還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ その1
まえがき
「旅」は若者にも様々な人生経験を積んできた者の心にも、必要に応じて語りかけてくれる。
時には厳しい言葉であったり優しい言葉であったりだが、私の経験ではひとり旅の方がより多くの声を聴くことが出来るようだ。
私は57歳の時に30年以上務めた会社を早期退職、月日が経つのは早いもので起業してから今年で7年だ。
起業を決意したのは勿論やりたいことがあったからだが、50代半ばに宿泊を伴う前立腺がんの検査を2度にわたって受けたことも背中を押してくれた。
病院のベッドで天井を見ながら考えていると誰でもマイナス思考に陥りやすいものだ。
もし、がんと診断されたら闘病が生活の中心となってしまい、やり遂げたいと思っていることも出来なくなってしまったらという不安に苛まれていた。
幸いにしてがんではなかったが「私の生き方は、本当にこれで良かったのだろうか?」「もっと違う人生があったのではないだろうか?」「これからどのように生きていけばいいのか?」と何度も自問自答する中で、気力体力が充実している今こそgoodタイミングだと感じて起業したのだった。
当時の事を思い出せば、辛い事も悔しい事も沢山あった、不安で眠れない夜もあった。
我々夫婦にとって子育ては最終段階だったが、まだしばらくは教育費も捻出しなければならない時期だった。
それでも多くの人達に応援をしてもらいサラリーマン時代と同じレベルの暮らしを維持することが出来たから家族に経済的な不安を感じさせることはなかったはずだ。
そして、サラリーマン時代には禁止されていたから叶わなかった私の夢の一つであるビジネス書の出版も商業出版という形で実現できた。
拙著の出版日に長女が書店で購入してきて、サインを求められたときは笑うしかなかったが、連れ合いが有名書店に平積みされている私の本の写真を撮ってFacebookにポストしてくれ一緒に喜んでくれている姿を見て、目頭が熱くなった。その時が本当に起業して良かったと思えた瞬間だった。
そして、還暦を過ぎ子供たちが巣立ったことで、人生の余白を意識するようになった時に、先述の3つの疑問が再度頭をもたげてきた。
今ではミッドライフ・クライシスというらしいが、その答えを見つけたくて、ひとり旅に出ることにした。
それで「どこに行こうか?」「そこで何をしようか?」と思い悩んだ挙句、あろうことか英会話も出来ないのに語学留学をすることを思いついてしまった。
私は常日頃から様々な選択肢がある場合は、仲間から「なんでそんなあほなことをしたのと?」いうお褒めの言葉をいただけるようなものを選ぶことに決めていた。
実のところ英会話の勉強は東京オリンピックでのシティキャストに採用されてから少しずつ始めていたが、私の役割は埼玉県内にある霞が関カントリー倶楽部の近くの駅で、来場者に英語で道案内する程度なので留学が必要なほど高い英会話能力が必要とは考えていなかった。
しかし、還暦を過ぎたおやじが1ヶ月間スクールの寮に宿泊して、英語を学んだら大変なこともあるだろうが、楽しみもあるはずだと思い、起業して7年間頑張ってきた自分へのご褒美として語学留学を決意したのだった。
ビジネスパートナーにマニラへの語学留学の事を話したら、餞別にコンドウなにがしを1か月分用意するからという有難い申し出をいただいた。
彼は海外旅行するときは宿泊日数分×3のコンドウさんを持参するとのことだった。
その絶倫氏について、彼の部下の課長の話だと、その道については社内で右に出る者がいないらいし。東南アジアにとどまらずに世界を股にかけて、研究を怠らないらしく、ニックネームは歩く生殖器と呼ばれているそうだ。
噂によると、絶倫氏が役員になれたのもその研究の成果によるところが大きいらしい。
思い出してみると彼は以前私にも「男を磨く旅に行きませんか?」と声を掛けてくれたことがあった。当時は何のことか分からなかったが、今ならどういう旅なのか見当がつくし、性欲に対して淡白な方の私としてはご一緒しなくてよかったと思っている。
私はマニラでは本気で英会話の勉強する旨を伝えて丁寧にお断りしたが、そのように誤解されてしまう事は不徳のいたすところである。
英会話の授業がない日は、マクドナルドやケンタッキーフライドチキンやスターバックスなどにも行って一人で注文をしたいと考えている。
ジーパンやウクレレも買うつもりだし、スマホの画面が割れているので修理もしたい。
そして、一人でジープニーに乗ってクバオのウクレレカフェで弾き語りをしたい。
フィリピン人のウクレレ仲間とウクレレの練習が出来たら最高だろうななんて妄想している。
スクールでの第一関門は、英語での自己紹介だ。
マニラの校長先生と留学を申し込む半年前に、オンラインで話したときに自己紹介は皆さんペーパーを見ない話されますよ。
私が何人ぐらいの人が生徒の自己紹介を聞くのかと尋ねたら、校長は毎回30人ぐらいですと気楽に答えてくれた。
その話を聞いてからSkype英会話でのフィリピン人の先生とのレッスンにもよりいっそうまじめに取り組むようになった。
マニラでのスタディブロードの1か月間は、そこに集まってくる人たちと触れ合い、そこで暮らす人たちの生活を知り、その土地の匂いを感じ、その土地の人とのふれあう事によって、先述の答えと共に今まで知らなかった自分と出逢いたい。
そして、私と連れ合いとのこの先の人生の事も見つめなおす機会にしたいと考えている。
僕のヒーロー
スタディアブロードで、2019年1月20日の19時30分に成田を出発しマニラに向かう。航空会社はLCCのジェットスターだ。
今日は妻と母と一緒に成田山新勝寺で参拝し、旅行の無事を祈念。
ランチを食べてから成田空港まで送って来てもらい、駐車場から第2ターミナルまで一緒に歩いている。
成田空港にこの3人で来たのは、何時以来だろうと脳に尋ねてみるが判然としない。このところの私の脳の奴のやる気のなさはあきれるほどひどい。
仕方がないので連れ合いに聞いてみると、3年前に3人プラス長男との台湾旅行の時以来とのこと。
その旅行は、仕事でお世話になっている住宅メーカーからの招待だった。家族で4日間、夢心地で過ごした楽しい記憶がよみがえってきた。
故宮博物院で一番人気の翡翠輝石の彫刻の翠玉白菜を観て美しさとキリギリスの可愛らしさに感動し、脳が欲するままに白菜のキーホルダーを買ってしまった。
スタジオジブリの宮崎駿監督が食事をしながら「千と千尋の神隠し」の街並みのイメージを着想したという九份の同じ席で食事をしたのは素晴らしい思い出になった。
しかし、それよりまして私の脳に刻まれているのは、80代の母を筆頭に、分別のある年齢の大人が一日中酔っぱらっていたという記憶だ。
その中でも私は、トイレを我慢できずに道路でバスを何度か停車させて貰ったこともあり、いい年こいたおやじがやる事ではない。なんて考えながら思いだすだけで恥ずかしいやら情けないやら笑いがこみあげてくる。
♬ピロロロロ. ロンTW201便は只今成田に到着いたしました。Attention please Attention please.TW Air flight 201 is now arriving at Narita. blah blah blah♬「blah blah blah」は英語が聞き取れない部分にブラブラブラを使っている。
第2ターミナルについた、時刻は16時。私は空港のアナウンスを聞くのが好きだ。
19時30分のフライトまではまだ3時間半位あるので出来れば一人でゆっくりと色んなアナウンスを録音し、マニラで先生に英文にして貰って意味が分かったうえで繰り返し何度も聞きなおし、帰国する際には機内アナウンスなどが聞き取れるようになっていたい。
その為には自分がアナウンスのスピーキングが出来るようになっている必要があるので、フィリピン人の先生にシャドウイングでのレッスンをして貰って、成果を感じることのできる一か月間にしたいと考えている。
低い目標だが成田に帰ってきた時に、空港でのアナウンスが聞き取れれば今回のスタディアブロードは成功だったとすることに決めた。
振り返ってみると私は子供のころから勉強は嫌いだった。それはいったい何故だったのだろうと、今考えてみると勉強における成功体験がなかったことに尽きる。
自分の脳をうまくだます
勿論、記憶力が良くなかったことも要因の一つだと考えられるが、とにかくやる気が続かないし、集中力がなかった。
ある日、社会人になって手にした本は、私に“頭の良い人は自分の脳をうまくだますことが出来る”と語りかけてきた。
今までそんな風に考えたことがなかった私は、衝撃を受けた。
その為、勉強する楽しさを初めて知ったのは、社会人になってからだった。
そして、私は脳に勉強をすることで仕事の成果が上がって、収入も大幅に増えると繰り返しインプットするようになった。
私の経験では、薄暗い部屋の椅子に一人でゆったり座り、アルコールの力を借りることで、より脳を錯覚させることが出来たしJazzやクラッシックなどの曲を聴きながら、というのも気にいっていた。
そうすることで脳がだまされて、どんどんプラス思考になってくる。従って、 “勉強なんて何の役にも立たない”とか“勉強なんかやらなくても生きていける”などというやらない理由を抑え込むことが出来るようになった。
そして、勉強したことを実践したことから社内で評価されて部下を持つ身になり、なお一層、やる気に火がついて専門書や自己啓発書を読んで行動するという好循環が生まれた。
その為、40代~50代の同年代の人達があきらめたパソコン操作についても、これはサラリーマンの武器でこれは楽しいゲームだと脳をだましたことで、エクセル、ワード、パワーポイントも使いこなせるようになれた。
よりスピーディーに文字が打てるようになったほうが報酬も増えると脳をだまし、ブラインドタッチをソフトで練習して習得した。
そして、その技術は起業した今も私を助けてくれている。
成果が目に見えるようにしなければならない
今までの経験から英会話の勉強についても自分自身をやる気にさせるためには、成果が目に見えるようにしなければならない。
身近なところで目に見える達成感を得る為にも出来るだけ多くの英語のアナウンスを数多く録音する必要があると考えていたので、なるべく早めに成田に着きたいと考えていた。
そんな私の計画など知る由もない連れ合いと母は、お茶でも飲んでもう少し一緒に居ようと提案してくれたが、帰宅時に道路が混んでいたら19時前に帰宅できなくなるからと早めの出発を促した。
そして、今夜の夕食用にと空弁を3人分渡して「心配しないでいいよ。ウクレレ抱いた渡り鳥で楽しんでくるから、向こうに着いたら、LINEで毎日報告するから」と言って、二人を笑顔で見送った。妻は、孫娘へのお土産も手にして駐車場へと歩いて行った。
このギターを抱いた渡り鳥は、今日のランチの時に皆で大笑いしたネタからのジョークだった。
この映画は、昭和を代表する映画スターの小林 旭が主演で8本も映画化された渡り鳥シリーズだ。
ストーリーは元刑事で今ではギターを持って「流し」をしている主人公が見知らぬ土地にやってきて、そこの女性と知り合い、その街で暗躍する黒幕をやっつけて、また別の街へと旅立つという西部劇風のストーリーだった。
流しっていっても今の若い人はピンとこないかもしれないが、私が若い頃は居酒屋やスナックで飲んでいるとギターを持ってお店に来て「お客さん一曲如何ですか?」って言って客から注文を取って歌っていた。
店のお客さんも好きな歌をリクエストして一緒に歌って盛り上がっていた。
まだ、カラオケがなかったころだが、同じ時期に北島三郎や五木ひろしも東京で流しをしていたとテレビ番組で観た事がある。
渡り鳥の旭がラストシーンで、馬に乗ってギターを持って去っていく姿は格好良かった。まさに、ヒーローだった。
今思えばマンガのような映画だった。私が小学校低学年の時で何度も父親と映画館で見た記憶があるから、この映画はギター好きだった父親のお気に入りだったのだろう。
映画館の帰りには、父親に肩車をして貰って一緒に北帰行を歌った記憶がある。その為だろうか私は石原裕次郎よりも旭の方が好きだった。それでもあの時の僕のヒーローはやっぱりおやじだった。当時の日本人としてはおやじは長身で身長が170㎝以上あり、肩車されると旭と同じように馬に乗っているような気がしたものだった。
貧しかったが幸せだった
私は映画の題名を「ギターを抱いた渡り鳥」とずっと思っていた。しかし、母の記憶では、違うというので、妻に促されてググってみると「ギターを持った渡り鳥」が正解。
そして、多くの人が間違っていると書いてあり、その説明は、水前寺清子の歌「涙を抱いた渡り鳥」がヒットしたからだそうだ。
なるほどそれなら合点がいく。こんなことで一緒に大笑いできる家族も有りがたい。
そんな日常とも一か月間はお別れだ。そんなことを考えて歩いていると、北帰行の♪窓は夜露にぬれて都すでに遠のく♪のメロディと歌詞とともに父親に肩車をしてもらった記憶がよみがえってきた。
あの頃のおやじはたばこをくゆらせながらギターを弾いていた。楽譜は読めないようだったがラジオから流れてくる歌謡曲を聴くとすぐに弾いて見せてくれた。今でいうところの耳コピが出来たのだろう。十八番は“湯之町エレジー”だった。
父は営林署で働き召集令状一つで満州に従軍し、戦後に父が博多港まで引き上げてから母の実家の商店で鶏肉部門を手伝い、母の兄の勧めもあって二人は結婚した。
その後、一念発起して起業したが、事業に失敗してふるさとを追われて福岡県の豊洲炭鉱で坑夫として家族の為に危険を承知で真っ黒くなって働いた。しかし昭和36年の豪雨による水没事故で炭鉱は閉山となった。
炭坑で働いていた時の貧しい暮らしの中でのおやじの楽しみは映画を観るくらいの事だったのだろう。ふるさとを追われた自分と映画の中の主人公がかぶっていたのかもしれない。
ふとあの頃のおやじはどんな思いで毎日を暮らしていたのかと思うと胸が締め付けられた。
最晩年が一番幸せだった
おやじは転職をしながら何度か引っ越しをして、最終的には埼玉県さいたま市で74年間の人生の幕を閉じた。
私は結婚後も両親と同居をして二男が生まれてから二世帯住宅に建て替えた。父は私が建てた二世帯住宅も気に入ってくれていたようで母の話だと碁敵を家に連れて来ては、少しだけ私の自慢話をしていたようだった。
最晩年は温泉付きの高齢者施設にTOYOTAのランドクルーザーを運転して毎日通って碁を打っていて、仲間たちと合宿と称して温泉旅行も楽しんでいた。
母は事あるごとにお父さんは最晩年が一番幸せだったよ。ありがとうと私に言ってくれる。
私は、父の旅立ちを病院で家族と一緒に「今までありがとう。お母さんも大事にするから」ってつぶやいて見送った。
母も苦労した人だった。五男三女の末っ子として生まれたが母親が湯治の為に長期に家を空けていたので、幼いころに母親に会いたくて何度も宮崎県のえびの市の飯野駅から汽車に乗って肥薩線嘉例川駅まで行って、そこから母親が湯治をしていた鹿児島県の塩浸温泉までお土産を抱えて暗い山道を一人で歩いて行っていたそうだ。
そんな祖母の話をしてくれたのは、3年ほど前に妻と母と私で鹿児島に旅行に行った時に塩浸温泉に立ち寄った時が初めてだったが、その話を聴いた時はとなりのトトロの映画でメイちゃんが母親に会いたくて大根を抱えて七国山病院に向かって歩いてゆく場面が頭に浮かんで胸が締め付けられる思いだった。
その温泉は鹿児島県霧島市にあり坂本龍馬が新婚旅行で訪れた際に逗留したという温泉で、園内には龍馬資料館があり坂本龍馬・お龍新婚湯治碑が立っていた。
立ち寄り湯となっていて入浴料大人380円子供150円と記載があったが、入浴はしなかった。
母は父と結婚後も日々の生活に追われてフルタイムで働きながら子育てをしていて、これといった趣味を見つけることもなかった。
習字という趣味を始めたのも80歳を過ぎてデイサービスに通うようになってからだった。
そのように考えてみると母は孫が5人でひ孫が9人いて、皆から大事にされている今が一番幸せな時間だと感じているのかもしれない。
地獄に仏
第2ターミナルから第3ターミナルまでは500mほどの距離だ。私はウクレレの入ったモンベルのリュックを背負ってキャリーケースを転がしながら、今度はマニラでの生活に想いを馳せていた。
通路で帰国したばかりの笑顔が弾けている家族とすれ違う。子供達はスキップしている。その横で綿菓子のような白いふわふわしたものに包まれている笑顔の奥様の「走らないで!」という声も元気いっぱいだ。
お土産など大きな荷物を持ったご主人も満面の笑みでふわふわしたものに包まれている。
家族サービスを頑張りましたねと、これが幸せだよねって私の心の声。しかし、白いふわふわしたものは何だったのだろう。
私だって幸せな気分。そしてワクワク感で胸が一杯だ。心配なんてない。今まで何カ月も準備してきたのだから。
まぁ少しあるとすれば、ジェットスターとの契約重量を少しオーバーしていることぐらいだ。
そんなことを考えているところへ、ボストンバッグ一つだけ持っていかにも旅慣れているという強面のおやじが声をかけてきた「どこまでですか?」「あ~マニラです」と私。
続けて「ビジネスですか?」と聞かれて、つい「いいえ。スタディアブロードです」って正直に答えちゃった。
「いいえ。旅行です」と適当に答えとけばよかったと後悔したが、小心者の私は強面のおやじににらまれると嘘が付けないのだ。
強面おやじは、自分と同世代の人間がマニラで英会話の勉強という返答が腑に落ちない様子だったが「お互いに楽しみましょう!」と言って足早に行ってしまった。
あの顔と服装からみてもまともな職業の人ではないと即座にジャッジした私は男性が通り過ぎてくれたことにホッとした。何故なら心の声が、こんなおやじとは関わらない方が良いと警告を発していたからだった。
楽しい気分でいる時は、他人の幸せも大いにウエルカムだ。そう思いながら先ほどの家族のことを思い浮かべて笑顔になっている。
そして、強面のおやじのことがふと頭に浮かんだ。なんかどこかで見たような顔だなんて考えていた。
ああいうおやじとは間違っても関わらない方が良いと脳に言い聞かせたら、今度は重量オーバーの事が気になってきた。
それというのも少し後ろめたい気持ちがあるからだった。
ジョットスターの機内持込手荷物は規定料金ではキャリーケース及びハンドバッグなどのお手回り品の計2個で基本重量は7Kgまでとなっていた。
私はオプションとして2,800円を支払い、プラス3Kg分を追加したのだが、出発前に家で量ってみると11Kgで1Kgオーバー。
まあ、実際に計量しないだろうと高をくくってチェックインカウンターに並んでいたら、なんと秤を持っている男性がいるではないか。
ラインの前方を見ていると、重量オーバーを宣告されたであろう人が、肩を落として列から外れて別の列に並び直しているのが見えた。
いや~参った、このドキドキ感は、若い頃に酒気帯び運転で警察官に止められた時以来かな~。しゃあないかって観念しているところに、秤がやってきた。
案の定「お客さん。1Kgオーバーですのであちらの列に並んで追加契約の手続きをしてから、又この列に並んでください」と、促されて、肩を落として別のカウンターに並びなおそうとしているところに、後方に並んでいた、さっき、少しだけ挨拶した強面のおやじが私のところまできて「この人は僕の連れなので、僕の重量と合わせてください」と言ってくれた。
最初は何を言っているか分からなかったが、よく聞いてみると「自分の手荷物が軽いのでその分を私に分けてあげる」という事らしい。
そんなことが出来るのかと考えていると、秤は「貴方の手荷物なら量らなくてもOKです」ということになった。いや~、助かったな、本当にありがたかった。
追加料金を払うのは良いのだが、手続きの為に他の列に並び、完了後に又このチェックインカウンターの列に並ばなければならない。そんなことしていて、夕飯の時間が削られてしまうのが嫌だったのだ。
私の胃袋は、しばらく食べられない寿司を早くたらふく食べろと要求しているし、喉チンコもキンキンに冷えたビールを繰り返し激しく要求してくる。
そもそも、荷物の重量を何故1Kgもオーバーしちゃったのか。それは、最後まで持っていく事をためらっていたウクレレをケースごとリュックに入れたからだった。
ウクレレは、フィリピンで買えばよいという考えもあったが、俺のウクレレをマニラに連れて行ってあげたい。という思いが勝ったのだった。
日本人は何でも擬人化すると、フィリッピンの先生に後で笑われる事になるのだが、連れて来たウクレレは私が1年前に初めて、初心者用セットとして売られていたものを1万円で買ったもので特別な思い入れがあるものだった。
お代官様との出会い
有りがたい事に無事にチェックインも完了。フライトまではたっぷり時間がある。強面のおやじに再度お礼を言って、フードコートに直行と考えて。
「先ほどはありがとうございました。お互いにマニラを楽しみましょう」と言って、足早にその場を立ち去ろうとしたが。
強面のおやじから「一緒に江戸前寿司を食べながら少しお話しませんか」って誘われてしまった。私の心の声は、この危なそうな人からは距離を置けと言っている。私の顔はさぞこわばっていたのだろう。
おやじはそれを察したように「心配しないでください。僕はサラリーマンですから」と言って、
私を誘導して一緒にコンビニで缶ビールとつまみを買って、フードコートへ。
そして、胃袋の要求に従って、先ほどのおやじとフードコートで乾杯。あああああっ旨い。やっぱり寒くてもビールののど越しは格別だ。さっき売店で買った2本の缶ビールをすぐ飲み干してしまった。
立ち食い寿司屋で私は、江戸前寿司セットに大好きなこはだ2貫を追加したので2,100円を現金で支払った。
強面おやじは、江戸前寿司セットで1,800円をゴールドカードで支払った。強面のおやじがゴールドカードを持っているという事で、どんな人なのかとても興味がわいてきた。
立ち食い寿司屋から呼ばれて、注文した寿司を取りに行き、席に戻り美味しくいただきながら、強面のおやじの寿司と私の寿司とが入違いれちがっていて、私は胃袋からの「こはだ」が食いてぇという要求に応えることが出来なかった。
しかし、わざわざ言うまでもないとスルーしたが、彼が後で気付いて大変恐縮していた。
彼の恐縮した時の顔も強面だった。出来れば笑った顔も見てみたいという欲求にかられたが、その思いは成田で叶うことはなかった。
鍵:「先ほどは本当にありがとうございました。助かりました。地獄に仏でした。私は鍵かぎと申します。え~とお名前は」
代:「そんな大げさな。僕の名前は、え~とお互いに本名はよしましょう。代官とでも呼んでください。」と、意味ありげに言った。代官??良く聞き取れなかったが、まぁニ度と会わないのだから適当でよしとしよう。
鍵:「そうですか。それでは私はシゲと呼んでください。マニラへはビジネスですか?」
代:「そう。ビジネスが40%で彼女に会いに行くのが60%といったところです。シゲさんはスタディアブロードでしたね」
鍵:「はい。1ヶ月間の予定で、英会話を勉強してきます」と言いながら、彼女に会いにいくという言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。「彼女はマニラ在住ですか?」
代:「そうです。マニラのビジネス街に住んでいてフィリピン人です。」
鍵:「どれぐらい滞在する予定なのですか。そして彼女との会話は英語ですか?」
代:「1ヶ月ぐらい社宅から職場に通い、休日は彼女とのんびりします。その後、インドネシアに行く予定なのですよ。どちらの国も英語で会話が出来るので楽ですよ」
鍵:「え~。そんなに頻繁に海外に行くんですか?サラリーマンでしたよね。」
やっぱりアブナイ関係の仕事をしているようだ。早くこの場をはなれよう。と心の声。
代:「はい。僕は一応、これでもH家電株式会社の社員でエンジニアです。若い頃から東南アジアを仕事で駆け巡っていますよ。そして、各地に彼女がいましたよ。船員さんが港毎に彼女をつくるように」と顎を触りながら言った。
越後谷、おぬしも悪よのう~、いえいえ、お代官様ほどでは
そのしぐさを見て、そうだ!この人、時代劇に出てくる俳優に似ていると思った。名前は、知らないが水戸黄門や大岡越前に出てくる俳優だ。
鍵:「失礼ですが、誰かに似ているって言われません?さっきから顔が浮かんでいるのですが名前が思いだせなくって」
代:「よく言われます。親しくなると例のやつをやってとせがまれるんですよ。やりましょうか。越後屋、おぬしも悪よのう~」
鍵:「いえいえ、お代官様ほどでは・・・。そうか、それでニックネームが代官なんですね」
代:「そうです。あなたもノリがいいですなぁ。特定の俳優に似ているというのではなく、悪役面だという事の様です。時には、カルロスゴーンに似ているという人もいるぐらいですから。そして僕の顔はビジネスの武器ですから気に入っているんですよ」
英語なんて武器ならない
鍵:「顔がビジネスの武器ですか?英語ではないのですか?」
代:「英語なんて武器になりませんよ。」
鍵:「そうなんですか。」
代:「そうです。私はビジネスの基本は取引先と本気で付き合うことだと考えています。私は強面の顔のおかげで海外の取引先も本名でなく親しみを込めてお代官様と呼んでくれますし、一度会うだけでうちとけることが出来て腹を割って話すことが出来るのです。
もし、部下がミスしても私が同行する事で本音を引き出すことが出来てすぐに解決するケースも多いです。
当社の取引先の方には、日本の時代劇ファンが多いですからこの悪役面は大いに役に立っています。
そして日本企業と取引するために日本の歴史を学ぶことでお城や刀に嵌ってしまった人もいますよ。
川柳や俳句や禅などの会に参加している方もいますが、外国人からわびさびとか言われるとこちらがドギマギしてしまうのです。
こちらも英会話なんかよりも日本のことや相手の国の文化について積極的に勉強しないと、ビジネスはうまくいかないと思って若い頃から努力してきましたよ。
鍵:「最近の若者の中には、英語の資格試験で高得点を取って転職して人生を好転させると頑張っている人もいますけど。」
代:「そうですね。最近当社に入社してくる若者の中にはTOEICの高スコアを持っている若者もいますが、仕事では使い物になりません。彼らは殆ど日本のことを知りませんから。」
鍵:「そうなのですね。海外で仕事をするなら英会話が出来ればよいと思っていましたが違うのですね。それに、顔が仕事上の武器というのも面白いです。」
代:「仕事以外でも得なことはありますよ。さっきの秤だって、僕がやさしい顔だったら確り量ったり、二人の関係を確認したりしたでしょうが、強面のおやじとは関わらない方が良いと判断して、さっさと、OKが出たじゃないですか。」
代官氏はそう言いながら、意味ありげに私をみて。
代:「もちろん、良い面ばかりではありませんよ。あなたも僕と付き合う事を拒んだじゃないですか。その為に、アブナイ人間でない事を早めに伝えないとならないのですよ。僕は。」
鍵:「いや~。私も関わらない方が良いと外見で判断してしまいしました。申し訳ないです。しかし、海外でのビジネスと英会話についてもう少し教えてください」
男のナニは別人格!
代:「まぁ仕事の話はよしましょう。唐突ですが、シゲさんはどこの国の女性と相性がいいですか?」
鍵:「相性ってあまり付き合ったことないですから。良く分かりませんが。」
代:「僕は、やっぱり東南アジアの女との相性がいいのですよ。西洋人の女も何人か抱いたが、僕のマイケルの納まりがいいのは、やっぱり東洋人ですな。」
鍵:「マイケルと言うのは、ナニですよね。納まりがいいというのは、合体した時に気持ちがいいという事ですか?」私は、周りを気にしているが、代官はまったく気にしていない。
代:「そうそう。マイケルという言い方は、マイクに似ているからです。東洋人の女のマイクケースはシマリガいいですよね。そう感じませんか?」マイクケースというのは、あれらしい。
鍵:「そうですね。マイケルとマイクケースの関係からすると、なんて、私もマイケルという言葉を使ってみるがなんかしっくりする。確かにマイクケースがぶかぶかだといやですよね」と、私もお酒が回ってきて饒舌になってきた。
代官の話をまとめてみると、老後を一緒に過ごす女性として、今は二人に絞っていて、一人はフィリピン人でマニラ住んでいる。もう一人は、インドネシア人でバリに住んでいる。
インドネシア人の彼女は、肌が吸い付くようで抱き心地が良くて、レモンの香りがするらしい。
マニラの彼女は名器?
マニラのフィリピン人の彼女は、テクニックが凄いそうで、マイクケースが名器なので彼のマイケルの一押しらしい。
え~っ。彼は、マイケルと話が出きる???なんて信じがたい言葉を聞いたが、そこはスルーした。しかし、名器という魅力的な言葉にはスルーなんてとても出来なかった。
今まで、何人かに名器というものについて、訊ねた事はあるが納得できる解説は今まで聞けないでいたが、代官なら科学的に説明してくれるという確信めいたものがあったからだ。
彼の解説によると、マイクケースが蛸の口の様になり、マイケルを飲み込むと食べようとして咀嚼運動を繰り返し、下半身に吸い付いて足でタマタマや肛門まで刺激するらしい。本当にそうなら経験した男はたまらないはずだ。
女と蛸と聞いて、頭の中は北斎の浮世絵「海女と蛸」に支配された。私はこの作品は春画の最高傑作だと考えている。何度観てもなまめかしい。今すぐ観たいという衝動にかられたが、人目をはばかり流石にこの時は自重した。
代官は、私が納得という表情を浮かべているのを読み取って、初心者にはこの程度の説明で良いと判断した様で、その先の核心部分は聞けなかった。私としては名器の持ち主の外見的特徴なんて知りたかったけど残念。
彼の話によると、早期退職し妻と別れてどちらかの女と暮らしたいのだそうだ。
彼曰く、妻との関係は、若い頃からの彼の浮気癖のせいで完全に崩壊しているので、妻から熟年離婚を言い出されるのは分かっている。
その時は日本の家を慰謝料として渡し、退職金を半分女房にくれてやっても、東南アジアなら年金で充分生きてい行けると考えているそうだ。私には、凄く身勝手に聞こえるが、彼はそんな風には思って無いようだ。
私がサラリーマンの時は、上司から「準備に勝る成功なし」、だから準備を怠るなと、耳にタコができるぐらい聞かされたものだが、現実には難しかったが、代官の将来設計の準備についてはある意味大したものだと感心した。
しかし、完璧な準備にも落とし穴はあるものだ。例えば熟年離婚の場合の年金については、分割されるのが常だ。しかし、最近の離婚の場合はと言いかけて、私はその言葉を飲み込んだ。
それというのもこんな場で、ファイナンシャルプランナーとしての知識を披露してもしょうがないとジャッジしたからだった。
女が生き甲斐
鍵:「お代官の生き甲斐いきがいは何ですか?」と、酔った勢いでどうでもよい事を聞いてしまった。名器についてレクチャーを受けた事で、この時からお代官と呼ぶようになった。お代官は悪びれる様子もなく。語気を強めて。
代:「それは女です。女がいなければ生きていてもしょうがないでしょう。そして、最高に自分と相性の良い女を終の棲家にしたいと考えている。そしてそれは、僕とマイケルの共通の願いでもあります」
鍵:「マイケルとの共通の願いですか」
代:「そうです。僕はマイケルと僕は別人格だと考えているのです。私の研究だと世の男性の中には、女好きなマイケルを持っている人とそうでないマイケルを持っている人がいるのです。」と、真顔だ。なんだこのおやじって心の声。
鍵:「さすがに理系ですね。」
なんて、話していたら「マニラ行きの〇〇便に搭乗のお客様は搭乗ゲートにお越しください」のアナウンス。
搭乗手続きが始まってからコンビニでおにぎりとビールとつまみを再調達し、フィリピンでの注意事項のレクチャーも受けて搭乗ゲートからバスで移動。タラップの階段を登って乗り込みました。私の座席は一番手前の3列シートの真ん中。
お代官からのレクチャー
さて、お代官から受けたレクチャーの内容を復習してみる。
その内容は
① フィリピンではキャッシュカードは使わないこと。
②両替は空港で10万円ぐらいまとめて替えてしまうこと。
マニラで両替後にフィリピン人に後を付けられた怖い経験を話してくれた。
③外出する時には高価な服は着ない事。
④貴金属は身に着けない事。
⑤財布は3つ持つこと。
なんの為ですかって聞いたら、お代官は「フィリピン人に囲まれたら財布を投げつけて逃げること。けして逆らったらダメ。フィリピンでは結構日本人も殺されていますから」と、とても示唆に富む内容で感心させられました。
お代官に2度と会う事はないだろう。しかし、面白い話をお聞きした。私と全く違った人生を生きてきた、彼の人生と私の人生とを比較してみたくなった。
彼は57歳でメーカー勤務。一流大学出身でエンジニアとして働き、役員になってからも仕事で海外を飛び回っている。
家族は、妻と男の子2二人で共に社会人となっているが孫はまだいない。彼には海外に彼女がいる。
私は、64歳。都内の私立の大学を卒業しサラリーマンとなり、営業マンとして30年ほど働いたが、サラリーマン時代は中間管理職止まりだった。
57歳で早期退職して起業し、コンサルタントとして仕事をしている。家族は妻と母と子供3人。孫は一人。私には、彼女はいない。若いころ世界を飛び回る仕事に憧れていたがそれは叶わなかった。
私は、今の人生に感謝もして満足もしているが、平凡な人生を送ってきた身としては彼の人生は羨ましい。
ふと、最近流行りのミッドライフ・クライシスという言葉が頭に浮かんだ。それは人生の後半になって「自分の生き方は本当にこれで良かったのだろうか?」「もっと違う人生があったはずだ」「これから一体どのように生きていけばよいのか?」などと思い悩んでしまう中年期の心理的危機だそうだ。
その適齢期は40歳から65歳らしい。まだ適齢期にいる私としてはマニラにいる1か月間で自分自身のこれまでの人生についてもこれからのどのように生きていきたいのかということについても自分と向き合ってみたいと思っている。
彼から私の夢も聞かれたので「英会話を勉強して、東京オリンピック2020でボランティアをしたい」と、伝えた。そして友人の様にキャンピングカーで日本中を夫婦で駆け巡りたいっていう話をしたときは、お代官は声を荒らげて「そんなのすぐに飽きるからやめておいた方が良い。」と断言した。
もしかすると彼は家族愛にとても飢えているのではないかと感じた。
それにしても彼の研究結果にあてはめると、私のマイケルは、お代官のマイケルとは、正反対の性格の様だが、ふと、自分のマイケルは、今の性生活に満足しているのかどうか尋ねてみたくなった。
スタディアブロード事前準備
搭乗口から階段を降りてバスで移動して、タラップから飛行機に乗り込んだ。今の時間は19時30分、まもなく成田から離陸。殆ど予定通りだ。
♬Ladies and gentlemen♬という機内放送を目の前でキャビンクラークが始めたので聞き入っている。
マニラまでのフライト時間は、4時間20分。到着時間は、日本時間で24時50分だがマニラと日本はマイナス60分の時差があるので、現地時間は23時50分。まぁどっちにしても真夜中だ。
私の座席は、ネット予約時に追加料金1,000円を支払って最前列左手、非常口横の足元が広い座席を確保した。
そこは、トイレも近く、前立腺肥大でトイレが近い私にとってありがたい。しかし代官の座席は、3列ほど後方なので話をすることは出来ない。
客室乗務員は、男女各1名。二人とも日本人で後部座席が見渡せるように乗客と向かい合う様に座っている。
女性のキャビンクラークがこちらに近寄ってきて、最前列の3人の席の方は非常時にお手伝いをお願いしますという内容を告げた。その様なルールをある事を初めて知った。
私は、リュックから準備ノートを取り出して、入国カードに記入するために必要な、パスポート番号、滞在先名、職業、渡航目的を英語で準備してきたものと関税申告書の記入例を確認。
そして、ニノイアキノ空港(マニラ空港)での英会話スクールの担当者との待ち合わせ場所のチェック。ノートに貼った案内図と迎えに来てくれる人の名前を確認、ノートによるとドナ。そして、万一の場合に深夜でも英会話スクールで連絡の取れる携帯電話番号。これは、スクールから事前に注意のアナウンスがあったからだ。
何故そんなことが必要かというと、このところ日本人旅行者を狙って、違う車に拉致して金品を奪う事件が頻発しているからだそうだ。
金になるものを奪った後、その辺に捨てられるとの事。逆らわなければ、命はとられないで済むそうだが、当然そんな目には遭いたくわない。
その為、待ち合わせ場所では、タクシーに乗る前に必ずスクールの黄色いスタッフジャンバーと、担当者の名前を確認しなければならないこと。
そして、待ち合わせ場所は空港から3分くらい歩くので、その間も周りに注意し、キャリーバッグは利き手で確り握る事。と、ノートに注意書きが添えてある。
そして、ノートに、ここに行きたいのでどうやって行ったらよいか教えてください、という英語も書いてある。我ながら、準備万全。
成田でお代官に案内図を見せたときに、この待ち合わせ場所は、初めてだとちょっと分かりづらいので、僕がアテンドしますよと言ってくれていた。彼に連れて行ってもらえば安心だ。
更にノートを見ると、沢山の文字が並んでいる。その中でひときわ目を引くのが、万が一の為に自宅に残しておくリストだ。
万が一の為に自宅に残しておくリスト
①パスポートのコピー
②搭乗券のコピー
③クレジットカードのコピー
④健康保険証のコピー
⑤英会話スクールの金融機関の口座番号
⑥英会話スクールの住所と電話番号及びファックス番号
口座番号は、資金がショートした時に、妻から振り込んでもらう為のものだ。
普段、ずぼらな性格だと家族から太鼓判を押されているが、だれにも頼れないとなると意外にちゃんと出来るものだな~と妙に感心している。
そして、ノートには何度も書き直した自己紹介がある。これは、一年前から始めた英会話のスカイプレッスンでフィリッピンの先生と一緒につくり上げたものだ。
てやんでぇべらぼうめ
マニラの英会話学校では、5分ほどの英語での自己紹介が必須だ。そのことについては、このスクールに申し込んで、校長先生とスカイプで話した際に、英会話のレベルチェックと共に教えてもらった事だった。
同時に、校長から「メモは見ずに自分の言葉で話してください。到着した翌々日のランチの時に、30名程の先生や生徒とスタッフに向けてメモを見ずに話してください。」と、メモは見ずに、と、2度も釘を刺されたのだった。
私の心の声は、生徒募集パンフレットの写真の生徒はメモを見ながら自己紹介しているじゃないか。おいおいどうなっているんだ。この時、心は「てやんでぇべらぼうめ」って叫んでいた。
近頃、池波正太郎に嵌っている。それというのも、東北自動車道羽生PAの鬼平江戸処によく立ち寄るからだ。
江戸時代の町並も再現されていて、鬼平が密偵達たちとしばしば食事をする五鉄もある。
そんなことを考えていると冷静になれて、まぁレベルチェックで頑張ったので、私なら出来ると思っての発言だったと良い方に解釈する事ができた。
機内食は、頼んでいないのでやることがない。勿論、スマートフォンも使えないので、繰り返し自己紹介文の暗記と発音のチェックを行っていた。
それもさすがに飽きてきたので、英語の勉強以外の本を読むことにした。それは、中野信子さんの「あなたの脳のしつけ方」だ。
そこには、お代官のマイケルの研究の成果を裏付ける記述があり驚かされた。
女にモテたければダメ男になれ!
ニノイアキノ空港に向かう機内で、脳科学者中野信子さんの本「あなたの脳のしつけ方」を読んでいる。この本にモテ力のつけ方という章があり、脳科学的見地から見たモテ術が紹介されていて大変興味深い。
この本は、ダメ男は万国共通で女性とセックスできやすいので、不特定多数と次々と性的関係を結びたければ「ダメ男」になる事だ。と語りかけてくる。
ダメ男の定義は(青春出版社「あなたの脳のしつけ方」定価1400円+税、引用)
①ナルシスト的性質。
自己中心的で人にひどい事をされるのは許せないけど、自分が人にするのはOKと思える人
②マキャベリスト的性質。
嘘つきであり目的のためには手段を選ばない人で自分を良く見せるためには嘘をいとわない人
③サイコパス的性質。
スリルを求めるタイプ、衝撃的にスリルを追い求める行動に出る事があり、他人の気持ちや幸せをあまり考えない人
そして、モテるのに容姿は絶対条件でないという、うれしい内容となっている。何故、ダメ男が、モテるのかについて知りたい人、そして女にモテたい人には、私は「あなたの脳のしつけ方」を読むように勧めている。
私が関心を持ったのは別の部分だ。それは、お代官のようにセックが大好きで、どんどん浮気をする人間とそうでない私のような人間とは、脳科学的見地からどんな違いがあるのかについての証明部分だ。
それは「愛せる脳」と「愛せない脳」の違いを動物実験で証明したという部分で、実験の被験者である「プレイリーハタネズミ」は生涯を一組のつがいで過ごすというものだ。
このような生き物は哺乳類としては珍しく本能的に一夫一婦制をとるそうだ。ここからは、私の頭でも整理しやすいように「プレイリーハタネズミ」を「鍵ネズミ」と読み替える事にするが、その様な哺乳類は3パーセントしかいないそうなのだ。
一方、97%に属している「アメリカハタネズミ」のオスは特定のメスとつがいになることはせず、出会ったメスと次々と関係を結ぶそうなので、こちらは「お代官ネズミ」と置き換えてみる。
この二種類のネズミの脳の違いについて、調べてみたところ。両者では、AVPという物質の量が大きく異なることが分かった。
愛するホルモン
その物質は、脳の脳下垂体で分泌されるホルモンで、本書では「愛するホルモン」と呼んでいる。
そして、人間の場合この物質が少ない人の特徴は、結婚する割合が少なく、結婚しても離婚率が高いそうだ。
ネズミの実験は更に興味深い方向へと進んで行く。
浮気性である「お代官ネズミ」のオスのAVP受容体の量を、もし貞節な「鍵ネズミ」並みに増やしたらどうなるのか。
結果は、みごと一夫一婦制になったそうだ。
そうか、お代官はAVP受容体の量が少なくて、私は多いという違いがあるのだと大いに納得したが、私のAVPを減らすことも出来るのなら1年間ぐらいお代官の人生も生きてみたい気もする。
そして、お代官のAVP受容体の量を増やしたら彼はどんな一年間を過ごすのかを見てみたいものだ。
機内で英語での自己紹介の練習
あと一時間ほどでニノイアキノ空港に到着するというアナウンスを聞いている。真夜中だが機内を見回してみても寝ている客は少ないようだ。
私の両隣の若いビジネスマン風の二人も睡眠をとることなく様々な書類に目を走らせ、メモを取っている。そんな中、お代官はどうしているかと目をやると、爆睡している。旅慣れている人は流石だ。
ジェットスターの座席は、3列×29席。私は、一番前の座席なので足元が広くて快適で追加料金のコスパには満足している。
旅慣れていない私は、眠れないので自己紹介を読み返している。英文でなく、日本語で内容を理解しながら英文を読み返してみる。
「皆さんこんにちは!初めまして。私は鍵シゲキ。シゲキと呼んでください。日本からきました。
「HI everyone. It’s nice to meet you. I am Shigeki Kagi. Please call me Shigeki. I’m from Japan. 」
生まれたのは宮崎県で、今は埼玉県に住んでいます。
「I was born in Miyazaki prefecture and now I live in Saitama prefecture. 」
埼玉県は東京の直ぐ北です。
「Saitama prefecture is just north of Tokyo. 」
私は、64歳。安倍晋三と同じ年です。
「I’m 64 years old. I’m the same age as Shinzo Abe. 」
※安倍晋三首相はフィリピン人に人気があるので安倍さんの名前を出すのは、プラスだ。
皆さん、彼のことを知っていますか。
「Do you know about him? 」
※この時、him の前に「about」もしくは「of」を付けないと、個人的に知っているとなるので注意!
そうです。彼は日本の総理大臣です。皆さん。良く知っていますね。「That’s right. He is a Japanese Prime Minister. Everyone knows him. 」
日本人として嬉しいです。
「I’m happy as a Japanese. 」
勿論、私もロドリゴ・ドゥテルテについて知っています。
「Of course, I know of Rodrigo Duterte. 」
私は、不動産会社を経営しています。
「I run a real estate company. 」
フィリピンには初めてきました。とても今ワクワクしています。
「This is my first visit to the Philippines. I’m excited now. 」
こちらにいるのは1か月間です。
「I’ll be here for a month. 」
もし英語が話せるようになったら、外国人観光客に埼玉の観光スポットを案内したいです。
「If I can speak English, I would like to show foreign tourists about sightseeing spots in Saitama」
そして、私は東京オリンピック2020のボランティアです。
「And I am a volunteer of Tokyo 2020 Olympics. 」
英語で道案内を出来るように勉強します。
「I will study so that I can give directions in English. 」
私はウクレレを演奏する事が好きです。
「I like playing the ukulele. 」
マニラにウクレレを持ってきました。
「I brought the ukulele to Manila. 」
毎日の授業は4時間なので、空き時間に公園で練習したいと考えています。
「I have 4 hours of lessons every day, so I would like to practice in the park in my spare time. 」
一番好きな浮世絵師は、葛飾北斎
私の趣味は、浮世絵を観ること
「My hobby is watching ukiyo-e pictures. 」
一番好きな浮世絵画家は、葛飾北斎。
「My favorite ukiyo-e painter is Katsushika Hokusai. 」
皆さん!北斎を知っていますか?
「Do you know of Hokusai? 」
とても有名な浮世絵が、波の絵です。グレートウエーブと呼ばれています。「His most famous ukiyo-e picture is the wave painting. It is called the Great Wave. 」
知らない方は、あとでググってください。
「If you don’t know that, please google later. 」
浮世絵は、江戸時代の広告なのです。
「Ukiyo-e is an advertisement from the Edo period. 」
流行りの髪形や和服を絵にしているんです。
「It’s a picture of fashionable hairstyles and kimono. 」
そして、旅の案内です。
「And it is a travel guide. 」
それから、人気俳優や美人の店員のブロマイドです。
「Then there is the bromide of popular actors and beautiful clerk. 」
浮世絵について知りたい方はグッグってください。
「If you want to know about ukiyo-e, please google it. 」
「I have a dog.」私は、犬を飼っています。
彼女は保護犬でした。
「She was a protective dog. 」
雑種で9歳です。
「She is a hybrid and nine years old. 」
私は妻に会えないよりも彼女に会えないのが辛いです。
「It’s harder for me not to see her than not to see my wife. 」
妻には内緒です。
「Don’t tell my wife. 」
私は英語がまだうまく話せないので、皆さんのサポートが必要です。
「I don’t speak English well yet, so I need everyone’s support. 」
「I’m a socialist and an optimist. 」
仲良くしてください。
「Everyone, please have a good relationship with me. 」
よろしくお願いします。
「Thank you. 」
と読みながら、そうだ!今日、フィリピンの英雄であるパッキャオがエイドリアン・ブローナーにボクシングの試合で勝って、WBA世界ウエルター級タイトルマッチを防衛したので、そのことも付け足そうとノートに書き加えた。
プロボクサーのパッキャオの大ファン
パッキャオは、オスカーデラホーヤに次ぐ史上2人目の6階級制覇を成し遂げたプロボクサーであり、現在WBA世界ウエルター級チャンピオンで国会議員にして、次期大統領候補。
そして、驚く事にフィリピンプロバスケットボールリーグのバスケットボール選手兼ヘッドコーチでもある。
2015年には、ラスベガスで行われたフロイド・メイウエザー・ジュニアとの1試合だけで、150億円を稼いだ男で国民的アイドルだ。
自己紹介の時に「私はパッキャオの大ファンだ」と宣言する事でフィリピン人のハートをわしづかみしようと考えている。パックマンって言う方が良いかなんて考えている。
パックマンは、テレビゲームのパックマンからとったニックネームであり、リングでもパックマン・パッキャオと紹介されている。
だが、どうしてそのニックネームになったのか、失念してしまったので、後でググってみるって準備ノートに書いた。
さあ、飛行機はそろそろランディングの準備にはいっている。ノートをリュックにしまって、コンポーネントにしまって、シートベルトを締めてリクライニングを戻して着陸に備える事にする。
マニラ空港から待ち合わせ場所へは命がけ!
♬Ladies and gentlemen. We arrived at Ninoy Aquino Airport. Blah blah blah. ♬ 皆様。ニノイアキノ空港に着きました。ブラブラブラって何を言っているが聞き取れない。
ニノイアキノ空港には、ほぼ定刻の現地時間23時50分に着いた。日本時間でいうと0時50分。気温は25度位なので、冬の日本から来た人間にとっては暑く感じる。
空港に着陸後、流れに沿って入国ゲートに進み、パスポートと入国カードを用意して、入国審査。
Foreign Passportという列に並んだが空いていたのと日本人という事でスムーズに通過。本当に日本のパスポートは最強だという事を実感した。
その後、baggage claim(手荷物受取所)に移動、搭乗者数も最大で180人ほどなので、並んでまもなく私のキャリーバッグも流れてきた。
そして、キャリーバッグを取り上げて、周りを見渡したが、お代官の姿が見えない。おっと、どうしたんだ。
彼は、ボストンバッグ一つだけで荷物を預けていないから、ここで待つ必要はないけど。彼に、待ち合わせ場所の案内図を見せたときに、初めてだと間違いやすいので僕がアテンドしますよと言ってくれていた。
彼は、アテンドを付きそうという意味で使ったらしいが、チョット格好いい。
アテンドを私も何時か使ってやるぞなんて思っている。
彼はトイレかなと思いながらしばらく待ったがそうでもないようだ。
ここまで、リラックスしていたのに、急に緊張が走った。予期せぬことが起こると誰でも冷静さを失ってしまうものだが、私は特にその傾向が強い性格だ。
まぁその為にサラリーマン時代から準備には人一倍時間を使ったものだ。
それでも、しぁない自力で待ち合わせ場所まで行くしかないと腹をくくって、リュックから準備ノート取り出して案内図をチェック。
案内図には、日本語で第一ターミナルの待ち合わせ場所は「空港建物の出口を出て、前の道路を渡ってまっすぐ進んでください。突き当りまで行くと下り坂が2つに分かれているので、その右側を進んでください。道を下ったところに、TUVWXYZ WAITING AREAというサインがあって車道を挟んで向かい側が待ち合わせエリアになります。
スタッフは柵から内側には入れませんので、車道を渡って柵の手前までおこしください」とかいてある。
お代官とはぐれた、やばい!どうしよう?
しかし、お代官をあてにしていたので、今いる場所すら分からない。
周りを見回してガードマン風の男性を見つけ、ノートに書いてある英文を読み上げて、道案内をお願いしてみた。彼は、案内図を見ながら、下り坂の所まで誘導してくれたので本当にありがたかった。
英会話学校からの事前アナウンスで「ニノイアキノ国際空港には、4つのターミナルビルがあり、ターミナルビル間は連続性が全く考慮されなく、それぞれが離れていて各ターミナル間の移動の際は一度空港敷地外の一般道路に出なくてはならず、迷子になったら見つけられないので充分に注意してくださいと念を押されていた。
そして、たまに、待ち合わせ場所で会えない人もいて、2年ほど探していますがまだ見つかっていません。なんて、ひどい冗談をいうものだと怒りもこみあげてきたが、後で聞いたら冗談ではないらしい。そんなあほな。
しかし、ターミナルビル4つというのは凄い規模だ。私が知る限り成田空港でさえ3つのターミナルなのだから。
歩いているうちに、ピッピッピピピイとすさまじいクラクションの音。そして、真夜中なのにおびただしい車とオートバイ数。排気GSとほこりにまみれにされて気分が悪くなる。
待ち合わせ場所は、ガード下。沢山のフィリピン人が日本人らしき名前のカードを振りながら、名前を叫んでいる。
東京のかとうさん。千葉のさとうさん。しかし、すぐにクラクションの音にかき消されていく。
私は目を凝らして、黄色いスタッフジャンバーを探す。車のヘッドライトが並んでいる人の顔をなめて行く。
あっ!あそこだ。柵の向こうに黄色いスタッフジャンバーを見つけたので、ふっと力が抜ける。
こんにちは。ドナ。私たちは挨拶を交わした。私は、幸いにも迷子にならずに、スタッフのドナに会えた。しかし車のヘッドライトに照らされたドナの顔は、まだだれかを探している。
ドナが何か言っているが、クラクションの音がうるさくて聞き取れない。聞き返してみると、彼女に誘導された、ワンボックスタイプのタクシーの中で「あと一人来るので、待っていてください」と英語で言ってくれた。
ここから「英語学校までは、どれぐらいの時間がかかる」とノートを見ながら聞いてみると「この時間だと多分1時間位と答えてくれた」どうにか私の英語も通じるようで安心した。
まもなくして、そのあと一人が来た。「すいません。迷子になっちゃって。と、謝りながらタクシーに乗り込んできた。
年のころは20代後半といった男性だ。
マニラ空港からスクールへ
私達は、ワンボックス型タクシーの後部座席に並んで座る事になった。「こんばんは。初めまして」と私から挨拶。迷子になり気分的にも落ち込んでいるようだったが、彼も気だるそうだが、型通りの挨拶を返してくれた。
タクシーは、空港の喧騒につつまれていたが、走り出したら想像していたよりも車は少なく、スムーズに走っている。信号も少ない感じがするし、車内も静かだった。
鍵:「私は、1ヶ月の予定ですが、あなたは」
彼:「僕は、6ヶ月です」
私は成田で会ったお代官の様に、年齢を重ねて経験も積んできた人が使う「僕」という言葉は、格好いいな~。と、思う。歌手の小椋佳が僕は、なんて言うとしびれちゃう。
そしていつか「僕」が似合う男になりたいと思っているが、未だに言えない。
しかし、若い人が使う僕には、違和感がある。
サラリーマン時代に面接官をしている時に、たまに入社希望者で「僕」って言う学生がいて、即バツを付けた記憶が、ふと蘇がえってきた。なんだか、彼の面接をしているような気分になっていた。
私は自分が「年齢を上下関係の基準値」としちゃうところが気に入らないが多分それは、年功序列制度でサラリーマン時代を駆け抜けてきた弊害だろう。
それでしばし相手を不快にさせている。まさに今よく耳にする老害だ。この時も彼を不快にさせたかもしれないと、後になって反省した。
鍵:「6ヶ月とは、凄いね。目的はなんなの?」
彼:「転職の為にTOEICで高得点を取る為です。あなたは?」
鍵:「私は、東京オリンピックが来年開催されるので、日常会話が話せるようになりたいと思ってきました。」
彼:「ああ、そうですか。お互いに頑張りましょう。」
趣味として英会話を学びに来た人とは話をしてもしょうがないと、その時彼は思ったのだろう。その後は会話は途切れてしまった。
個人レッスンが始まってから、彼にレッスンをしているフィリピンの先生から聞いた話だと、彼は既に会社を辞めてしまっていて、今までに貯めたお金で自分が望む会社に就職するために必死で英語を勉強しているのだそうだ。
この英会話スクールの売りは、マンツウマンレッスン。英語だとONE ON ONEというそうだが、その分個人的な話にもなる、他の生徒の個人情報も耳に飛び込んでくるのだ。
会話も途切れたので車窓から外を見ていたが、真夜中だというのに通りに出て大人も子供も昼間の様に遊んでいる。
土曜日の夜だったかなと手帳を確認しみると日曜日の深夜だ。
マニラの交通渋滞は、半端ではなく、日中に空港からスクールのあるケゾンシティまで行く場合は、どれぐらい時間がかかるか予測不能だと聞かされていた。
しかし、深夜という事もあり、スムーズにタクシーは走っている。時計を見ると空港を出発してから、50分ほど経過している。
ドナが「もうすぐ、5分でつくよ。準備してくらさい。」と、私の英語レベルの片言日本語で話してくれたので気持ちが和んだ。
まもなく、タクシーはゲートの前で停車した。高級住宅地には、住民の安全を守る為に設置されたゲートがあり、中に入るには入り口のガードマンによる不審者チェックを受けなければならない。
私が選んだスクールは、安全な地域にあるようだ。
お尻を拭いた紙をトイレに流してはダメ!
ほどなくして、タクシーは古びて外壁に蔦が這っている3階建ての塀に沿って停車した。道幅は、2台の車がやっとすれ違えるほどだ。
街灯が照らす下に、女性スタッフが迎えに来ていた。空港から一緒だったスタッフのドナは彼の方をアテンドしていった。
そして、出迎えてくれたスタッフが、タクシードライバーから私のキャリーケースを受け取り、それを大事そうに抱えながら私を部屋までアテンドしてくれた。スタッフ教育は、私の予想よりちゃんとしているようで安心した。
彼とは、反対の方向に歩いて直ぐの幅が1メートルほどの路地に入った所で彼女は足を止めた。
そして、ドアの前で説明を始めた。犬が激しく吠えているので彼女の声が聞こえない。彼女はそのことに慣れているようで、ボディランゲージで説明をしてくれている。英会話初心者の私にとってボディランゲージは大いに歓迎だ。
彼女は、路地を曲がったところのこの突起物に手を一杯に伸ばして、指先で触りながら私は背が低いので頭にぶつからないが、あなたは背が高いから頭にぶつかるので注意してね。何度もぶつけてけがをする人がいるということらしい。
突起物に注意!
私は、ガッテン承知!と言いながら、OKとジャスチャーを返したが、彼女には「got it」ゲットイット日本語の意味としては分かったと聞こえたらしい。
そんなことより私はそんなものにぶつけるような間抜けではない、反射神経はまだまだ若い者に負けない自信がある。
よく見ると、緩衝材が巻いてあるのが見えた。今までぶつける人が本当に多かったのだろう。こんなものにぶつける人の顔が見たいものだ。
私は、ぶつけることはないがどんくさい人にとっては細やかな配慮は必要だろう。
彼女の身長は、私の妻と同じぐらいの身長だから、150センチちょっとくらいだろうか。
そして、カギを取り出しドアを開けている。私は、あっ!鉄格子だと、声を上げそうになったが、深夜でありその言葉を飲み込んだ。だって、隣は普通の住宅なのだから。
彼女は、2枚目のドアを開け電気を付け部屋に入るよう手招きしてくれた。
足元の段差に注意!
そして、足元を気にするような合図をしている。なんだろうと、見てみると階段にして1段分下がっているので、気を付けてという合図だと分かった。確かに足元が一段下がっている。これはアブナイ!
私は段差に注意しながら靴のまま中に入った。床はすべてコンクリートだ。室内は外気温よりも何度か低く感じたが、その時は私が到着する前にエアコンを付けてくれていたのだろうと考えていた。
部屋を見渡してみると窓が一つもない。部屋の中にいると天気も昼なのか夜なのか分からない。
まるで鬼平犯科帳に出てくる盗人たちが隠れ家にしている盗人宿みたいで、今にも鬼平が扉を開けて「盗賊あらため方、長谷川平蔵である、神妙にせい!」って入ってきそうな雰囲気だ。
いやいや、盗人たちが狙っている千両箱が沢山積んである土蔵の方がちかいかもしれない。いつもならば妻が隣で時代劇の見過ぎだなんて突っ込んでくれるが、この先一ヶ月は、自分一人でボケと突っ込みをするっきゃない。そう思うと少しさみしい。
そして、なんだか誰かに見られている気がして気味が悪い!
部屋の間取りは事前に写真で確認した通りの1ルームタイプ。最近都内でおしゃれな賃貸物件として人気のあるスタジオなんて呼ばれているやつだ。彼女は、キャリーケースを置くと。短いインフォメーションを伝えただけで、足早に部屋から出ていった。
その内容は、名前がマンゴウで朝8時に別のスタッフが朝食の為に迎えに来ますので、それまでは誰が来ても絶対にドアを開けないでと言う事だった。
開けたら危険という事らしい。治安は良いと聞いていたが気を付けなくては。
彼女を見送ってから、2重のドアのカギを夫々しめて、部屋の中の何も入っていない小さな冷蔵庫に一本の缶ビールを置いた。
スクールの部屋に着いたら乾杯するつもりだったが、マニラの気温ですっかり暖められたビールをくれとは喉チンコは要求してこない。
玄関ドアから一番遠いところにベッドがありこの部屋の3分の1のスペースを埋めている。
その横には小さな洋服ダンス。玄関ドアの近くの冷蔵庫の横には、机と椅子が2つ並んでいる。その横にはミニキッチン。一番奥がトイレとシャワーだ。
トイレのドアに紙が貼ってあり日本語と英語で文字が書いてありその内容に驚かされた。そこには「マニラは水圧が低いのでおしりを拭いた紙は便器に流さずに、ゴミ箱に捨てください。」という内容。続けて「スタッフがゴミを回収します。」と書いてある。勿論、シャワートイレではない。
紙にべったり付いたうんち君が部屋中にうんち君マークだらけにしちゃう映像を思い浮かべておかしかった。しかし、べったりうんち君付きの紙を回収されるのは恥ずかしさもある。何といっても一人部屋なので誰の体から生まれたうんち君なのかは明白だし、英会話のレッスンを受けるのはこの部屋になるからだ。
幸いにして今のところ便意はない。ここでは大便はしないで、食堂などで用を足すことを固く決意した。
好きな女を終の棲家にするって?
ベッドに横になりながらお代官が話してくれた事を思い出している。それにしてもお代官の話は新鮮でとても興味深かった。
その中でも特に、好きな女性を終の棲家にするという言葉には驚かされた。
その言葉から私は、ヤドカリを連想した。
そして、女性の鞘の部分、彼流にいうところのマイクケースが棲家で、マイケルの安息の場所という事だろうと考えながら、マイケルがマイクケースに収まるイメージが頭に浮かんできた。
多分この時、私は相当いやらしい顔をしていただろう。
そう思うのには理由がある彼とマイケルは別人格であり、彼のマイケルは異常なくらいの女好きで、いつもマイクケースに入っていたいと訴えてくると真顔で言っていたからだ。
その時お代官は、マイケルと話が出来るんだと言っていた。私はスルーしてしまったが、もしそんなバカなことがあったらマンガだ。なんて、考えながら子供の頃読んでいたマンガの「ど根性ガエル」を思いだしてにやにやしていた。テレビでテーマソングが始まるとワクワクしたものだった。
サビの部分の歌詞があやふやなのでググってみようとしたが、机に置いたスマートフォンを取りに行くのは億劫なので記憶を手繰ってみることにした。
そのマンガはたしか中学生のヒロシという少年が転んだ時に、下敷きになったカエルがTシャツに張り付いてしまたという設定だった。カエル君の名前はぴょん吉でヒロシ君と一緒に生活するが、最初のうちはケンカばかりしていたが、やがて親友となるという学園マンガだった。
このイメージが浮かんできたのは別人格が同居しているというのが共通点だからだ。ふと私のマイケルに聞いてみたくなった君は今までの生活に満足しているのか。
疲れているからそんなバカなことを考えているのだろう。もしかしたら、窓が一切ないこの異様なこの部屋の雰囲気がそうさせているのかも。
それに、元来怖がりな私としては本当に何かがいるような気がしてならないし、気味が悪い。
床から何かが出てきたらどうしよう!なんて考えると、怖くて目を開けられない。
まったくバカバカしい!そんなことは、ありえない!
気温が少し高い気がするのでエアコンをつけて、明日の為に少し眠ることにする。
お代官に何があったのか?
高揚感に包まれていて眠れそうもないのでベッドに腰かけながら準備ノートを開いて、スケジュールをチェックしている。
1月21日(月)の部分には授業はなし。朝食後、スタッフからスクールのルール説明をうける。
昼食後、スタッフに徒歩圏にあるショッピングモールに案内してもらい両替をする。そして購入するものは。
①ペットボトル入り飲料水
スクールで用意している水は飲まない事。
②ヤクルト
フィリピン好きの業界関係者から整腸剤として毎日飲むように勧められた。
① 缶ビール
④シャンプーとボディソープ
日本人に見られない様にフィリピンの人と同じ匂いがする方がいい。
⑤虫よけスプレー
この時期のマニラは、蚊を媒介とするテング熱が流行するので必ず買う事。
そして、モール内の両替所で、日本円3万円をペソに両替して貰う。
1ペソ=2.15円なので、13,950円-手数料。
※ペットボトル入りの水(500ml):15ペソ(約30円)
と書いてある。④⑤は、お代官からの助言で追加したと書いてある。
内容を確認してからノートを机に置いて、パジャマに着替えた。シャワーを浴びようかとも考えたが、明日の為に少しだけでも眠ることに決めた。
ベッドの回りを点検してみて発見したのはコックローチの死骸のみ、掃除が行き届いていることに安心感を覚えた。
ベッドに横になり今日一日のダイジェスト映像をみている。その中で、ラッキーだったのはお代官と出会えたことだ。
手荷物の契約重量オーバーによる追加料金の面倒な手続きから救ってくれたこともありがたかったけど彼との話が有意義だった。
それにしても空港に着いてから、お代官はどこに行ったのだろう。約束を破るような人ではない。そう確信している。
その自信は30年以上も住宅の営業マンとして働いてきて多くの人に会ってきた経験が裏付けにあるからだ。
彼のような人は、女を裏切ることは平気でも男は裏切らないタイプだ。
そう考えながら、あっ、そうだ!と、ある結論に達した。
彼は空港で両替に行ったのだ。私にも空港で10万円の両替をする事を勧めてくれていたじゃないか、そう考えると彼に対して申し訳ない気持ちがふつふつと湧いてきた。
お代官を探し出すにはどうする?
彼にもう一度会ってお詫びをしたいが、本名も知らないんだからどうしようもないと考えていた。
しかし、いやいや彼を探し出す手段が全くないわけではない。だって彼が勤めている会社を知っているのだから。
名前は分からなくても電話して事務の方に「御社の部長さんに成田国際空港で昨夜、大変お世話になったのでお礼をしたい。お名前は分からないのですが、強面の方でした。」ってお願いすればきっと取り次いでくれるはずだ。
しかし、問題は電話に出た方が日本人であるとは限らない。もし”Hello”って言われたら一瞬、私の脳は思考停止になるだろう。
しかし、ここはマニラなので間違っても”もしもし”とはいわないだからから
その時は「Is there anyone who can speak Japanese?」どなたか日本語を喋れる方はいますか?と聞いてみて、もしいなければこの文章を英語で伝えなければならない。
それはどう考えても無謀だ!
それではどうするか?彼の会社に何度か電話して” もしもし”と言ってみて、”もしもし”と返事がなければ、電話を切ってしまう。そして再度電話して”もしもし”に対応できる人が出るまで辛抱強く何度もかける直すことも一案だ。
しかし、それではいたずら電話みたいになってしまう。いや、間違いなく無言のいたずら電話だ。当たり前だがそんなことは出来ない。
それではどうするか?彼の会社に行って受付で日本語の出来る方を紹介して貰うのが一番簡単だ。あるいは英文をみせて対応して貰う事も出来るだろう。しかし、強面の部長を探してくださいというのは、こちらとしては刑事ドラマみたいで面白いけど。先方にとっては迷惑でしかないだろう。
いっそこのスクールの先生に説明して、先生から彼の会社に電話して貰えば話は早いような気がする。しかし、こんなことを頼めるだろうか?
なんだか、まだ誰かに見られている気がする。
語学スクールは日本語禁止!
なかなか寝付けずに何度も寝返りを打ちながらも少しは眠ったようだ。
今朝は、スクールでの朝食デビューだ。頑張るぞっと自分に気合をいれた。この時期のマニラは乾季であり最高気温は30度前後と把握しているのでTシャツと短パンを用意した。
そしてパジャマのままラジオ体操第一で体を動かした。長年聴きなれている曲だから音楽と体が一体となって気持ちがいいので第2までやりきった。
スマホの時計は6時20分と表示している。何時ものようにニック式英会話ジムで口慣らしと耳慣らし練習を行った。これはplayストアから随分前に3,000円ほどで手に入れたのだが、どれだけ使っても追加料金が一切かからないのに、必要に応じてバアジョンアップしてくれるのでとても気に入っている。
スタッフが呼びに来てくれるまでにはまだ1時間半ほど時間があるので、シャワーを浴びようとシャワー室で一番上についているつまみのようなものをひねるがお湯が出ない。
やり方が悪いのかと何度もトライするが水しか出ないので、日本から持ってきたボディソープもシャンプーも使う事はあきらめた。
水のシャワーを浴びながら今朝スタッフに伝えて直してもらおうと考えている。シャワーのお湯が出ないって、英語では「The hot water in the shower isn’t working.」だったかな~。
まぁ事前にフィリピン語学留学体験記などを読んでいて、トラブルの時の英会話として準備ノートに英文も一通り書いてきたので、私の発音が通じなくても指さすだけでも分かって貰えるから安心だ。
そして、シャワーを浴びてから短パンとTシャツに着替えて洗濯物をビニールに入れた。スクールでは部屋の掃除の他に洗濯もやって貰える事になっているからだ。
朝食の時は日本語禁止がルールだ。そして、スカイプで話をした校長先生とも会うことになるだろうから、準備ノートを広げてあいさつ文を再度頭に入れる事にする。ようやく直接お会いできて嬉しいです。という英語「It’s nice to finally meet you in person.」を覚えておけば何とかなるだろう。
コンコン、8時ちょうどにスタッフが予定通りに迎えに来てくれた。内側のドアのカギを外して、手前に引いて開けて鉄格子ドアの窓から外を覗くと黄色いスタッフジャンバーが見えた。
こちらから挨拶しスタッフも挨拶を返してくれたので、鉄格子のドアを手前に引いて外に出た。ホテルから外出するのと同じように、カギを持ってスタッフについて行くと直ぐにスクールの門に着いた。門の内側は洗濯場になっていてその奥が建物の入り口になっていた。
そこには、既に沢山の履物があるので私も靴を脱いで内部に入った。
スタッフは3か所あるテーブルの内の一番奥のテーブルまでエスコートしてくれた、テーブルを見渡してみると既に何人かが食事をしていた。その中に空港から一緒だった彼もいて隣の男性と話をしている。
彼の隣の男性は私に気付くと隣に座るように手招きしながら英語で挨拶をしてくれた。その人は校長先生だった。どうやら校長の両隣がニューフェイスの朝食デビュー時の指定席らしい。会話は英語だが後から思い出しながら部屋でノートに英文と共に日本語訳も書いた。
It's nice to meet you in person.
校:「Good morning. It’s nice to meet you. Welcome to Manila.」おはようございます。ようこそマニラに。
鍵:「Good morning. It’s nice to finally meet you in person.」おはようございます。直接お会いできて嬉しいです。
校:「Same here. Did you sleep well last night?」こちらこそ。昨夜はよく眠れましたか?
鍵:「Yes, I slept well, Thank you.」はい。良く眠れました。ありがとう。校:「How was your flight?」フライトはいかがでしたか?
鍵:「It was all right. I was able to study English.」よかったですよ。英語の勉強も出来ました。
校:「That’s good. I’m looking forward to your self-introduction on Wednesday.」それは良かった、水曜日の自己紹介も楽しみにしてみますよ。鍵:「I will try my best.」精一杯頑張ります。
校:「Please play the ukulele when you introduce yourself.」自己紹介の時にウクレレを弾いてください。
「There are no classes today. Mango will guide you around the mall, so please spend your time today. 」今日は、授業はありません。マンゴウがモールなども案内しますので、今日はゆっくり過ごしてください、と言って席を立って自分のオフィスに行ってしまった。
スクールに申し込んでスカイプで趣味の話をした時に「I play the ukulele in my free time.」暇な時はウクレレを弾いていますと、言ったのを覚えていてくれたことにとても親しみを感じた。
食事はビュッフェ形式となっていた。食事開始から少し時間が経過していたので誰も並んでいない。私は食材を選びながらみそ汁と最後にご飯を盛り付けた時に、同年代の女性が声をかけてくれて一番手前のテーブルに誘ってくれた。
最初は気が付かなかったが3つのテーブルは年代別に分かれているようだった。一番手前が日本人の高齢者グループ。2番目が若者グループで一番奥が勉強熱心グループで外国人らしき人も混ざっている。一番奥のテーブルは英語で活発に会話を楽しんでいる。
高齢者席は、筆談!
