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還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ57成功したいなら自分を磨け

お代官様から「あっぱれ!」
 

 部屋に荷物を置いてケイとの待ち合わせ場所のスクールの門の前で、代官がスマホで電話をしてタクシーを呼んだ。

ほどなくして、ケイとタクシーがやってきた。

軽く挨拶をして代官は助手席で道案内をしながらタクシーはバス通りをクバオ方面に進んだ。

私はケイからイベントの事を聞かれたので演奏した曲目について話をしたが、彼の興味はそこには全くないようだった。

タクシーはマニラのビジネス街の中心部に停車した。代官が運転手と何やら話をしてから降りて来て、我々を高層ビルのエントランスに誘導して受付で必要事項を記入し、チェックを受けてからエレベーターで最上階に移動した。

このビルには日本の会社が多く入居しているようで、フロアー案内には誰でも知っている企業名が名を連ねていた。

最上階には、とんかつ、すし、そばの店舗が並んでいた。そして焼き肉店や中華料理店がありデパートのグルメストリートのようだった。

代官から先日lineで今日の食事について尋ねる書き込みがあった時に、だれでも食べられる中華料理が無難だろうと私が返信していたこともあって、我々は中華飯店に入って行き彼がカードを提示したら個室に案内してくれた。

 私が代官とケイを紹介しお互いに自己紹介をして、ひとしきりイベントの講評を代官から承り「あっぱれじゃった」と、お褒めの言葉を賜り食事会はスタートした。

鍵:「お代官様、今日は、かたじけのう存じます。」

代:「うん。下々の者良きに計らえ。って、シゲさんやめなよ。彼がどぎまぎしているじゃないか?」

鍵:「あ。失礼しました。ケイ、気にしないでおやじの遊びだから。」

代:「ケイさん。今日は美味しい料理を食べながら楽しくお話ししましょう。ここの料理は上手いらしいから。」

ケ:「よろしくお願いいたします。しかし、シゲから聞いていたようにカルロスゴーンに似てらっしゃいますね。僕はどのようにお呼びすればいいのでしょうか?」

代:「シゲさんと同じように、代官と呼んでください。それと、食事はコースを予約しておいたけどそれでいいかなぁ。それとアルコールはどうする?私がご馳走しますので大いに飲んで食べてください。」

ケ:「ありがとうございます。それじゃビールをお願います。」

そんなところへウエイトレスがやってきた。

ウ:「Good evening. I’m Jen and I’ll be serving your table today. Here is the menu.」いらっしゃいませ。私はジェンです。そして、今日あなたのテーブルを担当します。こちらがメニューです。

代:「Hi! Jen. Nice to meet you. Your smile is wonderful.」やぁ、ジェンよろしく。あなたの笑顔素敵だね。

ウ:「Thank you. Please let me know when you have decided.」お決まりになったらお呼びください。

代:「Wait a minute. Please use the reserved course for meals. And please give us a beer. 」

チョット待って、食事は予約したコースをお願いします。そして、ビールをお願いします。

ウ:「Okay. I’ll be back soon.」分かりました。すぐに戻ります。

鍵:「代官、ここは景色も素晴らしいですね。ケイ、良い機会なので、食事だけでなく会話も楽しみましょう。スクールの生活はどうですか?」

ビールで乾杯をして、随時運ばれてくる料理をおいしくいただきながら会話は弾んだ。

ケ:「僕は、予算を押さえるために4人部屋を選んだのですが、同年代の人達と話が出来て楽しいです。」

代:「どんな話をしているのですか?」

ケ:「一番は、これからどうするのかです。」

代:「これからどうするかですか?」

ケ:「そうです。TOIECのスコアをアップしようという目標は共通ですが、その後どうするかが決まっていないのです。」

代:「やりたいことがあって、それには英語が必要だからスタディアブロードをしたのではないのですか?」

ケ:「僕の部屋のメンバーは少なくとも将来どうするかは決まっていないです。一人は大学院を卒業したがやりたいことがないので、日本でぶらぶらしているよりも世間体が良いということで親の勧めもあってこちらに来ている。

