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還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ60 会社のブランドが命

代官が卒婚⁉

 部屋に帰ってlineを見てみるといつものように代官からの猫の写真とニャーの投稿でいっぱいだった。

 一通りチェックしながら適当に「いいね!」や「かわいい!」と書き込んでいたが、そのなかにまじめな長文の投稿があったので、読んでみると近日中に帰国するという内容だった。

 代官の書く文章はとても難解で分かり辛いが何回か読み直してみると。

 彼が伝えたいのは

・本社勤務が決まったので今週中に帰国することになった。

・猫カフェで会う約束は残念だけどキャンセルさせて欲しい。

・帰国しても代官山の自宅には戻らずにしばらくの間は会社の寮で生活する。

・シゲさんが帰国したら日本で会いましょう。

・連絡は今まで通りlineでお願いします。

というものだった。

私が転職は検討したの?と書き込みをしたら。

代官から「付き合いのあるマニラの会社の社長に何人か相談したけど、大企業から中小企業への転職はあなたには無理だから止めときなさいと説得された。

それにマンパワーで仕事をしている人ならまだどうにかなるけど、管理職なら出来ますと言われても活かしようがない。

一流企業のブランドがなければあなたの価値はない

つまりあなたは一流企業の役員というブランド力があるから仕事ができるのであって、それが無くなくなったら価値がないと言われたようで悔しかった」と書き込みがあった。

私は「代官には大企業の看板が無くなっても英語も、タガログ語も喋れるのだから今までの経験を活かしてコンサルタントとして起業するという選択肢は検討した?」って投稿したら。

それに対して代官からは「あたりまえだけどフィリピン人ならタガログ語も英語も普通に喋れるから差別化は出来ない。そして起業に関しては「今まで同僚や上司がトライしたが、そのほとんどが3年以内に開業資金が底をついて廃業して、家族もすべてなくしてしまうのを見てきた。会社員の時はみんな優秀な人でバリバリ仕事をしていたけど、会社というブランドを失うと一人では何もできないという現実をいやというほど見てきた。」だから起業するという選択肢はない。という書き込みがあった。

私は「代官が帰国後に別居したらそのまま離婚することになってしまうから、踏ん張って自宅に戻ったらどう?」と書き込みしたら。

代官から「お互いのメリットを考えて、卒婚をすることを提案したら妻も了解してくれたのでしばらくは別々に暮らしてみようと決めたんだ。」という投稿があった。

卒婚って何?と訊いてみると。

代官から「婚姻状態にある夫婦がお互いに干渉することなく個々の人生を歩んでいくという生活形態のことで、婚姻関係を維持するので離婚ではない。愛情のないままで婚姻関係を維持する仮面夫婦とも異なった概念とされているんだ。

別居する場合と同居を続ける場合があるが、別居していても卒婚ならばお互いに世間体も保てるし妻は経済的な不安から解放されることになる。離れて暮らしてみて結婚記念日などでたまに会う関係を続けることで、時が経ってお互いが必要と感じて再び同居するケースもあるんだ。それなので我が家にピッタリだと思うんだよ。」と書き込んだのをみて確かにそうだと納得した。

帰国前のスピーチレッスン

 私のスピーチの内容については、マーガリンとジャムからアドバイスを貰う事にして、とりあえず日本語で文章を作ってからそれを英文にすることにした。

 皆さんこんにちは。私は今週末に帰国する予定です。
「Hello everyone. I plan to return to Japan this weekend. 」

今回が私にとって初めてのスタディアブロードでした。
This was my first study abroad.

フィリピンに来たのも初めてでしたが楽しく過ごすことが出来ました。
「It was my first time to come to the Philippines, I had a fun time. 」

私の意見ですが英語の勉強には留学が一番だと思っています。「「In my opinion, studying abroad is the best way to learn English. 」

そして留学するならマニラがお勧めだと思います。
「And Manila is the best place to study abroad, I think. 」

先生方ありがとうございました。スタッフの皆さんにも感謝します。
「Thank you to the teachers. I also thank all staff. 」

毎日の食事がおいしかったです。ありがとう。そして、学友の皆さんありがとうございました。
「The daily meal was delicious. And thank you to all the classmates. 」

私は来年の東京オリンピック2020で都市ボランティアとして英語での道案内を担当します。
「I will be in charge of guidance in English as a city Volunteer at the Tokyo Olympics 2020 next year. 」

フィリピンの皆さん来年日本に来てください。
「Everyone in the Philippines, please come to Japan next year. 」

その時は私が素敵な場所を案内しますよ。お世話になりました。本当にありがとうございました。
「At that time, I will show you a wonderful place. Thank you for helping me. I’m thankful to you. 」