2番目のテーブルは私でもわかる程度の簡単な英語で話をしている。
一番手前は黙々と食事をしている。中には紙やiPadにペンを走らせながら頷きあっている人たちもいる。本心では日本語で話したいのだが、夕食時以外に日本語で話をした場合の罰金制度を気にしている様子だ。
私も会話したのは決まり文句のどこから来たのですか。とか、何日間滞在する予定ですか。なんて話をしたぐらいだ。シゲキと呼んでくださいと話したが、私も含めて高齢者としては、名前で呼ぶことに抵抗があるようなのでシゲと呼んで貰う事にした。
もしかしたらこの一番手前のメンバーの中では、私は英語の勉強への意欲は高い方に分類されるかもしれないと感じた。それは無理もない平均年齢も私よりも高いようだと考えながら、筆談している紙を覗いてみてもやっぱり全部日本語だった。
A:「今日、スパに行ってマッサージしてもらう?」
B:「英会話できなくても大丈夫なの?いくら位かかるの?」
A:「英語が話せなくても大丈夫だったよ。90分で1500ペソ。日本円で3000円」
B:「それなら夫も一緒でお願いします。」
A:「待ち合わせは19時半に門のところでいい?」
B:「いいよ。タクシーで行くの?」
A:「ショッピングモールの中だから歩きで行きましょう。」
B:「始めてなので楽しみ。」
なんて具合でスタディアブロードもいろんな楽しみ方があるようだ。このスクールはバリバリの英語学習者だけだとHPを観て認識していたがそうでもないらしい。そう思うと肩の力が一気に抜けてホッとした気分になったが、自分自身のモチベーションを維持するために、なるべく早い時期に真ん中の席に移動しなければという思いがふつふつと湧いてきた。顔を上げて回りを見渡すと2番目テーブルと奥のテーブルには誰もいない。
多分、彼らは9時から英会話の授業が始まるのだろう。そして一日8時間の授業を選択した人達なのだろう。きっとこちらのテーブルの人たちは、私と同じように1日4時間の授業を選択した人達なのだろうと考えていた。
一番手前のテーブルも何人かが席を立って食器を片付けている。どうやら食事はセルフサービスで食器は自分で洗い場に持ってゆく決まりの様だ。私も、洗い場に持って行った。ありがとう、美味しかったと言って部屋に戻ろうとしたときに声を掛けられて振り返った。声の主は今朝部屋に案内してくれた彼女だった。
「Good morning. I’m Mango. I’m going to your room at 10 o’clock today. 」おはようございます。私はマンゴウです。今日の10時にお部屋に行きます。
マニラの英会話スクールのルール説明
朝食後、部屋に戻る前に周辺を散策してみる事にした。この辺りは高級住宅地らしく敷地が広くて造りの良い建物が並んでいる。中には日本の盆栽を沢山置いてある住宅もある。
いくつかの建物には、「for rent」の紙が貼ってある。こんな大きな家が借家なのかと思って、よく読んでみると女性の方に部屋をお貸ししますという内容だ。日本流にいえば女性専用の下宿だろう。朝晩の食事がついて、○○ペソと書いてあったが、詳細については失念してしまった。
不動産コンサルタントとしては、海外移住の相談もお受けするので間取りを見てみたいという衝動にかられたが滞在中にその想いは叶わなかった。この様なことに拘性分なので、妻と海外旅行中でも日本人が移住している地域があると聞くとどうしても詳細が知りたくなって、個人のガイドを雇って案内してもらったこともあった。
特にバリで案内して貰った建物は良かった。プール付きで3LDK、掃除も料理も洗濯もやって貰えて月の賃料が日本円で10万円。プールは3軒でシェアしているそうだが、門の入り口にガードマンが常駐してくれる費用も込み。移住の候補としてメモした。
そんなことを考えながら歩いていると、個人商店が並んでいるところにたどり着いた。キヨスク程度の広さの店はたばこと飲料水を売っていた。その横は鉄板があって自分で焼いて食事のできる店で日本流に言えばお好み焼き屋さん。
その隣はマッサージ店でその隣が床屋だった。床屋の看板には英語で大人は80ペソと書いてある。そうすると日本円で160円。早いうちにここにきてカットして貰おうと決めた。
道路の反対側には八百屋さんと肉屋さんがあって主婦がのんびりと買い物と会話を楽しんでいた。そして交差点の角にはコインランドリーがあって、隣には大きな歯のモニュメントがあるので歯科だろう。どの店も看板はフィリピンの言葉と英語併記となっていた。そろそろ10時になるので部屋に戻ったが商店街から部屋まではとても近かった。スクールの門から逆回りすれば直ぐに商店街だったのだ。
そんなことを考えながら部屋の前の路地に着いた、危険人物が近くにいないかと見回しながらカギを取り出し。ゴツン!いや~痛かった。例の突起物にぶつかってしまった。
いや~。緩衝材が巻いてあって助かった。鉄格子のドアを開けてもう一度周辺を見回してから中に入った。まだ、仲良くなっていない隣の犬はしきりに吠えている。
部屋に入る時に躓きそうになった。それは、1段下がっているからたがそれも既にレクチャーを受けていたじゃないか。おいおい大丈夫かおっさん。と一人突っ込みをしてみる。
これからは出掛ける時も室内の照明を付けておくことにする。それなら、段差を見落とすことはなくなるはずだ。内側のドアを閉めて、外側のドアを閉めようとしている時に、黄色のスタッフTシャツに青いジーパンというスタイルでマンゴウがやってきて笑顔で挨拶してくれた。
スクールからスタッフは日本語を喋れても皆さんと話すときはすべて英語を使いますのでお願いします。と、事前に聞かされていた。その為にここから先も会話はすべて英語だった。
Welcome to Manila.
マ:「Hi! Welcome to Manila.」ようこそマニラに。
鍵:「Nice to meet you. I’m Shigeki. Please call me Shigeki.」会えてうれしいです。私はシゲキです。シゲキと呼んでください。
マ:「Okay. Nice to meet you too Shigeki. I will explain the rules of this school and how to use the room. First, regarding the toilet, please read the paper. 」はい。よろしくシゲキ。これから、スクールのルールと部屋の使い方について説明します。まず、トイレですが、紙を読んでください。鍵:「Yes ,I read it.」はい読みました。
マ:「Let’s read this note and explain it. I read English sentences, so please listen while looking at both Japanese and English. 」それでは、このノートを読みながら説明します。私は英語の文章を読みますので日本語と英語の両方を見ながら聞いてください。」
鍵:「Got it.」ガッテン。
貴重品はフロントに預ける事から始まって様々な内容を説明してくれた。今までに読んだことがあるのでボーっと聞いていた。チコちゃんがみていたら「ボーっと生きてんじゃねぇよ」って叱られそうだがマンゴウは一生懸命に説明している。私は頷きながらノートに目をやったりマンゴウの顔を眺めたりしていた。退屈な時間が流れていく。
ようやく、読む紙面が薄くなってきて食事中の約束の部分まで来た。私の記憶だともうすぐ終わりだ。
マ: 「Shouldn’t there be students of the opposite sex in the room. And you can use Japanese only at dinner. It’s the table closest to the entrance. Other than that, there penalties for using Japanese. Please sign the pledge if you like.」部屋に異性の生徒を入れてはいけない。
日本語を使うと罰則
そして夕食時だけは日本語を使っても良いが、それは、入り口から一番近いテーブルだけ。そこ以外で日本語を使うと罰則がある。よろしければ、誓約書にサインしてくだい。
私はこの文章を目で追いながら聞いているがどんだけ英会話を頑張ったらテキストなしでこの文章を聞き取れるようになるのだろうなんて考えていた。
鍵:「Okay.」と言ってサインで終了。
マンゴウから何かありますかと訊かれて「The hot water in the shower isn't working.」シャワーからお湯が出ないとお伝えてみた。すると、彼女は、シャワー室のプラスチックの椅子に立つとつまみを回し始めた。彼女の話だと「I was once a plumber.」って言っていたので以前は水道やさんだったらしい。プランマーは日本語で水道やさんだったはずだから。
彼女はつまみ部分の内部を見るようにカバーを開けて調整している。私はマンゴウがジェスチャーで体をささえてくれと伝えてきたので、後ろから両手で腰を掴んでいる。結構力のいる作業なのだろう彼女の体がくねくね動く。
そのたびに私の手に肌の柔らかさとくびれが伝わってくる。体臭も感じるほどの近さだ。ほとんど、フィリピンパブのハッスルタイムの様だった。そしてよく見ると尻も良い形をしている。触ってみたい衝動にかられたが、ゴックンと生唾を飲み込んだ。そんなことしたら初日から変態というレッテルを張られてしまう。
冷静になる為に変態は英語でなんて言うのか記憶を手繰ってみて、パーバー「pervert」という発音とスペル及びフレーズを思い出した。
「I’m a pervert.」と発音してしまった。日本語で言うと、俺は変態だ。
日本人の女性の前でそんなこと言ったらビックリしてその場から逃げ出すだろう。しかし彼女はその声に反応して振り向いたが何事もなかったように作業をしている。多分私の発音が悪くて通じなかったのだろうと胸をなでおろした。
Are you OK?
次の瞬間お湯が私の顔に掛かった。「Are you OK?」ってマンゴウに言われて。OKマンゴウ!と私は返した。その瞬間ヘイ!ダナーって聞こえて一瞬奇妙なものが見えた気がしたがあれは何だったのだろう?
彼女は慌てたのだろうバランスを崩しながらも御免なさいと言って、私の方を振り向き自分の首に巻いていたタオルで私の顔を拭いてくれた。
私は彼女のふくよかな胸の部分と向き合った。私の手はとっさに持ち替えて腰を両手でつかんでいる。まるでフィギュアスケートのデュエットみたいだったと一人閲に浸っている。それにしても、マンゴウの体が一瞬浮いた気がしたのだが気のせいだろうか。そして、どうしてヘイ!ダナーってマンゴウが言ったのかが疑問として残った。
彼女はつまみのひねり方を丁寧に解説してくれた。そのおかげでちょっとしたコツを掴むことが出来た。これで大丈夫今夜からはシャワーを浴びてボディソープもシャンプーも使えそうだ。気が付けばランチの時間までは後30分位しかない。
彼女は昼食後2時からモールに案内するので、両替したい円とフロントに預けたいものを持って、その時間になったら門まで来てくださいと言って帰って行った。マンゴウのことが気になってきた。「You look chubby and cute.」という言葉が直ぐに頭をよぎった。
日本語だと、ぽっちゃりでかわいいという意味だが彼女にはその言葉がぴったりだ。彼女のことが気になってきた。
フィリピ人の先生へのお土産は何にしよう?
お土産は貰うと嬉しいものだが相手の喜ぶ顔を想像しながら選ぶのも楽しいものだ。フィリピン人の先生やスタッフに喜んでもらえるお土産について、Skypeレッスンの英語の先生と何度か話をしたことがあった。
先生達もフィリピン人なのだが住んでいる地域やもちろん個人の趣味によって貰って嬉しい物は随分違うようだった。
たとえば、セブ島在住の先生の一押しは冷蔵庫にメモを挟むためのマグネット。先生曰く日本の100円ショップには素敵なマグネットが沢山売っていることが、友達とのランチなどの時に話題になるそうだ。そういわれて100円ショップに行ってみると凄い数のマグネットが売られていた。
それに今まで気づかなかったが我が家の冷蔵庫を見ると、妻も可愛いマグネットの愛用者のようだ。マグネットのお土産を買う時は連れ合いを頼りにしよう。マニラ在住の先生に的を絞ってレッスンを受けることにしたのだが、皆バラバラの意見だった。
比較的多い意見は柿の種。フィリピン人の多くが、柿の種をライスにふりかけて食べるらしい。つまりお茶漬けにするという事だ。そして、キットカットで日本にしか売っていない新製品。フィリピンではキットカットが人気だそうで、先生の記憶では抹茶味がまだ売っていないと言っていた。
マニラは平均最高気温が一年中30度を超えているので、とにかく甘いものが好まれるそうだ。マニラでは、なんでも凄く甘いのだそうだ。私がマニラに行くのだと言ったら「たくやき」を食べる事を勧めてくれた。
たこやきじゃないのって聞いたら日本のたこ焼きを模した食べ物だが、フィリピン人はたこを食べないのでたくやきとなるらしい。このたくやきはただただ甘くて先生の知っている限り、日本人の生徒でマニラ旅行時に一人前を食べ切った人はいないらしい。
旅行の土産にマニラで食べてねっていう事らしいが、たこ焼き好きの私としては遠慮しておくことにする。そして、他の先生は墨汁と筆を持って行って漢字を書いてあげると大変に喜んでもらえると教えてくれた。
それに、折り紙。鶴などを折ってあげると感動されるそうだ。その様に聞いてみるとこれはというものにたどり着けなかったので、今回のスタディアブロードでは、ダイソーで買った冷蔵庫用のマグネットとキットカットと折り紙を用意した。
そして今朝折り紙で鶴を折っている。マグネットは全部で15個。キットカットは、先生とのレッスン中のおやつにする事に決めた。
昼食デビュー
室内の電気をつけたまま、カギを持って貴重品とウクレレの入ったリュックを右肩にかけて外へ。隣の犬は自分の仕事だと言わんばかりに吠えまくっている。
周りを気にしながら屈んでカギを掛けて、立ち上がって振り向きざまにゴツン!又、おでこをしこたまぶつけてしまった。なんてこった!自分が見たいと思っていた、間抜けな奴の面はいつも歯磨きの時に鏡の中にいるおやじだった。
気を取り直して広い通りを歩いて、門から入って洗濯場を通り過ぎる時にスタッフにハイ!と声をかけて入り口に靴を脱いで内部に入った。もう既に何人かが席で食事をしているしトレーを持って食材を盛り付けている人もいる。
私は一番手前の高齢者席にリュックを置いてからトレーを持って列に並んだ。断っておくが高齢者席というのは私のネーミングだ。
「Hello」や「Hi!」や「What’s up!」なんって声が飛び交っている。この場合の「What’s up!」は「Hi!」同じように使っているようで、声を掛けられた人は「What’s up!」と返している。
みそ汁とご飯を最後に盛り付けて高齢者席に座った。周りは朝食時のメンバーとほとんど一緒で会話もせずに黙々と食べている。隣の中級英会話レベルテーブルは、若者達が食事をしながらボソボソと会話をしている。
日本人が英語を話すときに一番気にするのは、周りにいる日本人なのだ。従って、自分より英会話レベルの高い人に聞かれたくないのだ。お察しの通り中級英会話レベルテーブルも私のネーミングだが、このスクールに慣れたら私はここに座ろうと考えている。
一番奥の上級者英会話レベルテーブルは、食事よりも会話を楽しんでいるように見える。空港から一緒にタクシーで来た彼もその中にいた。それぞれ自信があるので、大きな声で話をしている。
一番元気なのは韓国人の方で校長と話をしている。コレアを連発しているので自分の国の自慢をしているように聞こえるがはたしてどうなのだろうか。校長先生はうんざりという表情を浮かべているようだ。後日談だがこの韓国人男性は半年ごとにこのスクールに来ているそうで、毎回2週間ぐらいここで英会話を勉強して帰国するらしい。
先生の話によると、彼はタガログ語と英語を話せるようだが、何の仕事をしているのかは分からないらしい。校長先生は私を見つけてハイ!と言いながらこちらにやってきた。多分韓国人の男性の所から離れたかったのだろう。
事務長は厳格な日本人女性
校:「Hi! Shigeki. Introducing the secretary general of the school.」やあ、シゲキ。私たちの事務長を紹介しましょうと言って、事務室の中に招き入れてくれた。そして、事務所の中では困った時は日本語を使っても良いですが、出来るだけ英語で話してくださいと釘を刺された。
校:「She is a secretary of the school and my mom. Tomoko.」彼女は事務長で母のトモコです。と事務長を紹介してくれた。
トモコもスタッフ用の黄色いTシャツにシーンズという服装だった。彼女はどことなく気品があり威厳があった。横顔が少しだけデビー夫人に似ていた。彼女も意識しているのだろう茶髪で髪形も同じようにしていた。
ト:「It’s nice to meet you. I’m Tomoko.」始めましてトモコです。と笑顔で挨拶をしてくれたので、私も笑顔で、
鍵:「I’m pleased to meet you, Tomoko. It’s nice to meet you too. I’m Shigeki.」お逢いできて嬉しいです。よろしくお願いします。シゲキと言います。
に続けて、英会話ノートを見ながら。
鍵:「I want to deposit Valuables.」貴重品を預けたいと申し出た。
ト:「Sure.」承知しました。
トモコはパスポート、財布、健康保険証、帰りの航空券や財布の金額を丁寧に数えてメモして、私の確認サインも求めてきた。対応がキッチリしているので、私の中での信頼度が増してきているのを感じた。
私は、両替の時はパスポートが必要なのかと尋ねた。どうしても、海外でのホテルでの両替の時のイメージがあるからだが必要ないと教えてくれた。そして、大きな金庫に私が預けたものを袋に入れて丁寧に納めてくれた。今日両替する予定の3万円は、財布に入れてリュックにいれてあるし、貴重品は預けたのでこれでひとまず安心だ。
トモコは誠実そうなので、例の件を思い切って相談してみようかと思ったが次回に持ち越すことにした。
例の件とは、部屋に妖怪が住んでいるのではないか?そして、名前が分からないが強面の部長を探して欲しいというものだが、もしあの場で相談していたら私には早めに変人というレッテルが貼られていただろう。
それに日本語も喋れるだろうから困った時には、日本語で相談にのってくれるだろうから安心だ。マンゴウとの待ち合わせまでにはまだ時間がある。
ウクレレと楽譜もリュックに入れてあるので、周辺を探索しながら公園でも見つけて、ウクレレの弾き語りでもしようと思いながら席を立って、スタッフに。
鍵:「It was delicious. Thanks.」美味しかったよ。ありがとう。と言ってトレーを置いた。
S:「Have a good afternoon.」良い午後をお過ごしください。スタッフも声を掛けてくれて
鍵:「You too.」あなた達もね。と言ってその場を離れた。
ウクレレとの出会いですぐに挫折!
靴を履いて室外に出て周辺を散歩している。今朝とは反対周りで、商店街の脇を抜けて住宅街に沿って歩いている。右手に教会が見えたので、近くまで行ってみると幼稚園を併設しているようだ。
そこには小さな公園もあって遊具も並んでいる。ブランコにすべり台にシーソーなどで、子供たちが遊んでいて、傍らでお母さんたちが会話を楽しんでいて日本でも良く目にする光景だ。
お母さんたちの笑顔が輝いている。多分富裕層なのだろうと考えながら先来た道まで戻ってまっすぐ進むと、テニスコートが見えてきた。そして、その隣にはバスケットボールのコートがあり若者たちがゲームを楽しんでいる。
遠く離れたところからのシュートやダンクと呼ばれるシュート決めてバスケットゴールのリングにぶら下がっている選手もいる。それぞれが着ているユニフォームはバラバラだから試合ではないらしいが、本格的なバスケットボールの試合を見た事のない私にとっては、プロ並みに上手だと感心させられた。
スクールの先生の話だとバスケットボールはフィリピンで一番人気のあるスポーツで子供から大人まで競技者人口は多く、無料で使えるコートが沢山あるそうだ。そして、プロスポーツとしても大変人気があるそうだ。
ベンチに座って見ていたが1時を過ぎた頃には選手たちがコートからいなくなった。リュックからウクレレを出して「結婚しようよ」を弾き語りしてみた。この曲は、吉田拓郎よしだたくろうのヒット曲であり私が唯一楽譜を見ないでも弾ける曲だ。
暗譜するために何度も繰り返し練習したし、コードを覚えるために楽譜を手書きした曲だった。私はウクレレと出逢ってまだ一年だ。きっかけは母から36回目の結婚記念日に貰った1万円だった。
同居している私の母はいつからだったか覚えていないが、私たち夫婦の結婚記念日には花束を用意してくれていた。しかし、母は85歳を過ぎたあたりから一人で買い物に行けないので「2人で美味しい物でも食べてね」とお金をくれるようになった。
36回目の結婚記念日おめでとう!
この時は2万円が入ったのし袋には “36回目の結婚記念日おめでとう。私は今年で米寿になるけどもう少し面倒を見てください。よろしくお願いします” と言うメモが添えてあった。
2人で1万円ずつ分けて折角だから形に残るものをお互いに買おうと連れ合いと話し合った。そして何を買おうかと悩んだ挙句に、つい出来心で手にしたのがウクレレだった。今までに楽器を手にしたこともないし音符も読めない。チューニングという言葉も知らなかった。何故ウクレレを買ったのか今でも理由が分からないままだ。
近くのイオンモール内の楽器店にてセット価格1万円で購入したのだった。セットの中身は、ウクレレと初心者の為の本、ウクレレを入れるケースと張り替え用の弦とチューナーだった。本にはご丁寧にCDが付属されていた。
出来ることなら弾けるようになるまで黙っておきたかったが音の出るものだから内緒にすることも出来ずにその日の内に家族に報告。家族が驚いたのは言うまでもない。それからパソコンで動画を見ながら練習を始めた。ドレミファソラシドでメリーさんの羊を練習。
リズム練習は、ジャン ジャン ジャン ジャンという4ビートにジャンジャジャンジャ ジャンジャという8ビートだが、まったくついて行けないし楽しくない。そばで寝そべっている愛犬ソックスも私がウクレレを手にすると、部屋からそそくさと出て行ってしまう。
これもパブロフの条件反射なのかと苦笑いしてしまったが、それでも家族の手前直ぐに挫折するわけにはいかないと無料の体験レッスンにトライしてみた。Skypeによるレッスンだ。プロの先生から持ち方から右手の親指の腹で弾くやり方を教えてもらった。個人レッスンは「上を向いて歩こう」が初心者向きで簡単だからこの曲から始めましょうと、TAB譜というものをメールに添付してくれた。
プロの説明としてはTAB譜というのはウクレレの4本の弦を図にして、4本の線にフレッドの数字を振ったものだそうだ。何のことか良く分からなかったが、とにかく動画を観て自主練してみてくださいという事だったので、プロが演奏している動画をスロー再生しながら何度も観た。
ウクレレはフラだけじゃないって初めて知った
流石にプロがソロ弾きで模範演奏をしてくれたのを観ると憧れる。これがウクレレでもフラの曲以外に歌謡曲が弾ける事を初めて理解した瞬間だった。ソロ弾きだと歌を歌わない為に弦の響きが美しい。しかし、間違って押さえると曲が台無しだ。
それにメトロームを使って演奏スピードを常にチェックする必要があるそうだ。プロの動画を観ながら何度か一人で練習してみるが難しい。全音符に4分音符、そして8分音符に休符、音符によって弾く長さが違う事にも辟易した。それに付点2分音符に至っては怒りさえ覚えた。
簡単ウクレレ教室ガズレレとの出逢い
ウクレレを諦めようと考えている時に、YouTubeで簡単ウクレレ教室ガズレレというチャンネルに出逢った。そこでは無料でウクレレの持ち方から弾き方、そしてチューナーの使い方を丁寧に説明してくれていた。
そして簡単なコードを4つ覚えるだけで、何曲も弾き語りが出来ると解説しながら、実際に弾きながら歌ってみせている。初心者向けとしての曲目としては「明日があるさ」や「おどるポンポコリン」であった。
促されるままにコードを覚えながら練習してみると、その日の内に両方の曲を何度も躓きながらではあるが弾き語りすることが出来た。
このころはまだそばに寝そべっているソックスは、私がウクレレの演奏を始めると相も変わらず迷惑そうな顔をして部屋から出て行ってしまっていた。それでもめげずに簡単ウクレレ教室の動画を観て勉強している。
ウクレレ講師のコードの解説によると、Cコードとはウクレレの4本の弦の内一番地面に近い弦のネック部分から3番目の所を薬指で押さえるというものだ。右手は一番上の弦から一番下の弦まで親指の腹で一気にこする感じだ。
最初の内は「明日があるさ」の場合は、Cコードだけで全部を演奏。
4ビートでジャン ジャン ジャン ジャンとなる。これをやってみると楽しい。直ぐに、FコードとG7とAmを覚える事が出来た。これなら続けられると確信した。ガズレレ歌本を購入していろんな曲の楽譜を見ながら練習して2週間位して、スピッツの「空も飛べるはず」を練習する頃には、コードも10種類覚える事が出来ていた。
このころになるとソックスが部屋から出て行かずにそばに寝そべってくれていた。連れ合いからも「おとうさん。上手になったね」と褒められてますますウクレレに嵌った。考えてみると連れ合いから褒められたのはこれが初めての経験だった。
幸いにして我が家の周りは田んぼなので練習環境は抜群。周りを気にすることなく練習に励んだ。時には田んぼのカエルも合奏に加わってくれた。そして譜面ふめん台だいを買ったことで尚一層練習に励んだ。
ふと思ったのだが、田んぼのカエルの合唱は間違いなく私より正確なリズムを刻んでいる。その練習の成果として8ビートも弾けるようになっていた。「明日があるさ」を8ビートで弾くとジャンジャジャンジャ ジャンジャとなるので軽快な感じになった。
8ビートが弾けるようになった時は嬉しくて一人で乾杯したのだった。そこまで来ると仲間が欲しくなるものだ。そう思っているところにFacebookでさいたま市内のガズレレグループの練習会の参加者募集の告知を発見。この時は不思議なくらい何のためらいもなくすぐに申し込んだ。
ウクレレ仲間の練習会デビュー
練習会の場所は武蔵浦和駅近くのコミュニティーセンターだった。参加者の多くは40代から50代といったところだった。その中でも私と同年代のおやじがいて声をかけてきた。身長が2メーターぐらいで、あごひげを生やし英国紳士風のシルクハットをかぶっていて、今にも帽子から鳩を出しそうな雰囲気のおやじだった。
ウクレレ仲間は彼のことをピノキオのコーロギに雰囲気が似ていることから、ジミー・クロケットをもじって、性格が地味なのでジミーと呼んでいると飲み会の席で教えてくれた。彼は「あなたのサラリーマン時代の同僚の井原さんと親しくさせてもらっていますよ。そしてFacebookのイベントページのコメントを見て、あなたと会えるのを楽しみにしてきました。よろしく」って言ってくれた。
ウクレレ練習会へのデビューでバリバリに緊張している私にとって、少し肩の力が抜けたしありがたかった。そして、皆で何曲も一緒に弾き語りする中で、だんだんリラックスしてきた。しかし、ロの字のテーブルに座って練習していたが休憩を挟んでオープンマイクタイムになった。
オープンマイクとは夫々が自分の好きな曲を弾き語りするというものだ。
室内の一番前にマイクと譜面台が設置されたところがステージだ。そこで弾き語りを披露する。ステージでの弾き語りを希望しない人は、今の席で演奏する事もパスも選択できることになっていた。
時計回りで私の番が回ってくる。ついに隣の人が、立ち上がってマイクの前で弾き語りを始めた。緊張していたので隣の人が何の曲を演奏したか覚えていない。それほどパニックっていたのだろうついに私の番がやってきた。
実はこの練習会に参加すると決めたときから弾き語りしなければならない時は「お嫁においで」をやろうと決めていたし練習も積んできた。この曲を選んだのは加山雄三が私のアイドルだったこともあるが、最大の理由としてはコードが簡単で曲が短いことだった。
それでもいざ弾き語りを始めると、声は震えるしコードは上手く押さえられないし散々だった。しかも次に弾き語りをする番の女性がスマートフォンで動画を撮ってくれているので、楽譜から顔を上げる事も出来なかった。弾きがたりしているところの動画を撮られたのも初めての経験だった。ひやー、緊張MAX!
そんなメチャクチャな弾き語りデビューが苦い思い出だ。その後希望者7名程にて居酒屋で懇親会。生憎同年代のおやじは仕事があるからと参加しなかったので周りは若い連中だけだった。
そんな中でも、ウクレレの共通の先生であるガズさんの話題で盛り上がれたので、楽しい時間を過ごすことが出来た。しかし驚いたのは居酒屋でもウクレレを弾いちゃうことだった。
居酒屋の店長はウクレレを弾く事についてまだ客が少ないのでとOKしてくれたが、ギターだったら音が大きすぎるという理由でNGだっただろう。そして皆の話によると全員がガズさんに会ったことがあるという事だった。私も会ってみたいという思いがふつふつと湧きあがってきたのだった。
そんなことを思い出しながら時計を見たらもうすぐ2時。マンゴウとの待ち合わせの時間だ。急いで、スクールの門の所に向かった。
魔女の宅急便のおソノさん似のフルーツに一目ぼれ!
門が見えるところまでくると、マンゴウが待っているのが見えた。私はハイ!といいながら手を振ったら彼女も笑顔で手を振って応えてくれた。私が「I’m sorry to be late. 」遅れてごめんなさいと言うとマンゴウは「Don’t worry about it.」気にしないでください。と言ってくれた。
2人で門をくぐったところから彼女の説明が始まり、最初は洗濯物についてであった。建物の入り口の靴を脱ぐところの右手に洗濯物の置き場があり、秤もあった。彼女の説明によると。
①洗濯物は自分の名前を書いた袋に入れる事。
②秤で重さを量ってノートに書く事。
③料金は、月に一度清算する。
④洗濯物は午前中に出せば次の日の夕方には、洗濯済み棚に置かれるので自分の名前を確認して、持ち帰る事。だった。
1kg当たりの料金も教えてくれたが興味がなかったので覚えていないが、私の場合1ヶ月で320ペソ、日本円で640円だったことからすると1kg当たりは非常に安かったのだろう。
その後、事務室のスタッフを紹介してくれた。名前はフルーツで優しくてどんなことにも相談にのってくれるそうだ。そして、日本への留学経験があるので、困った時は、事務室のドアを閉めれば日本語で相談にのってくれるそうだ。これはありがたい。
フルーツはスタッフTシャツではなく、みどり色のTシャツの上にふわっとしたワンピースを着ていた。マンゴウからフルーツが妊娠していること教えて貰ったので、「Fruit. You look happy. How pregnant are you? 」フルーツ。幸せそうだね。妊娠何ヶ月?と聞いたら、8か月という答えが優しい笑顔とともに返ってきた。笑顔がキラキラしている。
年齢は、多分20代後半で見た目は魔女の宅急便のグウチョキパン店のおかみのおソノさんのようだ。ジブリの魔女の宅急便を見た事があるって聞いてみようかとも考えたが、その質問はまた今度会った時の為にとっておくことにした。
フルーツは困った時に本当に頼りになりそうだ。彼女に仲良くして貰う事でこのスクールでの居心地が良くなるだろうと考えて、私は「This is for you. 」これをプレゼントします。と言ってリュックからマグネットを取りだし15個を彼女の前に並べて、好きな物を1個だけ選ぶように伝えた。
ケーキのマグネットがすごくきれいだとかパンのマグネットが可愛いとか興奮しながら選んでいた。マンゴウが私も貰えますかというので「Of course.」もちろんです。マンゴウと言ったら嬉しそうに選んでいた。
それから、私が他のスタッフにもどうぞとマンゴウに言ったら。彼女が事務室のドアを開けて、キッチンのスタッフに声を掛けたので狭い事務室は、たちまち黄色いTシャツの女性達ですし詰め状態になった。
彼女たちを見ていると皆小柄でマンゴウよりも可愛い、良く見るとマンゴウが一番年上の様だ。それで、私のマンゴウへの興味がすっかり薄れて、興味の対象はフルーツに移った。このスクールのスタッフの人気投票が有れば、私は間違いなくフルーツに一票を入れるつもりだ。
そして、フルーツなら例の二つの相談に乗ってくれそうな気がする。
しかし、今日は時間がないので相談を見送った。
マンゴウがショッピングモールに行きましょうと言うので、残りが7つになったマグネットをリュックにしまって、マンゴウ「Let’s go shopping.」 と言って立ち上がった。
スタッフ達からの「Thank you. Have a great afternoon. 」良い午後をとの声を浴びながら私も満面の笑みを浮かべて「Thanks. You too.」あなた方もねと言いながら手を振って応えた。
マニラのショッピングモール内のスーパーマーケットで買い出し
マンゴウと連れ添って歩きだすとすぐに人一人がやっと通れる幅のゲートがあった。その場所にはガードマンらしき男性が椅子に腰かけていて、我々の姿を見つけて立ち上がり木製の扉を開けてくれた。
マンゴウはセンキューと言いながら通り抜けた、私はサンキューとカタカナ英語で言って、頭がぶつからないように注意しながらくぐった。その視界の先には、巨大なショッピングモールがあった。
彼女の長いズボンの後姿は、重力に降参したケツが左右にだらしなく揺れていた。そして足も短くて歩き方も格好悪いなんて思いながら後ろからついて行った。しかし、短期間でも興味をもった彼女に対してこのひどい言い方は如何なものか、人間としてどうなのよ、という良心の声が聞こえた。
彼女に連れ添ってショッピングセンターに入ろうとしたが、私だけ警備員に止められた。ジェスチャーからすると、リュックを開けて中を見せろという事らしい。要求通りリュックを開けたところ中のウクレレを見て警備員が笑顔でジャンジャジャンと言って親指を立てたので、私も親指を立てて笑顔でショッピングセンター内に入った。きっと彼もウクレレを弾くのだろう。
マンゴウに促されて両側が上野のアメ横の様な通路を進みながら、一番奥のスーパーマーケットの売り場に着いた。そこには、日本では見た事もないファストフード店が何店舗もあり、日本でもなじみの宝くじ売り場やLotショップなどもあり、そこには沢山の客が行儀よく並んでいた。
その一角に警備員がいて、郵便局風の両替所があった。そこには誰も並んでいなかったので、3万円を窓口から渡し13,776ペソになって戻ってきたから、10円=4. 59ペソとなるようだ。手数料はどうなっているのかという疑問もあるが、そんな些細な事を気にする性格は困ったものだ。
リュックから準備ノートを取りだして、マンゴウに探して貰って買い物かごに入れた。ヤクルトにボディソープにリンスにシャンプーは、沢山種類がある中から彼女が選んでくれた。いやー、マンゴウがいてくれて助かった。自分一人ではとても選ぶことが出来なかっただろう。
ノートに書いてある品物は、一通り買い物かごに入れた、しかし、一番悩んだのはビールだった。普段飲みなれた日本のメーカーの物は、高級ブランドのワインなどと一緒にチョット離れた別のコーナーにあるそうだ。
私は地元のビールにトライしてみようと決めて、彼女から説明を受けたが良くわからない。後日談だが彼女はアルコールを飲まないのだそうだ。なんだ、それじゃーそれぞれの味の違いを聞いても分からないはずだ。
仕方ないので5種類の缶ビール、赤、青、緑、黄色、黒の缶を1本ずつ買い物かごに入れた。気が付くとマンゴウの買い物かごも何時の間にか品物で一杯だった。さすがに主婦、手際が良いと感心した。
彼女から促されて、一番空いている支払いカウンターの列に並んだ。他のレジは多くの人が並んでいるのにこの列は殆ど並んでいない。何故だか分からないが得した気分だ。もしかしたら外国人専用レジで、このレジは消費税がかからないなんて事があったらおもしろいとお気楽を装っているが、本心ではレジ係に言葉が通じなかったらどうしようと考えてドキドキだ。
マンゴウは、隣の列に並んでいるので少しは心強い気がするが、出来れば同じ列に並んで欲しかった。英語でも厳しいのにタガログ語で話しかけられたらお手上げだ。そう思うと正直なもので心臓の鼓動は早くなった。
何故マンゴウは同じレジの列に並ばなかったのかという事を考えていた。もしかしたら、私にマンゴウの分も支払うよと言われるのを警戒したのかもしれないと考えていた。
初めてのレジ!ドキドキが止まらない
いよいよ私はレジの前、レジの女性が何か言っている。私にはさっぱりわからない。多分、ビニール袋は要りますかとか、ポイントシールは要りますかって事らしい。隣の列からマンゴウが答えてくれたので助かったが、これからは一人で買い物しなければならないので英会話の先生と練習しておかなければならない。
支払は、全部でいくらだったのか覚えていないが小銭が欲しいと考えて、先ほど両替して貰った1000ペソで支払った。日本円だと2000円だがレジ係は慌てて、レジから離れて全部で8か所ほどあるレジの担当に1000ペソを見せて何か言っている。
何が起こったのかとみていてしばらくして分かったのは、どなたかこの1000ペソ、くずれませんかという事だったようだ。暫くして私のレジ係は、1000ペソをくずすことが出来て私は無事に支払いを済ますことが出来た。その際に、ビニール袋とポイントシールを貰った。マンゴウからのリクエストでポイントシールを彼女に手渡して日用品の買い物は完了した。
マニラでは路上喫煙及び飲酒禁止!罰則にビックリ!
レジを済ませた後にマンゴウはマニラでは公衆の場での喫煙、飲酒が禁止されているから歩きながらビールは飲んじゃダメとジェスチャーで説明してくれた。
運が悪いと警察官に逮捕されることがあるというから驚きだ。
しかし、面白い事にジェスチャーで逮捕を説明する場合、フィリピンでも日本でも両手を合わせるポーズは共通らしい。
そして捕まった場合は、外国人でも罰金が科せられるという事をジェスチャーで説明してくれた。
そんなアホな法律があるのかという疑問がわいたが、公園で一杯やろうという思いは万が一のことを考えて今日はあきらめる事にした。
ここから彼女と別れて一人で部屋に戻ることにした。マンゴウはショッピングセンターの人ごみの中に消えてしまった。
歩きながら、ふと頭をよぎったのは、マンゴウにお礼としてお金を渡した方がよかったのだろうかという事だった。
しかし、スタッフにお金を払うとプライドを傷つけてしまうのだろうかと考えながら出口の列に並んだ。
また警備員からチェックされるのかと思って背負っていたリュックをおろして手に持ち替えたが、今回は呼び止められることもなくすんなり外に出られた。
ショッピングセンターの入り口付近は、多くの買い物客が並んでいた。私と同年代の西洋人夫婦も並んでいた。彼らはフィリピンに移住してきたのだろうか。
もしそうだとしたら、どうしてマニラを選んだのかどんな所に住んでいるのかを聞いてみたかったが、声をかけることなくその場を通り過ぎてしまった。
しかし、喫煙について意識して周りを見てみたが、確かにたばこを吸っている人が誰もいないし、路上にたばこの吸い殻が落ちていない。これは新鮮な驚きだった。
どこかで警察官が見ているのかと見回したが私には見つけることが出来なかった。
ゲートの前に着いたらドアの向こう側にいる警備員が開けてくれた。どうやって見ているだろうと不思議に覚えたが、英語で質問することも出来ずにただ、サンキュウーとカタカナ英語で言って頭をぶつけない様に木枠の所に左手を当ててから気を付けて潜り抜けた。
この時に、そうだこれは使えると閃いたのだった。
しかしビニール袋が手に食い込んで痛い。缶ビールとペットボトルが両手のビニール袋から今にもはみ出しそうだ。
ウクレレを傷つけない品物は、リュックにしまうことにしたがそれらはすべて軽い物ばかりだった。準備ノートに抜け落ちていたティッシュボックスについては、マンゴウの指摘を受けて3箱購入したが軽いけどかさばってこまる。シャンプー、リンス、ボディソープに関しては、お試し程度のサイズにしたので、リュックのポケットに収まった。
住宅街の広い通りを右に曲がったので、もうすぐ部屋の入口だ。周りを見回してから狭い路地に入り、先ほどの閃き通りに突起物の所に左手をあてがってから、カギをリュックから取り出しドアを開けた。
今日はとても静かだ。いつもの犬の吠える声が聞こえない。そうか、散歩の時間なのかと勝手に解釈して心が軽くなった。良かった、犬が飼い主に甘えている光景が頭に浮かんで嬉しくなった。
私は、先ほどの閃きを活かすことでおでこをぶつけずに済むようになったのは収穫だった。部屋の電気をつけっぱなしにしたことで、段差がハッキリ見えるし躓く事もなく入室した。私自身日々進化していることを実感。そんなわきゃありませんと、心の声。
冷蔵庫にビールの缶とヤクルトとペットボトルを入れた。考えてみると今朝から水分を摂っていない。ペットボトルのキャップを外して一口飲んだ。うまい!こういう時はビールよりミネラルウオーターの方がおいしく感じるから不思議だ。
あっという間に一本を飲み干した。それから、買ってきたものを定位置にセット。シャンプーとリンス、ボディソープはシャワー室に。ティッシュボックスは、とりあえず机の上に置いた。
お土産として持ってきた可愛いマグネットの残り7つは冷蔵庫に張り付け、キットカットは冷蔵庫にいれた。ウクレレと楽譜は流石にガスコンロの上に置く事は、かわいそうなので洋服ダンスの上に置いた。
少し体を休めようとベッドに横になりながらスマートフォンをONにしてみたら、時間は午後4時過ぎ夕食まではまだ時間がある。私にとっての今日は二日分に感じる。少し昼寝でもしようかと目を閉じたが眠れそうにない。
しかし、ビールを飲んだら短時間では起きられないほど疲れている。そう考えながら成田空港からここまでの間で気になる事をノートに書いて整理してみる事にした。
気になることを準備ノートに書きだしてみる。
①マニラでは公共の場での喫煙と飲酒は法律違反で、罰金の制度まであるならば、罰金はどれぐらいなのか。
②スーパーマーケットでレジが何か所もあったのに、マンゴウが私に並ぶように勧めてくれたレジだけ空いていたのか。
③私の買い物を手伝ってくれたマンゴウにチップを渡した方が良かったのか。
④OKマンゴウと言った時、どうして彼女はヘイ!ダナーって言ったのか。
と思いつくままにメモした。この中で一番重要に思えるのはチップだ。これから部屋の掃除も定期的にしてくれるけどその際にチップを渡すのかについては、夕食時に必ず聞く事に決めた。
それに、この部屋に漂っている妖気みたいなものについても訊いてみたい。
夕食時の高齢者席は日本語OK!
幸いにして、夕食時の高齢者テーブルは日本語がOKなのだ。
罰金については「マニラ路上喫煙、飲酒罰金」でググってみると、都市別安全情報トラベルサポートというサイトがトップページだった。内容を見ると、罰金制度は確かにあるようだが金額の記載がない。
その他のページをみると「フィリピン 路上飲酒禁止条例の違反容疑で邦人男性ら13人を一時拘束。罰金は腕立て伏せ40回」という記事が気になって、読んでみると。
首都圏ラスピニャス市内の路上など公共の場所で飲酒したとして、60代の日本人男性と比人2人の計13人がこのほど、市条例違反で警察署に一時拘束された。13人は罰則として署内で腕立て伏せを40回させられた後、釈放された」という内容だった。
2016年の記事だから、最近はもっと厳しくなっているだろうと思いながらも、時代劇の100叩きの刑とダブって噴き出してしまった。
その他のページには、警察官に捕まったら喫煙なら500ペソ、飲酒なら1000ペソで買収する方が良いと書いてあったのと、英語が喋れない日本人は吹っ掛けられるので、注意が必要と書いてあった。
なるほどそうだろうなと妙に感心させられた。そろそろ、夕食の時間なのでスリッパに履き替えて部屋を出た。スリッパは日本から短い距離を移動するのに便利だと考えて捨てる寸前だったものを持参したのだった。
照明は付けたままで、鍵を閉めて突起物を左手で触りながら立ち上がる。隣の犬が吠えているがいつもより穏やかな感じだ、ご主人との散歩でストレスが発散出来たからだろうと勝手に解釈した。
砂掛けばあさんとの出会い
建物の入り口にスリッパを脱いで中に入った。一番手前の高齢者席は既に何人か座っていて、日本語が飛び交っていた。ありがたいことに夕食時はこの一番手間へのテーブルだけは日本語が喋れるのだ。高齢の女性が手招きしてくれたので、サンキューと言ってそのテーブルにリュックを置き、料理の列に私も並んだ。
料理を一通り見てみると夕食も日本食が中心なのでありがたい。デザートとして、フィリピンバナナも用意していあった。マグネットのお礼だろうか、スタッフがワザワザ私のところまで来て、声をかけてくれた。
その様子を高齢者席の方々が不思議そうに見ていた。多分、何度かこのスクールに来ている常連なのだろうと認識したらしい。最後にバナナをトレーにのせて、予定していた席に腰かけた。皆さん。初めましてよろしくお願いします。と、日本語で挨拶してから夕食の料理の写真を撮って、LINEで連れ合いに送信した。
夕食の料理の写真を妻にLINEで送信
こちらは5時を過ぎたばかりなので日本は6時過ぎ、もしかしたら家族も夕食中かもしれない。そう思っているところに、LINEの返事が来た。この内容の食事なら日本にいる時とほとんど変わりませんね。それでも食べ過ぎに注意してくださいね。今日は息子が遅くなるので、おばあちゃんと2人で食事しています。
そしてソックスの散歩は朝行ってきましたし、夕方も連れて行ってきましたので安心して、英会話の勉強に集中してください。という内容で、その文章の中では愛犬のソックすがお腹を出して寝ていた。
可愛いな~。ハグしたいな~。と、思いつつ女の子なんだからそんなみだら格好はダメだよって何時も通り突っ込みを入れているところに、このテーブルに誘ってくれた高齢の女性が日本語で話しかけてきた。ピンクのTシャツにロングで白髪という見た目から、水木しげるの漫画にレギュラー出演している砂かけばばあを連想させた。
彼女が話しかけてきた「あなたは、今朝こちらに到着したんですよね。私は、4日前の木曜日にこちらに着いたんだけど。水曜日のスピーチはどうするのですか?」彼女の関心はこのスクールでは毎週水曜日の昼食の時に集会があるが、あなたはその時にスピーチをするかどうかという事だった。
彼女の先生からの情報だと英会話上級レベルの生徒が司会をして、ニューメンバーと予定期間を終えて帰国するメンバーが夫々この食堂で挨拶するのだという、そして観客はスタッフも含めて30名位なるそうだ。
彼女はあがり症で英会話初心者なので、出来ればエスケープしたいが1人では不安なのでエスケープ仲間が欲しいらしい。私が自己紹介する予定ですと答えると、彼女の顔に赤みがさしてより妖怪度が増したことでゾクッとさせられた。
先生からは、紙に書いたものを読むようにすれば良いと言われているそうだが、日本人の前で英語を話すことに凄く抵抗があるらしい。その点は私にもわかる、それというのも私にも嫌な思い出があるからだ。私は食事をしながら脳がその記憶をたどっている。
Does this train go to Tokyo station?
以前、電車内で「Does this train go to Tokyo station?」この電車は東京駅に行きますかと英語で聞かれた時に、焦ってしまって、「Yes, it does. You are going right direction. 」はい、あなたは正しい方向に進んでいますよ。と、いつも練習しているのに焦ってしまって「YES.」とだけ答えるのがやっとだった。
もっと親切に伝えるなら「Yes, this train goes to Tokyo station. You’ll arrive in 10 minutes from here. 」はい、東京駅に行きますよ。ここから10分で着きます。と答えればよかったと反省した。それでも、不安に思っている方に安心して貰えてよかったと気持ちを切り替えた。
焦った原因は、周りにいる日本人の目を気にしたからだった。無言の圧と言い換えても良いと思うのだが。一瞬「Tokyo station.」には冠詞の「The.」が必要かどうか迷ったからだった。そんな細かい事なんかどうでも良いのに、やっぱり周囲の目を気にしてしまったのだ。
英会話が出来ない人でも英語は義務教育で勉強しているので、他人の英語を聞いて文法や発音の間違いを指摘して悦に入っている人たちがいるからだ。それに打ち勝つには間違っても平然としていられる度胸が必要になる。
日本人の話す英語を聞いて間違いを指摘して悦に入っている奴は、外国人から「この電車は東京駅行きますか?」と日本語で質問されただけで慌ててしまって「ソオリー、ソオリー」すみません、と、言ってその場を逃げるように立ち去る人達なんだ、と、考えて無視した方がいいのだがいざとなると周りを気にしてしまう。
そんな奴らよりも、全く英語が喋れないのに外国人に道を聞かれた時に、ボディランゲージだけで必死に説明している人や外国人の手を引っ張って目的地らしき場所まで連れて行ってあげる人を見ていると私は尊敬してしまう。そして私が最低だと思うのは「Sorry, I’m not from around here. You should ask someone else. Good luck. 」すみません。私はこの辺の人間ではないです。ほかの人に尋ねてください。ごきげんよう。と、流ちょうな英語で立ち去る人たちだ。
ある人に聞いてみると、そのフレーズだけを練習している人たちもいるそうで、そのほかのフレーズは知らないのだそうだ。実は私もそんな一人だった。しかし、私は、東京オリンピックのボランティアをやろうと決めた時から、このフレーズは絶対に使わない、そしてわからない場合もその場から逃げずに、スマホで調べて教えてあげようと心に誓った。
その為に「Sorry, I’m not quite sure. I’ll look it up on my smartphone.」すみません、よく知りません。スマホで調べてみます。というフレーズや「Let me ask someone else.」ほかの人に聞いてみましょうというフレーズを練習した。
そうしなければ、先述のSorryから始まるフレーズは英語を流ちょうに話せるのに他の人に聞いてもくれないし調べてもくれない。日本人は冷たいという印象になってしまうからだ。せっかく日本に来てくれた外国人旅行者には、日本を大好きになって帰国してほしい。そして、友達と一緒に何度も日本に来てもらいたい。
そのためにも私は英会話を勉強して、困っている外国人には積極的に声をかけること、そして変な英語でも大きな声とボディランゲージを駆使して助けてあげたいと考えている。英語ネイティブの人ならば、こちらが間違った英語を話したとしても一生懸命に理解しようと努力してくれると思う。
インバウンドで日本を訪れる外国人が無茶苦茶な日本語を話したとしても日本語ネイティブの私たちが彼らをバカにすることはない。それどころか親しみを感じてしまうではないか。
私が今日朝めしにパンでした。
私は日本に住んでいる外国人に対してボランティアで日本語教師をした経験があるが、彼らから「私が今日朝めしにパンでした」と言われても、そうか朝食にパンを食べたんだなと理解できる。
日本語検定を受験する方々には文法上の間違いを指摘しなければならないが、日本人男性と結婚して来日されている外国人の方には、あえて文法上の間違いを指摘する必要はないと考えていた。
それは細かい間違いを指摘すると委縮して話すことが出来なくなってしまうと考えるからだ。間違ってもいいからどんどん日本語を話すことを勧めていた。
玉ねぎさんとの出会い
夫々日本語を勉強する目的は違っているので、教え方もその人に合わせる事の必要性をいつも感じていた。私は食べ終わり顔を上げて周りを見渡すと高齢者テーブルでは日本語が飛び交っていた。主に話をしているのは、玉ねぎヘヤの高齢の女性だ。
彼女はとにかく早口で機関銃のようにまくしたてていた。私と砂かけさんは、ニューフェイスらしく端っこに座っておとなしくしていたのに、運悪く玉ねぎさんと目があってしまった。
矢継ぎ早に尋問を受けたので、埼玉県から来た事、一ヶ月こちらでお世話になる事、マニラにもこのスクールにも初めて来た事。そして還暦を過ぎている事とシゲキと呼んでもらいたい事を話した。
玉ねぎさんは私からの答えを聞くと、又、レギュラーメンバーと話をしいていたが、話題は今夜行くマッサージのことから先生方の噂話だったようだ。私はスタッフへのチップについて聞きたかったのだが、質問するすきはなかったので、立ち上がってお先に失礼しますと声をかけて、食器を片付けて部屋に戻ることにした。
英語中級レベルテーブルと上級レベルテーブルは、ほとんど生徒がいない。多分、8時間目の授業の準備の為に部屋に戻ったのだろう。私は明日から授業が始まるが1日4時間プランを申し込んでいるので、午前10時から12時までの2時間と午後2時から4時までの2時間だ。しかし、1日8時間プランの人は、午前3時間、午後4時間、夕食後1時間の授業があるそうだ。
英会話に人生を賭けている人と趣味でこちらに来ている人との温度差は凄くあるようだ。
ビールで乾杯!
部屋のベッドに腰を掛けながらキットカットをつまみにビールを飲んでいる。どの色のビールも美味しくて、のどチンコが歓喜に震えているのが分かる。やっと本当にスタディアブロードの夢を実現できたという実感がわいてきた。ここに来るまでにはいろんなことがあったし自分なりに努力もしてきた。
一番うれしかったのは、今から1年前にスタディアブロードの夢を連れ合いに告げたときに、理解をしてくれてあと押ししてくれたことだった。私は最後までマニラのスクールかセブのスクールかで迷った。マニラのスクールの魅力は食事だったが欠点は日本人しかいない事だった。
セブのスクールは、外国人の生徒が沢山いる事と土日には先生と一緒に行くツアーがあるというのが魅力だったが、食事がフィリピン料理というのとグループレッスンというのが私にとってはマイナス点だった。
健康面の準備も怠らなかった。マニラには1ヶ月しかいないが歯のトラブルは困るので、日本の歯科に通って全体をチェックして貰った。脳が原因で倒れたりしたら迷惑を掛けると考えて、生れてはじめて脳ドックを受診したし、前立腺肥大症についても専門医にチェックして貰った。振り返ってみると私はつくづく心配性なのだという事を思い知らされた。
さて、初めてお湯のシャワーを浴びることにした。裸になってマンゴウから教わったやり方で暖かいお湯を全身に浴びた。シャンプーとリンスも気持ちがいい。ボディソープも香りが気に入った。
部屋の中ではシャネルの5番
バスタブがないのが少し寂しいが、この生活スタイルになれるしかない。タオルでふき取ってバスタオルで全身を拭いて、パンツを履こうとしてふと思った、何のために?だって、ここには誰も入ってこないのだから、部屋の中は裸でいてもよいのだという結論に至った。
早速、ベッドに横になってみると変な気分だが気持ちがいい。ふと、稀代のsexy女優のマリリンモンローのシャネルの5番という言葉を思い出した。
それは、モンローが大リーガーのジョーディマジオと新婚旅行に日本に来た時のインタビュー「あなたは何を着て寝ているんですか?」に対する答えだった。
日本中の男性が息をのんで回答を待った。そして下着のシルエットが見えるネグリジェという言葉を予測していた。しかし、そこで” シャネルの5番”である。それは裸に香水だけという意味であり、その言葉により日本中の男たちが下半身を熱くしたことは想像に難くないし、不覚にも鼻血を流してしまった御仁もいたかもしれない。
そんなことを思いっている時に急に便意を感じたのでトイレへ。用を済ませてからお尻を拭いた紙はゴミ箱に捨ててくださいというルールを思い出した。
マンゴウに部屋の掃除に来た時に私がお尻を拭いた紙を回収されることを想像するだけで嫌だ。
その為、紙を使わずに済む方法として思いついたのが、手で洗う事だった。
いつも自宅で機能便座を愛用している私にとっては、抵抗がない。
手洗いの為の蛇口から水を手のひらにのせて、ケツを洗ってみた。
そして洗い流した後は、シャワー室に移動してお湯で再度洗い流してバスタオルで拭く事で完璧だし気持ちが良かった。すっぽんぽんでベッドに腰かけながらビールを飲んでいる。シャワーを浴びた事で全身がリラックスして眠くなってきたのでそのまま横になる。
また、何かに見られている気がしてゾックっとした。私のお気に入りのフルーツに相談して、部屋を替えて貰おうかと考えたがあまりにも子供じみていて、話すのはやっぱり恥ずかしい。
自分の魂とご対面???
気温は22度ぐらいなのでそのままでも良いが夏掛けみたいなものを腹にかけた。目を閉じて頭に浮かんできたのは、マンゴウはどうして私のOKに対して、ヘイ!ダナーと言ったのか。それにシャワールームでマンゴウの体が一瞬浮いたように感じたのは錯覚だろうか。
ダナーの意味を調べてみた。スマートフォンの翻訳ソフトに向かってハイ!ダナーと言ってみるとやぁダナーさんとなってしまう。ダナーは人の名前という事の様だ。
OK マンゴウについてもスマートフォンに向かって言ってみる事にした。OKマンゴウ。「ヘイ!だんな」って誰かの声がする。そんなあほな、疲れているので一瞬のうちに眠って夢を見ているようだが、面白そうなので目を覚まさずにその夢に付き合ってみる事にした。
鍵:「OK マンゴウ」
桶:「へい!だんな。」
鍵:「だれ?」
桶:「桶まんごろうでおま。」
鍵:「おけまんごろう?」
桶:「だんなに呼ばれたので、馳せ参じやしたけどなんですねん。」
鍵:「俺があんたをよんだ?」
桶:「へい!桶まんごろうって、わてのことをお呼びでやすがな。」
鍵:「そうか。するってーと何かい。OKマンゴウがおけまんごろうに聞こえたってことかい?ところでだんなってのは、俺の事?」
桶:「さいですがな。」
鍵:「だんなは俺でおぬしは妖怪。」
桶:「いやいや、わてはだんなのサブ魂でおま。」
鍵:「サブ魂?」
桶:「そうでおま。だんなのまんごろうにいる、サブ魂でおま。」
鍵:「まんごろうってこれかい?と言いながらつまんでみる。それにしてもおぬしはどうして落語家の笑福亭鶴光師匠のようなしゃべり方をするの。それになんでそんな奇妙な格好しているの?」
桶:「とんでもありやせんやぁ。だんな。わての姿はだんながイメージした通りに見えるのでおま。」
鍵:「そうなの?魂は脳にあるって聞いたことがあるけど。」
桶:「そうでおま。親魂は脳にいやす。そしてわてはまんごろうにいやす。」
鍵:「親魂とおぬしとは違うのかな。」
桶:「脳にいる親魂は全身担当で、わてはまんごろう担当でおま。」
鍵:「どうして、私と会話が出来るの。」
桶:「だんなは何かのはずみでおいらが親魂に伝えていることが、聞けるようになったようでおま。
多分、だんなが“おけまんごろう”って呼んだからでおま。それにこの場所は、わてが出やすい超パワースポットでおます。」
鍵:「OKマンゴウって言ったつもりだけど。」
いやはや、それにしても私はOKグーグルを使いすぎの様だ。だからこんなアホな夢を見るのだ。
桶:「だんなの発音だとまんごろうって聞こえやしたでおま。」
鍵:「それで、あんたの役割はなに。」
知らざぁ言って聞かせやしょう!
桶:「まんごろうに尿が貯まってきたからトイレに行くように親魂に指示しやす。そして、まんごろうの管理はおいらの仕事でおま。」
鍵:「なんだよ。今度は歌舞伎の助六に見えるよ。どうなっているんだい。まぁいいけど、そういうってーと何かい、精子をつくるのも射精も管理しているということでおますかな?」
桶:「だんなは、そんな風に喋らくても良いでやんす。おっしゃる通りでおま、まんごろうをコントロールしているのでおます。」
鍵:「そうなのか、私のまんごろうはあまり使っていないけど。」
桶:「そらそうでおます。だんなの前のだんなの時はまんごろうを毎日のように使うようにコントロールしてやしたが、だんなのまんごろうの魂になってからは、あまり使わないようにコントロールしているのでおま。」
鍵:「そうか。それだから私はセックスに興味がないのか。」
桶:「そうでおま。わてが使用を管理しているからでおます。」
鍵:「本当は狸なんだろう?」
などというくだらない夢を見たのも、お代官のマイケルは別人格なんて言う話を面白がったからだろう。バカバカしかったけど面白い夢だった。もう2度と見る事はないだろうが、可能ならば続きが見てみたいとさえ思った。
なんてこった!マニラでの最初の英会話レッスンの先生は、頑固者のフィリピーナ⁉
疲れていたので途中で目が覚める事もなく朝まで寝てしまったが、変な夢を見たものだ。
道路を歩きながらしゃべっている声で目が覚めてしまった。多分外壁は薄っぺらなのだろうから、この部屋でウクレレを弾いたら間違いなく通行人に私の弾き語りが聞こえちゃうだろう。
もしかしてウクレレ好きな人が声をかけてくれて、一緒に練習することになったりしてなんて妄想していた。この部屋には窓がなく天気も時刻も分からないので、スマホで確認してみると現在の時刻は6時だ。
この時期のマニラは乾季なので雨が殆ど降らずに毎日快晴のはずだが、毎朝の習慣なのでスマホで気温を確認してみる。
鍵:「OK google. Good morning. Could you tell me, what the weather today?」 おはよう。今日の天気を教えてくれる?
G:「It’s a sunny day today. 」
と答えてくれた。ついでに気温も聞いてみる。
鍵:「What’s the temperature today in Celsius?」今日は摂氏何度ですか?
G:「The minimum temperature is twenty-four and the maximum temperature is thirty. 」最低気温24度で最高気温30度。
鍵:「Is it going to rain today?」今日は雨が降りますか?と、日本にいる時と同じように訊いてみた。
G:「No, today in Manila is no chance of rain.」いいえ、マニラでは今日は雨が降りません。
鍵:「thank you.」ありがとう。
G:「Happy to help.」お役に立ててうれしいです。
最適気温24度なのですっぽんぽんのままでいても少しも寒さを感じない。ベッドに腰かけて毎朝のルーティンをやってみる。
まず、ウクレレのストラップを肩にかけてチューニングをして、左手で基本的なコードを押さえてゆっくり弾いてみる。それから、ドレミファソラシドからドシラソファミレドと何回か繰り返す。
そして、ソロで♪ハッピバースデイ♪、♪ハイホー♪、♪上を向いて歩こう♪を弾いて、弾き語りで、吉田拓郎の「結婚しようよ」とジョンデンバーの「カントリーロード」、ベン・E・キングの「stand by me.」を弾き語りしてから、ウクレレと楽譜を箪笥の上に戻した。
この中で、英語の曲はカントリーロードと「stand by me.」。カントリーロードの正式な曲名は「Take Me Home Country Roads.」日本語に訳すと“家まで連れっていって故郷の道よ”だが、曲名が長いのでいつも単にカントリーロードと呼んでいる。
そのことで私が冷や汗をかく羽目になろうとはこの時点では夢にも思わなかった。それからスマートフォンアプリのニック式英会話ジムで英会話の練習を15分。今朝は、レッスン動画の “奇跡の応用法”を見てから音読で“パーティーに来ない”、“映画を観に行こう”、“どんな男性が好き”などを練習した。
今日から英語の授業開始、一時限目は午前10時から10時50分で2時限目が11時から11時50分。先生のシフトについては今朝の朝食時にもらえる事になっている。そして午後は14時から14時50分で4時限目が15時から15時50分。先生は全員女性と聞いているので、どんな先生に会えるのか今から楽しみだ。
そろそろ朝食の時間なので食堂に向かうことにする。いつものルーティンでカギを締めて、突起物に左手を添え無事に狭い道から道に出て、しばらく塀沿いに歩いてスクールの門を通って、スリッパを脱いで建物の入り口から室内に入った。
高齢者テーブルにはまだ誰もいないがニューフェイスとしては、遠慮して端っこにリュックを置いてビュッフェの列に並んだ。
「Good morning. Shigeki.」事務職員で私のお気に入りのフルーツが声を掛けてくれた。私は「Hi!」と答えたら。先生のシフト表を渡してくれた。
そして「The teacher will go to your room at 10 o’clock.」あなたの部屋に10時に先生が行きますって説明してくれた。この表によると、1時限目はジャム先生だ。
料理をトレーに山盛りに乗せて高齢者テーブルに腰を下すと、このテーブルを指定席にしているメンバーが階段を下りてきた。ハイ!モーニングなんて挨拶を交わしながら料理の並んだ列に並びトレーを持って、夫々が指定席に座った。
一番真ん中の席は玉ねぎさんで、それを囲むようにご夫婦と女性が3人。砂さんは、私の隣に座って黙って食事をしている。玉ねぎさんの箸が止まると筆談が始まった。きっと昨夜のマッサージの事を話しているのだろう。今朝は砂かけさんがノートを持って来ていて私に質問をしてきた。
砂:「今日のあなたの先生はだれ?」
私がシフト表を見せると。
砂:「ジャムかぁ。」
鍵:「どうかしましたか?」
砂:「あたしジャムを別の先生にチェンジしてもらったのよ。」
鍵:「なにがあったのですか?」
砂:「私、彼女とケンカしちゃった。」
鍵:「どうしてですか。」
砂:「自己紹介をパスしようと思っているのに、やらなければダメって言われたのよ。」
鍵:「どうしても嫌だったらやめたら良いじゃないですか。」
砂:「そうしたいけど、ジャムからやらなかった人は今まで一人もいないって言われたの。」
鍵:「そうか。自己紹介は全員やらなければならないってことなのですね。」
砂:「そうそう、それで英語で自己紹介を書いてくれたので、読んでみたら鼻で笑われたのよ。彼女は、私の発音がカタカナ読みで何を言っているか全く分からないっていうのよ。失礼しちゃうわよね。それに、ナイス トウ ミイト ユウって言ったら、トは発音しない。なんて、きつく言われたのよ。私は初心者だから優しく教えてほしいのにケンカ腰なのよ。」
鍵:「それはひどいな。そのことを事務の人に話したのかい。」
砂:「そうなの。あまり腹が立ったから事務長に話して、2時間目の授業は事務員のフルーツに教えてもらったのよ。」
鍵:「事務長も対応が速いな。私もフルーツに教えてもらいたいな。」
砂:「それはだめらしいわよ。私の場合は、直ぐに代わりの先生が見つからなかったので、フルーツに教わることになったけど。彼女は、事務員として契約しているので教える事はだめらしいわよ。それに彼女は日本語がペラペラなので、英語の質問の答えに生徒が困ると直ぐに日本語で教えてしまうので、先生としてはダメらしいのよ。」
鍵:「そうか。残念だ。ジャムがそういう先生なら私が書いてきた自己紹介文は見せないようにするよ。見せて紹介文を大幅に訂正させられ、読んで発音の間違いを細かなところまでダメだしされたら自信なくしちゃうし。それこそ、自己紹介をしたくなくなるから。」
砂:「その方がいいよ。ガンコでナマイキな子だから。あなたも気をつけてね。」
鍵:「アドバイスありがとう。」
それにしても頑固で生意気なフィリーピーナってこんな子かなぁ。怒らすと怖いだろうなぁ。想像しただけで恐ろしい。
砂さんはノートを閉じて「Good luck!」ごきげんよう。と言ってトレーを持って立ち上がった。私は「You too. See you soon.」あなたもね、またあとで。と言って親指をたてたが、もしかしたら砂さんの英語のレベルは私より低いかもしれない。
午後の先生であるマーガリンの事について、昼食の時に聞いてみようと思いながら周りを見渡すと、高齢者テーブルもその他のテーブルにも生徒の姿はない。9時から授業が始まる人が多いのだろう。私は10時からだからまだ時間がある。
英会話レッスンの進め方
私は、トレーを片付けてスリッパをはいて、洗濯場で洗い物をしているスタッフに声を掛けてから、門をくぐって部屋に向かった。今日も良い天気で気持ちが良い。この乾季の時期を選んだのは本当に正解だった。
部屋に戻って、英会話レッスンの準備をしている。まずは、準備ノートを開いて、私のスタディアブロードの目的。日本語と英語で書いてある。
Studying English is one of my hobbies.
①英会話の勉強は私の趣味の一つです。
Studying English is one of my hobbies.
② 私は英語の資格試験にトライしない。
I don’t try the English qualification exam.
③ 私の仕事に英語は必要ない。
I don’t need English for my job.
④ 私は東京オリンピックの時にボランティアとして英語で道案内をします。
I will guide you in English as a volunteer at the time of the Tokyo Olympics.
私が日本から持ってきた本でレッスンして欲しい。
I want you to take lessons with the book I brought from Japan.
⑤ 日常英会話のヒヤリングとスピーキングを勉強したい。
I want to study daily conversation hearing and speaking.
⑥ 英会話を流暢に喋れるようになれたらボランティアとして地元で観光ガイドをしたい。
If I can speak English fluently, I would like to volunteer as a local tourist guide.
⑦ 英語のライティングの勉強はしたくない。
I don’t want to study writing.
⑧ 1ヶ月間、英会話の勉強と地域の散策で楽しく過ごしたい。
I want to have a fun time studying English conversation and exploring the area for a month.
⑨1人で買い物に行ったり、電車に乗ったり出来るようなレッスンをお願いしたい。
I would like to ask for lessens to go shopping alone or get on the train.
⑩マクドナルドで注文したり、洋服を買ったり出来るようにレッスンをしてほしい。
I want you to take lessons so that I can order at McDonald’s and buy clothes.
⑪空港や機内アナウンスを聞き取れるようになりたい。
I want to be able to hear announcements at the airport and on board.
この内容を書いたのは、スタディアブロードの経験者が不満に思う事という記事を読んだからだった。
そこには匿名の方が、日常英会話の能力アップが目的なので、ヒヤリングとスピーキングだけで良いと考えていたのに、先生の勝手な判断で英語の書き取りをさせられ、スペルの間違いを何度もダメだしされて毎日が憂鬱だったと綴ってあった。
ライティングは必要ないという希望は受け入れられずに、スクールのプラン通りにレッスンを受けたので、毎日のレッスンがつまらなかったと書いてあった。私は疑問に思った。その方はどうして、日本語の分かるスタッフに相談しなかったのだろうか。相談してスタッフから先生に伝えて貰えばその方の想いは先生に伝わったはずだ。
スタディアブロードは英会話学習に全く役に立たない??
そして、とても残念だったのがその方の記事がスタディアブロードは英会話学習に全く役立たないし時間の無駄ということで結論づけられている事だった。
確かに私と同じように自分へのご褒美としてスタディアブロードを選択して、趣味として英会話の勉強をしたいと考えていた方にとっては、不幸な経験になってしまったようだ。しかしスタディアブロードを目指している方々に対してのメッセージとしては不十分な気がする。
私がこの記事から読み取ったメッセージは、スタディアブロードの目的をレッスンの最初に正確に先生に伝える事が必要であるという事だ。そうしなかったのでこの匿名の方は自分が望むレッスンを受けることが出来ずに、無駄な時間を過ごすしかなかったのだと考えた。
それで私は、レッスンの前に先生に読んで貰おうとこの「私のスタディアブロードの目的」を準備したのだった。
マニラでの初めての英会話レッスン、無駄なことはやりたくない!
まだ10時までには時間があるようなので、スマートフォンにOKグーグル。と話しかけて、「Please set the alarm to 9:50. 」9時50分前にアラームをセットして。と、グーグルにアラームをセットして貰ってベッドで少し横になっている。
スタディアブロードの目的を書いてある同じページに走り書きがある。そこには、試してみたい内容として、4項目書いてある。
※先生の話が聞き取れないときに、マギー審司の手品の耳を使って、パードンってやったら先生がどんなリアクションをするか?
そのために持っている手品の耳を持ってゆく。
※英語の授業で一初めて教わった「This is a pen.」を使う。 その為にペンに見えない物を購入して持ってゆく。
※英会話学習で良く聞く。発音が悪いと外国人から大笑いされるというライスをレストランで試してみる。
発音によっては「rice」が「lice」と誤解されて「ライスですかシラミですか?」と聞き替えされることがあるのか?
※英会話の本に書いてある。「call me a taxi, please.」タクシーを呼んでくださいという時に、間違って「a」ないと「call me taxi, please.」と言い間違えたら、私の事をタクシーと呼ぶのか?
※「a」がなくても英語ネイティブはちゃんと理解してくれるはずだ。
こんなくだらない事を考えている人間だから、昨夜のようなは変な夢を見たのだ。グーグルの使い過ぎが原因かもしれないが、魔法のランプでもあるまいし、OKマンゴウを桶まんごろうと聞き違えて、私のマイケルから出てくるなんてありえない。
その言葉が魔法使いを呼び出す暗号だとでもいうのか。あほらしい。「ヘイ!ダンナ。お呼びで?」
鍵:「えっ。おぬしは昨夜の狸?」
桶:「ヘイ!何か用でおますか?」
鍵:「何か用って、おぬしは何が出来るの?例えば、魔法の絨毯を出せるとか。」
桶:「いいえ。わては、魔法使いじゃありやせん。」
鍵:「そうかそれじゃつまらないな。何かできる事はないの。」
桶:「わてが出来るのは話し相手でおま。」
鍵:「それなら私には必要ないな。どうしたら元の所に戻ることができるの?」
てやんでぇ、べらぼうめ、しゃらくせいやい、とっとと失せやがれ!
