの錦織圭さんの事です。(に・し・こり・ガッツ)は残存レベルを表します。ちなみに(に・し・こり・ガッツ)の始まりの「に」はレベルII (2)から始まります。
レベルIIが「に(2)」で始まりL2残存です。
レベルIIIは「し(4)」でL4残存です。
レベルIVが「こり(5)」でL5残存です。
レベルVは「ガッツ(2)」から2でS2残存としました。
筋肉はレベルIIから腸腰筋・四頭筋・前脛骨筋・下腿三頭筋と当てはめます。これならなんとか覚えられませんか?国試予備校とか塾では、表の説明はしますが、覚え方まで教えてくれません(教えてくれたらいいのに…)。
私の場合は、なかなか覚えられない息子のために覚え方を必死に考えました。その成果をみなさんに紹介しています。
足の変形ですが、これは、元々の図で考えます。
・L2・L3残存では前脛骨筋が働かないので下垂足
・L4・L5残存では前脛骨筋が働き、下腿三頭筋が働かないので踵足
・S1残存では下腿三頭筋が働くので凹足
・S2までいくと正常です。
次にSharrd分類と装具の関係です。これが一番重要ですね。
【レベルI】
T12まで残存です。体幹の筋がここで完全に機能します。しかし腸腰筋が機能しないので、股関節屈曲ができず、自分で踏み出せません。歩行は体幹と上肢によって行われます。上肢が重要になりますので杖(それもしっかり体重を乗せられるロフストランド杖)が必須です。ロフストランド杖を前に振り出し、体幹を前傾させます。その後、体幹を振子のように振り出して歩行します。下肢から体幹を1本の棒のように一体化しないといけないので、長下肢装具に骨盤帯をつけなければなりません。体幹が機能するので骨盤帯が不要と思われるかもしれませんが、骨盤帯は体幹と下肢を一体化させるために必要です。
【レベルII】
(に・し・こり・ガッツ)の「に」でL2残存なので、腸腰筋が機能します。腸腰筋が機能すると股関節の屈曲が可能となります。すると、歩行においては自分で踏み出せるようになります。まだまだ不安定ですので杖(ロフストランド杖でなくてよい)が必要ですが、長下肢装具で下肢を1本の棒みたいにできるので、股関節屈曲ができれば長下肢装具+杖で歩く事が可能になります。
【レベルIII】
(に・し・こり・ガッツ)の「し」なのでL4残存で、四頭筋が機能します。四頭筋が機能すると、膝関節の伸展が可能になります。伸展が可能というのは、伸展してつっぱれる事を意味します。股関節屈曲で脚は前にスイングすれば膝はかってに屈曲します。重要なのは、膝が伸展してつっぱれる事なのです。歩行周期においては、膝は意識的に屈曲はしません。受動的に屈曲します。ここで、膝が屈曲かつ伸展するにはもはや長下肢装具は不要です。しかし、前脛骨筋が機能しないので、そのままでは尖足になります。したがってこのレベルでは短下肢装具が必要になります。
【レベルIV】
(に・し・こり・ガッツ)の「こり」なのでL5残存になります。L5残存では前脛骨筋が機能します。すなわち、足関節背屈が可能となりますが、底屈ができません。底屈しないと歩行周期のTstで立ち上がれません。そのため靴型装具が必要になります。
【レベルV】
(に・し・こり・ガッツ)の「ガッツ」なのでS2残存になります。このレベルではもはや装具は必要ではありません。
では問題をみていきます。
脊髄損傷者(完全麻痺)が両側の短下肢装具と杖によって安全な屋外歩行が可能となる最も上位の機能残存レベルはどれか。(58回午後29)
1.Th6 2.Th12 3.L2
4.L4 5.S1
短下肢装具と杖の装具が必要なレベルは何かと考えると、L4残存で、四頭筋が機能するレベルですね。 答えは4になります。
以下に最近の下肢脊髄損傷と装具問題について復習しておきます。
……………………………………………………………………………….
