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第60回理学療法士国家試験 午前11−15の解説

(11) Parkinson病患者30名に対してリズミカルな運動を導入した。導入1週後の歩行速度の変化について、統計処理を実施したところ、有意差 (p<0.05)を認めた。選択した統計処理で適切なのはどれか。(60回午前11)

1.Paired -t 検定
2.一元配置分散分析
3.Kruskal-Wallis検定
4.Mann-WhitneyのU検定
5.Wilcoxonの符号付き順位検定

                    【答え】1
【解説】
統計学の問題で、検定方法の選択は頻出問題です。これについては以下の投稿を参照してください。


まず、パラメトリック分析かノンパラメトリック分析かですが、対象とするパラメータ(データ)が歩行速度です。歩行速度は数値データですので、パラメトリック分析となります。対象となるパラメータ(データ)がMMTなどのようにカテゴリーデータである場合はノンパラメトリック分析となります。

パラメトリック分析のうち、運動前後のデータを比較しているので、検定方法は対応のある2群での検定となるため、Paired-t 検定となります。

1.Paired -t 検定:○
2.一元配置分散分析:×
 一元配置分散分析はパラメトリック分析のうち、3群以上の検定に用いられます。
3.Kruskal-Wallis検定:×
 Kruskal-Wallis検定は、ノンパラメトリック分析のうち、対応のない3群の検定に用いられます。

4.Mann-WhitneyのU検定:×
 Mann-WhitneyのU検定は、ノンパラメトリック分析のうち、対応のない2群の検定に用いられます。

5.Wilcoxonの符号付き順位検定:×
 Wilcoxonの符号付き順位検定(正確にはWilcoxonの符号付き順位検定)は、ノンパラメトリック分析のうち、対応のある2群の検定に用いられます。


(12) 70歳の女性。脳出血による右片麻痺。Brunnstrom法ステージ上肢IV、下肢IV。独居にて自宅で生活し、屋内は短下肢装具と杖を使用して歩行可能である。最近歩行時にふらつきを生じるなど転倒への不安が強まったことから、通所リハビリテーションを利用することとなった。通所時の転倒リスク評価で適切なのはどれか。(60回午前12)

1.TUG
2.NIHSS
3.UPDRS
4.modified Tardieu scale
5.Physiological cost index (PCI)

                    【答え】1
【解説】
問題文で必要なところは「転倒リスクの評価はどれか?」だけです。そして転倒リスクの評価=バランス検査です。バランス検査は54回以降毎年出題されていますので、よく勉強しておいてください。当サイトでも評価学で「バランス検査」としてまとめていますので、参照してください。

1.TUG:○
 TUG (Timed up and Go test)は肘掛のついた椅子にゆったりと腰かけた状態から立ち上がり、3mを心地よい早さで歩き、折り返してから再び深く着座するまでの様子を観察するものです。TUGテストでは方向転換や起立・着座能力まで評価できることが特徴。正常は10秒まで(数字も覚えよう)。

2.NIHSS: ×
 NIHSSは救急外来で脳卒中の重症度を評価するスケールです。

3.UPDRS:×
 UPDRSはUnified Parkinson’s disease rating scaleの略でパーキンソン病の総合的な指標です。PDの部分がParkinson's diseaseです。
4つのパートは覚えた方が良いみたいです
パート1は精神症状、
パート2はADL、
パート3は運動能力(の異常)→安静時振戦、固縮、姿勢反射障害など
パート1・2・3は0〜4の5段階
パート4: 合併症はあり・なしの2段
 

・パート2のADLはOnとOFFで計測する【国試ポイント】
・得点が高いほど重症です。(アップアップで溺れるイメージ)
・とても詳しいので計測には30分以上かかります
・パート4の話が大事(合併症の有無、服薬の効果判定

項目多く、ONとOFFで評価するので時間かかります 

4.modified Tardieu scale:×
 国試初出の指標です。Tardieu(タルディウ)は人の名前です。 (Modified Tardieu Scale(MTS)は,関節可動域と筋の反応の質を測定する痙縮評価指標で,測定肢位と筋の伸張速度が規定されている特長があります。61回で出題される可能性がありますので、覚えておいてください。
タルディウ→「たるんでいる」と読み替えて、「筋肉がたるんでいるか、縮んでいるか」→「痙縮の指標」として覚えたらどうでしょうか?