桶:「いろんな風に言われやすが、だんなの前のだんなは、てやんでぇ、べらぼうめ、しゃらくせいやい、とっとと失せやがれって云ってやした。それってあっしのお気に入りでおま。」
鍵:「そんなに長いの?」
桶:「短縮バージョンは、とっと失せやがれこのやろうでおま。」
「そうか、とっとと失せやがれ。」と言おうとした時に、グーグルのアラームが鳴って目が覚めた。
短い時間だが少し眠ったらしい。もうすぐ10時、先生が訪ねてくる時間だ。ドアの内側のカギを開けて鉄格子のカギを外したら、犬の鳴き声と共に先生がやってきた。
J:「Hi! Shigeki. I’m Jam. It’s nice to meet you. It’s a beautiful day today, isn’t it.」はい、はじめまして、ジャムです。今日は良い天気ですね。と言いながら部屋の中に入ろうとした。
鍵:「Yes, it is.」はい良い天気ですね。
と言いながら部屋に招き入れながら
鍵:「It’s nice to meet you too. Watch your step.」よろしくお願いします。足元に気を付けてと、段差があることに注意を促した。
ジャムは20代後半の細身の女性で、ノンダメージの青いジーンズにスタッフTシャツを着ていて白の運動靴というラフな格好だった。
砂さんからの事前情報を受けて色眼鏡で見ているからか、一見、シンデレラのお姉さんに似ていると感じた。
眼鏡女子は嫌いではないが美人でない若い女性の黒縁眼鏡は頂けないと個人的には思う。それに何かぎすぎすした印象で、ぽっちゃり好きの私としては全く好みではないタイプだ。
砂さんからの事前情報ではジャムは母親と二人暮らしで彼氏はいないと言っていたが、ガリ勉タイプはフィリピンではモテないのだろうかなんて考えていた。
私は冷蔵庫からミネラルウオーターのペットボトルとキットカットを取り出しジャムに手渡した。
ジャムの左隣はミニキッチンで私の右隣は冷蔵庫だ。二人は長距離電車の最前列の座席の様に壁の方を向いて隣り合って座っている。
ジャムから初めに手渡されたのがテキストブックで、この本に沿ってレッスンを進めるらしい。
パラパラとめくって見ると最初が前置詞で後半部分が文法のようだ。
スタディアブロードの目的を先生に説明
しばらくの間世間話をしたあとに私はジャムに最初に準備ノートに書いてある“私のスタディアブロードの目的”を読んで貰った。
そして説明するのが難しいので互いに翻訳アプリを使いながら会話をした。
ジ:「私は8年間英語教師をしている。しかしこの様なノートを見たのは初めてです。」
鍵:「そうですか。私は先生に英語学習の目的を最初に知って貰う事が必要と思っています。」
ジ:「私のほとんどの生徒は英語の資格試験で高い点数を取ることを目的にしています。そして英語を活かして一流企業に就職する事を目標にしています。」
彼女は英語の発音にはスペルを覚える事が重要であること。そして彼女はライティングは英語のリズムと並びを覚えるうえで欠かせないと頑かたくなに主張したが、私には必要性がないとこちらも一歩も譲らなかった。
そして、ジャムも資格試験を受けることは自分の英語レベルの確認及びモチベーションの維持に絶対に必要だという自分の主張を譲らなかった。
ジャムは、砂さんの指摘通りにガンコであり、テキストに沿って授業を進める事に拘っていた。
それはともかく変な狸が住みついているなんて最悪だ!
魂の奴のせいで英会話レッスンがめちゃくちゃ!
桶:「だんな、こ奴は名器でっせ。」
鍵:「黙ってろよ。おぬしなんでここにいるんだ。それに狸がたぬきに化けてどうするんだ。」
ジ:「Did you say something?」なんか言いましたか?
鍵:「あっちへ行け。No, it’s nothing.いいえ何でもありません。」
ジ:「Shigeki ,Don’t get angry.」シゲキ、怒らないでください。
鍵:「I’m not angry.」私は怒ってません。
私としては、只でさえつまらない英文法を英語で説明して貰っても全く嬉しくないし、ワクワクしない。しかし、ジャムも一歩も譲らないので、事務長にお願いして調整をしていただく事にした。
ジャムが事務長に連絡し事務員のフルーツが大きなおなかを揺らしながらやってきた。フルーツはやっぱりジブリの魔女の宅急便のおソノさんに似ていて姉御肌で素敵なレデイだ。
フ:「ハイ!シゲキ。どうしたんれすか?」
鍵:「日本語で話せてうれしいです。このノートをレッスンの最初にジャムに見て貰ったんですが、ジャムには理解できないし、そんなレッスンはしたくないといっているのです。」
フルーツは、ノートを読みながら。
フ:「シゲキはどの様なレッスンを受けたいのれすか?」
鍵:「例えば、木曜日にマクドナルドに食事に行くのでその時の為のレッスンを受けたいのです。
そして、土曜日にはジーパンとTシャツを買いに行くのでその為のレッスンも受けたいのです。」
フ:「そうなのれすね。分かりました。」
桶:「この子は、あげまんでっせ。」
鍵:「まんごろう。なんでまだいるんだ。そんな変な姿を見せたらあかんだろうが。それにおぬしの声を聴かれてもまずい。」
桶:「大丈夫でおま。わての姿はだんなにしか見えないし、わての声もだんなにしか聞こえないでおま。」
鍵:「わかった、わかった。なんて言ったら戻るんだったかなぁ。」
フ:「シゲキ!シゲキ!誰と話しているのれすか?」
鍵:「いいえ。独り言です。すいません。」
フ:「私がジャムに話してみます。」
鍵:「よろしくお願いします。」
桶:「てやんでぇ、しゃらくせいやい、べらぼうめ、とっとと失せやがれ。」
鍵:「いやいや短いやつ。」
桶:「とっとと、うせやがれでおま。」
鍵:「とっとと、とと」
フ:「シゲキ何れすか?とっとと?」
鍵:「何でもありませんよ。フルーツ」
フ:「シゲキ、大丈夫?なんか悪い物でも食べたれすか?」
鍵:「いいえ。大丈夫です。とっとうせやがれこのやろう。」
まんごろうは、戻って行った。
フ:「シゲキ、私がいない方がいいれすか?」
鍵:「No. I’m glad you came.」いいえ。あなたが来てくれて嬉しいです。
フルーツとジャムは私の事をアブナイやつだと思ったらしい。二人で顔を見合わせている。
猛獣使いのフルーツが頑固者のジャムを説得。
フルーツは、ジャムにタガログ語で説明してくれたが、それでもジャムは納得しない様だったがフルーツが長い時間を掛けて説得してくれて、私の希望に沿ったレッスンをしてくれることになった。
その姿はモスラを説得しているザピーナツのようだった。♪モスラやモスラ♪
フ:「シゲキが受けたいレッスンの事は理解できました。ジャムにはマクドナルドで注文する時の英会話や服を買うための英会話レッスンをして貰います。そして午後のマーガリンには私が話をして、シゲキが持ってきた本でレッスンをして貰います。」
鍵:「フルーツありがとう」
フ:「どういたまして、マクドナルドでの英会話の動画をYou Tubeで探しておいてくらさい。」
Hi! let's study together.
鍵:「Thank you Jam」ありがとう。ジャム。
ジ:「Hi! Let’s study together」はい、それでは一緒に勉強しましょう。
と、言って室内から出て10分間の休憩後に戻ってきた。
鍵:「This is a video of a conversation at McDonald’s that I want to learn.」はい、ジャム。これが学びたいマクドナルドでの会話の動画です。
ジ:「Okay. Let’s write this out on paper first.」それでは最初にこれを紙に書きだしましょう。
鍵:「Sure.」はい。
と、言って私はジャムに促されるままに動画を止めながら日本語と英語を書き出した。
店:こんにちは 今日はどうしますか?
「Hi. How can I help you today? 」
客:チキンマックをお願いします。
「Hi. Can I get a McChicken, please? 」
店:はい、一緒に飲み物やポテトは如何ですか?
「Sure, Would you like a drink and fries with that? 」
客:お願いします。
「Yes, please. 」
店:お飲み物は何にしますか?
「What kind of drinks do you like? 」
客:どんな種類の飲み物がありますか?
「What kind of drinks do you have? 」
店:オレンジ、コーヒー、紅茶、ミルク、コーラがあります。
「We have orange, coffee, tea, milk, coke. 」
客:コーラをください。
「I’ll have a Coke. 」
店:サイズは?
「What size can I get for you? 」
客: Mサイズでお願いします。ポテトもMでお願いします。チョット聞いてもいいですか?
「Medium, please. I would like potatoes in M size as well. May I ask? 」
店:はい、何でしょうか?
「Yes, what is it? 」
客:このクーポンは使えますか?
「Can I use this coupon? 」
店:はい使うことが出来ます。無料で飲み物とポテトをLサイズに出来ます。そうしますか?
「Yes, you can use this. You can make drinks and potatoes L size for free. Do you do that? 」
客:はい、そうしてください。
「Yes, please. 」
店:他に注文はありますか?
「Sure. Anything else for you today? 」
客:これで全てです。ありがとう。
「No, that all. 」
店:よし、じゃあMサイズのチーズバーガーセットで、飲み物とポテトがLサイズですね。ソースはつけますか?
「Great, so the medium cheese meal. Drinks and potatoes are large size. Would you like sauce? 」
客:いいえ結構です。
「No, thank you. 」
店:ここでお召し上がりですか?お持ち帰りですか?
「Will it be for here or to go? 」
客:ここで食べます。
「For here. Please. 」
店:オッケー。合計で190ペソです。
「Okay. Your total is 190 pesos. 」
客:はい、どうぞ。
「Here you go. 」
店:おつりです。
「It’s change. Thank you. 」
客:ありがとう。
「Thank you. 」
この内容で店員と客の会話文を見ながら練習。その都度、発音とストレスの位置についてレッスンを受けた。後半は立ち上がって会話文を見ながら練習をした。
ストレスを意識すると、ハンバーガーではなく。ハンバガァ英語を発音する場合にのばさない方が良く、3つの文字で形成されている場合は、2文字目のバを少し強めか長めに発音する方がいいとメモに書いた。
そうか。それなのでシゲキとゲにストレスを置いた方が伝わりやすいのだと納得した。
明日の午前中は、会話文を見ないで会話練習をする事になった。そして、マクドナルドでセットを注文する会話も動画から書き出しレッスンを受けることになったので、後ほどノートに書きだすことにする。
今日は火曜日なので明日の午前中ジャムと練習をして木曜日のランチにマクドナルドに一人で行くことに決めた。実践する事が決まっていると集中してレッスンを受けることが出来るし、やる気も継続でき私にはこういうやり方が合っている。
ジャムが考えているように英語の試験を受けるという目的がやる気の継続になる方もいらっしゃるだろう。しかし、私はフィリピンという英語を喋れる環境にいるのだから積極的に活用した方が良いと考えている。
シゲキはアブナイ人???
リュックにウクレレと楽譜を入れ代官から言われて買った虫よけスプレーがリュックに入っているのを確認してランチに向かう。
今日はランチ後にバスケットコートの脇でウクレレの練習をするので、外出用のスリッパではなく靴を履いている。マニラは快晴で気温は28度ほどで気持ちがいい。
洗濯場ではスタッフが洗濯物を干しているところだ。私は「Hi! It’s a beautiful day, isn’t it.」良い天気ですね。と言葉を掛けた。
彼女は「Yes, it is.」そうですね。と、挨拶を返してくれた。
靴を脱いで建物の中に入ると、既に何人かが食事をしていた。一番手前の老人席には砂さんも座っていて隣に来るように手招きしてくれた。
多分、ジャムのレッスンのことが気になっているのだろう。私が選んだ料理で溢れそうなトレーを持って砂さんの隣に座った。ランチタイムは日本語禁止の為、砂さんとの会話は筆談だ。
砂:「ジャムとのレッスンで何があったの?」
鍵:「レッスンのやり方について話し合っただけです。」
砂:「フルーツが仲裁したと聞いたわよ。」
鍵:「そうです。私がレッスンして欲しい内容がジャムにうまく伝わらないので、フルーツに通訳を頼んだのです。」
砂:「ジャムはあなたが望むレッスンのやり方をやってくれることになったの?」
鍵:「最初は嫌がっていたけどフルーツが説得してくれてOKになりましたよ。」
砂:「それは良かったけど、何があったの?私の先生はあなたのことをアブナイ人と言っていたわよ。」
鍵:「アブナイ人??」
砂:「先生の話だと、あなたが突然大きな声で怒り出したりしたっていうのよ。そして、誰もいないのに誰かとケンカしていたというのよ。変な人と思われないように気を付けた方がいいわよ。」
鍵:「ありがとう。気を付けます。」
砂:「午後の先生は誰なの?」
鍵:「マーガリン。」
砂:「マーガリン?私は教えて貰ったことないけど、ここの先生で一番高齢の女性でとても厳しいという噂は聞いたわよ。私たちと同年代らしいけど誰彼かまわずに宿題を出すらしいわ。二人の先生とも癖が強いようだから大変だわね。それに先ほどのアブナイっていう話だけど、気を付けてね。See you.またあとでね。」
このスクールで最高齢ってどんな感じかなぁ。そんなあほな。
鍵:「See you. 」と、言って私もトレーを返却した。スタッフにサンキュウと言ったが、思い過ごしかもしれないが彼女らは好奇の目を私に向けている。
チェッ、まんごろうという狸の奴め、と舌打ちした。
ヒヤリングが出来なくって恥ずかしくて悔しかった!
私は自分で何かをしようとするときにはコーチングが必要だと考えている。そもそもコーチングの定義とは “自発的行動を促進するコミュニケーション” と認識している。
私は住宅メーカーの営業マン時代に部下を持ったころからコーチングの本を読み漁った経験がある、その中でのお気に入りは元大リーガーの長谷川滋利氏の「チャンスに勝つピンチに負けない自分管理術」だ。
この本はとても示唆に富んでいて私の疑問に答えてくれた。私がこの本から受け取ったメッセージはコーチの存在は重要だということ。
そもそも1人だと “本当にこのやり方が自分にあっているのか” といった進め方の迷いが出てきたり“面倒だからやりたくない”といったモチベーションの低下がネックになる場合があるが、それをコーチに逐一相談に乗って貰いながら、正しい方向に導いてもらうことで迷いを無くすことが出来る。
迷っている時間は無駄でありそんな暇があるならやらなければならないことを実行しろという事だと受け止めた。
しかし、コーチングを依頼するにはコストが掛かるので、継続的に見てもらうには経済的負担が大きい。そこで、私は自分が自分自身のコーチになれば良いと考えた。
そうすれば、コストもかからず半永久的に続けられセルフコーチング手法を学べばモチベーションも継続できるようになるし、部下にもその手法を教える事が出来ると考えていた。
このセルフコーチングは英会話学習にだって使う事が出来、自分が望む成果を達成する事が出来ると考えた。
そして英会話学習にトライしようとしたときに自分の考えをまとめたノートを作成した。
マニラでそれを読み返している。
セルフコーチングに必要なプロセス
①なりたい自分をイメージ
東京オリンピックで日本に訪れた外国人にスタッフジャンバーを着て英語で道案内をしている。
②中間目標の設定
2018年12月に開催されるオリンピック会議でボランティアをする。
③行動計画の立案
スカイプ英会話の一日25分の日常英会話コースを週に5回受講する。
④行動の実践
語学留学にトライする。
その場合は日本人と交流せずに英語を話せるチャンスと考えて、積極的に1人で買い物したりファストフードに食事に行ったりする。
可能ならば目的地を決めて現地の乗り物を利用する。
⑤評価と修正
出来た事出来なかった事をチェックし、自分に対する評価や目標に対しての修正も自由に記入する。
実際に2018年12月に5日間世界オリンピック会議でボランティアを経験した。参加者は全世界から来日するが、国を代表してオリンピック会議に主席する方々なので皆さん英語を話すことが出来た。
応募の時に私の英会話レベルは挨拶程度と記載したがなんと役割は品川駅近くのプリンスホテルでの受付だった。
毎日受付に配属されるボランティアは5名程だったがその内3名は英語を流暢に話すことができ、英語以外にもスペイン語、韓国語、中国語等の他の外国語も話すことの出来るスーパーレデイ達だった。
それでもトラブルが発生した場合に備えて、JTBの職員が受付の裏の事務室で待機していてくれた。
ネームホルダーに出来れば得意な言語は日本語って書きたい
私たちボランティアは、支給されたユニフォームを着て、夫々がネームホルダーを胸にぶら下げていた。
そこには、対応できる言語がその国の言葉で書かれていた。
従って彼女達のホルダーには、3~4カ国語が記されていて私のホルダーにはEnglishとだけ書かれていた。
出来れば日本語と書きたいといったらJTBの方に思いっきりウケてしまった。
私はアジア圏の方々の話す英語はなんとか聞き取れたし、英語ネイティブ以外の方の英語も半分ほどは聞き取れた。しかし、英語ネイティブの方の会話は全く聞き取れなかった。
彼らとしても、ホルダーに”English”って書いてあるので安心して、本気で喋ってくるし、時折ジョークも混ざってくる。英語に堪能な彼女らに聞いてみると、英語ネイティブの方々は初対面でもフランクに話すのが礼儀だと思っている人が多い。その為にジョークは欠かせないのだそうだ。私にとってはまたく迷惑な話だ。私は会話が成立しないのでエスコート専門だった。従って使った英語は
「It’s right over there.」それはすぐそこです。
「I could take you there.」ご案内しますよ。
「Would you follow me?」付いてきてくださいますか?
「Would you like me to take your picture?」写真をお撮りしましょうか?
殆どこのフレーズだけだった。折角のチャンスだったのにすごく残念で悔しかった。
スーパーレディ達に比べて暇だったので、2日目には折り紙を持って行って鶴を折ってオリンピック会議に来られた方にプレゼントすることを始めた。
それが大いに気に入られて、一緒に折ってみたいという外国人たちが集まってきた。中には動画を撮影する方もいて大いに盛り上がった。
それはそれで面白かったけれどヒヤリングとスピーキングをもっと勉強しなければ、このままでは東京オリンピックの時に英語で道案内をするという役割を十分に果たせないという思いがふつふつと湧いてきた。このままではいけない。何とかしなければならない。
正直言って悔しかったし残念だった。そんな悔しい思いをしたことで英会話はSkypeレッスンだけでは充分でないと考えるようなり、スタディアブロードを現実のものとして意識するようになったのだった。
美しい方は、より美しく。そうでない方は?
ボランティア最終日に、スーパーレディ達とJTBの女性の方の集合写真の撮影を頼まれた。
私は、ウケ狙いで「はい撮りますよ。美しい方は より美しく」といったらスーパーレディの一人が「そうでない方は」と乗ってくれたので、それでは皆さんよろしいでしょうか?ハイ!「そうでない方は」って言ったら皆さんが「それなりに~」
と言ってくれたので面白い集合写真が撮れた。
とっても有意義なボランティア経験だった。
I'm not from around here.
まさかフィリピン人に道を聞かれるなんて、咄嗟に「I'm not from around here. 」と答えたが伝わったかな?
リュックを背負ってバスケットコートに向かう。今日も快晴だが気持ちは沈んでいる。
何故かというと商店街を抜けて歩いている時に、高齢者のフィリピーナに声を掛けられた。
婦:「How can I get blah blah blah.」ブラブラにはどうやったらいけますか?
ブラブラの部分は私には聞き取れなかったが。
鍵:「Sorry, I’m not from around here. You should ask someone else. Good luck.」すいません。私はこの土地の者ではないので。誰か違う人に訊いてください。良いことがありますように。
と、言いながらボディランゲージでも申し訳ないという思いを伝えた。
まさかマニラでフィリピン人に道を聞かれるとは思ってもみなかったのでビックリした。
このフレーズは友人から教えてもらって何度も練習していたが、英会話の勉強を始めてからは二度とつかわないと自分に誓ったフレーズだったので複雑な思いだった。
しかし、いくら何でもフィリピン人の方から道を聞かれて、その方の為に私が他のフィリピン人に聞いてあげるなんて笑い話にはなるだろうけどありえない、と考えながら吹き出してしまった。
それにしても一人で笑いながら歩いている怪しいおやじには他人は近づいてこないだろうし、親子ずれならさしずめ母親が子供にあのおじさんの近くに行ってはいけないよとたしなめるだろうと考えると、笑いをこらえられない。
そんなことを考えながら歩いて、幼稚園が併設されている教会の公園まで来てみたが昼過ぎなので親子ずれの姿はなく、生き物としてはすべり台の近くにいる野良犬とシーソーの近くにいる猫3匹、それに私の回りを飛び回っているハエと蚊達だけだ。
マニラでは猫達には気を許しても良いが野良犬には注意しないといけない。
それというものフィリピンで野犬に噛まれて狂犬病になるケースもあるとスクールから注意を受けていたし、マニラの観光ガイドでも野犬が多いので注意する様にという記事を読んでいたからだった。
その記事によると、飼い犬でも狂犬病注射を受けていないケースも多いし、放し飼いにしている飼い主も多いそうで、もし噛まれて狂犬病に感染すると1~2週間で発病しほぼ100%死亡するそうだ。
だから首輪をしていても安心できない。ましてや傍にいる犬は首輪もしていない。
体重は私の犬と同じぐらいで20キロほどありそうなので襲われたら逃げ切れないだろう。
可愛い顔をしているが用心に越したことはない。
私は、2人乗りのブランコにまたがりウクレレと楽譜を取り出し、リュックもブランコに置いて、虫よけスプレーをリュックのポケットに手を突っ込んで取り、腕と足にスプレーした。
小刻みに揺れるブランコのリズムを感じながら吉田拓郎の♪結婚しようよ♪を弾き語りし♪Take me home, country roads♪を8ビートで弾き語りをして楽しんだ。
そして中島みゆきの♪地上の星♪や浜田省吾の♪悲しみは雪のように♪と、♪もう一つの土曜日♪を練習した。
ここはとても静かだ。時折道路を歩いている人がいるだけで、午後1時を過ぎても公園にいる人間は私一人のままだ。
日本でも感じていたことだが屋外でウクレレの弾き語りをすると気持ちがいいし、この解放感はたまらない。そうだ。明日の朝もここで練習する事にしよう。
スマートフォンで時刻を確認すると1時30分。3時からのレッスンにはまだ時間があるので、モール内のスーパーマーケットに行ってみる事にした。
そうすれば、昨日はどうしてマンゴウは私に違うレジに並ばせたのかという疑問を解消する事が出来るはずだ。
リュックにウクレレと楽譜を仕舞って歩き出したら公園にいた犬が私についてきた、いくらかわいい顔をしていても野良犬はやっぱり怖い。
一定の距離を保つように目で犬を制しながら小走りで商店街までくると、何人かがその犬に声を掛けて頭を撫でながら名前を呼んでいるのでこの周辺で暮らしているのだろう。
昨日、マンゴウに連れ行って貰った道を歩いてガードマンがいたゲートまで来ると、今日は女性のガードマンが椅子から立ち上がってゲートを開けてくれた。
今日は英語の発音で「Thank you.」と言いながら私は頭をぶつけない様に注意しながら小さなゲートをくぐり抜けた。
ショッピングモールの入り口に並びながら手荷物検査の為にリュックをおろして、手に持ち警備員から指示があればすぐに中を見せられるようにチャックを下げて順番を待った。
さぁ私の番だと少し緊張したが、警備員はノーチェックで通してくれた。チェックする人としない人の見極めについて警備員に聞いてみたい衝動にかられた。
警備員が暇そうな時に缶コーヒーでもご馳走し聞いてみる事にする。その時に使う英会話もジャムと練習するのも楽しいだろう。
初めて一人でマニラのモールで買い物
モールの中には、デパートや専門店街もある映画館やカラオケボックスもある。何処も覘いてみたいのだが初めにスーパーマーケットに行って、昨日の疑問の解答を見つける事にした。
買い物かごを持って店内を散策したが、マンゴウと一緒にいていた時よりも店内は広く感じたし、生鮮食品のコーナーには見た事もない魚が並んでいて興味深かった。
ワインコーナーには、高級ワインや日本酒、そして飲みなれたビール名が沢山並んでいたが、日本産の缶ビールは総じて高額だった。
私の計算だと日本産の缶ビール1本でフィリピン産のビールを3本買える。
先生たちの話だとフィリピンを代表するビールと言えば、サンミゲル社のサンミゲル、サンミゲルライト、レッドホース、こちらのスーパーマーケットでは、どれも42.75ペソ(約94円)で買うことが出来る。
そして、サンミゲルという名前はスペイン語なのだそうで、理由はフィリピンがかつて、300年以上もスペインの植民地だったからだそうだ。
先生たちは当然のことだが自分の国の歴史について良く知っている。日本とフィリピンの歴史についても小学校で学ぶそうで、豊臣秀吉という名前を彼女達が口にする事にたびたび驚かされた。
私もフィリピンと日本との歴史的関係について学ぶ必要性を感じググった。
スーパーマーケットでドライマンゴーを一袋買い物かごに入れてレジに向かった。
ドライマンゴーはフィリピン土産の定番であり帰国時にお土産としても買う予定だ。
袋にはシールで87.15ペソ(約190円)と書いてある。フィリピンの付加価値税12%は内税と学習済みなので、小銭入れから90ペソ取り出してそれを握りしめてレジに向かった。
まるで、テレビ番組で見た初めてのお使いの中の子供の様でおかしかった。
昨日マンゴウに促されて並んだレジは今日も空いていた。他のレジは長蛇の列が出来ているというのに何故なのだろう。
シニアと〇〇と妊婦の優先レジ
レジの上には夫々看板が下がっていて、空いているレジには「Priority is given to seniors, persons with disabilities and pregnant women.」シニアと〇〇及び妊婦が優先と英語で示してあり「Disabilities」は障害者の事だと絵が描いてあったので理解できた。
日本でも実施してほしい取り組みだ。それに、フィリピンの方々がルールを守っているのが素晴らしいと感じた。
昨日からの疑問が解けてすがすがしい気分に浸っているところに、妊婦さんが私の後ろに並んだ。
私は「After you.」お先にどうぞ、と言いながら彼女が通るスペースを作った。
彼女は「Thank you.」と言いながらお腹を揺らして私の前に来たので次の会計は彼女だ。彼女はお釣りをレジ横の小さな箱に入れた。
後日ジャムに聞いたらフィリピンでは、多くの人がレジで1ペソ以下のセンタボを貰ったら寄付するとの事だった。
彼女の会計が終わり次は私だ。会計係がレジを打ち終わったので、緊張で汗ばんだ90ペソを渡したら「blah blah blah」と何を言っているか分からない。
フィリピンではビニール袋は有料だと聞いていたので、きっと「ビニール袋は要りますか」と、「シールを集めていますか」と聞いているのだと考えて「Yes please.」と言ってみた。
そうしたらビニール袋とポイントシールとお釣りを手渡してくれた。お釣りの2ペソをポケットにしまい85センタボをレジ横の小さな箱に入れシールは先ほどの妊婦に「Here you are.」どうぞと言って手渡したら彼女は「Thank you.」と言いながら笑顔で受け取ってくれた。
今日は小銭入れしか持っていないがショッピングモール内の専門店街でウインドウショッピングを楽しむことにする。
店員に声を掛けられても「I’m just looking. Thank you.」見ているだけです。ありがとう。と言えばOKというのは学習済みだ。
日本と同じように圧倒的に婦人服やハンドバッグといった女性向けのお店が多い。そしてTシャツやジーンズ、靴の安売り店もある。電気店には携帯電話にパソコンが乱雑に並べられている光景も日本と同じだ。
そして、通路の真ん中には携帯関連のお店、ウクレレやギターを扱っているお店もある。
ウクレレを見てみると日本で1000円位の物から高くても1万円位の価格帯だった。
私はウクレレを買って帰ろうと決めていて予算としては5万円位と考えていた。
1万円クラスだと本体が合板だろう。私は現在ウクレレを1台しか持っていないが本体は合板なので、次に買うなら単板と決めていた。
その為展示されていたウクレレは手に取ってみる事もしなかった。
ウクレレ以外に気になったのが、携帯電話の修理屋さんだ。私の携帯は表面が無数に割れてしまっているので修理代金が安ければ頼みたい。
ショップの人に相談したいがそのような英会話フレーズも知らないので、ジャムと練習して出直すことにした。
店内の時計の針は2時30分の少し先を指しているので部屋に戻ることにしたが、ここから部屋まではゆっくり歩いても10分ほどなので授業には充分過ぎる時間がある。
女王様から英会話レッスン
部屋の前まで来ると事務員のフルーツが立っていた。部屋にどうぞと誘ったが、フルーツが外で話す方がいいというので、立ち話になった。幸い、犬は散歩中なのだろうか、やけに静かだった。
フ:「Hello Shigeki. Can I talk to you for a second?」こんにちは。シゲキ。チョット話してもいいですか?
鍵:「Sure.」もちろんです。
フ:「How was Jam’s class?」 ジャムの授業はどうでしたか?
鍵:「It was a lot of fun. Thank you.」とても楽しかったです。ありがとう。
フ:「I’m glad to hear that. Please enjoy the afternoon class as well.」それを聞いて私も嬉しいです。午後の授業も楽しんでください。
鍵:「The day after tomorrow, I’m going to McDonald’s for lunch.」明後日マクドナルドにランチを食べにいきます。
「I will try what I practiced. I’m looking forward to that.」練習したことを試してみます。私は楽しみです。
フ:「Really? Have fun!」そうなの?楽しんでね!
鍵:「Thank you.」ありがとう。
フ:「I’ve told Margarine what you want, so it’s okay.」 マーガリンblah blah blah大丈夫です。
鍵:「Pardon?」もう一度言ってください。
フ:「マーガリンに、あなたの希望を伝えてあるので大丈夫と違いないれす。」と、チョッと変な日本語で話してくれたが、本当はもう一度英語で話して欲しかった。
しかしフルーツの多少変でも一生懸命に日本語を話してくれると日本語ネイティブとしては嬉しい。
このような思いは万国共通なのだと思う。私も間違った英語であっても大きな声で話すことに抵抗がなくなってきた。
鍵:「Thank you. Take care. Bye-bye.」ありがとう。元気でね。バイバイ。
フ:「Thank you and take care of yourself too. Bye-bye」ありがとう。あなたもお大事にね。バイバイ。
それにしてもフルーツの細やかな心遣いが嬉しい。彼女は本当に如才ない人だ。益々ファンになっちゃう。しかし、ふと、如才ない・・・。平たく言うと愛想がよく気が利く人って英語で何っていうのだろう?後で、ググってみなくちゃ。それにフルーツになら狸の事も代官を探すことも相談出来そうだ。
鍵:「You are kind. I really appreciate that. Thank you.」ご親切にどうも、とても感謝しています。ありがとう。
フルーツは事務室に戻って行ったが、どうして日本語も英語も話すことが出来て美形のフルーツが、このスクールの事務員として働いているのかという疑問がふと頭をよぎった。
まさか、フルーツのおなかの赤ちゃんの父親は校長?もしそうだとしたら彼が羨ましすぎる。
部屋のドアを開けているところにマーガリンが来て挨拶してくれた。砂さんからマーガリンはこのスクールで一番高齢だと聞いていたが、スタイルも良いし美形の女性だった。
部屋の中に入って貰って軽く挨拶を交わし、話をしてみると毎週スポーツジムに通っているとのこと。
その為、スタッフTシャツの上からもみてもおなかのあたりがしまっている。それに胸が大きい。
そして、信じられないが孫がいて私の妻と同じ年だというのに、彼女がミニスカートでイスに座って足を組む仕草にはドッキっとさせられた。
そして、英会話スクールの先生が履くのは場違いだと思われる真っ赤なハイヒールもフィットしていた。
私は冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出して彼女に渡してから、ジャムやフルーツにも読んで貰った「スタディアブロードの目的」の書いてあるノートを読んで貰った。
マーガリンは、ノートに目を通し。
M:「I heard from Fruit. Where is the book you brought.」フルーツから聞いています。あなたが持ってきた本はどこですか?
鍵:「Yes this is.」はいこれです。
と言って本を手渡した。マーガリンはしばらく眺めてから。
M:「My lessons are pronunciation and linking. Are you Okay?」私がレッスンするのは発音とリンキングです。あなたはそれで良いですか?
鍵:「Yes, I am.」はい。
確かリンキングは音声変化で「連結」「脱落」「同化」でリエゾンと同じだったよな。
M:「Let’s get started.」それでは始めますよ。
と、云ってレッスンはスタートした。
M: 「First of all, read this text. Shigeki.」まず初めにこのテキストを読んで。シゲキ。
文面は英語と日本語併記となっていて、内容は、リンキングについての説明だった。
私の嫌いな勉強だが、こちらも私が持参した本でレッスンをしてほしいという無理なお願いをしているので、ここは逆らわずに素直に読んでみる事にした。
リンキングの授業は大嫌いだ!
マーガリンにはどことなく逆らう事を許さないといった迫力があり、目力も強く、SM小説の女王様の雰囲気を醸し出していた。
プロポーションも良く美形という事がその様な連想を助長させ、彼女が鞭を持っている姿が一瞬頭に浮かんだ。
テキストの内容は、リンキングの基本について書いてある。
Check it out! 調べてみよう!「チェック イット アウト」は「チェッケラゥ」
Can I take it out? 取り出せますか?
「キャン アイ テイク イット アウト」⇒「キャナイテイケッタウ」
何故、こうなるのか?
以下を最後まで読んで理解してくださいと書いてある。
母音と子音を改めておさらい。
母音⇒a. i. u. e. o 日本語の「あ」「い」「う」「え」「お」
子音⇒それ以外のアルファベット
リンキングの5つの法則
①子音で終わる英単語(英会話で最も多く使われる)
英単語の語尾が子音で、次の英単語の語頭が母音の場合、子音と母音をくっつけて発音する。
②英単語が母音から母音へと続く場合は、間に「Y」や「W」の音が挿入されることが多い。
「Y」や「W」どちらになるかは「音が母音で終わる英単語」を発音した時の口の形で決まる。
音が母音で終わる英単語の場合、[a][e][i]の音で終わる場合は、口は広がった形になっている。
口が広がっている時は「Y」の音が入ってくる。
[a]⇒[ei]「エイ」[e]⇒[i:]「イー」[i]⇒[ai]「アイ」
例)The end 「ディ エンド」⇒The yend「ディ イェンド」
High up 「ハイ アップ」⇒High yup「ハイ ヤップ」
口が丸まっている時は「W」の音が入ってくる。
「音が母音で終わる英単語」[o][u]の音で終わる場合、口は丸まった形になっている。
[o]⇒[əʊ]「オゥ」[u]⇒[u:]「ユー
このような音で最初の英語が終わる場合は次に繋がる英単語の前に軽く「W」の音が入ってきます。
例)Go out「ゴーアウト」Go wout「ゴーワウト」
③子音で終わる英単語+同じ、又は似た子音で始まる単語
同じ子音で始まる場合
同一の子音が続く場合は、2回同じ音を発音せず一回のみ発音する。ネイティブは、同じ音が重なった時片方は発音しない。
例)Set top「セット トップ」ではなく「セトップと[t]を発音しない。
似た子音で始まる
「似た子音」とは「S」と「Z」、「F」と「V」など。
I have finished have.終わりました。Haveが[v]で終わりfinishが[f]で始まるのでリンキングして「2回の時間で1回」になる。[t][d[th]同士は、頻繁にリンキングする。
④[in][on][and][or]が続く場合
これらは母音で始まるので子音で終わる単語とリンキングするが、単語自体が短いので一瞬で発音が終わってしまう。
これらは同じように発音さる場合が多いので、前後の文脈でどれかを判断するしかない。
そして、殆どの場合シュワ+Nという発音になる。
例)「Get on in.」 乗りなさい。「ゲットオンイン」⇒「ゲットンニン」
「Come on in.」 どうぞいらっしゃい。「カモンニン」
「I use butter and sugar.」 私はバターと砂糖を使います。アイユーズバッターンシュガ
⑤「何とか」+「Y」で始まる英単語の場合
「あなた」という意味の「you」は、コミュニケーションをとっている相手がいる限り、英会話の中で必ずと言って良いほど出てきます。
この「you」という英単語を使う場合、リンキングすることが非常に多いので注意が必要。
「T」+「Y」の場合
英単語の語尾が「T」で次の英単語の語頭が「Y」の場合、「ch」と発音する。
例)Don’t you. 「ドンチュー」となる。
Get you. Want you. Aren’t you.も同じ。
「D」+「Y」の場合
英単語の語尾が「D」で、次の単語の語頭が「Y」の場合は「j」と発音する。
Did you? 「ディヂュー」と発音する。
Need you. Could you. Would you. も同じ。
「S」+「Y」の場合
英単語の語尾が「S」で次の英単語の語頭が「Y」の場合「sh」と発音する。
This year. 今年。「ディシャー」となる。
「Z」+「Y」の場合
英単語の語尾が「Z」で次の英単語の語頭が「Y」の場合は、「zh」と発音する。
As you know. あなたが知っているように。「アッジューノー」
リンキングの発音トレーニングなんかやめて日本に帰りたい
①ネイティブの発音を繰り返し慣れるまで聞く。
②リンキングを意識して聞く。
③好きな洋楽を繰り返し聴いて、英語のアクセントになれる。
④音に集中して、意味やスペルは考えない。
⑤発音する際にはゆっくり音と音の繋がりを意識する。
⑥RやTHなどの日本語にない音を正しく発音する「癖」を付ける事を優先する。
⑦英語の発音は腹式呼吸で声を前にだす。
読み終わったが、ちっとも楽しくないし眠たい。
私がテキストを読んでいる間、マーガリンは私が持参した本を読んでいた。
つまらないのであくびが止まらない。こんな時はあの狸でもいてくれたらなぁ。あの狸なんていったかなぁ。なんて全くテキストに集中できない。そうだ!OKまんごろうだ!
へい、だんな、お呼びでげすか?
鍵:「そうだけど、その恰好やめてくれる。気味が悪い!
英語の勉強がつまらないから、なんか面白い話をしてくれよ。」
桶:「おもろい話なんか何にもありやせん」
鍵:「そうなのか、つまらないなぁ」
英語を聞き取れるようになりたいならシャドウイング!
その次のページは「リエゾン」の説明だ。
私はリンキングとリエゾンと同じと思っていたが、このテキストは違うと言っている。
このテキストによるとリエゾンは「音声変化」で「連結」「脱落」「同化」の3種類があり、リンキングは「連結」の部分だ。
その他「脱落」と「同化」を理解しないと英語を聞き取れないとテキストは言っている。
リスニング力を鍛えないと、スピーキング力は身に付かない。すなわちリスニング力とスピーキング力は表裏一体だというのだ。従ってリエゾンを克服してリスニング力をアップするには、自分でもリエゾンさせて発音できるようになるが近道で、自分がリエゾンさせて発音するようになって初めて、脳はその音を「音」として認識してくれる。
つまり、聞き取れるようになるためには、何度も繰り返し聞くより、音声をまねて何度も口に出して練習する方が良い。その為には、ネイティブに発音して貰ってシャドウイングし、違いを修正して貰う練習が最適だ。
脱落が起こる理由は、ネイティブにとって発音しない方が楽だからで、全てを発音していたら早く話せないし疲れるからだそうだ。
脱落は以下の二つの種類をおさえておこうと書いてある。
①子音+子音で音が落ちる場合
ア、破裂音と破裂音で音が落ちる場合
例)Stop calling. 「スタップ コーリング」⇒「スタッコーリング」[p]の音が発音されない。
Club president.「クラブ プレジデント」⇒「クラップレジデント」[b]の音が発音されない。
Sit there.「シット ゼア」⇒「シッゼア」[t]の音が発音されない。
Send them.「センド ゼム」⇒「センゼム」[d]の音が発音されない。
Black shirt.「ブラック シャートゥ」⇒「ブラッシャートゥ」[k]の音が発音されない。
Flag ship.「フラッグ シップ」⇒「フラッシップ」[g]の音が発音されない。
イ、破裂音と+子音(破裂音、摩擦音以外)で音が落ちる場合
Top level.「タップ レヴエル」⇒「タッレヴェル」[p]の音が発音されない。
Hot milk.「ハットゥ ミルク」⇒「ハッミルク」[t]の音が発音されない。
Just now.「ジャストゥ ナゥ」⇒「ジャスナゥ」[t]の音が発音されない。
ロ、子音+[h]で[h]が落ちる場合
Could have.「クッドゥハヴ」⇒「クダヴ」[h]の音が発音されない。
Call him.「コール ヒム」⇒「コーリム」[h]の音が発音されない。
この[h]の脱落は厄介だ。私は以前、英会話のセミナーに参加している時に、
講師から「I met him yesterday.」が聞き取れますか?と言われてわからなかった記憶がよみがえってきた。
「アイメッイムイエスタデイ」私は昨日彼に会ったという簡単なフレーズだが[t]と[h]が脱落することで、私が聞き覚えのあるフレーズとは別物になり、聞き取れない事がすごく悔しかった。
②文末の破裂音が落ちる場合
例)I did it.「アイ ディドゥイットゥ」⇒「アイディディッ」[t]の音が発音されない。
I’ll go walking.「アイル ゴゥ ワーキング」⇒「アイル ゴゥ ワーキン」最後の[g]の音が発音されない。
I’ll do that. 「アイル ドゥ ザットゥ」⇒「アイル ドゥ ザッ」最後の[t]の音が発音されない。
この様なテキストを見ているとなるほどそうなのかと、英語を勉強している気になるが私は好きではない。
しかし、青でマーカーした部分の英語表記をマーガリンにも読んで貰ったことで、初めのレッスンとしてシャドウイングを5分の休憩の後に行うことになった。
休憩時間を利用して、彼女は如才ない人だ、をGoogle翻訳で確認してみた「She is a friendly and attentive person.」そうか「attentive.」を使うのか。アテンドでふと、代官を思い出してしまった。
鍵:「桶まん!可愛い女子大生にでも変身してみろよ。」
桶:「へい!」
鍵:「なんだよ。桶まん、お主の美的感覚はどうなっているんだ?」
桶:「お言葉ですが、我らの世界では超かわいくてアイドルなんでげす。」
そんなことより彼はどうしているのかなぁ。連絡先を聞かなかったことに今更ながら後悔している。休憩後の授業のシャドウイングは、私が持参した本のフレーズを彼女がゆっくり読んで私が真似をする。私はリンキングやリエゾンを意識しながらお手本のフレーズを聞いて繰り返す。
A:「Is this your first trip to Japan?」日本へは初めてですか?
B:「Yes, it is.」 はい、そうです。
A: 「Great! Welcome to Japan.」いいですね。ようこそ日本に。
B:「Where are you planning to go?」どこを訪ねるつもりですか?
A:「We’re planning to visit Kyoto, Nara, and Hakata.」京都、奈良、博多を訪ねるつもりです。
B: 「Sounds great! I hope you have a good time there.」どうかお楽しみください。
A:「Is this your first trip to Japan?日本は初めてですか?
B: 「No, It’s my third time in Japan. 」いいえ3回目です。
A:「So it seems you like Japan.」そうですか、日本を気に入られたようですね。
B:「Of course I do.」もちろん、日本が好きです。
A: 「What’s your favorite place in Japan? 」日本でお気に入りの場所はどこですか?
B:「I like the Yansen area.」谷根千やねせん地区です。
A:「Wow, that’s surprising.」え、驚きました。
「It’s a very popular area among young Japanese people.」日本の若者にも人気のエリアです。
B:「A friend who has been to Japan told me.」日本に来たことのある友達が教えてくれたのです。
A:「By the way, where are you staying?」ところで、どちらにお泊りですか?
B: 「Actually, we’re staying at a ryokan in Yanaka. 」実は、谷中たなかの旅館に滞在しています。1ページ分を何度か練習すると、彼女の発音だけを頼りに、私は本を見ずにフレーズを発音しなければならない。
そしてAとBを彼女と私で交互に読み、最後には日本語訳だけを見てフレーズを英語で発音する練習をさせられた。発音の間違いについてフレーズの途中でストップさせられて、細かくチェックされ何度もやり直しさせられた。同じ個所で間違うと鞭で打たれているような錯覚になる。まさしく女王様だった。
マーガリンは鬼だ!
「S」の発音が聞こえないと言われ「Th」の発音を直され、リズムを修正され、「Wh」の疑問文は語尾が下がる事の指摘を受けて頭がパニックになった。それに、[,]で一拍置く事の重要性を説明してくれた。
[,]で一拍置かないと意味が違ってくるという指摘を受けて練習させられた。フレーズをノートに書き留めた。
「Let’s eat, grandma!」おばあちゃん、食べよう!「レッイイッ グランマ」
「Let’s eat grandma!」 おばあちゃん「を」食べよう!「レッツイイツグランマ」
2時間のレッスンだったがヘトヘトになったのに、おまけに宿題までだされた。宿題の内容は、今日のレッスンフレーズを各3回ずつスマートフォンに録音し、明日のレッスンの時にマーガリンに聞いて貰うというものだった。宿題なんて要らない、と断れる雰囲気ではなかった。本当に彼女がSMの女王様に見えてきた。
フルーツから渡して貰った先生のシフト表を再度見てみると、平日は毎日午前がジャムで午後がマーガリンとなっていて、土曜日と日曜日は原則授業が休みなので空白となっていた。
鍵:「桶まん。人探しは出来るか?」
桶:「人探しでやすか?ヒットマンなら知り合いがおま。」
鍵:「ヒットマンって、殺し屋?」
桶:「旦那が恨んでいる人がいたら、頼んでみるでおま。そ奴はどこのどいつでおますか?」
鍵:「いやいや、やめとくよ。代官を殺されたらたまんない。」
マニラでのSkypeレッスン先生は馴染みのあるティナ!
今日は19時から明日の自己紹介の為にSkypeレッスンを申し込んであるので、夕食後は早めに部屋に戻る必要がある。
何時もの高齢者席に砂さんが座っていて手招きしてくれたので、トレーに料理を山盛りに乗せて左隣に座ると砂さんは右隣の席の女性を紹介してくれた。
その女性はどことなく神経質そうに見えた。そう思わせるのは、細身で表情が暗いという印象からだった。端正な顔立ちで色白なのだから明るめの化粧をすれば映えると思うのだが、どうやらノーメイクのようだった。
それに茶色のトップスが暗い表情をなお一層際立たせているように感じさせた。
砂:「シゲさん。この人はチエさんです。一か月前からここでレッスンを受けていて、あと2ヶ月間ここに居る予定なの。我々と同世代なので仲良くしてあげてね。」
鍵:「チエさん。はじめまして、鍵シゲキです。シゲキと呼んでください。よろしくお願いします。」
チ:「こちらこそよろしくお願いしますわ。殿方のお名前をフルネームで呼ぶのは抵抗があるのでユリさんと同じように、私も「シゲ」と呼ばせてくださいませ。そうするとニックネームみたいで呼びやすいですわ。」
砂さんは、ユリさんって言うのだと初めて知った。
鍵:「シゲって良いですね。それではシゲって呼んでください。それにしても今までお会いしませんでしたね。」
砂:「シゲって呼びやすいよね。私の事はユリって呼んでね。」
鍵:「Okay ユリさん。」
チ:「このところ具合が悪くて部屋で食事も頂いていたものですから。」
鍵:「そうでしたか。お大事になさってくださいね。英会話の勉強は仕事の為ですか?」
チ:「いいえ。主人との夢を実現する為にここに来たのですの。」
砂:「チエさんのご主人は2年ほど前に亡くなられていて、今は一人娘と娘婿と一緒に暮らしているのよ。」
鍵:「そうですか。」
チ:「スタディアブロードは初めてですが娘夫婦に背中を押されて実現できました。費用も娘婿が出してくれたのですのよ。」
娘婿は私の娘から父親が口癖のように“お父さんの夢は、東京オリンピックでボランティアをやる事。来日した外国人と話がしたい。その為に、僕が定年したらおかあさんと一緒にスタディアブロードにトライして英会話を勉強したい” と言う主人の思いに寄り添ってくれたからなのですよ。」
鍵:「娘さんも娘婿さんも素晴らしいですね。」
チ:「そうなの。うれしいです。こんなに幸せで良いのですかね。しかし、ワクワクしてこちらに来てみたら英会話の勉強は楽しくないし、早く日本に帰りたいのですけど娘夫婦の手前、途中で帰国するという事は出来ないし悩ましいですわ。」
砂:「チエさんの体調不良の原因はそこにもあるかもしれないよ。」
チエさんは韓国語を勉強したかった??
チ:「そうですわね。本音を言うと英語より韓国語を勉強したかったのですわ。でも、主人は嫌韓というのかしら。韓国も韓流ドラマも大嫌いだったの。それでも私やっぱり韓国に行けばよかった、なんて今更後悔しているのですわ。でも、主人と一緒に来ていると思っているので、やっぱり韓国に行くわけにはいかなかったのですわ。」
鍵:「そうですか。あと2ヶ月あるんですね。折角だからそんな中でも楽しみを見つけてください。」
砂:「チエさんは、今夜のカラオケバーの会には参加するの?」
チ:「まだ、迷っているのよ。ユリさんは行くの?」
砂:「気分転換になるから一緒に行こうよ。私の先生がイケメンの若者も誘っているそうよ。日本の歌も沢山あるそうだから楽しもうよ。シゲはどうすんの?」
鍵:私は7時からSkypeで発音のレッスンを受けるので参加は無理。それに、誘われてもいないから。」
砂:「あら、シゲって真面目ね。」
鍵:「真面目じゃないですよ。ただ、明日のスピーチのレッスンをして貰わないと不安だから。」
砂:「あらあたしは原稿を読むだけと決めたからあまりプレッシャーは感じていないわ。」
鍵:「私は、校長から原稿を見ないで、トライしてくださいね。と、言われているのでペーパーを見ないというプレッシャーと闘わなくてはならないんです。そうそう。早めに部屋に帰らないとならないのでお先に失礼します。」
砂:「ランチの時に言ったけど、あなたはアブナイ人と言う噂が立っているわよ。明日のスピーチの時に払拭した方がよいわ。」
チ:「シゲさんがアブナイ人?私は聞いていないけどどういう事。」
砂:「私も先生に聞いたので詳しくは知らないけど、ジャム先生のレッスンの時に独り言を大きな声で話していたらしいの。それで、精神が錯乱しているんじゃないかという噂よ。
とにかく、このスクールの先生方は井戸端会議が大好きだし、口が拡声器の人が沢山いるから内緒話なんて出来ないわよ。」
チ:「私は体調が悪くてレッスンも2日間休んでいたから知らなかったけど、噂話は一瞬で広がるからお気を付けなさって。これからSkypeレッスンを受講するのですわね。楽しんでくさい。」
鍵:「二人ともありがとう。バイバイ!」
砂:「また、明日、バイ!」
チエさんは、守ってあげないといけないと思わせる女性だった。それに、亡くなられたご主人は私と同じような思いを持った人だったようで好感が持てた。それにしてもアブナイ人と言うレッテルをはがさないといけないとなると難しいなぁ。
代官の立場になってみて彼の大変さが少し理解できた。しかし、彼の様にポジィティブに考えられないな~。さて、どうしよう?
時差を忘れて大慌てでSkypeレッスン
部屋についたのは18時5分前、Skypeレッスンの時間まではまだ1時間ほどある。
宿題を早めに片付けようと、今日のレッスンの復習をしているところに、プルプルとSkypeの着信音がなった。
予約の時間よりも1時間も早い。受信すると英語が聞こえてきた。
T:「Hello Shigeki.」こんにちは。シゲキ。
鍵:「Hello Tina.えーと。わっ。ワッ What’s? My reserved time is probably 7:00pm.」こんにちはティム。どうしたの?私の予約した時間は多分午後7時だと思うのですが。
私がドギマギしていると。
桶:「旦那、慌てておますな。」
鍵:「こら桶まん。ひやかすなよ。」
T:「what’s going on, Shigeki? Where are you now?」 シゲキどうしたの?今何処にいますか?
鍵:「I’m in Manila.」 マニラに居ます。
T:「I guess so. Welcome to the Philippines. You reserved Japan time. You forget the time difference.」そうでしょう。ようこそフィリピンへ。あなたの予約は日本時間です。あなたは時差を忘れていますよ。
鍵:「That makes sense.」なるほど。
T:「What should I do?」どうしたらよいですか?
鍵:「Keep going. Please give me a lesson.」このまま続けてください。レッスンをお願いします。
I have a hay fiver!
T:「How about Manila.」マニラはどうですか?
鍵:「I like Manila very much.」とても気に入っています。
T:「What do you like about Manila? 」
鍵:「Let’s see. How do I explain? It’s hard for me to explain in English.」えーと、どうやって説明すればいいのだろう。それを英語で説明するのは私には大変です。
「But I’ll try.」でもやってみます。
T:「Hang in There. You can do it.」頑張って、あなたならできる。
鍵:「Well, Well. People are kind. And・・・・。」えーと、えーと、皆親切です。そして・・・・・。
「Hold on a moment.」ちょっと待ってください。
google翻訳を使って調べて。
「I am happy that there are no cedar trees.」杉の木がないのが嬉しいです。
T:「Why?」なぜ?
鍵:「That’s why, I have a hay fever.」私は花粉症だからです。
T:「Oh really. There is no hay fever in the Philippines.」そうでしたか。フィリピンには花粉症はありませんよ。
鍵:「I knew it. At this time of year, there is a lot of cedar pollen in Japan.」知っていましたよ。この時期日本ではスギ花粉が多いのです。
T:「Many of my Japanese students also have hay fever at this time.1」今の時期は私の日本人の生徒さんも花粉症の人が多いのですよ。
鍵:「That’s why I came to Manila at this time.」だからこの時期にマニラに来たんです。
T:「That make sense. How was your day so far?」なるほど。これまでの一日はどうでしたか?
鍵:「It was a very hard day.」とてもハードな一日でした。
T:「How was the lesson?」レッスンはどうでしたか?
鍵:「It was very tough. I have to do my homework.」とてもタフでした。私は宿題をしなければならないのですよ。
なんて、世間話をした後に、明日の自己紹介のレッスンをして貰った。日本では25分間のレッスンで時間を持て余すことが度々あったが、今回は少し時間が足りなかった。
こちらで予約する場合は、日本とフィリピンとの時差を考慮に入れなければならない。
日本時間の方が1時間進んでいるので、明日の朝は日本時間10時の予約を入れる事によって、マニラで朝9時から25分間のSkypeレッスンを受ける事にした。嬉しい事にティナ先生のレッスンの予約が取れた。
鍵:「桶まん、頼むから違う姿でいてくれよ。」
桶:「へい、それならこんなんは、いかが?」
鍵:「可愛くていいなぁ。一緒にウクレレでセッションしたいなぁ。」
桶:「わては、弾けませんわ。」
鍵:「な~んだ、声のイメージは可愛くできないのか。」
そんなばかな!俺の魂が以前、葛飾北斎の魂だったなんてありえない?
明日の自己紹介での一番重要なポイントは、私はアブナイ人間だという誤解を解く事だ。その為に原稿をチェックしているが、ティナと作り上げた内容を出来るだけ変更したくない。
「シゲキ」と呼んでね、というのを「シゲ」と呼んでくださいと言い換えるのは簡単だが、大幅に変更するとなると再度暗記しなおさなければならない。どうすれば簡単にそれが出来るのか?そんなことを考えながらシャワーを浴びている。
しかし、やつの邪魔さえ入らなければ、今まで準備してきた内容で自信をもって臨めたのに。
全部あいつのせいだ。おけまんごろう。お前は許さない。
桶:「ヘ~い、お呼びで?」
鍵:「なんだよ。おぬし。その恰好は?」
桶:「へい、昨日時代劇を観やしたのでやす。」
鍵:「でも、時代劇ファンの私としては盗賊って嬉しいな。この部屋にピッタリ!」
桶:「随分お悩みでおますな。せいぜいお気張りやす。あっしが手伝いまやすか?」
鍵:「おぬしは、話し相手しか出来ないって聞いたぞ。」
桶:「そうでやす。しかし、だんなの前のだんなの親方とは、沢山話もしたしお手伝いもしたでやす。」
鍵:「親方ってどんな人だった?」
桶:「皆から親方って呼ばれていて、一日中絵を描いていたでやす。」
鍵:「絵描きだったの?」
桶:「江戸絵っていうのを描いておりやした」。
鍵:「えっ、江戸絵って浮世絵の事だけど、親方は浮世絵師だった、名前は?」
桶:「親方は何度も名前を変えてやしたが、最期は自分の事を卍と名乗ってやした。」
鍵:「卍!!そんなばかなぁ。おぬし、わしが北斎のファンだと知っていてからかっているなぁ。」
桶:「てやんでい、べらぼうめ。あ、失礼しやした。そんなことはないでやす。親方は、卍以外にも春朗、宗理、北斎、戴斗、為一、等と名乗ってやしたが、名前を弟子に売っちゃうので、そのたびに何度も新しくしてたでやす。」
鍵:「俺知らなかったけど「たいと」とか「いいつ」って言っていた時代もあったんだ。」
桶:「そうでやす。」
鍵:「え~。頭がくらくらしてきた。じゃ~。訊くけど、親方、いや北斎は一緒に住んでいる娘の事を何て呼んでいた。」
桶:「おーい、とか“アゴ”とか“お栄”とか呼んでいやしたが、それがどうしでやすか?」
鍵:「・・・・」こやつの言っている事はもしかしたら本当かもしれないと心の声。
桶:「あたぼうよ!だんな。あっしの言っていることは本当でやす。魂は嘘つきまへん。」
鍵:「なんで声に出していないのにおぬしに聞こえるんだ。」
桶:「だんな。あっしにはだんなが脳で考える事が全部伝わるんでやす。あっしと話すときは声に出して言う事はないのでやす。」
鍵:「北斎は、引っ越しが好きだったかい?」
桶:「親方は年中引っ越ししてたでおま。北斎と名乗っていた時には、一日に2度も引っ越しやしたでおま。多分、生涯で引っ越ししたのは90回以上になると思いやすが、目的は役人から逃げるのと、わてと話ができる場所を探していたでやす。」
浮世絵師は役人から追われていた。
老中が松平定信の時代は浮世絵は禁止だった。その為、北斎も追われていた。
鍵:「江戸時代は、浮世絵を禁止していた時期もあったし、美人画で一世を風靡した喜多川歌麿が役人に捕まって手鎖50日の罰を受けて出所後に54歳で逝去したし、歌麿の版元であった蔦屋重三郎は過料により財産の半分を没収されたなんて、こともあったよな。
だから同じ版元から出版していたことで役人からにらまれていた北斎も逃げ回っていたと考えられるけど、どうして北斎はおぬしと話せる場所を探していたんだ。」
桶:「そうでやした、蔦重もそのことを嘆いておりやした。そして親方は、あっしを通訳として使っていやしたが、パワースポットでないと親方と話も出来なかったのでやす。」
北斎はカプタンから絵の依頼を受けていた
鍵:「通訳って?そして、パワースポットってなんだよ。」
桶:「親方とカプタンが話をする時の通訳でおま。パワースポットは今で言うところのWi-Fiでやす。」
鍵:「カプタンって、チョット待ってググってみるから。えーと、カプタンは、江戸時代、東インド会社が日本に置いた商館の最高責任者で商館長の事。1550年に九州の平戸にポルトガル商船が来航し、1560年からは平戸での貿易が許可され、平戸ポルトガル商館が建設されるようになった。また、ポルトガルの要請を受けて長崎を開港、長崎にも長崎ポルトガル商館が立つようになった。それが長崎県の出島だ。」
桶:「そこのカプタンが時々江戸に来て浮世絵を買付に来たり、西洋の絵を売りに来たりしていたのでおりやす。
カプタンによっては、国へのお土産にこういった絵を描いてくれなどと言う注文をする人もおりやした。それを、親方や版元の蔦重が聞いてそれぞれ得意と思われる絵師に書いて貰うという事をしておりやした。
しかし、相手の言葉が分からないのであっしが、通訳して親方に伝えてやした。」
私はアブナイ人ではない
桶:「だんな。元はといえばあっしがまいた種。お手伝いするでやす。」
鍵:「そうかそれは助かる。わしが明日、英語で自己紹介するので、途中で言葉に詰まったらヘルプしてくれ。」
桶:「だんなが事前に英語で読み上げてくれたらそれを全部記憶媒体にコピーしときやすので、親方が指示してくれたらその部分を脳に伝達しやす。」
鍵:「かたじけない。とにかく明日の自己紹介では、わしがアブナイ人間でないことを皆に強く印象付けなくてはならんのだ。頼んだぞ。」
桶:「ガッテン承知のすけ。」
鍵:「See you.じゃなかった“とっとと失せやがれ、このすっとこどっこい”」ってちょっと違ったかな。
それでも、桶まんの姿は消えた。それにしてもあいつと話しているとつられてこちらの言葉の使い方がおかしくなってくるがあいつの話は興味深いし楽しい。
スマホで時間を確認すると11時。アシスタントを起動してアラームをセットして、寝ることにする。「Ok, Google Set the alarm at 6 a.m.」グーグル、6時にアラームをセットして。
明日の朝は早起きして、自己紹介文を再作成してSkypeレッスンでチェックしてもらうつもりだ。内容を変更しても桶まんがサポートしてくれるのならまる暗記しなくても大丈夫だと安心したら、砂さんとチエさんのことがふと気になってきた。
二人はカラオケから帰ってきたかなぁ。どんな歌を歌ったのだろう。明日の朝食の時間に聞いてみなくちゃ。
アラームが鳴る前に目が覚めてスマホを見ると5時を少し過ぎたぐらいだった。
いつものように動画のお気に入りからラジオ体操を選び裸のまま第2体操までやったあとにウクレレの練習をした。
便意を感じたのでシャワー室で温度を調整してからトイレへ。
そして、トイレでハンドウォシュレットしてからシャワーを浴びた。昨日買ったボディソープとシャンプーの香りは、ある夏の日の記憶を呼び起こしてくれる。
それはビーチで夏の暑い日差しを浴びながら、缶ビールを片手に白い肌の彼女の背中に日焼けローシションを塗っていている光景だ。
10代最後の私にはオレンジのビキニがまぶしかった。
鎌倉の材木座海岸だったがビーチ全体にTUBEの♪あー夏休み♪が大音量で流れていて、我々のすぐ近くで小麦色の肌の女達がビーチボールで黄色い声をあげながら遊んでいた。傍らで彼女らを意識しながら男らがカップヌードルを食べながら雀卓を囲んでいた。彼らの手元にはおびただしい缶ビールが転がっていた。
彼女の顔をみようとするが何度見ても見ることが出来ない。やっと見られたと思ったら妻の顔になってしまう。そして、私の視線の先には3人の子供達。なんってこった。サラリーマン時代にマイホームパパと揶揄されたが、青春時代の淡い恋の記憶までも上書きされてしまっていた。
気を取り直して服を着てskype レッスンの準備をすることにする。まずは自己紹介の文章をチェック。
私がアブナイ人間ではないということを分かってもらえる為にどうするか?
そもそも何故そう思われたのか?と自問自答してみる。
元はと言えば、桶まんご・・わーアブナイ、アブナイもう少しで奴のフルネームを呼んじゃうところだった。桶まんの奴が私とフルーツとの会話に割り込んできて、隣でごちゃごちゃ云うから私と喧嘩になって言い争ったからだ。
フルーツやジャムには、奴の姿が見えないし奴の声が聞こえないから、私が一人芝居をしている様に映ったようだ。
私はアブナイ人間ではありませんと言っても、代官のように一流企業に勤めていましたと言っても、説得力はないだろう。楽しむためにマニラに来たのに、何でこんなことで悩まなければならないんだ。冗談じゃない。桶まんごろうの奴は許さん!
桶:「Hello! だんな。お呼びで?」
鍵:「なんてこった。又、おぬしを呼び出しちゃった。」
桶:「だんな。たいそうお悩みでやすな?」
鍵:「どうでもいいけど、その旦那という言い方はやめてくれ。」
桶:「だんなはダメ?では、何ってお呼びしやすか?」
鍵:「そうだな。北斎が親方だから、う~ん、ご隠居がいいなぁ。」
桶:「Got it.ご隠居って水戸黄門みたいでやすね。」
鍵:「そうそう一度水戸黄門になってみたかったのですじゃ。ところで助さん。Got it.ってどんな意味なんですかな。」
桶:「あっしは、助じゃござんせんが、ガッテン承知という意味でござんす。」
鍵:「そのフレーズ使えるな。しかし、助さんが渡世人風に話すのもおもしろいですな。それに助さんから英会話のレッスンを受けるとは思いもしなかったですよ。ついでにわしの悩みも解決して欲しいですな。」
It's a piece of cake!
桶:「ご隠居、そんなの“It’s a piece of cake”でござんす。」
鍵:「それって?」
桶:「朝飯前でござんす。」
鍵:「勉強になりますなぁ。今日、忘れる前に使ってみますよ。助さんまたお会いましょう。とっとと、」
桶:「ちょっと待っておくんなせぇ。ご隠居、解決策は聞かなくていいのでございますか?」
鍵:「あてにしてもいいのですかな?助さん。」
桶:「へい。あっしに任せておくんなせぇ。まず、ご隠居が見えない奴と話をしていたというのを正当化すればよござんす。」
鍵:「そんなことが出来るのですかな?しかし、それにしても助さんは、コロコロとキャラ変しますなぁ。」
桶:「へい。昨日の夜、TVで水戸黄門を観やしたので。ご隠居は自己紹介の時に“私は落語が好きだ”って言っちゃえばよいのでござんす。」
鍵:「落語が好き??なるほど。それは使えるなぁ。落語が好きなので、誰かと話していても一人で二役を演じてしまうことがあるのです、ってかぁ。よしゃ、その作戦はよろしいですな。
まずは、自己紹介の文章に落語が好きだという部分を追加することにしますかな。
助さん。ありがとう。これから朝食に行くから。“とっとと、うせやがれ、このすっとこどっこい”
桶まんが、まんごろうに戻ったのを確認して、食堂に向かった。
I’m excitingは間違っているらしい!
スクールの門をくぐって洗濯場まで来てみると、「Good morning.」や「What’s up.」「How’s it going.」「How about you.」「Good. thank you. 」「I’m fine. 」「It’s nice to see you again. 」といった元気な声が聞こえてきた。しかしスリッパを脱いで食堂内を見渡してみると、高齢者テーブルには誰もいない。それにチエさんとユリさんの姿も見当たらない。
大きな声で話をしているのは、上級者テーブルのメンバーだけで、中級者テーブルにも若い女性が2人だけだ。
今日はやけに話し声がはっきり聞こえてくるなと思ったら、いつも大音量でニュースを映しているテレビが点いていない。
本当にメンバーが偏っている料理の前に並んでいるのも上級テーブルメンバーだけだった。
私も「Good morning.」と言いながら列に並んだが、スタッフTシャツを着ている若い女性から「After you.」お先にどうぞ。と云われて「Thank you.」と笑顔で答えて、彼女の前に行かせてもらった。
彼女は、レディファストよりも高齢者ファストという感覚の持ち主なのだろう。しかし、彼女はどうしてスタッフTシャツを着ているのだろう。
彼女は続けて「I’m looking forward to your self-introduction.」あなたの自己紹介を楽しみにしています。「Thank you. I’m exciting.」ありがとう。私は興奮しています。と、言ったら一瞬彼女は少し困ったような表情を見せたが「Take it easy.」それでは失礼いたします。と、笑顔で手を振ってくれた。
私は料理が沢山のっているトレーを慎重に高齢者テーブルまで運んで、ボッチ食事をしながら自己紹介のフレーズについて思いを巡らせていた。
ふと、上級者テーブルに目をやると、スタッフTシャツを着ている彼女は、食事をしながら英語で話していて、ゼェスチャーもきまっている。英語初心者の私からすると、その堂々とした話し方とジェスチャーには憧れてしまう。
私もやってみたいけど、英語上級者の日本人の前で英語初心者がオーバーアクションをするのは恥ずかしいので、まずはフィリピンの先生の前でトライしてみることにする。
それにしても、高齢者メンバーが誰も来ないなんてどうしたのだろう。壁の時計の針は8時15分を指していた。私は食べ終えてトレーをスタッフに「It was delicious. Thank you.」おいしかったです。ありがとう。と言いながら手渡して、食堂を後にした。
部屋に向かいながら、チエさんとユリさんは、おそらく昨夜のカラオケイベントではしゃぎ過ぎて、寝坊したのだろうなんって考えていたが、その他の高齢者メンバーはどうしたのだろう。
それに中級者テーブルで食事をしていたのは、大学生風の女性が2人だけだったというのも不思議だった。それにしても、上級者テーブルはレギュラーメンバーがペーパーを見ながら大きな声で英会話を楽しんでいたが、いつもと違う光景だったけど何をしていたのだろう。
トレーを片付けたときスタッフに「Do you know what they are doing?」彼らは何をしているのって聞いちゃえば良かったのにそのまま食堂を後にしてしまった。
Skypeレッスンの先生の変更メール
部屋に入って、ノートパソコンのスイッチをいれて、Skypeレッスンの準備をしている。準備ノートの自己紹介文をチェックしているところに、skype 英会話レッスンに関するメールが届いた。
内容は日本語で書かれていた。それは、あなたが予約したティナ先生は都合が悪くなったので他の先生に変更してもよいですか?もしどなたか希望する先生がいれば、予約を取り直してください。
このメリー先生でよろしければそのまま予約した時間までお待ちください。という内容だった。メリー先生の顔写真を見て以前レッスンを受けたことがあると感じたが、どのような授業をして貰ったか記憶にない。
しかし、私の経験では代用先生というのは、人気のある先生ではない。例えるならば、夜のクラブ活動で飲んでいる時のヘルプみたいなもので、指名のつかないホステスだ。
ヘルプ先生が頑張ってお得意さんを取ったりしたらトラブルになるので、ヘルプ先生はテキストに沿って無難にやり過ごすことがほとんどだ。従ってレッスンの内容も画一的でつまらないのが常だ。
しかし、新しく予約を取り直すのは面倒なのでこのままレッスンを受けることにした。
チャンチャッチャッチャンチャチャン9時ちょうどにSkypeの着信音が鳴って、こちらが応答すると元気な声が聞こえてきた。
M:「Hi! Shigeki. Long time no see.」やあ!しげき久しぶり。
鍵:「Year. It’s been a while.」やあ、お久しぶりです。
M:「How have you been?」元気でしたか?
鍵:「Yes, I’ve been good. Thank you. How about you?」はい。良かったですよ。あなたは?
M:「I’ve been not too bad. Thank you.」悪くなかったですよ。ありがとう。「Was there anything special?」何か特別なことはありましたか?
鍵:「Yes, I’m in Manila now.」はい。今マニラにいます。
M:「Really?」本当に?
鍵:「It’s true.」本当です。
M:「Welcome to Manila.」マニラにようこそ。「How about Manila?」マニラはどうですか?
鍵:「I like Manila very much.」マニラが気に入ってます。
M:「what do you like about Manila?」マニラのどこが好きですか?
鍵:「Well, Let me think for a moment.」えーと、ちょっと待ってください。
M:「Okay. 」
鍵:「People are very kind.」みんな優しいです。
M:「Yes, people are kind.」はい。そうです。「Is there anything else?」その他に何かありますか?
鍵:「Well. Anything else. I have a hay fever.」うん~、他にねぇ。私は花粉症です。「I’m glad that there are no something trees in Manila.」私は、マニラに何とか云う木がないのが嬉しいです。
「What should I say about something trees?」Something treesのところはなんて言えばいいですか?
※このフレーズは、英会話レッスンを受けるために必要だとノートに書き留めてあるものだ。
M:「It’s probably a cedar tree.」それは多分杉の木です。
鍵:「Oh yes, it’s a cedar tree. Thank you.」あそうです。杉の木です。ありがとう。
「You know what? I want you to take a self-introduction lesson.」あのですね。私は自己紹介のレッスンをして欲しいのです。
M:「Why?」どうしてですか?
鍵:「I have to introduce myself in front of many people today.」私は今日、多くの人の前で自己紹介をしなければならないのです。
※このフレーズは今日のレッスンの為に準備して、ノートに書き留めていたものだった。
M:「Wow, that’s too bad. I hate talking in front of a lot of people. Are you nervous?」わぁ、大変ですね。私は大勢の前で話すのが嫌いです。緊張していますか?
ショッキングピンクは間違い!
鍵:「I’m exciting.」興奮してます。
M:「Shigeki. The phrase is wrong.」シゲキ、そのフレーズは間違っています。
鍵:「Please tell me what is wrong.」どこが間違っているか教えてください。
M:「It is correct that I am excited.」私は興奮していますはこれが正しいです。
鍵:「Is excited is the past?」興奮は過去形ですか?
M:「No It’s a 形容詞」いいえ、excitedは形容詞です。
なぜか、形容詞のことを「adjective.」と云わずに日本語を使うようだ。
鍵:「Is exciting is the 進行形?」excitingは進行形ですか?
