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'21年度前期 授業の反省 (5) ディスカッション

今学期も,昨年度後期と同様にクラス毎に開設したブログを用いて受講者間のディスカッションを行いました。ハイフレックス授業で受講者が教室と遠隔で分かれ,しかも教室で受講者が発声できないという状況では,これが一番よい方法ではないかと考えました。

昨年度後期との違い

昨年度後期は,学期の最後の3テーマについて,講義(オンデマンド講義ビデオ視聴)の週に続けて,ディスカッションの週を設けました。講義の週に講義ビデオを観たあと,教員が提示した架空の意見に対して自分の意見をブログに投稿してもらいました。設問は次のような形にしました。

核の拡散と国際管理に関する講義ビデオを視聴した受講者の間で,核不拡散条約(NPT)の意義について議論したところ,次のような意見が出されたとします。「インド・パキスタン・北朝鮮が核不拡散条約(NPT)を締結しないで核兵器を保有するのは正当なことである。なぜならば,核兵器を保有して核抑止力を持たないと,核保有国の侵略から自国を防衛することは不可能だからだ。特に,核保有国の核の傘(同盟国の核抑止力)を期待できない国であるならば,なおさら核抑止力として核兵器を保有することは許されるべきだと思う」。あなたはこの意見に同意しますか?  自分の意見を理由とともに書いてください。

受講者は,意見を投稿する際に,「同意する」「一部同意する」「同意しない」のいずれかのカテゴリーを選択することにしました。教員は,それをもとに,意見分布が大体同じになるようにクラスを20名前後のグループに分け,ディスカッションの週には,そのグループ内で互いにコメントを付け合うようにしました。

コメントを付ける際に,コメントがまだ付いていない人にコメントを付けるよう指示を出したため,誰もが最低一つはコメントをもらえるようにしました。それには意味があったと思いますが,同じ論点での議論が分散し,議論が深まらないという難点がありました。

今学期はやり方を変えました。まず,学期の初めの頃からディスカッションが行われるように,講義の週が2週続いたあと,ディスカッションの週を1週入れるというサイクルにしました。これで,第4週,第7週,第10週,第13週と全部で4回のディスカッションが定期的に行われるようになり,学生は学期の前半からディスカッションを意識して意見を書くようになったと思います。

もう一つの変更点は,ディスカッションの週に受講者がコメントを付ける出発点となる意見(論点)を,受講者がブログに投稿した意見そのものではなく,そこから教員が抽出した論点としたことです。例えば,「核の拡散と国際管理」のテーマに関しては次のような論点を提示して,それにコメントを付けさせました。

(1) NPT締約国のうち米露英仏中の5か国のみに核保有が認められている現状は変えるべきか? もし変えるべきだとしたら,どのように変えるのがよいか?
(2) 核をめぐる安全保障のジレンマから抜け出すために,世界各国は一丸となって核廃絶のために協力すべきか? またそれは可能か?

コメントを付けさせる方法として,3回目のディスカッションまでは,まず自分の意見を考えて投稿し,その後他の受講者の投稿を読んでコメントを付けるように指示しました。まず自分の頭で考えて自分の意見をまとめる力をつけさせたかったからです。しかし,最後のディスカッションでは,自分の投稿をする前にすでに投稿されている意見を読んで,自分が投稿しようと思う論点を含む投稿がすでにある場合は,それにコメントを付ける形で自分の意見を付けるように指示しました。また,同じ内容の意見は投稿しないように心掛けることも支持しました。こうすることで,同じ論点での議論が分散したり,同じ意見ばかりが並んだりせず,これまでよりも議論が深まることを期待しました。これは比較的うまく行ったので,もう少し早い段階で(第3回ないし第2回のディスカッションから)この方法を取ってもよかったと思っています。

昨年度から引き継いだこと

ブログでのディスカッションを成功させるために工夫した点は,次の3つです。

1. 意見の書き方をパターンで示す。最も重要なパターンは,They Say / I Say.
2. 議論の心得を繰り返し伝える。最も重要な心得は,Respect and Tolerance.
3. 受講者の意見が適度に分かれるような「出発点となる意見」を提示する。

上記については,今年3月にオンラインで開催された大学教育研究フォーラムの発表で説明していますので,そのビデオをここに掲載します。

3.の受講者の意見が分かれるような「出発点となる意見」を考えることはなかなか難しいのですが(しばしば予想が外れるため),今学期は上述の通り,学生から出てきた意見をもとにして意見が分かれている論点を提示することにしたので意見が極端に偏ることは少なくなりました。しかしそれでも,教員が予想したような議論にはならないことがあります。とはいえ,大人数の講義で,グループ討論の流れに教員が介入することはほとんど不可能なことが多かったこれまでとは異なり,ブログでの討論はかなり教員の介入が可能となりました。