8.ルールや規制は、感動を生む舞台装置
この連載について
前回「経済連鎖を超えて。これからの人間社会は『文化連鎖』でつながる」はこちら
SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
「HOW -今を、これからを、どう生きるか- 」をグランドテーマにお届けします。
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北村
前回、文化とは?文化を創造するとは何か?を掘り下げました。人間社会のエコサイクルは「学問→産業→文化」という順で進化を繰り返しているという石川善樹さんのお話に立脚するならば、今は産業から文化への転換点にあると時代を定義した。そして、文化創造のあり方として、長田さんが働いていたレッドブルが、アスリートやアーティストと一緒に手間と時間をかけてシーンやアクションをつくってきた営みを紹介いただきました。
長田さんは今、官民の間を結ぶ渋谷未来デザインから、渋谷の街にさまざまなシーンやアクションをつくっています。「始める前は制約が多そうと思ったけれど、意外とできることがたくさんあった」とお話しいただきましたが、それを可能にしているのは長田さんや金山さんが持つ「ルールを解釈する考え方やスタンス」なのではないか、という仮説から今日のお話を始めたいと思います。
人がシーンやアクションを生み出し、それが文化になっていくためには、どんなルールとの付き合い方、あるいはルールメイキングが必要だと思いますか?
金山
僕は、ルールは人を感動させるシーンやアクションを作るための装置なんだって認識して、ルールをつくったりハッキングしたりする人が増えたらいいなと思ってます。ルールを制約と捉えて諦める人が多いから。長田さんは諦めない人の筆頭ですよね。
長田
ルールって慣習や規則や罰則といった、いわゆる秩序的なものと、これからを作っていくルールの二つあるんじゃないかと思うんです。
「ルールメイキング」のセッションでの斎藤弁護士のお話に、「戦後昭和につくったルールをずっと使い続けてきたから、今いろいろな問題が起きている」というものがあったと思うんですよね。これからを作っていくとか感動を生むって、みんなが活躍できるようにするってことだと思うんだけど、そのための仕組みを戦後昭和のルールに乗せようとすると齟齬が出てくる。
北村
「ルールメイキング思考」のセッションにおいて、弁護士の水野祐さんと齋藤貴弘さんは、イノベーションを起こしていきたい人たちの中には「ルールメインキングが必要だ」という気運は高まっているというお話がありました。同時にスタートアップと行政、国の政策と民間の実装とが、どうもうまくかみ合っていないというお話もありました。
ルールメイキング思考 2019/9/20 17:00-17:45 @渋谷ヒカリエ 8/COURT
イノベーションのボトルネックになるのはテクノロジーではなくルール。
ニューポート法律事務所パートナー弁護士の齋藤貴弘さんは、「ルールはあくまでフレーム、脱法的ではなく面白いものとしてどのように解釈して広げていくかを考えていたい」と語りました。
またシティライツ法律事務所弁護士の水野祐さんは「ルールをハッキングによって変えていく。ハックすることとはルールをアップデートしていくこと」だと言います。
スタートアップ企業や大企業が何か新しい事業に取り組む場合だけでなく、一般市民が楽しむファーマーズマーケットのようなイベントまで、既存の法律に照らし合わせたとき、行政と民間ではコンセンサスがとれない場合、行政は民間を縛りつける。そんな印象を持つかもしれませんが、水野さんは「今の世の中は行政と民間のプレイヤーの意思が合致することはかなりあり、以前よりも行政が話を聞いてくれるような時代になりつつある」と語ります。
続けて斎藤さんは「行政の方が日本の未来に対してリアルに課題感を持っている。実は新しいことをやらなければという意識は強い」と体験型観光を例に説明します。
規制には意味があると考えながら実装の部分に着目してみる必要があります。
「カルチャーが発達していくとルールは古くなっていく。新しいものに対してルールをチューニングしていかなければいけません」(水野)