5.Physiological cost index (PCI)
  Physiological cost index (PCI)=歩行時心拍数―安静時心拍数)÷歩行速度 で表され、歩行による心拍数の増加の程度を評価しています。値が小さいほど運動効率が良いとされる簡易的な運動耐久性指標です。見慣れないかもしれませんが、49回午前46の選択肢で出題されています。


(13) 17歳の男子。2ヶ月前の体育の授業中に左膝の痛みに気付いたが、放置していた。最近は歩行時の痛みが出現したため病院を受診した。精査の結果、左大腿直筋の平滑筋肉腫と診断され、左大腿四頭筋の広範囲切除術が施行された。術後の左膝の可動域が屈曲120°、伸展-10°でMMTは屈曲4、伸展3であった。最も適切な補装具はどれか。(60回午前13)

1.車椅子
2.PTB式免荷装具
3.両側金属支柱付き膝装具
4.両側金属支柱付き短下肢装具
5.両側金属支柱付き長下肢装具

                    【答え】4
(参考)ワニベ:3 三輪書店:3 リハアカデミー:3
解答速報各社(3社とも3)と私の解答が異なっています。3点問題ですので、合否に大きく関わる場合もあるのでご注意ください。この問題に関しては厚労省の正式解答をお待ちください。

【解説】
膝関節のROMの正常値は屈曲130°、伸展0°です。術後の左膝の可動域が屈曲120°、伸展-10°ですから、伸展しようとしても10°屈曲位までしかできない状態です(すこし屈曲気味に可動域制限があります)。この状態では、たとえば歩行の立脚中期 (Mst)では股関節0°、膝関節5°、足関節5°なので、すこし立位姿勢に制限がかかると思われます。歩行のTsw時にも少し伸展制限かかかるかもしれませんが、歩幅が小さくなるなどの影響はわずかだと思われます。またMMTには屈曲・伸展に少し筋力低下がありそうです。ではこの状態で、必要な補装具とは何でしょうか?

考えられるのは、膝の伸展制限のため、歩行周期のIC〜LR・Tstの荷重時に膝折れしないかという事です(膝の伸展制限のため反跳膝にはなりません)。なので、膝折れを予防するような装具が求められます。

1.車椅子:×
 上記のように、関節可動域制限・筋力低下ともに軽度です。立位時にすこし、膝が屈曲位で伸展制限がかかり、膝屈曲位から足関節背屈位・股関節屈曲位・骨盤前傾となりますが、車椅子が必要な程ではありません。

2.PTB式免荷装具:×
 PTB免荷装具は膝蓋腱などで膝から上の荷重を受け止め、下腿を免荷する装具です。この患者では下腿を免荷する必要性はありません。

3.両側金属支柱付き膝装具:△
 金属支柱付き膝装具は十字靱帯損傷用のDON-JOY装具などが考えられます。下図の左、前十字靱帯損傷用は下腿が前にいかないようにする装具で膝の伸展を制限します。下図の右、後十字靱帯損傷用は下腿が後ろにいかないようにする装具で膝の屈曲制限をする装具です。

前述のように、この患者では、膝折れを制限する装具が求められますので、DON-JOY(後十字靱帯損傷用)は適応がありそうですが、最適でしょうか?患者はすでに伸展制限があります。この装具を用いると、膝の屈曲が制限され、設定角度以上は膝が曲げられなくなります。いわば膝が固まって棒状になってしまいますので、歩行周期のPsw (膝屈曲40°)〜Isw (膝屈曲60°)で膝屈曲ができなくなるので、歩行にかなり影響が出ると思います。したがって、他のメカニズムで膝折れを制限する方が良いと思われ、この選択肢は△としました。

4.両側金属支柱付き短下肢装具:○
 短下肢装具(AFO: Ankle [足首] Foot[足] Orthosis[装具])は膝から下とおおう装具です、主なAFOには下図のようなものがありますが、足関節部(足継手)に角度を調節できるような機構(クレンザック)を備えた、金属支柱付きAFOが一般的です。

そして、AFOは足継手部で足関節の背屈や底屈を制動します。

さらに重要な事は、AFOは足関節の背屈を制動する事で、隣接する膝関節の屈曲(膝折れ)を制動できるという事です。足関節が立脚期で接地している状態で足関節の背屈を制動すると、膝関節は大きく屈曲できなくなります。すなわち膝折れを防止できます。

なぜなに装具まとめ 第52回理学療法士国家試験解説PM-13 脳卒中と下肢装具の選択
https://nazenani-sougu.com/kokushi/pt52-pm13/ より引用