ウクレレで2曲弾き語りをします。一曲目は“今日の日はさようなら” です。2曲目はカントリーロードです。知っている方は一緒に歌ってください。
「I will play two songs on the ukulele. The first song is 今日の日はさようなら。」

「The second song is カントリーロードIf you know, please sing along.」

この英文についてジャムからリンキングとリダクションのレッスンを受け文章について幾つかのアドバイスは貰ったが大幅な修正をせずにこのままで行くことに決めた。

マーガリンは、日本の歌に関して興味があるようで “今日の日はさようなら”の歌詞の意味を知って一緒に日本語で歌いたいという事で、スマホの翻訳ソフトを活用しながら英語で説明した。

この曲は作詞作曲とも:金子詔一氏で森山良子さんが歌い、“日本では卒業ソングとして広く歌われ親しまれている曲だ”It is song that is widely sung and as a graduation song in Japan.と説明した。

そして、まずタイトルの“今日の日はさようなら”は、Today’s day is goodbye.と説明したがどうにか分かってくれたようだった。

 ♪いつまでも絶えることなく友達でいよう♪「Let’s be friends forever.」といった具合に翻訳ソフトを使って

♪明日の日を夢見て希望の道を♪「Dreaming of tomorrow’s today of hope.」

♪空を飛ぶ鳥のように自由に生きる♪「Live freely like a bird flying in the sky.」

♪今日の日はさようならまた会う日まで♪「Today’s day is goodbye until the day we meet again.」

♪信じあう喜びを大切にしよう♪「Let’s cherish the joy of believing in each other.」

♪今日の日はさようならまた会う日まで♪「Today’s day is goodbye until the day we meet again.」

♪また会う日まで♪「until the day we meet again.」

説明したが何となくわかってくれたようだった。

マサシはアクティブシニアハウスに入居して起業

 マサシとショウコはフルーツの旦那の小倉さんが経営するアクティブシニアハウスの1LDKで暮らすことになった。

そしてリビングの隅に新しく購入したデスクトップパソコンとプリンターを設置して、マサシは仕事を開始した。

マサシが起業することはチャイナタウンの中華料理店で一緒にボランティアでウクレレ初心者レッスンをしているビーナスからフィリピンのウクレレ仲間にも伝わり、大門から彼女が勤めている病院の医者仲間と一緒に話が聞きたいというオファーがイベントlineに来た。

それを契機としてイベントlineは、マサシへの相談投稿やそれに対する書き込みが多くなった。

それは現在彼らが使用している医療マシンへの改良点の希望や新しい医療用器具の開発に関して興味のある人たちを大門がイベントlineに招待したからだった。

新メンバーたちは我先にとマサシへの相談投稿やこんなことでみんな困っているという投稿があり、それに対する書き込みの連鎖が続いていた。

全てが英文なので私には殆ど内容が分からないが、マサシの話だと小さいものでは切れ味の良いメスから大きなものはマサシが以前勤めていた医療機械メーカーに依頼しなければならないものまであるそうだ。

そして時代を反映してか3Dプリンターで印刷できるように設計図を制作して欲しいといった書き込みまであった。

マサシはサラリーマン時代の仲間に連絡をとって、自分では手に負えない物は依頼できるネットワークを準備したそうで、ここ数日の間にすっかりセールスエンジニアの顔になってきた。

ユリから帰国前スピーチに関する驚きの提案

 夕食の時にユリと帰国前のスピーチについて話し合った。

ユ:「シゲは帰国前スピーチでウクレレを演奏するの?」

鍵:「勿論、リベンジするよ。最初のスピーチの時にカントリーロードをちゃんと弾き語り出来なかったので、帰国前スピーチで頑張って演奏するつもりさ。」

ユ:「私にはちゃんと演奏しているように見えたけど、何が問題だったの?」

鍵:「僕がジョンデンバーの”Take me home, country roads”日本名は「故郷にへかえりたい」なんだけど、僕がイントロ部分を英語で歌い始めた時に、皆が一緒に歌ってくれたんだけど、フィリピンの先生やスタッフは日本語の歌詞だったんだ。
僕は驚いて演奏をやめようかと思ったんだが適当に弾いてその場を取り繕ったんだが冷や汗ものだったよ。
彼らが知っているカントリーロードは、ジブリ映画の挿入歌だったんだ。そして、僕はその歌の歌詞も知らないし楽譜も持っていなかった。」

ユ:「そういえばシゲからカントリーロードは♪Take me home country roads♪の日本語バージョンじゃないって聞いたわね。」

鍵:「そうなんだ。ジブリの耳をすませばの主題歌だったよね。僕は動画で毎日聞きながら練習したからなんだけど、ジブリのカントリーロードはジョンデンバーの曲よりゆっくりなテンポのような気がするんだ。
それで、皆の歌とずれちゃったんだと思う。でも、今度は大丈夫!ジブリの動画を観ながら練習したからテンポも分かったし、楽譜も手に入れたから。」

ジブリの耳をすませばの自由に使ってくださいという企画に感謝!

