還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ59
えっつ!ユリは会社役員
ユリは自分のやりたい事を仕事にしている人は、ほんの一握りの恵まれた人だけだ。
自分の夫も他にやりたいことがあったけどあきらめて家業を継いだが、今はそれでよかったと本人は満足している。
夫は中小企業の経営者だが日本の先進技術を支えているという自負を持っていて誇らしい。
その技術を外国企業の方々も見に来るので夫は自分自身が英会話を話せればとは思っているようだが、今のところ企業側で通訳を用意してくれているので、英会話によるトラブルはないようだ。
しかしこれから先は待っているだけではなく積極的に世界中のマーケットを相手にして、自社の技術を売り込み、尚且つ先方が必要としている物を創り出すといった新規事業の展開が必要になると考えている。
しかし中小企業の問題は新規事業を展開する場合の課題として、自社の強みを活かせる事業の見極めが必要だし、マーケットのニーズの把握が必須条件になる、それに加えて自社の強みを世界に発信しくことが重要になる。
それには夫の会社が持っている技術を英語で説明出来て、技術者として専門知識を持っている人材が欲しいが、大企業ならともかく中小企業ではそんな有能な人材は雇えない。
英語の出来るエンジニアを社外コンサルタントとして、探しているがなかなか見つからないで困っているという書き込みをした。
そしてケンの投稿に対する意見として、ユリは個人としても中小企業と同じように、自分の能力の見極め、マーケットが求めている人材の把握、そして自分が出来ること、得意としていることの情報発信が必要だ。
それにその人の潜在能力も真剣に仕事をしてみなければ、発揮されないし磨かれない。
一途に仕事に取り組むことでその中から面白さを見つけ出すことが出来ると思うと投稿した。
私はこの書きこみを見て経営コンサルタントが書くような文章だと、ビックリさせられたので「ユリって経営にも携わっているの?」って聞いたら、ユリから「えっへん、私だって経営者の端くれですからという答えが返ってきた。」
私は正直いうと中小企業の経営に関して興味がない。それでもユリにどこでそんな知識を得たのか訊いてみた。
それに対してユリから主人は技術者としても忙しいので、専務取締役として私が地元の商工会議所の法人会員となっていて、会員交流会やビジネス交流会、それに経営セミナーなどにも参加しているのよ。との書き込みがあった。
そして商工会議所には経営指導員が経営コンサルティングも行っていて、希望すれば経営に関する相談にも乗ってくれる。
ご主人の会社の役員会では、ユリが得てきた情報を全役員が共有するとともに様々な問題について活発に議論されているそうだ。
ユリって見かけによらず凄い人だった。話の内容が難しすぎてついていけないおやじとしては、現実逃避を試みて、えーと、みかけによらず、って英語でなんて言うんだったかな?と、能天気なことを考えていた。
勿論この話の内容だとスクールlineメンバーからの書き込みはないだろうと思っていたら、マサシから僕は技術を持った中小企業が海外に出ていくためのサポートをしたい、という思いを常に持っていた。という書き込みがあった。
そしてそのために英語も勉強したしCADの技術も磨いていた。しかし、大企業の中では所詮歯車でしかなく実際にはパソコンでCADを使って図面を描いて、英語で説明文を作成するという仕事しかできなかった。
本当は海外の企業に日本の中小企業の優れた技術を売り込む仕事をしたかった。帰国したらユリさんのご主人に会わせて欲しいと、マサシが書き込んだ。
もしそのような需要があるなら日本で中小企業をサポートする仕事がしたいという事の様だった。
ショウコはマサシが自信を無くしてしまった為に、日本を捨ててマニラに骨を埋めることに同意していたが、もう一度マサシがやりたいことにチャレンジしたいという気持ちがあるなら、全面的に応援したいと書き込みをした。
そして「マサシ君がやりたいことをする為だったら生活費は私が働いて何とかするからお金のことを気にせずに精一杯やって欲しい。私は、マサシ君が輝いているのを見るのが大好きなのだからその為なら私はどんな仕事でもするから」と興奮がこちらにも伝わる様な書き込みをした。
マッキが「マサシさんがそういう仕事を請け負うなら友達を紹介できると思うので、友達にlineで聴いてみる」と書き込みした。
マサシは、その書き込みに興奮して是非お願いします。僕も日本に行ってお会いして話がしてみたいですと書き込みをした。
私はマサシに日本に行く前にSkypeで先方と話をしてあたりをつけてみたらと提案し、もし大きい画面が良ければ僕のノートパソコンを貸してあげると書き込みをした。
その書き込みを見て、マッキもマサシもユリもSkypeの使い方を知りたいという事で、私の部屋でskypeの使い方について説明会を次の土曜日に行うことになった。
マサシがマニラで起業!