進行形って単語が分からなかったので、日本語で訊いてみた。
M:「No exciting is a 形容詞」いいえ、excitingは形容詞です。
鍵:「I didn’t know that.」知りませんでした。
M:「Do you know the word that Japanese people often use? It’s shocking pink」あなたは日本人がよく使う言葉を知っていますか?それはショッキングピンクです。
鍵:「Of course I know.」もちろん知ってます。
M:「Pink that shocks someone.」誰かにショックを与えるピンク。
鍵:「I’m not sure.」よくわかりません。
M:「Please read this text on the screen.」画面上のこのテキストを読んでください。
鍵:「Got it.」ガッテン承知。
やったー。桶まんに教えてもらったフレーズを早速使えたぞ。「It’s a piece of the cake.」も使ってみなくちゃ。
そうそう、オーバーなゼェスチャーにもトライしなくちゃ。
Excitedは主語が「人」の時に「人が興奮している」Excitingは「物が興奮させているような」という意味で使います。
例文:「We were really excited at the soccer game yesterday.」 主語は「人」
私たちは昨日のサッカーの試合を見て、本当に興奮した。
「The soccer game yesterday was really exciting.」 昨日のそのサッカーの試合は、本当にエキサイティングだった。
この場合の主語は「もの」
鍵:「I understand.」分かりました。
I'm afraid of heights. 私は高所恐怖症です。
なるほど、そうだったのか。食堂で彼女が一瞬困った顔をした理由が分かった。思い出すと恥ずかしいがそんなチョットした間違いなんかいちいち気にしてなんかいられない。
M:「That’s good. Shigeki. Try to make a similar phrase.」それは良かった。シゲキ。同じようなフレーズを作ってみてください。
鍵:「Okay, it’s a piece of cake.」はい。朝飯前です。
だいじまんブラザーズ
いいぞ、いいぞ。フレー、フレーシゲキ。覚えたらすぐに使ってみる。これ、だいじまんブラザーズ。心の声に思わず吹き出しそう。まさか、桶まんごろうに聞かれていないだろうな。
桶:「ご隠居!聴いておりやした。」
鍵:「そうであったか。」
鍵:「えーと、My wife is scared. High places are scary.」私の妻は怖い。高いところは怖い。
M:「Good. Are you afraid of heights?」あなたは高所恐怖症ですか?
鍵:「Yes, I am.」はい。そうです。
M:「Have you ever done a bungee jump?」あなたは、バンジージャンプをやったことがありますか?
鍵:「No, I have not done it.」いいえ、やったことはありません。
M:「I was afraid of heights, but I got blah blah doing a bungee jump. 」
鍵:「I can’t understand. I’m sorry write in the chat box.」分かりません。申し訳ありませんが、チャットボックスに書いてください。
※これは、レッスンを受けるときに必要な、必須フレーズとしてノートに書いてある。
M:「Okay, wait a minute.」はい。ちょっと待ってください。
チャットボックスに書いてくれたのは、
「I was afraid of heights, but I got rid of it by doing a bungee jump.」私は、以前高所恐怖症だったがバンジージャンプをやったら治りました。
M:「Does it make sense? 」分かりましたか?
鍵:「Yes, make it make sense. Congratulations. But I will never do it」
分かりました。おめでとう。しかし、私は一生やりません。
M:「You should try it.」やったほうがいいですよ。
鍵:「No way!」ありえない!
M:「Next time I want to try skydiving.」次は、スカイダイビングにトライしたい。
鍵:「You’re kidding.」冗談はやめて。
M:「No, I’m serious. It is about time to finish. Do you have any questions?」いいえ、本気ですよ。そろそろ終了の時間です。何か質問はありますか?
鍵:「Nothing in particular.」特にありません。
M:「Write your comments in the chat box. See you again.」あなたへのコメントはチャットボックスに書きます。またお会いしましょう。
鍵:「Thank you.」ありがとう。
結局自己紹介の練習は出来なかった。しかし、「Got it.」と「It’s a piece of cake.」を使うことが出来たのは上出来だった。
ジャムのレッスンまで後30分ほどあるので、自己紹介の文章を再度チェックしてみる。
落語を説明する英会話というのをネットで探して、ノートに書き写すことにする。
落語を英語で説明
落語の文化を知らない人に落語を説明するのは非常に難しいでが、簡単に説明するには、以下のように説明すると外国人に伝わりますというサイトを発見してノートに書き移している。
「Traditional Japanese comic storytelling.」日本の伝統的な滑稽な語り。「comic.」には、漫画という意味だけでなく「こっけいな」 や「おかしい」という意味があります。
落語家を説明するときには「The storyteller is called Rakugoka.」語り手は落語家と呼ばれています。
「Rakugo is a comedy show performer alone.」落語は一人で行われるコメディショーです。
「A Rakugoka plays as various people by himself/herself」落語家は一人で様々な人を演じます。「The Rakugoka wears kimono while performing, which is a traditional Japanese clothing.」落語家は日本の伝統的な服装である着物を着て話します。
「A folding fan and towel help a Rakugoka to play as various as people.」
落語家にとって扇子と手ぬぐいは様々な人を演じる手助けをしてくれます。
「For example, a folding used as chopsticks and a towel is used as a bowl. 」
例えば、扇子は箸のように使い、手ぬぐいはお椀として使います。
※「folding fan」扇子
※「towel」手ぬぐい
※「chopsticks」箸
※「bowl」お椀
「Rakugo can be enjoyed in a special theater called Yose.」落語は寄席と呼ばれる特別な劇場で楽しむことが出来ます。
「You can also watch it on You Tube. 」You Tubeで見ることもできます。
分かりやすいけど、これ全部覚えるのは厳しいなぁ。やっぱり、桶まんにヘルプを頼もう。10時近くなりレッスンの準備をしている。
今日の目標は、自己紹介の文章を完成すること。そして、お楽しみ部分は手品の耳を使ってみることだ。
ジャムが耳のギャグにツボった
10時になってジャムを部屋に招き入れた。
j:「Hi, Shigeki. How’s it going?」シゲキ。元気ですか?
鍵:「I’m fine. How about you?」元気です。あなたは?
j:「Not, too bad. What does today’s lesson do?」悪くないですよ。今日のレッスンは何をしますか?
鍵:「Please give me a self-introduction lesson.」自己紹介のレッスンをお願いします。
j:「You got it.」ガッテン承知
鍵:「This is a self-introduction text.」これは自己紹介文です。
ジャムに落語の紹介文を追加した文章をみせた。
j:「It’s incredibly good. I saw the students having a meeting in the cafeteria this morning.」とても良いですね。今朝、食堂で生徒さん達が会議をしているのを見ましたよ。
鍵:「They were having a meeting?」彼らはミーティングをしてたんだ。
j:「Yes, the moderator is always the students.」そうです。いつも司会は生徒さんがやりますから。
鍵:「How many people always introduce themselves?」いつも何人ぐらいの人が自己紹介をしますか?
j:「There are usually about 6 people. 」大体いつも6人ぐらいですよ。
鍵:「Do you know some people today?」今日は何人か知ってますか?
j: 「Yes, I know. There are 4 people today. 」はい、今日は4人です。
鍵:「Why do you know that?」どうしてそんなことを知ってるんですか?
j:「Because my student is the MC.」だって私の生徒がMCをやるから。
鍵:「MC? What?」Mcって何?
j:「Mc is master of ceremony. It has the same meaning as the moderator.」Mcは、進行役の事です。司会者というのとほとんど同じ意味です。
鍵:「Yes, I understand. By the way, do you know who will be the Mc?」はい、そうなんですね。ところで、どなたがMcをするか知っていますか?
j:「Yes, I know. Her name is Naomi.」はい、知ってますよ。彼女の名前はナオミです。
鍵:「How Long is Naomi at this school?」ナオミはどれぐらいこのスクールにいますか?
j:「She has been here for two months. And she will be here for another month. 」彼女は2か月間、ここにいますよ。そして、彼女は1か月間ここにいる予定ですよ。
鍵:「What does she do?」彼女は何をしている人ですか?
j:「She is a university student. She wants to be blah blah school teacher, so she is doing her best in English.」彼女は大学生ですよ。彼女は、何とかの先生になりたいので英語の勉強を頑張っていますよ。
鍵:「Pardon? What blah blah school? 」すみません。聞き取れませんでした。何とか何とかスクール?まず、パードンと言いながら同時にサラリーマン時代の宴会芸で使った手品の耳を使って、右手で耳が大きくなっちゃったのジャスチャーをやってみた。
j:「Gaha ha-ha ha ha」がはっはっはっはぁ。
ジャムは床を転げるようにして大笑いした。完全にツボったようだった。
このことがあってからジャムと打ち解けることが出来、頼み事も気軽に出来るようになった。
「デンジャラスなおやじ」から「変なおやじ」に降格した。
j:「It’ elementary school. Hahaha. It is a school between kindergarten and junior high school. It’s called elementary school.」それは、小学校です。はっはっはっは。幼稚園と中学校の間の学校です。小学校といいます。
ジャムはまだ、耳のギャグを引きずっていた。
鍵:「Ah, It’s an elementary school. I understand. She is wonderful.」あぁ、小学校ですね。分かりました。彼女は素晴らしいですね。
j:「She has almost perfect score on the TOEIC test」彼女はTOEICの試験でほぼ満点を取っています。
J:「She entered a national university on recommendation.」彼女は、推薦で国立大学に入学しました。
鍵:「Wow, I’m surprised.」ワーオ、ビックリです。
ジェスチャーもオーバーアクションでやってみたがジャムは無反応。なんとも残念!
しかしながら「I’m surprising.」を使うという間違いをしなかった自分を褒めてあげたい。これも勉強の成果だ。
j:「But she is not good at English conversation.」しかし、彼女は英会話が上手ではありません。
鍵:「Is that so? You know what? I want to take a self-introduction lesson.」そうですか?ところで、私は、自己紹介のレッスンを受けたいのです。
j:「I’m sorry. I forgot it. Okeydokey. Let’s do it after a10 minute break. 」すみません。忘れていました。いいわよ。10分間の休憩の後にやりましょう。
「Okeydokey」は、砕けた表現と聞いていたので、これだけでジャムとの距離が近くなった気がする。一発芸を仕込んできてよかったなぁ。
ご隠居、耳の一発芸最高でござんした。
1時間目のレッスンが終わった。ここからは、桶まんに参加してもらうことにする。
鍵:「このもんどころが目に入らぬか、桶まんごろうでませい。」
桶:「へい。呼ばれたらすぐに返事をすることが、だいじまんブラザーズでござんす。」
鍵:「助さんその恰好きまっていますな。」
桶:「嬉しいでござんす。しかし、あっしの姿はご隠居の脳がイメージなさったように見えるのでござんす。それにしても耳のジェスチャーはウケたでござんす。」
鍵:「いや~。あそこまでウケるとは正直思わなかったですがな。」
桶:「ご隠居。自己紹介の時にやると良いですぞ。落語の説明の時に使えるでござんす。」
鍵:「皆に、アホと思われるんじゃないかなぁ。」
桶:「ご隠居は、ここでどのように過ごしたいのでござんすか?」
鍵:「出来るだけ多くの人達と知り合って楽しく過ごしたいと思っておりますが。それがどうしましたかな?」
桶:「それならば、ご隠居は、無理して背伸びして凄い人と思われるより、そのまんまのキャラで楽しい人、愉快な人と思われたほうが楽でござんす。」
鍵:「確かにそうだな。もうすぐジャムが戻ってくるけど、助さんは黙っていてくださいよ。」
桶:「You got it」御意ぎょいでござんす。
ジャムが戻ってきた。
j:「Hi, Shigeki. Then Let’s start the lesson.」どうも、しげき。それじゃレッスンを始めましょう。
鍵:「Yes, please.」そうだね。よろしく。
j:「Check it while looking at the notes you wrote.」あなたが書いたノート見ながらチェックしよう。
鍵:「You got it.」御意!
ノートを開いて一緒に文章をチェックしている。
「皆さんこんにちは!初めまして。私はシゲキ。シゲと呼んでください。日本からきました。
「HI everyone. It’s nice to meet you. I am Shigeki. Please call me Shige. I’m from Japan. 」
生まれたのは宮崎県で、今は埼玉県に住んでいます。
「I was born in Miyazaki prefecture and now I live in Saitama prefecture. 」
埼玉県は東京の直ぐ北です。
「Saitama prefecture is just north of Tokyo. 」
私は、不動産会社を経営しています。
「I run a real estate company. 」
私は、64歳。安倍晋三と同じ年です。
※安倍晋三首相はフィリピン人に人気があるので安倍さんの名前を出すのは、プラスだ。
「I’m 64 years old. I’m the same age as Shinzo Abe. 」
皆さん、彼のことを知っていますか?
「Do you know about him? 」
※この時、him の前に「about」もしくは「of」を付けないと、個人的な知り合いとなるので注意!勿論、日本人も含めてⅠknowという声がかかるだろう。
そうです。彼は日本の総理大臣です。皆さん!良く知っていますね。
「That’s right. He is a Japanese Prime Minister. Everyone knows him. 」
日本人として嬉しいです。
「I’m happy as a Japanese. 」
勿論、私もロドリゴ・ドゥテルテについて知っています。
「Of course, I know of Rodrigo Duterte. 」
私はパッキャオのファンです。
「And I’m a fan of Pacquiao. 」
※パッキャオは、オスカーデラホーヤに次ぐ史上2人目の6階級制覇を成し遂げたプロボクサーであり、現在WBA世界ウエルター級チャンピオンで国会議員にして、次期大統領候補。そして、驚く事にフィリピンプロバスケットボールリーグのバスケットボール選手兼ヘッドコーチでもある。
2015年には、ラスベガスで行われたフロイド・メイウエザー・ジュニアとの1試合だけで、150億円を稼いだ男で国民的アイドルだ。
自己紹介の時に「私はパッキャオの大ファンだ」と宣言する事でフィリピン人のハートをわしづかみしようと考えている。パックマンって言う方が良いかなんて、そして、パックマンは、テレビゲームのパックマンからとったニックネームであり、リングでもパックマン・パッキャオと紹介される。
だが、どうしてそのニックネームになったのか、失念してしまったので、後でググってみる事にする。
※ナムコのゲーム「パックマン」から名前をとっている。Pacquiaoだから略称Pac な男。Pacmanという。
彼が19日の試合に勝ったので嬉しいです。
「I’m glad he won the match on the 19th. 」
フィリピンには初めてきました。とても今ワクワクしています。
「This is my first visit to the Philippines. I’m excited now. 」
こちらにいるのは1か月間です。
「I’ll be here for a month. 」
もし英語が話せるようになったら、外国人観光客に埼玉の観光スポットを案内したいです。
「If I can speak English. I want to guide foreign tourists to sightseeing spots in Saitama」
そして、私は東京オリンピック2020のボランティアです。
「And I am a volunteer of Tokyo Olympics. 」
英語で道案内を出来るように勉強します。
「I will study so that I can give directions in English. 」
私はウクレレを演奏する事が好きです。
「I like playing the ukulele. 」
マニラにウクレレを持ってきました。
「I brought the ukulele to Manila. 」
毎日の授業は4時間なので、空き時間に公園で練習したいと考えています。
「I have 4 hours of lessons every day, so I would like to practice in the park in my spare time. 」
私の趣味は、浮世絵を見る事と落語を見ることです。
「My hobby is watching ukiyo-e and watching Rakugo.」
一番好きな浮世絵画家は、葛飾北斎。
「My favorite ukiyo-e painter is Katsushika Hokusai. 」
皆さん!北斎を知っていますか?
「Do you know of Hokusai? 」
とても有名な浮世絵が、波の絵です。グレートウエーブって呼ばれています。
「His most famous ukiyo-e is the wave painting. It is called the Great wave. 」
知らない方は、あとでググってください。
「If you don’t know that, please google late. 」
浮世絵は、江戸時代の広告なのです。
「Ukiyo-e is an advertisement from the Edo period. 」
流行りの髪形や和服を絵にしているんです。
「It’s a picture of fashionable hairstyles and kimono. 」
そして、旅の案内です。
「And it is a travel guide. 」
それから、人気俳優や美人の店員のブロマイドです。
「Then there is the bromide of popular actors and beautiful clerk. 」
浮世絵について知りたい方はグッグってください。
「If you want to know about ukiyo-e, please google it later. 」
落語は日本の伝統的な滑稽な語りです。
「Rakugo is a traditional Japanese comic storytelling.」
語り手は落語家と呼ばれています。
「The storyteller is called Rakugoka.」
知らない人は、後でググってください。
「If you don’t know that, please google it later. 」
私は、犬を飼っています。
「I have a dog. 」
彼女は保護犬でした。
「She was a protective dog. 」
雑種で9歳です。
「She is a hybrid and nine years old. 」
私は妻に会えないよりも彼女に会えないのが辛いです。
「It’s harder for me not to see her than not to see my wife. 」
妻には内緒です。
「Don’t tell my wife. 」
私は英語がまだうまく話せないので、皆さんのサポートが必要です。
「I don’t speak English well yet, so I need everyone’s support. 」
私は社交家で楽天家です。
「I’m a socialist and an optimist. 」
仲良くしてください。
「Please have a good relationship with me. 」
よろしくお願いします。
「Thank you. 」
鍵:「助さん、聞いてくれましたかな。頼みましたよ。」
桶:「へい、ご隠居、あっしに任せておくんなせい。バッチリ、メモリーにコピーしやしたので、安心しておくんなせえ。」
鍵:「かたじけない。」
英語での自己紹介の段取り
ウクレレを演奏する時間があればカントリーロードを弾き語りして、皆さんと一緒に歌いたいと考えているので。もう少し時間を使っても良いですか?
「Can I spend a little more time? 」
カントリーロードという曲を知っている人は一緒に歌ってください。
「If you know the song Country Roads, please sing along. 」
私はジャムにフレーズごとに発音と内容をチェックして貰っている。
j:「Shigeki, sorry, Shige, I think it’s a wonderful self-introduction.」シゲキ、ごめん、シゲ、素晴らしい自己紹介だと思います。
鍵:「thank you.」ありがとう。
j:「You have a literary talent.」あなたは〇〇タレントですね。
鍵:「what? Lite・・talent」リテタレントって?
j:「L・i・t・e・r・a・r・a・r・y. literary talent. Another way to say, you have the talent to write.」L.i.t.e.r.a.r.yでliterary タレント、別の言い方だと、あなたは文章を書く才能がある。
桶:「ご隠居。褒められておりますな。ひひーん。」
鍵:「こら、助さん、冷やかしてはいけませんぞ。」
j:「what did you say?」何と言いまいしたか?
鍵:「I’m glad you praised me. Writing sentences is also my job.」褒めてもらえて嬉しい。文章を書くのも仕事ですから。
j:「Do you have a writing job?」文章を書く仕事をしてるの?
鍵:「Yes, I have published a business book.」はい、私はビジネス書を出版しましたよ。
j:「It’s amazing. You are great person, aren’t you?」驚きです。あなたは凄い人なんですね。
鍵:「No, I’m not.」いいえ、そんなことないですよ。
j:「Why don’t you talk about that in your self-introduction?」どうして自己紹介の時にそのことを話さないの?
鍵:「I don’t think it has anything to do with studying English.」英語の勉強と関係ないとおもうから。
j:「I think everyone will respect you.」皆から尊敬されると思うよ。
鍵:「I don’t want to be respected. Rather than that, I want to explain the traditional Japanese culture.」尊敬なんかされたくない。それよりも日本の伝統文化について説明したい。
桶:「ご隠居。そうでおま。尊敬されるより楽しい人、愉快な人と思われたいなら、耳の一発芸を披露するのが良いでござんす。」
ジャム先生は名優!
鍵:「そうかな。でもウケなかった恥ずかしいからなぁ。」
j:「What is it.」なんですか?
鍵:「Well, let me see. I want to be considered a funny person. You know. Rather than being respected.」えーと、えーと。私は愉快な人と思われたい。えーと。尊敬されるよりも。
桶:「ご隠居。格好いいでござる。」
j:「Then why not just do the performance?」それならさっきのパフォーマンスをやればいいんじゃない?
鍵:「Is that a toy ear?」それっておもちゃの耳の事?
j:「That’s right」そうそう。
鍵:「Will everyone laugh?」みんな笑ってくれるかな。
j:「No doubt, everyone will laugh loud. You should definitely do it.」誰もが大爆笑することは間違いないわよ。是非、やるべきだわよ。
鍵:「Alright, I’ll try it. Help me?」よし、やってみるよ。手伝ってくれる?
j:「what can I do for you?」どうしたらいいの?
鍵:「I want you to answer when I ask a question.」私が質問した時に答えて欲しいんだ。
j:「Sorry I can’t understand. For example, what do you mean?」ごめんなさい、良くわからないわ。例えば、どういうこと?
鍵:「Let me see. Do you know about Japanese prime minister Shinzo Abe?」そうだなぁ。日本の安倍晋三総理大臣って知ってる?
j:「Yes, of course I know.」はい、当然知ってるわよ。
鍵:「If I asked you when I introduced myself, please say so.」自己紹介の時に聞いたら、そう言ってね。
j:「Okeydokey.」いいわよ。
鍵:「Let’s practice.」では、練習をしよう。
j:「Yes, let’s do it.」はい、やりましょう。
鍵:「I’m 64 years old. I am the same age as Shinzo Abe. Do you know about him?」皆さん、彼のことを知っていますか?
j:「Hahaha. Yes, of course I know.」ハハハハッ。はい、勿論知っているわ。
鍵:「Good. But You don’t have to laugh.」いいね。でも笑わなくっていいんだよ。
j:「Sorry. I’ve never practiced this.」ごめんなさい。こういう練習したことないので。
鍵:「No problem. Good.」問題ないよ。いい感じだよ。
j:「Thanks.」」ありがとう。
鍵:「Next. And I’m a fan of Pacquiao.」次、そして私はパッキャオのファンです。
j:「Really? Yes. Me too.」本当に?やぁ、私もそうです。
鍵:「Great. You are a good actress.」とてもいいよ。君は名女優だ。
j:「Not really.」いや、それほどでもないですわ。
鍵:「Next. Do you know of Hokusai?」皆さん!北斎を知っていますか?
j:「No, I don’t.」いいえ、知りません。
鍵:「Ok .Google it later.」いいよ.ググってみてね。
j:「Okeydokey」いいよ。
鍵:「Do you know about Rakugo?」落語について知っていますか?
j:「Yes, I know. I have seen the Shoten.」はい、知っています。笑点を見ます。
鍵:「Nice!」いいね!
j:「Do something interesting.」何か面白いことをやって。
鍵:「Pardon?」なんですって?と言いながら耳の一発芸をやってみた。
j:「Wow! That`s funny. The word “pardon” is not used much these days. That good point.」わー、面白い!pardonは最近あまり使わないわよ。そこがポイントね。
Pardon?は最近使わないらしい。
鍵:「Why not use it?」どうして使わないの?
j:「Because it’s crap.」それは、ラップ。
鍵:「I can’t catch you. What’s ラップ?」聞き取れませんでした。ラップって何?
桶:「ご隠居.」
鍵:「なんですかな。助さん。」
桶まんは、部屋の中を浮遊したり私のベッドに横になったりしているので、集中できない。
私が右を向いたり左を向いたりしているのをジャムは不思議がっている。
j:「Shige. What’s wrong?」シゲ。どうしたの?
鍵:「Jam. Wait a minute.」ジャム。ちょっと待って。
桶:「ラップではなくcrap、ダサイでござる。」
鍵:「Crapそうかありがとう」
j:「Yes, it’s crap. Who are you talking to?」そう、ダサイよ。誰と話してるの?
鍵:「No, I’m not talking to anyone. It’s a practice Rakugo.」いいえ、誰とも話していませんよ。落語の練習です。
桶:「ご隠居。ごまかすのがうまいでござる。」
鍵:「ほっといてくださいな。」
j:「Oh, great! you can speak Rakugo?」おー凄い!落語ができるんですね。
鍵:「Yes, I can do a little.」はい、少しだけ。
助さん格さんもういいでしょう。
桶:「ひかえおろう、この紋所が目に入らぬか」
j:「Awesome! I want see it.」凄い!私、見てみたいわ。
鍵:「I wish I had the opportunity.」機会があったらね。
桶:「あっしも見てみたいでおま。面白かったら座布団を差し上げるでござる。」
鍵:「ほっといてくれ。それより自己紹介の時のサポートたのみましたよ。よいですな。助さん。」
桶:「You got it.」ガッテン承知でござる。」
j:「It is about time to finish. Do you have any questions?」そろそろ終了の時間よ。何か質問はある?
鍵:「No, I don’t.」いいえ、ありません。
j:「Are you nervous?」あなたは緊張してますか?
鍵:「Yes, I am.」はい。
j:「Relax and confident. Don’t be nervous. See you later.」リラックスして自信を持って。ナーバスにならないでね。またあとでね。
鍵:「See you. Bye-bye」後でね。ばいばい。
ジャムは、手を振りながら部屋を出て行った。
昼食に向かう前に持ち物をチェック。自己紹介が書いてある準備ノートとカントリーロードの楽譜、そしてウクレレをリュックにいれて、耳のおもちゃはポケットにしまった。
桶まんは一度まんごろうにもどらせて、準備完了。あっそうだ、自分の自己紹介を録音するためにスマホもリュックの脇の小さいポケットにいれた。
鍵:「助さん。またあとでな。頼りにしておりますぞ。」
桶:「ご隠居。あっしにまかしておくんなせい。」
鍵:「とっととうせやがれ。このすっとこどっこい」
桶まんの姿は消えた。
ユリさんの英語での自己紹介
食堂では、イベントの準備が進められていた。今日はいつもより人が多いようだ。中には見慣れないスタッフも何人かいる。だが、肝心なジャムの姿は確認できない。
高齢者テーブルや中級者テーブルには、空席がないくらいに人がいて話をしている。
上級者テーブル付近では、今朝声をかけてくれた若い女性がペーパーに目をやりながら英語で指示をしていた。その姿は凛として恰好いい。
ユリさんやチエさんから隣に座るように合図をしてもらったので、リュックを背中から降ろして前に持ち替えて、席についた。
ユ:「こんにちは。今日はいよいよ自己紹介だわね。」
鍵:「今日は、ずいぶんと人が多いね。それにしても日本語を使っていいの?」
チ:「このイベントの時だけは、許されるのですわよ。」
鍵:「そいつはいいや。ユリさん。言葉に詰まったら日本語で話しちゃうのもありだね。」
ユ:「私はこのペーパー見て自己紹介するので、まったく問題ないわよ。」
鍵:「見てもいいかな。」
ユ:「ノープロブレムよ。」
鍵:「凄く短いんだね。これならスグに終われるじゃない。」
ユ:「そうね。30秒あれば充分だわ。良かったらシゲのペーパーを見せてよ。」
鍵:「良いけど、この通り出来るかどうか分らんけど。」
ユ:「随分長いのね。それに、何か所も修正してある。この笑いマークは?」
チ:「どれどれ、私にも見せていただけるかしら。あら、本当に長いわね。」
ユ:「シゲはペーパーを見ないって言っていたけど、どうすんの?」
鍵:「そうなんだ。見ないで頑張ってみようと思っているんだ。」
ユ:「凄いわ。頑張ってね。」
チ:「シゲ。応援させていただくわ。」
そろそろ、イベントが始まるみたいだ。狭い食堂はぎっしり人で埋まっている。中にはイベントを盛り上げようと、ウサギの被り物やミニーちゃんの耳の着いたカチューシャを頭に付けているスタッフもいる。
その中に、ジャムの姿を見つけた。彼女はなぜかタンバリンを手に持って、事務長のトモコと何やら笑顔で話をしている。
マンゴウとフルーツもカスタネットみたいなものを手に持ってニコニコしながら、壁際に立ってスタッフたちと談笑している。
マーガリンは、腕組みをして最前列で仁王立ちしている。
司会の女性が立ち上がって、イベントの開始を英語で告げている。そして、司会を務めるのは2回目だが特典としてスタッフTシャツを貰ったことを説明した。
全部は聞き取れないが、今日の発表者は4名のようだ。
その内の1名は、帰国する人で後の3人が最近このスクールに来た人というように言っているようだ。
最初の発表者の若い女性が司会者から名前を告げられ、ハイ、と返事をして立ち上がって他の上級者メンバーの男性にエスコートされて、食堂の真ん中に設置されたスタンドマイクの前に立った。
彼女は、スタンドマイクのところの譜面台に、持参してきたノートを広げて頭を下げたままでいる。
スタッフや上級者メンバーからケイ頑張ってと言われて、頭を上げたが彼女の顔は涙であふれていた。
それでもハンカチで涙を拭きながらノートに書いてある英文を読み上げた。多分、彼女が云っていたのは、このスクールに3か月いたことは素晴らしい経験だった。
皆さんにやさしくしていただき感謝している。これからは、オーストラリアでワーホリをするがマニラの事も皆さんの事も一生忘れない。
又、このスクールに来たいと考えています。スタッフ、先生、一緒に学んだ皆さん、本当にありがとうございました。という内容だったと思う。
スタッフの方も先生も生徒達もしんみりと聴いていて、涙を拭いている方も何人かいた。
私も卒業式を思い出して、ジーンときた。頭の中では、♪仰げば尊しわが師の恩♪が流れていた。
大きな拍手と鳴り物に背中を押されながら彼女は元の席にもどっていった。
司会者は、次の発表者を紹介している。ユリお願いしますと英語でいっている。
ユリさんは、無言で立ち上がってスタンドマイクの前に立って、譜面台は使わずにペーパーを手に持って、早口で読み上げた。手が小刻みに揺れていたので緊張しているのが読み取れた。
彼女が話した内容は「私は、ユリといいます。東京から来ました。マニラには始めてきました。一か月間いる予定です。よろしくお願いいたします。」
という、とても簡単な内容だった。
それでも、スタッフや先生方から大きな拍手を浴びながら、元の席に戻った。中級者テーブルメンバーや上級者テーブルメンバーは、指笛などで盛り上がっていたが、高齢者テーブルのメンバーはノリが悪く、パラパラと拍手しか聞こえなかった。
その中で、立ち上がってブラボーといって拍手している私は目立ってしまった。チョット恥ずかしい。
司会の女性は、次の発表者を紹介している。ケンお願いしますと言われて、応援の言葉が日本語と英語で飛び交っている中を、上級者テーブルから「thanks ナオミ」と言って立ち上がってスタンドマイクの前まで来て、譜面台の上に紙を置いた。
上級者のケンの流石の自己紹介にうんざり
彼は三日前に空港から一緒にタクシーに乗ってきた青年だ。しかし英語が堪能な彼がどうしてペーパーを用意しているのが疑問だった。
彼はお辞儀をしてからペーパーに目を落とし、自己紹介文をネイティブのような発音で読み上げている。とても早口なので、初級レベルの私には殆ど聞き取れないし、彼が使っている単語も難しくて全く理解できないので聴くことをあきらめた。
それにしても「sick.」というネガティブの単語の使用量が多い事には辟易した。
「I’m sick of not getting promoted.」昇進しないのにうんざり。「I’m sick of married.」結婚生活にうんざり。「I’m sick of hot.」熱いのにうんざり。といった具合で話の内容がネガティブだ。
そんなスピーチを聞いているこっちこそ「I’m sick of talking about it.」そんな話はもう、うんざりだと言ってあげたい。
それでも先生方や上級者テーブルのメンバーは、共感できる部分があるようだし話の内容が分かるようで、拍手や「Great!」「Super!」とった凄いという言葉が聞こえる.
そして「Me either.」私も嫌いだという言葉が飛び交っている。
私は自己紹介でそんなネガティブな話をしてどうするのと思うし、私をはじめ高齢者テーブルのメンバーと中級者テーブルのメンバーは、彼がこれみよがしに難しい単語と文法を使い、接続詞や関係代名詞を使って長いセンテンスにするので、ほとんど何を言っているかわからないのでしらけている。
そんなことを察してか彼の話が終わって、司会者のナオミが彼の話をかいつまんで日本語で説明してくれたので少しだけ理解することが出来た。
彼は会社を辞めてマニラに来た。大学を卒業して入社した会社では、自分のやりたい事が出来なかった。
こちらには6か月間いる予定で、TOEICで900点以上を目指している。それが実現出来たら英語を武器として自分の力を発揮できる会社に入社して世界を相手に仕事をしたい。ということのようでその部分以外はほとんどが愚痴だった。
英語学習に対する真剣さが伝わったが20代後半の元サラリーマンが一度も譜面台のノートから目を離さないで、笑いもとらずに愚痴ばっかりのスピーチをする姿にあきれた。
そして、何のために自己紹介をしているんだ!という怒りさえ込み上げてきた。
当然だが、こんな奴とは絶対に友達になりたくないと強く思った。
それというのも彼の以前の職種はわからないが、少なくとも会議での発表やプレゼンは経験しているはずだからもっと聴衆者に楽しんでもらえるスピーチをして欲しかった。
いやはや、それにしてもこのおやじはサラリーマンには厳しくて困ったものだ。
それでも大きな拍手や「恰好いい」「Great!」「Wonderful!」「さすが!」などという言葉を浴びながら顔を紅潮させて満足気に上級者テーブルの元の席に戻っていった。
私の自己紹介は大爆笑!
ユ:「シゲ。いよいよあなたのばんね。ファイト!」
チ:「シゲ。ガンバ!Go for it.」
司会者のナオミが私の事を紹介してくれた。シゲキお願いします。と言われて、「Thank you, Nomi.」と言いながらジャムとアイコンタクトを交わした。そして、桶まんごろう。でませい。と言ってリュックを手に持って席を立ってスタンドマイクの前まで来た。
私はウクレレをリュックからゆっくり取りだして、肩にかけて皆さんの顔を笑顔で見まわしてから、お辞儀をしてウクレレでポロンと弾いてからスピーチを始めた。
スタッフや先生それに、生徒達は何が始まるんだろうと固唾をのんでこちらを見て、シーンとしていた。
実を言うと自己紹介のノートを譜面台に置くという選択肢もあったのだが、万が一の時には桶まんのサポートがあるからと、ノートはリュックから出さなかった。
自己紹介は予定通り進んだ。安倍晋三を知っていますか?というところは、ジャムが練習通りにやってくれたし、彼女が手配してくれたのか、他のスタッフや先生方も「Yes, I know.」や「Of course, I know.」と盛り上げてくれた。
しかし、「アベって誰だ」「日本の総理大臣って知らねーよ」「日本の総理大臣なんて知ってたって意味ないじゃん。」という声も聞こえた。
そして、パッキャオのファンというところでは、鳴り物入りでスタッフや先生方も盛り上がってくれた。やはり、パッキャオは国民的アイドルなんだと再確認した。
しかし、「パッキャオってなに」や「そんな人知らないわ」といった声も聞こえた。
浮世絵の事は流石に知っている人が少ないようであった。そのために、色々説明させてもらったので興味を持ってググってくれたら嬉しい。
いよいよ落語について説明するところまできたので、再度ジャムとアイコンタクト。落語は日本の伝統的話芸。という英語フレーズを一瞬失念してしまった。
pardon?の一発芸は大うけ
それで、桶まんを探してみるが見当たらない。なんて奴だ、大事な時に、裏切りやがってと、口に出てしまった。
きょろきょろしていると、ジャムが機転を利かせてくれて「Keep it up, Shige.」シゲキその調子と言ってくれたので「Pardon?」の一発芸を披露。
食堂内は大爆笑、笑い転げている人もいて、収拾がつかない。想像をはるかに超えるウケかたに私自身も絶句した。
しばらくして、落語の説明フレーズを思い出して落語が一人芸であること。着物を着て演じることなどを説明することが出来た。
そして、浮世絵について説明したがこのスクールでの認知度は低いようだったが、私の自己紹介で浮世絵の魅力と北斎の魅力をしてもらえるきっかけになれば嬉しい。
その他は、東京オリンピックの都市ボランティアの為に英会話を学びたい事。
1ヶ月間、妻に会えないのは寂しくないが、愛犬ソックスと孫娘に会えないのは辛すぎると話した。
「Don't tell my wife. 」妻には内緒でね。
も笑いながらオーバーアクションをしたのでウケた。
最後に、「I’m a socialist and an optimist.」私は社交家で楽天家です。
「Please get along with each other.」仲良くしてください。
よろしくお願いします。
「Thank you.」ウクレレでポロン。
この言葉で自己紹介を締めくくった。ゆっくりとそして、簡単な単語で話をしたので、高齢者テーブルメンバーや中級者テーブルメンバーにも理解していただけて良かった。
それは、私の基本的な考え方として、自己紹介の主役はスピーチをする側ではなく、聞く方だと考えているからだった。
会場は割れんばかりの拍手が鳴りやまない。ジャムを見てみるとタンバリンを叩きながら涙ぐんで踊っているといった異常な雰囲気だった。
自己紹介でアンコール!アンコール!
中には「アンコール」や「ukulele」という声も聞こえている。
私は長い間生きてきたが自己紹介でアンコールというのを聞いたことがない。
司会者のナオミがウクレレを弾いてくれませんかと言ったことで再度盛り上がった。
それではカントリーロードを弾き語りしますと言うと、また、大盛り上がり。
歌える人は一緒にお願いしますと伝えて、楽譜を譜面台に置き、まず、前奏Cコードで私が弾き語りで前奏の「♪Take me home country roads.」ワンツースリーフォー。
私は「♪Almost heaven West Virginia.」、皆は「♪独りぼっち 恐れずに」と大合唱。
えっ、これはジブリ映画の挿入歌だと気づいたが私は歌詞を知らないし、テンポが微妙にずれていると慌てたが、歌うのをやめて8ビートで演奏だけをした、しかし歌わないとリズムが取れない。
途中で歌っているところがわからくなり、4ビートに変更して演奏したがコードもめちゃくちゃになってしまった。
冷や汗たらたらの状態でもうすぐ終わりと思ったら、一番で終わらずに2番まで歌っているので仕方なく、Cコードだけ押さえてリズムだけで最後まで乗り切ったが、こんな体験は二度とごめんだ。
しかし、ジョンデンバーの歌よりもジブリの方が知られていて、フィリピン人の多くが耳をすませばの主題歌を日本語で歌えるって驚きだった。
それにしても私の自己紹介は大ウケだった。そして、自己紹介以後「パードン」のギャグを皆が使うようになったのには笑うしかなかった。
でも、可愛い子の"pardon"は個人的に大好きだ。
それでも私と話すときは親しみを込めてシゲと呼んでくれるようになったことが嬉しかった。
食堂を出る時にジャムとハイタッチをしてから、部屋に戻って準備ノートに自己紹介について書き留めている。
反省点は携帯で録音するのを忘れてしまったこと、落語について十分に説明できなかったことだ。
それというのも桶まんにヘルプを頼んだことで、フレーズを暗記するのを怠ったからだった。
それにしても桶まんの奴は、どうしたんだろう?
鍵:「桶まんごろう。でませい。」
桶:「へ~い!お呼びでござるか?」
鍵:「助さんは、どうして呼んだのに来なかったのですかな。」
桶:「へい。ご隠居の声は聞こえてやしたが、まんごろうから出ることが出来やせんでしたので、ご隠居とあっしの回線がつながらなかったでござる。多分、あちらの場所がパワースポットでないのでござる。」
鍵:「そんなことがあるのですかな?」
桶:「へい。前の親方の時も呼ばれたけど出られないことが、たびたびありやしたでざる。そのたびに親方は引っ越しをしていたでござる。」
鍵:「そうだったのか?助さんの姿が見えないので焦りましたよ。」
桶:「へい。あっしもご隠居の声は聞こえてやしたが、あっしからご隠居に伝えることは出来やせんんで焦りやした。」
鍵:「まぁ、それでもどうにかやりきりましたよ。」
桶:「ご隠居。大成功でやしたでござる。」
鍵:「いやはや、ここまでウケるとは思いませんでしたよ。おっと。宿題をしないと。助さん、まんごろうに戻っていてくださいな。とっととうせやがれ、このすっとこどっこい。」
桶まんの姿は消えた。
マーガリンからの宿題
ノートを開いて、宿題の内容を確認する。昨日のレッスンフレーズを各3回ずつスマートフォンに録音し、今日のレッスンの時にマーガリンに聞いてチェックして貰うというものだった。
練習するフレーズは、
A:「Is this your first trip to Japan?」 日本へは初めてですか?
B:「Yes, it is.」はい、そうです。
A: 「Great! Welcome to Japan.」いいですね。ようこそ日本へ。
「Where are you planning to go?」 どこを訪ねるつもりですか?
B:「We’re planning to visit Kyoto, Nara, and Hakata.」京都、奈良、博多を訪ねるつもりです。
A: 「Sounds great! I hope you have a good time there.」いいですね!どうぞお楽しみください。
A:「Is this your first trip to Japan?」日本は初めてですか?
B: 「No, It’s my third time in Japan. 」いいえ3回目です。
A:「So, it seems you like Japan.」 そうですか、日本を気に入られたようですね。
B:「Of course I do.」もちろん、日本が好きです。
A:「What’s your favorite place in Japan?」日本でお気に入りの場所はどこですか?
B :「I like the Yansen area.」谷根千地区です。
A: 「Wow, that’s surprising.」え、驚きました。
「It’s a very popular area among young Japanese people.」日本の若者にも人気のエリアです。
B: 「A friend who has been to Japan told me.」日本に来たことのある友達が教えてくれたのです。
A:「By the way, where are you staying?」ところで、どちらにお泊りですか?
B:「Actually, we’re staying at a ryokan in Yanaka.」 実は、谷中の旅館に滞在しています。
何回か練習して、スマホに3度録音したが、リンキングとリエゾンを意識すると難しかった、それでも宿題を完了してホットしている。
You are exciting!
M: 「Hi! Shigeki, you are amazing! You are exciting. 」あなたは素晴らしい、あなたはエキサイティングです。
鍵:「Pardon? I swear. Yes, I'm exciting man. 」なんですって?間違いありません。私はエキサイティングな男ですといって、ゴレンジャーの決めポーズをした。
マーガリンと一緒にしばらくの間大笑い!
Ⅿ:「Your performance was awesome.」あなたのパフォーマンス凄く良かったわよ。と言ってハイタッチを交わした。
鍵:「Thank you, Margarine.」ありがとう、マーガリン。
Ⅿ:「Do you mind if you hug you?」ハグしてもいい?
鍵:「Of course not.」もちろん、いいよ、と言って笑いながらハグして、お互いの背中を叩きあった。
Ⅿ:「Everyone calls you pardon. And everyone is imitating you.」みんなあなたの事をパードンと呼んでいるわよ。そして、皆があなたの真似していますわ。
鍵:「Seriously?」マジですか?
Ⅿ:「It’s serious. Can I call you pardon too?」そうです。私もパードンと呼んでもいいかしら?
鍵:「whatever you like.」お好きにどうぞ。
Ⅿ:「Really? By the way, why are you used to speaking in public?」本当に?ところで、どうして人前で話すことに慣れてるのかしら?
鍵:「I sometimes give a lecture on real estate.」私はたまに不動産について講義しています。
Ⅿ:「Great! What about real estate?」素晴らしい!不動産の何について?
鍵:「About how to build a house.」家の建て方についてです。
Ⅿ:「Why are you familiar with that?」どうしてそのことに詳しいの?
鍵:「I used to work in housing.」私は以前、住宅の仕事をしていました。
Ⅿ:「Ah! Is that so! What department did you work in?」あぁ!そうなんだ!職種はなんだったの?
鍵:「I worked in the sales department. I was a home salesman.」営業部で働いていました。私は住宅の営業マンでした。
などと、勤めていた会社の事や管理職だったことをスマホの翻訳ソフトの手助けを借りながら世間話をしたことが、折角のスタディアブロードをつまらなくさせるとは思ってもみなかった。
マーガリンからは彼女がSkypeで多くの日本人に英会話を教えているということや、バツイチで孫がいること。
週一回、スポーツジムでトレーニングをしていることなどの話してくれて、親しくなったがレッスンに対する取り組みは厳しいままだった。
その為、宿題の英会話の録音を聞いてもらったが、「S」が聞こえないと言いうことと「a」の発音の仕方について何度もダメ出しを食らって発音を繰り返し練習させられたが、彼女が美人なので受け入れることが出来た。
彼女が言うには、「a」は「あ」とか「えい」とか発音し、英語ネイティブにとっては非常に重要な単語なのに、英語学習者はそれほど重要に考えていない。
フレーズの中の重要な「a」はしっかり発音しないと意味が変わってくるということで、テキストを読むよう指示された。
「I ate a cake yesterday」にネイティブはびっくり!
テキストの「I ate a fish yesterday.」と「I ate some fish yesterday.」の違いを読んでいる。
この二つのフレーズには、明らかなイメージの違いがあります。話し手が言葉を投げかけることで、聞き手は「映像」を頭に思い描きます。
「a」がついているということは、「ひとつ」と数えられるということです。「ひとつのまとまった形がある」という言う事で「それ以上崩してはいけない、一個のまとまった形」です。
つまり、「a fish」は「魚という形=魚丸ごと一匹」という事になります。
では、「some fish」で注意してほしいのは、「fishes」になっていない、つまり「単数」も「複数」でもないということは「数えられない」という事です。
数えられないということは「まとまった形ではなく、性質としてみている」ことになります。
言い換えれば「いくら砕いても氷は氷」というのと同じように「いくら崩しても魚は魚」という「魚肉という性質を持つもの」としてみているわけです。
ですから「some fish」は「魚肉をいくらか」なので「魚の切り身をいくらか」ということになります。
Call me taxi, please.私をタクシーと呼んでください。
英会話の本に書いてある定番の「call me a taxi, please.」タクシーを呼んでくださいという時に、間違って「call me taxi, please.」と言い間違えたら、私の事をタクシーと呼んでくださいとなってしまう。タクシーを呼んで欲しいなら無難なのは「Call a taxi.」や「Call a taxi, for me.」です。
ケーキについても、触れておきましょう。
「I ate a cake yesterday.」の場合は、ホールケーキ丸ごと食べたことになりますので、英語ネイティブはびっくりするでしょう。
ワンホールのケーキは数えられる可算名詞ですが、切ってしまうと数えられない不可算名詞となります。従って、ショートケーキを食べた場合は「I ate a piece of cake yesterday.」昨日、一切れのケーキを食べたとなります。
そして、「ケーキは好きですか?」は「Do you like cake?」となります。
そして、「ケーキはいかがですか?」や「ケーキ食べたいですか?」と聞きたいときは「Would you like some cake?」でも「would you like some cakes?」両方とも正解です。
厳密には、ホールケーキを前にして切り分けましょうかという場面では、「cake」を使い、いろんな種類のショートケーキを前にしている時は、「cakes」を使います。
先ほど「fish」について触れたので、間違えやすい「fish」と「fishes」について、説明をします。
まず、「私はトマトが好きです」を英語でいうと「I like tomatoes.」ですね。トマトを複数形にするのは、「あるひとつのトマトが好き(=単数形)」ではなく。「トマト全般が好き(=複数形)」と考えるからです。
では、「私は魚が好きです」という場合はどうなるでしょうか?トマトの例を見れば「I like fishes.」と答えてしまいそうですが正解は「I like fish.」です。
I like fish.
実は、「fish」の複数形は「fish」と「fishes」とがあるのです。その使い分けについて、確認しておきましょう。
まず、「fish」は「魚の数が複数(2匹以上)の場合に使い、魚の種類は問われないことがポイントです。
つまり、「同じ種類の魚が複数」の場合にも「違う種類かどうか分からないけれども魚が複数」の場合にも使うことが出来ます。
一方、「fishes」は「魚の種類が複数」の場合に使うことが出来ます。
違いを分かりやすい例文で以下に紹介します。
「There are many fish swimming in the tank.」水槽の中に沢山の数の魚が泳いでいます。
「There are many fishes swimming in the tank.」水槽の中には沢山の種類の魚が泳いでいます。
この二つの例文を比較すると違いが納得できますね。しかし、「沢山の種類」を「many kind of ~」を使う場合には「fishes」でなく「fish」を使います。
このテキストを読んで「a」の大切さについて、マーガリンに質問をしてみた。質問内容は、「taxi」についてだ。テキストのフレーズを指さして訊いてみた。
そうして分かったことだが、これはジョークだそうだ。親しい間柄やホテルでもジョークとして使うということが分かった。なるほどと感心した。
マーガリンからネイティブのジョークを教えてもらった。
飛行機で食事を選ぶときに、ビーフとチキンどちらにしますか?って聞かれて、「I’m chicken.」というやり取りです。
「私はニワトリです。」とか「私は臆病者です。」となってしまうそうで、正しくは、「Chicken, please.」だが、英語ネイティブは両肘で鳥の真似をして「I’m chicken.」といってジョークとして使うそうだ。
愉快なおやじとしてはマニラのレストランでやってみたいという衝動にかられたことは言うまでもない。そんな楽しい話でレッスン時間は終了した。
英語での日記の宿題
新しい、フレーズのレッスンは明日に繰り延べされて、録音の宿題がなくって嬉しいと思っていたら違う宿題を出された。それは、朝起きてから寝るまでにしたことを日記に書くことだった。
おいおい、なんでやねんと、言いたいところだったがやっぱりマーガリンには断れない雰囲気があり、心の中で鬼って叫ぶのがやっとだった。
それにしても今まで日記をつけたこともない人間が、英語で日記を書く破目になるとはやれやれ困ったものだ。
夜食まで時間があるので、気分転換の為にウクレレを弾き語りすると、カントリーロードの歌詞の事が気になってきた。
ノートパソコンで「カントリーロード、ウクレレ」で検索してみたら、youtubeの簡単ウクレレ教室で、カントリーロードの弾き語りをガズさんが解説する動画を見つけることが出来た。
早速、動画を見ながら練習。「Take me to the country roads.」の曲に日本語の歌詞をつけたものと聞いていたが、私が持っている楽譜とはコードが異なっていた。
そこで、いつも利用させていただいているサイトから、カントリーロードの楽譜をダウンロードして確認して見たがやっぱりコードの割り付けが少し違っているようだった。
そうか!それでみなの歌とズレてしまってウクレレを弾いていても気持ち悪かったことに合点がいった。
帰国する前の発表の時にもう一度ウクレレで、カントリーロードを弾くことになったら今度は完ぺきな弾き語りが出来るように練習しておきたい。
そう思って楽譜をUSBに入れた。そうだ今日の夕食の時に食堂に早めに行ってフルーツに頼んでプリンターで印刷して貰おう。と、考えた時に、ふと、フルーツなら私が中学生で初めて習ったフレーズを使うチャンスをくれるのではないかという思いがふつふつと湧いてきた。
それに、ジブリの魔女の宅急便の事も聞いてみようと思いながらUSBとボールペンには見えない不思議な形のペンを持って、食堂に向かった。
事務室のドアをノックして
鍵:「Excuse me, Is Mrs. Fruit here?」 すみません、フルーツさんはいますか?
フ:「yes, I am.」はい、いますよ。
鍵:「Hi! Fruit. I have something to ask for.」やあ、フルーツ。頼みたいことがあるんだけど。
フ:「Please go inside.どうぞ中に入ってくらさい。」
鍵:「Thank you.」ありがとう。
フ:「What is it like?」どんなことでしょか?
鍵:「このUSBから楽譜を印刷して欲しいのです。」
嬉しいことに事務室内は日本語を使うことが出来るのです。そして、フルーツはUSBを印刷機に挿入してから私に聞いてくれた。
フ:「このうちのどれれすか?」
鍵:「カントリーロードの楽譜です。」
フ:「何枚しますか?」
鍵:「1セットお願いします。印刷代はいくら?」
フ:「分かりました。ワンセットで2枚でしたら只でいいれす。」
鍵:「ありがとう。」
プリンターからカントリーロードがA4で2枚出力された。
フ:「Wow。カントリーロードの日本語の楽譜。「Can I have this?」これ貰ってもいいれすか?」
鍵:「いいけど、どうするの?」
フ:「ウクレレ好きの友達にあげたいのれす。彼女らは、えーと、日本語が分からない。”Nursing home”は日本語だとなんていうのれすか?そこでやっているのれす。」
鍵:「老人ホームで、演奏しているのですね。」
フ:「そうそう。老人ホーム、でやるでなくって演奏でしたれすね。そうら、シゲも彼女のウクレレの練習に参加しないれすか?」
鍵:「Sounds good. 」いいね。
と、気乗りがしないけど日本人特有の外交辞令であいまいに答えたら。
フ:「Thanks」と言われて本当に一緒に練習することになってしまった。
鍵:「Can you tell me a little?」ちょっと教えて貰ってもいいですか?
フ:「なんですか?」
鍵:「どうして、みんなカントリーロード歌えるの?」
フ:「何時もカラオケで歌っているかられす。特にカントリーロードは映画の場面が映るから最高なのれす。シゲはまだ行ったことない?」
鍵:「行ったことないです。」
フ:「みなジブリ映画の歌が好きれ、一緒に歌ってますよ。」
鍵:「フルーツは行くの?」
フ:「今はいかないれすよ。えー、日本語が分かりません。“How do you say Pregnant in Japanese?”pregnantは日本語でなんというのれすか?」
鍵:「妊娠です。」
フルーツはこのスクールのオーナー!
フ:「ありがとう。妊娠の前は毎日行っていましたよ。」
鍵:「毎日?」
フ:「そうれす。私はオーナーれすから。」
鍵:「えーつ、オーナーなの?」
フ:「そうれす。このスクールもオーナーれす。」
鍵:「凄い!オーナーなんだ。びっくりです。」
フ:「私の旦那がオーナーれす。」
鍵:「旦那がオーナー?旦那は校長じゃないの?」
フ:「いいえ。旦那は日本人れすがここにはきません。」
鍵:「そうなんだ。ところでフルーツは、ジブリ映画の魔女の宅急便を見たことある?」
フ:「Of course, I have seen it.もちろん、見たことありますよ。」
鍵:「似ているって言われませんか?」
フ:「オソノさんれしょう。みなに言われます。がっはっはっはっ。」
鍵:「笑いかたもそっくり。」
フ:「みなにやってって言われるから、まねしてるのよ。」
代官と同じで似ていることを武器にしているんだ。それで、好感度高いんだなぁ。それもコミュ力なんだと妙に感心した。
鍵:「もう一つ聞いてもいいですか?」
フ:「なんれすか?」
鍵:「ジャムはなぜ私が望む授業をしてくれるようになったの?」
フ:「がっはっはっはっ。それは、あなたが危ない人だから断ると怖いわよ。って私が言ったかられす。」
鍵:「えっ、そうだったのか。あっはっはっは。」
フ:「ジャムもマーガリンも凄く怖がっていたれす。」
鍵:「そうだったのか。」
初めてのThis is a pen.
例のペンを取り出して、フルーツに見せながら。
「ノートに書いておかないといけないね。」と言ってみた。
フ:「This is a ballpoint pen, isn’t it?」それはボールペンね。
鍵:「Yes, this is a pen. But, why do you know it.」そうです。これはペンです。しかし、どうして知っているの?
と言いながら、このフレーズを始めて使えたことに嬉しくなって、にやにやしている。
フ:「シゲ。なんだか嬉しそう。どうしたのれすか?これは私が日本からお土産として買ってきたのれす。」
鍵:「なあんだ。知っていたのか?残念!」
フ:「どうかしたのれすか?」
鍵:「いいえ。なんでもないですよ。話をしてくれてありがとう。またね。」
フ:「See you.」またね。
語学を教える際のさじ加減は難しい!
私は、ドアを開けて食堂の高齢者テーブルの椅子に腰を降ろしたが、夕食までは少し時間があるのでボーとしている。
スタッフが忙しそうに料理を並べているのを見ながらフルーツは「です」が「れす」になってしまう、それを指摘して教えるのもいいけど、そのままの方が可愛いしフィリピン流日本語もいいじゃないかと考えながらフルーツとの楽しい会話の余韻に浸っていた。
そのように考えてみると語学を教える際のさじ加減の難しさを感じてしまう。それにしてもフルーツの旦那の事が気になってしょうがない。
日本人ということだがどんな奴かあってみたい。なんだろうこの感覚。今まで忘れていた、いやいや無難に生きるために抑え込んできた感情が呼び覚まされて表に出てきた。
興味本位ということではなく、ライバル心、いやいや、明らかに嫉妬とだ。久しぶりに若かったころのように心がざわめいている。
俺もまだまだ若いなぁ。などと苦笑いしている時に、「シゲ。こんばんは。」の声で現実に引き戻されてしまった。
声の主は、ユリだった。
ユ:「シゲの自己紹介は最高だったわよ。」
鍵:「ユリのパフォーマンスも良かったよ。」といって握手した。お互いに自己紹介を経験したことで、この時からユリさんからユリと言えるようになった。
ユ:「ありがとう。でもあなたにブラボーって言われて恥ずかしかったわよ。」
鍵:「いや、チョットやりすぎたかな。そうだ、掲示板にチェックしないと。」と言って、立ち上がって明日の昼食はいらないという欄に名前を書いた。
席に戻るとチエさんもユリのとなりに座っていた。
ユ:「明日の昼食はどうしていらないの?」
明日のランチはマクドナルドで
鍵:「明日のランチはマクドナルドに行く予定なんだ。」
チ:「エーッ、どうしてそうなるのかしら?」
ユ:「ここの食事に飽きたんじゃない。」
鍵:「いいや。英会話の勉強ですよ。」
と言いながらいつも持ち歩いているノートを二人に見せた。
ユ:「へえー。こんな勉強をしているんだ。」
鍵:「僕は折角マニラにいるんだから実践勉強をしたいと考えているんだ。英会話をシチュエーションごとにレッスンして貰って、実際にお店に行って注文してみたい。これは日本での英語学習では出来ないことだから。」
あれれ、僕という言葉を自然に使うことが出来た。それに二人とも違和感がないようだ。
ユ:「それって良いわね。私も連れてってよ。」
チ:「私も是非ご一緒したいわ。如何かしら?」
鍵:「では、お二人ともご一緒しましょう。掲示板にサインして。」
そんな会話で盛り上がっていると玉ねぎさんが話に割り込んできた。
玉:「シゲ。あなたの自己紹介秀逸だったわ。ウクレレのパフォーマンスもグッドでしたわよ。やるわね。あなた。私は素敵なストランを知っているので、今度こちらの夫婦と一緒にフィリピン料理とワインを楽しみません?『It’s okay with my treat.』あっ失礼。私のおごりで構いませんことよ。」
自己紹介をしてから急に皆が声を掛けてくれるようになったが本音を言うと煩わしい。
おまけに、私より遥かに英会話能力の高い、空港から一緒に来た男性から相談に乗ってほしいと声を掛けられた。
確か彼は自己紹介の時にケンと呼んで欲しいと言っていたが、ケンは私に何を相談したいのだろう。
そんなことを考えながら部屋の前まで来たが、今日も隣の犬の鳴き声が聞こえない。名前も知らないしまだ顔もみたことがない犬なのに、犬好きの私としては少し心配だ。
写楽は北斎???
鍵を開けると照明はいつもの通り点いていた。ベッドに腰を降ろし一日を振り返ってみて、ハードな日だったなと改めて思う。
まずシャワーを浴びることにした。そして、暇つぶしに桶まんを話し相手にしようと、呼び出した。
鍵:「いでよ、桶まんごろう。」
桶:「へーい。ご隠居お呼びで?」
鍵:「親方に関することで、なんか面白い話はないですかな?」
桶:「親方に関する話で、面白い話でござんすか?」
鍵:「そういえば、親方は写楽って名乗っていた時期があるのですかな。」
桶:「写楽ってぇと、なんですかい。サイの野郎の事でござんすか?」
鍵:「サイの野郎って?東洲斎写楽は親方じゃないのですかな。」
桶:「トンでもないでござる。サイはどうしようもない奴で、親方に破門されて勝手に国に帰ったでござる。」
鍵:「親方に破門って?写楽は北斎の弟子だったというのですかな。」
なんだかとてもビックリする話になってきたので、シャワー室からあわてて出てバスタオルを体に巻いて、頭にもタオルを巻いてビールを片手にベッドに腰かけて話をつづけた。
桶:「へい。奴は親方の弟子にして欲しいという西洋人の画家を、オランダ人のヘイスベルト・ヘンミーというカプタンが連れて来て毎日一緒に絵を描いていたでござる。」
鍵:「その西洋人が、写楽なのですかな。」
桶:「サイの奴は親方のところに1年ぐらいいやしたが。この国の奴らは、芸術が分からない野蛮人だと言い残して勝手に国に帰ってしまったのでござる。
しかし、サイの才能を認めていた親方はカピタンからサイの船が沈没したという話を聞いて号泣していやした。」
鍵:「そうだったのじゃな。北斎は、サイさんの才能に惚れていたのじゃな。」
桶:「そうでござる。親方はサイから、水彩絵の具の使い方や西洋画の技法を学んでいやした。奴は、西洋式の画風で親方の浮世絵を模写してやしたが、親方の版元の蔦屋重三郎から浮世絵を描いてくれと頼まれて制作したのでござる。そして、奴が描いた役者絵をみて親方は腰を抜かしたのでござる。」
北斎が写楽の名付け親
鍵:「そうなのじゃな。それで名前は誰が決めたのですかな。」
桶:「親方が名付け親でござる。そのころ親方は、川柳てぇのに嵌ってやしたので、言葉遊びにってやして、欧州の東の方から来たサイで東洲斎。
メリケンが浮世絵を描く何てしゃらくせいやい。ということで東洲斎写楽となりやしたでござる。」
鍵:「サイさんはアメリカ人だったのですかな。」
桶:「親方は外国人の事はみなメリケンと言ってやしたでござる。」
鍵:「北斎の川柳は本で読みましたよ。わしは、誰が嗅で 見て譬か河童の屁へ。という川柳が北斎らしくて好きですじゃ。」
桶:「そのころ、親方が布団から出るのは、川柳の会合と引っ越しぐらいでござった。」
鍵:「サイさんは、自由に外出することが出来たのですかな。」
桶:「カプタンのお抱えの医者と名乗れば、どこへでも自由に行けたのでござる。」
鍵:「風景画以外の浮世絵はご法度で捕まって罰を受けた浮世絵師もいたはずでしたな。」
桶:「へい。その頃は、国防の為に浮世絵師が港など描いて、外国人に売るのはご法度。当然、外国人が絵を描くのは禁止だったでござる。」
鍵:「そうでしたね。浮世絵師も版元も苦労したのでしょうな。下手すれば役人に捕まって罰を受けることになるのでな。」
桶:「それで版元も生き残りをかけて、謎の絵師に描かせて浮世絵を売り出した。そうしたら初めは人気になりやしたが、歌舞伎役者からクレームが出て売れなくなってしまいやしたでござる。」
鍵:「どういうことですかな?」
桶:「男が女役を演じるおやまさんを描く時に、普通の浮世絵師が役者さんを女性のように奇麗に描くのに、サイの奴が描くと、男が女役を演じているということがハッキリわかる様に描いてやしたからでござる。」
鍵:「それで10か月で浮世絵の世界からいなくなっちゃったのですな。」
桶:「そうでござる。親方はもっと西洋の油絵を学びたいと言っておりやしたでござる。」
鍵:「そうでしたか。北斎は30代の頃から西洋画を学んでいたのじゃな。」
桶:「へい。それがあったのでシーボルトやカプタンから注文を受けて、西洋風の絵を和紙に水彩絵の具で描くことが出来たのでござった。
その時親方が描いた絵は、ご隠居も知っているようにオランダの美術館にあるのでござる。親方は、摺って大量に販売する浮世絵以外にも一点ものの肉質浮世絵も沢山描いていたのでござる。」
北斎が小布施で会った人たち
鍵:「浮世絵師は生き残りをかけて、春画を描いていたと聞いていたのじゃが、それだけではなかったのですな。」
桶:「春画は、北斎の他の弟子達や娘のお栄さんも毎日描いてやしたでござる。お上にばれないように商家などからこれを描いて欲しいといった注文を受けて肉質浮世絵を描いて生き延びたのでござった。」
その中で一番のお得意さんが、信州長野の高井鉱山でござった。」
鍵:「わしは、小布施の高井鴻山記念館にも立ち寄り、そこで北斎のアトリエを見てきましたよ。えーと。名前はなんでしたかな。」
桶:「碧漪軒でござる。」
鍵:「おう、そうじゃった。」
桶:「親方の弟子の鴻山が、”青いさざなみ”の意味を持つこの言葉をつけたのでござる。」
鍵:「北斎は、鴻山の事をなんて呼んでいたのですかな。」
桶:「親方は、旦那様と呼んでいやした。鴻山は親方を先生と呼んでたでござる。」
鍵:「親方が初めて小布施に行ったのは、83歳の時だったですな。」
桶:「そこで鴻山に頼まれて、岩松院の天井画に八方睨み鳳凰図を描いたのでござる。」
鍵:「わしも観ましたよ。その大きさと迫力に圧倒されましたよ。ところで、岩松院はパワースポットだったのですかな。」
桶:「そうでやした。それで、親方とも話が出来やしたし、翛然楼もそうでやした。」
鍵:「翛然楼で北斎は沢山の文人墨客(詩文や書画などの風流に親しむ人)と会ったのでしょうな。」
桶:「へい。翛然楼は今でいうサロンにしてやした。鴻山は15歳から16歳まで京都や江戸に遊学し、儒学などの思想や、書、浮世絵なども修めた当代きっての文化人でやしたから全国から鴻山に会いに来やしたのでござる。」
鍵:「北斎と気が合ったのはどなたですかな」
桶:「近くに住んでいた佐久間象山でござった。」
鍵:「しょうざんって、ぞうざんじゃないのですかな。」
桶:「本人がしょうざんと呼んでくれといっていやしたでござる。」
鍵:「そうでしたか。二人は破天荒なところは似ていますからな。北斎は、勝川春章に弟子入りして春朗の名を得て20歳で浮世絵デビューしたのじゃが、好奇心に富む性格から、師匠に内緒で当時タブーとされていた他派の狩野派や琳派に弟子入りして学び。
唐絵や錦絵や洋画も研究し、破門されるという破天荒の御仁じゃった。そして身に着けた技法を惜しげもなく誰にでも教えてしまう。その最たるものが北斎漫画じゃ。」
桶:「そうでやした。親方が破門されたのは34歳でござった。」
鍵:「それにしても佐久間象山に会っていたというのは驚きですな。象山も当時の免許皆伝とか秘伝とかの制度の在り方を否定し、自分が知ったことは包み隠さずどんどん只で教えてしまうし、自分より優れている人には身分や年齢に関係なく頭を下げて教えを請いに行くといった当時としては破天荒な人でしたな。」
桶:「そうでござる。オランダ語の先生は、6歳も年下の蘭学者の黒田良安でござった。」
鍵:「オランダ語を武器に勉強して、象山は世界を知り、オールジャパンを提唱した方であったな。」
桶:「二人で作品を作ってやしたよ。親方が描いた浮世絵に象山が漢詩を書いてやした。」
鍵:「それは凄いことじゃな。」
桶:「親方も楽しんでいやしたでおま。そして、象山の弟子達も集まってくるので、サロンは連日大賑わいでしたでござった。」
鍵:「象山の弟子というとどなたですかな。」
桶:「吉田松陰、勝海舟、小林虎三郎、河井継之助、坂本龍馬などでござる。」
鍵:「それにしても凄い面々じゃな。北斎はみなに会っているのですかな。」
桶:「へい。親方は、絵を勉強する時間が減るので気が進まないと言ってやしたが、皆さん方が天下に聞こえた葛飾北斎にあいたというので断れなかったようでござった。」
鍵:「助さんに尋ねたいのじゃが、山田方谷先生は来ておらんかな。」
桶:「その名前は象山から何度もでておりやしたが、本人は来ておりやせん。象山の話だと佐藤一斎先生の開いた佐藤一斎塾塾頭であり同門の中で一番の秀才だったと言ってやした。」
鍵:「そうですな。方谷は凄い人だと思いますよ。わしは、備中松山藩の財政再建をし、戊辰戦争の時に備中松山城の無血開城を成し遂げた人として興味を持って岡山県の山田方谷記念館や備中松山城までいってきましたでな。」
桶:「河井継之助も方谷先生は凄い人だと言っておりやした。」
鍵:「そうだったのじゃな。ところで助さんは、小布施では何をしておったのじゃ。」
桶:「ご隠居。良く聞いてくださいやした。あの頃は大変でやした。」
鍵:「なにがじゃ。北斎だって流石にまんごろうは使っていないと思いますがな。」
桶:「映像を転送するのが大変でござった。」
鍵:「それは例えばどんなことですかな。」
桶:「ご隠居も知っているように、象山は日本を世界に負けないような化学立国にする事を目指していたので、ガラスの製造や地震予知機を作り、大砲も作っちゃったでござった。
そして、日本初の電信機による電信実験をしてござった。あっしの脳電磁波信号について説明は理解してくれやした。」
鍵:「大砲を作っていたのは知っているが、電信については初耳ですな。しかし、あの時代に電信とは驚きじゃな。」
桶:「象山は、松代藩からオランダ語の百科事典を買ってもらって、翻訳しながら読んで知識を取得して、自分でなんでも作ったのでござる。」
鍵:「オランダ語の百科事典を原語で読んだって信じられんですが、そもそもあの時代に松代藩が象山の為に買ったってことはもっと理解出来ないですな。」
桶:「象山はそのことについて、藩主の真田幸貫が老中兼任で海防掛りに任じられたことで、広く世界に目を向けることの必要性を感じて、象山を洋学研究の担当として任命したからだと語っておりやしたでござる。」
鍵:「藩主の先見の目も素晴らしかったのですな。象山はどんどん力を発揮したのですのじゃな。」
桶:「そうでござる。それでも象山が作りたい電話についていくら言葉で説明しても誰にも分ってもらえない。電話の仕組みとそれがある事でどのようなことが可能になるのかがみなイメージできなかったでござる。
そういう時は、象山と親方がおでこをくっ付けて正座しているところに、参加者は二人の頭におでこをくっ付け、イメージ映像を象山から親方に送ってもらい。あっしが、その映像を参加者に脳電磁波信号で転送するという役目をしておったでござる。」
鍵:「それでみな、理解できたのでしょうかな。」
桶:「そのようでやした。吉田松陰はその体験もあって、どうしても外国に行って科学技術を学んでこなくてはならないと密航を企てたのでござる。」
鍵:「そうじゃったな。それで、吉田松陰は処刑され、外国行を勧めた象山もとらえられて8年ほど松代で蟄居させられたのでしたな。ところで、小布施に来た方の中で、婦女子に人気があった男はどの御仁じゃ。」
桶:「一番人気は、松陰が開いた松下村塾の塾生の久坂玄瑞でおま。イケメンなので婦女子がきゃーきゃー。言っておりやしたでござる。」
鍵:「昔からイケメンはモテたんですな。それならば、同じ塾生の高杉晋作も人気者だったじゃろう。」
桶:「高杉晋作というのは、来ておりやせん。玄瑞の話だと晋作は山田方谷先生に農民を兵にするといった事を学んでいると言ってやしたでおま。」
北斎の最後の弟子
桶:「それにオランダ人が来たときは、あっしは暇でやした。」
鍵:「どうしてですかな。」
桶:「親方の弟子で蘭学者の本間北陽という奴がオランダ語の通訳をしてござった。」
鍵:「本間なにがしって聞いたことありませんな。」
桶:「そうでやすか。」
鍵:「ちょっと待って、ググってみるから。」
本田北曜は、酒田の本間家分家に生まれた。江戸で榎本武揚、ジョン万次郎らと交わり、勝海舟に嘱望されて勝塾の蘭学教授となった。
その後、長崎にてオランダ人宣教師のフルベッキに英学を学んだ。ロンドン、パリ、ロシア、中国、米国を訪問し、帰国後は薩摩藩主島津斉彬の依頼で、西洋学館の英学教授をつとめた。
このころ、舞島密、小松帯刀、西郷隆盛、伊地知正治らと交流している。北陽が描いた浮世絵としては、黒船図画は有名。
鍵:「凄い人だったんですな。語学力を武器に素晴らしい人生を掴んだのですな。
わしは疲れたのでそろそろ寝ることにしますのでな。助さんは、まんごろうに戻ってくだされ。とっととうせやがれ、このすっとこどっこい。」
まんごろうの姿は消えた。
そのあと、スマホでアラームを6時にセット。朝までぐっすり眠った。
翌朝、アラームが鳴る前に目が覚めて、いつものようにラジオ体操を第2まで行い、ウクレレの基礎練習を行った。いつもと違うのは、新しく取得したカントリーロードの楽譜で弾き語りをしたことだった。
初めて英語で日記を書く
さて、今日は英語で日記を書かなければならない。出来れば、マーガリンごめん、トライしたけど書けなかったって笑って言えちゃえば楽なんだろうけど、そうもいかないので、スマホの翻訳機を使って書き出してみた。
今日は2019年1月24日木曜日。
「Today is Thursday, January 24th,2019. 」
今朝は、5時40分に目が覚めた。それから、6時に起床して、シャワーを浴びた。
「I woke up at 5:40 this morning. Then I got up at 6 o’clock and take a shower. 」
その後、ラジオ体操をしてからウクレレを弾いた。
「After that, I practiced radio calisthenics and then playing ukulele. 」
※calisthenics体操 発音記号kæ̀lisθéniks,かな キャリスセニクス 分類 cal・is・then・ics
顔を洗って歯磨きをした。そして、服を着替えて散歩をした。
「I washed my face and brushed my teeth. Then I changed my clothes and walk. 」
今日は天気は晴れなので気持ちがいい。公園まで行って戻ってきた。
「The weather today is sunny. I went to the park and came back. 」
今日のランチはマクドナルドに行くので、フレーズを練習した。
「I’m going to McDonald’s for lunch today, so I practiced the phrases. 」
午前のレッスンでは買い物での会話について、教えてもらう予定だ。
「In the morning lesson, I will be taught about shopping conversations. 」
ショッピングモールのショップでジーパンを買うのが楽しみだ。
「I’m looking forward to buying jeans at the shop in the shopping mall. 」
私は、買い物の英会話をノートに書いておかなければならない。
「I have to write down the English conversation of shopping
in my notebook. 」
ここまで書いてから洗濯物を持って食堂に向かった。今日は久しぶりに隣の犬が吠えていた。このところ静かだったので少し心配していたが元気そうと安心したら、我が家のソックスのことが気になってきた。あいつは、ちゃんとご飯を食べているかなぁ。
今日初めて食堂前の洗濯物を依頼するエリアで、重さを量ってノートに記載した。もうすでに幾つかの洗濯物が袋に入れられて、名前付きで置いてあった。その中には手書き風の可愛いイラスト付きの物や、「Thank you as always.」いつもありがとうという言葉が添えてあった。
そのような心遣いを見ると朝から得した気分になる。思わず私も感謝の言葉を書きたくなったが適当な英語が浮かばない。そこで、 “ありがとう感謝します”。と日本語で書いたが、これじゃスタッフには分からないよ、誰のために書いているのだかこのおやじ、と一人突っ込みして思わずおかしくてたまらなくなった。
まぁ、こうした気分にさせてくれたのも、誰かが書いた英語での感謝の言葉だった。もしかしたら、私が書いた言葉が誰かの役に立つかもしれないし、ほんの少し笑ってくれたら嬉しいなどと考えていた。
女子高校生のサトエとの出会い
食堂からは「good morning.」「morning buddy.」「morning all.」「How’s it going?」などが、聞こえてきた。「morning buddy.」は、やあ、相棒と言ったところかな。
私も「morning. 」と言いながら食堂に入った。高齢者テーブルはどうしたことか空きがない。しょうがないのでチョット可愛い若い女性の隣に陣取った。
勿論、座る前に「Excuse me. Is this seat available?」すみません、この席は空いていますか?と声をかけた。彼女は、恥ずかしそうに「No, go ahead.」空いていません、どうぞ。と消え入りそうな声で答えてくれた。
私はおかしいなと思って「Is this seat taken?」この席は使われていますか?と再度尋ねると彼女は「Yes, you can use it.」と言ってから、ハッと顔をあげて「I’m so sorry. I didn’t notice my mistake.」ごめんなさい。間違いに気づきませんでしたといって恐縮した。
私は「No problem.」といってトレーをテーブルに置いて椅子に腰を下ろした。そして「I’m Shige. It’s nice to meet you.」シゲです。よろしくと挨拶をした。
彼女は「It’s nice to meet you too. I’m Satoe. 」こちらこそよろしくお願いします。私はサトエですと挨拶してくれた。私は、いつものように食材が沢山のっているトレーを写真に撮り、Lineで妻に送った。
その様子を彼女は不思議そうに見ていた。彼女のどうしてという表情を読み取って「I’m sending it to my wife.」と笑顔で伝えた。彼女は、「How wonderful!」なんてすばらしいと言って笑顔になった。
よく聞いてみると、今朝こちらに来た。名前はサトエで住んでいるのは岡山県、彼女が英会話を勉強する目的は、外国人観光客に対応できるようになるためで、専門学校を卒業したら、地元の観光協会で働きながらボアランティアで地元の旅館や商店の人達に英会話レッスンをするのだそうだ。
このスクールとセブの英会話スクールで短期間勉強してみて、自分の目的に合うスクールで就職後半年間勉強するという事だった。
就職後の留学費用は、すべて観光協会が出してくれるということで責任を重く受け止めている感じだった。
しかし英会話は子供のころからおじいちゃんに教えて貰っていたし、専門学校の観光コースで学んでいるので、多少の英会話は出来るので不安よりもわくわく感でいっぱいなのだそうだ。
彼女はこのスクールは2週間いる予定だが、毎日8時間のレッスンを受けて、スクールが休みの土日も特別レッスンを8時間ずつ受けるのだそうだが、岡山県は観光資源が沢山あるのでそれぞれの魅力を英語で紹介しなければならないとなるとそれぐらい頑張らないといけないのだろう。
二十歳そこそこで明確な目標を持って英語に取り組んでいることが羨ましい。
自分自身の人生を振り返ってみても、同じ二十歳という年齢の時に明確な目標は持っていなかった。
今勉強している英会話だって東京オリンピックでボランティアをするのに必要だからという簡単な動機だけだ。言い換えれば趣味の一つであり、勿論英語で身を立てることなど考えてもいない。
英語に人生をかけている人達とは違っているがこんな風な英語との付き合い方もあっていいと思う。
彼女が席を立ったので、「Have a nice day. Good-bye. 」と言いながら高齢者テーブルに目をやってみると、チエさんとユリはいつものように筆談をしていた。二人が目配せしたので掲示板の方を見ると、二人もランチはいらないという欄に名前が書いてあった。
マクドナルドに一緒に行くのは決定のようだった。待ち合わせ場所と時間をユリのノートに書いて部屋に向かった。
スタッフのマンゴウへのチップ
食堂を出てすぐの洗濯場ではスタッフとマンゴウが話をしていた。
鍵:「Hey Mango! A beautiful day, isn’t it?」やあ、マンゴウ。今日はいい天気ですね?
