第59回理学療法士国家試験 午前66-70の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(66) 免疫グロブリンで正しいのはどれか。(59回午前66)
1.IgGは胎盤を通過する
2.IgMは唾液に含まれる
3.IgDは肥満細胞を活性化する
4.IgAは血漿中に占める割合が最も多い
5.T細胞が光源の刺激を受けて産生する
【答え】1
【解説】
下図に5つの免疫グロブリンについてまとめました。
1.IgGは胎盤を通過する:○
→免疫グロブリンのうち、IgMは5量体で分子量が大きいので胎盤を通過しません。IgGは分子量が小さいので胎盤を通過する事ができます。
2.IgMは唾液に含まれる:×
→唾液に含まれるのはIgAです。
3.IgDは肥満細胞を活性化する:×
→アナフィラキシーで肥満細胞に結合し、ヒスタミン遊離をさせるのはIgEです。
4.IgAは血漿中に占める割合が最も多い:×
血漿中に占める割合が最も多いのはIgGです。血中のグロブリンの約80%を占め、液性免疫の主役です。
5.T細胞が抗原の刺激を受けて産生する:×
→抗原を産生するのはBリンパ球から分化した形質細胞です。
(国試ではBリンパ球で出題されたり、形質細胞で出題されたりするので注意が必要です)
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抗体を産生するのはどれか。 (53回午前64)
1. 好酸球
2. 好中球
3. 好塩基球
4. 形質細胞
5. マクロファージ
答え4
抗体を産生するのはどれか。(57回午前65)
1.赤血球
2.好中球
3.好酸球
4.リンパ球
5.血小板
答え4
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(67) 肝臓の機能で正しいのはどれか。2つ選べ。(59回午前67)
1.血球の産生
2.胆汁の貯蔵
3.尿素の生成
4.薬物の代謝
5.グルカゴンの分泌
【答え】3・4
【解説】
1.血球の産生:×
→赤血球や白血球といった血球は骨髄で産生されます。
2.胆汁の貯蔵:×
→胆汁は肝細胞で産生されますが、産生された胆汁は胆嚢で貯蔵され、食事に合わせて十二指腸に分泌されます。
3.尿素の生成:○
食物の中に含まれるタンパク質や、消化管の分泌液が分解されることで、体内ではアンモニアが発生します。アンモニアは生体にとって毒そのもので、血中にアンモニアが少しでも存在すると昏睡状態になったりします。肝臓ではアンモニアを取り込んで、オルニチン回路(尿素サイクルともいいます)でアンモニアを尿素に変換して、尿に排出します。
尿は無臭ですが、膀胱炎などで膀胱内に細菌が繁殖すると、尿素が再びアンモニアに変換されて強い臭いをきたします。尿がくさいときは、病院を受診した方が良いかもしれません。
前述のように肝不全になると血中のアンモニア濃度が上昇して昏睡状態になります。これを肝性昏睡と呼びます。
4.薬物の代謝:○
内服や注射で体内に投与された薬剤は主に腎臓や肝臓で処理されます。水溶性の薬剤は腎臓から尿として排泄されます。一方脂溶性の薬剤は肝臓のチトクロームP450という酵素によって水溶性に変換され、尿として排出されます。
5.グルカゴンの分泌:×
→グルカゴンは膵臓のランゲルハンス島のα細胞から内分泌され、血糖を上げる働きがあります。
(68) 同一の臓器から分泌されるホルモンの組合せで正しいのはどれか。(59回午前68)
1.アルドステロン――――エリスロポエチン
2.グルカゴン――――――ガストリン
3.バゾプレシン―――――オキシトシン
4.パラトルモン―――――カルシトニン
5.レニン――――――――コルチゾール
【答え】3
【解説】
ホルモンについては56回午後68 水溶性ホルモンを選ぶ問題でおそらく正解率がとても低かったと思われる問題があったので、しばらくは基本的問題が続くと思われます。56回午後68の出題者は相当な批判にさらされたと思います(出題委員を交代した方が良いと思います)。今回も基本的な知識を問う問題でした。
1.アルドステロン―エリスロポエチン:×
→アルドステロンは副腎皮質から産生されます。アルドステロンは鉱質コルチコイドともよばれ、腎の遠位尿細管でNaと水を再吸収し、Kを分泌する(NaとKを交換)作用があります。エリスロポイエチンは腎臓から分泌される造血ホルモンですが、詳しくは尿細管間質細胞から分泌されます。腎不全になると産生低下になり貧血となります(腎性貧血)
2.グルカゴン――――――ガストリン:×
グルカゴンは膵臓ランゲルハンス島から内分泌されるホルモンです。
α細胞からはグルカゴン(血糖を上げる)、β細胞からははインスリン(血糖を下げる)、δ細胞はソマトスタチン(グルカゴンとインスリンを抑制)がそれぞれ分泌されます。
ガストリンは食べ物が胃の出口付近にくると胃のG細胞から内分泌されるホルモンです。ガストリンは主細胞・壁細胞・副細胞を刺激して、ペプシノーゲン・胃酸・内因子・ムチンの産生を刺激します。
3.バゾプレシン―オキシトシン:○
バゾプレシンは下垂体後葉から分泌され、腎の集合管に働いて水の吸収を促進し、血圧を上げる作用があります(Vaso: 血管、press: 圧)。オキシトシンも下垂体後葉から分泌され、子宮を収縮させる作用があります。
4.パラトルモン―カルシトニン:×
