第58回理学療法士国家試験 午前56-60の解説
息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。
56.肺の構造で正しいのはどれか。(58回午前56)
1.左肺には3本に葉気管支がある
2.1本の葉気管支は6本の区域気管支に分かれる
3.左肺には12本の区域気管支がある
4.細気管支は軟骨を欠く
5.左右の肺には約5,000万個の肺胞が存在する
【答え】4
【解説】
呼吸の解剖の基本問題です。1,2,3はすぐに間違いだとわかりますね。あと5はわかりませんが、4が正解かどうか、わかるかどうかです。
1.左肺には3本に葉気管支がある:×
右肺は上葉・中葉・下葉の3葉で、左肺は上葉・下葉の2葉ですので、葉気管支は2本という事になります。
2.1本の葉気管支は6本の区域気管支に分かれる:×
上記のように、右肺では上葉・中葉・下葉、左肺では上葉・下葉の末梢に肺区域が分岐します。
右肺では上葉にS1、S2、S3(1本の葉気管支から3本の区域気管支)
中葉にS4、S5 (1本の葉気管支から2本の区域気管支)
下葉にS6、S7、S7、S8、S9、S10
(1本の葉気管支から5本の区域気管支)
があり計10個の区域があります。
左肺では上葉にS1+2、S3、S4、S5
(1本の葉気管支から4本の区域気管支)
下葉にS6、S8、S9、S10
(1本の葉気管支から4本の区域気管支)
の計8個の区域があります。
左肺の特徴ですが上肺のS1とS2が一緒になって、S1+2になっている事と
心臓があるためS7が欠損している事です。
3.左肺には12本の区域気管支がある
選択肢2の解説から、左肺には8本の区域気管支があります。
4.細気管支は軟骨を欠く:○
これは国試頻出の呼吸器解剖では最重要ポイントですよね。葉気管支から分岐する区域気管支までは軟骨があり、表面には線毛上皮細胞があります。その先の細気管支では細いので軟骨を欠きます。また終末気管支表面にはクララ細胞があります。
イメージの付け方ですが、細気管支には終末細気管支とか呼吸細気管支があります。呼吸細気管支は肺胞がついている細気管支ですから、本当に細くなっているところです。なのでこのようなところには軟骨はありません。したがって細気管支には軟骨がないんだとイメージ付けしてほしいです。
逆に区域気管支に軟骨がないと、ふにゃふにゃになってしまって肺の構造が保てないでしょ?と考えてください。
呼吸器解剖のポイントを下にまとめました。
5.左右の肺には約5,000万個の肺胞が存在する:×
このような数字は覚える必要がありません。この問題の要点は4を知っているかどうかが問われています。そのために、○か×がわからない選択肢を5に入れているのです。試験委員の意地の悪さが出てますね…。
調べると、一般的には左右の肺胞に3〜6億の肺胞が存在しているそうです。
57.腎臓から分泌されるホルモンはどれか。2つ選べ。(58回午前57)
1.レニン
2.メラトニン
3.カルシトニン
4.バゾプレシン
5.エリスロポエチン
【答え】1,5
【解説】
腎臓にホルモンが関連するのは1.レニンーアンギオテンシンーアルドステロン (RAA系)、2.エリスロポエチン、3活性化ビタミンDについて押さえれば良いと思います。
1.レニン:○
2.メラトニン:×
松果体から分泌されるホルモンで、体内時計に働きかけることで、覚醒と睡眠を切り替えて、自然な眠りを誘う作用があり、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。
3.カルシトニン:×
甲状腺から分泌するホルモンで、血中のカルシウム濃度を下げる効果があります。
4.バゾプレシン:×
下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモンと呼ばれるホルモンです。下垂体後葉と言えば、視床下部の細胞で産生され、下垂体後葉から神経分泌されるのが重要です。Vaso-は血管という意味でpressinはpress (圧迫する)という意味から血圧を上げる効果があります。
以下はバゾプレシンについてのQ&Aです。
・どこに働く?-------------集合管
・何を再吸収?---------------水
・血圧は?---------------------上昇
・浸透圧は?-------------------低下
・静脈還流量は-----------------増える
・心拍出量は-------------------増える
・血中の血液量が増加するとVPの分泌量は--------低下
・血圧が低下するとVPの分泌は------------------増加
5.エリスロポエチン:○
その他、以下のように腎臓はビタミンDの活性化を介してカルシウム代謝に関係しています。
58.眼球で誤っているのはどれか。(58回午前58)
1.視細胞には錐体と桿体とがある
2.視神経乳頭は黄斑より内側にある
3.錐体は中心窩にある
4.前眼房は眼房水で満たされている
5.毛様体は瞳孔の大きさを調節する
【答え】5
【解説】
1.視細胞には錐体と桿体とがある:○
杆体細胞は明暗の受容器で、網膜全体に分布します。
錐体細胞は色の受容器で、黄斑部(中心窩部)に集中して存在します。
杆体細胞と錐体細胞のどちらが明暗でどちらが色覚か覚えにくい場合は、錐体はピラミッド状のプリズムと考えると、光が錐体で屈折して色が分かれると考えると、錐体細胞=色覚と覚える事ができます。また下図右のように、黄斑部(中心窩)にピラミッドがあるとイラストでイメージすると、黄斑部(中心窩部)に多いのは錐体細胞だと覚えられるのではないでしょうか?
