見出し画像

バンバラ語 概説 音韻編

北大言語学サークル所属のもけけです。
音韻編と文法編の全二回に亘る本記事では、西アフリカに位置するマリ共和国を中心に話される「バンバラ語」という言語について紹介します。


バンバラ語って何?

バンバラ語は、西アフリカのマリ共和国やコートジボワールを中心とする地域で話されている言語で、話者数は約400万人とされています。

言語系統としてはニジェール・コンゴ語族マンデ語派に属すると考えられており、小森(2023: 176)によれば、セネガルのマンディンカ語(マリンケ語)やギニアのマニンカ語、コートジボワールのジュラ語とも近い関係にあることが認められます。
実際、『言語学大辞典』においては、これらの言語を全て「マンデ語」の方言と捉える方針で立項されていました。

音素

小森(2017)によれば、バンバラ語に認められる音素は、以下の通りです。

子音

p, b, t, d, c, j(ɟ), k, ɡ, f, s, z, h, m, nɲŋ, r(ɾ), w, l, y(j) (計20子音)

小森(2017: 93)によれば、固有語では /z/ は /s/ の異音に過ぎないのですが、外来語では多く見られるために音素として設定されているようです。
また、清水(1992)では、上記の子音に加えて /ʃ/ も音素として認定していますが、小森(2017: 93)は、/i, u/ の前での /s/ の自由変異音と考えられる点や、外来語や単音節語のみに見られる点、/sy/ という子音連続と解釈できる点を指摘し、音素とは認めていません。
なお、最後の理由に関しては、/ɲ/ も /ny/ と考える余地があるのかどうか疑問に感じました。

母音

i, e, ɛ, u, o, ɔ, a (計7母音)

ɛ, ɔ はそれぞれ e より広く a より狭い母音、o より広く a より狭い母音と言うことができそうです。
また、さらに7母音それぞれの長母音と鼻母音も音素として認定することができるようです。(小森 2017: 92)

音節構造

小森(2017: 94)によれば、バンバラ語の音節構造は CV の開音節が基本で、他に、母音だけの V、成節鼻音だけの N、前鼻子音の付いた nCV、半母音の入った CwV および CyV を認定できます。
なお、成節鼻音や前鼻子音は後ろの子音の調音点に同化します。

声調

小森(2021: 28)を参考に整理するなら、バンバラ語は「」の四種類を区別する声調の体系を有していると考えることができそうです。これらの声調は音節を単位としています。

声調は音節を単位としますが、語のレベルで見られる声調のパターンには偏りがあり、全ての音節が「高」である「H型」と、語の前半部が「低」で後半部は「高」になる「LH型」が多いようです。(小森 2021: 28)

単音節語について、名詞以外の語では「高」と「低」が見られ、名詞に関しては「高」か「昇」が見られるようです。(小森 2021: 28)
後述の限定詞が付加されると「高」の名詞は「降」になりますが、「昇」の名詞では「低高低」のようになるというよりは「昇」のままの音声実質であるようです。(小森 2021: 28 / 小森 2017: 96)

多音節語では、例外も存在しますが、前述のH型とLH型に属する語が高い割合を占めているようです。

H型とLH型の偏りは複合語でも維持され、前部要素が「高」で始まる語では、語全体が「高」のH型となり、前部要素が「低」で始まる語では、前部要素が全て「低」で後部要素が全て「高」のLH型になるようです。(小森 2021: 32-33)

限定詞

浮遊声調、すなわち特定の音節と結び付かないままで自律的に存在している声調として「」の声調が名詞に後置されると、英語の定冠詞が付いた名詞に相当するような「限定形」になります。名詞が単独で発音される場合は、通常「限定形」を用います。(小森 2021: 29 / 清水 1992: 219)

文献

  • 小森淳子(2017)「バンバラ語のアクセントについて」『スワヒリ&アフリカ研究』28巻 pp.91-108 大阪大学大学院言語文化研究科スワヒリ語研究室

  • 小森淳子(2021)「バンバラ語の声調: 語の声調パターンと自律分節的声調付与」梶茂樹(編)『アフリカ諸語の声調・アクセント』pp.27-45 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

  • 小森淳子(2023)「マイナー言語を半期だけ教える時に教える10のこと: バンバラ語を学ぶ学生のための類型論」『外国語教育のフロンティア』6巻 pp.175-189 大阪大学大学院人文学研究科

  • 清水紀佳(1992)「バンバラ語」亀井孝・河野六郎・千野栄一(編著)『言語学大辞典 第3巻』pp.216-227 三省堂

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?