<雑談>あの漫画、読んだ?
Sisterlee編集部でも話題になった漫画『普通の人でいいのに!』(冬野梅子/コミックDAYSにて掲載中)。先週の編集部の雑談をお届けします。漫画の内容や結末に触れているので、未見の方はご注意ください。
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N:私は正直、この主人公の気持ちめちゃくちゃ分かるから……なんか、現実だなあと思った。特に感想もない。
B:私は結構モヤモヤがあった。主人公に対してもだけど、特に作者に。自虐的な描写を繰り返した末に、「こういうもんだよね」って提示することに意味はあるのかなって。
I:私はちょっと違う風に読んだかな。マッチングアプリのほうの漫画(『マッチングアプリで会った人だろ! 』)も読んでより強く思ったけど、これって読んで絶対いい気持ちにはならないじゃない。
「こういうもんだよね」というよりは、「嫌われてもいいから膿を出し切ってやる」みたいな気迫(?)を私は作者から感じた。
B:なるほど。ただ、たとえストーリー自体にそういう意図はなくても、「ああいう女いるよな」って消費されそうなのが私は一番嫌だったんだと思う。ミソジニックなリアクションがすごく多かった。
I:倉田さん(主人公がデートをし、のちに付き合うことになる人物)に感情移入した上で主人公を批判しているように見える人が多かったよね。実際は、彼らと倉田さんとは全然違うと思うんだけど。ツイッターの人たち、ゴルフとか趣味じゃないでしょ。
B:身体的な特徴や社会的な地位や年収を図解したコマが拡散されてたじゃん。あれが不快だったんじゃないかな。似たようなことを社会のいろいろな場所で女に対してやってるくせに、漫画の一コマで取り上げられたくらいであんなに言うんだ、とは思った。
「女はこういうメカニズムで高望みしてるんだ」って趣旨のコメントも多くて。
I:それもたぶん勘違いだよね。主人公みたいなサブカル女性、そもそも絶対数が少ないから。もし彼らのことを相手にしない女性がいるのだとしたら、その女性は主人公とは別のタイプである確率が圧倒的に高いと思うんだけど。
B:そうなんだよ。本当はいろいろな人がいろいろな理由でパートナーを選んでるはずなんだけど、結果的に「高望みする女はどうせこういう奴なんだ。ざまあみろ」と溜飲を下げるのに使われちゃったんだと思う。
I:うーむ、そういったミソジニックな反応を引き起こした点をどう捉えるべきか、という論点もあるのかもね。
「努力してないくせに」みたいなコメントも多かったじゃん。でも私、主人公結構努力してるじゃんと思ったんだよね。憧れの人たちと仲良くなるためにバーに通ったり、友達のライブに行こうよって彼氏誘ったり。
B:たしかに。活動的なオタクだよね。
N:でもそれって本当に好きでやってるのか微妙じゃない? 対バンのくだりにしても、「ライブとかやる友達がいる私」っていう視点で言ってるんじゃないのって思うけど。
I:いや〜そういう部分が多少あったとしても、好きって気持ちがないと行かなくない? だってめんどくさいよ、行くの。
N:ああいう人はめんどくさくてもそれっぽかったら行くよ。
I:そうかなあ。ラジオ聴くのとかだって、めんどくさいよ。
N:だから、それは「ラジオ聴いてる私」を見てるの。めんどくさいとかじゃない。
B:まあまあ、そこは個人差があるということで……(笑)。
私は主人公に対してそこまで思うことはないんだけど、彼氏に対する言動だけが引っかかって。好きでもないのにデート繰り返して、付き合って、って自分の欲望を正しく認識してない上に、なんとなくお茶を濁すことに他人を使ってるじゃん。
『少女革命ウテナ』ってそういった行動をかなり批判的に描いているからか、TL上のウテナファンも同じような観点で反発する人が多かった。ウテナファンの妹が横にいるので、妹も呼んでいいですか?
I・N:もちろん!
Bの妹:こんにちは〜。
B:どこが引っかかったのか、教えてよ。
Bの妹:他人の自分との関係を点数でしか見ていない、そういう価値基準での人間関係しかあらわれてこない、というのが。相手を人間として慮ってというくだりがないのは、どういうことなんだろうって。
B:人間同士のドラマとして見れないっていう感じ?
