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還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ ⑤

お代官様との出会い

  有りがたい事に無事にチェックインも完了。フライトまではたっぷり時間がある。強面こわもてのおやじに再度お礼を言って、フードコートに直行と考えて。

「先ほどはありがとうございました。お互いにマニラを楽しみましょう」と言って、足早にその場を立ち去ろうとしたが。

強面のおやじから「一緒に江戸前寿司を食べながら少しお話しませんか」って誘われてしまった。私の心の声は、この危なそうな人からは距離を置けと言っている。私の顔はさぞこわばっていたのだろう。

おやじはそれを察したように「心配しないでください。僕はサラリーマンですから」と言って、    

私を誘導して一緒にコンビニで缶ビールとつまみを買って、フードコートへ。

 そして、胃袋の要求に従って、先ほどのおやじとフードコートで乾杯。あああああっ旨い。やっぱり寒くてもビールののど越しは格別だ。さっき売店で買った2本の缶ビールをすぐ飲み干してしまった。

立ち食い寿司屋で私は、江戸前寿司セットに大好きなこはだ2貫を追加したので2,100円を現金で支払った。

強面おやじは、江戸前寿司セットで1,800円をゴールドカードで支払った。強面のおやじがゴールドカードを持っているという事で、どんな人なのかとても興味がわいてきた。

立ち食い寿司屋から呼ばれて、注文した寿司を取りに行き、席に戻り美味しくいただきながら、強面のおやじの寿司と私の寿司とが入違いれちがっていて、私は胃袋からの「こはだ」が食いてぇという要求に応えることが出来なかった。

しかし、わざわざ言うまでもないとスルーしたが、彼が後で気付いて大変恐縮していた。

彼の恐縮した時の顔も強面だった。出来れば笑った顔も見てみたいという欲求にかられたが、その思いは成田で叶うことはなかった。

鍵:「先ほどは本当にありがとうございました。助かりました。地獄に仏でした。私は鍵かぎと申します。え~とお名前は」
代:「そんな大げさな。僕の名前は、え~とお互いに本名はよしましょう。代官とでも呼んでください。」と、意味ありげに言った。代官??良く聞き取れなかったが、まぁニ度と会わないのだから適当でよしとしよう。
鍵:「そうですか。それでは私はシゲと呼んでください。マニラへはビジネスですか?」
代:「そう。ビジネスが40%で彼女に会いに行くのが60%といったところです。シゲさんはスタディアブロードでしたね」
鍵:「はい。1ヶ月間の予定で、英会話を勉強してきます」と言いながら、彼女に会いにいくという言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。「彼女はマニラ在住ですか?」
代:「そうです。マニラのビジネス街に住んでいてフィリピン人です。」
鍵:「どれぐらい滞在する予定なのですか。そして彼女との会話は英語ですか?」
代:「1ヶ月ぐらい社宅から職場に通い、休日は彼女とのんびりします。その後、インドネシアに行く予定なのですよ。どちらの国も英語で会話が出来るので楽ですよ」
鍵:「え~。そんなに頻繁に海外に行くんですか?サラリーマンでしたよね。」

やっぱりアブナイ関係の仕事をしているようだ。早くこの場をはなれよう。と心の声。
代:「はい。僕は一応、これでもH家電株式会社の社員でエンジニアです。若い頃から東南アジアを仕事で駆け巡っていますよ。そして、各地に彼女がいましたよ。船員さんが港毎に彼女をつくるように」とあごを触りながら言った。

おぬしも悪よのう、いえいえ、お代官様ほどでは

越後谷、おぬしも悪よのう~、いえいえ、お代官様ほどでは

 そのしぐさを見て、そうだ!この人、時代劇に出てくる俳優に似ていると思った。名前は、知らないが水戸黄門や大岡越前おおおかえちぜんに出てくる俳優だ。

鍵:「失礼ですが、誰かに似ているって言われません?さっきから顔が浮かんでいるのですが名前が思いだせなくって」

代:「よく言われます。親しくなると例のやつをやってとせがまれるんですよ。やりましょうか。越後屋、おぬしも悪よのう~」

鍵:「いえいえ、お代官様ほどでは・・・。そうか、それでニックネームが代官なんですね」

代:「そうです。あなたもノリがいいですなぁ。特定の俳優に似ているというのではなく、悪役面だという事の様です。時には、カルロスゴーンに似ているという人もいるぐらいですから。そして僕の顔はビジネスの武器ですから気に入っているんですよ」


英語なんて武器ならない

鍵:「顔がビジネスの武器ですか?英語ではないのですか?」
代:「英語なんて武器になりませんよ。」
鍵:「そうなんですか。」
代:「そうです。私はビジネスの基本は取引先と本気で付き合うことだと考えています。私は強面の顔のおかげで海外の取引先も本名でなく親しみを込めてお代官様と呼んでくれますし、一度会うだけでうちとけることが出来て腹を割って話すことが出来るのです。

もし、部下がミスしても私が同行する事で本音を引き出すことが出来てすぐに解決するケースも多いです。

当社の取引先の方には、日本の時代劇ファンが多いですからこの悪役面は大いに役に立っています。

そして日本企業と取引するために日本の歴史を学ぶことでお城や刀にはまってしまった人もいますよ。

川柳や俳句や禅などの会に参加している方もいますが、外国人からわびさびとか言われるとこちらがドギマギしてしまうのです。

こちらも英会話なんかよりも日本のことや相手の国の文化について積極的に勉強しないと、ビジネスはうまくいかないと思って若い頃から努力してきましたよ。
鍵:「最近の若者の中には、英語の資格試験で高得点を取って転職して人生を好転させると頑張っている人もいますけど。」

代:「そうですね。最近当社に入社してくる若者の中にはTOEICの高スコアを持っている若者もいますが、仕事では使い物になりません。彼らは殆ど日本のことを知りませんから。」
鍵:「そうなのですね。海外で仕事をするなら英会話が出来ればよいと思っていましたが違うのですね。それに、顔が仕事上の武器というのも面白いです。」

代:「仕事以外でも得なことはありますよ。さっきの秤だって、僕がやさしい顔だったら確り量ったり、二人の関係を確認したりしたでしょうが、強面のおやじとは関わらない方が良いと判断して、さっさと、OKが出たじゃないですか。」

代官氏はそう言いながら、意味ありげに私をみて。
代:「もちろん、良い面ばかりではありませんよ。あなたも僕と付き合う事を拒んだじゃないですか。その為に、アブナイ人間でない事を早めに伝えないとならないのですよ。僕は。」

鍵:「いや~。私も関わらない方が良いと外見で判断してしまいしました。申し訳ないです。しかし、海外でのビジネスと英会話についてもう少し教えてください」

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