第59回理学療法士国家試験 午後76−80の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(76) 前頭葉の損傷による高次脳機能障害で生じるのはどれか。2つ選べ。(59回午後76)
1.視覚失調
2.肢節運動失行
3.触覚失認
4.相貌失認
5.Broca失語
【答え】2・5
【解説】
高次脳機能障害の問題です。前頭葉には前頭連合野・運動野・ブローカ野などがあります。
また、前頭葉と頭頂葉にまたがる部分の情で肢節運動失行がみられます。肢節運動失行とは運動野と感覚野の間の障害で、 感覚と運動の統合ができなくなり、 細かい動きができなくなるものです。
1.視覚失調:×
→視覚失調とは少し聞き慣れない言葉です。視覚については「見えない」は視覚失認といいます。視覚失認は一次視覚野がある後頭葉の障害になります。
一方、視覚失調とは運動失調から想像できるように、対象を注視上に捉えているのにも関わらず上手くつかまえることができないことを言います。視覚失調はもっぱらバリント症候群という病気と合わせて覚えるようにしてください。
バリント症候群とは両側性の頭頂・後頭葉に障害がある場合に見られるもので、(1) 精神性注視麻痺・(2) 空間性注意障害・(3) 視覚性視覚失調がみられます。(1) 精神性注視麻痺とは、自発的に眼球を動かしたり、口頭命令によって動かしたりはできますが、一時に一つ、あるいは対象の一部分しか知覚できません。(2) 空間性注意障害とは、外界の右側に注意が向いて左側に呈示された刺激を無視する症状を言います。半側空間無視の症状ですね。(3) 視覚性視覚失調とは前述のように対象を注視上に捉えているのにも関わらず上手くつかまえることができないことです。
60回以降ではバリント症候群が視覚失調や半側空間無視と絡めて出題される可能性がかなり高いです。
2.肢節運動失行:○
→上記のように前頭葉と頭頂葉にまたがる部分の障害で、 感覚と運動の統合ができなくなり、 細かい動きができなくなるものです。
3.触覚失認:×
→触覚失認とは基本的感覚(触覚、痛覚、温度覚、深部知覚など)に障害がなく、素材もわかりますが、触ることでは物品を認知できない病態です。一次体性感覚野の障害ではなく、頭頂葉感覚連合野の障害です。
4.相貌失認:×
→右側頭葉の障害で相貌失認になります。
5.Broca失語:○
→言語中枢のブローカ野は前頭葉にあります。
(77) アポトーシスによる細胞の変化はどれか。(59回午後77)
1.核の融解
2.細胞の膨化
3.細胞内容の放出
4.散在性の細胞死
5.周囲の炎症反応
【答え】4
【解説】
アポトーシスとネクローシスの違いを問う問題です。
虚血などによって引き起こされる細胞死をネクローシス(壊死)といい、遺伝子によってあらかじめ計画された細胞死をアポトーシスといいます。
アポトーシスでは、細胞が四方八方に膨張して突起物を形成します(ブレッビング)。細胞質では細胞骨格の破壊が起き、核ではDNAの断片化と凝集が起こってクロマチンが濃縮されます。やがて細胞も断片化され、複数のアポトーシス小体が形成されます。最終的に、アポトーシス小体がマクロファージに貪食されることで、細胞は消失します。
ネクローシスでは、細胞膜の選択的透過性が破綻することにより細胞が丸く膨潤し、細胞膜は薄くなります。核やミトコンドリアなどの細胞小器官も膨潤し、最終的には細胞膜が破裂して細胞の内容物が飛散します。
1.核の融解:×
→アポトーシスでは核は濃縮されますが、融解はしません。ネクローシスでは融解します。
2.細胞の膨化:×
→ネクローシスでは細胞が膨化します。アポトーシスでは細胞が断片化します。
3.細胞内容の放出:×
→ネクローシスでは細胞膜は壊れて細胞内容が放出されます。アポトーシスは細胞は断片化され、最後にマクロファージによって貪食されます。
4.散在性の細胞死:○
→ネクローシスは虚血等によって細胞が壊死するため、細胞死はまとまって起こります。アポトーシスはたとえば好中球などで良く見られますが、虚血は関連しておらず、散在性に細胞死が起こります。
元々、Apoptosisの語源はギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(下降)」に由来していて、「(枯れ葉等が木から)落ちる」という意味を持っており、細胞が「離れて=散在性」に死を迎える事を意味しています。