本人は両親から世間体を気にして捨てられたって言っていました。

もう一人は勤めていた会社が嫌になってやめてこちらに来ている。もう一人もTOIECで満点を取れば道は開けると考えてこちらに来ている。まぁ、僕も同じようなものです。」

代:「若いうちはこれからの人生は長いから焦ることはないと考えていいんじゃないですか。これからの人生よりもこれまでの人生の方が長くなってしまった人間としては羨ましいです。ねぇ。シゲさん。飲んで食べてばかりいないでなんか言いなさいよ。」

鍵:「あぁ、失礼しました。え~と、そうでね。代官や私は老い先短いから一日一日、命を燃やして生きなければなりませんよね。しかし、若い人は沢山回り道をしてもいいと思います。はい。」

代:「こころがこもっていないなぁ。しかし、ケンさん本当にやりたいことが見つかるまでたっぷり考慮時間を使って最善手を指せばよいのですよ。」

鍵:「考慮時間に最善手って、代官は将棋もやるの?」

代:「結構好きなんですわ。僕の場合は最善手を学生時代に見つけられたからラッキーだと思っていますわ。」

ケ:「代官はどうやって英語を必要とする仕事を見つけたのですか?」

代:「英語を必要とする仕事を何故選んだかですか?タフな質問ですね?ストレートに言うと、僕がやりたい仕事は英語が必要だったという事です。」

英会話の能力よりも自分を磨くこと

ケ:「英語が好きだから今の仕事を選んだのではないのですか?」

代:「いいえ。そうではないです。僕がやりたい仕事をするには英語が必要だったのですよ。

そして入社するためには、TOEICのスコアが必要なのでそちらの勉強もしましたが、英語が好きだったわけではないです。」

ケ:「そうなのですか?英語を武器に仕事をして、出世もされたのかと思っていました。」

代:「語学なんて仕事をする上で武器にはならないと、少なくても僕かぁ思っていますよ。」

ケ:「そうなのですか?意外です。」

代:「海外で仕事をする場合に、単に英語が喋れれば良いなら現地で採用すればよいのですよ。しかし日本人を採用する場合は英語を喋れる日本人である事が必須条件なのです。」

ケ:「英語を喋れる日本人ですか?良くわからないのですが。」

代:「具体的にお話ししますと、当社に多くの方が入社したいといって来られます。履歴書を拝見するとTOIECのスコアが900点台の方もいます。私が最終面接でお話をお聞きすると皆さん優秀な方ばかりです。入社希望動機をお聞きしても判で押したように模範解答を英語で答えてくれます。それでは、合否の判断ができないので私なりに特別な質問をさせていただきます。」

ケ:「それはどんな質問なのですか?」

代:「ケイさん。シゲさんから聞いているでしょうが、私共の会社は家電品を扱っています。そこで、あなたが今まで出会った日本製の家電で、一番好きなものは何ですか?自分がなるとしたらどんな家電品がいいですか?そしてその家電品は世界中の人の暮らしとどのようにかかわりたいですか?といった質問です。」

ケ:「難しい質問ですね。」

代:「そうですね。しかし、家電品を扱う会社で仕事したいのならそれぐらいは、簡単に説明できるはずです。家電が好きでなければ仕事をしても楽しくないでしょう。仕事を楽しめなくては成果につながらないですから。」