マ:「Yes, it is. Shige! It’s a wonderful day to study English. 」そうですね、シゲ。英語を勉強するのにはもってこいの日ですね。と、笑いながらマンゴウが言った、自己紹介の後はこれぐらいのジョークを言っても許してくれるキャラだと認識されたようで私は嬉しい。
鍵:「Exactly.」そのとおり。
と、いいながら肩をすくめながら仕方ないよねのポーズをしてみた。マンゴウにウケたようで一緒に笑った。
マ:「I’m going to clean your room this evening. Is that okay? 」ところで、今日の夕方5時ごろにあなたの部屋を掃除に行ってもいいですか?
鍵:「Ok, please.」はい、お願いします。
マ:「See you later.」じゃーまたね。
鍵:「Pardon? Bye-bye.」えっ、バイバイ。と言いながら、右手の平を耳に当てた。
マンゴウと洗濯場のスタッフには大ウケだった。
部屋には公園でウクレレの弾き語りをしてから戻った。午前のレッスンの準備をしながら、スタッフへのチップついて思いを巡らせていた。
そこで、フィリピンのチップについてググってみた。
① レストランの場合
フィリピンのレストランはでは、多くの場合代金にサービス手数料(Service Charge)が上乗せされていますので、チップを支払う必要はありません。
だたし、ホテル内や高級レストランで食事をした際は、支払いに使用したトレーや机の上に20ペソから50ペソ程度のチップを置いていくことが一般的です。
② ホテルの場合
一般的にはホテルで荷物を運んでくれるポーターには、20ペソ程度を渡すことが相場です。ただし、いわゆる高級ホテルに泊まる場合には50ペソ程度を渡すようにします。
また、ルームサービスをお願いした場合やベッドメーキングの係の人に渡す場合も、20~50ペソ程度のチップが目安となります。
ベッドメイキングの人に渡す場合は、枕の下に置く人もいますが、気づかずに処分されてしまう場合もありますので、ベッド脇のサイドテーブルなどに置くのが良いとされています。
③ タクシーの場合
タクシーの運転手にチップを渡すことは基本的にありません。あるとすれば、支払いの際に出るおつりを受け取らずにチップとして渡す程度です。
運転手がお釣りを渡そうとしたら、「Please keep the change.」お釣りはいいです。や同じく「You can keep the change.」と言っておけば良いです。
そうだとすると、マンゴウにルームメイキングをしてもらう場合のチップの相場は20~50ペソになる。日本円で100円ぐらいと言う事だが、皆は渡しているのだろうか?
ランチの時にチエさんに尋ねてみなければと、スマホのTODOに追加した。
今日の午前中のレッスンは、マクドナルドでの英会話。及び服を買う時の英会話なので、ショッピングでの英会話というフレーズをノートに書きだした。
午前中のレッスンでの収穫は、マクドナルドのクーポンをジャムが探してプレゼントしてくれたことだった。
マクドナルドでの注文
待ち合わせ場所で、二人と会ってマクドナルドへ。フィリピンのマクドナルドはモダンで白黒を基調とした外観も多いので、店内は若干カラフルというか南国らしく見える。
平日の昼間と言う事でテーブルは空きが多かった。一番端っこに3人で陣取ると、私が事前に日本人が書いたマクドナルドでの注文に関する記事を見つけて、ノートに書き留めた文章を二人に説明した。
※メニューは、日本と同じでバーガーとドリンクとポテトがセットになったものと、日本では見ることがない「ライス&チキンセット」というのがあり、そのセットを頼むとライスも紙に包まれて出てくるのでびっくりさせられる。
ライスのお供には、グレービーソースがついてくるので、少し胡椒と旨味ソースが効いたさっぱりした味で、ご飯と絶妙に合い非常に良い組み合わせとなっている。
値段は、ビッグマックセットだと、ドリンクとポテト込みのMサイズで190ペソ、日本円で418円ぐらい。
ビッグマックのMサイズは日本で690円なので得した気分になる。そして、サイドメニューもお得な価格になっている。
アップルパイは、30ペソ=約66円、マックフルーリーは45ペソ(抹茶味は50ペソ=訳100円)と格安。
そして、辛党に是非試してみて欲しいのが、マックチキンスパイシーという激辛のバーガーです。
それにお勧めなのがパーナップルジュースでフライドチキンを食べた後に飲むとスッキリします。この内容と私がノートに書き写したマクドナルドでの英会話を3人でチェックしている。
S:こんにちは 今日はどうしますか?
「Hi. How can I help you today? 」
客:チキンマックをお願いします。
「Hi. Can I get a McChicken, please? 」
S:はい!一緒に飲み物やポテトは如何ですか?
「Sure, Would you like a drink and fries with that? 」
客:お願いします。
「Yes, please. 」
S:お飲み物は何にしますか?
「What kind of drinks do you like? 」
客:どんな種類の飲み物がありますか?
「What kind of drinks do you have? 」
S:オレンジ、コーヒー、紅茶、ミルク、コーラがあります。
「We have orange, coffee, tea, milk, coke. 」
客:コーラをください。
「I’ll have a Coke. 」
S:サイズは?
「What size can I get for you? 」
客:Mサイズでお願いします。ポテトもMでお願いします。チョット聞いてもいいですか?
「Medium, please. I would like potatoes in M size as well. May I ask?」
店員:はい!何でしょうか?
「Yes, what is it? 」
客:このクーポンは使えますか?
「Can I use this coupon? 」
S:はい使うことが出来ます。無料で飲み物とポテトをLサイズに出来ます。そうしますか?
「Yes, you can use this. You can make drinks and potatoes L size for free. Do you do that? 」
客:はい!そうしてください。
「Yes, please. 」
S:他に注文はありますか?
「Sure. Anything else for you today? 」
客:これで全てです。ありがとう。
「No, that all. 」
S:よし、じゃあMサイズのマックチキンセットで、飲み物とポテトがLサイズですね。ソースはつけますか?
「Great, so the medium Mac chicken meal. Drinks and potatoes are large size.
Would you like sauce? 」
客:いいえ結構です。
「No, thank you. 」
S:ここでお召し上がりですか?お持ち帰りですか?
「Will it be for here or to go?」 ※for here の部分はeat inという言い方もある。ジャム。
客:ここで食べます。
「For here. 」
S:オッケー。合計で190ペソです。
「Okay. Your total is 190 pesos. 」
客:はい、どうぞ。
「Here you go. 」
S:おつりです。
「It’s change. Thank you. 」
客:ありがとう。
「Thank you. 」
ユリとチエさんは簡単バージョンでトライ!
S:はい、どうしますか?
「Hi. Can I help you? 」
客:チーズバーガーをお願いします。
「I’d like a cheeseburger. 」
※単品のハンバーガーは”sandwich”と聞かれる場合もある。ジャム。
S:はい、今日はセットにしますか?
「Sure. Would you like to make it a combo today?」※comboはmealともいう。ジャム。
客:いいえ、結構です。
「No, thanks. 」
S:他にご注文は?
「Anything else for you? 」
客:いいえ、ありません。
「No, thanks. 」
S:はい、ここでお召し上がりですか?お持ち帰りですか?
「Okay. For here or to go? 」
客:こちらで食べます。
「For here, please. 」
S:はい、100ペソです。
「Okey. It’s one hundred pesos. 」
客:こちらです。
「Here you are.」※here it is.でもthank you.でもオッケー。ジャム。
S:はい、お釣りです。
「It’s change. 」
客:ありがとう。
「Thank you. 」
ユ:「簡単バージョンでも結構セリフが長いわね。」
チ:「そうね。でもメニューを指さして『I’ll have this one.』の方が楽じゃないかしら。」
鍵:「そうそう。まず、注文が出来たらそれだけで成功ですね。二人はジャムに貰ったクーポン使いますか?」
ユ:「セリフが複雑になるから私はいならいわ。」
チ:「私もパスさせていただくわ。」
鍵:「はい、では私は買ってきますね。」
ユ:「シゲは何にするの?」
鍵:「折角だから、ライス&チキンセットにしますよ。日本では食べれないでしょうから。そして、このクーポンでチーズバーガーをサービスでもらいます。」
チ:「ファイト!」
念のためノートを持ってカウンターへ。
2人は近くでやり取りを聞きたいというのでついてきた。
誰も並んでいなかったので、そのまま注文して無事にテーブルに戻った。
ユ:「凄く良かったわよ。」
チ:「とても自然でしたわ。」
鍵:「二人ともどうぞ。」
2人と話し合って、心配だからと一緒に行くことになった。二人とも手には私のノートと100ペソ紙幣を握りしめている。まるで、テレビ番組の “初めてのお使い” を見ている気分だった。あの番組ではお子さんが親に頼まれて、初めて買い物に行くのに親はついていかないが、この二人は私にそばにいて欲しいという。まぁしょうがないなと思いながらカウンター近くで会話を聞いていた。
私の時と違って何人か並んでいた。次は、ユリの番だ。
S:「Next please.」次の方どうぞ。
ユ:「Yes, Please.」はい、お願いします。
S:「How can I help you?」どうしますか?
ユ:「I’ll have this one, please.」これをお願いします。とセットを指さしたが、とってもテンパっている。
S:「Sure, What kind of drinks do you like?」はい、飲み物は何にしますか?
ユ:「I’ll have this one.」これにしますと飲み物を指さした。
S:「What size?」サイズは?
ユ:「M please.」Ⅿサイズをお願いします。
S:「Is it okay for potatoes to be medium size?」ポテトもミディアムサイズで良いですか?
ユ:「Yes, please.」はい,お願いします。
S:「Sure. Anything else.」はい、他に注文は?
ユ:「No, thank you. 」
S:「Okey, It’s 190pesos. 」はい、190ペソです。
ユ:「Thank you. 」ありがとう。と言いながら200ペソを手渡して、お釣りをもらった。
ユリが、複雑な笑顔でカウンターの横にきて、チエさんが注文するのを見守っている。
S:「Next please.」次の方どうぞ。
チ:「Thank you.」ありがとう。
S:「Can I help you?」どうしますか?
チ:「I’d like a hamburger.」ハンバーガーをください。
S:「Sure. Would you like to make it a combo today?」はい、セットにしますか?
チ:「No, thanks.」いいえ。
S:「Anything else for you?」他に何かいりますか?
チ:「No, tanks. please.」いいえ。
S:「To go or for here?」お持ちかえりですか?ここで召し上がりますか?
チ:「for here, please.」ここで食べます。
S:「Okey, It’s 60pesos. 」はい。60ペソです。
チ:「Here you go.」こちらです。
S:「It’s your change.」お釣りです。
チ:「Thank you.」ありがとう。
チエさんがハンバーガーを受け取ったので、3人でテーブルに戻った。
ユ:「シゲは上手くやれたわね。凄いって思ったわ。」
チ:「本当に素晴らしかったですわよ。驚きました。」
鍵:「ありがとう。今朝もジャムと練習したからですよ。」
ユ:「えっ、そんな練習しているの?」
鍵:「僕は、意味のない練習が苦手なので実践的なレッスンをして貰っているんだ。」
チ:「それってよろしいですわね。」
鍵:「折角、実践の場があるのに試してみないのはもったいない、日本では出来ないことだから。」
ユ:「私もそういうレッスンならもっとまじめに頑張れると思うな。」
チ:「私も同感ですわ。そうしたら、今日のような失敗をしなくてすんだのにと思いますわ。」
鍵:「上手に注文できたではないですか?」
チ:「全然ダメでしたわ。『No, thanks please.』って変でしょう?それに、私、飲み物も欲しかったし、チーズバーガーが良かったのよ。それなのに、緊張して上手く注文できなかったのですわ。」
ユ:「分かるわよ。私も緊張してしまって間違って注文してしまったのよ。私、チーズは嫌いなのにチーズバーガーセットを頼んじゃったのよ。チエさん交換しましょうよ。」
鍵:「実践することで悔しい思いをしたりして、次はちゃんとやるぞってリベンジする気になれれば、英語学習のモチベーションも維持できますよね。」
ユ:「次の時はMではなく、ミディアムって言えるようになっておくわよ。」
チ:「私は次の時は、『Anything else』って言われたら『No, that’s all.』ってスマートに答えたいわ。」
そんな話をしながら楽しくマックを食べた、チエさんは、再度チャレンジしてパイナップルジュースをゲット出来たことで満足したようだった。
私はジーパンを買いに行くのでと言い残して、先にマックを後にしてジーンズショップに向かった。
マニラのデパートで英語で買い物
デパート内の洋品店でジーパンを探していると店員が声をかけてきた。
S:「Hello, how may I help you?」何かお探しですか?
鍵:「I’m looking for jeans.」ジーパンを探しているのですが?
S:「You can find jeans over there. Please follow me.」ジーンズならあちらにあります。ついてきてください。
鍵:「Thank you.」ありがとう。
S:「Please ask me anything.」なんでも聞いてください。
鍵:「Do you have anything less expensive?」もう少し安いものはありますか?
※ここまでは、レッスン通りだ、cheapは、安っぽい、品質や見た目が悪いというニュアンスがあるので、価格が安いものという時には「Less expensive.」か「inexpensive.」を使う方が良いとジャムから教えてもらっていた。
S:「This is a service item.」こちらがサービス品ですと手で示してくれた。
鍵:「Thank you.」ありがとう。
S:「This is 500pesos for two. 」こちらは2本で500ペソです。
鍵:「Can I try it on?」試着してもいいですか?
S:「Sure. The fitting room is over there.」どうぞ。試着室はあちらですと指さした。
鍵:「I’ll take this.」これをいただきます。
S:「Do you need hemming?」裾上げは必要ですか?
鍵:「No, thank you.」いいえ結構です。
S:「How would you like to pay?」お支払い方法は?
鍵:「I would like to pay in cash.」現金で払います。
S:「It’s 500pesos. 」500ペソです。
鍵:「Here it is.」はいこちらで。
S:「Thank you. Have a good day.」ありがとうございました。良い一日を。
鍵:「You too. Thank you for your help.」あなたもね。ありがとう。
練習通りにできてとても満足。達成感は半端ない。それでもジャムから事前にデパート内のショップでは値引きを受け付けないと聞いていたので「Can I get a discount?」割引してもらえますか?を使えなかった。次の機会にはこのフレーズを使える場所でトライしたい。
部屋に戻って一息ついて時計を見るとマーガリンとのレッスン開始までほとんど時間がないので、慌ててノートの宿題部分にマクドナルドに行ったこと、とジーンズを買いに行ったことをつけたした。
その部分でチョット気になったのが、このスクールの生徒達と一緒にという部分だった。
「I went with the students of this school.」と言えば、当然のことのように「With whom?」誰達と?と聞かれるのは目に見えているからだ。
悩んだ末に彼女たちの了解を得ていないし、当たり障りのないところでとりあえず単独で行ったことにした。それというのもこのスクールでの情報伝達の速さを実感しているからだった。
それはマーガリンやジャムとレッスンの合間での世間話の内容が瞬時に、先生方やスタッフ及び生徒たちに伝わったからだった。
しかも、噂話には尾ひれがついていくのは万国共通のようで、噂によると私は一流企業で管理職として働いたあとに、不動産関連ビジネスの会社を立ち上げて現在経営している。
そしてビジネス書を出版してメディアにも出て活躍している人で、フィリピンに支店を出す計画があるといういつの間にかスーパービジネスマンになっていた。
この話を耳にするとユリとチエさんと一緒にマックに行っただけで、どこまで話を広げられるか分からないからだ。
私とユリはどんな話になろうとも笑い飛ばせるが、チエさんは我々二人とは違って深刻に受け止めてしまいそうだと感じているからだった。
マーガリンとのレッスンは英語で道案内
マーガリンとのレッスンの初めに宿題の日記を提出した。そしてマーガリンがチェックしてくれて何ヵ所も手直しされた。レッスンは私が日本から持ってきた本の中から「英語で道を聞かれた場合」という道案内の部分を勉強した。
レッスンの内容は、さいたま新都心駅構内で聞かれた場合。
A:「Where is Saitama Super Arena? 」
さいたまスーパーアリーナはどこですか?
B:「Go out the ticket gate to the right and go straight, you will see it on the right. 」
改札を右に出て、まっすぐ行くと右側に見えます。
A:「Thank you. 」
ありがとう。
B:「Your welcome. Good luck. 」
どういたしまして。幸運を。
A:「Thank you.」ありがとう。
地下鉄の駅を聞かれた場合。
A:「Excuse me, where is the subway station? 」
すみません地下鉄の駅はどこですか?
B:「That way over there. Do you see the brown building? 」
あっちの方です。あちらの茶色い建物が見えますか?
A:「Yes, I can see a tall brown one. 」
はい、高い茶色のビルですね。
B:「The subway station is behind it. 」
地下鉄の駅はその裏です。
A:「Excuse me, where is the entrance. 」
すみません、入口はどこですか?
B:「It’s right over there. I could take you there. Would you follow me? 」
すぐそこです。ご案内しますよ。ついて来てください。
※人差し指一本を立てながら人に指図すると高圧的に見えます。丁寧に4本指をそろえて「あちらに見えますのが」とバスガイドさんがするように方向を召しましょう。
咄嗟に「皆様、右手をご覧ください。こちらに見えますのが手です。」という山田邦子のギャグが頭に浮かんだが、マーガリンに英語で説明するのは難しいので口には出さなかった。
浦和美薗駅を尋ねられた場合。
A:「Where is Urawa Misono Station?」
浦和美園駅はどこでしょうか?
B:「Urawa Misono Station has a subway and JR. Where do you want to go? 」
浦和美薗駅には地下鉄とJRがあります。どちらに行きたいですか?
A:「I want go to the subway. 」
地下鉄の駅に行きたいです。
B:「Walk straight about 5 minutes. You’ll see the sign there. Go down the stairs to the left. 」
まっすぐ5分ほど歩きます。そこに地下鉄のサインがあります。その階段を下って左です。
マクドナルドでの話とジーンズを買った話で盛り上がってしまい、レッスンは見開き1ページしか進まなかった。宿題は、まだレッスンを受けていない部分をリンキングとリエゾンを意識して録音することだった。マーガリンはやっぱり鬼だった。
Ⅿ:「This homework is due tomorrow. Okay?」この宿題は明日、OK?
鍵:「What is due?」dueは何ですか?
Ⅿ:「In other words, you have to do this homework by tomorrow.」言い換えると、あなたはこの宿題を明日までにしなければなりません。
鍵:「uh-huh.」ふむふむ。
Ⅿ:「See this text for how to use due to. This is a must see.」このテキストで「due to」の使い方を見てください。これは必見です。
と言われて確認してみた。
※主語がする予定だ。「The train is due to arrive in Tokyo at ten.」電車は東京駅に10時に到着する予定だ。「To arrive」がなくてもOK。
原因理由「~のために、~のためで。」Due toは基本的に怪我、失敗、事件、事故、予期せぬ出来事など良くない理由に対して使われる。
「Due to」は“フォーマル”で使い、通常の理由については、良いことも悪いことも「Because of 名詞」で口語として使う。そして、あなたのおかげという時は、「Thanks to.~のおかげ」と、ポジティブな時だけ使う。と書いてあった。
例文、「The train is delayed due to the snow.」
「The train is delayed because of the snow. 」
どちらも電車は雪の為遅れています。
例文、「Thanks to your advice, I could succeed.」あなたのアドバイスのおかげで、私は成功することが出来ました。
マンゴウが部屋の掃除の為にやってきた
スマホのTODOをみて、チエさんにチップの事を聞くことを忘れてしまっていたことに気づいた。もうすぐマンゴウが掃除に来てくれる時間だ。どうしようかなと自問自答している。5時までにはまだ時間があるので、事務室に行ってフルーツに聞いてみることにした。
あいにくフルーツはいなかった。事務室には事務長のトモコがいたので、率直に聞いてみた。事務室の中は日本語を使ってもOKの場所だからありがたい。
鍵:「こんにちは。トモコさん質問があるのですが?宜しいですか?」
ト:「はい、なんでしょうか?」
鍵:「今日スタッフが私の部屋を掃除に来てくれるのですが、費用はどうしたらよいでしょうか?」
ト:「掃除費用は宿泊費用に含まれていますので、追加で支払っていただく必要はございません。」
鍵:「そうですか。聞きづらいのですが、チップはどうしたら良いでしょうか?」
ト:「特に決まりはありませんよ。でも、貰った人は喜びますわ。」
鍵:「ありがとうございます。」
トモコに聞けて良かった、考えてみると経営者のフルーツがいなかったのも幸いだった。急いで、部屋に戻ったがマンゴウが来るまで少し時間がるので、スタッフにもプレゼントしようと日本から持参した折り紙で鶴を折っていた。
隣の犬が吠えているので、内側のドアを開けて外を見ると、マンゴウが両手にバケツや袋を持って立っていた。外側のドアを開けて中に招き入れた。
マ:「Hi! Shige. What are you doing?」はい、シゲ。何しているの?
鍵:「Hi! Mango. I’m doing origami now.」今、折り紙をしています。
マ:「Wow. Can you hold a crane?」わぁ、鶴を折ることが来ますか?
鍵:「Yes, I do.」出来ますよ。
マ:「Could I get it?」いただけませんか?
鍵:「Yeah, I’ll make it now, so please wait a moment.」いいですよ。今作るからチョット待っていてね。
マ:「Thank you. 」
そういいながら、彼女は手際よくゴミを集めたり箒で掃いたりしていた。水回りも丁寧に拭いてくれトイレットペーパーも追加してくれて、ベッドのシーツなども取り換えてくれた。彼女の動きには一切無駄なところがなく、素晴らしいと思った。
マ:「Is there anything you care about?」何か気になるところがありますか?
鍵:「No, there is not. Thank you.」いいえ、ないです。ありがとう。
鶴の折り紙と一緒にチップ50ペソを手渡した。
マ:「Oh. Thank you very much.」おう、とてもありがとうと言って、笑顔で受け取ってくれた。
マンゴウは満面の笑顔で部屋を出て行ったが、私は暫くの間折り紙で鶴を折っていた。
そろそろ夕食の時間なので、折り紙の鶴を持って食堂に向かった。今朝出した洗濯物が出来上がって棚に置いてあったので夕食後に持ち帰ることにした。食堂に入ってまず、事務室に立ち寄ったが残念なことにフルーツの姿はなかった、トモコに土曜日のレッスン4時間分の追加をお願いした。
事務長のトモコの話だと、明日の夕食までに先生が決まるという事だった。先生の指名はありますかと言われて、出来ればジャムとマーガリンをお願いしますと伝えたが、指名料は掛かるのかというギャグが喉元まで出かかったが自制した。
トモコだと「いいえ、とんでもありません。指名料は掛かりませんので安心してください」と、優等生の返事が返ってきて、スベッタ気分にさせられていただろう。私が一押しのフルーツなら、ハイ,何番テーブルにご案内しますか?と、言ってくれただろうな、なんて考えながら事務室を出た。
高齢者テーブルには、ユリとチエの姿があった。ビュッフェの列には、今朝話をしたサトエが並んでいた。少しだけ挨拶を交わしたが、彼女は上級者テーブル席に向かった。
私は、高齢者テーブルのユリの隣に腰を降ろし、いつものようにトレーの食材を写真に撮ってLineで連れ合いに送った。
ユ:「シゲ。今日はありがとう。楽しかったわね。事務室で何かあったの?」
鍵:「僕も楽しかったです。ありがとう。事務室へは土曜日の追加レッスンの申し込みだよ。」
チ:「あら、頑張るわね。今日は、ありがとうございました。私も楽しかったし、とても良い経験が出来ましたわ。娘夫婦に写真付きでLineで報告しましたのよ。」
鍵:「それは良かった。娘さん夫婦から返事は来た?」
チ:「そうなの、息子からお義母さんが笑顔で楽しんでいるので安心したと返事がきましたわ。」
ユ:「良かったじゃない。私も旦那に写真付きでLineしたけど返事はまだよ。残念だわ。」
チ:「楽しかったので、マクドナルド行ったこと先生にも話をしちゃったけど、よろしかったかしら。そうしたらマックでの英会話レッスンをしてくれたのよ。初めて英会話レッスンが楽しくてこちらに来て良かったと思いましたわ。」
ユ:「私も先生にマックに行ったって言ったわよ。それで、チョットだけマックの英会話レッスンを受けたのよ。楽しかったわ。」
鍵:「レッスンで練習したフレーズを実践で試すことが出来るって最高ですね。」
チ:「マックにもう一度行ってみますわ。」
ユ:「いいわね。私もリベンジするわよ。シゲはジーパン買ったの?」
鍵:「買いましたよ。二本で500ペソでした。」
チ:「あらまぁよろしかったこと。私も英語を使って買い物してみたいですわ。シゲ、次の計画はなんかあるのかしら。」
鍵:「日曜日はジープニーに乗ってクバオまで行く予定です。」
ユ:「えっ、一人で?何するの?」
鍵:「ええ、一人です。ウクレレサロンに行きたいのです。」
ユ:「凄いわね。私には絶対無理!」
チ:「私にもありえませんわ。」
そんなたわいもない話をして、また、明日と言って席を立った。そして、靴を履いて、棚の洗濯物を手に取って、代わりに棚のところに折り紙の鶴をおいた。
鶴にはありがとうと感謝の言葉を日本語で書いておいたが、わっかるかなぁ、わかんねえだろうなぁ。ヘヘイヘイ、俺が昔ゴキブリだったころ、かあちゃんはゲンゴロウだった、そして、父ちゃんは柿の種だった。イエーイ!と、 “松しょ鶴家かくや千ちとせ” のギャグをやってみた。もちろんピースサインできっちり決めた時に、フルーツに声を掛けられた。やばい!見られたようだ。
極まりが悪いので挨拶だけで通り過ぎようとしたが呼び止められた。
フ:「今日はありがとうございました。」
鍵:「何のことですか?」
フ:「マンゴウからチップを貰ったと報告ありました。」
鍵:「そんなことも報告するの?」
フ:「このスクールでは、チップなどのお礼は全部集めて公平に分けるのれす。」
鍵:「そうでしたか。では、See you.」といって、立ち去ろうとしたが再度呼び止められた。
フ:「シゲ。頼みがあるのれす。」
鍵:「なんでしょうか?」
フ:「私の友達にウクレレで日本語の歌を教えて欲しいのれす。」
鍵:「いいけど、どうして?」
フ:「えーと、えーと『Nursing home』で演奏するためれす。」
鍵:「老人ホームで?」
フ:「そこには日本人も沢山住んでいるのれす。」
鍵:「そういう事なら、協力します。練習に参加しますよ。」
フ:「彼女は何時も土曜日の夕方練習しています。」
鍵:「土曜日なら4時以降ならOKです。ここから近いのですか?」
フ:「私の家で練習しています。ここから歩いて、5分れす。」
鍵:「それなら近くていいですね。よろしくお願いします。」
フ:「明後日私が部屋まで迎えに来ます。よろしくお願いします。」
こんな会話を交わして、部屋に戻ってスマホをみると6時30分。
Can I get a little discount?
今日はSkypeレッスンを申し込んでいないので、ショッピングセンターに行ってTシャツを見てくることにした。ショッピングセンターは、いつもよりも買い物客が多いようだ。ぶらぶら歩きながらスーパーに行く途中のアメ横のようなショップを覗いてみると、Tシャツについている値札にはp50。えっと再度見てもやっぱり間違いない、日本円で100円といったところだ。
絵柄は気に入ったが、触ってみるとペラペラで買うのにはチョット抵抗がある。フィリピンは外に出ると熱いが、一歩建物内部に入るとどこもエアコンがガンガン効いている。まるで日本の夏のオフィスのように、女性たちは同じような膝掛けを巻いている。だから、Tシャツはもう少し厚手のものが欲しい。
事前にググったところ、500ペソ位のものなら心配ないと書いてあったので、もう少しぶらぶら歩いて専門店街のTシャツショップを覗いてみた。流石に専門店だけあって品数が多い。天井からプレートがぶら下がっていて価格帯が明示されていた。私の探している500ペソという価格帯のものは、ノンブランドでハンガーパイプに洗濯バサミでつるされていた。300ペソという看板が下がっているコーナーの物は、テーブルの上に一山幾らとして、乱暴に置かれていた。1,000ペソという看板の下の物は、オリジナルブランド物で一枚一枚ハンガーにかけられて、丁寧に壁に掛けられていた。
そして3,000ペソ以上の物は、高級ブランドでガラスケースに入れられていた。それを見て笑いが込み上げてきた。それは、もしこのように人間にタグがついていたらとふと思ったからだった。
私の今の価値はどこに分類されるのだろうか?先ほどの100ペソのところではないと思うが1,000ペソと言い切るほどの自信はない。まぁせいぜい500ペソといったところかと考えると、自分が洗濯バサミで悲しそうに脱力してつるされている映像が頭に浮かんだ。
そうすると、一流企業の役員である代官は1,000ペソのタグ付きでハンガーに丁寧にかけて貰って、経営者のフルーツの旦那は3,000ペソとして、ガラスケースにいれられているのだろう。と、くだらない妄想に耽っている時に、店員から声をかけられた。
500ペソの物はノーブランドだが触ってみてもシッカリしている、絵柄は特にこだわりがないが日本で買うものよりもチョットだけ派手目にして、ウクレレの弾き語りにも合うものと思っていたのですぐに決まった。
S:「いらっしゃいませ。How can I help you?」お手伝いしましょうか?
鍵:「I want to buy this. Can I get a little discount?」これを買いたいです。割引してくれますか?
S:「If you buy two, it will be eight hundred pesos. 」二着買うなら800ペソでいいですよ。
鍵:「Okay. I’ll take these.」はい、ではこれらにします。
S:「Thank you. How do you pay?」ありがとうございます。支払いはどうしますか?
鍵:「I’ll pay in cash. Here it is.」現金で払います。これで。
S:「Thank you. Do you need a bag?」ありがとう。袋はいりますか?
鍵:「No, I don’t.」いいえ、いりません。
といって、Tシャツをショルダーバッグにいれてショップを後にした。
その後ついでに、スーパーマーケットに寄ってヤクルトとビールを買って部屋に戻った。
レジでの最初の質問は、タガログ語で袋はいりますか?と、次はシールはいりますか?そして最後は、支払いは現金ですかと聞いてくるとユリから教わったので、一回目に聞かれたら「No, thank you.」と言ってエコバッグを見せて、2回目が「Yes, please.」といいながら手でくださいのポーズをして、シールを貰って3度目は、「Yes, Please.」と言ってお金を支払って帰ってきた。シールは集めておいて、今度マンゴウが掃除に来てくれた時に渡すつもりだ。
今日買ったジーパンとTシャツは、日曜日にクバオに行くときに着ていけば、間違っても裕福な日本人に見られることはないだろう。チャレンジするにしても危険なめに遭うことは極力避けなくてはならない。
今日は充実した一日だった。シャワーを浴びてビールを飲んでそのまま朝まで熟睡した。こちらに来て初めてアラームで目を覚ました、5日目の朝だ。何時ものルーティンで、体操とウクレレの基礎練習、そしてニック式英会話ジムでは、3step日本語に惑わされないネイティブの思考回路になりましょうの学習とテストに挑戦して一日が始まった。スマホの情報だと今日も良い天気のようだ。こちらのリズムにもすっかり慣れてきたという感じだ。
今日のスケジュールを確認してみると、午前の先生はジャムで午後がマーガリンのレギュラーメンバーだ。TODOを見るとチエさんにチップの事を尋ねるとなっている箇所に、チェックをいれ新たに土曜日に練習する楽譜をダウンロードして印刷する事という内容を付け加えた。
さて、選曲だがどうしよう。フィリピンの老人ホームに入所している日本人ってどんな人たちなのだろう。年齢は70代以上だろうと予測はつくが、どんな人生を生きてきた方々なのだろう?というのも日本では高齢者施設もTシャツのように価格帯で分類されているからだった。
どうして終の棲家にフィリピンを選んだのか?
彼らが慰問に行く老人ホームは100ペソタイプの施設なのか3000ペソタイプの施設なのか個人的にすごく興味がある。どうして終の棲家をフィリピンの施設を選んだのか、入所者と話がしてみたい。
選曲は、日本の高齢者施設の慰問の時に一緒に歌ってもらえる曲として♪上を向いて歩こう♪、♪結婚しようよ♪ふるさと♪赤とんぼ♪を選んだが、彼らの希望に応えられるように、それ以外の楽譜もUSBに出来るだけ入れておくことにした。
今日の午前のレッスンは、レストランでの英会話、午後のレッスンは、道を尋ねるレッスンを受けた。特別な収穫としては、特になかったがあるとすれば、ユリから教えてもらったことが、違っているという指摘をマーガリンから受けたことだった。
マニラのレジでの会話
マーガリンはスーパーマーケットの私の応対について、レジでの会話のタガログ語を英語にして説明してくれた。店員:「Hi! Do you have a Senior Citizen Card?」いらっしゃい。シニアシチズンカードを持っていますか?
鍵:「No, thank you.」いいえ、結構です。
S:「Do you need a bag?」袋はいりますか?
鍵:「Yes, please.」はい、お願いします。と言ってエコバッグを見せる。
S:「How do you pay?」どのように支払いますか?
鍵:「Yes, please.」はい、お願いします。と言ってお金を渡す。
S:「ポイントシールはいりますか?」
鍵: 「・・・・」笑顔で手を出して、頂戴ポーズをする。
これでは、志村けんのコントのようだと吹き出してしまった。マーガリンの話だとレジ係から見ると変なお客さんだけど、言葉よりもボディランゲージを優先して対応してくれたのだろうという事だった。
これからスーパーのレジでは、最初が「No, I don’t.」で2番目が「No, thank you.」そして、「I’ll pay in cash.」最後が「Yes, please.」ということになる。しかし、レジ係の多くは英語が分からないと言っていたのでボディランゲージは必須と言う事だった。それにしても、シニアシチズンカードは、初耳だったので、ググってみると。
※60歳以上のフィリピン人退職者に与えられる特典で、スーパーマーケットや薬局でシニアシチズン割引(5%~20%)を受けられる。
レストランや医者、映画館でも10%~20%の割引がある。日本人でもフィリピン在住の退職者ならフィリピン人と同じように申請すれば取得することが出来る。
この制度を見てもフィリピンは高齢者に優しい国だという印象を受ける。日本人の高齢者が終の棲家として選択する理由が他にもあるかもしれない。是非、調べてみたいという思いを強く持った。
夕食では、ユリとチエと会話を楽しんだ。
ユ:「シゲ、明日の予定は?」
鍵:「午前と午後の2時間は、レッスンを受けて、夕方はウクレレの練習会に参加するつもり。」
チ:「ウクレレの練習会ってどういうことですのかしら?」
鍵:「事務員のフルーツの友達と一緒に練習するのです。」
ユ:「あら、どこで?」
鍵:「フルーツの家。」
ユ:「明日の夕方なら見学したいわ。」
チ:「ご一緒したいですわ。フルーツの家なら私、知ってますのよ。」
ユ:「凄い豪邸だよね。」
鍵:「僕は構わないけど、フルーツに聞いてみないと。」
チ:「それなら私たちがフルーツに聞いてみますわ。」
ユ:「そうだね。明日は午前中にフルーツにフィリピン料理を教えて貰うことになっているから。」
鍵:「それも楽しそうだね。」
チ:「先生達に頼むと色んなこと楽しめるわよ。勿論、料金は掛かるけど。日曜日は二人一緒にキャットカフェに連れて行ってもらう予定ですのよ。」
ユ:「このスクールでは土日だけが楽しいわ。」
そんな話をしているところに、玉ねぎさんが声をかけてきた。話の内容としては日曜日の夜、一緒にレスランに食事に行きませんかと言う事だった。
玉ねぎさんがユリとチエも誘ったが、彼女らは先生たちと食事をする予定があるというので、玉ねぎさんといつも高齢者テーブルで話をしているご夫婦と3人で、行くことになった。
翌日のレッスンは、土曜日の為追加授業といっても、いつもと時間帯も同じで午前中は私のリクエストでレストランでの英会話とスタバやKFCでの英会話についてのジャムが授業をしてくれた。
フィリピン人のウクレレ仲間との出会い
フルーツの家で練習
フルーツが迎えに来てくれる少し前には、道路まで出ていようと、リュックにウクレレを入れて、楽譜とUSBをしまってドアに鍵をかけて外に出た。待ち合わせ時刻にマンゴウが迎えに来た。
マ:「Hi! Shige. How have you been?」はい、シゲ。元気にやっていた?
鍵:「I’ve been fine, thank you. And you?」私は元気でやっています。ありがとう。あなたはどう?
マ:「Not too bad.」悪くはないわ。
鍵:「Where are you going?」どこに行くの?
マ:「Go to the Fruit’s house. I have come to pick you up.」フルーツの家に行きます。あなたを迎えに来たのです。
鍵:「Oh really. Thank you. How long is it on foot from here?」おうそうでしたか。ありがとう。ここから歩いて何分ぐらいですか?
マ:「It’s right over there.」すぐそこです。
鍵:「Why did you come to pick me up?」どうしてあなたが迎えに来てくれたのですか?
マ:「I’m a maid at Fruit’s house.」私はフルーツの家でメイドをしているのです。
鍵:「I see.」なるほど。
そんな話をしながら、豪邸の前についた。
マ:「Here. Wait a minute.」ここです。チョット待ってください。
といって、マンゴウはインターフォンで何やら話していた。中からフィリピン人の高齢の女性が出て来て門扉を開けてくれた。
マンゴウから促されるままに中に入って、日本庭園風の庭を眺めながらしばらく歩いて玄関にたどり着いた。
最初に迎えてくれたのはマリヤ様だった。マーガリンはカトリュック教徒だと認識した。玄関ホールは10畳以上と広く、大きな吹き抜けがあった。正面にマリヤ様の像が見えた。
ホールの照明器具はどうやって掃除するのだろうと心配になるような高級ホテルにあるようなシャンデリアがぶら下がっている。
このような洋風の建物に日本庭園はとても不似合いに思えた。
マンゴウが待合室に通してくれたので、椅子に座って待っているとフルーツが大きなおなかを揺らしながらやってきた。
フ:「Thank you for coming. Please come in!」来てくれてありがとう。どうぞお入りください。
と言って、右側のドアを開けてくれた。
鍵:「Thank you.」ありがとう。と、そのまま靴で上がろうとすると。
フ:「Take off your shoes here, please.」ここで靴を脱いでください。
鍵:「えっ、靴を脱ぐの?」
フ:「はい、Put on these slippers inside the house.」家の中では、このスリッパを履いてください。
鍵:「It’s Japanese style, isn’t it?」和風ですね。
フ:「Yes, it is. And take off your slippers when you enter the Japanese tatami room.」はいそうです。そして、和室に入るときはスリッパを脱いでください。
鍵:「えっ、畳の部屋があるの?」
驚くと日本語になっちゃうが、フルーツはマンゴウも近くにいるので意識して、日本語を使わないようだ。マンゴウは「have a good one.」良い一日を言ってその場から立ち去った。
フ:「私の友達もユリとチエもう来ているのれす。2階の「waiting room.」に移動します。「Please follow me.」ついて来てくらさい。」
マンゴウがいなくなって、日本語で話してくれるようになった。これはありがたい。
鍵:「Yes, please.」はい、よろしく。
フルーツは、豪華な家具調の手すりの付いた幅が2メートル以上はある階段を大きなおなかを揺らしながら上がって、右の方に暫く歩きながらお手洗いの場所を教えてくれた。
「Waiting room.」は突き当りにあった。部屋に入るとユリとチエは、フィリピン人の女性と歓談していた。
フィリピン人とのウクレレ練習会、一人は「おねえ!」
私は「Hi! Everyone. 」皆さんこんにちは。と、皆さんに挨拶をしながら入室した。部屋の広さは12畳程の広さがあり、大きな鏡がありなぜかモニターがある。そして、アンプやマイク、譜面台が設置されていた。
部屋に入ると、ジーンズにアロハシャツを着た3人の若者が椅子に座っていた。メンバー構成としては、男性一人と女性2名でフルーツが彼らに私の事を紹介してくれた。
鍵:「It’s nice to meet you. I’m Shige. You guys look good on Hawaiian shirts. Let’s play the ukulele together today.初めまして、シゲです。君たちアロハシャツが似合っているね。今日は一緒にウクレレで遊びましょう。」と、英語と日本語で挨拶した。こうすれば全員が理解できるからだと思ったからだ。そして、彼らの事をフルーツが紹介してくれた。
フ:「His nickname is Venus. He is a university student.彼のニックネームはビーナスです。彼は大学生で、おねぇです。」
鍵:「おねぇ?」
フ:「He came out. 彼はゲイであることをカミングアウトしているのよ。」
ユ:「ごめん!Came out? ですか?Coming outではないの?」
フ:「日本人はどないしてか間違ってはるけど。正しいのは“came out”。例えば、“He came out as a Trump supporter.”彼はトランプ支持者という事を発表した。と使うのよ。ビーナス、please.」
ビ:「Nice to meet you. I love Japanese manga and チャンバラ. That’s way I wont to learn Japanese.」よろしくお願いしま~す。日本の漫画とシャンバラが大すっき♡ だから日本語を学びたいで~す。
鍵:「Great! Nice to meet you too.」素晴らしい!こちらこそよろしく。
フ:「Her nickname is Daimon. She is a doctor.彼女のニックネームは大門。彼女はドクターれす。」
鍵:「Wow! Nice to meet you too. Why are you called Daimon? 凄い!こちらこそよろしく。あなたはどうして大門と呼ばれているのですか?」
大:「私、失敗しないので。」
ユ:「そうか。Doctor Xの大門未知子からなのね。」
大:「Yes, she is cool.」はい、彼女は恰好いいです。
チ:「そういえば、You look like Ryoko Yonekura.米倉涼子に似ていますわね。」
大:「I’m happy.」嬉しいです。
鍵:「Is your ukulele Kamaka?あなたのウクレレはカマカですか?」
大:「Yes.it is. 」
ユ:「シゲ。カマカってなに?」
鍵:「It’s high-class ukulele.高級ウクレレなのです。」
大:「I really like this.」私のお気に入りです。
鍵:「Do you mind if I play your ukulele?」あなたのウクレレを弾いてもいいですか?
大:「No, I don’t mind.」いいえ、かまわないです。
鍵:「Thanks.」ありがとう。
フ:「Her nickname is Kuma. She is an architect.彼女のニックネームはクマです。彼女は建築家れす。」
ク:「Nice to meet you. I am interested in Japanese castles and Karesansui. 」よろしく。私は日本の枯山水やお城に興味があります。
鍵:「Nice to meet you too. I also like Japanese castles. Why is your nickname Kuma?」こちらこそよろしく。私も日本のお城は好きです。何故、ニックネームがクマなんですか?
ク:「I’m studying Japanese architect Kengo Kuma at university. 」
フ:「私は大学で日本の建築家の隈研吾を研究しているのれす。」
ビ:「私は丹下健三を研究しているわよ。」
鍵:「隈研吾も丹下健三も僕は知っているよ。」
ユ:「私は二人ともしらないわ。」
鍵:「二人とも世界的に有名な建築家で、隈研吾は新しい国立競技場、丹下健三は東京都庁を設計したんだよ。」
チ:「私は東京カテドラル聖マリヤ大聖堂に行ったことがありますわ。その時に、丹下健三が設計したと聞きましたわ。」
鍵:「その通りだよ。」
ユリとチエは、自己紹介は済んでいるようだった。
フルーツは私にみなをニックネームで紹介してくれたが、ビーナスのニックネームからすると、彼はこち亀ファンかもしれない。
ドクターの彼女は、大門未知子にあこがれて必死に勉強して医者になったというから凄い。
3人ともインテリジェンスが高いようだから英語での会話も可能だと安心した。
彼らの楽譜を見ると、日本語の歌詞がローマ字で書いてあった。
鍵:「I speak a little English. Please as slowly and easily as possible.私は少しだけ英語を話します。出来るだけゆっくり簡単なセンテンスを使ってください。」と英語と日本語で話をした。
※この出来るだけ簡単なセンテンスでというのは、Skype英会話で良く使っている。
フ:「Then why don’t you try playing, Daimon.それでは何か演奏してみて、大門。」
大:「All right. Let’s play Country Roads. If you like, please join us, Shige. 」
フ:「いいわよ。カントリーロードを演奏するわ。良かったら一緒にどうぞ、シゲ。」
鍵:「All right.」いいよ。ユリとチエに私の近くに来てもらって、楽譜を見てもらった。
ジブリのカントリーロードを弾き語り
彼らの演奏が始まった、ジブリのカントリーロードを8ビートで軽快に演奏して、日本語で歌っている。頭の中には、耳をすませばの場面が浮かんできてキュンとしている。
大:「Sorry. Can I start over?」すいません。最初からやり直してもいいですか?
鍵:「Sure.」いいよ。
最初から弾き語りが始まったが、彼らの演奏の速さが分かったので私も加わった。そして、ユリとチエも一緒に歌ってくれた。マックに一緒に行ってからは、チエさんもチエと呼ぶようになっていた。
鍵:「Fantastic!」素晴らしい!
ユ:「It’s fun.楽しいわね。」
チ:「It’s more fun karaoke.カラオケよりも楽しいですわね。」
フ:「皆さん。素晴らしかったよ。Everyone was great!」
大:「How was our Japanese?」私たちの日本語はいけがでしたか?
鍵:「I think your Japanese is very good.あなた方の日本語はとても上手だと思います。」
大:「Thank you. I wish I were.」ありがとう。そうだといいのですが。
ユ:「I think so, too.とても日本語も上手。『And good at singing.』そして、歌がうまい。」
大:「Thank you, Yuri.」ありがとう。ユリ。
ビ:「To tell the truth, I don’t understand of the lyrics. 」
フ:「彼は、実を言うと、歌詞の意味は分かっていない、と言っています。」
鍵:「そうなんだ。フルーツは歌詞の意味は分かるの?」
フ;「歌詞は難しくて私もわかりません。The lyrics are difficult, and I don’t understand. 」
チ:「英語訳はないのかしら?」
鍵:「ググってみると、原曲のTake me home country roads.しか出てこない。」
チ:「それでいいんじゃないですか?」
鍵:「カントリーロードは、英語の歌詞をただ和訳したものではないんだ。」
ユ:「そうだったのか?知らなかったなぁ。」
フルーツが英語で説明してくれたので、彼らはうなずいている。
鍵:「Do you guys know about Take Me home country roads?」あなた達はTake me home country home.を知っていますか?
ビ:「I don’t know.」知りません。
Take me home country roadsの弾き語り
と言う事で、私が英語での弾き語りを披露した。
ビ:「What a wonderful play!やるわねぇ。」
大:「Great! Your English pronunciation is good.」素晴らしい!あなたの英語の発音が上手です。
コ:「Cool!」素敵!
鍵:「Not really.」いや、それほどでもないです。
フ:「Your performance was amazing.とても驚きのパフォーマンスでした。」
ユ:「あぁ驚いた。」
チ:「びっくりですわ。」
鍵:「てれるなぁ」
フ:「What’s テレルナ?Shige.」テレルナって、何?シゲ。
鍵:「Well.えーと。I can’t explain in English.えーと、英語では説明できません。」
チ:「チョット待っていて、Wait a minute.翻訳ソフトでチェックしてみる。Check it with translation software. Well.えーと、I’m shy.だって。」
フ:「Aha ha. I can’t believe you’re shy. アッハッハあなたがシャイなんて信じられません。」
鍵:「I think so, too.私もそう思います。」
その一言で、皆が笑って和やかな雰囲気になった。やっぱり笑いの力は偉大だ。
雑談の中で出てきた話としては、この部屋の下に本格的なホールがある。そして、この部屋はホールでパフォーマンスを披露するミュージシャンの為の控室とリハーサル室として使用している。
なるほど、それならホールの様子が伺えるモニターがあるし、化粧するための大きな鏡があるのもうなずける。
彼らの話だと定期的に高齢者施設で慰問を行っているが、入所者から日本の童謡を歌って欲しいというリクエストがあるので教えて欲しい。そして歌詞の内容も教えて欲しいという事だった。
「みかけによらない」って英語で何って言うの?
最初に「ふるさと」を練習することにした。必要な楽譜は、USBからフルーツに人数分印刷して貰った。
鍵:「Okay, first we sing. Are you ready to sing? ユリ、チエ、準備は出来ていますか?」
ユ:「Yes. I am.」はい、いいよ。
チ:「Yes, I was born ready.」はい、準備できてますわよ。
鍵:「ふるさとは、3拍子なのでワン、ツウ、スリーで行きます。はい、ワン、ツウ、スリー」
♪うさぎ おいし かのやま こぶなつりし かのかわ ゆーめは いーまも めぐりて わすれがたき ふるさと♪
三人で気持ちよく歌ったが、チエとユリは驚くほど歌がうまい。特にユリは声がきれいだ。
鍵:「二人とも歌がうまくて声がきれいだね。」
フ:「ホントレスネ。Your song is good. And your voice is beautiful. 歌がうまいし声がきれい。」
鍵:「ユリは見かけによらないなぁ。どうして?」
ユ:「地元のカラオケの会に入っているのよ。」
フ:「I’m in a karaoke group. What do you mean ミカケテヨラナイヨ?どういう意味れすか?」
鍵:「I’m sorry, I can’t explain in English.ごめんなさい。英語で説明できません。」
ユ:「チョット待って、調べてみるわ。えーと、フルーツこれ見てください。」
フ:「Does not match (one’s, its) appearance. 見かけによらない。I understand. 」
鍵:「チエはどうして?」
チ:「私は地元のコーラスグループに入っていますのよ。えーと。I’m in a chorus group at my hometown. 」
鍵:「そうなの。二人とも隅すみに置けおけないなぁ。」
フ:「ユリはカラオケグループでチエは、コーラスグループなのれすね。素晴らしい。」
大:「That makes sense.」なるほどそうでしょうね。
ビ:「だわよねェ。」
コ:「I want you to sing at the nursing home. 」
フ:「彼女は、あなた達に老人ホームで歌って貰いてえと言っております。」
ユ:「Thank you. 」
チ:「I definitely want to go.是非、ご一緒したいですわ。」
フ:「それはいいれすね。」
鍵:「Let’s practice.それでは練習しましょう。」
ふるさとをなんどか練習して休憩。フルーツがケーキと紅茶をごちそうしてくれた。
フルーツから、隅に置けないについて質問されたので、調べてみたら一例として「You are smart fellow.」が掲載されていた。なんのこっちゃ??
おねえのフィリピン人は鬼滅の刃が好き!
鍵:「What is your favorite manga?」好きな漫画はなんなの?とビーナスに聞いてみた。
T:「I like きめつのやいばだわねぇ。♡」
鍵:「きめつWhat? Sorry, I don’t know.きめつって?ごめん、知らないけど。」
チ:「私の娘夫婦も鬼滅刃が好きですわよ。二人ともカマドタンジロウがお気に入りですのよ。」
T:「きゃぁカマドタンジロウすっき♡ 漢字も書けますわよ。」
といって、本当に漢字で竈門炭次郎と書いてくれた。
鍵:「わぁ、こんな難しい漢字、俺には書けない!えーと、英語だとWow, I can’t write such a difficult kanji.」
ビ:「あら、オタクなら書けるわよ。」
フ:「Otaku can write. 」
鍵:「No way. Aer Otaku in English? ありえない。オタクって英語なの?」
ユ:「シゲ。Yeah, that’s it.そうだわよ。」
チ:「今年の4月からTVアニメになるって娘がいっていましたわよ。」
フ:「Really? That will be a TV anime.」本当に?テレビアニメになるんですって。
ビ:「Oh my goodness. Since when?」あらまあ、なんてことかしら。いつからなの?
チ:「I’ve heard from April.4月からって聞いていますわ。」
ビ:「I have to go to Japan.」日本に行かなきゃ。
鍵:「Have you been come to Japan?」日本に来たことはありますか?
ビ:「No, I haven’t.いいえ、ないわよ。」
鍵:「How do you study Japanese?どうやって日本語を勉強しているの?」
ビ:「チャンバラ映画を見るわよ。私お侍が好きなの。ぴょん。」
鍵:「侍が使っている言葉は、今、日本人は使っていないよ。」
フ:「We are not using the words that the samurai used right now. 」
ビ:「そんなこと言ったら、月に代わっておしおきよ。」
ユ:「へえ~。セーラームーン見たことあるんだ。」
ビ:「ちがいます。亀かめ有あり公園前派出所れす。」
鍵:「ゲッツ、あの変態デカ?僕は外国人が日本語を勉強するのに、あんな漫画を見ると日本を誤解しちゃうのではないかと心配なんだ。」
フ:「私も、日本語を勉強する為にアニメをみましたよ。I’m a fan of Ryotsu Kankichi.両津勘吉の大ファンです。」
ユ:「フルーツ、本当なの?」
フ:「あぁ~、はい!」
チ:「Please come to Japan. ビーナス。日本に来てくださいね。友達が沢山できましてよ。」
ビ:「ありがとう♡」
フ:「What’s 出来ましてよ。は、過去形れすか?」
チ:「いいえ。英語だとYou Know. I think you can many lot of friends in Japan.えーと。あなたは、日本で沢山のお友達が出来ると思うわ。」
フ:「ありがとう。」
童謡「ふるさと」の歌詞を英語で解説
では、最初に「ふるさと」で次は「赤とんぼ」を練習しましょう。
大:「Please tell me the meaning of the lyrics if possible.」出来れば歌詞の意味を教えてください。
フ:「Okey, let’s do the lyrics of Furusato first. それでは、ふるさとの歌詞を最初にやりましょう。」
大:「That’s good.」それはいい。
コ:「Sounds interesting.」楽しいそう。
フ:「Rabbits are delicious. That mountain. ウサギが美味しいあの山。」
鍵:「That’s not right.それは正しくないです。」
チ:「えーと、ユリちょっといい。She is a rabbit. And I am a kid.」と言って、ユリが逃げてチエが追いかけた。
大:「Nice! I understand. I chased the rabbit, right?」いいね!分かったわ。ウサギを追いかけたであっている?
チ:「Exactly.そのとおり。」
フ:「小鮒こぶな釣りしかの川 That river where I caught some small crucian carp.」
ユリとチエは、魚釣りのジェスチャーをしている。とても上手だ、流石にNHKのジェスチャーゲームを見ていた世代だ。
大:「I see.」そうですね。
フ:「夢は今もめぐりて。I still remember the scene. 」
ユリとチエは、寝転がって腕を枕のようにして夢見ているようなジャスチャーをしている。
大:「Chie and Yuri, Good job.」チエとユリ、上手。
フ:「忘れがたき ふるさと。I can’t forget my hometown.ふるさとを忘れることが出来ない。」
ユリとチエは忘れることが出来ないという部分は、耳の横で手のひらを外に向けてから、人差し指と親指でほっぺたをつねっている。
鍵:「二人とも素晴らしい。NHKのジェスチャー番組のターキーのようです。」
ユ:「ターキーとは古いね。」
チ:「水の江瀧子ですわね。見ていましたわ。しかし、これは、手話ですわ。」
大:「I understand sign language. I learned it in a college class. 」
フ:「手話は分かります。私はそれを大学の授業で学びやしたのよ。」
鍵:「That makes sense.そういう事だったのか。」
ユ:「そうだわね。医者だと手話を勉強するわよね。」
みな、ふるさとについては、理解してくれたようなので、続けて赤とんぼを練習。
彼らのウクレレでの赤とんぼの弾き語りは、それとなく日本語に聞こえる。
鍵:「Everyone is good at Japanese pronunciation.みな、日本語の発音うまいね。」
大:「Thank you. We want to know the meaning of Japanese Lyrics. 」
フ:「She said歌詞の意味が知りたい。」
チ:「Let’s get started」始めましょう。
フ:「夕焼け小焼けの赤とんぼ A red dragonfly in a small sunset.」
大:「You bet.」そうだよね。
フ:「追われていたのは I was being chased.」
例によって、チエとユリはジェスチャーを披露している。ユリが逃げて、チエが追いかけている。
鍵:「Nope.違うよ。」
チ:「どうして?I don’t think it’s a problem.私は問題ないと思いますわ。」
鍵:「Many Japanese are wrong. It’s really like this.」と言って、ユリにチエをおんぶして貰った。
フ:「多くの日本人が間違っている。本当はこうだ。」
鍵:「子供のころおんぶして貰って見た赤とんぼなんだ。」
ユ:「そうだったの?私誤解していた。恥ずかしいわ。」
鍵:「恥ずかしがることなんかないよ。思い違いなんって誰でもあるさ。僕は、コーディネイトを東北弁と思っていた時期がるんだ。洋服の組み合わせは “こおでぃねーと”いけない。ってね。」
チ:「それウケますわね。私も以前から赤とんぼに追いかけられるって変だと思っていたのですわ。おかげでスッキリしましたわ。」
フィリピン人に分かるようにおんぶされたまま、見るという手話をチエがしている。
ビ:「そうなのか。ガッテン!ガッテン!ガッテン!ですわ。」と言いながら、右手でテーブルを叩いた。
フ:「What’sガッテン?」
ビ:「Got it.わかったわ。」
フ:「Good point!なるほど、確かに。」
コ:「It’s a wonderful memory.素晴らしい思い出ですね。」
ユ:「I think so too.」私もそう思うわ。
赤とんぼの歌詞を家族と過ごした懐かしい思い出なんだということを皆で共有できた。
フルーツの旦那さんは会ってからのお楽しみ!
それで、老人ホームで赤とんぼやふるさとを弾き語りすると、何人かがふるさとの事や子供のころの風景を頭に描くことで涙ぐむのだということが理解できたとフィリピン人の彼らは言って感謝してくれた。
大:「I hope you guys will join us at the upcoming Sunday event. Join us? 」
フ:「今度の日曜日のイベントにあなた達も参加してくれたら嬉しいのだけど。参加しない?」
鍵:「I will be happy to join you. 喜んで参加します。」
来週の日曜日の施設への慰問には、我々も同行することになった。
鍵:「Today was fun. Thank you. Take care.」今日はありがとう楽しかった。元気でね。
と言いながら、フルーツの家を後にした。
来週慰問に行く施設は、フルーツのご主人が経営しているとのことだった。フルーツからご主人にシゲの事を話したら会いたいと言っていたと話してくれた。
フルーツの旦那さんはどんな人なのか凄く興味がある。ユリとチエは、会ったことがあるという事だった。
歩きながらフルーツの旦那さんはどんな人って聞いたが、二人ともふふふふと笑って、会ってからのお楽しみって言うだけで教えてくれなかった。ふと、会ってからのお楽しみって英語でなんて言うんだろうと考えて、「隅に置けない」「照れるなぁ」などを英語で説明することの難しさを認識した。
我々は、夕食の時間なのでそのまま食堂に移動して会話をつづけた。
ユ:「ウクレレの練習会楽しかったよ。シゲ、ありがとう。日本語で話してそれを自分で英語にして話すって、同時通訳ってあんな感じかしら、面白かった。」
チ:「フルーツがいてくれて助かったけど、3人で協力すれば彼女なしでも会話が成立しますわねきっと。そして、こんなに楽しいのならもっと英語を勉強したい。あと、2か月も楽しくなりそうですわ。」
鍵:「そうだね。最初にあった時にチエはスクールにいるのが苦痛そうだったけど今はイキイキしているから若返った感じだよ。それで、今日の料理教室はどうだった?」
ユ:「今日は、フルーツからフィリピンの家庭料理を教わったんだ。」
チ:「料理教室の英会話学習もユリに誘ってもらってありがたかったわ。今日はアドボというにんにくを沢山使った料理を教えて貰って作ったのですけど、食べてみたらとってもおいしかったわ。日本に帰ったら、娘婿に沢山フィリピン料理を作ってあげたいですわ。」
鍵:「良いお土産になるね。それでか、にんにく臭かったのは。」
ユ:「そうそう。ウクレレの練習会に参加した彼らも食べたから。なおさらだわよ。」
英語の料理教室は楽しい
チ:「このノートにレシピを沢山書きたいわ。そして、帰国したら料理学校に通っておいしい料理を娘夫婦に食べさせたいと思っているのですわ。
私は娘を育てるのが必至で趣味もなかったし勿論料理も習ったことがないのでこれから料理を趣味にしたいわ。」
ユ:「それって、いいじゃない。英会話の勉強に来て料理の楽しさに気づくって面白いね。」
このレシピに沿って英語で作り方を説明してくれるのよ。主婦にとっては興味のある事だから。こういう英語の勉強なら確かに楽しいよ。」
チ:「例えば、Cut a lot of onions. Crush the garlic with a kitchen knife. 」
鍵:「玉ねぎを多めにカットします。にんにくは包丁で潰します。という、意味でいいの?」
ユ:「そうそう。そして、The meat and onions in an oiled frying pan.」
鍵:「お肉と玉ねぎを、油を敷いたフライパンに入れます。で、合っている?」
チ:「Exactly. Lightly brown. その通り。軽く焼き色を付けます。って、フルーツが言ってくれるので理解できるのですわ。」
ユ:「Then, put water, soy sauce, vinegar, bay leaf, black pepper and garlic in a flying pan. Then simmer for about 20 minutes. 」
チ:「そうしたら、お水、お酢、お醤油、ローリエ、黒コショウ、ニンニクをフライパンに入れる。それから、20分ほど煮る。」
鍵:「凄いなぁ。そんなにきっちり書き留めているんだ?」
ユ:「まさかさぁ。レシピと作り方を英語と日本語で書いてあるプリントをくれるのよ。」
鍵:「そうなんだ。それで、フルーツは料理が上手なのかい。」
ユ:「フルーツは自分ではやらずに、説明だけをしていたわ。普段から料理はしないんじゃないかしら。セレブだから。」
チ:「そうそう。料理専属のメイドがいるそうよ。」
鍵:「メイドがいるって凄いなぁ。」
ユ:「そうでもないらしいわよ。フルーツの話だと普通の家庭でもメイドを雇っているって言っていたわよ。」
チ:「えーと。週に一度、掃除や洗濯や買い物とか料理を作ってもらっても一回500ペソ位ですって。それに、住み込みでも月に3,000~5,000ペソって話していましたわ。
だた、英語を話せるメイドは、月に8,000~10,000ペソになるらしいですわよ。」
鍵:「それでも随分人件費としては安いんだなぁ。それにしも何でもオープンに話してくれるんだなぁ。」
ユ:「そうよ。フィリピンの人達はなんでもオープンよ。先生たちの口に戸を立てられないから。先生に内緒話したらすぐに広がっちゃうからお互いに気を付けなくっちゃね。」
鍵:「二人は明日、先生方と一緒に出掛けるんだったね。楽しんできてくださいね。」
チ:「シゲは、一人でジープニーに乗ってクバオまで行くって聞いていますわ。気を付けて、楽しんできてくださいね。」
という会話を交わして、部屋に戻った。二人も明日の朝は食堂で食事してから外出するという事だった。
部屋に戻って明日の支度をしている。リュックにウクレレと楽譜を入れてお金は3つの財布に入れて、ウクレレカフェの地図とジープニーに乗るためのバス停の地図を確認。
言葉が通じない場合に困るので、ポケットに入るノートを用意した。そのノートには、道を尋ねるフレーズが日本語と英語とそして、タガログ語で書いてある。
タガログ語は、マーガリンが英語のフレーズに合う文章を書き足してくれたものだった。
彼女はレッスンの時は鬼のようだと感じる瞬間もあるが、このような優しい面も持ち合わせている。
いざ、クバオに日帰り一人旅
今朝も天気をスマホで確認。
鍵:「Could you tell me, What the weather today?」良かったら教えてくれる。今日の天気は?
S:「Today's Manila is sunny and then rainy with a maximum temperature of 30 degrees and a minimum temperature of 23 degrees. 」今日のマニラは、晴れのち雨、最高気温30度で最低気温23度です。
鍵:「Will it start raining?」いつ雨が降り始めますか?
S:「It has been raining since the evening.」夕方から雨が降ります。
鍵:「What the current temperature?」今の気温は何度ですか?