土曜日の午後に私の部屋にlineスクールメンバーが集まってきてSkypeの使い方を説明した。ケンもSkypeに興味があるということで英語の特別授業を受けずに説明会に加わった。
そして説明だけではつまらないので実際に日本にいる誰かと話してみようという事で、ユリのご主人と繋いでみることになった。
ユリの話だとご主人には出来ないので、SNSが得意な社員と私がユリのlineを使って話をしてみることになった。
話をしてみるとSkypeにも精通しているらしく、即座にユリのご主人のアドレスを登録してくれたので、私のノートパソコンとご主人のパソコンと繋げることが出来た。
ユリは料金の事を気にしていたが、テレビ電話みたいに顔を見て話が出来るけど、料金は掛からないと説明すると不思議がっていたが納得したようだった。
簡単な挨拶をさせていただいて、マサシとユリのご主人との専門的な内容の話が始まった。
マ:「・・・・・キャド・・・・・・・」
社:「・・・・・ナサ・・・・・・・・・」
二人の会話は30分以上続いていて、マサシは何度もうなずきながら自分が過去に作成した図面を見せたりしていた。
ユリのご主人も顔を紅潮させて話は盛り上がっているが、日本語なのにところどころの単語しか聞き取れない。
まるで英語のドラマを見ているような気分になった。他のメンバーを見ても鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
私は飽きてしまって他のメンバーと雑談をしていたが、最後にユリとご主人が話をしてマサシに依頼することが決まったと伝えた。
マサシはこちらで図面を作成して完成次第一度日本でユリのご主人と細部を詰めて、業務委託契約を締結することになりマサシは起業することになった。
ユリのご主人の話だと海外進出を目論んでいる中小企業は多いがそれを阻んでいるのは英語だと考えて、海外企業との打ち合わせの時は通訳に依頼してみるが通訳には専門知識がないのでエンジニア同士の議論がうまい具合にかみ合わないのだそうだ。
その為エンジニアでCADが使えて英語で説明文を書かけて、海外企業と英語で意見交換ができるマサシのような人はとても必要とされているそうだ。
そんなわけでマサシは帰国時にはユリのご主人に紹介して貰って海外進出を推進している信用金庫の支店長と中小企業を沢山顧問先に持っている会計事務所を紹介して貰う事になり、事前にプロフィールを作成してメールで送ってくれるようにとの依頼があった。
マサシはプロフィールの提出を嫌がった
プロフィールの提出に関して私は当然だと思ったがマサシは、プロフィールを作成することに難色を示した。それでも明後日の月曜日までにメールで提出することで合意した。
そのやり取りの一部始終を食い入るように観ていたケンは何かを感じたようで、終始黙っていた。マッキから友人にlineでマサシさんの事を話してみるので、明日Skypeで友人と意見交換をしてみないかという提案がありマサシは快諾した。
私はマサシが自由にSkypeでの打ち合わせが出来るように、ノートパソコンを自分の部屋に持ち帰らせたが、私が帰国する時には起業祝いとしてプレゼントしても良いと考えている。
マサシが起業することになったことで、このスタディアブロードの経験を活かして、メンバーのみんなは今後どうするのかという質問の投稿があった。
私はそれに対して、私のスタディアブロードは自分へのご褒美一人旅なので、帰国後は東京オリンピックのボランティアをした後は特に英会話の学習をする予定はないこと。
そしてこちらに来る前と同じようにウクレレで遊んで、それでも暇を持て余すようならこの経験を小説にでもしようかなんて書き込みした。
自分ではウケ狙いだったのだが実名は出さないで欲しいけど、それとわかるようなニックネームで登場させて欲しいとか、魅力的なキャラクターとして欲しいなどという書き込みが多かった。
チエは亡き夫との共通の目標であった東京オリンピックのボランティアをした後は、英会話の学習は止めて韓国語の勉強をしようと決めている。
目標は韓流ドラマを字幕なしで分かるようになることだそうだ。そうすれば韓流好きの友達と韓国旅行に行った時に、翻訳機の操作をしなくても自由に韓国の人と話が出来るようになる。そうすればもっと韓国旅行を心から楽しめるからだそうだ。