ケ:「面接の講習会ではそんな質問への練習はやらないですから、言葉が出ないと思います。」

代:「そうでしょうね。それだからその人の本音を引き出すことが出来るのです。」

ケ:「僕は英語が話せればどうにかなると思っていました。」

代:「僕かぁ。人事担当に人を採用する場合は英語力よりも人間力を重視して欲しいといつも話しています。」

ケ:「人間力ですか?」

代:「そうですね。人間力とは言い換えれば、その人が魅力的な人かどうかです。英語力は2~3年で身に付きますが、魅力的な人にはなかなかなれない。」

ケ:「魅力的な人ですか?」

代:「そうです。魅力的な人だと判断すると、この人はまた逢いたい人だと脳は認識します。成田空港で初めて会ったシゲさんにはどうしてもまた逢いたいと思いましたよ。」

ケ:「シゲは、本も出版しているし一流企業の管理職だったという肩書を聞けば誰だって魅力は感じますよ。」

代:「えっ、シゲさんは、作家なの?」

鍵:「作家ではないですよ。身の程知らずの営業マンがビジネス書を一冊、|上梓じょうししただけです。」

代:「それにシゲがサラリーマンだったとはビックリだ。」

ケ:「代官は知らなかったのですか?シゲのプロフィール?それなのにどうしてもまた逢いたいと思ったのは何故ですか?」

又逢いたいと思える人になる

代:「魅力的な人には肩書もプロフィールも関係ないです。シゲは、初めて会った時に “この人は世の中の多様な価値観を受け入れ尊重するしなやかさを持っていて、明るい話題を積極的に提供して、相手に気をつかったり、その場の雰囲気に合わせて言葉を選んだり、適度な距離感を保って人の話を上手に聞ける人”だと認識したからです。」

鍵:「随分ヨイショしてくれますね。てれるなぁ~。」

代:「いやいや、現に初めて会った時に合いの手を入れて貰いながら私が一方的に話したので、シゲさんの情報が全くないのです。それだけ聞き上手ってことですよ。」

鍵:「話をするより聞く方が楽ですから。」

代:「もし仮に私が勤めている会社のライバル会社に、シゲさんがいたら相当苦戦を強いられたと思います。確かに僕の方が英語力は上かもしれないけれど、人間的な魅力は彼の方が高い気がしますから。」

鍵:「代官、冗談はよしこさん。」

代:「いやぁ。最初に成田で会った時からこの人は只者じゃないとピンときました。そして、今日のイベントに参加させていただいて、それが間違いでないことを確信しました。シゲは見事に、フィリピン人の彼らと日本人メンバーをまとめあげて、見ている方々を感動させましたよね。」

鍵:「参加している方に喜んで貰って嬉しかったけど、演奏したメンバーも良い思い出になりました。」

代:「仕事で必要なのは成果を上げることです。それも個人ではなく、チームで成果を上げなければならないと僕かぁ、思っています。それによってチーム力は向上して行けるし、人も育ってくる。しかし、チームとしての目標を掲げてそれを達成できるようにメンバーを導いていくことは難しいです。それを成し遂げるためには人間的な魅力は不可欠なんだと僕かぁ思っています。」

ケ:「何となくわかってきました。それでも、言葉が通じなくては人間力な魅力も発揮できないのではないですか?」

代:「英会話が出来なければ、通訳を頼めばよいのですよ。日本人がいくら英語の勉強をしてもネイティブにはなれませんから。まぁ運転免許がなければお抱え運転手を雇えばよいのと同じです。

英語を話せる「日本人」であること

 英語を学ぶことで彼らの考え方を理解することは重要ですが、忘れてはいけないのは、英語を話せる日本人である事が一番重要です。」

ケ:「英語を話せる日本人?」

代:「そうです。最近、当社に沢山の若者が入社してきますが、英語は喋れても日本のことを全く知らないし興味のない人が多いです。しかし、日本の企業と取引したいと考えている海外の企業は日本の文化や歴史を勉強しているので、当社の社員と会話が成立しないのです。私は当社の社員にフィリピンの企業と仕事をするなら、日本の事をもっと好きになって歴史や文化について勉強するように指示しています。そして、趣味を持つように勧めています。」