「“ルールは時代や環境とともに変わる”ということが前提として共有されていればいい。ルールという補助線を引いて、それが目的に到達するために有効なものだと捉える。そして、コミュニティにとってより良いものになるようにハッキング、メイキングしていくべき」(斎藤)
<登壇>
ニューポート法律事務所パートナー弁護士 齋藤貴弘
シティライツ法律事務所 弁護士 水野祐
金山
斎藤弁護士が書かれたルールメイキングという本は、規制緩和の必要性を説いている。往々にして、世間のイメージがルールメイキング=規制緩和ってなってるんだけど、僕はそうとも思っていなくて。
長田
わかります。たとえば、すでにあるサッカーから、新しく全然違うフリースタイルフットボールが生まれて来たりすることとか。「違う角度からみんなが参加できるルール」をつくることも、ルールメイキングかなと思います。既存のルールをゆるめるというよりも、新しいルールをつくることで、今までとらわれていたものから解き放たれて、新しい参加の仕方や、開かれたみんなのフィールドを作ることができる、というような。
金山
2019年のSIWのテーマを〜The New Rules〜にしたのは、まさにこの視点を提供したかった。新子さんが言うフリースタイルフットボールの話を引用させてもらうんですけど、サッカーのルールフォーマットから、「ボールを足で扱ってゴールを決める」という一番コアな運動だけを移植して新しいルールを作るとフットサルが生まれて、参加したり活躍したりする人が増えて、感動が生まれたり、日本代表選手が生まれたりするじゃないですか。さらにそこから新しいルールを作っていくと、フリースタイルフットボールみたいなパフォーマンスに行き着いて、サッカーとは違った感動の作り方や競技が生まれ、実際に、世界一のタレントやパフォーマーが生まれたりしている。ルールは感動を生み出す装置であり、どういう感動を生み出すべきかに取り組んだときにこそ、新しいルールを作る必要がある。ルールと文化や社会って、そういう関係にあるんじゃないかと捉えています。
北村
聞いていて、ゆるスポーツの話を思い出しました。心臓病がある少年がサッカーができるように「500歩サッカー」を作ったり、ボールを激しく扱うと子どもが泣いちゃうから「ベイビーバスケットボール」という優しくボールをパスするルールフォーマットを決めたり。今あるものから、他にはどんな楽しい遊び方があるかな?と発想していくと、ルールメイキング次第では参加できなかった人が参加できて社会全体にシーンやアクション、楽しさや輝きを増やせるんだなって。スポーツだけじゃなく、音楽も社会全体のフォーマットとかもきっとそうだと思うんですよね。
ソーシャルデザインの本質 2018/09/17 13:20-14:40@表参道ヒルズ
澤田さんは、世界ゆるスポーツ協会の代表理事として、誰もが楽しめる新スポーツを提案。たとえば、“一人500歩しかあるけないサッカー”。競技者は、万歩計のような装置をつけ、1歩走ったら数字が減り、一方3秒止まっていたら1歩分回復するというルールのもとサッカーを行います。実は、この新スポーツはペースメーカーをつけた男の子のアイデアから生まれたもの。「ほかに、車椅子ユーザーなど障がい者の方と一緒に開発したものも多い。僕は運動音痴というのもあり、弱さを起点にしたイノベーションを考えています。その弱みにどういう光をあてると強くなるか。そこで生まれる新しい価値を提案している」と話します。
〈登壇者〉
NTTサービスエボリューション研究所/主任研究員
デザインイノベーションコンソーシアム/フェロー
木村篤信氏
世界ゆるスポーツ協会
代表 澤田智洋氏
グリー株式会社、グリービジネスオペレーションズ株式会社
代表取締役社長 福田智史氏
(モデレーター)
株式会社ロフトワーク 代表取締役、
一般社団法人渋谷未来デザイン フューチャーデザイナー
林千晶氏
金山
ルールが感動やアクションや文化を生み出す装置だと仮に定義するなら、ルールをつくったり運用する人たちには、まずは既存のルールの範囲内で限界まで成長したり、新しく解釈することを志向していて欲しい。ルールの中で反則級に新しい価値を生み出したり稼いじゃったりする人が出てくるから新しいルールを作るっていうサイクルに持っていかないと、本当の意味での文化振興や経済振興は実現しなくて、社会が成熟のサイクルに入っていかないんじゃないかなと思ってるんですよ。ルールを悪者にするんじゃなくて、ルールがあるから進化するっていうテーゼを銘記したい。
