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第60回理学療法士国家試験 午前16−20の解説

(16) 70歳の男性。COVID-19による肺炎で入院し、マスクで酸素10L/分を投与している。PaO2は背臥位では60mmHgであったのに対して、腹臥位では100mmHgに改善した。PaO2の改善に最も大きく影響した要因はどれか。(60回午前16)

1.肺拡散能
2.換気血流比
3.解剖学的死腔
4.肺動静脈奇形
5.吸入気酸素濃度

                    【答え】2
【解説】
呼吸生理の問題で、腹臥位と背臥位での違いについて問われています。

背臥位と腹臥位の違いを考える前に、肺内の換気量が場所によって違う事に注意してください。下図左のように腹腔内において肝臓は腹側では薄く背側では厚くなっています。その結果、背側では横隔膜が肝臓によって圧迫され、背側肺では腹側にくらべて換気量が少なくなってしまいます。

次に背臥位と腹臥位での違いについて説明します。一般に血液は重いため、背臥位や腹臥位になると、重力にしたがって、下側の血流が多く、上側の血流が少なくなります。

その結果、下図左の背臥位では、青で示す腹側の換気が多いですが、血液は重力にしたがって下側に多く分布するため、背中側の血流が多くなります。このため、換気が多いところと、血流が多いところが別々になるため、肺胞でのガス交換の効率が悪くなります。このような状態を換気血流比のバランスが悪いといいます(正常では0.8)。

ここで、腹臥位とすると、換気が多い腹側が下になるので、図右では下側の赤い部分の換気が多く、それと同時に血流も赤い部分が多くなり、換気と血流のバランスが良くなり、肺胞でのガス交換の効率が良くなります。

問題で背臥位でPaO2が低かった患者を腹臥位にするとPaO2が改善したというのはこのような事が起こっていたと考えられます。

1.肺拡散能:×背臥位と腹臥位で変わりません。
2.換気血流比:○腹臥位で換気血流比が改善します。
3.解剖学的死腔:×背臥位と腹臥位で変わりません。
4.肺動静脈奇形:×背臥位と腹臥位で影響に変わりません。
5.吸入気酸素濃度×背臥位と腹臥位で変わりません。

(17) 75歳の男性。右変形性股関節症で歩行時に疼痛の訴えがあった。歩行時床反力の垂直成分(両側)を図に示す。右大腿直筋が活動する期はどれか。(60回午前17)

1.①:○
2.②
3.③
4.④
5.⑤:△

           【答え】1と5(不適切問題)
【解説】
歩行周期のうち、床反力成分が出題されました。床反力なので、立脚期しか反力は発生しません。

床反力の垂直成分は2峰性の山を描きます。
(1) 最初の山はICで衝撃吸収するとき
(2) 2番目の山はPswで下腿三頭筋を用いてPush Offするとき
 「それぞれ体重(100%)以上に床反力がかかる」というのが特徴です。

問題では、左足の床反力は100%以上となっていますが、右足の床反力は痛みのためか100%以下になっていますね。

さて、大腿直筋の活動ですが、大腿直筋はIC〜LRで衝撃吸収のため、遠心性に収縮します。それに対して、Push Offの際はほとんど活動しません。

下図は下腿三頭筋と大腿四頭筋の歩行周期における活動を示しています。

下腿三頭筋はPush Off時に最大活動するというのは国試で頻出です(遊脚相で活動がないのは下腿三頭筋なのも特徴です)。それに対して大腿四頭筋は2峰性の活動パターンを示します。ICで衝撃吸収する際の活動が最大ですが、立脚期から遊脚期に変わるIswで股関節屈曲の補助としても活動します。

問題文で「最も活動する期」ならば①となりますが、「活動する期」というのであれば①と⑤となります。したがってこの問題は不適切問題だと思われます。


(18) 55歳の男性。1ヶ月前に急性心筋梗塞で入院し、経皮的冠動脈形成術を受けた。退院後に在宅において実施する全身持久力運動で正しいのはどれか。(60回午前18)

1.運動頻度は週2回以内とする
2.1回10分以下の運動を勧める
3.Borg指数11〜13の運動を勧める
4.拡張期血圧120mmHgでは運動が可能である
5.運動強度は最高酸素摂取量の10〜20%で実施する

                    【答え】3
【解説】
心臓リハの基本をまとめました。

またリハの中止基準も合わせて覚えてください【超重要】(臨床に出ても必須です)

1.運動頻度は週2回以内とする:×
 →運動の頻度は週3〜5回とします。

2.1回10分以下の運動を勧める:×
 →一回の運動は30〜60分とします。

3.Borg指数11〜13の運動を勧める:○ →運動療法を行う場合、運動強度を自覚的指標であるBorgスケールを用いる場合、「ややきつい」強度で行います。Borg指数では13、修正Borgスケールでは4が「ややきつい」となります。

修正BorgではBorgのBを1と3 (1+3=4)に分解しましょう

4.拡張期血圧120mmHgでは運動が可能である:×
 →安静時拡張期血圧が120mmHg以上では、積極的なリハビリは行いません。

5.運動強度は最高酸素摂取量の10〜20%で実施する:×
 →最高酸素摂取量を運動強度決定に用いる場合、最高酸素摂取量の50%の運動強度を用います。この運動強度はAT (嫌気性代謝閾値)での運動強度と近似していると言われています。


(19) 関節可動域測定法(日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会基準 1995年)を図に示す。正しいのはどれか。(60回午前19)

                    【答え】4
【解説】
1.×→基本軸は両側の肩峰を結ぶ線です

2.×→問題では掌が上になっていますが、掌は下(2014年版)もしくは前(2022年版)です。

→肩関節水平内転・外転では基本は「気をつけ(掌が下)」。過去の出
題はほとんど掌が下で出題され、基本軸について問われている。
ただし、2022年版では掌が前でもOK。

3.×→股関節伸展では膝は伸展位、屈曲では膝は屈曲位で行います。

4.○正しいです

5.×→膝関節は屈曲位で行います


(20) 75歳の女性。右大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術が施行され、入院中である。現在T字杖を用いて50m以上歩行可能で、階段昇降は4段まで可能である。その他のADLはすべて自立している。FIM運動項目の得点はどれか。(60回午前20)

1.83点
2.85点 
3,87点
4.89点
5.91点

                 【答え】答えなし
(参考)ワニベ:解なし 三輪書店:解なし リハアカデミー:2
歩行6点、階段5点とすると91-3=88点となります。介助量が75%以下とすると階段2点 (-5点)で91-6=85点m介助量が75%以上とすると階段1点 (-6点)で91-7=84点となります。

【解説】
FIMの運動項目は13項目あり、各1〜7点なので、満点は13×7=91点です。

歩行に関しては、50m歩けますが、T字杖を用いているので、補装具が必要ということで修正自立 6点 (-1点)となります。

また階段昇降については4段まで可能と書かれていますが、介助がなく自立しているのか、介助が必要か書かれていません。なので評定が不可能です(不適切問題)。
介助がなく自立しているとすると5点 (-2点)となります。


Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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