ケ:「趣味ですか?僕の趣味は英語ぐらいです。」

代:「英語が趣味って言うとシゲさんと同じですね。」

鍵:「お言葉ですが、私にとって英語は趣味ではないです。東京オリンピックのボランティアをやるために英会話が必要なだけです。英語でチョットした道案内が出来ればOK。だから、ビジネス英語にもTOIECにも全く興味がないのです。こちらでジプニー乗ったりして地元の方々の暮らしを体感したりするのに最低限必要な英会話力を身に着けたいのです。」

ケ:「シゲはジプニーに乗ったんですか?どなたか先生と一緒ですか?」

鍵:「いいえ一人で乗ってクバオまで行きましたよ。そしてクバオでバスや電車にも乗りましたよ。私はジプニーの運転手から遠い場所に乗ったので、隣のおばさんに教えて貰って、クバオと行先を告げてその方に料金を渡し、そのお金と行先のクバオが手渡しと口移しでリレーでどんどん前に行って、運転手まで届くと、今度はリレーで私のところにお釣りが届くのを体験しました。

クバオからの帰りはバスの中で座れたので居眠りしてしまって、代官からlineが来なかったら盗難に遭っていたかもしれません。それに、代官からのline通話で送り強盗から間一髪逃れることが出来ました。

でも、一番のカルチャーショックは、信号のない大通りを渡ったことです。クバオには殆ど信号や横断歩道や歩道橋がありませんでしたから。信号のない6車線の道路を渡ったのですが、あの時、おばさんが私の手を引いてくれなかったらずっと渡れなかったと思います。」

代:「シゲさんのそのどん欲になんでもトライしちゃうというのがいいのですわ。わが社の日本人スタッフは、フィリピン人の日常の足であるジプニーやトライスクルを利用しないんですよ。それでは地元の人の生活が理解できないと口が酸っぱくなるまで言っているんですが。彼らには商売の根本が分かっていないんですわ。それなので成果もあげられない。地元の人の生活が肌感覚で分かるとどんな家電品が喜ばれるから分かるようになるんですがね。」

鍵:「猫カフェから駅まで代官が書いてくれた地図はありがたかったですよ。まっすぐ行くと5分ぐらいのところ15分ぐらい掛かりましたけど、歩道橋を見つけて歓喜しました。

その時に歩道橋のありがたさを初めて知って、しばらく立ち止まって橋の上から道路を見ていましたが折角歩道橋があるのに車の間をラグビー選手のようにすり抜けて走り切る人の割合が多いのに驚きましたよ。」

ケ:「シゲは一人で行動していて、危険を感じないですか?」

鍵:「私は怖がりですからしっかり準備をして出かけましたよ。代官に教えて貰ったことを忠実に実践しました。まずは、こちらで安いTシャツとジーパン、それに安い財布を3つ買いましたよ。 それに安いショルダーバッグ、当日はそれを着て財布を持って出かけました。それに、フィリピンの先生から教えて貰ったので靴下にコインをいれて、スクールが契約しているタクシー会社の連絡先のメモを持っていきました。メモにはタガログ語と英語で “私は日本人ですが強盗に財布とスマホを取られたので、ここまで迎えに来てくださいという電話をしてください”と書いてくれました。」

ケ:「どうして、財布を3つも持っていったんですか?」

鍵:「代官に強盗に囲まれたら財布を投げ付けて、強盗がひるんでいる隙に逃げることを教わったからです。そして靴下のコインは帰りのジプニー代です。」

ケ:「完璧な準備ですね。」

代:「ビジネスは準備にまさる成功なしと言われますが、日常生活も同じですわ。」

冒険とは、死を覚悟して、そして生きて帰ってくる事

冒険家

鍵:「代官、誰の言葉でしたっけ?“冒険とは、死を覚悟して、そして生きて帰ってくることである”」

代:「多分、植村直巳うえむらなおみさんだったと思いますわ。彼も充分な事前準備の大切さを語っていましたよね。それにしても、正確に記憶していますね。大概の人は死を覚悟しての部分は抜けちゃうんですが?」