だけれども、現実でよく起きていることは、慣習とルールの混同だと思ってるんですよね。ルールは「アクティブに使っていく」装置のはずなのに、ネガティブに「変化させない、しない」同調圧力でいっぱいの空気を生み出す慣習的なルールの運用をしている人が多すぎて。だから未来志向の国の政策と民間の実装がうまく噛み合ってないということが起こっていると思っている。ルールの理解度がバラついていたり、知恵さえ絞ればやり方はあるのに聞いてもらえない慣習がよくないだけ、というような。これはルールメイキングというよりルールハッキングの話かもしれないんだけど、規制緩和よりも前に、意識改革だったりできることがあるように思うんです。
北村
弁護士のお二人が話されたルールメイキングも、未来志向だったと記憶しています。水野さんは、「ルールメイキングとはフレーミングとアジェンダセッティングだ」と定義していました。アジェンダセッティングって世の中の見立てですよね。現実を見立てた上での未来への課題観や「こういう社会を実現したい」というビジョンは、ルールをつくったり運用する側が持っている場合もあれば、ルールを解釈しながら新しい価値を生み出そうとする側が持っている場合もある。いずれの側にも、腹をくくる人が必要だけど少ない、という話をされていましたね。既得権益を退けて規制緩和をするにしろ、ルールをハックするにしろ、どちらがとることになるかわからない責任をとる覚悟を、どちらもが決めないといけないみたいな話は印象的で。
長田
文明が文化の栄養という話ともつながるんですが、新しいテクノロジー、たとえば5Gとかキャッシュレスとかをどう社会に実装するかが確定していない今って、新しいフレームをつくる余地がある。そうすると、そこに社会の課題や未来像を見立ててアジェンダセッティングする人が現れてくる、みたいなことが起きてるのが面白いなと思います。
5Gで街全体をエンタメ化する 「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」をやっているんですが、みんなが盛り上がったのが教育の分科会でした。義務教育のあり方をどう考えるべきかとか、これからの個性を伸ばす教育を5Gでどうやって支えていくかとか。親が多いからというのもあって、熱量がすごくかったんですね。音楽とかアートだともうちょっとラフに話すんですが、教育に関しては「この分科会のミッションを考えるべきだ」とか、真面目に深まって、渋谷区に対して提言できのるか、という話までいったのを思い出しました。
金山
5Gエンターテイメントは、5Gは掛け声でしかなくて、中身のところでは「バーチャル渋谷」っていうVR空間での渋谷の街づくりプロジェクトが立ち上がっていますよね。VRだけじゃなくて、MRやARとかいろんな技術を使ってどう街が楽しくなるかを今まさに作り始めた大きな船出状態じゃないですか。ここ、本当にノールールなんですよ。法的制限もないし、バーチャル渋谷の空間の中で何が行われても、原則罰せられないわけです。免許も持ってないのに車を運転できる世界です。基礎実験レベルでデバイスも成熟していないし、ユーザーも多いわけではない。だけど、すでに街ができていてイベントが開催されてしまって、イベントでは現実世界とは違う広告が運用されていて。すごく不安定であやうい状態でいろんなことが走り出してしまってる。
ノールールな状態だからこそ、さっき新子さんが言及した「教育」だったり、それ以外にどんなフレームが描かれ、「個性を伸ばす教育を支える5Gとは?」だったり、どんなアジェンダがセットされるのか。感動を生むルールメイキングがされていくのか楽しみですよね。
(2020/7/31 16:00-18:00 @online)
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to be continued
構成:浅倉彩
SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
経営者・社会事業家・クリエーターなど各界のキーマンがセッション。
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