Bの妹:そうですね。
I:ちょっと話逸れるけど、そういうラインのコンテンツってありますよね。人間関係を点数で見るというのはちょっと違うけど、映画版『勝手にふるえてろ』でも、他人は存在してるというより自意識のこだまとしてしかあらわれてこないというか。
N:わかる〜。やっぱり私、この漫画、自分のことすぎてダメ。
I:私も『勝手にふるえてろ』は自分の話じゃんってなって結構凹んだし、反省したわ。
Bの妹:私は逆にあの漫画遠すぎて、わからなかった。いいと思わない人と何度も会ったりするくだりで「何が起きているんだ」って。逆に、共感できる場合はどういう心理なんですか。
N:まあ薄々どっかで自分は特別になれないことに気づいてて、ちょうどよく普通の人が出てきたので、年齢的にもいいし、まあ付き合っとこうかなってなったんじゃないですか。
I:そもそも、前提として、恋愛や結婚についての同調圧力が強いコミュニティが存在するっていうのがあると思います。「普通誰かとお付き合いしたいものでしょ」とか「何歳までに結婚するものでしょ」っていう意識がある。それで同調圧力に押されて人と付き合う、みたいなことも出てくる。
Nちゃんとは地元が一緒なんだけど、うちらの地元って「これが普通でしょ」って意識が根強いんだよね。倉田さんっぽい感覚の人が男女ともに9割くらいなの。
N:マジでそう。
I:私の中にも「倉田さんっぽい(笑)」って倉田さん的な人を若干見下しているところは正直あるのかもしれないけど、逆に言うと、10代の頃は倉田さん的な人たちと馴染めなくてすごい疎外感を感じてたから、実はそれは負け犬の遠吠えでもあり……。
N:わかるわ〜〜。
I:だから、この主人公の一番つらいところは、普通に生活してると自分と似た価値観の人に出会えなかったことなんじゃないかって思った。それは別に主人公を責めることでもないじゃんって。
逆に、普段の人間関係で満足してたら、キラキラした世界に憧れたり、わざわざサードプレイスを探しにいったりしないんじゃないかと思うんだよね。
N:え〜そうなのかな。
B:つまり、普通に生きてて割り当てられる普通の世界の中で幸せになれないからこそ、っていう?
I:そうそう。
B:そしたらさ、主人公は片思いしていた脚本家と付き合えていたら幸せだったと思う? 環境は変わらないまま、彼と付き合えてたら、あの物語で言うところの幸せになれたのかなって。
N:たぶんね、特別な人間になれた気はして、本人は満足したんじゃないかと思う。
I:私もそう思う。
B:じゃあ主人公にとってのゴールは、彼ではなかったってことなのか。
I:彼ではなくて、彼が象徴する世界に夢を見てるんだと思った。
B:それこそウラジオストクみたいな。
I:まさに。
B:言われてみれば、あの世界を本当に求めてたらもっと具体的な欲望が出てくるはずなんだけど、彼女のやりたいことってずっと抽象的なんだよね。現状に満足がいかなくて、キラキラした世界に自分の桃源郷を見てる説、あり得る気がしてきた。
Bの妹:あの「私がアクセスしに行く世界」と「私が自動的にリーチする世界」が中と下で分かれて書かれてたページ……私自身の環境と違いすぎて、そこの断絶を想像することをすっ飛ばして読んでたんだって今気づいた。
B:たしかにあのコマ、印象的な見せ方してたよね。色も黒と白で分けてて。私も、ここまでの隔てられてる感を理解できてなかったな。
I:Nちゃんと私は堅めのサラリーマン経験があるから、あそこで描かれる「自動的にリーチする世界」が分かるってのもあると思う。うちらの地元もだけど、倉田さんみたいな人が9割、みたいな企業も世の中多いんじゃないかな。
N:あとは、うちらにもわからない要素として年齢はあるよね。残念ながら、歳を重ねていくごとに周りからのプレッシャーや同調圧力が一般的には強まるんだろうし……。
I:話変わるけど、この人SNSやってる描写、ここしかないんだね。ツイッターやってれば、この人もここまで孤独じゃないんじゃないって勝手に思ったな。
N:やってるやってる。別のコマでインスタやってる。
I:やってんのか。でもインスタを選んじゃったのがいけなかったんじゃない?
B:インスタって横につながってる感じはないよね。一方的に見るから、キラキラした世界との断絶感がより際立つのかもしれない。
N:まああと、主人公みたいな人がいるのがツイッター、みたいなところもあるかもね。
B:自分に合うSNSを選ぶって大事ですね。
(完)
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