S:「In Manila, the current temperature is 25 degrees. 」マニラの今の気温は25度です。
スマホは何度同じことを聞いても嫌な顔を一切せずに答えてくれるのでありがたい。
しかし、Aiが進歩して「何度も同じこと聞かないでよ!」っていう時代がもうすぐそこまで来ているような気がする。
ラジオ体操とウクレレの練習後に、英会話ジムで分が続く言い回し動画をみてから、フレーズの一部を置き換えるレッスンをした。
そんな朝のルーティンを終えて、久しぶりに時間もあるので暇つぶしに桶まんを呼び出すことにした。
いでよ、桶まんごろう。
桶:「Good morning. A perfect day for going out.」おはようございやす。今日は出かけるのにもってこいの日でござんすね。
鍵:「Morning. But smartphone said It’s going to rain later in the afternoon.」おはよう。しかしスマホは午後遅くから雨が降るって言っておった。
桶:「I’m afraid so.」あいにく、そのようでござりますな。
鍵:「Why are you speaking in English?」どうして英語を話しているのですかな。
桶:「ご隠居は夕方部屋に戻るまで英語しか話せないのでござるから、英会話の準備体操でござる。」
鍵:「そうですな。かたじけない。」
桶:「ご隠居。万が一の為に、あっしをお供に連れて行ってくだせいやし。」
鍵:「何を言っているのですかな。いつも一緒ではありませんか。」
桶:「へい、そうでやすが、一度まんごろうに戻ってしまいやすと、パワースポットで呼び出して貰わないとご隠居とはつながることが出来やせん。」
鍵:「なるほど、そういう事なら分かりましたよ。」
桶:「フルーツの家は、パワースポットでやした。呼び出して欲しかったでござる。」
鍵:「どうしてですかな?」
桶:「ビーナスと話したかったでござる。彼とは気が合いそうでござる。」
鍵:「そうですな。次の機会は呼び出すことにしましょう。でも、わしはビーナスとおでこをつけるのは御免こうむりますじゃ。」
桶:「そうでござりますか。残念でござる。ところで、今日はパワースポットのところしか繋がりやせんので、プップッ通信がとぎれたりしやすが気にしないでおくんなせいやし。」
鍵:「わかりましたよ。頼りにしておりますぞ。」
そんな会話を交わしながら、朝食へ。それにしても桶まんが渡世人の格好をして部屋の中を浮遊しているとしても違和感を覚えなくなってしまった。
それどころかシチュエーションに合わせて違うスタイルで登場してくれることが桶まんには言えないが楽しみだ。
食堂で玉ねぎさんから夕方の待ち合わせ場所と時間のメモを手渡された。
鍵:「I’m looking forward to going to the restaurant tonight.」今夜、レストランに食事に行くのを楽しみにしています。
玉:「Me too. See you later. And I like your style. 」私もですわ。またあとでね。あなたの装いとっても好きですよ。と、新しく買った膝のところに穴の開いているダメージジーンズとTシャツを褒めてくれた。
見た目から想像すると、破れたジーパンを縫ってくれちゃうようなおばちゃんだと思ていたが実際には違うらしい。
玉ねぎさんの隣のご夫婦が頭を下げたので、こちらも軽く会釈をした。
ユリとチエとは、たわいない話を筆談でして、お互いに今日一日楽しみましょうと言って食堂を後にした。
さて、これからジプニーの乗り場に向かう。商店街を通り抜けてガードマンのいるゲートを抜けて大通りに出た。片側通行車線は5車線で、まるで高速道路のようだ。
そこに架かっている歩道橋を渡り右に行くとバス乗り場があり、そこからクバオ行きのジプニーに乗る。
右のポッケには20ペソだけが入れてあり、左のポケットには10ペソとノートが入れてある。そして、両足の靴下の中には20ペソずつ入れてある。それ以外のお金はリュックに2つに分けて入れてあり、リュックは胸の前に抱えている。
ジプニーに乗れない
思っていたよりも人が多いし、ジプニーは何台も近寄ってきて運転手が段ボールの看板を見せながら客を探していた。そして、時折大きなバスや一回り小さなバスが止まると、ドアが開閉して客が乗り降りしている。
ジプニーには運転席にも助手席にもそして一番後ろの部分のドアもない。乗降客は後部から乗り降りしている。この状況だとまったく乗ることが出来ないと感じて、面倒見がよさそうなおばさんを探して、声をかけた。
鍵:「Excuse me, How can I get to Cubao?」すみません。どうやたらクバオに行けますか?
お:「Wait a minute. I’ll ask the driver. 」チョット待ってね。私が運転手に聞いてやるから。といって、どんどんやってくるジプニーを見ながら、一台のジプニーの運転手に尋ねてくれて、乗る様に促してくれた。
そして、すでに乗っているおばあさんに何やら話してくれた。多分、この人はクバオに行きたいそうだからフォローしてくださいね。と、言ってくれたと理解した。
「Thank you for your kindness, ma’am. 」とマーガリンと練習したフレーズを使って、おばさんに親切にありがとうと感謝を伝えながら、バイバイと言いながら手をふった。
私が乗ったジプニーの乗車率は80%といったところ。最後部の私は確りつかまっていないと振り落とされる危険性があると感じていた。
マーガリンから教わったように、ポケットから20ペソを取り出して、フォローを引き受けてくれたおばあさんに手渡しクバオと伝えた。
おばあさんは隣の人に声を掛けて20ペソを手渡すと、私の20ペソが運転手に向かってボール送りのようにリレーされていった。その後ボール送りのようにお釣りが戻って来て、おばあさんが私に手渡してくれた。
一瞬「Keep the change.」お釣りは取っておいてください。と言いかけたが、その言葉を飲み込んだ。そんなことは失礼なことなのかもしれないと考えたからだった。
I don't speak English.と言われてビックリ!
鍵:「Thank you. How long does it take from here?」ありがとう、ここからどれぐらいかかりますか?
お:「Sorry, I don’t speak English.」すみません。私は英語を話しません。
そうすると隣の男性が、「It takes about 30 minutes from here.」大体ここから30分ぐらいです。と、教えてくれた。彼にはお礼を言ったが、「I don’t speak English.」って言われたのは人生で初めてでどのようにリアクションをすればよいか困った。
来日した外国人の気持ちが少しだけ分かった気がした。しかし、この場合どのようなリアクションをすればよいのかマーガリンに聞いてみなくちゃ、ポケットからノート取り出してメモした。
何度かバス停で停まり、乗客が入れ替わったがフォローを請け負ってくれているおばあさんは椅子に座ったままだった。
乗客がジプニーの天井を叩くたびにどこでも停まり、そして走っている途中に手を挙げている客を見つけると停まって新たな客が乗り込んできた。
私はクバオが終点と聞いていたので少しだけ運転手方向に移動した。その為ボール送りの列に加えてもらえるかと期待したが、残念ながら私のところを避けてリレーされていった。
少し運転手が見えるところまで来たら彼の左手には指ごとに札が挟まれていた。そして、運転しながら右手で乗客の運賃を受け取り、渡してくれた客にお釣りを手渡す。そうしながら目は道路の新規客を探している。凄い技術だ。運転は荒いが誰もドアがないのに振り落とされないということに驚いた。
そんなことに感心していると例のおばあちゃんが両手の人差し指を下に向けてクバオと教えてくれた。
ついに、クバオに着いた。
おばさんに手を引いて貰って道を渡る
ジャムからも言われていたので私は乗客が降りてゆくのを確認してから最後の方に降車した。それは、終点付近は危険なのでなるべく後をつけられないようにする為の方法だった。
私は速足で通りを抜けて大きな交差点のところまで来たところで、胸の前に抱えていたリュックを一度降ろしてから背負いなおした。
この交差点はどちら側の道路も通行量が多く、日本で例えると銀座にある鳩居堂の前の銀座通りと晴海通りの交差点のようだ。
そこで何人かが立ち止まって左右を見ていたが、やおら全員が歩き出した。信号が青になったのかと見渡してみるが驚いたことに信号がない。
走ってくる車を目と手で制止しながら車と車の間をすり抜けて渡っていく、車はスピードを緩めるでもなくぶつからないように走り去ってゆく。私は、足がすくんで動くことが出来なかった。遠回りしても良いからと左右を見渡してみたが歩道橋見えていて、渡りたいのに渡れないのでもじもじしていると、一人のおばさんが私の手を強引に引いて渡らせてくれた。
おばさんは、車にクラクションを鳴らされてもひるむこともなく、私の手を引きながらジグザグに車の間をすり抜けていき反対側の道路にたどり着いた。
この年になって自分より年上の人に手を引いて貰って道を渡るとは思わなかった。
マニラのスタバで注文
まずは、コロシアムの下のスターバックスで休憩することにした。Starbucksでの英語での注文のレッスンは、ジャムから受けたからここに来たらトライしようと思っていたからだった。
まず店内に入って若い客が座っているテーブルの近くを選んで席をとり、ジャムと練習したメモを確認することにした。
あえて若い客が座っている席の近くを選んで座るのは、ジャムから隣で話している内容を聞くのも英会話の勉強になると教えて貰ったからだった。
ジャムからは若い女性客とは言われていなかったが、私は積極的に若い女性客たちの席の隣を選んで腰を降ろした。
隣のテーブルにはTVドラマのチャーリーズ・エンジェルのファラフォーセットメジャーズのような金髪の女性が座って仲間たちと談笑していた。
もうそれだけで得した気分だった。
メモによると、Sales clerk(店員)はご注文はいかがされますか?という意味で3種類のフレーズを使うと教えて貰っていた。「Hi! What can I get for you? 」「Hello! What would you like today?」「What can we make for you?」と確認していざ注文。
S:「Hi! What can I get for you?」ご注文はいかがされますか?
鍵:「I’ll have a latte.」ラテをください。
S:「Which size?」サイズはいかがなさいますか?
鍵:「Tall please.」トールサイズをお願いします。
※サイズは、S,M,Lではなく。Short/Tall/Grande/Ventiというのも学習済みだった。
S:「Hot or ice?」ホットとアイスはどうしますか?
鍵:「Hot please.」ホットをお願いします。
S:「May I have your name?」お名前をお聞きしてもいいですか?
鍵:「My name is 鍵」私の名前は鍵です。
S:「How do you spell your name?」名前の綴りは何ですか?
鍵:「K・A・G・I」
店員は、カップに名前を書きながら。
S:「For here or to go?」店内で飲まれますか?それともお持ち帰りですか?
鍵:「For here please.」店内で飲みます。
S:「Anything else?」他に注文はありますか?
鍵:「That’s all, Thanks.」これだけでいいです。
S:「It’s 15 pesos. 」15ペソです。
鍵:「Here it is. 」はい。と、15ペソを手渡した。
S:「Thank you. Next, please.」ありがとう、次の方どうぞ。
桶:「ご隠居。隣の金髪の子は好みでござるか?」
鍵:「そうか。ここはパワースポットなのですな。」
桶:「彼はエゲレス人でござんすよ。きっと。」
鍵:「イギリス人でしょうな。しかし、彼じゃなくって彼女ですな。」
桶:「そうでないでござんす。耳を澄ませて声を聞いておくんなせい。」
助さんに言われたように彼女の声を聴いてみると確かに低音だ、それにのどチン子が動いているのが見えた。
鍵:「確かにそのようですな。」
桶:「日本もフィリピンも同じでござんす。」
英語のおねえ言葉ってどういうものか気になったが、彼らは多分タガログ語で話しているようだったので、何を言っているまったく分からなかった。
鍵:「彼らはなんの話をして盛り上がっているのですかな。」
桶:「ご隠居は知らないほうがいいでござんす。」
鍵:「知りたいですな。」
桶:「そうでござるか。怒ったらだめでござるよ。彼らは、隣のエロ爺じじいがこっちをいやらしい目で見ているわよ。いやーね。良い年をして気持ち悪いわね。ぶつぶつ独り言をつぶやいているからボケてるんでしょうね。目を合わせてはだめよ。かかわらないほうがいいから。でござんす。」
鍵:「なんですと。気分が悪いですね。早くここを出ましょう。」
実は、これから行きたい場所を彼女たちに聞こうと思っていたが聞かないで良かった。
しかし、道を尋ねたらどのようなリアクションをしたのかが気になるところではある。
水戸黄門としてはこういう時の為にタガログ語を少しでもしゃべれるようになりたいと思ってしまう。
彼らは、隣のおやじにはタガログ語が分からないからと、私を魚にしてさんざん悪口を言っている。
鍵:「助さん、格さん、懲らしめてやりなさい!」
桶:「へい、ご隠居、格さんはいませんが、きゃつらをどうやって懲らしめやすか?」
鍵:「そうですね。翻訳ソフトに日本語で『君たち楽しい一日を過ごしてくださいね。でも夜遊びはいけませんよ。』って吹き込んで、タガログ語に翻訳して彼女たちに聞かせるようにしましょう。
桶:「御意!」
それは面白かった、私はロパクだったが彼女たちは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になってこちらを見て、複雑な顔をして頭を下げていた。
彼女らはさぞ極まりが悪かったのだろう。
日本でも同じような光景を目にしたことがあった。ラーメン屋で食事をしている時に、白人男性がラーメンを食べていた時。
客の一人がこれ見よがしにあの外人は箸が使えるんだって言ったら、彼が「ハイ。私は竹の集成材を使用したマイ箸を使っていますよ。」と、ひとこと言ったので店内は和やかな雰囲気に包まれた。
あの外人はと言った客はきまり悪そうにしていて、周りからも嘲笑されて、顔を真っ赤にしていた。
私も日本人として白人の彼に対してとても申し訳ない気持ちになったのを覚えている。その時に私は人を見た目で判断しないということを心に刻んだ。
ウクレレカフェを探す
スタバを出て、目的地であるウクレレカフェを目指して歩き始めた。ノートの手書きの地図を見ながら目印のデパートの伊勢丹を探してみるが、看板は見えない。
そこで歩いている人に聞いてみることにしたが、「Excuse me.」と声を掛けても「Sorry, I’m busy right now.」すみません、今忙しいです。や「I’m in a hurry.」急いでいますと言いながら通り過ぎてゆく。
歩いている人に訊くのは難しいと考えて、マーガリンから貰った地図を広げながら困っている様子で立ち止まっていた。
そうしたら親切な人が「May I help you?」や「Do you need any help?」と近寄ってきてくれて声を掛けてくれると信じていたからだったが、なかなか声を掛けてくれなかった。
もしかすると中国人か日本人にしか見えない人間に声を掛けて、万が一英語が通じなかったら面倒くさいと思われている可能性が高いのかもしれない。
そんな時おばちゃんが寄ってきてくれて地図を指さして何か言っているが聞き取れない。多分、ここに連れて行ってあげると言ってくれていると思ってYesと言って首を縦に振ったら。
さっき渡った道の向こう側を指さしてくれただけで、連れて行ってはくれないようだった。しかしこの道は一人では渡ることは出来ない。何故って、車が途切れることがないからだ。
そういう私の思いとは別に、一人の男性が渡って行った。後ろから見ているとまるでボールを持ったラグビー選手の様だ。
スピードを落とさない車をうまい具合に体をひねりながらかわしながらすり抜けて行く、スーツの上着は車の風圧を受けているがかすりもしないで渡り切ってしまった。
見ていて格好良かった。思わずナイストライ!と叫んでサムアップしてしまったが、彼は何事もなかったように急ぎ足で振り返ることもなく行ってしまった。彼にとっては、日常なのだろう。
私も同じことをやらなければならいと思うだけで足がすくんでしまった。これは私には無理!仕方がないので、信号機や歩道橋などがある場所まで歩くことに決めた。そして、20分ほど歩いて巨大なショッピングセンターのところまで来てやっと、歩道橋を見つけて道路を渡ることが出来た。
そのまま、ショッピングセンター内を歩きながら屋台の前に並んでいる客に声を掛けた。
鍵:「Excuse me. Could you tell me how to get to the Isetan?」すみません。どうしたら伊勢丹に行けますか?
客:「Isetan? Go straight that way until the end.」伊勢丹?あの道をまっすぐ突き当たりまで行ってください。
「Turn right at the end. Then go straight for three blocks. 」突き当りを右に曲がって。そして、3ブロックまっすぐ行ってください。」
「It’s on your left.」それは、左側にあります。
鍵:「How long does it take from here?」ここからどれぐらいかかりますか?
客:「It’s about 20 minutes on foot. 」歩いて20分ぐらいです。
鍵:「Thank you.」ありがとう。
客:「You are welcome. Good luck!」どういたしまして。見つけられますように!
私は、教えて貰った通りにその場から、伊勢丹に向かって歩いて行った。
説明した貰った通りに歩いて行くと伊勢丹に着いた。
何人かが待ち合わせをしているので、その中から一番可愛いレデイに聞いてみることにした。
鍵:「Excuse me. I would like to go to the ukulele café.」すみません。ウクレレカフェに行きたいのですが?
Ⅼ:「Ukulele café? Sorry, I’m not quite sure.」ウクレレカフェ?すみません、よく知りません。
鍵:「Is that so.」そうですか。
Ⅼ:「Let me look at it.」地図で調べてみましょう。
鍵:「Your very kind.」ご親切に。
Ⅼ:「It’s next to the cat café.」猫カフェの隣です。
鍵:「Is it close to here?」ここから近いですか?
Ⅼ:「It’s right over there. It’s just behind this building.」すぐそこです。ちょうどこのビルの裏側です。
鍵:「Thank you.」ありがとう。
Ⅼ:「It’s easy to find. Have a nice day.」簡単に見つけられますよ。良い一日を。
鍵:「You too. This way?」あなたもね。こちらの方角ですか?
Ⅼ:「No, the other way.」いいえ、反対側です。
鍵:「Got it. Thank you.」分かりました。ありがとう。
と言って、その場を後にした。やっぱり、きれいな人は優しいな。
角を曲がって進んでゆくと「Cat café」の看板が目に飛び込んできた。その隣がウクレレカフェ、思ったよりスムーズに来ることが出来た。
しかし「Cat café」は営業しているが、隣はシャッターが閉まっている。
ネットであらかじめ調べていたので今日は定休日ではないはずなのだがどうしたのだろうと思ったら、シャッターに張り紙が張ってあった。
その張り紙には「Our shop has closed due to the circumstances of various groups. Thank you for your patronage.」と、瞬時には理解できないフレーズが書いてあった。
「Due to」は、良くない理由として使うということをマーガリンに教わったかすかな記憶があるが「groups」と「patronage」が分からない。その単語をスマホで調べたいが、ネットは繋がらない。
仕方ないので写真を撮って後で調べることにした。
代官との再会!
桶:「ご隠居。お困り・・・・すな。」
鍵:「姿は見えないけど。」
桶:「・・パワーが弱い・・・でご隠居とつなが・・・やす。」
鍵:「それで、途中で途切れるんですな。これはなんて書いてあるのですかな。」
桶:「読めやせん。」
鍵:「そうでしたか。残念!写真に撮って後で調べることにしますよ。」
桶:「隣・・・行やしょ。」
鍵:「助さんは猫が好きなのですかな。」
桶:「へい。親方も好き・・・やした。」
鍵:「ほう、北斎は猫好きでしたか。じゃあ、少しだけ『Cat café』に寄りましょう。」
と言って、店内に入った。
中に入ってみるとメニューも他のカフェと同じでコーヒーから軽食まであった。
そして、お店の中に猫と遊べるスペースが設けてあり、50ペソを払うと部屋に入ることが出来る仕組みだった。
お金を払ってから中に入ったら既に何人かが猫と遊んでいた。ソファに寝転んで猫に顔に乗られて嬉しそうにしている男性やテーブルで遊んでいる女性や子供たち。
猫は20匹ほどいて、太陽の光が差し込んでくるので、ほとんどの猫が気持ちよさそうに寝ていた。
この中だと桶まんの姿がハッキリ見えるから、ここはパワースポットなのだろう。
今日の桶まんの姿は晩年の北斎だった。そして座って猫の絵を描きながらじゃれあっている。もしかしたら猫には桶まんの姿が見えているのかもしれない。
ソファに寝転んでスマホで猫の写真を撮っていた男性が起き上がってこちらを見たので、思わず会釈をしたらなんとその男性は代官だった。
お互いに顔を見合わせてしばらく黙ったままだったが、猫が飛びかかってきたのをきっかけにして挨拶を交わした。
鍵:「代官ですか?」
代:「Oh, I was surprised. あ、失礼しました。シゲさんですよね。びっくりです。又、お会いするとは思ってもみませんでした。」
鍵:「私もですよ。ここには良く来るんですか?」
代:「はい。家から近いので何度かきています。あなたは、確かスタディアブロードでケソンにステイしているんでしたよね?」
鍵:「そうです。今日はレッスンが休みなので、隣のウクレレカフェに来たんですが、生憎やってなくって。」
代:「そうでしたか。ところで、ここまでどのように来たのですか?タクシーですか?」
鍵:「いいえ、ジプニーで来ました。」
代:「えっ、一人でジプニーに乗ってですか?随分無茶しますね。」
鍵:「フィリピンの先生にもタクシーを利用するよう勧められましたよ。」
代:「当然ですな。それで、危ない目には遭いませんでしたか?」
鍵:「おかげ様で大丈夫でした。そうだ。空港では両替の場所に寄らずに勝手に先に行ってしまい申し訳ありませんでした。折角,先に両替をした方が良いと教えて貰っていたのに、空港に着いたとたんすっかりそのことを忘れてしまいまして。」
代:「いいえ、問題ないです。ところで、英会話の勉強はどうですか?」
鍵:「マンツウマンの授業で、先生を独り占めできてとても満足です。」
代:「それは良かった。これからどちらへ。」
鍵:「ウクレレカフェが休みで予定がなくなってしまったので、フィリピンの電車に乗ってみようかと。」
代:「そうですか。それならMRTがお勧めですよ。」
鍵:「MRT?」
代:「はい。『Metro Rail Transit.』の略でMRTです。マカティやオルティガスなどの主要ビジネス街を繋いでいるのです。私も通勤に使っていますが、他の電車よりも犯罪率が低いと言われていますから。」
鍵:「そうですか。それじゃあMRTに乗ってみます。」
代:「ランチはどうするのですか?」
鍵:「ファストフードで済ますつもりです。」
代:「折角、再会したんだからレストランのランチをご馳走しますよ。」
鍵:「いいえ、ランチを頼むのも英会話の練習として一人でトライしたいので。」
代:「分かりました。マニラにいる間にまた会いましょう。LINEやっていると言ってましが友達になりませんか?」
鍵:「良いですね。では、フルフルしましょう。」と言って、フルフルで友達になった。
代:「シゲさんは、ファミリーネームは鍵さんなんですね。」
鍵:「はい。代官は朝倉というのですか?」
代:「はい、そうです。」
鍵:「さすがに、代官という名前ではないと思っていましたが。」
代:「いや~。代官山に住んでいることもあって、仲間から代官と呼ばれているのです。」
鍵:「代官山って渋谷区の?」
代:「そうです。又、お会いしましょう。」
鍵:「そうですね。こちらのウクレレカフェに又来る予定ですから。その時にでも。」
といって、外に出てシャッターに貼ってある文章を見て代官が言った。
代:「休みではなく閉店したようですよ。この張り紙には、当店は、諸般の事情により閉店いたしました。今までのご愛顧ありがとうございました。と書いてありますよ。」
鍵:「そうでしたか。このカフェでウクレレの弾き語りをしたかったのに残念です。」
代:「僕もシゲさんのウクレレ聞きたかったなぁ。」
鍵:「あ、今度老人ホームに慰問に行って仲間とウクレレを演奏します。良かったら見に来てください。詳細はLineしますね。」と言って別れたが、代官が本当に翌週の日曜日に老人ホームまで来るとは思わなかった。
それに彼は連絡先を交換したことを後悔させられるほどのLine依存症おやじだった。
代官と別れた後は彼が書いてくれた案内図に沿って歩き、途中のマックでランチを食べてから駅に向かった。彼が書いてくれた地図には私への心遣いが感じられた。流石に役員になるような人は違うものだと感心した。
それは、とても遠回りになっているが信号のある交差点のところを通るルートを案内してくれているからだった。
駅まではビジネス街をのんびり歩いて15分ほどで着いた。その間に信号は一か所で歩道橋が一か所あったので命がけで大通りを渡らなくて済んだことはありがたかった。
マニラの地下鉄
駅ビルの一階にはデパートがありブランドに興味のない私でも知っている高級ブランドが並んでいた。
駅は、ビルの4階にあった。
チケットの買い方も代官からレクチャーを受けていたので、窓口に並んで行きたい駅を指さして、「ポ」って伝えた。
駅員が示してくれた15ペソを支払って、チケットを受け取りって改札の列に並んだ。
改札では、リュックの中身をチェックされたが問題なく通ることが出来た。
代官からはラッシュ時間帯は大変混雑して、電車に乗るだけで40分かかってしまうこともあるということを聞いていたがすぐに乗れそうなのでありがたかった。
チケットを改札に通して、上から出てきたのを受け取っていざホームへ。
代官から時刻表はないけど、通常15分から20分に一本来るから心配しないでと聞いていたので、列に並んで電車の到着を待った。
車内は空いていたが、座らずに吊革につかまって外の景色を見て楽しんでいた。チケットを買った駅までは3駅ほどしか停車しなかったが乗り心地も良くメトロのようで快適だった。
一度改札を出てから再度、チケットを買って元の駅に戻る途中にLineの着信音が鳴った。誰からだろうとみてみると、朝倉??あ、代官だ。
そこには、猫の写真が沢山。そして、Thank you!ニャン!という動きのあるGIF画像だった。
まさか、と二度見してしまった。
一流企業の役員でしかも強面の悪代官という彼のイメージとはかけ離れていたからである。
代官から帰りはショッピングモールからバスを利用した方が良いというアドバイスを受けたので、とりあえず来た道を戻ってモールに向かって歩き出した。
「Cat café」まで戻ったところで、Lineの着信音が鳴った。また代官だった。
来週の日曜日の仕事は部下に押し付けたので、参加するニャン。楽しみ!ニャンというメッセージとともに、可愛い猫の動画が添えられていた。
私も面白い動きのあるGIF画像を送りたかったが、やり方が分からなかったので、こちらこそという言葉だけ返信したが彼に一本取られた感じがして悔しかった。
40分ほど歩いてモールに辿り着いたが、流石にマニラ最大の規模というだけあってどこに何があるのかさっぱりわからない。
楽器屋さんを覗いてウクレレを見てみたい気もするが、まずは飲み物を買ってベンチで一息ついた。
幽体離脱??
桶:「ご隠居。お疲れでござるな。」
鍵:「はい、疲れましたよ。助さんからバス乗り場が見えませんかな。」
桶まんは、私の頭の少し上を旋回していた。
桶:「ご隠居。一緒に空から探しますでござるか。」
鍵:「何言っているか分からんですな。」
桶:「ご隠居の親魂とあっしで行くのでござる。」
鍵:「わしはどうするのじゃ。」
桶:「本体はここに置いていくのでござる。」
鍵:「理解できませんがな。」
桶:「ご隠居は、ガンダムを知ってやすか?」
鍵:「勿論、知っていますよ。」
桶:「それと同じでござる。本体は置いてゆくので、ベンチに座って考えているポーズをとってくだせい。目はあけて、そして、親魂が本体から抜けている時は、動けやせんからリュックは胸の前で抱えてくだせい。」
鍵:「こんな風で良いですかな?」
桶:「それじゃ、いきやす。ワンツウスリー。」
私は桶まんと一緒に飛んでいる。一番高いビルよりも上空に行くと電車の線路やドームも見えて楽しい。桶まんが高度を下げてくれて、モールの隅々まで見て回ってバスの乗り場を見つけることが出来たので、本体に戻ったが興奮は続いていた。
しかし、スクールに戻るためのルートは確認できたので一安心。
短い時間だったので、リュックも盗られずに済んだ。考えているポーズで目を少し開けていたのが抑止力になったようだ。
こんなに可愛い娘こなら送り強盗をされてもいい!
ここからバス乗り場は、ずいぶん遠いので寄り道せずにバス乗り場に向かった。途中で、可愛い若い女性に声を掛けられた。
こちらで買ったジーンズにTシャツでもしかしたらフィリピン人に見えるのかもしれない。
Ⅼ:「Excuse me, sir.」すみません。
鍵:「What can I do for you?」どうしましたか?
Ⅼ:「Do you speak Korean?」韓国語をしゃべりますか?
鍵:「No, I don’t.」いいえ、話しません。
Ⅼ:「I’m sorry. You looked like a Korean. Where are you from?」すみません。あなたが韓国人に見えたのです。ご出身はどちらですか
鍵:「Guess What?」当ててみて?
Ⅼ:「Are you Chinese?」中国人ですか?
鍵:「No, I’m not Chinese?」いいえ。
Ⅼ:「You are Japanese, right?」あなたは日本人です。そうでしょう?
鍵:「No, I’m French.」いいえ、私はフランス人です。
Ⅼ:「Seriously? You’re Kidding.」マジですか?冗談でしょ。
鍵:「Your right. I’m Japanese.」そうです。私は日本人です。
Ⅼ:「You bet. Do you live in Manila?」そうですよね。マニラに住んでいるんですか?
鍵:「No, I’m here to study English conversation.」いいえ、こちらには英会話の勉強に来ています。
Ⅼ:「How wonderful!」なんて素晴らしい!
鍵:「Why are you looking for Koreans?」どうして韓国人を探しているのですか?
Ⅼ:「Because I am studying Korean at university. I want to talk in Korean.」大学で韓国語を勉強しているからです。韓国語で話したいのです。
鍵:「That make sense. You are very aggressive.」そうだったのですね。あなたは凄く積極的ですね。
Ⅼ:「No, I don’t have the money to go to a Korean language school.」いいえ、韓国語のスクールに行くお金がないからです。
鍵:「I hope you can meet Koreans. Good luck!」韓国人と出会えるといいですね.幸運を!
と言って、その場から立ち去ろうとしたら。
Ⅼ:「Where are you going. 」どこまで帰るんですか?
鍵:「I will return to Ali mall.」アリモールまで帰ります。
Ⅼ:「How do you get there?」そこまでどうやって行くんですか?
鍵:「I’m thinking of going by bus.」バスで行こうと思っています。
Ⅼ:「I will send you by my car.」私の車でお送りしますよ。
鍵:「Thanks.」ありがたい。
桶:「ご隠居。なんか変ですぜ。大学生が自分の車を持っているなんて、ありえないでござる。こやつについていったら大変な目にあいますぞ。」
鍵:「助さん、口を慎みなさい。こんなかわい町娘が嘘つくわけないと思いますがな。」
桶:「ご隠居。顔で騙されてはダメでござる。」
その時、Lineの着信音が鳴った。また、代官だったが今度は電話だった。
代:「先ほどはどうも。今どこですか?」
鍵:「ショッピングモールです。」
代:「私の車で送りましょうか?」
鍵:「ありがとう。でもここで知り合った女子大生が車で送ってくれるとういうので大丈夫です。」
代:「そんなばかな。ありえない。チョットその彼女に代わってください。でもスマホから手を離さないでください。」
代官と彼女が何やら話しているが、タガログ語なのでまったくわからない。と、挨拶もせずに突然彼女が走って行ってしまった。
鍵:「もしもし、何があったのですか?」
代:「彼女は送り強盗の一味です。こちらがタガログ語で話して、今すぐそこに行くから待っていろと言ったんです。」
鍵:「えっ、あんなに可愛い子が送り強盗の一味。」
代:「はい。最近増えているんです。韓国語を勉強していると言って日本人に近寄ってくるんです。たいがいは、鼻の下を伸ばしているおやじたちが狙われるのですよ。車に乗せてから人気のないところに連れて行って、身ぐるみ剥いでそのあたりに捨てられるんです。」
鍵:「マニラだと暖かいので身ぐるみはがされても寒さで死なずに済みますね。」
代:「そんな問題ではないです。」と、代官は語気を強めて言った。
鍵:「そうでした。おかげで怖い目に合わずに済みました。ありがとう。これからバスでスクールに戻ります。」
バス乗り場までは、桶まんが忍者の恰好で飛びながら誘導してくれたので、迷わずに来ることが出来た。
バスでスクールに戻る
ここには、ジプニーやバスが沢山停車していた。そして、多くの人が列に並んでいた。
人のよさそうなおばさんを見つけて、訊いてみることにした。
鍵:「Excuse me, ma’am. Could you tell me which bus goes to Ali mall?」すみません。アリモールに行くのはどのバスか教えていただけますか?
客:「Let me see. Wait a minute.」そうねえ。チョット待ってと言って、大声で何か言ったが聞き取れなかったが、タガログ語で聞いてくれたようだった。
鍵:「Sorry.」すみません。
客:「Bus number 5 goes there. 」そこなら5番のバスが行きますよ。
鍵:「Thank you. It was helpful.」ありがとう。助かりました。
客:「Not at all. Have a nice day.」どういたしまして。良い一日を。
鍵:「You too.」あなたもね。
と言って、5番のバス乗り場に移動して男性に尋ねた。
鍵:「Are you at the end of the line?」列の最後はあなたですか?
男:「Yes, I am.」はい。
鍵:「Does this bus go to Ali mall?」このバスはアリモールに行きますか?
男:「Yes, it does.」はい。
鍵:「May I ask when the bus comes?」バスがいつ来るか教えていただけますか?
男:「They come about every five to ten minutes. 」だいたい5分から10分間隔で来ます。
鍵:「How long does it take from there?」ここからそこまで、どれぐらい掛かりますか?
男:「It takes about 30 minutes from here. 」ここから約30分ぐらいです。
鍵:「How much is the boarding fee?」料金はいくらぐらいですか?
男:「Maybe 20 pesos. 」多分20ペソです。
鍵:「Thank you. Nice talking to you.」ありがとうございます。あなたとお話しできて良かったです。
男:「Same here. It was very nice meeting you.」私もですよ。お会いできて光栄でした。
鍵:「You too.」こちらこそ。
お辞儀をしてバス乗り場で振り返ってみると、知らない間に私の後ろには随分長い列ができていたが私は前の方に並んでいたので椅子に座ることが出来た。
私を乗せたバスの車内は、満員というほどではなかったのに列に並んでいる人達を残して走り出した。
5番乗り場に目をやるともう次のバスがところてんのように押し出されて停車するところだった。
練習通りに出来たことの満足感に浸りながら、疲れたので椅子にもたれてうとうとしていると、Lineの呼び出し音が鳴った。
ハッとして見てみると、又、代官だった。
バスに乗っていますか?疲れていても絶対に寝ないようにニャン!ここは日本じゃニャイ!
リュックの中の物を盗まれても文句は言えないですよ。というメッセージだった。
そうだった、フィリピンの先生方からも言われていたことだ、と立ち上がり「助さん!シッカリサポートしてくれよ」とつぶやいたが、反応はなかった。
バスの中は、パワースポットではないらしい。
私を乗せたバスは停留所以外にもタクシーのように手を挙げる人がいるとその都度停車した。そして、乗客がパーラーポ!!というとどこにでも停車した。
乗降客があると、近くの乗客は必ずドアのカギをかけている。
これも犯罪に巻き込まれないためのルールだそうだ。言い換えればそれほど犯罪の多い国だという事だ。
代官のlineがなかったらこの平和ボケのおやじは寝こんでしまい、リュックを持っていかれていたかもしれない。
先ほどの送り強盗の件といい、これから先は心してかからねば。リュックの中の財布にはペソしか入れていないから惜しくはないけど、ウクレレとスマホは盗まれたら取り返しがつかないのでアリモールに到着するまで吊革につかまって外を見ていた。
車窓からは、ずっと茶色だらけの景色が続いていた。
マカオの蚤の市
たまに極彩色の建物が見えるがそれらはほとんどが教会であり、その周りには、蚤の市が立っていて、人であふれていた。
次の停車場所は、多分セントピーターズチャーチなのだろう。車掌がセントチャーチを連呼していてだれかが「パーラーポ」と言ったので、ほどなくしてバスは教会の前で停車した。
私は、蚤の市でにぎわっているのを見て予定を変更してここで降りることにして車掌さんにfrom クバオと告げて20ペソを手渡してバスを降りた。
それというのもこの教会には何度か来たことがあり、アリモールがこのすぐ近くだと知っていたし、玉ねぎさん達との待ち合わせ時刻までは、まだ間があったからだった。
蚤の市には服や食料品、生活雑貨、おもちゃ、絵画など魅力的な物が格安で売られていた。
そして、物色しながら歩いたがなんと蚤の市はアリモールの近くまで続いていた。
私は一番端まで歩いて、モール内のいつものスーパーマーケットで買い出しをして部屋に戻った。
この教会の前の蚤の市は、毎週日曜日に開催されているということを聞いたので、来週の午前中に買い物に来てみることにする。
桶:「ご隠居。お疲れ様でござんした。」
鍵:「いや~。疲れましたな。それにしても、空からみた景色は壮観でしたな。」
桶:「そうでやしたか。親方も空から見る景色がお気に入りでござんしたか。」
鍵:「北斎も空からの景色を見たのですかな。」
桶:「そうでおま。それで黒い富士山を描きやしたでござんす。そして、波も好きでやした。親方は、富士山と波の絵を描いた時には一艘の船がアニメのように動いている様子を描きやしたでござんす。」
鍵:「えっ、あの波の絵の船は3艘だと思っていましたよ。」
桶:「一艘だとお親方は言っておりやしたでござんす。」
鍵:「そうだったのですか?わしは、北斎の富士山の浮世絵を何度も観ていますが気が付きませんでしたな。」
桶:「親方の親魂をつれて、本体はそのままにしていろんな景色を見に行きやしたが、ある時、親方が全く動かないし話しかけても全く反応しないので、死んだと思われて大騒ぎになったことがありやしたでござんす。」
鍵:「そんなことがあったとは、驚きですな。しかし、埋葬されなくって良かったですな。それにしても、北斎がどんな景色を見ていたか興味がるなぁ。」
桶:「ご隠居。それなら本人に直接聞けばいいでござんす。」
鍵:「You’re kidding. そんなばかな。でもそんなことが出来るのですかな。」
桶:「そんなに難しくないでござんす。チョット時間がかかりやすが運が良ければすぐに訊けるでござんす。ご隠居は訊いてみたのでござるか?」
鍵:「そりゃートライしたいですな。その為なら高所恐怖症の私ですが富士山でも登りますよ。」
桶:「わかりやした。そうしたら親方の親魂が今どこで仕事しているか問い合わせてみますでござんす。多分明日の昼過ぎぐらいには分かるでござんす。」
鍵:「なんのことですかな。」
桶:「あっしたち魂は、生き物じゃないので死にやせん。魂労働基準監督局の管理の下、親魂とサブ魂とを交互に担当しやす。あっしは、ご隠居の担当の前は、虫の親魂でやした。その時は、ガサゴソと食べ物を探し当ている時に突然、バッシッと音がして、本体がつぶれてしまったので役目が終わって多分20年ぐらい休憩しやした。
親方を担当した親魂が休暇中ならスグ連れてきやす。しかし、今違う本体の魂をやっているとこっちから会いに行かないとなりやせんでござんす。」
鍵:「休暇中なら嬉しいですな。万が一誰かの魂をやっていても近くにいてくれたらうれしいですな。その場合どんなことをしても会いに行きますぞ。」
そんなアホな話をしていると待ち合わせ時刻が近づいてきた。これから連れて行ってもらうレストランで桶まんに頭の上を旋回されたら気になって話に集中できないと考えて、まんごろうに戻ってもらった。
英会話スクールに来た目的にビックリ!
待ち合わせ場所のスクールの門が見通せる場所まで来ると既に3人の姿があった。みなを一目見てホッとした。それというのもフィリピンの高級レストランではドレスコードの基準が厳しいと聞いていたからだったが、普段着しか持って来ていないことで少しだけ気になっていたからだった。
挨拶を交わしているところへタクシーがやってきたので、乗り込んで目的地へと向かった。助手席には玉ねぎさんが座り私はご夫婦に促されて運転席の後ろに座ったが、明らかに私よりも先輩の方よりも上席に座ることに恐縮した。
タクシーは大通りに出てクバオ方面に向かった。車内ではご夫婦と会話をするでもなく重苦しい雰囲気の中で車窓を眺めていた。しばらくしてタクシーは大通りを左折して住宅街を抜けて教会の前に停まった。
この建物は写真で何度か見たことがあり、すぐにビノンド教会だと分かった。日本でマニラの英会話スクールを探している時に、この教会の近くにはフィリピンで最古のチャイナタウンがある事を知った。
それと同時に周りにはスラム街があり観光客は間違っても近づいてはいけない危険な場所と認識していた。
そしてジャムやマーガリンからもチャイナタウンにはSIOPAO(肉まん)や水餃子で有名なお店が並んでいるが、絶対に一人ではいかないようにとくぎを刺されていた。
我々はタクシーを先に降りて玉ねぎさんが車外に出てくるのを待って、一緒にオンピン通りという商店街を歩いて行き、20人ほどの列ができている通り沿いの中華料理店に入った。
店内には丸テーブルはなく4人掛けのテーブルが6つあるだけだった。その内の5つのテーブルでは楽しそうにフィリピン人の家族が食事をしていた。
店内を見まわしても派手な装飾はなくいたって質素で床もタイルなどは貼ってなく、ただごつごつしたコンクリートがむき出しになっていた。
なぜ玉ねぎさんはこんな店を選んだのだろうか?
玉:「シゲ、ここまで来てくれてありがとう。あ~たのパードンのパフォーマンス、ウケたわ。」
鍵:「いや~。ウケて貰ってよかったです。今日は誘っていただきありがとうございます。」
玉:「あら、自己紹介がまだでしたわね。私は、サオリだけどチャックって呼ばれているわ。あーたもそう呼んで。そして、こちらは安田さん夫婦で、ご主人がマサシで、奥様がショウコ。」
マ:「安田です。よろしくお願いします。マサシと呼んでください。」
シ:「ショウコです。よろしくね。」
鍵:「お話しするのは初めてですね。シゲと呼んでいただけて嬉しいです。チャックって口が堅いのですか?」
玉:「違うわよ。ただおしゃべりだから、口にチャックしたらって言うのよ。失礼でしょう。でもあんがい気に入っているのよ。ふっふっふと笑った。ところで、シゲ。この店は、飲茶やむちゃが美味しいのでいつも頼んでいるのですわ。あ~たもそれでよろしいかしら?」
鍵:「はい。お任せします。」
玉:「あ~た、アルコールは?シゲ。」
鍵:「大好物です。」
玉:「あら、ビールでよろしいかしら?」
鍵:「はい。お願いします。」
店主らしいご夫婦がテーブルまで来てチャックに深々とお辞儀をした。3人は何やら話していたが多分タガログ語なので話の内容は全く分からなかった。
その後、若い女性がオーダーを取りに来て、チャックが注文をした。
会話は英語だった。
S:「Hello. サオリ。Are you ready to order?」こんにちは。サオリ。ご注文はお決まりですか?
玉:「Yes, we are. Jamie. All four have the dim sum. And please give me two bottles of beer. 」
はい、ジェミイ。4人とも飲茶。そして、瓶ビールを2本ください。
S:「Is it okay for beer to be Red Horse?」ビールはレッドホースでいいですか?
玉:「Yes, It is.」はい。それで。
S:「Thank you. I’ll bring beer first.」ありがとうございます。ビールは先にお持ちしますね。
玉:「please.」頼むわ。
ビールが届いたので、乾杯!
何種類もの飲茶に舌鼓を打ちながら会話は弾んだ。
玉:「シゲ。あーたの顔には、どうしてこんな庶民的な店を選んだのかって書いてあるわ。」
鍵:「いや~。図星です。そして、ビノンド教会の周辺は危険だと聞いていますから。」
玉:「そうでしょう。マニラ観光ガイドのどの本をみてもそのように書いてあるわ。スラム街も近いですから。」
シ:「しかしチャックが一緒だと安心よ。」
マ:「そうだね。ショーコちゃん、チャックはこの辺りに知り合いも多いしね。」
鍵:「どうしてですか?」
シ:「彼女はマニラに住んでいるのよ。」
鍵:「えっ、それじゃどうして英会話スクールに?」
玉:「そうね。一番の目的は日本語を話したいからですわ。」
鍵:「日本語を話すために英会話スクールに??」
マ:「私たちも聞いたときは驚きましたよ。」
玉:「そうそう。変ですわよね。私はフィリピン人の夫と暮らしていましたが、死別して今は一人ですのよ。」
鍵:「そうなのですか?それでも何故スクールに?」
玉:「我々のスクールは居心地が良いからですわ。食事も日本食だし掃除も洗濯してくれるし、日本人とも気楽に話が出来て楽しいですわ。」
鍵:「どれぐらいいる予定ですか?」
玉:「大体半年に一度来て1か月位いるのです。それが私のストレス解消法なのですわ。今回はスクールで知り合ったショウコと再会するために来たのですわ。おまけにマサシも来ちゃったけど。うふふ。あら、冗談よ。」
シ:「私は5年前に一人で来てチャックと知り合って。そして、今回はマー君も連れてきちゃったの。」
マ:「おいおい、なんだか僕は、本当にお邪魔虫みたいだな。」
玉:「そんなことなくってよ。マサシ。あーたは、お邪魔虫というより、おしりかじり虫って感じだわ。」
鍵:「いやあ。皆さんはとても良い関係なのですね。ところでマサシさんは、どうして英会話を?」
マ:「ホント言うと、英会話を勉強したいとは思っていないです。」
鍵:「えっ、じゃホントに奥さんのお尻にかじりついて“俺もいく”ってパターンですか?」
シ:「そんなことないわよ。私たち終の棲家を探しに来たのでから。」
鍵:「どういうことですか?」
マ:「私たちは、夫婦で入所できる高齢者施設をフィリピンで探しているのですよ。」
鍵:「フィリピンがとっても好きなんですね。」
マ:「いいえ、そんなことはありません。出来れば日本で暮らしたいですが、資金的に無理だと思うので。」
シ:「そうです。こちらでしか生きていけないと思うからですの。」
玉:「シゲ。ここなら年金だけで暮らしていけると思って沢山の日本人がこちらに移住して来ているのよ。日本は高齢者を輸出しているって問題になったこともあるぐらいなの。しかし、日本人が来てくれれば仕事も増えからと今では歓迎しているわ。」
鍵:「そうなのですか。知りませんでした。それで、気に入ったところが見つかったのですか?」
シ:「いいえ、まだ探しています。」
鍵:「日本にいる家族は賛成なのですか?」
シ:「私たちに家族はいませんのよ。若いころに話し合って子供を作るよりも二人の夢を実現することに人生を掛けようと決めたので。」
玉:「そうなの。そして、二人はスキー場でペンションを経営する夢を実現したのよ。やるわよね。」
鍵:「凄い!」
シ:「でも失敗しちゃった。」
マ:「それで家も何もかも全部なくしちゃいました。」
鍵:「そうだったんですか。大変な思いをされたのですね。」
マ:「でも全く後悔はしていませんよ。一度きりの人生ですからトライしたことに満足しています。」
シ:「私もですわ。若い夫婦にペンションを買ってもらえたので借金が残らなかっただけでもラッキーでしたのよ。」
マニラの施設に慰問に行きたいのでウクレレを教えて欲しい
マ:「それで、シゲさんに相談なのだけど、僕らにウクレレを教えて欲しいのです。それに、トークも。」
鍵:「私で良ければウクレレはお教えしますよ。しかしトークは無理です。それにしてもなぜ、ウクレレなのですか?」
マ:「高齢者施設に入所出来たら二人で練習して、他の施設に慰問に行ったりスラム街の子供たちに教えたりしたいのです。それをこれからの夫婦の共通の目標にしようと。ウクレレならお金もかからなそうだし。」
鍵:「素晴らしいですね。そういえば来週高齢者施設に慰問に行ってフィリピン人の方と一緒にウクレレ弾きますよ。良かったら参加したらどうですか?」
マ:「参加したいです。詳細情報をください。」
鍵:「はい、喜んで。」
玉:「安田さんご夫婦は羨ましいわ。夫婦の共通の目標っていいわ。私の主人は5年ほど前に亡くなってしまったけど、彼は毎日ボランティアで走り回っていて一緒に旅行にも行けなかった。今思えば彼の夢にももっと積極的に付き合ってあげればよかったと後悔しているのよ。」
鍵:「ご主人の夢って何だったんですか?」
玉:「彼はこの近くのスラムの出身でしたが、裕福な方から援助して貰って技能実習生として日本に行くことが出来たのよ。
そして、日本で農業を学んでフィリピンで事業を起こして成功して、中華料理店も経営したのよ。
彼は、同じ境遇で暮らしているスラム街の子供たちを支援したいと考えてボランティアで日本語を教えたり、技能実習生として日本や韓国に行けるようにサポートしていたのよ。それで、貧困から抜け出せた人達も多いのよ。そのうちの一人がこの店のマスターなのよ。」
鍵:「そうだったんですか。それで今日はこの店なんですね。納得です。」
玉:「彼は、私が生きてゆくのに十分なお金を残してくれただけでもありがたいのに、これから人生の生きがいまで残していってくれたので感謝しているのよ。
私に出来ることは少ないけど、彼が生きている時から我が家で働いてくれているメイドさん達に日本語や英語を教えているのよ。
日本語や英語が出来るメイドは賃金が高く貰えるから。日本語が喋れるようになったらもっと違った仕事に就くことが出来るようになるでしょう。
そうやって、人生を好転させた人達も多いのよ。」
鍵:「フィリピン人に英語を教えている?たしか英語は公用語ですよね?」
玉:「それが日本人の認識不足なのよ。スラム街の子供達の中には、十分な教育を受けられない子も沢山いるのよ。それが貧困の連鎖を生んでいるのよ。シゲ。覚えておいてね。日本ほど識字率の高い国はないんだから。」
鍵:「そういえば、僕はボランティアで日本語を教えていたけど、英語を喋れないフィリピン人の方もいたな。日本人と結婚して来日した方とかの中には多かった。
しかし、技能実習生で来ているフィリピン人の方々は、英語をしゃべっていましたよ。それに来日する前に日本語学校に通っていたということで日本語も少しだけ話すことが出来ていましたよ。」
玉:「そうなのよ。技能実習生として日本に行けるのは恵まれた人たちなのよ。先生からあーたがボランティアで日本語を教えているって聞いたから是非話をしたいと思ったのよ。彼らの日本での生活はどうなの?」
鍵:「詳しく知らないけど、ニュースで技能実習生制度の問題点について取り上げていますよ。」
マ:「良い仕事先に恵まれたらいいけど、ただ単に労働力として働かされる場合もあるようだし賃金トラブルなどいやいろいろな問題があるように聞いていますよ。」
鍵:「実習生の話だと、日本人との賃金の差はあるけどその中から仕送りしたり出来て満足しているし、日本に来て初めて貯金をする必要性を知ったと言っていました。」
玉:「そうでしょうね。フィリピン人は基本的に貯金をする文化がないから、手元にお金があれば欲しいものを次から次へと買いますのよ。
それにフィリピン人はお金を持っている人がサポートをするのは当たりまえという認識なので、お金に困っている仲間がいれば援助するし、自分が仲間を助ける代わりに自分が困った時もきっと誰かが助けてくれると信じているのですわ。」
シ:「それにフィリピンの家庭にはブレッドウイナーっていますよね。」
鍵:「なんですかそれ?」
玉:「そうね、日本語だと大黒柱ね。親はまず長男・長女を育て稼げるようになったら親の代わりに子供が大黒柱となり、家族の為に必死に働くのよ。
親は早々にリタイヤしてしまうけど年金制度が不十分なので子供に養ってもらうのよ。確りした大黒柱がいれば遊んで暮らせると思うから全く働かない人もいるのよ。
私の亡くなった主人は、自分がブレッドオーナーにされてしまって、最初の妻の家族の生活を支えることが嫌になって別れたのよ。」
チャックの話によると、フィリピンでは原則離婚は認められていないので、正式に離婚するには裁判するしかなく多額の費用と時間がかかる。
それでもチャックさんとご主人は時間を掛けて離婚手続きを完了させてから、結婚したという事だった。
今日はおいしい食事と楽しい会話で満腹になった。それにしても人生いろいろだなぁ。
安田さんのご主人は「僕らは落ち武者ですから」といって笑っていたが、人生を掛けてチャレンジしたという生き方、チャックさんの夫の思いを引き継いで生きてゆく人生、人間って面白いなぁ。
それに比べたら自分の人生がなんとも平凡に思えてきた。
こちらにいるうちにチャックさんと安田さんご夫婦の思いに少しでも寄り添って行きたいという思いが強くなった。
そして安田さんがどのような終の棲家にたどり着くのかぜひ知りたい。
そしてチャックさんがご主人の遺志を継いでやろうとしている事にも興味がある。
それにしてもチャックさんの話を聞くだけの食事会だった。そして、ありがたいことに顎足つきで接待して貰った。
帰りのタクシーの中でスマホの電源を入れたら代官からのlineが沢山来ていたが、内容は猫だらけだった。
今度は私が3人をご馳走したいけど、その場合もチャックの口は閉じないだろうなぁ。と思いながらチャックというニックネームは言い得て妙だと感心した。
日本で事業に失敗して、フィリピンに骨を埋める
そう思いながら部屋に戻った。そして翌日、フルーツにも許可を貰えたので、今度の日曜日の高齢者施設への慰問には安田さんご夫婦も参加することになった。
そのことは嬉しいのだが英会話スクールへの夫々の参加理由が私のイメージとはかけ離れていたことに驚かされた。
チエは韓国語を学びたかったがご主人の遺志を継いで、東京オリンピックでボランティアをするために勉強に来ている。
マサシさんは、英会話を学ぶつもりはないけど、奥さんに付き添う形でこちらに来ている。そしてフィリピンに骨を埋めるつもりで高齢者施設を探している。
チャックは、フィリピンに住んでいるのに日本語を話したいという理由だ。
そう言えばユリはなんで英会話スクールにどうして来たのだろうとふと思った、今度会ったら聞いてみよう。
彼女の事だから英語を一生懸命に勉強する気はないけど、暇だから来たのよって言いそうだ。
次の日の朝食はチャックに「Thanks for dinner.」夕食をありがとうというお礼からスタートした。
そして、チエとユリとは、昨日の情報交換を筆談で行ったがお互いに話すことが多すぎて時間が全く足りなかった。
食堂を出るとマニラ空港から一緒にタクシーできたケンが後ろから追いかけて来て、声を掛けてきた。
彼の話の内容としては、シゲは大企業の管理職であり取締役への就任が約束されていたのに、やりたいことがあるからと早期退職して起業。
そして上梓したビジネス本はベストセラーになりセミナー講師としても人気がある。そんな私に仕事で自分の夢を叶えるためにどうしたらよいのかを相談したいという事だった。
なんとも困ったものだ。取締役に就任できるなら会社を辞めなかったし、ベストセラー作家で講師として引っ張りだこならフィリピンに一月もいないと思いながら、心配した通り噂は “おひれはひれ” がついて私が知らない間に、日本経済新聞の私の履歴書の欄にいつ掲載されてもおかしくない人物になってしまっていた。
このままほっておくと次の1000円札の肖像画になりそうだといってユリとチエと笑ったが、彼の誤解は早急に解かないといけないし、それでも出来る限り彼の期待に応えてあげたいけど。
さて、どうしようか。
ジャムのレッスンは昨日のウクレレの練習会とクバオの一人旅の話題で、2時間を費やしてしまった。従ってレストランでの英会話とスマホの修理を頼む時の英会話レッスンは明日になってしまった。
レッスンが終わってスマホを見てみるとLineの着信が溜まっていた。殆どが代官からなので適当に返信しておいた。
昼食は、ユリとチエと筆談で情報交換をした。上級者テーブルには私と同年代と思おぼしき男性が若者たちと会話を楽しんでいた。
見るからに我々とは英会話に対する思い入れが違うタイプだと直感で分かった。しかし、彼と目が合ってしまったので軽く会釈を交わした。
元北斎の親(おや)魂(だま)は今どこ?
その後急いで部屋に戻って桶まんから北斎の親魂の事を聞きたくて、いつものように奴を呼び出した。
鍵:「助さん、北斎の親魂の件だけど、どうだったのですかな?」
桶:「へい。それがまだ来ておりやせんでござる。時間がかかる時は、休暇中ではない可能性がたかいでござる。」
鍵:「なるほど、そういうことですか。」
桶:「その場合は、犬や猫ならラッキーでござる。人間の場合は、とても面倒くさいでござる。」
鍵:「人間だったら分かり合えると思いますが、どうしてですかな。」
桶:「ご隠居は、赤の他人にあっしとの事を説明して、おでこをくっ付けてくれって言えるでござるか?」
鍵:「そんなこと言ったら怖がられてしまうでしょうな。」
桶:「あっしもそうだと思いやす。しかし、犬や猫なら事情を説明しなくてもいいでござる。」
鍵:「本当にそうでございますな。飼いネコや犬なら好都合ですな。それでも爬虫類は勘弁してほしいですな。会いに行くなら北朝鮮以外で台湾とかベトナムなどの東アジア地区が嬉しいですな。ヨーロッパやアメリカでも行く価値はありますぞ。」
その時着信音がなった、lineかと思ったら。桶まんへの通知だった。
桶:「ご隠居。届きましたでござる。」
鍵:「で、どうですかな。」
桶:「現在の居住地は、日本でござる。やりましたね、ご隠居。」
鍵:「ツイてますな。」
桶:「本体はどれどれ、え~っ。猫ですよ、ご隠居。」
鍵:「ここで全部の運を使い果たしてもいですな。まさか、飼いネコですか。」
桶:「えーと、トラ・・。」
鍵:「やりましたな。トラネコ。」
桶:「ご隠居。チョット違いやす。クマネコでござります。」
鍵:「クマという名前の猫ですかな。」
桶:「いいえ。違うでおま。和歌山県白浜に住んでいるクマネコでござる。」
鍵:「クマネコってどんな猫かググってみますかな。」
桶:「ご隠居。熊みたいにでっかい猫ですかい。」
鍵:「なんですと。熊猫と書いてパンダと読むそうですぞ。」
桶:「パンダってあの中国のでござるか?」
鍵:「そのようですな。パンダは和歌山にもいるんですな。誰か個人で飼っているか、野良のパンダという事になりますが。」
桶:「いいえ、パンダを個人で飼っているなんてありえやせんし、日本に野良のパンダがいるわけござんせん。パンダはアドベンチャーワールドというところで飼育されておりやす。
鍵:「アドベンチャーワールド?とにかく和歌山で暮らしているんですな。それなら帰国したらすぐに会いにいけますな。」
桶:「しかし、ご隠居。コンタクトは難しそうでござる。」
鍵:「そうですな。どうやってパンダとおでこをくっ付ければいいのですかな。考えてみると難しそうですな。」
桶:「あっしの方でそのパンダの事もう少し調べてみやす。」
マーガリンとスキンシップ
マーガリンとのレッスンは、「What did you do yesterday?」昨日は何をしましたか?で始まって、一日の出来事を翻訳機の力を借りながら英語で説明した。
そして英語の表現や発音の間違いを指摘されてその都度レッスンを受けた。
マーガリンのプロ意識の高さには感心させられるが、何もそこまで厳しくしなくてもいいのになあと思ってしまう。
私も彼女に「What did you do yesterday?」と聞いてみたら、午前中は教会に行き、午後はスポーツジム。そして、夕方からスピリチュアル研究会の仲間達との集まりに参加したという事だったがマーガリンの行動力は凄いと感心した。
その話を聞いていた桶まんが、突然声を掛けてきた。
桶:「ご隠居。チャンスでっせ。あっしの事をマーガリンに説明してくだせいやし。」
鍵:「どうしてですかな。助さん。」と室内を旋回している桶まんを目で追いながら話をした。
桶:「マーガリンならあっしらの事分かってくれるかも知れやせん。」
鍵:「分かって貰ったってしょうがないでしょう。」
桶:「スピリチュアルに興味のある彼女が分かってくれなければ、パンダの飼育員に分かって貰えるわけないと思いやす。ご隠居、Let’s tryでござんす。」
鍵:「そうですな。やってみましょう。」
マ:「Shige. Are you okay?」シゲ、大丈夫ですか?
と、私が桶まんと話しているところをみて不思議に思った彼女がつぶやいた。
鍵:「I’m okay. By the way, do you believe in souls?」私は大丈夫です。ところであなたは霊の存在を信じていますか?
マ:「Of course I believe.」もちろん信じていますよ。
鍵:「Don’t be surprised. I’m talking to my soul.」驚かないでください。私は自分の霊と話をしているのです。
マ:「Seriously? I’m surprised. If that is true, I’m so jealous of you.」マジですか?びっくりです。もしそうならあなたが羨ましいです。
鍵:「Would you like to experience it?」体験してみますか?
マ:「I definitely want to experience it.」ぜひ体験してみたいです。
鍵:「Okay. Now stick your forehead to my forehead. 」それでは私のおでこにあなたのおでこをつけて下さい。と、翻訳ソフトと使って説明しながら彼女のおでこに手を当てた。
マーガリンは怪訝そうな顔をしながらも応えてくれた。
鍵:「・・・・・・」ほら、が霊見えるでしょう。彼が同時通訳をしてくれます。
桶:「初めまして、サブ魂の桶まんごろうでおま。よろしく。」
マ:「あら、こちらこそよろしく頼むわ。私にもサブ魂っているの?」
桶:「へい、勿論おりやす。」
マ:「私のサブ魂とあなたは話が出来るのかしら?」
桶:「担当している奴によりやす。どれどれ、マーガリンのサブ魂は、あぁこいつはダメでおま。」
マ:「どうしてかしら?」
桶:「こいつは、イグジットっていう奴で、別名シビルサーバントって呼ばれていやす。
決められたことだけ確りこなすタイプでやす。それ以外の事は興味もない奴らですござんす。
一番好きな言葉が“遅れず 休まず 働かず”でござんす。そして、ほとんどの人のサブ魂はこ奴でござんす。」
鍵:「そうなのか。それにしてもこんな格好は人に見られないようにしないと。
マ:「・・・・・・」そうだわよ。見られたら最後、噂はすぐ広がるわよ。シゲ。誰にも見られないようにしないとだダメよ。
鍵:「・・・・・・」そうしましょう。マーガリンの谷間が気になるなぁチョット触ってみたい。
マ:「・・・・・・」まぁ、シゲってエッチね。でも、少しぐらいなら触ってもいいわよ。
鍵:「・・・・・・」いや~。我慢するよ。その気になると困るから。
マ:「・・・・・・」1回ぐらいならOKよ。と言って、私の手を掴んで自分の胸に誘導した。
鍵:「・・・・・・」ひさしぶりだなぁ。この感触。
マ:「・・・・・・」あら、奥さんとのスキンしプはないの?
鍵:「・・・・・・」全然ないですよ。
マ:「・・・・・・」あらそうなの。一回ぐらいならいいわよ。私はもう妊娠しないしでもパートナーにばれないようにしないといけないの、彼は嫉妬深いから。
マーガリンはやっぱりサド!
鍵:「・・・・・・」パートナー?
マ:「・・・・・・」彼と結婚したいけど私には法律上の夫がいるのよ。実際には分かれていてもフィリピンには離婚制度がないから正式に離婚して結婚するって大変なので、この先もずっとパートナーのままなのよ。
鍵:「・・・・・・」どんな人なの?彼の事をイメージしてみて。
マ:「・・・・・・」いいわよ。
鍵:「・・・・・・」おう、彼は全裸だよ。それに傷だらけだ。30代?筋肉質で格好いいな。なには、で、でっかいなー。フィリピンバナナの様だ!
マ:「・・・・・・」ええ。恥ずかしいわ。私はマッチョが好き。でも、バナナは大きさだけじゃないじゃないでしょう。彼はテクニシャンなのよ。そして、彼はマゾ。そして、私はサドで相性抜群なのよ。あなたもマゾを経験してみたい?病みつきになるわよきっと。
鍵:「・・・・・・」ぼ、僕は遠慮しておきます。痛いのが嫌いなので。
桶:「これどうです?お二人の写真でござんす。」
鍵:「・・・・・・」こら桶まん!やめろよ。俺の裸の写真を消してくれ。
マ:「・・・・・・」シゲ。あらいいじゃない。でもポッコリおなかね。ジムに行った方が良いわよ。あら、あなたのモンキィバナナ可愛いじゃない。私嫌いじゃなくってよ。」
鍵:「・・・・・・」ほっといてくれ!マーガリン!美乳だね。それに腹筋が割れていて格好いい。それにボディビルのポーズが笑えるな。それにおっぱいとへそのところのチョウチョのタトゥーは可愛いね。それにアンダーヘアもチョウなんだね。
マ:「・・・・・・」「ジムで練習の後に鏡の前での決めポーズよ。彼は、チョウチョが好きなの。アンダーヘヤは毎日お手入れしているのよ。」
鍵:「・・・・・・」へえ~。彼の趣味ねぇ。
マ:「・・・・・・」そうよ。ところでシゲの奥さんはどんな人?」
鍵:「・・・・・・」こんな感じ。
マ:「・・・・・・」可愛いわね。犬なの?
鍵:「・・・・・・」いいえ、もう一度。こんな感じ。
マ:「・・・・・・」あら、エプロン姿が可愛いじゃないの。それにおっぱい大きいわね。彼女はこんなに魅力的なのに何故、スキンシップをしないの?
鍵:「・・・・・・」スキンシップなんて、いや~。10年以上していないなぁ。ハグもしないし、手もつながないよ。
マ:「・・・・・・」あら、手もつながないの?それで、奥さんは怒らないのかしら?フィリピンだったら毎日、ハグやキスしないと離婚だわ。
鍵:「・・・・・・」いや~。ホント?
桶:「おう。二人は前世でも会っているでおま。ピコピコピコ」
鍵:「・・・・・・」えっ、驚いたな。桶まん。ピコピコピコはなに?
マ:「・・・・・・」どんな関係だったのかしら?
桶:「ピコピコピコは、もうすぐエネルギーが切れるということでおま。二人は女王バチと働きバチでおま。」
鍵:「・・・・・・」俺は前世も働き者だったんだな~。
マ:「・・・・・・」私は前世から女王様だったのね。納得だわ。
桶:「いいえ、逆でおま。ご隠居が女王バチでござんした。」
えっ、そんなあほな、と言いながらおでこを離した。
マ:「I’m surprised. I could see your soul.」驚いたわ。あなたの霊がみえたわ。
鍵:「Is that so. Don’t tell anyone.」そうですか。誰にも言わないでください。
マ:「Nobody believes it. Don’t tell the Jam if you make a mistake. She has a big mouse.」言っても誰も信じてくれないわ。
鍵:「Sorry?」なんですって?
と聞いて、マーガリンが一瞬だけおでこをくっ付けてきた。
マ:「・・・・・・」間違ってもジャムに言ってはダメよ。彼女はおしゃべりだから。
桶:「ピィー」
マ:「His energy seems to be gone.」彼のエネルギーはなくなったようだわ。
鍵:「I guess so. You can say that again.」そうみたいですね。あなたの言う通りジャムに言ったらダメですね。
マ:「Let’s keep it a secret only for us two.」我々二人だけの秘密ということで。
鍵:「By the way, is he rich?」ところで、彼はお金持ちなの?
マ:「No, he isn’t. But just because you’re rich doesn’t mean you’re happy. 」
鍵:「Sorry? Please speak to this smartphone again. 」
マ:「Okay. No, he isn’t. But just because you’re rich doesn’t mean you’re happy.」いいえ、しかし、お金持ちだからといって、幸せとは限らないわよ。
鍵:「Yes, I agree.」はい。御意。
この日のマーガリンのレッスンでは、私が持参した本は1ページも進まなかったが、音読の宿題を出された。マーガリンはレッスンでもサドだった。今度宿題を出されたときは「Give me a break.」勘弁してっていちゃうぞ。
安田さんご夫婦のウクレレを買いにショッピングモールへ
レッスンが終了して、スマホを見るとLineが沢山届いていた。やっぱり殆どが代官だったがその中に連れ合いからのものがあったので、即チェックした。
メッセージは「お父さんがソックスちゃんと会えなくって寂しいだろうと思って動画をアップします。散歩は私が毎日連れて行っていますので安心してください。そちらで楽しんでくださいね。」
動画はソックスの食事シーンだった。それと言うのも、犬は大好きな飼い主が何日も家に帰ってこないと心配で食事をしなくなると聞いて心配していたからだった。しかし動画の中のソックスちゃんは、私の心配をよそにバクバク食べていた。
それを見て安心したというより少しがっかりしたというのが本音だったが、連れ合いのlineには、安心したありがとうという言葉とともに残念の絵文字を添付して返信した。
代官のlineはというと猫の写真が盛りだくさんだがその中に、日曜日の待ち合わせ場所を尋ねるものがあった。彼は、本気で来るつもりの様だ。夕食の時にフルーツに聞いてみることにする。
夕食の時は、日本語が使えるので高齢者テーブルは何時ものようにとても賑やかだった。チエとユリの先生との観光の話も聞いていて楽しかったが、一番驚いたのは彼女らも私も同じ店で猫と遊んだということだった。
マサシさんとショウコと話をしたら、明日の夕方にウクレレを買いに行きたいので一緒に行って選んでくれと頼まれてしまった。勿論、と言ってショッピングモールでの待ち合わせ時間をその場で決めた。
代官から楽しみにしているニャー
そして、彼らは既に今度の週末のイベントチラシを手に入れていたので、それを写メさせてもらった。その場で代官にlineで写メしたチラシをポストしたら、すぐに、 “楽しみにしているニャー” という返信が届いた。
Lineの着信音に反応してユリが私のスマホを覗き込んできた、私がすかさず “こっちもぴょん”と返信したのを見て、ユリが私のおでこに手をあてて笑った。
私は代官と出会う前は、Lineでそんなような返信をするタイプではなかったが、調子に乗って“夕食を一緒にしませんかニャー?”と送ったが、社会人としては、あまりにも彼に対して礼を失しているのではないかと心配していたら、代官から“うれピィニャー”という返信と猫のキャラクターが踊っている動画が届いた。
こんなやり取りをしている自分は今まで考えられない、これは彼の人たらしの術中にまんまとはめられたなと、にやにやしながら、ふと、上級者テーブルに目をやると英語が飛び交っていた。
その中心に私と同年代のおやじがいて、ナオミやケンたちとジェスチャーを交えながら堂々と笑顔で会話を楽しんでいた。
その姿は私の目にはヒーローとして映ったともに、彼と話をしてみたいものだと思って、目を合わせて会釈しようとしたらケンと目が合った。
ケンと話をしようとして一歩近づいたら彼がゼェスチャーで私を制して、立ち上がってこちらに歩み寄ってきた。
鍵:「Hi. Good evening, Ken.」こんばんは、ケン。
K:「Good evening to you Shige.」こんばんは、シゲ先生。
おいおい「To you.」なんて彼は本当に私に敬意を払ってくれているようだ。困ったものだ。
鍵:「Hi! Are you free this Sunday night?」日曜日の夜は時間ある?
K:「Yes, I am.」はい、あります。
鍵:「Would you like to eat out together on Sunday night?」日曜日の夜一緒に外食しませんか?
K:「Sounds good. Thank you, sir.」いいですね。ありがとうございます。
鍵:「Okay. I will inform you of the meeting place and time later.」良かった。待ち合わせの場所と時間は後で連絡します。
K:「I look forward to eating together.」一緒に食事をするのが楽しみです。
鍵:「Same here.」私もです。
K:「By the way, do you have a Line?」ところでlineは、使っていますか?
鍵:「Yes, I do.」はい、使ってますよ。
K:「If you like, could you make friends on Line?」もしよろしかったらlineで友達になっていただけませんでしょうか?
鍵:「Sure.」はい。と言って、Lineで友達になった。
部屋に戻ってケンにテストメール代わりに、 “私はフィリピン人のメンバーと一緒にウクレレの弾き語りをします。都合がつけばイベントに参加しませんか”というメセージとともに、日曜日のイベントのチラシをlineにポストしてみた。
それに対して彼から “大変残念ですが日曜日の15時から16時は英語のクラスがあるので参加できません。夕食については17時以降でお願いします” というメッセージが届いた。それと同時に代官からの着信があった。
代官から高齢者施設の見学したいニャ~
内容としては “フィリピンで高齢者施設の入居を考えているので、日曜日のイベントの前後に施設内を見学したいニャ~”というものだった。
私は“高齢者施設の経営者に見学が可能かどうか明日の昼までに確認してLineするよ”というメッセージをポストした。
代官からすぐに “かたじけニャ~” と返信が届いた。しかし、始めて会った成田空港での話だと、彼は定年後に日本人の妻と離婚して、フィリピン人かインドネシア人の彼女と暮らすと言っていたのに何があったのだろう?
