自家製「芝麻醤」が出来るまで(結構大変)
皆さん、「芝麻醤」はご存知でしょうか。スーパーの調味料コーナーには大体並んでいますし、冷蔵庫にストックしているご家庭もあるでしょう。四川飯店では「ズーマージャン」と呼ぶのが一般的ですが、日本では「チーマージャン」という響きの方が耳にするかもしれませんね。今回はその「芝麻醤」がテーマです。今回も四川飯店の3代目、陳建太郎に話を聞きました。
ーそもそも「芝麻醤」とはどんなものですか。
建太郎:炒ってからすり潰した白ゴマに、植物油を加えて滑らかにしたものですね。
ー「練りゴマ」と呼ばれるものもありますが、それとは何が違うのでしょうか。
建太郎:「練りゴマ」は基本的には炒ってすり潰したゴマだけで、油は入っていません。なので、硬いペースト状です。「芝麻醤」はそこに油を加えてしっかり伸ばすので、練りゴマよりもずっと滑らかになっています。
ー四川飯店では、芝麻醤を自ら作っていると聞きました。それは本当ですか。
建太郎:多くのお店では業務用として商品化されている芝麻醤を買ってきたり、練りゴマを油で伸ばして使ったりするのが一般的です。ただ僕らのお店では、初代の頃からゴマを炒るところからやっていて、それを今でも継続しています。とはいえ、芝麻醤づくりって結構大変なんですよ。なので、人手が少ないお店ではやりきれないのも実態です。四川飯店でもそうした小さいお店では作れていませんね。
ーやっぱり作るのは大変なんですね...
建太郎:今から作ってみましょうか。
ーえ?でも、今は調理場が忙しい時間帯じゃないですか。(※このとき午前11時30分。ランチを求めてお客様が続々と来店してくださっていた)
建太郎:大丈夫ですよ!さあ、行きましょう。
ー(社長は気軽にそう言うけど、現場はすごく嫌がると思うなぁ)
<調理場に到着>
建太郎:早速作りましょう!
ー材料はまずはゴマですね。ゴマ自体は中国から仕入れているのでしょうか。
建太郎:うちで使うゴマはグアテマラ産です。
ーグアテマラ?えーっと...中米でしたっけ。なぜグアテマラ産のゴマなんでしょう。
↑ウィキペディアより。ちょっと色の濃いところがグアテマラ。
建太郎:日本で消費されるゴマの中で国産が占める割合はたった0.1%だそうですから、99.9%は輸入に頼っています。中南米や東南アジア、アフリカなど世界各地で栽培されていますが、その中でもグアテマラ産は最高級とされています。そこに初代の陳建民が目をつけたようですね。その後、僕らも他の産地のゴマを色々と試してみたんですが、やっぱりグアテマラのゴマで作ったほうが美味しいんです。もちろん僕らがその味に慣れているせいもあるのかもしれませんが、それ以来、ずっと同じゴマを使っています。
ーまずはゴマを炒るところから始めるわけですね。
建太郎:四川飯店では直径40センチの中華鍋を使います。
ー中華鍋って重そうですよね。どれくらいの重量があるんでしょう。
建太郎:計ってみましょうか。えーと...1.7キロですね。
ー1度に炒るゴマの量はどれくらいですか。
建太郎:2キロです。ということは、合計で3.7キロの鍋を振ることになりますね。
ーちょっとしたダンベルくらいの重さがありますね。その鍋とゴマのダンベルを、どれくらいの時間振り続ける必要があるのでしょうか。
建太郎:大体15分くらいです。焦がさないように、付きっきりで振り続けるので、なかなか大変です。
ーお店では誰が担当するんでしょうか。
建太郎:僕らが入社した当時もそうでしたが現在に至るまで、これは新人の仕事です。左手にダスターと呼ばれる布を使って中華鍋を持ち、右手にはお玉。両手をうまく使う必要がありますが、これは中国料理の調理の基本です。なので、ゴマを炒るというプロセスを通じて、料理の基本を身につけることに繋がっていくんです。
ーすぐに出来るようになるものですか。
建太郎:いえ、まず体力というか筋力が持ちません。なので、最初の頃は休憩しながらでないとできないですね。それに下手なうちは鍋の中でゴマがきれいに回っていかないので、底の方にあるゴマが焦げてしまうんです。そんな風に黒く焦げたゴマが混ざってしまうことを、僕らは「アリがいる」なんて言いますね。上手に仕上げることができるようになるまでには、なんだかんだで1年くらいはかかりますね。
ー今日はどなたが作るのでしょうか。
建太郎:ねえ、宮本さん(※赤坂本店の副料理長)。今から芝麻醤、作ってくれる?
宮本:え?今、ランチでお客さん、どんどん来てますけれど...
建太郎:大丈夫だよ。今日は調理場に人がたくさんいる日じゃない。かっこいいところ、見せてよ。
宮本:はぁ...
ー(ほら、微妙な顔してる...)
やむなく、ゴマを炒り始める宮本副料理長。
ひたすら鍋を振り続けるという地道な作業。
(13分経過)
宮本:久しぶりにやったんで、ちょっと腕が疲れてきました...。きついっす。
建太郎:しょうがないなぁ。じゃあ代わるよ。
ー(あれ、建太郎さん、ひょっとして仕上げのおいしいところだけ、持っていくのかしら)
建太郎:はい!できました。ゴマがぷくっと膨らんで、ほんのり茶色く色づいて、いい香りが出てきたら完成です。
ー最初真っ白だったゴマが、きれいな金色になっていますね!
↓こちらは炒る前のゴマ。色が全然違う。
建太郎:ちなみに、炒りたてのゴマはめちゃくちゃ熱いので気をつけてくださいね。この中に生卵を入れておくと、ゴマの熱でゆで卵になるんですよ。
ー次はどうするんでしょうか。
建太郎:熱が取れたら、今度はミンチ機に入れて挽いていきます。
ーおぉ、挽き肉とかをつくるための機械ですね。
建太郎:そうです。これで潰して、ニョロニョロっと押し出します。全部で4回くらい、こちらの機械を通して挽くことで、ゴマがきちんとペースト状になります。この写真は2回挽いたところですね。
ーこの後はどうするのでしょうか。
建太郎:最後に油と合わせます。大豆白絞油(だいずしらしめあぶら)と呼ばれる植物油ですね。この油を40〜50度くらいの温度まで温めてから合わせます。温めることで油とゴマがなじみやすくなるんです。
ーこれまた力仕事ですね!
建太郎:少しずつ油を加えて、強く力を入れて練り上げていきます。適当にかきまぜるのと、力を込めて練り上げるのでは、仕上がりが全然違ってくるんです。しっかり練ると、最終的にきれいな照りが出てきますし、その後、油脂分が分離することもありません。適当に混ぜると、分離しちゃうんですよね。
ー練り上げるのにはどれくらい時間がかかりますか。
建太郎;やっぱり10分くらいは必要ですね。一人がボウルを押さえ、もう一人が練っていきます。そして完成したのがこちら。四川飯店自慢の芝麻醤です!
ーいやー、おいしそうですねー。
建太郎:この自家製芝麻醤は色々な料理に使いますよ。「バンバンジー」や「よだれ鶏」、「担々麺」に「正宗担々麺(汁なし担々麺)」、他にも「アワビのゴマクリーム煮込」のような料理でも活躍します。うちには、なくてはならない調味料ですね。【終】
※前回ご案内した四川飯店のオンラインストアで販売した「正宗担々麺」(汁なし担々麺)にも、こちらの自家製芝麻醤が使用されています。