鍵:「いや~。三浦雄一郎さんの講演会に参加した時に、教えて貰ったんです。川口市のお世話になっている会計事務所が主催であり、僕もスキーが好きだったので懇親会では苗場での競技会のことやスキーの板や靴の事で質問もさせていただきましたよ。それに笑顔で丁寧に答えてくれました。素敵なオーラのある方でした。」

代:「直接話が出来たなんて羨ましいなぁ。三浦さんの本は何冊か読みましたよ。コツコツ準備をされる方だし、彼の不撓不屈ふとうふくつの精神力には憧れますわ。ケイさんごめん!二人で盛り上がっちゃいました。あなたの年代だと三浦雄一郎なんて知らないよね?」

ケ:「いいえ。知っていますよ。健康商品のCMのおじいさんでしょう。まぁ。それ以上は知らないです。」

鍵:「代官、そろそろお開きにしませんか?」

代:「そうですね。ケイさんもそれで良いですか。それではタクシーを呼びます。」

ケ:「今日はあなた方のようなステイタスの高い方とお話しできてありがたかったです。ありがとうございました。」

代官はこちらこそ楽しかったありがとうといって、スマホを取り出してタガログ語で電話をした。

それから、ウエイトレスのジェンを呼んで何やら耳打ちをして、コインを渡した。会計を済ませると包みを受け取って3人で外に出た。

代:「先ほどここまで乗せて来てくれたタクシーを呼びましたので心配ないです。彼は英語を話せませんが気のいい奴なので安心してください。

運賃はここに到着した時に帰りの分も支払いましたのでそちらの心配もいりません。」

鍵:「代官、何から何までありがとう。テーブルでも一番眺めの良い席に私を座らせていただき景色も料理も堪能しました。それにもまして、含蓄がんちくのある言葉の数々に敬服しましたよ。」

代:「いやいや、こちらこそ楽しい時間を共有出来て嬉しかったです。帰国前に又逢いたいですなぁ。」

鍵:「そうしましょう。それでは例のカフェで?」

代:「詳細はlineということで、今日は楽しかった二人ともありがとうございました。」

自分と真剣に向き合ってみようと思います

ケ:「こちらこそありがとうございました。何をして良いかが分からずにとりあえず英語に逃げていたことに気づきました。

こちらにいる間に自分と真剣に向き合ってみようと思います。」

そんなところにタクシーがやってきた。代官は、運転手とちょっとだけ言葉交わすと包みを彼に手渡した。

 Lineでの会話によると包みの中身は、運転手の家族へのお土産だったようだ。彼には高齢の母が同居していると聞いたので、シュウマイをあげたらしい。

 何故、そんなことをするのかを尋ねたら、君たちを安全に送り届けて貰うためだよって答えてくれた。いやはや、代官には歯が立たないことを思い知らされた。

 タクシーが走り出し振り返ると代官が手を大きく振りながら見送りをしてくれていた。照れ臭かったが私も手を振ってそれに応えた。ふと、子供のころに引っ越しをしたときに友達に手を振った記憶がよみがえってきた。あの頃のみなは今どうしているだろうなどと考えていた。

 あの時の泣き虫の鼻たれ小僧が60年ほど過ぎて、マニラにスタディアブロードに来ているなんて、だれが想像しただろう。♪思えば遠くへきたもんだ、今では女房子供持ち、この先どこまで行くのやら♪の曲と歌詞とともに、あの頃友達と遊んだ映像が映し出されていた。記憶の中の私は、麦わら帽子に白いランニングにぶかぶかの穴の開いた半ズボン姿で、夏の日差しで熱くなっている線路に耳を当てて貨物列車が走り去る音を聞いたり、カエルを捕まえてザリガニ釣りをしていた。

ケンは車窓を眺めながら考え事をしている様子だった。そんなこともあってタクシーの中ではケンも私も一言も話さなかった。

 私はケンと軽く挨拶をして部屋に戻ったが、彼が言った「自分と真剣に向きあってみようと思います」という言葉が耳に残った。

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