一方、足関節が接地していない場合は、膝関節を制動しません。したがって、遊脚期の膝関節の屈曲を妨げないのです。これって好都合ですよね?選択肢3のような両側金属支柱付き膝装具を使うと、立脚期も遊脚期も膝関節の屈曲を制限してしまいます。それよりも立脚期のみ制動し、膝折れを予防する方が良いでしょう。

5.両側金属支柱付き長下肢装具:×
 長下肢装具は本来.立位や歩行の体重支持,下肢の振り出しが困難な場合に用いられますが、この患者では股関節の機能低下は記載されていないので、股関節まで固める長下肢装具は不要です。


(14) 56歳の男性。伸張165cm、体重45kg。肺癌の外来化学療法の治療中であったが、1週前から息苦しさがあり、呼吸困難が増悪したため緊急入院した。精査の結果、両肺の癌性胸膜炎と診断され、胸部単純CTで両側胸水を認めた。意識は清明。心拍数 60/分、整。血圧 102/78 mmHg。呼吸数 20/分。SpO2 95% (room air)。痰の喀出量が多く、頻回に努力性の咳嗽が出現し、安静時でも呼吸困難を訴えている。理学療法の方針で適切なのはどれか。(60回午前14)

1.背臥位をとらせる
2.有酸素運動を行う 
3,理学療法は中止する
4.ハフィングを指導する
5.口すぼめ呼吸を指導する

                    【答え】4
【解説】
1.背臥位をとらせる:×
 患者は頻回に努力性の咳嗽が出現し、安静時でも呼吸困難を訴えています。一般に背臥位では、背側の肺が内臓に圧迫されやすく、換気が不十分になりやすいです。この患者のように呼吸苦がある場合は、座位や半座位(セミファウラー位)とした方が楽な呼吸になると思われます。

2.有酸素運動を行う :× →有酸素運動とは、100m走のような無酸素で運動するのではなく、ジョギングやウォーキング、サイクリングなど酸素を十分吸いながら運動する事で心拍数を上げ、持久力を向上させる効果があります。この患者では安静でも呼吸苦があるので、有酸素運動でも難しいと思われます。

3,理学療法は中止する:× →心拍数・血圧に異常なく、呼吸数の20/分で頻呼吸ではありません。SpO2も95%と低くないので理学療法を中止する必要はありません。

4.ハフィングを指導する:○ →ハフィングは排痰を促す方法です。

5.口すぼめ呼吸を指導する:× →口すぼめ呼吸はCOPD患者に対して行う理学療法です。


(15) 64歳の男性。バイク走行中に転倒し、救命救急センターへ搬入された。救急外来到着時の頚椎単純CTを別に示す。頚椎脱臼骨折と診断され、同日手術が施行された。術後、四肢麻痺と肛門周囲の感覚脱失を認め、Zanxolliの四肢麻痺上肢機能分類C6B1完全麻痺の頸髄損傷と診断された。目標として設定する動作で最も適切なのはどれか。(60回午前15)

1.起き上がり動作
2.屋内平地での車椅子駆動 
3,電動車椅子を用いた移動
4.側方アプローチの移乗動作
5.床から車椅子への移乗動作

                    【答え】1
(参考)ワニベ:1 三輪書店:1 リハアカデミー:2
【解説】
問題文には「目標として設定する動作」と書かれており、「実際にできる動作」ではない事に注意してください。

1.起き上がり動作:○
 →Push Upによる起き上がりは、C6で可能です。58回午前11でも出題されたように、Push Upができるレベルは厳密にはC6BIIです。この患者の機能残像レベルはC6B1と示されており、Push Upができない可能性もありますが、目標として設定する事に誤りはありません。

2.屋内平地での車椅子駆動:×
→C5残存では肘屈曲ができます。手首に力は入りませんが、ノブ付きハンドリムがある車椅子なら肘を引っかけて平地なら自力駆動も可能です。


3,電動車椅子を用いた移動
→C5残存では肘屈曲ができます。手首に力は入りませんが、ジョイスティックは操作可能です。またチンコントロールならC4残存でも操作可能です。

4.側方アプローチの移乗動作:× →側方アプローチによる移乗動作には膝伸展が必要であるためC7残存が必要です。

5.床から車椅子への移乗動作:× →床から車椅子への移乗動作は、肘伸展に加えて車椅子の把持が必要になるためC8残存が必要です。

Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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