まあそのことは、あっしには関わりのねえことでござんすという、木枯しこがらし紋もん次郎じろう風の決め台詞ぜりふとともに脳裏から消し去った。
しかし、夕食にケンというスクール仲間の若者を同席させる許可を得る必要を感じて、その旨をlineで送信したら“By all meansニャン”と多分、勿論結構ですという意味の返信をしてくれたので、ケンが私に相談したいという内容と彼に関して知っている限りの情報を代官に送信した。
合わせて、ケンから食事会には私の友人も同席させる旨の許可をとり、代官の人となりを送信した。
二人から彼に会うのが楽しみですと返信が来たので安心して、こちらも楽しみにしているという内容の返信をした。
代官には、“たのしみニャン”で、ケンには“こちらも大変楽しみにしています。当日はよろしくお願いいたします。”と送信した。
しばらくして、ケンから “シゲがニャ~って使うなんてびっくり!” というメッセージが届いた。そして、代官から“よっ、ビジネスマン。びっくりニャン!”というメッセージが届いた。
どうやら両方に間違って送信したらしい。
そのことに気づき慌てて間違えて送信したことを二人に通知したが、その後ケンとはこの一度のミス送信がきっかけで胸襟を開いて話が出来るようになったから不思議だ。と考えながら胸襟を開いてじゃなくって、フランクを使う方が今風だろう。いやいや、きみねぇ、今風なんて今時言わないよ。それを言うならナウいだろうと一人でボケとツッコミをしてみたがむなしい気持ちになった。
やっぱりこんな時は妻のツッコミが欲しい。これもホームシックというのかなと思いながらアルコールの勢いで早めに寝た。
翌日は、ジャムにスマホの修理を依頼する時とウクレレを買う時のレッスンをお願いした。そして、ジャムからスマホショップも紹介して貰った。
そしてマーガリンから電話で予約の仕方、そして友人を食事に誘う時及びとレストランでの注文のレッスンを受けた。
マニラのショッピングモールでスマホの修理
翌日は、ジャムにスマホの修理を依頼する時とウクレレを買う時のレッスンをお願いした。そして、ジャムからスマホショップも紹介して貰った。
そしてマーガリンから電話で予約の仕方、そして友人を食事に誘う時及びとレストランでの注文のレッスンを受けた。
やっぱり最後にマーガリンから宿題をだされた。私はここぞとばかりに。
鍵:「Give me a break.」勘弁してよ。
Ⅿ:「No, I won’t forgive you. Because this is for you.」いいえ、許しません。何故なら、これはあなたの為ですから。
と、必死の抵抗もむなしくいとも簡単に却下されてしまった。
マーガリンとのレッスン後は、マサシさんとショウコとの待ち合わせ場所のモールへ。集合時間にはまだ少し余裕があるので、スマホの修理について相談をしてみる。
モールの2階には、沢山のスマホショップやスマホアクセサリーショップがあった。その中からジャムから紹介して貰ったショップの店員にスマホを見せて、修理が出来るか聞いてみたが在庫がないと言われた。
しかし、その店員は私のスマホを持って通路の真ん中に沢山いる個人の修理屋さんに何人も声を掛けてくれて、在庫を持っている職人を見つけてくれた。
しかもその職人さんは、英語会話が出来ないという事で、ショップの店員が間に入って話をしてくれた。
店:「Do you want to replace this screen?」この画面を取り替えたいのですか?
鍵:「Yes, I do.」はいそうです。
店:「Is there nothing wrong with it?」他に悪いところはありませんか?
鍵:「Nothing in particular.」特にありません。
店:「How much is budget?」予算はいくらですか?
鍵:「I’m glad that it’s cheaper. How much is it?」安い方が嬉しいです。いくらかかりますか?
店員は職人とタガログ語で話をして答えてくれた。
店:「It’s 1,300pesos. 」1,300ペソです。
1,300ペソだと2,600円だ。私の記憶だと日本で同じ修理を頼むと25,000円ぐらいは掛かると思っていたので驚くほど安いのですぐに依頼した。
鍵:「Then I would like to ask. How much time do you need?」それなら頼みたいです。時間はどれぐらい必要ですか?
店員が、職人と話してくれて答えてくれた。
店:「It’s taking about 20 minutes. 」約20分かかります。
鍵:「So please. When should I pay?」それでお願いします。お金はいつ払えばいいですか?
店:「Please pay the money at this shop now.」お金は今こちらのショップで払ってください。
と言って、先ほどのスマホショップに誘導してくれて現金をレジで支払った。
鍵:「Is there a guarantee?」保証はついていますか?
店:「No, there is no guarantee. What should I do?」いいえ、保証はありません。どうしますか?
鍵:「Okay, please. Thank you for your kindness.」はい、お願いします。親切にありがとう。
出来上がったら、受け取り窓口もこのショップという事で、引換券を貰ったので安心した。
もうすぐ、待ち合わせ時刻なのでウクレレショップの近くに移動して、ベンチに腰を下ろした。
ウクレレの選び方?
マサシさんは大きな買い物袋を両手に持って、ショウコは笑顔で両手を顔の横で振りながらやってきた。
シ:「こんばんは。シゲありがとう。」
マ:「お世話になります。」
鍵:「どういたしまして。それで、ウクレレを買うのに予算はどれぐらいですか?」
シ:「初心者にお勧めのウクレレはお幾らぐらいかしら?」
鍵:「お勧めは3,000円位のものです。私のウクレレもそれぐらいですよ。」
シ:「あら、意外と安いわね。」
マ:「高いのと安いのとの違いは何ですか?」
鍵:「板の部分の素材が何でできているかです。ちなみに、私のウクレレは合板です。マニラで単板の物を買って帰るつもりです。」
シ:「単板だと何が違うの?」
鍵:「音色が違うらしいですよ。僕は違いが分かる男ではないけど、ショウコ、長く使うなら単板の方が良いよ。耳が良い人は、違いが分かるようになるそうだから。」
マ:「シゲさん、あそこのショップは見ましたか?」
鍵:「チラッと見ただけですが、合板も単板もありましたよ。価格は、500ペソ~5,000ペソのようです。そして、5,000ペソの物は単板でしたよ。」
マ:「僕は長く使える物がいいな。」
シ:「私もその方がいいわ。」
鍵:「それでは、単板を選ぶとして、ウクレレの大きさについて検討しましょう。」
シ:「それって何ですの?ウクレって大きさが違うの?」
マ:「ネットで見たけど、違うらしいよ。」
鍵:「そうです。私が使っているウクレレは、ソプラノサイズといってポピュラーな中では一番小さくて、一回り大きいのがコンサートサイズで、一番大きいのがテナーサイズって言うんだ。」
シ:「シゲ、私はどうやって選んだらいいのかしら?」
マ:「一般的にはソプラノが扱いやすいってネットには書いてあったよ。」
鍵:「僕もそう思いますよ。」
シ:「じゃあ、私はソプラノサイズで単板の物にするわ。マー君は?」
マ:「僕はショウコちゃんとお揃いがいいな。」
鍵:「仲睦まじくて結構ですね。」
シ:「シゲは、マニラでどのサイズを買う予定なの?」
鍵:「僕はソプラノを持っているから、コンサートにしようと思っているんだ。」
マ:「何が違うのですか?」
鍵:「少しネックがソプラノよりも長いので、弾ける音域が1オクターブ増えるので、ソロ弾きや伴奏に向いていると言われているんです。マサシさんは体が大きいのでコンサートでも良いのではないですか?」
マ:「僕はショウコちゃんの伴奏をしたいので、コンサートにするよ。」
鍵:「婦唱夫随ですね。」
マ:「シゲさん、夫唱婦随って若いのに古い言葉を使いますね。」
鍵:「マサシさん。僕は若くないですよ。東京オリンピックの時に小学校4年でしたから。」
マ:「えっ、じゃあ昭和29年?それなら僕らは同じ年だ。」
鍵:「Seriously?大先輩だと思っていましたよ。」
マ:「僕は髪の毛がないので、いつも実年齢より上に見られてしまうのですわ。」
鍵:「でもこれからはフランクに付き合えますね。それではマサシと呼ばせて下さい。」
マ:「それでは僕も、シゲと呼ばせてもらいますわ。」
シ:「男ってダメね、年なんてどうでもいいことに拘るんだから。」
マ:「そうだね。ショウコちゃんの言う通りです。」
鍵:「そうですね。男はいくつになってもおこちゃまなのです。それでは、ショップに行きまちょう。」といって、店内の時計を見たらスマホを預けてから30分以上経過していたので、二人に待っていてもらってスマホを受け取りに行ってきた。
そして、ウクレレのショップで店員に色々と質問した。
店:「Hi. Are you looking for an ukulele?」こんばんは。ウクレレをお探しですか?
シ:「Yes, We are.」そうです。
店:「Which size would you like?」どのサイズがいいですか?
シ:「I’d like the soprano type.」私はソプラノタイプがいいわ。
店:「How about this?」これはいかがですか?
シ:「Where was it made?」どこで作られたものですか?
店:「Made in the Philippines.」フィリピン産です。
シ:「Is there anything made in Hawaii?」ハワイ産の物はありますか?
マ:「ショウコちゃん、ネットにはフィリピン産のウクレレは良いと書いてあったよ。」
鍵:「そうですね。セブには沢山の工場があるそうで、品質も良いそうですよ。私もフィリピン産を買おうと決めていますよ。」
シ:「あら、そうなの。じゃ、フィリピン産がいいわ。」
鍵:「What is material made of?」素材は何ですか?
店:「This is made of plywood.」これは合板で出来ています。
シ:「plywoodって合板なのかしら?」
鍵:「そうだと思うよ。Do you have a single plate?」単板の物はありますか?
店:「Yes, this is a single plate.」はい、これは単板です。
シ:「What kind of wood?」木の種類は何ですか?
店:「This is mahogany.」マホガニーです。
マ:「ショウコちゃん、マンゴーの単板はないか聞いてみて。」
シ:「Is there anything made of mango?」マンゴーで出来ている物はありますか?
店:「No, there is no such luxury item here.」いいえ、そんな高級品はありません。
シ:「Okay. How much is it?」分かったわ。これはいくらですか?
店:「It’s 5,000pesos. 」これは5,000ペソです。
シ:「Do you give me a discount?」安くしてくれる?
店:「Then put on the ukulele case.」それならウクレレケースを付けます。
鍵:「Service the tuner as well.」チューナーもサービスしてよ。
店:「Okay.」はい。
シ:「Thank you. Please show me the concert type as well.」ありがとう。コンサートタイプも見せてください。
店:「Here it is.」はい、これです。
シ:「マサシ君どう?」
マ:「僕はこれがいいや。」
シ:「How much is it?」いくらですか?
店:「It’s 5,500pesos. 」これは、5,500ペソです。
シ:「Is it okay for two to cost 10,000pesos? 」二つで10,000ペソ、いいかしら?
店:「Yes, that’s fine.」はい、それでいいです。
シ:「Please tuner and an ukulele case.」チューナーとウクレレケースをお願いね。
店:「You got me. All right.」まいりました。承知しました。
シ:「Thank you. Here it is. 」ありがとうと言って、10,000ペソを渡した。
店:「Do you need a receipt?」領収書が必要ですか?
シ:「No, thank you.」いいえ、いりません。
店:「Thank you. Have a good night.」ありがとうございます。良い夜をお過ごしください。
シ:「You too.」あなたもね。
マ:「シゲ。Thank you. Bye-bye. 」
シ:「シゲ。ありがとう。おやすみなさい。」
鍵:「マサシ、ショウコ、じゃあね。と言って別れた。」
振り返ると、マサシは両手に大きな買い物袋を持って、両肩に二人分のウクレレを担いで会釈してくれた。ショウコは顔の横で満面の笑顔で両手を振っていた。
マサシは妻をショウコちゃんと呼び、ショウコは夫をマサシ君と呼び合う。
そんな夫婦というのもいいもんだなぁ。
考えてみると、私は妻を名前で呼んだ記憶がほとんどない。それというのも結婚してすぐに子供が生まれて、ママと呼ぶようになり、子供たちがお母さんと呼ぶようになったら今度はお母さんと呼んでいた。
孫が出来たが、我が家は母と同居しているので、妻は孫におばあちゃんと呼ばせずに “お母さん” と呼ばせている。そして私の母がおばあちゃんと呼ばれている。従って、私も妻を“おばあさん”とは呼ばずにお母さんと呼んでいる。
孫は妻をお母さんと呼ぶので、私も“お父さん”と呼ばれているが、それによって少し気恥ずかしい思いをすることがある。
それは、娘と孫と出かけた時に、孫からお父さんと呼ばれたりすると、周りの方からの好奇な目線を感じる時があるからだ。
娘は30歳で私が60代だが、昨今、そんなご夫婦も世間では珍しくなくなってきているからだろう。
悪いことに、娘は世間では美人の部類に分類されていて私はというと自他ともに認めるお笑い系だ。
そのため私と娘は全く似ていない、そのために誤解を招くことになるのだ。孫ももうじき8歳になる、そろそろ私の事をおじいちゃんと呼んで貰いたいが、妻は何というだろう。
ウクレレショップで買い物をしている時に、マサシに簡単ウクレレ教室ガズレレのYou tubeを見てと伝えた。
彼らに初心者レッスンを頼まれたので、「ウクレレの持ち方などの基本部分については、動画で勉強しておきなよ」って、マサシの年を聞いてからはため口になった。
それにしても、ショウコの英会話力と価格の交渉術は圧巻だった。私がウクレレを買う時にもついて来てもらいたいぐらいだ。
今朝もルーティンからスタート、早いものでこちらに来てから10日目だ。体操で体をほぐして、ウクレレの基礎練習、そして、英会話ジムで音読の“住むならどんな部屋がいい” を練習した。
「Time flies. 」時間がたつのは早い、自己紹介をしてからもうすでに一週間がたった。こちらで過ごすのも残り20日だ。そろそろ、機内アナウンスのレッスンを受けようとスマホに録音した内容を聞きながら文字起こしにトライするが難しいのでジャムかマーガリンに頼むことにしよう。
ウクレレ初心者レッスン
朝食後に私の部屋でマサシとショウコにウクレレのレッスンをすることになった。それは、彼らの部屋は楽器の練習は禁止されているという理由からだった。
二人は胸の部分にウクレレの絵が描いてあるお揃いの柄で、ショウコがピンクでマサシが緑の半そでのTシャツを着て私の部屋にやってきた。
そのTシャツはどうしたのと聞いたら、昨日ウクレレを買った後にショップで見つけてゲットしたという事だった。
夕食の時は気づかなかったと伝えたらわざわざ着替えてきたらしい。
そしてウクレレを教えて貰うお礼にと言って、私にも同じTシャツで黄色の物をプレゼントしてくれた。
折角だからと、お礼を言ってその場で着させてもらったが高齢者3人がお揃いのTシャツを着てウクレレを持っている姿は、トリオ漫才のようで可笑しかった。
二人に動画を観ましたかと質問したら、ウクレレの持ち方やチューニングのやり方は、勉強したという事なので、コードとストロークのやり方について説明を始めた。
幸いにして隣の犬の鳴き声は聞こえてこないので、ドアを開けっぱなしにして簡単な曲の練習から始めた。
選択した曲目は童謡の♪ふるさと♪。
鍵:「それでは、マサシもショウコもCコードを押さえて3拍子でふるさとを弾いてみよう。歌わなくても良いし、コードはずっとCのままで良いので、トライしてみよう。ワンツウスリー」
といって、3人でウクレレを弾こうとした時に、突然、ユリとチエが部屋に入ってきた。
そして、驚いたことに二人ともウクレレケースを背中に背負っていて、我々とお揃いの色違いのTシャツを着ていた。
鍵:「二人ともどうしたの?」
ユ:「朝練の事をショウコに教わったので来ちゃったぁ。」
チ:「シゲ。お邪魔だったかしら?」
鍵:「そんなことはないけど。ウクレレはどうしたの?そして、そのTシャツ?」
ユ:「昨日の夕方、廊下でウクレレケースを背負っているご主人に、ショップで買ってきたことと朝練の事をお聞きしたので、その日のうちにショウコに一緒に行って貰って、一番安いウクレレとTシャツを買ってきたのよ。」
5レンジャー結成!
鍵:「これじゃ、5レンジャーだよ。」
ユ:「あっはっは、私が赤でチエが白だからそうね。」
シ:「5レンジャーって?」
マ:「正義の為に悪と戦う秘密戦隊で、石ノ森章太郎の漫画だよ。テレビでもやっていたよ。」
シ:「知らなかったわ。」
鍵:「4人は知り合いだったの?」
チ:「いいえ、ショウコさん達の部屋と私たちの部屋は隣り合っているけど、今まで二人とは話をしなかったの、でもウクレレの話で盛り上がって意気投合しましたのよ。」
ユ:「そうなのよ。だって、仲良し夫婦だから声かけづらいじゃない。二人は何時もいちゃいちゃしているから。
私たちの部屋とショウコ達の部屋は隣り合っていて、壁が薄いからお互いの話し声は筒抜けなのよ。濃厚なスキンシップでもされたら眠れないわよ。」
マ:「ユリ、そんなことしませんよ。」
ユ:「あらいやね冗談よ。私たちの部屋でウクレレの動画も一緒に見たわよ。」
シ:「私たちはウクレレに関しては同レベルだわ。」
マ:「シゲ。4人の面倒を見てよ。」
鍵:「Okay.では、ウクレレを持って、Cコードを押さえてください。」
本当だ。ユリもチエもちゃんとCコードを押さえられている。
ユ:「シゲ。Cコードはこれで良かったかしら?」
鍵:「4人ともOKです。それでは、そのコードを押さえたまま、ふるさとを弾きましょう。3拍子でいきます。はい、ワンツウスリー。」
C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C
♪うさぎ おいし かのや ま・・ こぶな つりし かのか わ・・♪
シ:「シゲ。まのところも3回弾くの?」
鍵:「そうだよ。うさぎが小節なんだ。うで右手の親指の腹で上から下まで一回弦をこするんだ。そして、さもぎも同じようにするんだよ。そして、全部の小節は歌詞がなくても必ず3回ずつ弾くんだ。」
ユ:「シゲ。分かったわ。もう一度やろう。」
鍵:「マサシも大丈夫?」
マ:「いいよ。」
鍵:「じゃぁ皆、Cをもう一度押さえてくれる。チエ。間違っているよ。Cは、ウクレレを構えて地面に一番近い弦のウクレレの首の部分から3番目だよ。今、チエが押さえているのは一番天井に近い弦になっちゃっているよ。」
ユ:「あ、そうだったわね。このウクレレの弦の押さえ方の図を見ると、Cは一番上の弦のように書いてあるのよ。」
鍵:「そうなんだよ。ウクレレは右利きの人が構えた時に、一番上から4弦3弦2弦1弦となっているんだ。それで、地面に一番近い弦は1弦なんだ。従って、Cコードは1弦のウクレレの首から3番目なんだよ。それなのに図は一番上の弦は1弦となっていて勘違いしやすいんだよ。」
ユ:「そうなんだ。分かったわ。」
鍵:「では、ふるさとやってみよう。ワンツウスリー。」
私が歌を歌いながら3番まで弾き切った。
シ:「凄く気持ちいいね。慣れてきたら歌いながら弾きたいわね。」
チ:「とても楽しいですわ。」
マ:「シゲ。夕方もやろうよ。どう?」
ユ:「そうだね。私とチエは高齢者施設での慰問の時に踊りを披露したいので、練習もさせて欲しいわ。慰問の時はお揃いのTシャツで行こうね。」
鍵:「えっ、そんなの恥ずかしいよ。トップスは自由でいいんじゃないかなぁ。」
ユ:「まあそのことは後で話すとして、夕食後にこの部屋にくるわね。」と言って、解散した。
ジャムのレッスンでは、昨日のスマホの修理依頼の英会話とウクレレを購入時の英会話の復習をした。
ノートを見ながらだが、ほぼ練習通りに出来たことを評価して貰えた。
今日のレッスンは機内アナウンスや空港でのアナウンスをお願いしたが、ジャムが♪Take me home, country roads.♪の楽譜を私の部屋で見つけたことで、急遽ウクレレの弾き語りによる、発音の練習となってしまった。
驚いたことにジャムは相当な音痴だが、自分では認識していないようだった。
自己紹介の目的は?
今日は水曜日なので、食堂ではイベントの準備が進められていた。今回のMCは、ケンが担当するみたいで、スタッフTシャツを着た彼が輪の中心にいてペーパーをみながら皆に指示をしていた。
高齢者テーブルでは、朝練メンバーに加えてチャックが談笑していた。中級者テーブルには、岡山県から参加していると言っていたサトエがノートを見ながら、不安そうにポツンと一人で座っていたので、彼女に「Is this seat taken?」この席は空いていますか?と聞いた。
彼女から「No, it isn’t. You can use it.」いいえ、使っていません。どうぞ座ってください。といわれて、隣に座った。
鍵:「How’s learning English going?」英語の学習はどうですか?
サ:「Good. You?」うまくいっています。あなたは?
鍵:「Me too. Thank you.」僕もだよ、ありがとう。
サ:「Good for you.」それは、良かったです。
鍵:「Can I look at the paper?」その紙を見せてくれる。
サ:「Sure. Here it is.」どうぞ、はい。
鍵:「When did you talk your grandfather last?」おじいちゃんに最後に会ったのは何時?
サ:「Maybe it’s when I was in the junior high school, I think.」多分、私が中学生の時だったと思います。
鍵:「You’ve always liked him. right?」おじいちゃんの事ずっと好きなんだね。
サ:「Definitely, yes. He was a kind person. I’ve never seen him angry. I miss him.」はい、その通りです。とてもやさしい人でした。怒っているのを見たことがないです。おじいちゃんが恋しいです。
そうだ、このイベントの時は日本語を使ってもOKなんだと気づいて日本語で話しかけた。
鍵:「少し緊張していますか?」
サ:「はい、とても緊張しているのです。」
鍵:「私は先週自己紹介をしましたが、やはり少し緊張しましたよ。」
サ:「フィリピンの先生からシゲの自己紹介は面白かったって聞きました。緊張を和らげるコツを教えてください。」
自己紹介では発音や文法上のミスをする事が大切!
鍵:「そうですね。コツは上手く教えられないけど、僕は発音や文法で沢山のミスをしたことで、その後いろんな人から声を掛けて貰えるようになり、楽しく毎日を過ごしていますよ。」
サ:「どういうことですか?」
鍵:「私はネイティブみたいな発音で文法も完璧な自己紹介をする人は、凄い人だと思いますが友達になりたいとは思いません。もし、話をするなら楽しい人がいい、おおらかな人がいい。」
サ:「そう思います。私は英語をストイックに勉強している人とはなるべく距離を置くことにしています。何故かというとそういう人たちと話をしていていると、発音や文法でのミスをその場で指摘したりするからです。私は10代だから仕方なのですが、明らかなマウンティングを受けることが多いです。」
鍵:「マウンティングって今の若い人たちは普通に使うようになったね。僕らの時代は上から目線と言っていましたよ。僕は高齢者なのでダイレクトに指摘された経験はないけれど、そういう人たちはこちらの間違いを発見すると、あんた大丈夫かってあきれたような顔をするのですよ。」
サ:「はい、私の後輩にそんな子います。」
鍵:「ここでも最近そんな経験をしましたよ。学習者と話している時に「I’m excited.」というところを「I’m exciting.」と間違って使ってしまったら、明らかにそのような顔をされました。そんなことがあったあとは、その人と話すときは発音や文法のミスをしないことに集中しなければならないので、話をすることが苦痛になってしまいますよ。」
サ:「私も同じミスを今朝やっちゃいました。I’m scared.をI’m scary.と言ってしまいました。先生には、私って怖い人よ!って伝わったかもです。」
鍵:「それって間違いやすいですね。レッスンで間違えて使ってしまって、テキストの”Shocking pink”は間違いという解説を読まされましたよ。私にとってはショッキングでしたよ。わっはっは」
サ:「うふふ。」
鍵:「私は折角スタディアブロードとしてマニラに来ているのだから、出来るだけ多くのフィリピン人と会話を楽しみたいですが、その場合でも明るい性格で話題が豊富、それに英語のミスに寛容な人がいいです。
英語はコミュニケーションツールなので、思いや話の内容が相手に通じればそれでよしなので。」
サ:「そういえば、フィリピンの先生が “私は英語ネイティブではないので、新しい単語や表現方法が変わってくるので日々勉強しても追いつかない、生徒さんの方から教えて貰う事も多い”と英会話を教えることの難しさを話してくれました。言われてみれば、言葉は生き物ですから。」
鍵:「私は今の若者の言葉は分かりませんよ。」
サ:「そうでしょうね。私も今の高校生の使っている言葉は分かりませんから。」
鍵:「えっ、そうなんですか。笑うしかないですね。」
サ:「そうです。アニメからどんどん新しい言葉が生まれてきているようなのです。」
鍵:「そうですか。話がそれてしまいましたが、僕は自己紹介に関しては、凄い人と思われるよりも、付き合いやすい人、楽しい人と思ってもらえる為のプレゼンと考えています。ですから私の自己紹介を聞いて、この人と話がしてみたいと思ってもらえることが出来たらプレゼンとしては成功だと考えているのです。
だから間違えても良いのですよ。英会話能力よりも人間性を披露する場なのですから。そう考えると肩ひじを張らずに自然体でいられますよ。
先週はそんなプレゼンをしました。そして、今多くの人から話がしたいというオファーがあり会話を楽しんでいますよ。
しかし残念ながら会話はほとんど日本語なので、日本にいるのではないかと錯覚しちゃいそうで困っていますよ。わっはっはっはっ。」
サ:「ありがとうございます。凄く気が楽になりました。」
鍵:「サトエ、リラックスした可愛い顔に戻りましたよ。それに岡山のふるさとTシャツも凄く似合っている。明るく話すと岡山のアピールになるよ。自己紹介を楽しんでね。」
サ:「はい。岡山の観光案内気分でやってみます。応援してください。なんか、シゲが大好きだった祖父のように見えてきました。」
鍵:「それは良かった。Have fun!」楽しんでね。って言いながら私が右手の人差し指と中指でうまくいくようにという意味の「fingers crossed.」サインをしたのを見て、サトエが笑顔で私にウインクをしてくれた。
作務衣を着たおやじの自己紹介
自己紹介イベントの開始をケンが告げて英語で話し始めた。それによると、今日の発表者は二人の様だ。そうすると一人はサトエでもう一人は、私と同年代のおやじだ。
初めにおやじが紹介されて立ち上がったがその服装に驚かされた。彼は作務衣さむえをきてスタンドマイクと譜面台が設置されているところまで手ぶらでゆっくり歩いてきて、一礼して自己紹介が始まった。
しかしネイティブの様な発音とスピードで話すのでほとんど聞き取れなかった。それに加えて聞いたこともない単語が何度も出てくるので、内容を聞き取ろうとすることをあきらめた。
ケンの解説によると彼の名前はカズミで横須賀に住んでいて、パナソニックの電気店を経営している。その店を創業したのは父親で高校卒業して家業を手伝った。彼は英語の先生になりたかったが、長男なので家業を継ぐ以外の選択肢はなかった。若いころは趣味もなく仕事一筋で一生懸命に生きてきた。その為妻と一緒に旅行に行ったこともなかったが、妻の勧めもあって陶芸を始めてからは日本中の窯元を訪ね歩いている。
そしてボランティアとして奥様と一緒に在住外国人に日本語を教えたり、観光スポットを案内したりして、地元との人との交流が出来るように尽力している。
今では息子夫婦が店を切り盛りしてくれているので、今年中に息子に会社を譲って隠居しようと考えている。
そして市民ティチャーとしてボランティアで英会話を日本の将来を担う中学生に教えたいと思っている。しかし中学校で英会話を教えるためには資格が必要という規定があるので、英検1級を出来るだけ早く取得したい。
地元には米軍基地があり軍人さん達が利用するカレー屋さんでバイトをしていたので、ネイティブの英語に多く触れることが出来たことで、スピーキングとヒヤリングには自信がある。
しかし、ライティングとリーディングについては強化する必要があると感じているので、こちらで先生方のレッスンを毎日8時間受講して力をつけたい。家族も応援してくれているので、一生懸命頑張って自分の夢を実現したいという事だった。
日本の文化と焼き物の魅力について英語で熱く語った。
その中で彼は好きな焼き物が備前や益子であり、陶芸家としては濱田庄司の作品が好きだと話していたから素朴なものが好きなようだ。
そして最後に、地元横須賀の桜の名所の安針塚についても説明した。彼によると三浦按針は英国人でウイリアム・アダムスといい、徳川家康の家来となって領地を与えられ、外交顧問として砲術、造船術、航海術などの西洋文化を伝えた人という事だった。
自己紹介後は割れんばかりの拍手と鳴り物に包まれながら上級者テーブルに戻って行った。その場所でケンとカズミは暫くのあいだ話をしていた。スピーチの内容を確認しているようだった。
後日談だが彼の英会話はスラングやネイティブが使う慣用句が多くて、英語上級者の彼でも、フィリピンの先生にも分からない単語やフレーズがあったそうだ。
私が確認できた慣用句だけでも「Good chemistry.」相性がいい。「The world for me.」私にとって全てだ。「Hit the books.」一生懸命勉強する、というのを使っていた。
だから私レベルでは話の内容がほとんど聞き取れなく当然だと安心した。
それにしても彼のスピーチは流石に素晴らしくネイティブのようであったし、彼は私はこんな慣用句も知っているんだと自慢が出来て満足しているように見えた。確かに凄い人だと感心させられたがその割には拍手と鳴り物が少なかった気がした。
司会のケンがスタンドマイクのところまできて、カズミのスピーチについて日本語で解説するとともに英語で感想を述べた。作務衣と話の内容がマッチしていて、素晴らしかったとケンも私と同じように感じたようだった。
私は、サトエに備前なら岡山だからアピールのチャンスだねって告げた。
10代のサトエの自己紹介
ケンがサトエを紹介し始めた、サトエは笑顔だしリラックスしているように見えた。私は「I’m on your side. Have fun.」応援しているよ。楽しんで。と言ってグウタッチして送り出した。
サトエは名前を呼ばれて「Thanks Ken.」と言って立ち上がって、スタンドマイクのところまできて、譜面台にペーパーを置いてから一礼してスピーチを始めた。
笑顔でゆっくりとそして簡単で短いセンテンスと単語を使って話しているので、私でも内容が聞き取れた部分が多かったし好感が持てた。
彼女のスピーチの内容は、サトエという名前で19歳。現在、専門学校の観光コースの生徒で岡山県に父親と祖母と暮らしている。
彼女の名付け親は祖父であり、彼女は祖父が大好きでした。祖父は、市役所に勤めていて、趣味は英会話でした。それで休日はボランティアでツアーガイドをしていた。
私は祖父からツアーガイドの楽しさと英会話を教えて貰った。
祖父は外国人を家に泊めてあげたりすることもあったので、その人達が帰国した後も何人かと手紙のやり取りをしていた。
そんな祖父の姿をみていて、子供のころから祖父のように英会話が話せるようになってボランティアが出来るようになりたいと思っていた。
この春から地元の観光協会に就職が決まっている。
観光協会で働きたいと思ったのは、母が観光協会で働いていたと聞いていたからだ。
母は彼女が子供のころに亡くなったので、よく覚えていないが母と同じような仕事をしたいと思っていた。
そして岡山は、観光資源に恵まれているので、岡山県の旅の楽しみ方を案内したい。
例えば、天空の山城の備中松山城、日本三大庭園の岡山後楽園、倉敷美観地区、日本刀好きの方には、備前長船の資料館、焼き物なら備前焼、チョット足を延ばしてお隣の島根県の出雲大社と足立美術館の日本庭園も魅力的です。
そして、ボランティアとして、地元の窯元や商店街の人達に英会話を教えたい。あっ、すいません。ツアーガイドみたいになってしまいました。皆さん、岡山に遊びに来てください。その時は私が案内します。という内容だった。
始終笑顔で素晴らしいスピーチだった。時折、ペーパーを見ることもあったり、言葉に詰まったりした場面もあったがその都度、ペロッと舌を出すしぐさも可愛かった。「Keep it up.」や「頑張れその調子」という声に励まされて最後までやり切った。
割れんばかりの拍手と、鳴り物の中をサトエは、中級者テーブルに戻って来た。私はサトエとグウタッチをして席を立ったが、彼女の周には沢山の人が集まっていて、ハイタッチを交わしていた。
そのことがプレゼンの成功を物がたっていた。サトエ良かったね、と、おじいちゃんの顔になって食堂を後にした。
その日のイベントは日本語での解説と英語による講評及び司会者のケンの挨拶で終了した。
備前焼を英語で説明
マーガリンに成田で録音した飛行場でのアナウンスの書きおこしをお願いしようとしたら、最初の一時間はウクレレの朝練の話になってしまった。
そして後半の一時間は今日の自己紹介の話題となってしまったので、私の持参した本でのレッスンはページも進まなかった。
しかし備前焼についてインバウンド来日された方に英語でどのように説明すればよいのか一緒に考えるというレッスンは勉強になった。
マーガリンから教えて貰ったように、分割して細かいところは気にしないで簡単な文章として説明文を作ってみた。
「The production area of Bizen ware is around Bizen city, Okayama Prefecture.」備前焼は岡山県備前市周辺を産地とする。
「One of the six old kilns in Japan.」日本六古窯の一つだ。
「It uses no glaze and does not draw pictures.」備前焼は釉薬を使わないし絵も描かない。
「It takes many days to fire.」焼成に何日もかかります。
「History goes back to the Kofun period.」歴史は古墳時代まで遡ります。
「It made of local pottery soil.」備前焼は地元の陶土で出来ている。
※「made of.」は、見て材料が分かる時で「made from.」は、見て材料が分からない時。と彼女が教えてくれた。
「Each one is handmade.」一つ一つ手造りです。
「It is used as a daily necessities.」実用的な日用品として使用されています。
「The color changes and becomes beautiful as you use it.」使用するにつれて色が変化し、美しくなります。
「So no one is the same.」同じものが一つもない。
「Please enjoy the charm in your daily life.」その魅力を日常生活で楽しんでください。
これぐらい説明が出来ればよいらしい。
マーガリンはベテランだけあって、フレーズをただ暗記させるだけなく確り考えさせるレッスンをしてくれるので、発音や文法のミスには鬼のように厳しいけど先生としては優秀だ。
マーガリンとのレッスンの後、lineをチェックしてみると、今日も代官からの沢山猫の写真が届いていた。
毎日大量に来るので、適当に見て返事を送信していたが、その中に日曜日の施設の見学について尋ねる内容があった。
それを見てハッとさせられた。そういえばまだフルーツに聞いていなかった。夕食時には必ず聞いて代官に送信しなければならないと、今日やる事リストに追加した。
チャックの行動力にビックリ!
夕食にはまだ間があったが早めに行って事務室にいるフルーツに会った。そして日曜日の高齢者施設の見学について相談させて貰ったらパンフレットを手渡してくれて、日曜日なら何時でもOKとの快諾を得ることが出来た。
食堂の高齢者テーブルに腰かけてパンフレットの外観写真や間取り図を写真に撮って、Lineでメッセージと共に代官に送信したらすぐに返信があった。
内容としてはイベント後に見学をさせて欲しいという事だったので、その旨を事務室に戻ってフルーツに伝えた。
食堂ではスタッフが料理を並べ始めているところだったので、学習者はまだ誰も来ていなかった。私は高齢者テーブルでパンフレットをぼんやり眺めていた。
シ:「Hi! Shige. What are you doing?」やぁ、シゲ。何しているの?
鍵:「Yeah! ショウコ。フルーツから貰った高齢者施設のパンフレットをみているんだが、フルーツの旦那が経営している施設は、アクティブシニアハウスなんだね。」
マ:「シゲも探しているのかい?」
鍵:「いや友達が探しているという事だから、日曜日のイベントを観に来てくれた時に施設を案内して貰う予定なんだ。」
マ:「そうなのか。ところで僕らは明後日の木曜日に、ウクレレの練習会をするんだけどシゲも来ない?」
シ:「そうね。シゲが来てくれると心強いわね。」
鍵:「えっ、どこまで行くの?」
シ:「この間チャックが連れて行ってくれたお店よ。二人で初心者向けにウクレレのレッスンをするのよ。午前中だけだけど。」
鍵:「凄いなぁ。誰に教えるの?」
シ:「店主とチャックの知り合いから始めるらしいわよ。」
マ:「店主家族もウクレレを始めるらしい。」
鍵:「面白そうだね。ところで、ウクレレはどうするの?」
シ:「チャックがお店にプレゼントするそうよ。やるわよね、彼女。」
マ:「スラム街から脱出することが出来た人達を中心に、ウクレレの会を作るらしいよ。ゆくゆくはメイドさん達にも参加して貰いたいんだって。」
鍵:「チャックの行動力は凄いね。金曜日は英会話のレッスンがあり、キャンセルするわけにはいかないので僕はパス。」
シ:「あら、私たちもレッスンはあるわよ。そして、キャンセルしないわよ。先生をタガログ語の通訳として連れてゆくの。スクールにはチャックが話を通してくれたわ。」
鍵:「ひぇ~。やることが大胆だね。参りました。でも、やっぱり僕はパスという事で。それにしてもスラム街の子供たちに教えるのではないんだ。」
マ:「僕もそんな風にチャックに言ったら。馬鹿なこと言わないで、彼らは食べるのが必至でそんな余裕はなんてないって一蹴されちゃったよ。
彼女曰くスラム街の子供たちを救うには、彼らのブレッドオーナーを稼げるようにさせる事が先決なのだそうだ。」
シ:「今日生きるか死ぬかという貧困は、私たちの想像をはるかに超えているそうよ。その現実に寄り添うと人生観もなにもかも変わってしまうので、生半可な覚悟なら踏み込んではいけないと、彼女は言っていたわ。」
鍵:「僕にはそんな覚悟はないので、関わらないようにするよ。」
途中でチャックも参加してくれて、亡くなったご主人が「もし世界が100人の村だったら」という本から抜粋して “もし銀行に預金があり、お財布の中にお金があり、家のどこかに小銭が入った入れ物があるなら、あなたは世界の中でもっとも裕福な上位8%のうちのひとりです” そのことに感謝しなくてはならない。と何時もいっていましたわ。
そして、恵まれているあなたは、恵まれない人の為に力を貸してあげなければならない。しかし大切なことはただ物やお金を渡すだけではダメで、技術などを教えることが大切だ。
そしてスラム街の現状についてレクチャーを受けた。そんな話を聞いてみると普通に食事が出来るありがたさを痛感させられた。チエとユリは我々が深刻そうな話をしていることを察知して、会話には加わってこなかった。
4人に、僕の部屋で後ほど会いましょうと言って席を立った。そしてトレーを片付けるために歩き出したときに、サトエが立ちあがって“Thank you for the directions, Shige”という声を掛けてくれた。
サトエは “指示をありがとう” という意味でこのフレーズを使ったようだが“Advice”の方がしっくりくるけどなぁ。なんて、一瞬マウントを取ってしまった。いけねぇ、いけねぇ。とすぐに反省した。
それにしても彼女の周りには自己紹介前にポツンと一人でいたのとは大違いで、沢山の仲間達がいて会話を楽しんでいた。
僕は彼女に向けてサムアップして心の中で良かったねサトエちゃん、といいながらやさしいおじいちゃんの顔になって食堂から部屋に向かった。
ナイトウクレレ練習会
開け放しているドアからショウコが “いいかしら”と言いながら手ぶらで入ってきた。その後からお供のようにウクレレ2台を背負って、両手にビニール袋を抱えたマサシが入ってきた。
マサシが、手に持ってきたビニール袋のなかみは飲み物とお菓子で、それを皆でいただきながらウクレレの練習をするという彼の思いだったようだが、実際にはそうはならなかった。
ショウコの第一声はチャックを誘ったけど断られちゃったのだった。それは何よりだったと胸をなでおろした。
彼女に来てもらったらウクレレの練習どころではなくなってしまうので、来てほしくないというのが本音だが。そこは、大人の対応として。
鍵:「そうですか。それは残念だね。チャックは他に予定があったの?」
シ:「いいえ。彼女は音楽が大嫌いだからだって。」
マ:「そういえば、チャックはカラオケのイベントにも来たことないな。」
ごめん、ごめんといって、ユリとチエが部屋に入ってきた。
チエがウクレレを背負って、手にはもう一台のウクレレを持っている。そして、ユリが大きな袋を背負っていた。
色白でこぢんまりしたチエと大きな袋を担いだ恰幅のよいユリが白うさぎと大黒様に見えて、笑いをこらえるのに苦労した。
鍵:「その袋どうしたの?」
ユ:「マーガリンから借りたのよ。」と言いながら、袋から取り出して見せたのは着物だった。
鍵:「それどうするの?」
ユ:「高齢者施設での慰問の時に、使えればと思って借りてきたのよ。浴衣セット。」
チ:「踊りたいですわ。」
マ:「♪ふるさと♪と♪赤とんぼ♪を我々がウクレレで演奏して、二人が歌うって聞いていますが?」
チ:「そうなんだけど、シゲは東京音頭を弾けないかしら。」
鍵:「楽譜があれば弾けると思うけど・・・・。」
ユ:「けど?」
鍵:「彼らに聞いてみないといけないだろう。」
ユ:「シゲが英語の歌を弾き語りする予定のところを、東京音頭に替えてくれたら嬉しいわ。日本人の高齢者の人達だって一緒に歌えるし踊れるわよ。きっと、それに浴衣を見て日本を懐かしんでくれるといいじゃない。」
チ:「そうよねぇ。童謡を歌う時もジーパンにTシャツよりも浴衣の方が喜んで貰えると思いますわ。マサシ君もそう思うでしょう。チョットこれ着てみて。」
その言葉に促されて、マサシが浴衣を着た。
シ:「マサシ君、似合うよ。浴衣が短いから西郷さんみたいでかわいい!」
マ:「おいどんは、マニラが好きでごわす!って、あそこまで太ってはないとは思うけど、似ているって言われたことはあるよ。」
ユ:「ウケるわ~。マサシ君は眉毛が濃いからじゃない。その恰好で東京音頭踊ったらどう、踊れる?」
マ:「僕らの年代は、みな東京音頭は踊れるはずだよ、小学校の運動会でやったから。」
鍵:「そういえば、クラスの女の子達と待ち合わせして、町内会の祭りで踊ったなぁ。」
シ:「だれか浴衣を着せられる人いるの?私はむり、角帯だって締められないわ。ユリとチエはどう?」二人とも首を横に振っている。
ユ:「この中にはいないようだわね。これ借りる時にフルーツに聞いたら必要なら探してみるっていってくれたわ。」
シ:「チャックとかできそうよね。今Lineしてみるわね。それに自己紹介で作務衣着ていた人とかに聞いてみない?皆で探しましょうよ。なんだか学園祭みたいになってきて、わくわくしてきたわ。シゲは心当たりない?」
鍵:「マニラで働いている日本人の知り合いに、誰かいないか聞いてみるよ。それにしてもこの盛り上がりじゃ、東京音頭は確定みたいだね。ノートパソコンで動画を一緒に見て練習しよう。」といって、ノートパソコンで東京音頭のウクレレ演奏動画を見ていたら、女性たちはいきなり踊りだした。そして、マサシもショウコに呼ばれて参戦したが、部屋が狭いのでその場で踊るしかなかった。
その日のナイトウクレレ練習会は、一度もウクレレを弾くことなく終わってしまったが、ショウコの指示で役割分担が決まったことでみなが学園祭のノリになってきた。
それにしても、盆踊りは日本人のルーツだという事を再確認した夜だった。しかし、そんななかでも練習会の最後に、イベントとはまったく関係ない炭坑節を踊ってお開きとなるなんてもう笑うしかなかった。
着付けの出来る人探しは、早速ショウコが動いてチャックにlineをしてくれたが、彼女から “着付けなんて出来ないという” 返事が来た。
私も代官にlineをしてみたら日本人スタッフにはいない。フィリピン人スタッフに自分で和服を着ることが出来る人がいるけど、日曜日に高齢者施設まで来てくれるかどうかわ分からない。という返事だった。
それで、我々のメンバーの中では英会話スキルが一番高いショウコが、明日の朝、作務衣で自己紹介したおやじに聞いてみることになった。
私の役割はノートパソコンで東京音頭の楽譜を探して、メモリスティックに入れて、明日の朝チエに渡すことだった。
チエは、事務室で楽譜をコピーして貰ってメンバーに配り、ユリは書道の経験者として、ふるさとの歌詞を模造紙に書くということになった。一方、マサシは役目を与えられなかったことでしょんぼりしていた。
着付けのできる人は意外な人だった。
翌日早めに食堂に行くと事務室のドアが開いていて、チエとユリがフルーツと話しているのが見えた。私は、3人に挨拶をしてメモリスティックをチエに渡し、その会話に加わったが会話の内容が出産についてだったので、軽く会釈してその場から高齢者テーブル席に移った。
高齢者テーブルと中級者テーブルにはまだ誰もいなかった。トレーを手に料理を選んでいる時に、ショウコとマサシがやってきて、少しだけ挨拶を交わした。
そしてマサシは高齢者テーブルに腰を下ろして、チエとユリと筆談を始めた。ショウコは上級者テーブルに向かっていって、一人で食事をしている作務衣おやじに声を掛け隣に座って話を始めた。
しばらくして、彼女が肩をすくめるしぐさをしたので、作務衣おやじも着付けは出来ないのだろう。しかしその後ショウコがサムアップしたのでその意味が分からなかったが、彼女はおやじに会釈してガッツポーズと共に高齢者テーブルに戻ってきた。
彼女の話によるとやはり作務衣おやじは着物の着付けは出来ないという事だった。そして、そのガッツポーズの理由は、このスクールの学習者で一人、和服を自分で着れる女性がいるという情報を貰えたからだった。
そしてその彼女の名前は失念しちゃったけれど、彼と同じ日に自己紹介をした女性なのだそうだ。
そうすると、サトエだ。と、すぐに分かった。
でも、どうしてだろう。
しばらくしてサトエが食堂にやってきたので、私が呼び止めて3人で話をしたが、ショウコは私が口を挟む余地を与えてくれなかった。
ショウコとサトエの会話によると、彼女の通っている専門学校の観光コースでは、日本文化の授業がありその中で着付けも学んだので、自分で着物を着られるようになったそうだ。
サトエは慰問の話を聞いて快く着付け係を引き受けてくれたが、日曜日に8時間、英語の授業を入れているので、着付ける場所はこのスクールでということになった。
今朝もマサシとショウコが私の部屋にきて、ウクレレの基礎練習をしたが、二人は4つのコードをちゃんと抑えられて、童謡の “ふるさと”もゆっくりなら弾けるようになっていた。
この分なら施設のイベントでふるさとを一緒に演奏することが出来そうだ。
二人は弾きながら歌えるようになるというのを次の目標としていると、ウクレレ上達スケジュール表を見せてくれた。
そしてその次のステップは楽譜を見ないで弾き語りが出来ることだそうだ。しかし、この分だとイベントの前には達成出来ちゃいそうだ。そして驚いたことにこのウクレレ上達ステップアップ計画表を作ったのはマサシという事だった。
彼がスマホのExcelで作成した表はこの他にもイベント分担表があり、事務所で印刷して貰ってコピーを私にもくれた。
ショウコはコンピューター音痴なので、彼のそういったところを尊敬しているそうだ。
おしゃべりで仕切り屋のショウコと無口で職人肌のマサシがうまくやれているコツが少しだけ理解出来た気がした。
この分担表はチエとユリの意見も聞きながら作成し、彼女らはこの表に沿って模造紙の買い出しに行ったそうだ。本当に学園祭のようになってきた。
イベントのlineグループ
ジャムからは、レストランへの予約や注文と床屋での英会話をレッスンして貰った。
ランチの時に、チエとユリと筆談で話をしたときに、ショウコとlineで友達になったという事を聞いて私も友達に加えて貰った。
そうしたら早速マサシからLineでウクレレイベントグループへのメンバー登録のお誘いが来た。それをクリックしてメンバーに加わった。
チエの話だとマサシがこのグループを作成しマーガリンを招待。そしてビーナス、大門、クマにも加わってもらうのだそうだ。そして、練習動画を共有したり、会話をしたりするのだそうだが、SNSの使い方は若者のようだと感心させられた。
ショウコが役割分担をマサシに指示しなかったのは、彼なら自主的に自分がやることを見つけてくれると信じていたからだろう。
そう考えるとショウコの仕切り屋、いやリーダシップ能力は高い。流石にペンションを差配しただけの事はある。
それぞれが今までの人生経験の中で身に着けてきた得意分野を生かして、イベントを成功させたいとい思いが強くなった。
マーガリンの協力で早々にlineのグループにビーナス、大門、クマが加わったので、マサシが東京音頭の楽譜を写真に撮ってlineにポストした。
それを見て彼らから英語で届いたコメントに、マサシが丁寧に答えてくれた。彼は英語は話せないけど読み書きは得意そうだ。
そして土曜日の午後にフルーツの家で練習することが決まった。
機内アナウンスレッスン
マーガリンのレッスンは、私が録音してきた空港でのアナウンスを書き移すことから始まったが本当に難しい。
スペルの間違いを何度も指摘された。
Good evening, ladies, and gentlemen.
Welcome aboard Jetstar Airlines flight 36 to Manila.
Your pilot today is Captain Ichiro Yamada, and my name is Hanako Suzuki.
Your senior cabin crew on this flight. We are now ready for departure. Please make sure that your seat belt is securely fastened. Our flight time to Ninoy Aquino International Airport is expected to be 4hour and 35minutes.
Your cabin crew are looking forward to serving you.
We hope you will enjoy your flight with us. Thank you.
皆さまこんばんは。今日もジェットスター36便、マニラ行きをご利用くださいましてありがとうございます。
この便の機長は山田一郎、私は鈴木花子でございます。皆様の客室乗務員です。まもなく出発いたします。
シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。ニノイアキノ国際空港までの飛行時間は4時間35分を予定しております。
お気軽に乗務員に声をかけてください。
それでは、ゆっくりおくつろぎください。
マーガリンから発音のコツとして「Ladies.」から「and.は、“Ladiesnd”となり。「Gentlemen.」は、ジェントルメンではなく、ジェロメンとなるらしい。従って、レディスアンジェロメンと聞こえるし発音する。
その他語尾を下げるとか一呼吸置くとか色々と教えて貰ったが私にはタフなレッスンだった。
それでも、何回か自分でセンテンスを読むうちに録音の内容が聞き取れるようになった。
次回は着陸時の機内アナウンスにトライすることに決まった。宿題は、この離陸のアナウンスを3回書き取りして、3回吹き込むことだった。どんどん宿題が多くなるのは、もうあきらめるしかない。
フィリピンで散髪「keep the change.」
マーガリンとのレッスン後に近くの商店街に向かった。床屋は2軒あった。一軒は、チョット大きめの理髪店でもう一軒は本当に小さな個人商店だった。先生に相談した時は、ショッピングモールの中の理髪店の方が安心だと言われていたのに、一番小さな理髪店を選択したしまった。
それはその方がわくわくしたからだった。
サインポールは日本と同じものがクルクル回っていた。店内を覗いてみると理容椅子が二つあり客は一人だけだった。
外に椅子が何客も並んでいたので、椅子に座って待っていると店主が声を掛けてきて、中へ招き入れてくれた。
店:「Do you speak English?」英語を話しますか?
鍵:「Just a little.」少しだけ。
店:「Okay, Are you Korean?」分かりました。あなたは韓国人ですか?
鍵:「No, I’m Japanese.」いいえ、日本人です。
店:「Is that so?」そうなのですか?
鍵:「Yes, that’s right. Do I look Korean?」はい、その通りです。韓国人に見えますか?
店:「I’m so sorry. I like K-pop. I’m studying Korean now.」大変申し訳ありません。Kポップが好きなのです。今、韓国語を勉強しています。
鍵:「Nice!」素晴らしい!
店:「I want to go to Korea and see K-pop.」韓国旅行に行ってKポップを観たいのです。
鍵:「I hope you can go.」行けるといいですね。
店:「Did you get a job in Manila?」マニラは仕事ですか?
鍵:「No, I’m studying English conversation.」いいえ、英会話の勉強です。
店:「Seriously?」マジですか?
鍵:「Yes, true.」はい、そうです。
店:「Excuse me, how old are you?」失礼ですが、おいくつですか?
鍵:「I’m 64. 」64歳です。
店:「I was surprised. You are the same age as my father. Why do you study English conversation?」驚きました。あなたは私の父親と同じ年です。どうして、英会話を勉強するのですか?
鍵:「It’s one of my hobbies. 」私の趣味の一つだからです。一瞬、東京オリンピックでボランティアをやるからと答えようと考えたが、会話が複雑になるからと、思って適当に答えてしまった。
店:「How about studying.」勉強の方はどうですか?
鍵:「I’m tired.」疲れます。
店:「Doing what?」どうして?
鍵:「Homework. I dislike it.」宿題。私は宿題が嫌いです。
店:「Me either.」私も嫌いです。
鍵:「How about studying Korea.」韓国語の勉強はどうですか?
店:「I’m busy.」忙しくて。
鍵:「Working?」仕事で?
店:「Video game.」ビデオゲーム。
鍵:「I see.」なるほど。
店:「Wow. Oh sorry. What kind of hairstyle do you want?」わあ~。あぁ、すみません。どんな髪型にしますか?
鍵:「Please do it like that.」あんなふうにしてください。といって、写真を指さした。
店:「Is this hairstyle okay?」この髪型でいいですか?と写真を指さした。
鍵:「Yes, it is.」はい。
店:「Do you want shampoo?」シャンプーをして欲しいですか?
鍵:「No, I don’t.」いいえ。
店:「What do you do with sideburns?」もみあげはどうしますか?と言いながらもみあげのところを指さしたので「sideburns.」がもみあげだとわかった。
鍵:「Make it the same length as that photo.」あの写真と同じ長さにしてください。
店:「I understand.」分かりました。といって、カットを始めた。
鍵:「Do you know any Japanese singers?」日本人の歌手を誰か知っていますか?
店:「No, I don’t know. I know Yuta Tabuse. Do you know him?」いいえ、知りません。私はユウタタブセを知っています。あなたは知っていますか?
鍵:「No, I don’t know. What is he doing?」いいえ、知りません。何をする人ですか?
店:「He is Japanese. And he is the first NBA player. I’s amazing that he became a NBA player even though he was short.」彼は、日本人です。そして、日本人初のNBA選手です。身長が低いのにNBAの選手になったというのが驚きです。
鍵:「What’s NBA? 」
店:「NBA stands of National Basketball Association.」NBAはナショナル・バスケットボール。アソシエーションの略です。
鍵:「I see. Do you like basketball?」なるほど、バスケットボールが好きなのですか?
店:「Of course, I do. The most popular sport in the Philippines is basketball. The dream of Filipino boys is to become a professional basketball player. 」勿論、そうです。フィリピンで一番人気のあるスポーツはバスケットボールです。フィリピン人の男の子の夢はプロのバスケットボール選手になる事です。
鍵:「Is that so. I didn’t know that.」そうですか。知りませんでした。
知っていたが知らないふりをしてみた。
店:「What is the most popular sport in Japan?」日本で一番人気のあるスポーツは何ですか?
鍵:「Lets me see. I’m not sure. I think it’s soccer or baseball.」えーと、良くわかりません。多分、サッカーか野球だと思います。
店:「Is basketball in Japan?」日本ではバスケットボールは人気がないのですか?
鍵:「I guess so.」おそらくそうだと思います。
店:「By the way, What kind of hairstyle is popular in Japan?」ところで日本ではどんな髪型が流行はやってますか?
鍵:「I’m not sure. I’m not interested in hairstyles.」良くわかりません。私は髪型に興味がないから。
と、ほとんど会話がかみ合わないまま、カットは終わった。
店:「That’s all. It’s 80 pesos. 」これで完成です。80ペソです。
鍵:「Thank you. It’s one hundred pesos. Keep the change. 」ありがとう。100ペソです。お釣りは取っておいてください。
といって、床屋を後にした。並びにあるキヨスクみたいなお店で、ミネラルウオーターを5本買って部屋に戻り、ユウタタブセでググってみると、田臥たぶせ勇ゆう太た1980年10月5日生まれ。日本の男子プロバスケットボール選手。ポジションはポイントガード。神奈川県横浜市金沢区出身。日本人初のNBAプレーヤー。身長173cm、体重76キロ。
身長の表記は間違っているのではないかと感じた、だって私の認識ではバスケットボール選手といえば2メートル近くある大男がぶつかりあうスポーツというイメージがあるからだった。
それにしても、私と同じ位の身長の人がアメリカでプロバスケットボール選手になれるなんて、驚きとともに少しだけバスケットボールに興味が湧いてきた。
作務衣おやじは世界の松下?
夕食での話題は、もっぱらウクレレの話だった。
シ:「You look great! Did you get a haircut? Shige. 」シゲ、素敵!髪切った?」
鍵:「Thank you. I got my haircut yesterday.」ありがとう。昨日床屋に行ってカットして貰ったんだ。」
玉:「It suits your hairstyle.」似合っているわ。
鍵:「I also like it.」私も気に入ってます。
ユ:「どうやって頼んだの?えーとHow do you sayどうやって頼んだのですか? in English?」
マ:「How did you order? 」
鍵:「ごめん!日本語でいいかな?気に入った髪型の写真を指さしただけだよ。床屋に行く前にジャムにレッスンして貰ったんだけど、その方法が一番伝わるって教わったから。」
マ:「それなら、僕も出来そうだ。」
シ:「そうよ。マサシ君もカットして貰ってきたら?」
鍵:「髪を染めて貰うといいよ。」
玉:「冗談がきついんじゃないかしら。」
マ:「いやぁ。みんなノリがいいな。」
鍵:「それって、立派なセクハラだな。ところで、模造紙は入手できた?」
ユ:「いろんなところ探して、やっと見つけたわよ。そして、“ふるさと”の歌詞を書いてみたわよ。どう?」
といって、見せてくれたが、ひらがなの文字が美しい。
チ:「ね、凄く上手でしょう!」
シ:「驚いたわ。」
マ:「凄いね。筆ペンも手に入れたんだね。」
鍵:「人は見かけで判断してはいけないという事だな。」
ユ:「シゲ、それって、どういう意味よ。素直に褒めないさいよ。」
鍵:「でも、ほんと、素人の域を超えているよ。」
ユ:「小学生のころから習っていて、たまに展示会にも出しているのよ。」
玉:「本当にすごいわね。どなたか先生に教わっているのかしら。」
ユ:「いいえ、20年ほどお世話になった先生が亡くなってしまってからは、誰にも教わっていないわよ。でも、紫舟さんの書が好きだから機会があれば、教わりたいと思っているけど。」
シ:「紫舟って知らないわ。誰か知っている?」皆、首を横に振っている。
鍵:「もしかして、NHKの大河ドラマ龍馬伝の字を書いた人?」
ユ:「そうそう、良く知っているわね。」
鍵:「龍馬伝は最初から最後まで見ていて、題字のところに名前が出ていたけど、紫と舟でなんと読むんだろう位にしか思っていなかったよ。」
ユ:「彼女は展示会もやっているから、一度観てみて、独創的で素晴らしいわよ。」
鍵:「そうしてみるよ。」
そんな話をしているところに、作務衣おやじが声を掛けてきた。
作:「すみません。チョットお聞きしてもいいですか?」
シ:「はい、あら、どうなさいました?」
作:「さっきほどのイベントの話なんですけど、参加することは出来ますか?」
シ:「多分、大丈夫だと思いますわよ。あのう、お名前は?」
作:「松下です。それなら是非参加したいです。よろしくお願いいたします。」
チ:「街の電気屋さんで、松下ってピッタリですね。このチラシに、開催場所と時間が書いてありますからどうぞ。」といって、チラシを手渡した。
ユ:「世界の松井っていうアナウンサーいたよね。」
作:「私の名前も同じなので、若いころは『おい、世界の松下たばこ買ってこい』なんてからかわれていましたよ。ちなみに、子供のころは家がナショナルの電気屋さんだったので、妹とセットでナショナルキッズって呼ばれていました。」
鍵:「そうすると、賢次さんなんですか?」
作:「そうです。賢いと次でまったく一緒なのです。」
チ:「ナショナルキッズ、面白いですね。」
シ:「松下さん、あなたから教えていただいた女性に着付けをお願いすることが出来ましたわ。ありがとうございました。」
鍵:「当日はウクレレで東京音頭を演奏しますので、ご存じでしたら飛び入りで踊ってくださいね。」
作:「ありがとうございます。」
と言い残して、松下さんは上級者テーブルに移動したが、このやり取りがあってからは、夕食時は高齢者テーブルに来るようになった。
桶まんが労働規定違反
今日はウクレレのナイト練習会がないので、桶まんを呼び出して話し相手をさせることにする。
鍵:「でませい。桶まんごろう。」
桶:「へい、ご隠居、お呼びでおま。」
鍵:「例のパンダの件じゃが、何か分かりましたかな。」
桶:「へい、そのパンダに親魂が赴任したのが、10年前で任期が終わるのが10年後でござんす。ですから、10年待てば親魂はフリーになりやすから、その時はご隠居のところへ連れてまいりやす。」
といって任期の表を脳に送ってくれた。
鍵:「へぇ、こんなのがあるのですな。パンダの親魂の任期終了は2029年5月10日って10年後じゃありませんか、わしが生きているかどうかもわかりゃしませんぞ。」
桶:「いいえ、ご隠居は10年後も生きてござんす。ご隠居の親魂の任期はその先までありま。あっ。やっちゃいましたでござんす。」
といって、任務表を脳に送ってくれたがすぐに消えた。
鍵:「いや~。205〇年?という事は、わしは随分と長生きするのじゃな。助さん、どうしたのじゃ。」
桶:「あっしら魂は、魂労働基準監督局から派遣されていやす。その為に労働規定を守らなければなりやせん。その中で絶対にやってはいけないのが、任期を伝えることです。それは、寿命を教えることになるからござんす。
その過ちを犯した場合は10年間拘束されやす。もうすぐ、あっしと入れ替わりに、シビルの奴が赴任しやす。
ご隠居とはしばらく会えやせんが、10年後にお会いしやしょう。一つだけ言っときやすが、シビルの奴がまんごろうの担当になると、あっしのように性欲を制御しやせんので、ご隠居のまんごろうは制御不能になりやす。変な女に引っ掛からない様に充分気を付けておくんなせいやし、それでは失礼しやす。Enjoy your life. See you. 」
といって、桶まんの姿は消えてしまった。
何が起こったか訳が分からないまま、宿題をしてベッドで横になってそのまま気がついたら朝になっていた。
Lineで、てんやわんや
朝起きてルーティンをしてから、桶まんを呼び出したが反応がなかった。本当に彼とは10年間会えないんだと考えると寂しい。
スマホに天気を尋ねたりしながら、Lineの着信を確認してみるとイベントについてのやり取りと代官からいつも通り猫の写真が沢山届いていた。
私はウクレレグループlineメンバーのやり取りは見るだけなので気楽なものだ。
それと言うのもフィリピンのメンバーから英語でポストされたものは、マサシが日本語に訳してくれてこちらが日本語でポストしたものは、英語に翻訳してくれているからだ。
しかし代官から大量に来るlineには、 “分かりました”や“ありがとう”承知しました“可愛いね”など、のコメントをいちいちつける必要があるので、このところ面倒だと感じている。
それに私はlineの着信音をミュートにしているから良いが、もしミュートを解除していていたらストレスになってしまうだろう。
そんな風に思っていたらトラブルが起きた。
それは、朝食から始まった。
今朝の食堂での会話は例によって筆談なのでいちいち面倒だ、それに少し離れていると会話に参加できない。それでlineで会話することを思いついて、ウクレレグループlineにポストしたら一気に会話に花が咲いた。
そうしたら今度はlineの着信音が食堂内に響き渡ってしまって、マサシが慌ててみなのスマホのline設定をミュートに変更してくれた。
それにしても良い年下した大人達が隣り合った人とSNSで話をしている光景が子供たちの姿と重なっておかしくなった。
しかしいつも会話の中心にいるチャックはメンバーではないので、会話に加われないことにいら立っているようだった。
マサシがチャックに声を掛けてグループlineに招待し、彼女もメンバーに加わったからさあ大変。
今日のウクレレの練習会の後の昼ご飯はどこで食べる?というような日常会話でグループlineはあふれてしまった。
それに対して、 “日本食が食べたい” とか“飲茶がいいよね”といった内容や、フィリピンの先生との食事はどうするのといったイベントとは全く関係のない会話がどんどんポストされた。
食堂の隣の事務所内からひっきりなしにジャンジャンとlineの着信音が聞こえてくる。どうやらフルーツは、ミュートにしていないらしい。
もしそうだとしたらたまったものではないだろう。
彼女が慌てて事務所から飛びだしてきたので、チエが事務所内で状況を説明する破目になってしまった。
今度は日本語での会話をマサシが英訳したことで、フィリピン人メンバーから今日はウクレレの練習があるのですか?場所と時間を教えてくださいという内容がポストされた。
フィリピンメンバーは、朝からジャンジャン着信音が鳴りやまずにたまったのではないだろうに、内容をチェックして問い合わせてきたのだった。
マサシは、今日のチャイナタウンでの練習会はイベントの為の練習ではなく、初心者レッスンという事を英語でポストした。
それでもフィリピン人メンバーから “今日はランチを持参します”とか“今日は同僚と一緒に食べに行く予定です”といったポストが続いて収拾がつかなくなってしまった。
そして、フルーツから残念ですが私は妊娠しているのでマッサージには一緒に行けませんというポストまであった。
これはチャックが今夜マッサージに行ける?というポストに対しての返事だった。
最終的にはフィリピン人メンバーにマサシが丁寧に説明してくれたので、誤解を解くことが出来た。この時のマサシは凄く頼もしかった。後日、ショウコから、マサシはTOICEで高スコアーを持っていると聞いて、私も少しだけ英語検定に興味がわいた。
マサシの丁寧な説明にもかかわらず、流石に彼らはグループlineへの無意味な書き込みの多さに閉口したようで、途中でグループから一時的に脱退者するフィリピンメンバーも出てしまった。
その人にフルーツが説明をしてくれて、再度メンバーに加わってくれたが、二度と迷惑を掛けぬようにしたいものだと、マサシがスクールグループlineを新たに立ち上げてくれたのでそちらに、会話の場を移したが、普段おしゃべりな人はSNSでもおしゃべりという事を再認識した。
それというのもlineグループで積極的に書き込みしているのは、ほとんどチャックとショウコとユリだった。
私は今日のチャイナタウンでのウクレレ練習会に同行する先生がオナベのジャスミンという部分に反応して、オナベって何?と書き込みしただけだったし、チエもそれに対して私も良く知らないという書き込みだけだった。
朝食後は、マサシとショウコは東京音頭の楽譜をチエから受け取って、チャックと一緒にチャイナタウンの料理店に向かった。
タクシーは予定の時刻に食堂の前にきて、lineで話していた通り3人とチョット大柄なオナベのジャスミンを乗せて出発した。
私はlineスクールメンバーと共に手を振って見送りをした、ひょんなことからゲイのビーナスも練習に加わることになったようだが、ジャスミンとどういう会話になるのかがとても気になった。
日本人を嫌いなフィリピン人には注意!
ジャムとのレッスンは床屋へ行ったことの報告と♪Take me home country roads♪の歌詞を使った発音練習「Take two」だった。
ジャムのレッスンで勉強になったのは、フィリピン人は比較的親日家が多いが、日本人を嫌いな人がいるという事も頭に入れておくことだった。
そして日本人は誰にでもすぐ気を許すけれど、絶対に住まいの場所を教えたりしてはいけない。
話し相手のフィリピン人が私は韓国語を勉強しているという場合は、日本人を嫌いな確率が高いのでより一層、注意するようにという事だった。
そういう連中の中には、韓国が云うところの例の歴史認識という話を鵜呑にしていて、悪魔のような日本人に天罰を加えてやると、恐喝したり騙したりする奴がいるらしい。
そしてもし飲み屋などでそんな連中と出会ったりすると、日本人というだけで殴られたりすることもあるし、店主がそんな奴だったらぼったくられる場合もあるそうだ。
ジャムに言わせると日本人がきちんと反論しないことも原因だという。
日韓併合に関しても日本は朝鮮半島全土に鉄道網を築き、豪壮な学校や病院をつくり、疫病を撲滅し半島の治安を守った。
子供たちには親身に教育を施し、李王朝時代の悲惨極まる刑罰裁判を改めた。
植民地支配をした国々が植民地に対して、学識者を殺害したりして愚民政策をとるためにその国の言語も民族の文化の破壊を行ったが、日本は学校を沢山作ってハングルを教え、そしてソウル大学までも作った。
経済についても技術を教えて産業を育てた。
そのような事が、韓国の今の発展につながっている事を一人一人が話すことが必要だが、日本人は笑ってごまかすので、認めたことにされてしまうというのだ。
言われてみればその通りだが英語で説明するのは相当難しそうだ。しかし、せめて日本語でそれぐらいは説明出来るようにしておきたいものだ。
それにしてもジャムが良く日本の歴史について知っていると思って聞いてみたら、大学での専攻はアジア史だったといので納得した。
着陸時の機内アナウンスのレッスン
マーガリンのレッスンは宿題のチェックの後、予定通りに到着前の機内アナウンスをお願いしたが、残念なことにこの部分はスマホに録音されていないので、二人で相談しながら他の航空会社の例を参考にして作成した。
「Everyone, the sign for wearing a seatbelt has just turned on.
Please fasten your seat belt firmly. It is expected to shake for a while.
The cabin crew will also be seated according to the instruction of the captain.
Please check the seat belt yourself.
Please refrain from using the restroom while the seatbelt sign is on. 」
※firmly 堅く、しっかりと、確固として。
皆様、ただいまシートベルト着用のサインが点灯しました。
シートベルトをしっかりとお締めください。
これからしばらくの間、揺れることが予想されます。
機長の指示により、客室乗務員も着席いたします。
お客様ご自身でシートベルトをお確かめください。
尚、シートベルト着用のサインがついているあいだ、化粧室の使用はお控えください。
「We will be landing at Ninoy Aquino International Airport in about 20 minutes.
The local time is 23:50 in the midnight.
The latest weather information reports fair condition Manila, with a ground temperature of 25 degrees Celsius.
In preparation landing, please put your baggage on the upper shelf in preparation for landing.
We will be closing our sales of duty-free items shortly.
If you wish to purchase any items, please contact your cabin crew now.
We will soon be showing a short video on entry procedures.
A guide on how to fill out the entry forms will be shown in this program.
Please contact your cabin crew if you have not received your entry forms.
This is Jetstar flight thirty-six. 」
この飛行機は、ただいまからおよそ20分でニノイアキノ国際空港に着陸する予定でございます。
ただ今の時刻は午後23時50分、天気は晴れ、気温は摂氏25度でございます。
着陸に備えまして、皆様の手荷物は上の棚にお入れ下さい。
また、まもなく、免税品の販売を終了いたします。
ご希望のお客様は、早めに乗務員にお知らせください。まもなく前方のスクリーンで入国案内と、書類の記入方法をご説明いたします。
入国に必要な書類をお持ちでないお客様は、乗務員にお知らせください。
この飛行機はジェットスター36便でございます。
マーガリンに英文の書き取りをさせられたことで、だんだん、長文を見ることに慣れてきたが単語一つ一つを見るとリエゾンやリンキングが難しくなる。
マーガリンにフレーズごとに発音して貰って、シャドウイングすることでリズムも一緒に覚える方が私にはあっているようだ。
やっと少しずつコツがつかみかけてきたところなのに、レッスン後の宿題は前半部分の英文を暗記することだった。
明日のレッスンの時に、マーガリンの前でノートを見ずにキャビンクラークになった気分でこのアナウンスを披露しなければならない。
頭に「I sick of homework.」宿題にはうんざり、というフレーズと「Give me a break.」勘弁してという慣用句が浮かんだが、今日も言葉にできなかった。
代官が転職して、高齢者施設に入所する?
マーガリンのレッスン後にlineを見るとスクールグループも代官からも着信が溜まっていた。
スクールグループlineの書き込みは、取るに足らない内容なのでスルーした。
代官からの着信も相変わらず猫の写真や文章にも “にゃー”だらけなので適当にチェックして送信しようとしたが、一つだけまじめなものが混じっていた。
内容を整理してみると代官はマニラでアクティブシニア施設を探しているので、日曜日の見学を楽しみにしている。
彼が希望している内容としては。
① アクティブシニアの日本人が多く入所している。
② 独身の入所者が多い。
③ 日本食がおいしい。
④ 猫と一緒に住める。
⑤ バスタブがある。
といったところだった。
そして、施設を探している理由についても触れてあった。
彼は本社勤務になることは避けたいと思ってきたが、どうも新年度はそうなりそうだというのだ。
仕事で頻繁に海外に行けなくなることは寂しいけれど、それは良いとしても自宅から通勤するというのは受け入れがたい。
妻からも帰国してこちらで常時働くのなら、別々に暮らしましょうと提案された。
それでいっそのこと早期退職してマニラの取引先に転職しようと考えていると話をしたら、あなたのブランド価値がなくなるなら、お互いに別々の道を歩きましょうと、離婚を突き付けられたらしい。
代官曰く、妻は夫が一流企業の役員というのが自分のブランド価値を高めていると思っているらしい。
覚悟していたことだが熟年離婚は避けられそうになく、自業自得だがやっぱり複雑な思いなのだろう。
それでフィリピーナの彼女に一緒に暮らそうと話をしてみたら、一緒に暮らすよりも必要な時だけ会うようにしたいと云われたそうだ。
合わせてあなたを介護する気持ちはないと念押しされたとlineに書いてあった。
といったことの様だが、短い付き合いの私にそんな重要な話をするという事に驚かされた。
ゲイのビーナスとオナベのジャスミンがトラブル??
