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サプライズバースディパーティ(SBP)(戯曲)

 舞台のあちこちが飾り付けられており、テーブルの上にはケーキも置いてある。
 男の子(12歳以下)はキラキラした三角の帽子を被っており、号泣している。
 近くで、眼鏡を掛けた成人男性が、困りつつも男の子を泣き止ませようとしている。

子:ううう・・・ううううううう

成:タケル。なあ・・・泣いてちゃ分からないだろう?

子:ううううう

成:いつまで泣くんだ?ん?

子:ううううう

成:男の子だろう?いつまでも泣いてたら、恥ずかしいぞ

子:み、みみみ、皆・・・ぼ、僕のことなんて、どうだっていいんだ

成:どーうしてそんなこと言うんだ・・・この飾り付けだって、とっても頑張ったんだぞ

子:そんなのどうだっていいよ

成:どうだっていいとはなんだ。どうだっていいとは

子:もうほっといてよ。もう、皆、皆僕のこと嫌いなんだよ。どうだっていいんだよきっと

 男の子は、地面を転がりながら号泣をする。

成:おいタケル。いい加減にしないとそろそろ怒るぞ!どうしてそんな風に思うんだ。皆、お前のことを大切に思ってるに決まってるだろう

子:うそだよ!

成:うそじゃない

子:じゃあなんで!僕の誕生日会に!知らないおじさん1人しか!来ないんだ!

 男の子は成人男性をにらみつける。

成:・・・なあ、タケル

子:初対面で呼び捨てにすんな!

成:・・・大竹さん

子:なんで、なんで僕は誕生日に知らないおじさんに苗字で呼ばれなくちゃならないんだ。うおおおおおお!

 男の子は帽子を放り投げ、号泣している。

成:あの、タケル、君・・・あのね

子:なに

成:これにはね、事情があるんだよ

子:事情?僕がこんなひどい誕生日を過ごしていることにどんな事情があるというの?

成:・・・おじさんね、仕事を探していたら、ある男の人から2万円渡されてね。この時間にここに来るように言われたんだ。だから、おじさんはここにいるんだよ

子:それはおじさんがここにいる理由でしょお!

成:そうだね

子:他に何か聞いてはいないの?

成:何も聞いてないよ

子:なんだ・・・何も知らないのか

成:そうだよ。おじさんはね、何も知らずにノコノコとここに来たんだ。でもね、おじさんは怖くないよ。おじさん、お金をもらってよく分からないことをするのにはもう慣れてしまっていて、恐怖を感じなくなってきたんだ

子:こわあ

成:むしろね、余計なことを聞いてしまったときの方が、怖いものなんだよ

子:こ、こわい

 少しの間泣き止んでいた男の子であるが、成人男性の発言に恐怖を感じて再び泣きじゃくる。

成:と、まあ、冗談はこれくらいにしてね

子:え?

成:本当に、まさか誕生日に来るのが知らないおじさん1人だと思ったのかな?

子:お、思った

成:やっぱガキはガキだな。実は、特別ゲスト呼んでます

子:こちらからするとおじさんの存在こそ良い悪いは別にして特別ゲスト感があるのだけど

成:うれしくない?

子:ううん。うれしい。早く呼んで!

成:どうぞー

 成人男性の合図で、知らないおじさんが入って来る。

お:どうも

子:知らないおじさんが増えた

成:知らないとは失敬な。友達だよ、おじさんの

子:それは知らないおじさんと称して構わないと思うけど

成:よっ。久しぶり

お:え・・・・・・あ・・・ども

子:やっぱり知らないおじさんじゃないか!

 知らないおじさんは小さな声で呟く。

お:初対面で・・・おじさんとか言うか?言わねえよな。言わねえわ普通

 怖い沈黙

子:誕生日に子供が経験して良いストレス場面ではないんだけど

 男の子は、これまでと比べると静かめにしくしく泣き出す。

成:ああ・・・もう。せっかく泣き止みそうだったのに。ちょっとあなた、子供に対して厳しすぎるんじゃないですか

お:不器用なんで

成:え?

お:自分、不器用なんで

 知らないおじさんはその場に座り込み、目を閉じてお経を唱え始める。

成:えー、これでもやっぱ2万円もらってんのかなあ

 男の子が突如として泣き止む。

子:プレゼント

成:え?