それと今まで料理が嫌いだったがこちらの料理教室で作る楽しみに目覚めたので、フィリピン料理のレシピを沢山仕込んで、帰国して娘夫婦に食べさせてあげたい。
それだけでなく友達が主宰している “健康つくりおふくろの味料理教室”にも参加して、忙しい娘夫婦の朝晩の食事を作ることで二人の健康を支えたい。
娘婿は父子家庭で育ったのでおふくろの味を知らないといって、たまに私が作る手料理を食べてくれるので、その話を聞いたら大喜びしてくれそうだと今からわくわくしているそうだ。因みにスマホで弁当作りの勉強も始めたようだ。
マサシは英会話イップスを克服
月曜日の夕食時の高齢者テーブルは人であふれていた。それは、ユリがフィリピンの先生にマサシのプロフィールを話したことで学習者たちの間で、彼がTOIECの満点スコア保持者ということが拡散したからだった。
TOIECで満点をとる勉強法を聞きたくて、高齢者テーブルのメンバーに混じって上級者テーブルメンバーのケンもマッキもそして、関西の女子大生のナオミまでが座っているからだった。
中級者テーブル席も普段よりも人数が多く集まっていて、聞き耳を立てているようだった。
鍵:「マサシおめでとう。マッキの知人の経営者とも業務委託契約を締結できそうだって聞いたよ。」
マ:「ありがとう。なんか急に運が向いてきたようで嬉しいよ。これもシゲのお陰だよ。」
鍵:「僕がなにをした?」
マ:「シゲがウクレレを教えてくれて、イベントにも参加させて貰ったことで新しい世界が広がった。それにシゲは僕の英語に対する考え方を劇的に変えてくれからとても感謝している。
シゲの凄いところは文法的に間違っていようと発音が怪しくても出鱈目の英語で堂々と話すだろう。さも分からないのはネイティブが分かろうとしないからだと開き直る部分もあるじゃないか。
僕のサラリーマン時代には、周りは優秀な人ばかりでシゲみたいな人は一人もいなかったんだ。僕もシゲのように適当な英語を話したいって思えるようになったんだ。」
鍵:「それってちっとも褒めていないけど。」
シ:「マサシ君はシゲと会うまで英会話イップスで全く英語を話せなかったけど、あなたと会ってからは英語を喋れるようになったわ。ありがとう。」
鍵:「英会話イップスってきいたことないな。ゴルフでイップスに悩んでいるプロやアマチュアを知っているけど。彼らは、プレッシャーで手が動かなくなってしまうんだ。特にひどいのがパターやアプローチといったどちらかというと小さな動きの時が多いんだけど。それと英会話となんの関係があるの?」
シ:「そうなのよ。私もマサシ君のイップスを治すために色々調べたわよ。
運動のイップスは心の葛藤により筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼす心理的症状で、プレッシャーにより極度に緊張を生じ無意識に筋肉の硬化を起こし思い通りのパフォーマンスを発揮できなくなってしまうの。
英語ネイティブとのコミュニケーション時に、脳細胞や口の周りの筋肉が硬化してしまって英語が話せなくなってしまったのよ。
英語イップスになった原因は、重要なビジネスシーンで初心者レベルのミスを犯したことだったのよ。
普通の人ならジョークとしてごまかすこともできたでしょうが、マサシは生真面目すぎる性格なのでそれが出来なかったの。
それで私もマサシ君が英会話イップスを克服できるように色々試したのだけどダメだったわ。」
マ:「そうそう。僕の担当ドクターによると最近ではスポーツ以外にもイップスに悩む人は増えているそうなんだ。
テレビで活躍しているお笑い芸人がギャグを言ってもウケない事が原因で、ボケることが出来なくなるというのもイップスだと言われているんだ。
僕はシゲのお陰で英会話イップスを克服できたから俄然やる気が出てきたんだ。考え方も前向きになったことでおやじギャグがウケなくても笑い飛ばせるようになれたんだ。
明るさを取り戻したことでスクールの仲間からも取引先を紹介して貰ったり出来たと思う。」
マサシの学歴コンプレックス
松:「僕の友達も喜んでいましたよ。僕に凄い人を紹介してくれてありがとうって何度も感謝してくれましたよ。」
マ:「こちらこそどれぐらいお役に立てるか分からないけどベスト尽くしてみます。」
ユ:「家の主人も喜んでいたわよ。これでお前のスタディアブロード費用の元が取れたって言っていたわ。まぁ、プロフィールをみて相当ビックリしたみたいだけど。」
