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カリスマ

 10年前のことになるけれど、僕が外勤職だった頃、担当していた会社が倒産した。倒産のきっかけは社長が出張中に没したからである。アレキサンダー大王みたいな没し方だったことをいまでも覚えている。
 社長は絶大なカリスマ性を持っていて、さらに技術者として優れた才能があった。
 外勤職時代、アル中の上司から「社長は幾つかの特許持っていて、それをうまく事業に活用して、利益へと繋げているんだ」と言っていた。アル中の上司の言葉がどれだけ本当だったのか、いまとなっては検証もできないけど、社長は自分が研究開発をするためだけの会社を持っていて、そこに足を運ぶとすごく難しい話をしてくれた記憶がある。
 ケーキを食べたりしながら、社長が難しい話をしてそれなりに物を購入してくれるので会社に行くのは楽しかった。社長が僕にしてくれた話は専門的過ぎてぜんぜん理解できなかったけれど。
 でも、かなり画期的な技術を研究開発していたことだけはわかった。社長がしてくれた話は難しすぎてケーキうめえなあぐらいしか考えていなかったんです。すみません。社長。理屈が難しすぎてわからなかったんです。謝っておきたい。もしあの世があったら本気で謝ります。
 そんな社長のカリスマ性と技術力で癖のある人間をまとめあげていたのだけど、社長は後継者を明確に定めていなかったうえに「才能がある人間が社長になればいい」的なことを言っていたので、社長が没すると同時に壮絶な内ゲバが起こって、マケドニアやユーゴスラビアのように会社は内側から崩壊した。悲しい。故人のカリスマ性に依存して集団をまとめあげると大きな破滅が到来する。
 特許は散り散りになってしまった。その後どうなったのかずっと不明なままだったけれど、つい先日、内ゲバをやっていた当時のナンバー2の人がひょっこりと会社を立ち上げていたので、何かしら受け継がれていく意思とかそういうものはあるのかもしれない。受け継がれる意思が良いものなのかわからんけど。デラーズ・フリートみたいになってないといいね。
 このnoteを読んでいる人に一定規模以上の会社を経営している人はたぶんいないと思うけれど、そういう会社を経営している人はちゃんと後継者を決めておいてほしい。そうした騒動に巻き込まれた僕からの切実なお願いだ。うちは大丈夫だからという人の会社ほど燃えて、最後には憎しみだけが残る醜い地獄が生まれる。「最強の者が跡継ぎになれ」的なマインドは20世紀で卒業しておくれ。

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