2.視神経乳頭は黄斑より内側にある:○
視神経乳頭は視神経につながるため、中心にある黄斑より内側(鼻側)に存在しています。
3.錐体は中心窩にある:○
中心窩には錐体細胞のみが存在し、杆体細胞はほとんど存在しません。
4.前眼房は眼房水で満たされている:○
5.毛様体は瞳孔の大きさを調節する:×
瞳孔の大きさを調節しているのは虹彩です。 毛様体は水晶体の厚さを調節しています。毛様体筋の働きが少しわかりにくいかもしれません。毛様体筋は円形となっていますが、筋繊維は中心から放射状になっているのではなく、円形に筋繊維が走行しています。 このため、毛様体筋が収縮すると円形部分が小さくなる結果、水晶体が厚くなり、ピントが近くなります(近くが見やすくなります)。一方、毛様体筋が弛緩すると円形部分が大きくなる結果、水晶体が薄くなり、ピントが遠くなります(遠くが見えやすくなります)。 この事を理解しているかどうか、国試でよく問われています。
59.皮下組織の直下に筋腹を触知できる筋はどれか。(58回午前59)
1.棘上筋
2.深指屈筋
3.方形回内筋
4.中間広筋
5.後脛骨筋
【答え】2
【解説】
1.棘上筋:×
棘上筋は僧帽筋の深層にあるので、皮下組織の直下には触知できません。
2.深指屈筋:○
下図において前腕の断面を見ると、深指屈筋は前腕回内位で尺骨の内側において皮膚直下に筋腹を触れることができます。
触診方法ですが、前腕回内位で前腕中央部の内側で尺骨を触れた状態で、指のDIP関節の屈曲をすると収縮する筋腹を触れる事ができます。
3.方形回内筋:×
方形回内筋は前腕手関節近位部の最も深層に位置するので皮下組織の直下には触知できません。
方形回内筋は正中神経支配ですが、正中神経は下図のように肘より少し遠位部で深部に向かう前骨間神経を出します。この前骨間神経は①方形回内筋、②長母指屈筋、③深指屈筋の3つの深部筋を支配します。コンパートメント症候群などで前骨間神経麻痺をきたすと、②長母指屈筋麻痺で母指のIP屈曲ができなくなると同時に、③第2・第3指の深指屈筋麻痺で示指のDIP関節の屈曲ができなくなり、涙のしずくサインが陽性となります。
正常では母指と示指でOKサイン(perfect Oサイン)ができますが、前骨間神経麻痺ではOKサインができません(涙のしずくサイン)。
4.中間広筋
中間広筋は大腿四頭筋の一つで、その前には大腿直筋があるので、皮下組織の直下には触知できません。
5.後脛骨筋
後脛骨筋は内反・底屈(いわゆる内がえし)の作用がある筋です。下腿後面の最も深層に位置していて、下図のように脛骨と腓骨とその間の下腿骨間膜に起始しています(脛骨と腓骨の両方に付着しているという点で過去に出題されています)。
後脛骨筋の筋腹は深層なので触知できませんが、腱については脛骨内果の後方、屈筋支帯の後上方に触れる事ができます。
60.腸骨稜に付着する筋はどれか。(58回午前60)
1.広背筋
2.小殿筋
3.僧帽筋
4.多裂筋
5.大腰筋
【答え】1
【解説】
運動学の起始停止の問題ですね。骨盤外側への筋付着は事前に勉強していました。とくに
上前腸骨棘には①大腿筋膜張筋(外側)と縫工筋(内側)
下前腸骨棘には大腿直筋
が起始する事は覚えておいた方が良いと思います。
1.広背筋:○
広背筋は以下のように起始が4つあるので、注意してください。仙骨から腸骨稜の浅層にも付着しています。
2.小殿筋:×
骨盤外側のイラストでわかるように、小殿筋は中殿筋の下にあるので、腸骨稜にはかかりません。これが中殿筋になると、一部が付着する可能性があるので△となります。小殿筋では確実に×ですね。
3.僧帽筋:×
図のように僧帽筋は腸骨稜には停止しません。
4.多裂筋:×
多列筋は脊柱起立筋(棘筋・最長筋・腸肋筋)の深層にあります。
《起始》仙骨後面、上戸腸骨棘、全腰椎乳様突起、副突起、胸椎横突起、頚椎4~7関節突起
《停止》2~4椎骨上の棘突起に付着となっています。
腸骨稜の深層には腰方形筋が付着していますね。国試的には腰方形筋は上方で12肋骨だけにしか付着しないので、側屈だけで回旋しないのもポイントです。
5.大腰筋:×
大腰筋と腸骨筋は二つ併せて腸腰筋といわれ、股関節屈曲作用があります。ともに大腿骨の前から骨頭の下を回って後面で小転子に付着します。
大腰筋の起始は腰椎肋骨突起になります。腸骨筋は腸骨内側面が起始になりますが、一部腸骨稜にかかっている可能性があります。腸骨筋なら△ですが、大腰筋なら確実に×です。
R5.09.24 5.大腰筋の解説2行目「後面で小結節」→「後面で小転子」に訂正しました。(はつきさん、ご指摘ありがとうございました)
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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