5.周囲の炎症反応:×
→ネクローシスでは虚血性に細胞が壊死するため、周囲に炎症反応を惹起します。
(78) Duchenne型筋ジストロフィーで正しいのはどれか。(59回午後78)
1.幼少期に発症する
2.心筋障害はまれである
3.下肢に伸展拘縮をきたす
4.常染色体劣性遺伝である
5.筋形質膜にジストロフィン蛋白がみられる
【答え】1
【解説】
この問題は、国家試験当日に選択肢1の内容が「学童期に発症する」から「幼少期に発症する」に変更となりました。明らかに間違いの「学童期に発症する」という選択肢が変更となったので、どう考えても「幼少期に発症する」は正しい事になります。「幼少期に発症する」が間違いであれば、わざわざ選択肢を変更する必要がないからです。出題委員が試験前に選択肢に正解がない事に気がついたのでしょう。裏読みも必要ですね。
1.幼少期に発症する:○
→下に示したDuchenne型筋ジストロフィーの自然経過は絶対に暗記しましょう。最初あった学童期の学童とは小学校・中学校の時期の事です。幼稚園は学が入っていないので学童期にはあたります。よって学童期とは6〜12歳を示します。幼少期のはっきりとした定義はありませんが、学童期より以下の時期を指します。
Duchenne型筋ジストロフィーは3〜5歳の発症なので、「幼少期に発症する」は正しいとして良いです。
2.心筋障害はまれである:×
→筋ジストロフィー患者がなぜ亡くなるかですが、呼吸筋麻痺による呼吸不全や心筋障害による心不全が死因になる事が多いです。
3.下肢に伸展拘縮をきたす:×
→筋ジストロフィーは筋肉の異常により下肢に拘縮をきたします。
下肢については、股関節・膝関節は軽度屈曲位(屈曲拘縮)、足関節は伸展位(尖足で伸展拘縮)となります。したがって伸展拘縮ばかりではありません。
4.常染色体劣性遺伝である:×
→筋ジストロフィーの6型と遺伝形式は要暗記です。
(1) 伴性劣性遺伝タイプ (X遺伝子に異常→XX、XYの男だけ発症)
・Duchenne型は3〜5歳で発症→10歳で歩行困難→20歳で死亡
・Becker型は5〜15歳で発症 (becker型はDuchenne型の軽い版)
(2) 常染色体優性遺伝タイプ(男女差なし、男でも女でもなる)
・筋強直型
・顔面肩甲上腕型
(3) 常染色体劣性遺伝タイプ(男女差なし、男でも女でもなる)
・福山型
・肢帯型
5.筋形質膜にジストロフィン蛋白がみられる:×
→デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)では、ジストロフィンタンパが作られないのが原因です。
(79) 無意識の願望と思考を意識的に気付きから排除する防衛機制はどれか。(59回午後79)
1.昇華
2.統制
3.抑圧
4.抑制
5.歪曲
【答え】3
ただし解答速報では3社(リハアカデミー・ワニベゼミナール・三輪書店)ともに選択肢4(抑制)を正解としていました。私も4が正解だと思います。問題文にわざわざ「意識的に」と書いているので、抑圧ではなく、抑制を選ばせる問題だと思いますが…。 はっきり言って厚労省は間違っています。
以下の55回午前78では、正解なしとして不適切問題になりました【重要】。
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無意識の願望を意識的に気付きから排除する形での防衛機制はどれか。(55回午前78)
(※不適切問題 採点除外)
1.統制
2.抑圧
3.合理化
4.知性化
5.反動形成
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この問題で選択枝2の抑圧は間違いとなっています。抑圧は「無意識」で起こるものだからです。したがって、今回も問題も「抑圧」ではありません。意識的に起こるのは「抑制」なのです。
今回の出題は55回の間違いを取り戻すための出題だったと思います。出題者は「無意識」=「抑圧」をそのまま出題するのがしゃくだったので。「意識的」=「抑制」を問う問題にしたのでしょう。意図は良くわかりますが、厚労省の正解が「抑圧」というまたまた大コケになってしまいました。55回の問題で「抑圧」が正しくなくて、今回「抑圧」が正しいのなら矛盾しており、整合性がまったく取れていないです。
