マカオと国境を接する中国側の街・珠海で考えた、起業するということ
うっかり手を滑らせて落としてしまい、ガラス面に派手にヒビが入ったiPhone5S
動作はなんとか問題ないものの、ひび割れた部分を指でなぞるたびに細かいガラスの破片がこぼれ落ちてきて危ない
修理しに行く時間も持てないまま、ジップロックに入れて騙し騙し使う
職業柄、香港に拠点を置きながらも中国国内への短期出張を繰り返す暮らしをしている
今回の出張では中国国内のいくつかの街を点々としたのち、マカオと国境を接する街・珠海にやってきた
思ったよりお客さんとの会食が早めに終わる
そこで香港人の同僚と街を散策してみることにした
マカオとのイミグレーションに続く道沿いはちょっとした繁華街になっていて、マカオ観光から戻ってきた観光客が闊歩している
彼らは比較的宿泊費が安い珠海に宿をとって毎日”観光に”マカオに出かけていくんだ
そんな人々を尻目にどんどんイミグレに向けて歩を進める
聡明で気がきく同僚は自分のiPhoneのガラスのこともちゃんと気にかけてくれていたようだ
「治せる場所に案内しますよ」
え??ここは日本じゃないし、まして香港でもない、なぜわざわざiPhoneの修理を中国で、、、? 大丈夫なの??
そんな当然の疑問に彼は答える
「実は、iPhoneの修理は香港よりも中国国内の方が安いんだ」
「それに香港内の修理に使う部品だって、中国から輸入してるんだよ」
「修理技術だって、中国から流れてきたんだからむしろこっちが本場と言えなくもないね」
ほう
技術はともかくとして、どのくらいで修理してくれるのだろう・・いくら?
「200-300RMB(≒3000〜4500円)てとこ」
このiPhone5S、2年半使い倒してもうiPhone7に変えようと思っていたタイミングだった
たとえちゃんと修理されなかったとしても、一か八か試してみるのも悪くない
よし、行ってみようか!
ΩΩΩ
携帯修理屋さんはマカオとのイミグレーションに続く屋台街の一角にあった
バッグ、時計、靴、おもちゃ、キャラクターのフィギュア・・・ありとあらゆるバッタ物、ブランドのコピー品がこれでもかと陳列され、そのすぐ隣には大衆食堂が軒を連ねるというカオスな場所
こんなアジアそのものを凝縮したようなツッコミ所満載の空間
正直、嫌いじゃない
カウンターには18、19歳くらいと思われる若い男が二人
ラフなTシャツでなにかをいじっていた
「ネイホウ(こんにちは)」
香港人の同僚が広東語で話しかけた
『ねいほう』
広東語、オッケー
「広東人?俺たち香港から来たんだ」
軽い世間話
俺は日本人だけど香港に住んでるんだ
そして本題へ
これ、治せる?
少しいじる
『ああ、問題ない』
即答
へぇ、問題ないんだ!
いくら?
『200かな』
何分かかる?
『10-15分』
早い、安い、うまい・・・かどうかはわからないが、とにかくオッケー、頼むよ
さっそく作業は開始された
まあ当たり前かもしれないけれど微塵の躊躇もなく、手慣れた手つきでネジをあけ、ガバッと画面パーツを外す
配線を器用に外すと、iPhoneの臓物が見えた
興味深々で作業に見入っていると、もう一人がどこからか新しい部品を持って帰って来た
取り付ける
動作確認
ちゃんと動く
マイクも問題なし
OK、パーフェクト
外装が落下で歪んでいてそこも少し修理する必要があったので、最終価格は230RMB
カバーもつけてよ、もちろんおまけでね笑
『しょうがないな笑』
カウンターには戦利品というか、自らの経験を伝えるためなのか、壊れて交換された元の部品が陳列されていた
中にはケースがゴールドで画面が黒という組み合わせのも笑
ありがとう
カウンターを後にする
真新しいガラス
操作感までもが改善されたようにすら思える
当分新しいのはいらないかもしれない
ΩΩΩ
少しまわりのカオス空間を楽しんでから、気分良く帰路についた
帰り道、件の香港人同僚と会話をかわす
香港で修理したらいくらになるの?
「600-800HKDじゃないかな、一番安いモンコック界隈でもね」
とすると中国の方が半値以下なんだ
「アップルストアで修理すると1000超えるのは確実だろうね、もしかしたら2000くらいかかるかも」
へー!
「ちゃんと修理されて動くようになるんだからこれでぜんぜんいいと思いません?」
そうだよね、客とその金額で合意がとれさえすればいいんだからね
「保証はないんですけどね」
ΩΩΩ
彼らはどうやってこの商売をはじめたんだろう?
おそらく誰かに教えてもらったわけじゃない
見よう見まねでジャンク品をばらし、修理方法を体得して、小さな店を始めた
部品を調達して、修理して付加価値をつけて料金をもらう
そこに利益が出てそれが自分で納得する額なのであれば、続けていくだけでいい
とてもシンプルな考え方だ
中国にはそんな若者がたくさんいる
彼らは自分が暮らす社会の中からどこに商売のタネがあるのか、常に探しているしトライする
それが違法なんじゃないか、とか、そんなことやっていいのか、とか、そういうのは後回しだし、そもそも考えない
ブランドの偽物・コピー品の横行など、中国の商売は悪い面ばかりが強調されがちだけれど、その裏にある動機は極めてシンプルな感覚に基づいている
お金を稼ぐ、商売を始める、もっというと起業する
そんな感覚が、はたして今の日本人にあるのかな…
圧倒的に欠けているというか、スッポリ抜け落ちてしまっているというか…
むしろ生きていく上でかなり大事な感覚なんじゃないかな
とくに意識が高いようにも見えないのだけれど彼らは肌感覚でそれをやる
だから彼らは食いっぱぐれることはない
そしてうまくやる人がとんでもない成功を収める
若い人が稼ぐ手段といえば時給ベースのアルバイトしかほとんど選択肢のない日本
かたやそんな高度にシステム化された職業はまだまだ少ないけれど、こんな風に自分で仕事を作って暮らしていく若者がいる中国
彼らから学べることはたくさんあるんじゃないかな
それが中国を歩いて感じたこと
翌日
取引先に行き、世間話でiPhoneの修理の話をした
曰く
ああ、俺なら150RMBで治せる場所を知ってるぜ
?!
もうこの人たちは少しでも高値をつかまされたとみると情弱認定したがる、おまえやっちまったなって笑
はやく言ってよ笑
まあいいや、
また来るよ、再見!