10歳の男児。二分脊椎。杖歩行が可能であり歩行時の様子を図に示す。予測される残存レベルはどれか。 (第51回 午後 14)
1. 第10胸髄 2. 第12胸髄 3. 第2腰髄
4. 第4腰髄 5. 第1仙髄
答え:3
4歳の男児。顕在性二分脊椎症による脊髄髄膜瘤の術後。立位の様子を図に示す。短い距離であれば独歩可能である。予測される機能残存レベルの上限で正しいのはどれか。 (第53回 午前 10)
1. L2 2. L3 3. L4
4. L5 5. S1
答え:3
8歳の女児。顕在性二分脊椎。Sharrardの分類はIV群である。歩行練習の実施方法で適切なのはどれか。(第55回午前19)
1,靴型装具を使用する
2.長下肢装具を使用する
3.短下肢装具とロフストランド杖を使用する
4.長下肢装具とロフストランド杖を使用する
5.骨盤帯付き長下肢装具とPCW (postual control walker)を使用する
答え:1
4歳の男児。顕在性二分脊椎による脊髄髄膜瘤の術後。Sharrard(シェラード)分類ではIで、尖足を認める。その他の変形や中枢神経系の合併症はみられない。この児の移動訓練に必要なのはどれか。2つ選べ。OT第49回午前13)
1.交互歩行装具 (RGO)
2.長下肢装具
3.短下肢装具
4.車いす
5.T字杖
答え:1と4
6歳の男児。潜在性二分脊椎。足部の変形を図に示す。
MMTを行ったところ、大腿四頭筋の筋力は5、内側ハムストリングスは3、前脛骨筋は3、後脛骨筋は2であった。
Sharrardの分類による障害レベルはどれか。 (第56回 午前 8)
1. Ⅰ群 2. Ⅱ群 3. Ⅲ群
4. Ⅳ群 5. Ⅴ群
答え:4
図自体は内反尖足。しかし、MMT3以上の筋が残存しているのは前脛骨筋レベル。II群は腸腰筋、III群が四頭筋、IV群が前脛骨筋、V群が下腿三頭筋なので答えはIV群
28歳の男性。脊髄完全損傷。両側に長下肢装具を使用し、平行内歩行練習を行っている。歩行パターンを図に示す。機能残存レベルはどれか。(57回午前7)
1.Th1 2.Th6 3.Th12
4.L4 5.S1
答え:3
ちょっと疑問のある問題です。厚労省発表ではTh12の3となっていますが、Th12では股関節屈曲がダメのはずで、実際はレベルIIのL2残存のような気がします。国試的にはL4残存の短下肢装具でなないので、それ以上という事でTh12を選択するという事なるのでしょうが、Th12残存は本来は骨盤帯付き長下肢装具が必要です。Th12では股関節屈曲しないんですがね…。こじつけで、弱いながらも股関節屈曲するという事でしょうか?何度もいいますが、これはレベルIIのL2残存がもっとも適切です(不適切問題のような気がします)。
……………………………………………………………………………….
いずれにしても下肢脊髄損傷と装具の選択については毎年のように出題されているので、Sharrd分類と併せてしっかり勉強するようにしてください。
30.健常成人の血圧で正しいのはどれか。(58回午後30)
1.Korotkoff音が聞こえなくなった時点での圧を収縮期血圧とする
2.触診法では聴診法に比べて収縮期血圧が高く測定される
3.平均血圧は拡張期血圧に脈圧の1/3を加えて求める
4.足関節上腕血圧比の基準値は0.75〜0.9である
5.収縮期血圧は朝より夕方の方が低くなる
【答え】3
【解説】
1.Korotkoff音が聞こえなくなった時点での圧を収縮期血圧とする:×
マンシェットを収縮期圧を超えて加圧していくと、コロトコフ音が一旦聞こえなくなります。そこからマンシェットを減圧していくとコロトコフ音が聞こえるようになります。その時点の血圧が収縮期血圧です。さらに減圧していくとコロトコフ音が聞こえなくなります。その時点の血圧が拡張期血圧です。
2.触診法では聴診法に比べて収縮期血圧が高く測定される:×
コロトコフ音が聴取しずらいときは触診法を用いますが、音の方が鋭敏です。脈は触れにくいので、実際の血圧よりも低く測定されます。
3.平均血圧は拡張期血圧に脈圧の1/3を加えて求める:○
下の図のように、収縮期血圧から拡張期血圧を引いたものを脈圧といいます。平均血圧は拡張期血圧に脈圧の1/3を加えたものです。
平均というと収縮期血圧と拡張期血圧を足して2で割ったものと思うかもしれませんが、そうではありません。下の図の平均血圧の上の部分(青丸)と下の部分(緑丸)の面積が同じになるのが、だいたい脈圧の1/3の高さになるからです。
4.足関節上腕血圧比の基準値は0.75〜0.9である:×
足関節上腕血圧比 (Ankle Brachial Index)とは以下のように、足首(Ankle)と上腕(Brachialis)の血圧の比です。
一般的に下肢の血圧は上肢の血圧より高いです。これは下の図のように、下肢の方が上肢に比べて心臓からの落差が大きいとイメージしてください。
ABIの基準値は0.9 < ABI < 1.3です。(これは下肢の血圧が上肢と同程度か、上肢の血圧よりすこし高い事を意味します。)
この指標をどんな時に使うかというと閉塞性動脈硬化症(ASO)の診断に用います。
もしABI <0.9だと、下肢の血圧が低すぎる事になり下肢のASOを疑います。一方ABI>1.3だと、逆に上肢の血圧が低すぎる事になり上肢のASOを疑います。
5.収縮期血圧は朝より夕方の方が低くなる:×
血圧は一日の間で変動してもり、活動性の低い朝よりも活動性の高い夕方の方が高くなります。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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