ユ:「そうそう、私は、雫と聖司が歌う場面に感動したわ。それでシゲに頼みがあるんだけど。」

鍵:「何?」

ユ:「チエがまだ来ていないから言うけど、最近彼女元気ないと思わない?」

鍵:「そういわれてみるとそうかなぁ?どうしたんだろう?」

ユ:「チャックもマサシもショウコもスクールにいなくなってしまった上に、私たちも帰国しちゃうからなのよ。彼女は後2か月ここにいるのよ。それで寂しくて私たちが初めて会ったころの彼女に戻ってしまったのよ。」

鍵:「なるほど。それでどうしようって考えているの?」

ユ:「先週スピーチの時にショウコとマサシが2人で挨拶をして、ウクレレで弾き語りをしたように私たちもやれたらいいなと。そこにチエも参加して貰いたいと思うのよ。」

鍵:「マサシとショウコのスピーチも感動したけどそれ以上に♪Stand by me♪の弾き語りは胸が熱くなったな。♪君がそばにいてくれたら 僕は何も怖くない♪って今の彼らにピッタリだよな。ここに来る前に挫折をして再び夢を掴んだんだから。だけど僕らはどんな曲がいいの?」

ユ:「今日の日はさようならがいいと思うのよ。」

鍵:「その曲は、マーガリンも歌いたいといっていたよ。♪いつまでも 絶えることなく 友達でいよう♪。マーガリンはイケイケだけど、卒業式で歌うイメージだからチエは歌に参加することで余計寂しくならないかなぁ。」

ユ:「そんなことないわよ。一緒に練習することでいろんな話も出来るじゃない。」

鍵:「僕はかまわないけど。チエに聞いてみてよ。」

と話しているところに、チエが階段を下りてきたが確かに暗い顔をしている。

チ:「こんばんは。ユリもシゲも楽しそうね。何か素敵な相談をしているのかしら?」

ユ:「そうなのよ。帰国前のスピーチの時にチエと3人で歌わない?ってシゲを誘っているのよ。」

チ:「いいわね。それで曲名は?」

ユ:「♪いつまでも 絶えることなく♪よ。チエは知っている?」

チ:「勿論知っていますわ。卒業式には必ずって言うほど歌ってきましたわ。」

ユ:「そう。それならスピーチの時に一緒に歌おうよ。どう?」

鍵:「そりゃいいな。いい思い出になるなぁ。チエ一緒にやろうよ。」

チ:「本当に私が参加してもいいのかしら?」

ユ:「是非、お願い!」

チ:「そうね。では参加という事でお願いするわ。」

鍵:「それじゃ。今夜ナイト練習会を僕の部屋でやろう。二人とも都合はいいかな?」

ユ:「いいとも!」

チ:「いいとも!」

そんな話をしているところにマッキが加わった。事の次第を聞いて面白そうだねってマッキも思ったようだった。

鍵:「マッキは何日までここにいる予定ですか?」

松:「今週末までの予定でしたが半月ほど延長することにしましたわ。」

チ:「あらどうしてですの?」

松:「今帰国しても娘の事ですぐにまた妻と喧嘩になるのは目に見えているので、妻にこっちに来てもらって少し観光でもしようかと話したらOK貰えたんで。」

ユ:「あらいい事。夫婦で旅行なんて羨ましいわ。」

松:「お店を二人で切り盛りしていたから一緒に長期の休みは取れずに、夫婦で海外旅行をしてこなかったのですわ。

良い機会なのでこれからの二人の人生について話をしてみようと思っているのですわ。家内が来たらセブのホテルに宿泊して観光を楽しみますわ。

僕が通訳をしますんで家内も少しは僕をみなおしてくれるかもしれませんわ。あっはっはっは。  

英語の勉強に来たのに皆さんの夫々の人生と出逢って、もっと大切なものを学習しましたわ。」

英語の勉強に来て料理の楽しみを発見

チ:「私も英語の勉強に来たのに料理を作る楽しみを発見することになってしまいましたのよ。」

ユ:「私が帰国した後も料理教室に参加する?」

チ:「私はそのつもりだけどフルーツが私一人の為にやってくれるかどうかわからないのよ。」

ユ:「生徒が少なくて開催できないというなら、私が友達とオンラインで参加するわ。参加料は振り込むわ。それならやってくれるんじゃない。」

松:「人数が足りないなら僕が参加しますよ。千葉県の電気屋さんで修業している時は自炊していましたから少しぐらいは料理が出来るんですわ。」

チ:「二人ともとても嬉しいわ。ありがとう。」

鍵:「チエは元気が出てきたみたいだね。」

ユ:「そうだよ。その調子!」

結局明後日は、ユリと私が英語で簡単なスピーチをしてから “今日の日はさようなら” とジブリの“カントリーロード”をチエにも加わってもらって弾き語りすることになった。

その為の練習を私の部屋で行った。しかし、当日はイベントの時に買ったTシャツを着ることになったことが私としては恥ずかしい!