鍵:「何?マサシは逮捕歴でもあるの?」
ユ:「シゲ、全然違うわよ。彼は東大の医学部に入学して途中で工学部に転部した秀才なのよ。」
鍵:「へえ~。マサシって凄いんだな。」
ユ:「ダメよ。気軽にマサシって呼んじゃダメ。安田先生とかマサシ先生って呼ばなきゃ。」
シ:「マサシ君は、学歴コンプレックスがあるからかわないで。」
鍵:「そういう場合も学歴コンプレックスって言うの?」
シ:「そうなのよ。学歴のせいで本人が一生懸命頑張っても努力が評価されないのよ。東大卒ならTOIECで満点とっても当たり前と言われちゃうし、反対に英会話でのちょっとしたミスも上司からここぞとばかり、東大卒がそんなイージーミスをしてはいけないという言い方で叱責されちゃうそうなのよ。」
マ:「そうなんだ。困ったことに学歴は一生卒業できないんだ。同じ学歴の人が少ない職場だと何時も東大卒の〇〇ってなっちゃうんだ。それが僕は嫌だったんだ。」
鍵:「でもどうして医者にならなかったの?」
マ:「僕は医者になる気はなかったんだけど親からも先生からも、マサシは頭がいいんだからとりあえず、医学部に入ってから後の事は考えればいいんだからと云われたからさ。
塾の先生も富士山の頂上に登れば、静岡県側にも山梨県側にも好きな方に降りられるって、医学部の受験を後押ししてくれたんだ。
その時は分からなかったけど登山付きの塾の先生は、やりたいことが見つからない時はとにかく立ち止まらずに頂上を目指せ、そうすればそれが見つかった時には軌道修正は簡単だからって言いたかったのだと思う。」
鍵:「塾の先生は良いこと言ってくれたんだなぁ。」
マ:「そうなんだ。それで立ち止まらずに勉強を続けることが出来て、入学してみたけど授業が全然楽しくないんだ。
それでつまらないから図書館に入りびたりで、医学書を読み漁っていたら医者が患者に対して医療を提供する為に必要とされる先進技術が、諸外国と比べて日本は遅れていることに対して問題意識を持ったんだ。
その一例としてロボットアームや人工内耳というものが紹介されていた。
その時に僕がやらなければならないことは、これだと思ったんだ。先進技術で医療をサポートする仕事をやってみたいと考えるようになり技術で社会を支えたいと工学部に転部したんだ。そして医療機械メーカーに就職したんだ。」
鍵:「なるほど。やりたい事に出会えたってすばらしいなぁ。塾の先生の選択肢を広げるためにとりあえずてっぺんに登れというのが、やくにたったんだな。医学部から工学部の転部は可能だけど、
その逆は難しいだろうから。しかしどうしてやりたい仕事に折角出会えたのに、退職しちゃったの?」
マ:「僕がやりたかったのはセールスエンジニアとして医者が望む物を形にして、意見交換しながら微調整して製品化していくという事だったんだが、実際の仕事としてはセールスエンジニアから指示されたとおりにCADで図面を作成する事だけをやらされていたんだ。」
鍵:「英語も必要なかったの?」
マ:「クライアントが英語圏の企業の場合は、プレゼンや打ち合わせの時に参加していたけど、主な役割は英語での資料作成業務だった。時折想定外の質問があった場合は、英語で簡単に説明するぐらいだったんだ。」
鍵:「そうかそういう場で、英語でのケアレスミスを犯したことで英語イップスになったってわけなんだ。」
マ:「そうなんだ。そういう場で上司が僕をクライアントに紹介するときに学歴とTOIECの満点スコアホルダーって紹介するんだ。
そういう時は何時も学歴コンプレックスを感じたんだ。」
松:「高校中退という事の学歴コンプレックスの僕からしたらTOIECでの満点のスコアも学歴も名詞に書きたいとおもっちゃうけどな。
実はTOIECで満点を取るための勉強法を聞きたかったんだけど、最初から脳みその出来が違うんだから聞いても参考にならないかもしれないけど、チョットだけ教えてくれるかな。」と、TOIECの話題になったので私は、席を他の学習者に譲って部屋に戻った。
後日談だがマサシは学習者たちからTOIECの勉強方法やモチベーションの維持という英語学習に関することや人生を掛けてやりたい事にどうしたら出会えるかについて、長時間質問攻めにあったそうだ。
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