今クリスタルと私クリスタル
天正十年六月二日の早朝、明智光秀の謀反によって本能寺は炎に包まれ、織田信長は自害を余儀なくされた。このとき信長は思ったであろう、「おお、まさに今本能寺が炎に包まれており、熱い!」
信長は今まさに本能寺が炎に包まれているということを知っていたのではあるがしかし決してこのことを逆に誤解してはならない。逆というのは、まさに明智光秀の謀反によって本能寺が炎に包まれているということをもって天正十年六月二日が「今」であるということを織田信長が理解したという方向にである。
信長に限ったことではないが、我々はどんな場合も「今」がこの悠久の時間の中でいつであるのかを、そこで起きていることの内容ではなく単にそれしか与えられていないということによって把握する。少なくとも私はそうしているが、皆さんはどうですか。
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