私が食堂に着いた時はすでに高齢者席にはlineのスクールメンバーは、勢ぞろいしていた。
そこに世界の松下も加わって日本語でチャイナタウンでのウクレレ練習会の話で盛り上がっていた。
マサシの話だと参加者としては初心者が料理店の店主家族他2名、そしてレッスンする側がショウコとマサシとビーナスでスクールのジャスミン先生とチャックがタガログの通訳として参加したのだという。
シ:「それにしても驚いたわね。ビーナスとジャスミン。」
C:「あ~たの言う通り、ホントにビックリだったわ。」
マ:「正直どうしようかと思いましたよ。」
私はとっさに、ゲイのビーナスとオナベのジャスミンがトラブルを起こしたのだと思い質問をした。
鍵:「二人のせいでトラブルになったの?」
C:「そーよ、あ~た、大変だったわよ。」
鍵:「誰か説明してよ。」
マ:「初心者レッスンの最後に、ビーナスがホールニューワールドの弾き語りをしたんですよ。」
松:「ディズニーのアラジンですな。」
鍵:「それで?」
ユ:「まどろっこしいわね。」
マ:「ビーナスは声も良くて凄く歌がうまいんだ、そこにジャスミンが加わったらもう映画のワンシーンのように素敵で最高に盛り上がったんだ。」
C:「中華街を歩いている人たちも足を止めて聞いているし、何人かの子供たちはドアから店内に入ってきたのよ。ジャスミンの声がしびれるほどすてきなの。あ~た、あたしも興奮しちゃったわよ、アンコールもあったのよ。」
松:「ジャスミンはクラブで歌っていて、僕も観に行きましたが音域が広くて素晴らしいです。彼女の高音は聞いていて気持ちがいいですよ。その日はファンも随分いましたよ。」
ユ:「えっ、プロなの?聴いてみたいなぁ~。」
松:「素晴らしいですよ。でも、彼女は自分の声が嫌いなんだそうですよ。」
C:「どうして?」
松:「彼女は『僕はトランスジェンダーなんだ。』と何時も話しています。」
ユ:「トランスジェンダーって何?彼女はオナベって聞いていたけど。」
松:「トランスジェンダーとは、身体の性別と心の性別が一致しない人のこと。女性の身体で、男性の心を持つ人を『TM-Female to Male.』女性から男性へと言います。そういう人達の多くは手術をして男性の身体になることを望むのです。それでもジャスミンの話だと恋愛対象が女性とは限らないらしい。」
C:「FTMは聞いたことがあるわね。そして、「『MTF-Male to Female.』という男性の身体を持って心は女性という人もいるわよね。」
ユ:「そうすると、ビーナスはMTFってことになるのかなぁ。」
C:「彼は、自分が男性であることに違和感はなくただ恋愛対象が男性という事らしいわ。だから、手術をして女性の身体になりたいとは思っていないといっていたわよ。だからゲイなんですって。フィリピンにはゲイは多いのよね。それにしてもマッキは詳しいのね。」
松:「マッキって僕のことですか?いや~、そうやって言われたことないけど呼ばれるとうれしいなぁ。」
Ⅽ:「あらそう、私の友達で松木というのがいて、皆からマッキと呼ばれてたわよ。」
シ:「こちらは、松下さんよ。松木ではないわ。」
Ⅽ:「あ~ら、でもいいじゃない。下と木は棒が二本違うだけなんだから、それに本人も気に入っているみたいだし。」
シ:「ではそうしましょう。マッキはどうしてLGBTについて詳しいのかしら?」
松:「実は娘がそうだったので、妻と今でもそのことで喧嘩しているんですよ。」
Ⅽ:「あら、娘さんが?」
松:「そうなんです。娘に”Come out”されたときは正直ショックでしたですわ。初めはレズかと思っていたら娘はトランスジェンダーと云うので、妻と調べたのでそれがどういう事なのか分かりました。」
シ:「それでマッキは受け入れられました?」
松:「まるっきり受け入れられませんでしたよ。世間体もあるでしょう。娘には普通に結婚をして子供を産んでお母さんになって欲しいと考えていますから。こうなったのは妻の育て方に問題があったのではないかなどと言い争いましたよ。」
シ:「それでどうしたんですか?」
松:「どうにもなりませんよ。妻は世間体なんかより娘が幸せになることが一番大事、娘が望むなら手術代もだしてあげたいと言っていましたが、私はそんな風には思いませんわ。」
Ⅽ:「それで、どうしたんですか?」
松:「どうにもなりませんでした。本人も親も悩みましたよ。それで妻とは喧嘩したまま私はマニラに来てしまいました。でも、ジャスミンと話をしてみるとそんなこともあるのかと少しだけ考えられるようになりましたよ。日本に帰ったら娘と妻と向き合ってみなければと思っているのですが、はてさて、どうしたものやら。」
ユ:「そうなのかぁ。親や本人の事を考えると、簡単にゲイとかオナベとか言う言葉は使っちゃいけないんだわね。」
チ:「今まで知りませんでしたけど、これからは気を付けないといけないですわ。」
鍵:「今度皆でジャスミンの歌声を聴きに行きましょう。」
と言い残して、部屋に戻った。
フルーツの旦那は会ってからのお楽しみ!
昨夜は早めに寝たので朝から元気だ。それに今日と明日は、レッスンを入れていないので、朝起きてルーティンをやってのんびりしている。
午前中の予定といえばマンゴウが部屋の掃除に来てくれるぐらいだが、今日で3回目だしもう日常だ。チップもちゃんと用意してある。
午後はフルーツの家で日曜日のイベントのリハーサルなので、楽譜の点検と東京音頭のウクレレの弾き語り動画を観ながらイントロ部分が難しいので何度も練習した。
今日はフルーツの旦那にあう予定だが、ユリとチエにどんな人って尋ねた時の彼女らの “ふふふ、会ってからのお楽しみ” っていう言葉がふと頭をよぎった。
そう考えるとフルーツのような女性を妻に出来る果報者はどんな男なのか?とても気になる。
ファン心理としては、芸能人同士の結婚がそうであるように、こいつならしょうがないと思える奴であって欲しい。
ハンサムでスタイルが良くて一流ブランドのスーツを着こなすバリバリの日本人青年実業家で、英語も流ちょうに使いこなすといったイメージが勝手に膨らんでいた。
今日のランチはフルーツの家での料理教室でユリとチエが作くる予定のフィリピンの定番家庭料理と聞いているので楽しみだ。
考えてみるとマニラに来て2週間ほどになるがいまだにフィリピン料理は食べていない。
チャックにご馳走になったのも中華料理だったから、今日のランチが初めて食べるフィリピン料理ということになるので楽しみだ。
朝食の時間はいつものように会話はlineなので高齢者テーブルは静かだ。しかし、その分lineの書き込みは頻繁でいつの間にかアンケートまで始まっていた。
内容は“ジャスミンが歌っているクラブツアーに参加したい方は、都合の良い日時をチェックしてください”というものだった。
そこにはすでに何人かチェックされていたので私もいつでもOKにチェックをした。
チエもlineの使い方に慣れてきたようで、絵文字スタンプを多用していた。
今日の料理教室での料理について尋ねてみると、シシグという書き込みが、ユリからあった。
チエからはすかさずYESというパンダの絵文字スタンプがポストされた。
どんな料理?と書き込みをすると、チャックから“シシグは細かく刻んだ豚肉の耳を醤油、ビネガー、ニンニク、唐辛子などで炒めたフィリピンの定番家庭料理よ”という書き込みがあった。
ショウコから “あら、あなた料理したかしら?”に対して、“私は料理をしないけどそれぐらいは知ってるわ。”とチャックから書き込みがあった。
今度はマサシから“さすがという絵文字スタンプ”がポストされ、チエからもGOODという絵文字スタンプがポストされた。
ユリから “チャックも私たちが作った料理を食べる?”って書き込みしたら、“誘ってくれてありがたいけど、家に帰ればフィリピン料理ばかりになるので、ここにいるあいだは日本食を食べたいからスクールの食堂で食べるわ。”とチャックが書き込みした。
チエとマサシはすかさず絵文字スタンプをポストした。こう見てみると、普段からおしゃべりでない人ほど絵文字スタンプを有効に使う傾向があるようだ。
ユリが “ショウコ、あなたも料理教室に参加しない?楽しいわよ” に対して、ショウコは“私はこちらの施設に入所するのでこれからは食事を作らないからパス”と書き込んだ。
マサシは、“You betだよね”という絵文字スタンプをポストした。
I’m exciting man!
フルーツの家に着いたのは昼少し前だった。インターフォンを押して門を開けて貰って日本庭園を通り抜けて玄関にたどり着いた時にマンゴウの姿が見えた。
軽く挨拶をして、マンゴウにダイニングまで連れて来てもらったらフィリピンのウクレレメンバーの3人は既に席についていた。
鍵:「Hi! Everyone. How are you?」こんにちは、みなさん。元気ですか?
大:「I’m good. How are you?」元気です。あなたはどうですか?
鍵:「I’m good. How about Venus and Kuma?」元気です。ビーナスとクマはどう?
ビ:「I’m pretty good.」とても元気よ♡
ク:「I’m great. Thank you.」絶好調です。ありがとう。
鍵:「Sorry for the inconvenience on the line.」lineで迷惑をかけてすみませんでした。
大:「Please do not worry.」気にしないでくさい。
その時にフルーツがダイニングに入ってきたので、キッチンを見せてもらえるように頼んで案内して貰った。
ユリとチエが料理を盛り付けているところだった。
鍵:「キッチンは広くて奇麗だね。」
フ:「そんなに、きれいくないです。」
チ:「フルーツ、正しい日本語はきれいではないですよ。」
フ:「Oh.そうれした。日本語を覚える時に『つまらない』『きたない』を否定形にするときは『つまらなくない』『きたなくない』なので『きれい』は『きれいくない』って間違えちゃうのれす。そして、それを誰も指摘してくれないのですぐに忘れてしまうのれす。」
ユ:「そのままで、通じるから全然大丈夫だわよ。」
フ:「その言葉も分からないのれす。全然+否定はありですか?」
鍵:「僕は日常会話ではたまに全然大丈夫は使いますが、ビジネスではまったく問題ありません。とか差し支えありません。と言い換えますよ。全然大丈夫は日本語検定試験ではバツなんでしょう。」
フ:「ありがとうございます。」
鍵:「僕は話に夢中になると、私の姉は銀行に勤めています。『My sister works at bank.』を『My sister work bank.』と三単現のSを忘れたり『At』を忘れたりするけど日常会話なら通じれば良いと考えていますよ。」
フ:「そうですね。全然大丈夫れす。Nahhh.」
チ:「私は細かいことが、気になって喋れなくなってしまうのです。例えば『go to the station.』はtoが必要なのに『go home.』はtoがいらないし『go shopping.』は『go to shopping.』とtoを使わないわけでしょう。」
ユ:「チエ、考えたら眠れなくなっちゃうわよ。私たちは英語の資格試験を受けるわけじゃないんだから笑い飛ばしちゃえばいいんだわよ。
中学生の時、英語の先生に『women』はウイミンと発音するけど『o』」はどこに行ったんですか?
そして何故、『o』が『i』になるのか?というのと、鹿の『deer』は、複数でも『deer』なのに、馬の『horse』は『horses』になるのか質問したら、先生はアメリカ人だって分からいと思うわ。だから、暗記するしかないのよ。そして英語にはそんなのが沢山あるって教えてくれたわ。」
フ:「私もこのスクールの学習者に英語の質問をされたけど、答えられなかったです。それは『interested in.』と『excited about.』何故前置詞がどうして違うのか?」
鍵:「そうだよね。前置詞は悩ましいよね。『exciting.』って言えば、この間も『I’m excited.』というところを『I’m exciting.』って間違えてマーガリンから教えて貰ったんだ。」
フ:「そですね。『I’m exciting man.』って、私はわくわくさせる人ですという英語を使う人はいます。主人も時々使います。」
鍵:「愉快な人なんですね、ご主人は。今日お会いできるのを楽しみにしています。」
フ:「主人はもうすぐ帰ってきます。」
食事の支度が出来たとユリから声を掛けられたので、ダイニングのテーブルに戻った。
フルーツの旦那は驚きのあの人
フ:「Then everyone, enjoy it.それでは、皆さん召し上がれ。」
鍵:「いただきます。」
といって日本人3人は、手を合わせた。
フ:「Bless us Lord, and there thy gifts, which we are about to receive, from thy bounty, through Christ, Our Lord Amen. 」
※thyは、古語で「your」、「thy gifts」はあなたからの贈り物、「thy bounty」はあなたの慈しみ。というように、神様にいただきますと言っている。
父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。
ここに用意されたものを祝福し、私たちの心と体を支える糧としてください。私たちの主イエス・キリストによって。アーメン。
フィリピン人はお祈りをして、食事を始めた。「おいしい」や「delicious.」の単語が飛び交った。
大:「What’s Itadakimasu?」いただきますって何?
鍵:「It means “we humbly receive the life of food.”それは、食物の命をいただきますという意味です。」
大:「I see.」そうですか。
フ:「And they are grateful even after eating.そして、彼らは食後にも感謝するんです。」
大:「What do they say?」なんて言うのですか?
フ:「With their palms together, they say “Gochisousama.”It means “Thank you for such a great meal.”彼らは手を合わせて『ごちそうさま』といいます。素晴らしい食事をありがとう、という意味れす。」
大:「Nice culture.」素敵な文化ですね。
鍵:「You can make a cook happy by saying “Gochisousama.”ごちそうさまというと料理を作った人が幸せになります。」
大:「Sounds great.」素晴らしいですね。
フ:「Then everyone together. Let’s call ごちそうさま。”」
と言って、皆で控室に移動しようとした時にフルーツの旦那だんながダイニングに現れた。フィリピン人の3人は移動したが日本人3人とフルーツは残った。
小:「皆さん。こんにちは。そして初めましての方、確かシゲさんでしたね。小倉おぐらです。ようこそお越しくださいました。」
フ:「He says welcome to our house. 」
鍵:「It’s nice to meet you. You are Ogura Hisahiro? 初めまして、あなたは小倉久寛さんですか?」
ユ:「まさかさ。『三宅ちゃん、ちゃんと聴いててよぅ。』ってギャグで一世を風靡した。“小倉久広志”さんよ。」
チ:「私は、湿布薬のCMが好きだったですわ。」
鍵:「あぁ。三宅ちゃん、ちゃんと効いててよ。と言って、三宅みやけ裕司ゆうじさんみたいなイラストが湿布薬になって、伸びるCMだね。眉毛を上下させるのはウケたね。あれは、忘年会の一発芸でみんなやっていたなぁ。僕も太い付け眉毛を買いましたよ。」
小:「いや~。あの頃は、テレビにも引っ張りだこで、特に関西の番組に多く出させてもらいましたよ。まぁそれで、なんちゃって関西人になってしまいましたんや。サインもぎょうさんさせて貰いましたわ。けど正直いうと照れ臭かったですわ。」
鍵:「眉毛は地毛だったんですね。」
小:「いいえ、僕かぁ~。小倉久寛さんみたいに毛深くないですから、プロダクションから勧められて植毛したんですわ。良く知らんかったんですが植毛って一生もんなんですな。手術しないと元に戻らないらしいんですわ。」
鍵:「物まねでブレークする前から芸能界にいらしたんですか?」
小:「いいえ、もともとは、地元の千葉で自動車教習所の教官をしていたのですわ。たまたま生徒さんのなかにテレビのプロデューサーという人が居はって、スカウトされたんですわ。最初は、冗談かと思たんですが、そっくりさんの番組に出させてもろてそこで優勝してから芸能界に入りましたんでんがな。」
鍵:「ホントですね。あやしい関西人ていう感じですね。小倉久寛さんが関西人モドキになったらってコントがありましたね。」
小:「プロダクションから、今あやしい関西人キャラがいないので、その路線で行こうと言われて練習したんですわ。なんでやねんって言って眉毛を動かすギャグ、ホンマにあれ、ウケたんですわ。CMもようけやりましたやろ。おかげでかれこれ10年くらいは芸人をやらせてもらいましたわ。」
そんな話をしているところに、マンゴウから安田さんが来ましたと言われて、私一人を残してフルーツも控室に移動した。
鍵:「でも、急にテレビで見かけなくなりましたね。」
小:「俳優をやれるわけでもないし限界を感じたんですわ。50も半ばを過ぎて独身でおましたからこの先の人生を考えている時に、パブでフルーツに会って一目ぼれ。そいでもってこの子とフィリピンで暮らすのもいいかなと。彼女と出逢ってキリスト教の洗礼を受けてからは、とても幸せなんですわ。この年になって子供を授かれたし、それこそ神に感謝ですわ。」
フルーツは、どうやら日本には語学留学ではなく、出稼ぎに来ていたようだ。
鍵:「フルーツの話だと私に相談したい事があるってことでしたが?」
小:「そないです。鍵さんはおもろい人で不動産に関するビジネス本の著者だと聞いておりやすが、間違いおませんやろか?」
鍵:「おもろい人というのはちゃうと思いますが、出版はしました。」
小:「ほんまおもろい人でめっちゃ良かった。僕かぁ~。はように、出版したいんですわ。」
鍵:「ええですな。どういった内容にしたいんですか?」
小:「自分史ですわ。タイトルはもう決めとるのです。『ご褒美人生in マニラ』、せやけど、自分では書けないのでどうしようかと思とります。」
鍵:「それなら、出版社を選んでゴーストライターを見つけて貰えばいいのですよ。私の知り合いもホテルにゴーストライターと一緒に1週間缶詰で出版しましたよ。是非、実現してください。今から読むのが楽しみです。小倉さんの本はどんな人に読んで貰いたいのですか?」
小:「一番読んで欲しいのは娘です。まだ生まれていませんが。僕かぁ~。施設で育ったのです。そして仕事しながら夜間の高校を卒業して職を転々としましたわ。その頃は、生きてい行くことがつまらないとおもてました。
最終的に天職だと思える自動車教習所の教官として働くことが出来たのですわ。それというのも僕は人と喋るのが苦手なので、生徒さん達が免許を取得する理由を聞いたり時には愚痴を聞いたりしていたのです。
生徒さん達は私が黙って聞いてくれたと感謝してくだはりました。それで夫々の人生に触れることができて生きることの意味について考えさせられたんですわ。
あの頃僕かぁ~、自分の容姿にもコンプレックスがあって彼女も出来なくって人生を悲観していた時期でしたよ。でも、有名俳優と似ているという事で人生が好転して、今はご褒美人生を手に入れました。」
鍵:「ご苦労されたんですね。」
娘に父親の事を知ってもらう為に本を書きたい!
小:「娘が大人になったら読んで欲しいんですわ。それまで僕は生きているか分かりまへんので、父親がどんな人だったのか、どんな風に人生を生き切ったかそして “人生はプラス思考で生きる方が得”というメッセージを伝えたいんですわ。
そして若いころの僕と同じように悩んでいる人たちにも伝えられたらとおもとります。そして、印税が入ったら施設に恩返ししたいのですわ。千葉で働いている頃は僕が育った施設に毎年ランドセルをプレゼントさせて貰いましたんや。
僕は小学校に入学するとき新しいランドセルが欲しかったのですが、施設には古いものしかなくてそれで6年間通ったのです。
あの頃友達のピカピカのランドセルが羨ましかった。あんな思いを僕の後輩達に出来るだけさせたくないとおもとるのです。
そしてブレークしてからは、出来るだけ施設に顔を出すようにしていましたわ。しかしこちらに来てからはなかなか思うようになりません。せいぜい、ランドセルをプレゼントするぐらいしかできへんのですわ。」
鍵:「それは誰にでも出来ないことですね。多くの人に読んで貰えるようにあの小倉久広志さんが書いたことが分かるようなタイトルにして欲しいです。」
小:「なんかアイデアありますかいな。」
鍵:「いいえ、でも本の帯に小倉久寛さんの推薦文があったらいいだろうなと思いますよ。」
小:「そんなことが出来るんやろか?僕の運命を劇的に変えてくれた小倉さんに書いてもろたら最高なんだけど、そんなことむりですわ。」
鍵:「いままで本人に会ったことはないんですか?」
小:「いや、ありまへん。当時のお笑い仲間から僕のCMを見て、小倉さんは怒っていたという事を聞いていましたから。結構、物まねの人は本人から嫌われていますやん。それだし、小倉さんは命の恩人なので、まともに顔を見れへん思いますわ。お逢いしたら僕かぁ泣きだしちゃうかもしらんですわ。」
鍵:「それでも一度逢えるといいですね。それと、出版コンサルタントを知っているのですが、ご紹介しましょうか?」
小:「ほんまでっか、頼んますわ。」
鍵:「分かりました彼とlineで話をしてみます。それと、まったく違う話ですが、ひとつお聞きしてもいいですか?」
小:「なんでやす?」
鍵:「ブレッドオーナーについてなんですが、どのように考えてはります?あ、失礼。考えていますか?」
小:「フルーツから『私は両親や弟妹の生活の面倒を見ているのでその分頑張らなきゃいけない』という事は聞いとりました。彼女は今でもブレッドオーナーなのです。僕かぁ~、せやけどそれはフィリピンの文化なんやし、彼女もしてもらったのだからそれはそれでええとおもとります。
彼女のご両親は僕よりはうんと若いですが、何もせずに暮らしてはりますよ。僕にとってはお金の事より家族が増えたことがめっちゃ嬉しいんですわ。」
鍵:「フルーツの弟妹は誰も働いていないんですか?」
小:「いやいや、妹さんは日本の介護施設で研修生をしとります。帰国したらここを手伝ってもらうつもりですわ。そして、弟さんは韓国で農業を学んでいるのですわ。フィリピンで稼げる農業をやりたいんやそうだす。」
鍵:「さすが、頑張り屋のフルーツの弟妹ですね。」
小:「従妹のマンゴウもフルーツの学校でしっかり働いて立派にブレッドオーナーしてますわ。」
鍵:「あぁ、マンゴウは従妹なんですね。それにしても彼女は働き者ですよね。」
小:「僕もせやおもいますわ。」
最後に連絡用にlineを交換して、控室に移動した。
セットリストって何?
控室では “ふるさと”を練習しているところだった。マサシとショウコも3拍子で上手に弾いていて、チエとユリがリズムを確認しながら踊っていた。
鍵:「I’m sorry to be late. 遅くなってごめん。」
大:「Oh, that’s all right.」あ、大丈夫です。
フ:「Your performance was amazing. I think you will be very pleased.実に素敵なパフォーマンス。とっても喜んで貰えると思うわ。」
ク:「Shige, Shall I play the arpeggio? 」
フ:「アルペジオで弾きましょうか?What is an arpeggio?」
鍵:「Try playing Kuma .クマ弾いてみて。」
クマが右手の指をバラバラに動かして流れるように弦を弾きながら♪ふるさと♪を演奏しているのに合わせて、ビーナスと大門がウクレレのボディをリズムよく叩いている。
要領をつかめたと見えてマサシとショウコが演奏に参加してきた。
彼らは三拍子の一拍目だけポロンと弾いている。
フ:「It’s definitely nicer than before.さっきより凄くいいわ。」
シ:「これっていいわね。マサシと私はポロンとしかできないけど、クマの演奏でなんか伴奏がついたみたいで気持ちし、ウクレレを指で叩く音がパーカッションみたいでいいわ。」
マ:「アルペジオってどうやって弾いているのですか?出来たら教えてください。」
フ:「How do you play it? Please let me know if you can. 」
ク:「Okey-dokey.」オッケー。
といって、クマがマサシとショウコにレッスンをした。
シ:「難しいわ。3拍子なのに小節の間に6回弾くなんて、今のところ出来ないけど練習しますわ。ねぇ、マサシ君。」
マ:「3か月位練習すれば出来るようになると思う。」
フ:「I think I will be able to do if after practicing for about 3 months. 」
ク:「Yes, you can do it.」そうですね。あなた達なら出来るわ。
鍵:「All right. Daimon. What about the setlist? さて、大門。セットリストはどうする?」
ユ:「セットリストって何?What’s the setlist?」
鍵:「演奏する曲の順番のことだよ。The order of playing.」
大:「First of all, how about ふるさと?」
フ:「一番はじめに“ふるさと”はどうですか?」
チ:「いいですわね。Sounds good.」
ビ:「あら、それいいわね。Oh, that’s good.」
コ:「I couldn’t agree more. 」
フ:「大賛成です。」
鍵:「All right. How many songs do you guys play?了解。君たちが演奏する曲は何曲ですか?」
大:「There are five songs. 」5曲です。
鍵:「ふるさと、赤とんぼ、カントリーロード、東京音頭と合わせて、全部で9曲だね。」
フ:「Then there are 9 songs in total, including ふるさと、赤とんぼ、カントリーロード、東京音頭。」
大:「Exactly.」その通り。
鍵:「最後の曲は東京音頭にしたいのですがどうですか?皆さんにも踊っていただきましょう。大変盛り上がると思いますよ。フルーツお願いします。」
フ:「I’d like to make the last song Tokyo Ondo, how about it? Let’s dance to everyone. I think it will be exciting. 」
ビ:「Gotcha.そうですよね。ぴょん」
ク:「You bet.」そうしましょう。
大:「Sounds interesting.」面白そう。
ユ:「That’s good.それは、いいわ。」
チ:「I think so, too. 私もそう思いますわ。」
ユ:「リクエストも用意しなきゃ。We need to have a request ready.」
ビ:「Yep.はい、そうだわね。」
シ:「私とマー君は、“ふるさと”と“赤とんぼ”の時にウクレレを弾かせてください。Please let me and Masashi play the ukulele ふるさとand 赤とんぼ。」
鍵:「それで決まりだね。So let’s make a decision.」
その後、通しで9曲を練習した。そして、セットリストに役割分担を書き込んだ。
ふるさとはクマとビーナスがイントロ部分をアルペジオで、歌が始まったら大門とクマとシゲとマサシとショウコが3ビート、歌と踊りがユリとチエ。
赤とんぼは、クマがイントロをアルペジオで、ビーナスと大門とマサシとショウコとシゲが4ビート、歌と踊りがユリとチエ。
カントリーロードはマサシとショウコは、4ビートでそれ以外は8ビート。ユリとチエは歌。
東京音頭のイントロはビーナス、クマと大門が8ビートでシゲは段ボールを叩いて太鼓を担当。ユリとチエとマサシとショウコは歌と踊り。
このように役割分担が決まると俄然一体感が生まれて、何度もリズムを繰り返し練習した。そして、リクエストに備えて “上を向いて歩こう”を練習した。
セットリストは、ユリとチエが模造紙に明日のリハーサルの時に書くことになった。
スクールでの夕食も翌日のイベントの話が中心となってしまい、イベントに参加しない予定のチャックはつまらなそうだった。
最近高齢者席メンバーに加わった世界の松下改めマッキは、翌日のイベントに参加予定という事で会話にも積極的に加わり、東京音頭を作務衣で踊ることになり、ユリとチエは、昼食時にスクールの食堂でサトエに浴衣を着つけて貰ってからフルーツの家でのリハーサルに参加することになった。
フルーツの家から施設までは徒歩10分ほどなので、リハーサルをイベント開始時刻の15時の30分前まで出来るのでありがたい。
部屋に戻って、“上を向いて歩こう”の楽譜をノートパソコンからメモリスティックに取り込んで、溜まったlineをチェックした。
相変わらず代官からのニャーだらけの投稿が多く、明日は楽しみにしているニャ~を見つけたので、よもくぼニャ~と返信したら即座によきすがたなあという返信が来た。
青空球児・好児の言葉遊びの漫才の逆か言葉のギャグもご存じとはやれやれである。
悔しいのでゲロゲーロと投稿したが、彼と話していると私は間違いなくキャラ変してしまうようだ。
そして明日の夕食の事でケンからもlineで投稿がきていたので、 “私も楽しみにしていますよ。よろしくお願いいたします。” と返信した。
そして、出版プロデューサー氏からも是非、ぜひ、ゼヒ、是非、お話をお聞きしたいという彼のやる気満々lineが届いて、その中に何点か答えてくださいというアンケート形式のものがあったので、小倉久広志さんにコピーしてペーストした。
それに僕で良ければアンケートを書くのをお手伝いしますから明日声を掛けてくださいね。と投稿した。
イベントlineには、フィリピンの若者たちからの投稿にマサシが丁寧に答えてくれていた。その中には、リクエストの時に演奏する “上を向いて歩こう”の楽譜を早めにくださいというものがあったのでlineに投稿した。
そしてカホンは手元にないのでお手数をおかけしますが調達してきてください。という大門からの投稿もあった。
カホンって何?という投稿をしたのは、マッキだった。彼はいつの間にかイベントグループメンバーとなっていた。英語が堪能な彼だから英文で書けばよいのに日本語で書いたものをマサシが翻訳していた。
そして、大門からの「Cajon is a box-shaped percussion instrument. Some are made of cardboard. 」カホンは箱型の打楽器です。ダンボールで出来ているものもあります。という写真付きの返信にも対応してくれていた。
Lineの投稿を見ているだけで英語の勉強になる、カホンのスペルは「Cajon」でダンボールは「cardboard」って言うらしい。
明日はショッピングセンターの楽器屋に行ってカホンを買ってくるので、早速使って練習しよう。
それと比べてスクールlineは、チャックが中心となって世間話の投稿が続いていてショウコが話し相手になっていた。
私はスマホの電源を切って明日に備えてシャワーを浴びて早めに寝た。
えっつ!マサシが英会話イップス!
朝食での話題はイベントがメインでグループlineは盛り上がっていたが、チャックの投稿が多いスクールlineへの投稿も活発だった。
私がカホンを買いに行くことを投稿するとマサシから一緒に行きたいという投稿があり、先日ウクレレを買った楽器店で待ち合わせする事にした。
鍵:「Hi!マサシ。来てくれてありがとう。」
マ:「Hi!」
店:「Hi Good afternoon. How about the ukulele?」やあ、こんにちは。ウクレレはどうですか?
マ:「I’m into playing the ukulele lately.」このところウクレレにハマってますよ。
店:「That sounds great. What are you doing today?」いいですね。今日はなにですか?
鍵:「Yeah! Do you have some cajon?」やあ。カホンはありますか?
店:「I’m sorry. No, I don’t.」すみません。ありません。
鍵:「What a shame. If you know Where to sell it, please let me know.」残念です。どこで売っているか知っていたら教えてください。
店:「Maybe it’s in the souvenir shop inside the department store.」多分、デパートの中のお土産物売り場にあると思いますよ。
鍵:「Thank you. We are going to the department store.」ありがとう。デパートに行ってみます。
店:「Wait a minute. Probably there is no finished product.」チョット待ってください。
鍵:「マサシ。フィニッシュ プロダクトって知っている?」
マ:「完成品だと思います。Noがついているから完成品はないって事でしょう。」
鍵:「そうか。Do you mean I make it myself?」自分で作るって言う事ですか?
店:「I’m sorry. I couldn’t catch what you said.」すみません。聞き取れませんでした。
マ:「シゲ。組み立てるという単語の”assemble”を使ってみたら?」
鍵:「I assemble it myself, isn’t it?」自分で組み立てるってことですか?
店:「Yes, it is.」そうです。
鍵:「I’m not good at doing. Is it easy?」私は苦手なんですけど、簡単ですか?
店:「I guess so.」だと思います。おそらく。
鍵:「What is it made of?」何で出来ているんですか?
店:「I think it made of cardboard.」ダンボールで出来ていると思います。
鍵:「I suppose so. Thank you.」そうなんでしょうね。ありがとう。
店:「Good luck!」あるといいですね。
鍵:「Thank you. Have a good afternoon!」ありがとう。良い午後を!
マ:「Catch you later.」じゃ、また。
デパート内には多くの客がいた。おやじ二人がきょろきょろしていると、店員が「What are you looking for?」何をお探しですか?と声を掛けてきた。
「Where is the souvenir shop?」お土産物売り場はどこですか?と聞いてみたら丁寧に教えてくれたので助かった。
そこにはおもちゃのウクレレがビニールに入って売られていた。カホンは完成品が置いてあって、やはり組み立てキットがビニールに入れて売られていた。値段のシールを見ると、300ペソだったので、手に持ってレジに向かった。
レ:「This is three hundred pesos. Would you like to wrap it for souvenirs? 」300ペソです。
鍵:「Sorry?」すみません?
レ:「Would you like to wrap it for souvenirs?」お土産用に包装しますか?
鍵:「No thank you.」いいえ、結構です。と言ってお金を渡してレシートを受け取り私の部屋に向かった。
鍵:「マサシがいてくれて助かったよ。」
マ:「とんでもない。シゲの発音はネイティブ並みだね。」
鍵:「そらそうさ。日本語ネイティブだからね。」
といって、顔を見合わせてハイタッチして笑った。
マ:「Do you mean I make it myself? は通じないんだね。」
鍵:「I’m making it myself?なら通じたかなぁ。『Assemble』って知らなかったんでそういう聴き方しか出来なかったんだ。でも教えてくれて助かったよ。」
マ:「単語やフレーズが分からない時に英会話は上達出来るってショウコがいつも言っています。」
鍵:「なるほど。その通りかもね。実を言うとさっき、私は不器用だけど誰でも簡単に組み立てられますか?と言いたかったんだけどフレーズが思い浮かばなかったのであきらめたんだ。」
マ:「その言葉を分解すると、私は器用ではない。『I’m not dexterous.』誰でも簡単に組み立てられますか『Can anyone easily assemble it?』英作文だとこうなりますね。」
鍵:「そうそう『dexterous』なんて単語知らないので『I’m not good at doing.』って使ってみたけど通じたのかなぁ。」
マ:「通じたと思いますよ。それにしても咄嗟にそのフレーズが頭に浮かぶって素晴らしいよ。」
鍵:「僕は何時も『I’m not good at cooking.』や『I’m not go at pronouncing.』を英会話レッスンで使っているのでそのフレーズの単語を入れ替えて使いまわしているのですよ。なにせ苦手なことが沢山あるから。このフレーズには随分助けられていますよ。」
マ:「フレーズを使いまわすっていいなぁ。」
鍵:「僕が使っている英会話アプリでそんな練習をしているんだよ。」
マ:「どういうアプリなの?」
鍵:「このアプリといってスアホのアプリを見せた。」
マ:「僕もそのアプリで練習してみるよ。」
鍵:「マサシには必要ないんじゃない?」
マ:「シゲのように英語を喋れるようになりたいんだ。」
鍵:「何を言っているんだよ。マサシはTOEICで高スコアーを持っていると聞いたよ。」
マ:「そうなんだ。満点の990点を目標に頑張っていたころもあったんだけど、あと一歩のところで届かなかった。」
鍵:「あと一歩で満点なんて、凄いじゃないか。」
マ:「まぁそうだけど。その為に英会話が喋れなくなってしまったんだよ。」
鍵:「どうして?」
マ:「英会話で間違いをすることが恐怖になってしまったんだ。シゲみたいに間違ってもどうにか通じれば良いって思えないんだ。」
鍵:「そんなことがあるの?僕なんかは英語の資格なんて持ってないから気楽でいられるってことか。そう考えると少しは分かる気がするなぁ。僕だって自分の専門分野である不動産の事や相続に関して間違う事は許されないと思っているからそういう時の緊張感はマックスになりますよ。」
マサシはTOEICほぼ満点!
マ:「それと同じような感覚です。サラリーマン時代TOEICで900点台の公式認定証を持っているという事で僕の英語力は評価されていたしそれが自慢だったんだけど、会議で英会話の初心者並みのミスを犯してしまい、パニックになってしまったんだ。
それがトラウマで英会話恐怖症になってしまったんだ。英文なら何度も提出する前にチェックして訂正ができるけど、会話はその都度訂正が効かないから怖いんだ。それで会話を楽しむよりも文法上や発音のミスをしないように細心の注意を払うようになって、英語を話しているだけでまるで試験を受けている気になるんだ。」
鍵:「なるほど。」
マ:「TOEICの試験で高スコアを取るには、リスニングとリーディングだけやればいいんですよ。スピーキングはないですから。だから満点を取っても英語は喋れないんですけど、英会話が出来ると勘違いしてる人が多いんです。
雇う方の企業もこれでは採用しても戦力にならないという事で、最近では『VERSANT』というスピーキングテストの点数を重視する傾向になってきているようですよ。」
鍵:「そういえば楽天や武田薬品工業やヒルトンなんかも『VERSANT』を導入しているって言う記事を読んだことがあるなぁ。英語を武器にするって大変なことなんだな。」
マ:「しかし、まだまだブランド価値はTOEICなんですよ。日本人は実質価値よりもブランド価値を優先する傾向がありますから。」
鍵:「そうですね。入社面接で『VERSANT』何点と言われてもピンとこないですよね。それに面接官が英会話を話せれば面接を英語で出来るのですがそういう事は出来ないから、履歴書に書かれているTOEICの公式認定証のスコアで判断するしかないわけだよね。」
マ:「その通りですよ。」
部屋に戻ってダンボールのカホンを組み立てたが意外に簡単だった。
スマホでカホンの叩き方の動画を探して、練習してみたが想像よりも良い音がするし使いやすい。カホンにまたがって演奏するスタイルも気に入った。東京音頭の動画に合わせて練習してみたがとても良い感じだった。
二人でイベントの準備をしてスクールの食堂に向かった。
ユリとチエの浴衣姿が可愛い!
食堂にはショウコがいてチャックと食事をしていた。ショウコにカホンを見せたら彼女から。
シ:「What’s that cardboard box?」そのダンボールの箱は何?
鍵:「This is a cajon.」これはカホンだよ。
シ:「Really?」本当に?
玉:「What is that?」それは何なの?
鍵:「This is a musical instrument.」これは楽器です。
玉:「You’re kidding.」冗談でしょ。
鍵:「You’re right. This is a chair.」その通り。これは椅子です。
シ:「Oh boy.」またまた。
マ:「This is an instrument made of cardboard.」これはダンボールで出来ている楽器です。
玉:「I’m sure if you say.」あなたが言うなら間違いないわね。
鍵:「Trust me too.」僕の事も信用してよ。
玉:「Pardon?」何?と言いながら耳の横で手を開いた。
私もショウコもマサシも不意を突かれて、ツボってしまってしばらくの間立ち直れなかった。
そんな様子を不思議そうに見まわしながらユリとチエが階段を下りてきた。二人とも浴衣姿だった。
玉:「How wonderful!」素晴らしい!
シ:「Wow! 」わー。
鍵:「Nice!」ないす!
マ:「Both of them look good in Yukata.」二人とも浴衣が似合ってるね。
チ:「Thank you for the compliment.」褒めていただきありがとうございます。
ユ:「Thank you. 」
マ:「I must say you look really beautiful today.」今日はとても綺麗ですね。
鍵:「You talk a lot today. Masashi.」今日は良くしゃべるね。マサシ。
マ:「I changed my mind a little.」チョット考え方を変えたんだ。
シ:「What do you mean?」どういう事?
マ:「Try to speak English without worrying about small mistakes. like Shige. I think.」シゲみたいに、細かいミスを気にしないで英語をしゃべろうと。考えたんだ。
シ:「I see. I’m so happy for you.」なるほど。良かったわね。
鍵:「That’s good. English is just tool.」それはいい。英語は単に道具なんだから。
玉:「You can say that again. And Masashi is used to complimenting women.」まったくその通り。それにマサシは女性を褒めるのに慣れてるから。
チ:「Exactly. He always praises the Shoko.」その通り。彼は何時もショウコを褒めているから。
ユ:「That for sure. He always says he loves her.」間違いない確かにそうだわ。彼は何時も愛しているって言っているわ。
チ:「I can hear your voice from the next room. It’s you beautiful and always nice.」隣の部屋から聞こえてきますわ。君は奇麗だ。いつも素敵だ。
玉:「Oh my goodness.」あらまあ。
マ:「What do you say勘弁してよ in English?」は英語で何て言うのだっけ?
玉:「Give me a break is not good in this situation.」このスチュエーションだと『Give me a break』がいいんじゃない。
マ:「Come on, give me a break!」いい加減にしてくれよ。
シ:「All right. Shall we get going, my sweetheart.」それじゃ。そろそろ行きましょうよ。私の恋人さん。
鍵:「I give up.」参りました。
皆でフルーツの家に移動しながらこのところ最初に出会ったころよりもユリやチエも英語を話すようになったと考えていた。それに、英語に関してはプライドの高いマサシが英語について質問するなんて驚いた。
リハーサルでリクエスト曲の練習
フルーツの家に着くとフィリピン人メンバーは既にきていて我々も控室に移動し、一曲ずつイントロのタイミングと終了の仕方を確認した。
それに合わせて、東京音頭だけでなく “ふるさと”や“赤とんぼ” そして“カントリーロード”にもカホンを試してみたら、皆がリズムを合わせやすく歌い易いといというので採用することにした。
童謡は私がカホンを担当し、ウクレレはマサシとショウコとフィリピンメンバーとなり、それ以外の曲はマサシがカホンを担当することになった。
リクエストがあった場合の “上を向いて歩こう” はカホン担当がマサシで、全員で歌ってユリとチエが入居者の方々に一緒に歌って貰えるように促すように決まった。
日本人メンバーはフィリピンですっかり南国気質になったのだろう、そのためリクエストが来るかどうかも分からないのに “上を向いて歩こう” を一番多く練習した。
しかし間奏のところの口笛は誰も吹けないので、その部分は♪タタンタンタタタタンタン♪とユリとチエが歌う事に決まった。
そしてアンプのセッティングやマイクのテストの為に早めに高齢者施設へ移動し、そこでもリハーサルをすることになった。
高齢者施設へはマンゴウに案内して貰いフルーツの家からは、歩いて10分ほどだったのに気温が高いのと荷物が多いので高齢者の私には結構きつい移動に感じられた。
高齢者施設に着くとそのままイベント会場に通されたので、アンプなどのセッティングをしてリハーサルを始めることにした。
会場は一階で大きな掃き出し窓は開いていて、庭の芝生まで部屋が続いているように見えるし、日本庭園もとても手入れがされていて気持ちがいいのでしばらく眺めていた。
フィリピンメンバーはその間も忙しくセッティングしていた。
彼らが用意してくれたのは、スタンドマイクが2本とアンプが1台だった。そのほかにアンプ1台は施設の物を借りることにしてあるので機材としては充分だ。
このスペースがあれば東京音頭を輪になって踊っても貰っても大丈夫そうだし、外に出て芝生の上で踊っても楽しそうだ。
ピックアップ付のウクレレはビーナスのものだけなのでそちらをアンプにつないだ。
この会場は普段食堂として使われているようで壁には日替わりメニューが貼ってあり、日本食が中心だった。そして、今日の夕食はバーベキューとなっていて、希望者はノートに名前を記入する方式となっていた。庭でバーベキューは楽しそうだなと感じた。
普段は沢山並べられているはずのテーブルは片付けられていて、椅子だけが60脚ほど並んでいた。
チエとユリは動けるスペースを確認し、マイクテストも手馴れていてびっくりさせられた。ユリが書いた模造紙の歌詞は施設で用意していただいたホワイトボードに貼ることができた。
これで準備完了なので一曲目から通して最後まで練習した。司会進行はチエとユリに任せることになったが、彼女らの冗談も交えながらのトークも楽しい。
最後の曲の東京音頭を演奏している時に、フルーツとご主人の小倉さんが部屋に入ってきたら二人とも一緒に踊りだした。
そしてアンコール曲の♪上を向いて歩こう♪を演奏すると二人とも一緒に歌ってくれた。そして間奏のところは小倉さんが口笛を吹いてくれた。
それを見てフルーツは驚きの表情を浮かべていたがとても嬉しそうだった。フルーツから本番でも夫に口笛を吹かせて欲しいと云われて、小倉さんのキャラクターとして音程が外れるところも入所者に喜んで貰えると考えてやってもらうことにした。
本番を前にして皆で楽しもうぜと言ってエイエイオー!と気勢をあげたが、漫画などで勝鬨かちどきにあこがれていた彼らはこれをやりたかったそうだ。
それにしても日本の文化や言葉は知らない間に英語になっていたことに驚かされた。
それは、大門やビーナスやクマにどうして君たちは、高齢者施設の慰問なんかをやるのかを尋ねた時だった。
彼らは口をそろえて「It’s my ikigai.」と答えてくれた。私はアィケェガイという単語を知らないので、マサシに聞いてみたがTOIECほぼ満点の彼も知らなかった。
大門に聞き返してみると日本語の生き甲斐いきがいということが分かった。英語には生き甲斐に相当する単語はないという事だった。そして、ググってみると「Ikigai.」は「Mottainai.」と同様世界の公用語となっていると書いてあった。
折角の機会だから楽しまないともったいない、ぶちかまそうぜ!エイエイオー!ということでイベントはスタートした。
故郷は遠きにありて思ふもの
開演時刻ぎりぎりに代官がやってきて一番前の椅子に腰かけた。そして、マッキやスクールの先生方もやってきて会場の椅子は7割程度が埋まってきたが、ほとんどが日本人のようだった。
定刻になりフルーツが開演の挨拶を英語と日本語で行って、MCのユリとチエにマイクが渡されてイベントはスタートした。最初の“ふるさと”の一番はユリとチエが歌い。もう一度一番を参加者に歌って貰って二人が踊るという演出を行った。♪うさぎ 追いし かの山 小鮒つりし かの川 ゆ~めは い~まも め~ぐ~ り~て わすれ が~たき ふるさと♪
そして、3番まで歌い切った。中には涙ぐんでいる人もいて会場内は一体感に包まれた。そしてショウコとマサシは初めてイベントでウクレレを弾き終えたことで、満面の笑みを浮かべていた。
私はカホンを叩きながらなので楽譜を見る必要もなく、全体を見渡す余裕があった。ユリもチエもフィリピンメンバーも皆満足そうな顔をしていた。
そのまま“赤とんぼ”を演奏すると最初から手拍子が加わった。♪夕焼け 小焼け~の 赤とんぼ おわれ~て みたのは いつの日か じゅうご~で ねえや~は 嫁に行き お里の便り~も たえは~て~た♪
ユリがチエをおんぶして、赤とんぼを見ているという演出はとても良かった。
それにしても童謡は演奏していても歌詞の内容に合わせて情景が浮かんできて、こちらの目がしらも熱くなった。
フィリピンメンバーも歌詞の内容を理解してくれていたので、彼らの琴線にも触れたのだろう、演奏後はクマも大門もハンカチで目頭を押さえていた。
当然のことだが故郷や親兄弟を思う心は万国共通だと実感した。私も幼い日に父親に肩車されて見た夕焼けと赤とんぼが飛び交っている光景をおやじがいつも吸っていた、たばこの臭いと共に思いだしていた。
気が付くと会場の椅子はすべて埋まっていて、立ち見の人までいた。それでカントリーロードを演奏する時には、フィリピン人の先生方やスタッフがノリノリで歌いながら体を動かしていた。
その後の曲はビーナスがMCで盛り上げフィリピンメンバーが5曲ほど弾き語りをしたが会場は熱気に包まれていた。
そして最後は司会をユリとチエに戻して、日本人メンバーも参加して東京音頭を演奏することになった。
チエとユリが踊り方を説明してカホンでリズムをとりながら演奏が始まった。打ち合わせ通りにマッキも作務衣で参加して浴衣姿のユリとチエとで輪になって踊りだした。
その輪はどんどん広がってゆき掃き出し窓の外にも輪が出来て、皆ニコニコしながら踊っていた。そして、参加者は周りの人たちとハイタッチをしていた。
演奏が終わると会場からも庭からもアンコールの声がかかった。口笛を吹いてもらう小倉さんともアイコンタクトをして、マイクのところまで来てもらった。
いよいよ皆で一番練習をした、とっておきの “上を向いて歩こう”を演奏出来ると思って楽譜を譜面台に準備したら、東京音頭、東京音頭の大合唱になった。
それで東京音頭を演奏したら一回目の時には踊りに参加していなかったフィリピンの先生方やスタッフも加わって、輪がどんどん大きくなった。
小倉さんも代官もニコニコしながら踊っていた。私も演奏をフィリピンメンバーに任せてその輪に加わって踊った。マサシはカホンの音をマイクで拾ってリズムをとっていた。
3回目は参加者が歌いながら踊るので、カホンだけでリズムをとれば演奏は不要で、フィリピンメンバーも輪に加わった。会場はほぼ日本の盆踊り大会になった。
東京音頭を踊り終えると、誰かが炭坑節を歌いだしたらそれに多くの人が続いて、輪になって大盛り上がりなった。
輪がほどけてイベントメンバーが楽器の元に戻り♪上を向いて歩こう♪を弾き語りし、小倉さんの口笛は拍手喝さいを浴びた。
アンコールは”ふるさと”だった
それでもアンコールという声がやまなかったので、ラスト1曲とさせていただくことを告げて一番希望が多かった “ふるさと”を演奏した。
入所者の中にはこの施設を終の棲家として、マニラに骨を埋める覚悟を持ってきている人もいるここでしか生きられないという思いで暮らしている人もいる♪ふるさと♪を歌いながら人生を振り返って、その人たちはどんな情景を頭に浮かべているのだろうかと思いめぐらすと胸が締め付けられる思いだった。
小倉さんがイベント終了の時に室生犀星の「ふるさとは 遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの・・・・・・」という詩を引用して挨拶した言葉が入所者の涙を誘った。
イベントメンバーはマサシの提案で「High five.」を行って、今日の成功を喜び合った。私は、「High five.」の意味を知らなかったが、ハイタッチの事だった。
日本人のイベントメンバーは初めてのライブという事で、興奮が冷めずにいつしか「High ten」になっていた。
成功体験を共有したことで、親近感はますます醸成された。大変だったけどやってよかったと思えた瞬間だった。
代官からの施設への提案
イベント終了後、代官と一緒に小倉さんに施設を案内して貰った。私はひそかに代官が小倉さんと会ってどのようなリアクションをするか楽しみにしていたが、普通に挨拶を交わしただけだった。
小倉さんの話によるとこの建物は以前、語学学校として使われていたという事であった。
高級ホテル並みの部屋で過ごしながら英語を勉強できるという謳い文句で、当初は日本人からスタディアブロードの学校として人気になったが費用が高いという事で次第に生徒が集められなくなり廃業し、その建物を小倉さんが買い取ったという事だった。
小倉さんの話だとフィリピンへの語学留学の最大の魅力は費用が安いという事。そして、可能な限り予算を削りたい人はマニラよりもコストの安いセブの語学学校を選択する傾向がある。
従って、他のスクールと差別化する為にフルーツが経営しているスクールの食事は日本食としていると語っていた。
フィリピン内でも競争があるので当然差別化をしなければならないが、そのためにコストが安いという最大の魅力をなくしてはいけない。
そして、この高齢者施設の売りも食事であると小倉さんは説明してくれた。何故、そうしているのかというと入所者は100%日本人だからだそうだ。
部屋はシングルタイプとツインタイプから選べるようになっているが、シングルタイプはほぼ満室だそうだ。
小倉さんの話だと利用者が取得している結婚ビザから推測するとフリピーナとの結婚生活が破綻した男性がほとんどだそうだ。
日本の家族を捨ててフィリピンにきたが、お金の切れ目が縁の切れ目であり、病気になったりすると彼女から捨てられるケースが多いらしい。
その話を聞いて代官は苦笑いしていた。そして、代官が私に「あなたは何故うまくいっているの?と聞いてもいいかな?」というアイコンタクトをしてきたので、小倉さんに見えない様に人差し指を左右に振ってNoのサインを送った。
内部のつくりは日本で例えるならばシティーホテルといった感じで、バスユニットが設置されていた。
やっぱり日本人としては小さなバスタブでもあると嬉しいと代官がいった。
夫々に小さな冷蔵庫がついて、ツインタイプの方はミニキッチンも設置されていた。
小倉さんの話だと日本国籍の人は土地の所有が認められないが、コンドミニアムなら所有が認められているとのことなので、将来施設の運営に行き詰まったら部屋ごとに売却することも考えているとのことだった。
小倉さんの先見性の高さに代官と私は驚かされた。素晴らしい経営者ですねと話を振ったら、顧問税理士の西園寺先生の指示に従っているだけと謙遜していた。
代官は日本国籍の人には不動産の所有が認められないという部分に、フォーカスしていたようで、ここの所有者は小倉さんじゃないんですか?と尋ねた。
小倉さんは僕じゃないですと答えて、ここもスクールもスナックも法人所有としています。
自宅だけはフルーツの所有にしてあります。
私はどうして自宅はフルーツ名義にしてあるんですかと聞いてしまった。それに対して小倉さんは「当たり前の話ですが私がフィリピン人と結婚しても国籍は日本人のままですから、土地は所有できないのです。法人所有となると勝手に売ったりできませんが、個人所有ならフルーツの意思だけで処分したり、贈与もできます。そして、どのように相続させるかもフルーツが決めればよいと思っていますから。」
私は小倉さんの説明を大きく相槌をうちながら聞いていた。代官も腑に落ちたようだった。
代官は設備や賃料などに満足したようだったが、一つだけ不満な点があると言って小倉さんに話していた。
それはペット同居型でないという事だった。以前からそのことに興味を持っていた小倉さんは、入所者が亡くなった後の同居ペットをどうするのか等、後日代官と打ち合わせを行うことになったそうで打ち合わせ場所は例のペットショップになったそうだ。
私は参加しないが面白い展開になりそうだ。しかし、私は代官が小倉さんに会っても少しも驚かなかったことに疑問を持った。
それで彼に聞いてみると代官は「小倉久寛なんて俳優は知らない」っていう答えが返ってきた。
私はそれを聞いて吹き出してしまったが、代官はそんな私を怪訝な面持で見ていた。
イベントメンバーは高齢者施設のバーベキューに参加するという事で私と代官はスクールに戻った。
お代官様から「あっぱれ!」
部屋に荷物を置いてケイとの待ち合わせ場所のスクールの門の前で、代官がスマホで電話をしてタクシーを呼んだ。
ほどなくして、ケイとタクシーがやってきた。
軽く挨拶をして代官は助手席で道案内をしながらタクシーはバス通りをクバオ方面に進んだ。
私はケイからイベントの事を聞かれたので演奏した曲目について話をしたが、彼の興味はそこには全くないようだった。
タクシーはマニラのビジネス街の中心部に停車した。代官が運転手と何やら話をしてから降りて来て、我々を高層ビルのエントランスに誘導して受付で必要事項を記入し、チェックを受けてからエレベーターで最上階に移動した。
このビルには日本の会社が多く入居しているようで、フロアー案内には誰でも知っている企業名が名を連ねていた。
最上階には、とんかつ、すし、そばの店舗が並んでいた。そして焼き肉店や中華料理店がありデパートのグルメストリートのようだった。
代官から先日lineで今日の食事について尋ねる書き込みがあった時に、だれでも食べられる中華料理が無難だろうと私が返信していたこともあって、我々は中華飯店に入って行き彼がカードを提示したら個室に案内してくれた。
私が代官とケイを紹介しお互いに自己紹介をして、ひとしきりイベントの講評を代官から承り「あっぱれじゃった」と、お褒めの言葉を賜り食事会はスタートした。
鍵:「お代官様、今日は、かたじけのう存じます。」
代:「うん。下々の者良きに計らえ。って、シゲさんやめなよ。彼がどぎまぎしているじゃないか?」
鍵:「あ。失礼しました。ケイ、気にしないでおやじの遊びだから。」
代:「ケイさん。今日は美味しい料理を食べながら楽しくお話ししましょう。ここの料理は上手いらしいから。」
ケ:「よろしくお願いいたします。しかし、シゲから聞いていたようにカルロスゴーンに似てらっしゃいますね。僕はどのようにお呼びすればいいのでしょうか?」
代:「シゲさんと同じように、代官と呼んでください。それと、食事はコースを予約しておいたけどそれでいいかなぁ。それとアルコールはどうする?私がご馳走しますので大いに飲んで食べてください。」
ケ:「ありがとうございます。それじゃビールをお願います。」
そんなところへウエイトレスがやってきた。
ウ:「Good evening. I’m Jen and I’ll be serving your table today. Here is the menu.」いらっしゃいませ。私はジェンです。そして、今日あなたのテーブルを担当します。こちらがメニューです。
代:「Hi! Jen. Nice to meet you. Your smile is wonderful.」やぁ、ジェンよろしく。あなたの笑顔素敵だね。
ウ:「Thank you. Please let me know when you have decided.」お決まりになったらお呼びください。
代:「Wait a minute. Please use the reserved course for meals. And please give us a beer. 」
チョット待って、食事は予約したコースをお願いします。そして、ビールをお願いします。
ウ:「Okay. I’ll be back soon.」分かりました。すぐに戻ります。
鍵:「代官、ここは景色も素晴らしいですね。ケイ、良い機会なので、食事だけでなく会話も楽しみましょう。スクールの生活はどうですか?」
ビールで乾杯をして、随時運ばれてくる料理をおいしくいただきながら会話は弾んだ。
ケ:「僕は、予算を押さえるために4人部屋を選んだのですが、同年代の人達と話が出来て楽しいです。」
代:「どんな話をしているのですか?」
ケ:「一番は、これからどうするのかです。」
代:「これからどうするかですか?」
ケ:「そうです。TOIECのスコアをアップしようという目標は共通ですが、その後どうするかが決まっていないのです。」
代:「やりたいことがあって、それには英語が必要だからスタディアブロードをしたのではないのですか?」
ケ:「僕の部屋のメンバーは少なくとも将来どうするかは決まっていないです。一人は大学院を卒業したがやりたいことがないので、日本でぶらぶらしているよりも世間体が良いということで親の勧めもあってこちらに来ている。
本人は両親から世間体を気にして捨てられたって言っていました。
もう一人は勤めていた会社が嫌になってやめてこちらに来ている。もう一人もTOIECで満点を取れば道は開けると考えてこちらに来ている。まぁ、僕も同じようなものです。」
代:「若いうちはこれからの人生は長いから焦ることはないと考えていいんじゃないですか。これからの人生よりもこれまでの人生の方が長くなってしまった人間としては羨ましいです。ねぇ。シゲさん。飲んで食べてばかりいないでなんか言いなさいよ。」
鍵:「あぁ、失礼しました。え~と、そうでね。代官や私は老い先短いから一日一日、命を燃やして生きなければなりませんよね。しかし、若い人は沢山回り道をしてもいいと思います。はい。」
代:「こころがこもっていないなぁ。しかし、ケンさん本当にやりたいことが見つかるまでたっぷり考慮時間を使って最善手を指せばよいのですよ。」
鍵:「考慮時間に最善手って、代官は将棋もやるの?」
代:「結構好きなんですわ。僕の場合は最善手を学生時代に見つけられたからラッキーだと思っていますわ。」
ケ:「代官はどうやって英語を必要とする仕事を見つけたのですか?」
代:「英語を必要とする仕事を何故選んだかですか?タフな質問ですね?ストレートに言うと、僕がやりたい仕事は英語が必要だったという事です。」
英会話の能力よりも自分を磨くこと
ケ:「英語が好きだから今の仕事を選んだのではないのですか?」
代:「いいえ。そうではないです。僕がやりたい仕事をするには英語が必要だったのですよ。
そして入社するためには、TOEICのスコアが必要なのでそちらの勉強もしましたが、英語が好きだったわけではないです。」
ケ:「そうなのですか?英語を武器に仕事をして、出世もされたのかと思っていました。」
代:「語学なんて仕事をする上で武器にはならないと、少なくても僕かぁ思っていますよ。」
ケ:「そうなのですか?意外です。」
代:「海外で仕事をする場合に、単に英語が喋れれば良いなら現地で採用すればよいのですよ。しかし日本人を採用する場合は英語を喋れる日本人である事が必須条件なのです。」
ケ:「英語を喋れる日本人ですか?良くわからないのですが。」
代:「具体的にお話ししますと、当社に多くの方が入社したいといって来られます。履歴書を拝見するとTOIECのスコアが900点台の方もいます。私が最終面接でお話をお聞きすると皆さん優秀な方ばかりです。入社希望動機をお聞きしても判で押したように模範解答を英語で答えてくれます。それでは、合否の判断ができないので私なりに特別な質問をさせていただきます。」
ケ:「それはどんな質問なのですか?」
代:「ケイさん。シゲさんから聞いているでしょうが、私共の会社は家電品を扱っています。そこで、あなたが今まで出会った日本製の家電で、一番好きなものは何ですか?自分がなるとしたらどんな家電品がいいですか?そしてその家電品は世界中の人の暮らしとどのようにかかわりたいですか?といった質問です。」
ケ:「難しい質問ですね。」
代:「そうですね。しかし、家電品を扱う会社で仕事したいのならそれぐらいは、簡単に説明できるはずです。家電が好きでなければ仕事をしても楽しくないでしょう。仕事を楽しめなくては成果につながらないですから。」
ケ:「面接の講習会ではそんな質問への練習はやらないですから、言葉が出ないと思います。」
代:「そうでしょうね。それだからその人の本音を引き出すことが出来るのです。」
ケ:「僕は英語が話せればどうにかなると思っていました。」
代:「僕かぁ。人事担当に人を採用する場合は英語力よりも人間力を重視して欲しいといつも話しています。」
ケ:「人間力ですか?」
代:「そうですね。人間力とは言い換えれば、その人が魅力的な人かどうかです。英語力は2~3年で身に付きますが、魅力的な人にはなかなかなれない。」
ケ:「魅力的な人ですか?」
代:「そうです。魅力的な人だと判断すると、この人はまた逢いたい人だと脳は認識します。成田空港で初めて会ったシゲさんにはどうしてもまた逢いたいと思いましたよ。」
ケ:「シゲは、本も出版しているし一流企業の管理職だったという肩書を聞けば誰だって魅力は感じますよ。」
代:「えっ、シゲさんは、作家なの?」
鍵:「作家ではないですよ。身の程知らずの営業マンがビジネス書を一冊、|上梓しただけです。」
代:「それにシゲがサラリーマンだったとはビックリだ。」
ケ:「代官は知らなかったのですか?シゲのプロフィール?それなのにどうしてもまた逢いたいと思ったのは何故ですか?」
又逢いたいと思える人になる
代:「魅力的な人には肩書もプロフィールも関係ないです。シゲは、初めて会った時に “この人は世の中の多様な価値観を受け入れ尊重するしなやかさを持っていて、明るい話題を積極的に提供して、相手に気をつかったり、その場の雰囲気に合わせて言葉を選んだり、適度な距離感を保って人の話を上手に聞ける人”だと認識したからです。」
鍵:「随分ヨイショしてくれますね。てれるなぁ~。」
代:「いやいや、現に初めて会った時に合いの手を入れて貰いながら私が一方的に話したので、シゲさんの情報が全くないのです。それだけ聞き上手ってことですよ。」
鍵:「話をするより聞く方が楽ですから。」
代:「もし仮に私が勤めている会社のライバル会社に、シゲさんがいたら相当苦戦を強いられたと思います。確かに僕の方が英語力は上かもしれないけれど、人間的な魅力は彼の方が高い気がしますから。」
鍵:「代官、冗談はよしこさん。」
代:「いやぁ。最初に成田で会った時からこの人は只者じゃないとピンときました。そして、今日のイベントに参加させていただいて、それが間違いでないことを確信しました。シゲは見事に、フィリピン人の彼らと日本人メンバーをまとめあげて、見ている方々を感動させましたよね。」
鍵:「参加している方に喜んで貰って嬉しかったけど、演奏したメンバーも良い思い出になりました。」
代:「仕事で必要なのは成果を上げることです。それも個人ではなく、チームで成果を上げなければならないと僕かぁ、思っています。それによってチーム力は向上して行けるし、人も育ってくる。しかし、チームとしての目標を掲げてそれを達成できるようにメンバーを導いていくことは難しいです。それを成し遂げるためには人間的な魅力は不可欠なんだと僕かぁ思っています。」
ケ:「何となくわかってきました。それでも、言葉が通じなくては人間力な魅力も発揮できないのではないですか?」
代:「英会話が出来なければ、通訳を頼めばよいのですよ。日本人がいくら英語の勉強をしてもネイティブにはなれませんから。まぁ運転免許がなければお抱え運転手を雇えばよいのと同じです。
英語を話せる「日本人」であること
英語を学ぶことで彼らの考え方を理解することは重要ですが、忘れてはいけないのは、英語を話せる日本人である事が一番重要です。」
ケ:「英語を話せる日本人?」
代:「そうです。最近、当社に沢山の若者が入社してきますが、英語は喋れても日本のことを全く知らないし興味のない人が多いです。しかし、日本の企業と取引したいと考えている海外の企業は日本の文化や歴史を勉強しているので、当社の社員と会話が成立しないのです。私は当社の社員にフィリピンの企業と仕事をするなら、日本の事をもっと好きになって歴史や文化について勉強するように指示しています。そして、趣味を持つように勧めています。」
ケ:「趣味ですか?僕の趣味は英語ぐらいです。」
代:「英語が趣味って言うとシゲさんと同じですね。」
鍵:「お言葉ですが、私にとって英語は趣味ではないです。東京オリンピックのボランティアをやるために英会話が必要なだけです。英語でチョットした道案内が出来ればOK。だから、ビジネス英語にもTOIECにも全く興味がないのです。こちらでジプニー乗ったりして地元の方々の暮らしを体感したりするのに最低限必要な英会話力を身に着けたいのです。」
ケ:「シゲはジプニーに乗ったんですか?どなたか先生と一緒ですか?」
鍵:「いいえ一人で乗ってクバオまで行きましたよ。そしてクバオでバスや電車にも乗りましたよ。私はジプニーの運転手から遠い場所に乗ったので、隣のおばさんに教えて貰って、クバオと行先を告げてその方に料金を渡し、そのお金と行先のクバオが手渡しと口移しでリレーでどんどん前に行って、運転手まで届くと、今度はリレーで私のところにお釣りが届くのを体験しました。
クバオからの帰りはバスの中で座れたので居眠りしてしまって、代官からlineが来なかったら盗難に遭っていたかもしれません。それに、代官からのline通話で送り強盗から間一髪逃れることが出来ました。
でも、一番のカルチャーショックは、信号のない大通りを渡ったことです。クバオには殆ど信号や横断歩道や歩道橋がありませんでしたから。信号のない6車線の道路を渡ったのですが、あの時、おばさんが私の手を引いてくれなかったらずっと渡れなかったと思います。」
代:「シゲさんのそのどん欲になんでもトライしちゃうというのがいいのですわ。わが社の日本人スタッフは、フィリピン人の日常の足であるジプニーやトライスクルを利用しないんですよ。それでは地元の人の生活が理解できないと口が酸っぱくなるまで言っているんですが。彼らには商売の根本が分かっていないんですわ。それなので成果もあげられない。地元の人の生活が肌感覚で分かるとどんな家電品が喜ばれるから分かるようになるんですがね。」
鍵:「猫カフェから駅まで代官が書いてくれた地図はありがたかったですよ。まっすぐ行くと5分ぐらいのところ15分ぐらい掛かりましたけど、歩道橋を見つけて歓喜しました。
その時に歩道橋のありがたさを初めて知って、しばらく立ち止まって橋の上から道路を見ていましたが折角歩道橋があるのに車の間をラグビー選手のようにすり抜けて走り切る人の割合が多いのに驚きましたよ。」
ケ:「シゲは一人で行動していて、危険を感じないですか?」
鍵:「私は怖がりですからしっかり準備をして出かけましたよ。代官に教えて貰ったことを忠実に実践しました。まずは、こちらで安いTシャツとジーパン、それに安い財布を3つ買いましたよ。 それに安いショルダーバッグ、当日はそれを着て財布を持って出かけました。それに、フィリピンの先生から教えて貰ったので靴下にコインをいれて、スクールが契約しているタクシー会社の連絡先のメモを持っていきました。メモにはタガログ語と英語で “私は日本人ですが強盗に財布とスマホを取られたので、ここまで迎えに来てくださいという電話をしてください”と書いてくれました。」
ケ:「どうして、財布を3つも持っていったんですか?」
鍵:「代官に強盗に囲まれたら財布を投げ付けて、強盗がひるんでいる隙に逃げることを教わったからです。そして靴下のコインは帰りのジプニー代です。」
ケ:「完璧な準備ですね。」
代:「ビジネスは準備にまさる成功なしと言われますが、日常生活も同じですわ。」
冒険とは、死を覚悟して、そして生きて帰ってくる事
鍵:「代官、誰の言葉でしたっけ?“冒険とは、死を覚悟して、そして生きて帰ってくることである”」
代:「多分、植村直巳さんだったと思いますわ。彼も充分な事前準備の大切さを語っていましたよね。それにしても、正確に記憶していますね。大概の人は死を覚悟しての部分は抜けちゃうんですが?」
鍵:「いや~。三浦雄一郎さんの講演会に参加した時に、教えて貰ったんです。川口市のお世話になっている会計事務所が主催であり、僕もスキーが好きだったので懇親会では苗場での競技会のことやスキーの板や靴の事で質問もさせていただきましたよ。それに笑顔で丁寧に答えてくれました。素敵なオーラのある方でした。」
代:「直接話が出来たなんて羨ましいなぁ。三浦さんの本は何冊か読みましたよ。コツコツ準備をされる方だし、彼の不撓不屈の精神力には憧れますわ。ケイさんごめん!二人で盛り上がっちゃいました。あなたの年代だと三浦雄一郎なんて知らないよね?」
ケ:「いいえ。知っていますよ。健康商品のCMのおじいさんでしょう。まぁ。それ以上は知らないです。」
鍵:「代官、そろそろお開きにしませんか?」
代:「そうですね。ケイさんもそれで良いですか。それではタクシーを呼びます。」
ケ:「今日はあなた方のようなステイタスの高い方とお話しできてありがたかったです。ありがとうございました。」
代官はこちらこそ楽しかったありがとうといって、スマホを取り出してタガログ語で電話をした。
それから、ウエイトレスのジェンを呼んで何やら耳打ちをして、コインを渡した。会計を済ませると包みを受け取って3人で外に出た。
代:「先ほどここまで乗せて来てくれたタクシーを呼びましたので心配ないです。彼は英語を話せませんが気のいい奴なので安心してください。
運賃はここに到着した時に帰りの分も支払いましたのでそちらの心配もいりません。」
鍵:「代官、何から何までありがとう。テーブルでも一番眺めの良い席に私を座らせていただき景色も料理も堪能しました。それにもまして、含蓄のある言葉の数々に敬服しましたよ。」
代:「いやいや、こちらこそ楽しい時間を共有出来て嬉しかったです。帰国前に又逢いたいですなぁ。」
鍵:「そうしましょう。それでは例のカフェで?」
代:「詳細はlineということで、今日は楽しかった二人ともありがとうございました。」
自分と真剣に向き合ってみようと思います
ケ:「こちらこそありがとうございました。何をして良いかが分からずにとりあえず英語に逃げていたことに気づきました。
こちらにいる間に自分と真剣に向き合ってみようと思います。」
そんなところにタクシーがやってきた。代官は、運転手とちょっとだけ言葉交わすと包みを彼に手渡した。
Lineでの会話によると包みの中身は、運転手の家族へのお土産だったようだ。彼には高齢の母が同居していると聞いたので、シュウマイをあげたらしい。
何故、そんなことをするのかを尋ねたら、君たちを安全に送り届けて貰うためだよって答えてくれた。いやはや、代官には歯が立たないことを思い知らされた。
タクシーが走り出し振り返ると代官が手を大きく振りながら見送りをしてくれていた。照れ臭かったが私も手を振ってそれに応えた。ふと、子供のころに引っ越しをしたときに友達に手を振った記憶がよみがえってきた。あの頃のみなは今どうしているだろうなどと考えていた。
あの時の泣き虫の鼻たれ小僧が60年ほど過ぎて、マニラにスタディアブロードに来ているなんて、だれが想像しただろう。♪思えば遠くへきたもんだ、今では女房子供持ち、この先どこまで行くのやら♪の曲と歌詞とともに、あの頃友達と遊んだ映像が映し出されていた。記憶の中の私は、麦わら帽子に白いランニングにぶかぶかの穴の開いた半ズボン姿で、夏の日差しで熱くなっている線路に耳を当てて貨物列車が走り去る音を聞いたり、カエルを捕まえてザリガニ釣りをしていた。
ケンは車窓を眺めながら考え事をしている様子だった。そんなこともあってタクシーの中ではケンも私も一言も話さなかった。
私はケンと軽く挨拶をして部屋に戻ったが、彼が言った「自分と真剣に向きあってみようと思います」という言葉が耳に残った。
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