キメラ1
「え?これメイヘムのキメラだよ?」
私のクレームに夫がそう答えたとき、私は一瞬、その意味がわからなかった。
何秒か黙って、なんとなく理解できてきた。
つまり夫は、こんな素晴らしい作品が耳障りなわけがない、と心から信じているのだ。
夫は、私が「そのうるさい音楽、止めてくれる?」と言った意味が本当に理解できないのだ。
その後も夫は、メンバーの変遷やら音作りやら、これは黄金期じゃないけど…などとぶつぶつと独り言のように呟いてその喧しい音楽を聴き続けた。
私の存在はもう目に入っていないようだったし、私ももうこの人に頼むのは無駄だと理解した。
私は夫と議論するのを諦め、夕食の買い物がてら散歩に出掛けることにした。
ほのかに春の匂いがする小道を歩きながら、私はつい考えてしまう。
なぜあの夫と結婚したのだろう。
こだわりが強いのはわかっていた。
そこも嫌いではなかった。
変わってしまったのは私の方なのかもしれない。