子:プレゼントはないの?プレゼント。プレゼントさえあれば、いろいろと水に流せるというか、取りあえず一応は気持ちが楽になるというか

成:ははあ、終わり良ければ全て良しみたいな感じかな

子:まあ、そうかな

成:プレゼントか、プレゼントプレゼント・・・

 成人男性は、ポケットからメモを取り出して確認する。

成:あ、プレゼントの前に歌の時間だ

子:歌?

成:そうそう・・・えっと、担当がね・・・小室さん?小室さんって人らしいけど

お:自分です

成:あ、小室さん

お:歌います

 知らないおじさんは、近くにあったピアノを使って弾き語りを始める。
 陰鬱な曲調である。

お:(以下歌詞)

誕生日おめでとう

歳だけが

変われない俺を置いて変わっていく

代わり映えしない毎日

息を殺し続ける毎日

歳だけが変わっていく

誰から奪ったものなのか

与えてくれと頼んだか

誕生日おめでとう

誕生日おめでとう

誕生日おめでとう

 弾き語りを終えたおじさんは、客席に向かって一礼して舞台を去っていく。

 男の子と成人男性は少しの間ぼうっとしているが、何事もなかったかのように会話を続ける。

成:次は、プレゼントだね

子:やった。いよいよ

成:えっとね

 成人男性はソファの後ろからプレゼントを取り出す。

 かわいくてポップな包装紙に包まれ、リボンも巻かれているが、確実に仏像である。

子:こ、これは、確実に仏像じゃないのかしら

成:それは開けてみるまで分からないんじゃない?

子:いや、顔の凹凸から手の角度までしっかり袋越しに伝わってくるというか。というか、包装紙ギュってしすぎじゃないかなあ

成:えっと・・・どうする?開ける?

子:えっと・・・じゃあ、一応

 包装紙を破ると仏像が出て来る。

 成人男性と男の子が仏像を見ていると、先ほどの知らないおじさんが戻って来る。

お:え、なんで勝手に開けてんの。マジ意味分かんな

 知らないおじさんは小さな声で文句を言って、仏像を持って走り去っていく。

成:もしかしてあれ、テツヤさんのだったのかな

子:テツヤさんじゃなくて、小室さんでしょ

成:いや、テツヤさんらしいよ(メモを確認しながら答える)

子:・・・・・・まあそれはどうでもいいけど。じゃあ、本物のプレゼントはどこにあるわけ

成:おかしいな・・・えーと、ソファの横って・・・あ、え、ソファの中って書いてある

子:中?

成:中ってねえ・・・あー、これ、サプライズなんだね。これが今日のフィナーレみたいだよ

子:僕からすると、終始サプライズなんだけど

成:でも、中?・・・中?中って?

 成人男性は、ソファを探る。
 すると、座面が開き、棺桶のように中に人が入っている。
 人は包装されていて、リボンも付いている。

成:え、マジで

子:誰

 包装紙に包まれた男性は立ち上がり、苦しそうに喋る。

包:サ、サプラーイズ

成:誰?

子:分かんない

包:サプライズだよ、サプライズ

子:え・・・・・・パパ?

成:あ、パパ?

子:もう!パパったら!こんなサプライズもうやめてよ!

包:く、くる、くるし

 成人男性と男の子は、大急ぎで包装をむしっていく。

 リボンも過剰で、包装も過剰なので、時間がかかる。

 ようやく全て取っ払うが、「誕生日おめでとう」と書かれた、浮かれた覆面をしている。

子:もう。パパ、取るよ?

 男の子は、覆面を取る。

 包装されていたのは、小室テツヤである。

子:え

成:え

 知らないおじさんこと小室テツヤは、大声で叫ぶ。

お:サプラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッァイズ

 男の子と成人男性は茫然とする。

 少しして、男の子は成人男性に尋ねる。

子:ねえ、プレゼントは?

成:・・・・・・

子:ねえ、ねえ。僕の、僕の誕生日プレゼント。どこ?

成:・・・・・・

子:僕の、僕の・・・僕の、僕の、たんじょ、誕生日、プレゼント・・・どこ?

 男の子は、膝から崩れ落ちる。

 崩れ落ちた男の子を見た成人男性は、つらそうに、懐から2万円を取り出すと、1万円を男の子に渡す。

 男の子は、1万円を受け取り、握りしめて泣き出す。
 成人男性も、残った1万円を握りしめて泣き出す。
 知らないおじさんは、小さな声で「サプライズ」と呟く。




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