パラトルモンは副甲状腺(parathyroid:パラサイロイド)から分泌されるホルモンで血中のカルシウムを増加させる作用があります。この作用は(1) 骨吸収、(2) 腎臓の遠位尿細管でCaの吸収を促進する、(3) 腎臓でビタミンDを活性化ビタミンDにする事で腸からのCa吸収を増やすという3つの機序があります。一方カルシトニンは甲状腺から分泌されるホルモンで、血中のカルシウム濃度を下げる働きがあります。
5.レニン―コルチゾール:×
レニンは血圧が下がると、腎臓の傍糸球体細胞から産生されるホルモンで、肝臓から産生されるアンギオテンシノーゲンをアンギオテン
シンIに変える作用があります。アンギオテンシンIは肺で生成されるアンギオテンシン変換酵素 (ACE)によってアンギオテンシンIIに変換され、さらにアンギオテンシンIIは副腎皮質に作用してアルドステロンの分泌を刺激します。アルドステロンは前述のように腎の遠位尿細管でNaと水を再吸収し、Kを分泌する(NaとKを交換)作用があります。
コルチゾールは副腎皮質から分泌されるホルモンで、アレルギーを抑える働きや血糖を上昇させる作用があります。
(69) エネルギー代謝で正しいのはどれか。(59回午前69)
1.基礎代謝量は安静時代謝量より大きい
2.安静時代謝量は体重減少により低下する
3.呼吸商は糖質の燃焼が多くなると低下する
4.代謝当量 (METs)は基礎代謝量を基準にしている
5.エネルギー代謝率 (RMR)は安静時代謝量を基準にしている
【答え】2
【解説】
1.基礎代謝量は安静時代謝量より大きい:×
→安静時代謝量は覚醒座位での安静時の代謝量です。一方、基礎代謝量は早朝空腹時に覚醒仰臥位で測定された代謝量です。安静時代謝量は座位であるので、座位姿勢を取るために仰臥位よりも骨格筋緊張度が高いです。一般的に安静時代謝量は基礎代謝量より約10%高いと言われています。
2.安静時代謝量は体重減少により低下する:○
→安静時基礎代謝は骨格筋22%・脂肪組織4%・肝臓21%・脳20%・心臓9%・腎臓8%・その他16%で規定されます。体重が減少すると骨格筋や脂肪組織が減少すると考えられるので安静時代謝は低下します。厚生労働省日本人の食事摂取基準2015・2020年度版では
安静時基礎代謝量(kcal/日)=基礎代謝基準値(kcal/kg/日) ×体重(kg)
と規定されています。
3.呼吸商は糖質の燃焼が多くなると低下する:×
→栄養素別の呼吸商は糖質が1.0、脂質が0.7、蛋白質が0.8です。糖質・脂質・蛋白質を合わせた全体としての呼吸商は0.8です。したがって糖質の燃焼が多くなるとほど呼吸商は大きくなります。
4.代謝当量 (METs)は基礎代謝量を基準にしている:×
→METsは欧米でおもに用いられている指標で、安静時代謝量を基準としています。安静座位で測定しています。
5.エネルギー代謝率 (RMR)は安静時代謝量を基準にしている:×
→エネルギー代謝率は日本でおもに用いられている指標です、労作代謝量を基礎代謝量で割った値です。
ちょっと覚えにくいので、覚え方を考えました。全国どの県にもある労災病院をイメージします。地上(上辺)にあるのはもちろん労災病院ですので、上辺は労災→労作です。下辺は病院の下にあるという事で基礎→基礎代謝量として覚えました。
また上辺(労作代謝量)を分解するときは、労作の前(労)ではなく後ろ(作)を使って、作業時代謝量 ― 安静時代謝量とすると覚えました。
57回午前69に類似問題が出題されていました。
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エネルギー代謝で誤っているのはどれか。(57回午前69)
1.安静時代謝量は基礎代謝量より小さい。
2.基礎代謝量はホルモンの影響を受ける。
3.安静時代謝量は体重減少により低下する。
4.呼吸商は脂肪の燃焼が多くなると低下する。
5.代謝当量1単位は酸素3.5mL/kg/分の摂取量を基準としている。
【答え】1
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(70) 筋を下顎の運動の組合せで正しいのはどれか。(59回午前70)
1.咬 筋――――――――――――下 制
2.顎二腹筋―――――――――――挙 上
3.外側翼突筋――――――――――前 突
4.内側翼突筋――――――――――後 突
5.オトガイ舌筋―――――――――側方移動
【答え】3
【解説】
咀嚼の問題は久々に出ました。以下に咀嚼筋についてまとめたいと思います。
①側頭筋は下顎を上方に挙上
②咬筋は下顎を前上方に挙上
③内側翼突筋は下顎を前上方に挙上
なお内側翼突筋は片方の活動で下顎を横にずらす(かみつぶし)
④外側翼突筋は2頭となっていて、上頭は閉口時のみ活動し、下顎頭が関節窩にもどってからわずかに上に引っ張る。それに対して下頭は開口時に下顎頭を前方に引っ張る
1.咬 筋――――下 制:× →挙上
2.顎二腹筋―――挙 上:× →下制
3.外側翼突筋――前 突:○ →下頭が下顎を前突
4.内側翼突筋――後 突:× →下顎を前上方に引く
5.オトガイ舌筋―側方移動:× 下制
→オトガイ舌筋は下顎中央に位置するので側方移動はありません。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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