その内、正式解答が訂正になると思います。
これで1点足らずに不合格になった人がいれば、大問題になりますね。
抑圧・抑制については以下を参照ください。
【解説】
防衛機制の問題です。問題文からは「抑圧」と「抑制」で迷ったかもしれません。
1.昇華:×
→昇華とは社会的行動を、学問や芸術、スポーツなどの社会的行動に転換することです。(例)「嫌いな人(親)への反抗心から、勉強や仕事を頑張る。」
2.統制:×
→統制 (control)とは、周囲の人や環境などの出来事や対象を、過度に管理しようとすることを言います。自分が統制しないと、自身の内面的な脆弱性から身を守ることが出来ないという「誤った信念」を持っている為です。
3.抑圧:△(厚労省発表ではこれが正解となっていました)
→イヤなことがあったら、そのことをずっと引きずらないで、心の奥底に 一時的にしまい込んで意識に登らせないようにし、表面的には何事もな かったようにするとか、もう忘れたような状態にすることを、無意識のうちにやるのが抑圧です。意識的にやるのは抑制といいます。
4.抑制:△(厚労省発表ではこれは誤りとなっていましたが、解答速報の3社とものこれを正解としていました。私もこれが正解だと思います)。
→意識的に不安や不快を感じるような出来事などを考えないようにしたり、願っても叶いそうもないと思われることについて考えるのを避けたりすることです。
5.歪曲:×
→現実の出来事や情報を歪めたり、変形させたりすることで、不快な感情やストレスから逃れようとする方法です。
(80) Freudの発達論で6〜12歳ころはどれか。(59回午後80)
1.感覚運動期
2.形式的操作期
3.性器期
4.潜在期
5.前操作期
【答え】4
【解説】
58回午前79でFreudの発達論について出題がありましが、59回も連続して出題ですね…。もちろん初出です。フロイトと後に出てくるピアジェ…覚えるの大変です(^0^;)。
フロイトによるとリビドーの源泉となる身体の部位は口・肛門・性器が挙げられています。一定の時期に身体の特定の部位の感覚が敏感になることから、リビドーにも発達段階があると考え、敏感になる身体の部位に基づいて5つの発達段階が提唱されました。(保育プラス 精神分析学の創始者”フロイト”の発達理論ってどんなもの?より引用です
https://www.hoikuplus.com/post/usefulnurtureinfo/2430。)
【1】口唇期(0~1歳の乳児期)
お母さんのおっぱいを吸う、いわゆる授乳という愛情行為を通して性格が形成されると言われています。欲しい時に十分授乳をされるとおっとりとした性格になり、足りないと甘えん坊・依存的な性格になります。
【2】肛門期(1~3歳)
肛門期は、おむつが取れ、トイレトレーニングを開始する時期のことです。この時期は、快感を得る部位が口唇から肛門へと移動するため、欲求を排泄によって満たそうとします。この頃のしつけにより、人は我慢することや反抗することを覚えていきます。
【3】男根期(4~5歳)
男根期は、性に対する意識・識別をするようになる時期のことです。この時期に男女の違いにも興味を示すようになり、この時期に「男または女はこうあるべき」という扱いを受けると、それ以降の男らしさや女らしさの意識に影響します。
【4】潜伏期(小学生の時期)
この時期、リビドーは抑圧され表に出なくなり、その衝動は勉強やスポーツに向けられるようになります。
【5】性器期(12歳以降の青年期)
性器期とは心理的離乳、つまり心理的に自立する時期のことを指しています。ここでは、これまでの各段階で発達してきたリビドーが統合されます。また、この段階は青年期に始まり死ぬまで続きます。
以上のように、大まかに5つの段階について知っておくと良いと思います。
1.感覚運動期:× →ピアジェの0〜2歳
2.形式的操作期:× →ピアジェの11歳〜
3.性器期:× →12歳以降の青年期
4.潜在期:○ 小学生の時期
5.前操作期:× →ピアジェの2〜7歳
フロイト以外にピアジェの認知発達段階理論には以下のような段階があります。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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