5レンジャー再結成!

ゴレンジャー

  マーガリンに “今日の日はさようなら” の歌詞を説明するときに難しい部分はlineでマサシに相談したが、彼は忙しいのに親切に教えてくれた。

 そのやり取りの中で知ったのだが、ケンはスクールの授業がない土日に、マサシの会社でアルバイトをすることになったそうだ。

 彼もマサシと一緒に仕事をすることで何かを掴もうと必死にもがいている。彼にも自分のやりたい事を見つけて欲しいものだ。

 そんなことを考えながら今日の帰国前の挨拶の準備をしている。スピーチの英文は今日の日はさようならの譜面に書き込んだ。

 本来帰国前のスピーチはこのスクールでの英語のレッスンの成果を発表する場所なのだが英文を記憶する時間と体力を節約してウクレレのコードを暗譜する方を優先した。

段取りとしてはユリの名前が呼ばれたら私も楽譜とウクレレを持ってスタンドマイクのところに行って、譜面台に楽譜を置いてまずユリが挨拶をする。

ユリはスクールでの最初の挨拶の時のように、メモを手に持って簡単に挨拶をする予定で、彼女の挨拶が終わったら私が挨拶をするという段取りだ。

トップスはお揃いのTシャツで私が黄色でユリが赤だ。このTシャツはユリとチエから高齢者施設のイベントの時にプレゼントして貰ったものだ。

今日MCを務めるのはケンで段取りも彼と打ち合わせ済みだ。彼からスピーチの発表者は新たにスクールに加わった若者2名が夫々挨拶をしてから我々の発表となると聞いている。

若者の二人はメモを片手に挨拶し大きな拍手を浴びて席に戻った。

いよいよ我々の番だ。ケンが紹介してくれて打ち合わせ通りマイクの前まで来て、譜面台を乗せて私はスタンバイOK。ユリがメモを見ながら短い挨拶を行ったがとても流ちょうな発音だったので驚かされた。

ユリが挨拶しているあいだにテーブル席に目を向けるとチエやジャムやマーガリンの顔が見えた。チエは我々とお揃いの白いTシャツを着ていた。そしてユリの挨拶が終わるとマッキも笑顔で暖かい拍手を送ってくれた。

少しだけ期待していたが流石に先週スピーチを行って、このスクールを後にしたショウコとマサシの姿はなかった。

私の紹介をMCのケンがしてくれたので私は譜面台の前で深々とお辞儀をして、あいさつ文を書き込んだ譜面を手に持って挨拶を始めたら突然、事務室の扉が開いてショウコとマサシがウクレレを持って私の隣に来て並んだ。

 私の挨拶が終わるとチエも譜面台のところまでやってきた。

 ショウコがピンクのTシャツでマサシが緑のTシャツなので、5人合わせて5連ジャー揃い踏みというもう笑うしかない情況になった。

ショウコが私の耳元で5レンジャーやるよってつぶやいた。えっと、驚いて固まっている私を無視して、以前練習を重ねた5レンジャーの登場シーンが始まった。

マ:「ウクレレ戦隊グリーン」

シ:「同じくピンク」

鍵:「イエロー」

ユ:「レッド」

チ:「ホワイト」

全員でウクレレ戦隊5レンジャーと言って、決めポーズを行った。

見ている先生方やスタッフや英語学習者たちにも大うけだった。

 これはチエが仕組んだサプライズだったが嬉しく受け止めて、皆でカントリーロードを弾き語りした。ショウコとマサシの演奏も素晴らしく、チエとユリの歌と踊りのパフォーマンスも素晴らしかったし、食堂内はジブリ映画の中にいるような♪カントリーロード♪の大合唱となった。

 続いて “今日の日はさようなら” を弾き語りしたがショウコとマサシも沢山練習したと見えてとても素晴らしい演奏だった。マーガリンも加わってくれて日本の歌詞で歌ってくれた。チエとユリの歌唱力と歌詞の内容に少し目頭が熱くなった。

 私にとってこのスクールでの1か月間の成果は、英語の上達ではなくて個性的な人達との出会いだったと気づかされた。

 平凡に生きてきた私にとってスタディアブロードでこちらに来なければ、彼らのような人生に触れることはなかっただろう。


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