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誉れを忘れるでないぞ

 何かを学ぶ時にアカデミックな視点を持つことができない。これは僕の大きな欠点であり、また大きな長所だと思っている。だから研究者とか大学教授みたいなお仕事にまったく適性がない。学生時代はそういう分野に憧れたけれど、僕は現場で泥臭い仕事をするのが向いている気がする。泥水をごくごく飲んで「このミネラルウォーター美味しい!」と言い続けてきた弊害かもしれない(あまりにも殴られすぎて歪んだのかも)
 子供の頃から設計図をじっくり考えるよりも、まずノコギリで木を切るのが大好きな子供だったし、プラモデルの説明書をじっくり読んでから作るよりも、作りながら説明書読んで行けばいいや派だったので、座学ではイメージというか全体像を掴むことができない(そのせいで道具が足りなくて、着手してから買いに行ったりするし、思いつきで出かけて何度か死にそうになったりした)


 要点整理と要約がすごく苦手だし、プランニングとかガントチャートを作るのが面倒くさくて仕方ない。そういうのが得意なきらきら星人を見るとすごいなあと純粋な気持ちで尊敬をしてしまうし「僕はきらきら星人たちがフリーハンドで戦える場を作ろう。礎となろう」と常々思って仕事をしている。逆に死体になって、きらきら星人の足を引っ張っているかもしれない。ごめんなさい。せめて弾除け(タゲ集)して散るから許してほしい。

 自分の生活にリンクしている分野は学ぶのが楽しい。何かを学ぶ時にこれは○○の想定で使えると思う分野ほど勉強が進む。お金が儲かると思うと露骨にテンションが高くなってしまうあたり、僕は生まれつきの養分気質なのかもしれない。だから「誉れ」を求められる分野はとても難しいし、なかなか記憶が定着しない。
 罰則規定や、知らずに手を付けると即死ペナルティがあったりする分野だと、ある程度記憶できるのだけど(即死案件はすぐ覚える)「誉れ」的な倫理観を求められる分野(特に重たい罰則規定がない分野)になると、もう本当にどうしていいのかわからなくなってしまう。努力目標みたいな、ふわっとしたものを遵守できる人はすごいなあと思う。僕は損得で物事を判断する打算的な人間なので、全体的に損が出ない選択肢ならそれでいいじゃん、最終的に収益が出ていればよくない?辻褄が合っていればOKじゃない?みたいな考えをしてしまう。ハピハピ。本当にそういう考え方は誉れが高くないからよくない。
 だから「そういう考え方はだめだよ」みたいな注意換気程度で済む分野になるとものすごく苦労をする。いいじゃん誰も損してないし、みんな幸せならOKじゃんみたいな考え方は結構法的にグレーな場合が多い。

 それでも監査に関わっている以上は覚えなきゃいけないことが多数あるので、色々と詰め込みをするのだけど、脳みそというのはすごく正直で、興味のないことを覚えてくれない。人間の脳みそというのは否定的な命令を覚えるようにできていない。だけど、どうにかして記憶しないと仕事にならないので次のように頑張る。

 まず脳内の仮想環境に志村殿を作る。
※志村殿は『ゴーストオブツシマ』の誉れ高いお侍さまです。ここのディテールがものすごく大切なので、志村殿を頑張って構築してください。

 
そして仮想環境に構築した志村殿に問いかけをする。「これは誉れがない行為なのか?」と。「誉れを忘れるでないぞ」と志村殿から指摘が入ったらだめだ。その解答は間違っている。たぶん、お医者さんの国家試験で『禁忌肢』を回避して解答を探していく感覚に近いものがあると思う(違っていたらごめんなさい。僕の知ってるお医者さんはみんな人間的に善人で「誉れ」が高い人たちです)

 ただ、僕の仮想環境にある志村殿は誉れのない行為を指摘することしかできないので、誉れ高い解答をずらっと並べられ問われるとすごく困ってしまう。誉れ高いけれど間違っているものがある。異なる工業規格の部品を並べて、この中で何かおかしなものある?と問われる感覚に近い(インチネジの中に一本だけミリネジが混入しているのを探すことに似てる)
 末端の人間とはいえ、監査法人の人たちに「わかりません」と言うと、やっぱりそれなりにまずいので(たぶん怒られると思うし、僕の人事評価がものすごく下がるだろう)一生懸命頑張っているフリをしながら、うーんと唸りながらなんかヒントないかと考える。ものすごく一生懸命考える。誉れ誉れマジ誉れ。誉れを忘れるでないぞ。
 この数ヶ月これまでの人生で一番誉れについて考えたし、仮想環境に構築した志村殿が誉れ度判定をしてくれたおかげで今期の監査を無事に終えることができた。でも、来年大丈夫なのかな。どうしたら誉れ高くなれるんでしょうか。僕も誉れ高くなりたい。誉れを忘れるでないぞ。

誉れは社会で死にました。

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