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四川飯店発祥!?エビチリの美味さの秘密

「中国料理の代表的なメニューと言えば?」と質問すれば、かなり上位に来るであろう料理のひとつが「エビのチリソース」でしょう。ところが、エビチリは実は日本生まれということを皆さんはご存知でしょうか。それを生み出したのは、四川飯店の初代である陳建民とされています。今回は「エビのチリソース」について四川飯店3代目の陳建太郎、そして赤坂店の副料理長の宮本雅章に話を聞きました。

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↑(左)陳建太郎、(右)宮本雅章 ※撮影時のみマスクを外しました。

ーネットで「エビのチリソース」について調べていたら、「エビチリは四川飯店の陳建民が生み出した料理」という記事をたくさん見かけたんですが、それは本当でしょうか?

建太郎:まず、四川料理に「乾焼蝦仁(カンシャオシャーレン)」という料理があります。「乾焼」とは「汁気がなくなるまで焼いたり煮たりすること」、「蝦」は「エビ」、「仁」は「殻をむいた」という意味です。

ーなるほど。ということは、「殻をむいたエビを、汁がなくなるまで炒めたもの」ということですね。

建太郎:そうですね。これは父の陳建一が出した「四川飯店の中国料理」という本ですが、ここにも「乾焼蝦仁」は出ていますね。

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ーこれを見ると、いわゆる「エビチリ」とは、だいぶ印象が違いますね。エビのスパイス炒めという感じで、「ソース」の存在は感じられません。

建太郎:初代の陳建民は1958年にかつての田村町、現在の西新橋に四川飯店を開業しました。今から60年以上も前のことですが、当時の日本において豆板醤の辛さというのは、なかなか受け入れてもらうのは難しかったようです。

ー唐辛子の辛さにはあまり馴染みがなかったでしょうから、食べた皆さんはビックリしたんでしょうね。

建太郎:初代は日本に来る前には、香港などでも料理をしていました。おそらくそのときにケチャップ、中国語では「蕃茄醤(ファンチェジャン)」と言いますが、それを料理に使っていたようなんです。そこで乾焼蝦仁をベースに、豆板醤だけではなく、そこにケチャップを加えることで、日本人に受け入れられやすい「エビのチリソース」という料理を生み出したんじゃないかと思います。

ー「思います」ということは、定かではないということですか?

建太郎:父とも色々話をしたんですが、初代はとっくに天国に行ってしまっていますから、「ちゃんと本人に聞いて確認をしたことはないんだけれど、多分そうじゃないだろうか」という推測になっちゃうんですよね。

ーへー!なんだかちょっとミステリアスで、逆に興味深いですね。

建太郎:ある時期には、ケチャップではなく生のトマトを使っていたなんていうエピソードもあります。実際、同じ四川飯店でも店によってエビチリのレシピは少しずつ違っていて、赤坂店ではトマトは使いませんが、渋谷店や名古屋店ではフレッシュトマトを使っていたりもするんです。それはそれで店の個性だと思っています。

ーでは、ここからは副料理長の宮本さんに、エビのチリソースの具体的な作り方をうかがっていきます。まず、使用するエビの種類は何でしょうか。

宮本:赤坂店では3種類のエビチリがメニューに載っています。バナメイエビを使った「エビのチリソース」、ブラックタイガーを使った「大エビのチリソース」、そして「ロブスターのチリソース」です。

ーロブスターも使うんですか!それはゴージャスですね。ちなみに宮本さんが好きなのはどれですか?

宮本:もちろん全部美味しいですよ。ただ、ブラックタイガーを使った大エビのチリソースでは、エビを殻ごと使うんです。そうすると殻からも旨味が出て、すごく美味しいですね。

ー他にもエビ自体に関するこだわりはありますか?

宮本:今は保水剤という添加物を使ったエビが多く出回っています。保水したエビはプリプリしていて、確かに食感としては面白いのもわかるんですが、四川飯店ではそういうエビは使いません。プリプリに仕上げるということについては、調理技術でしっかりカバーしています。

ーまずは下ごしらえですね。

宮本:最初に塩とコショウをしたエビを、卵白で揉み込みます。エビが固くなるのは、加熱の際に水分が奪われてしまうからです。そこでエビに卵白をしっかりと揉み込んで十分に浸透させることで、保湿性を高めるんです。

↓エビをたっぷりの卵白で揉み揉み。

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↓さらに揉み揉み。

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↓さらに揉み揉みして、ようやく完了。

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ー随分時間をかけて揉み込むんですね。

宮本:10分くらいは必要ですね。これは入社2〜3年目の若手が、その日に使う分を、午前中にまとめて仕込みます。この仕込みがしっかりしていないと、料理の仕上がりが全然違ってしまいますので、とても大切です。卵白を揉み込んだあとには、片栗粉そして最後に大豆白絞油でコーティングしておきます。

ーここまでが仕込みなんですね。では注文が入った後は、どうするのでしょう?

宮本:まずエビを油通しします。油通しは中国料理にとって欠かすことのできない重要な工程ですね。油にさっとくぐらせて、5割程度の火入れをして、一旦あげておきます。

ーここから、いよいよソース作りですね。

宮本:中華鍋でニンニク、しょうがを炒めて、さらに豆板醤とケチャップを加えます。そして、ここに加えるのがチューニャンです。

ー「チューニャン」?それは何ですか?

宮本:チューニャンは、もち米を発酵させた中国の甘酒です。優しい甘みを加えて全体をマイルドにしてくれますし、独特の深い味わいが生まれますので、隠し味として良い仕事をします。

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建太郎:チューニャンは、赤坂店における宮本さんみたいなものだよね。

宮本:はぁ...褒められているんですかね。ただ、ちょっと地味っすね...

ー料理の続きをお願いします。

宮本:このベースとなるソースは、しっかりと炒めるのがコツです。僕たちは「焼く」と言いますけれど、焼きが甘いと美味しく仕上がりません。ただ、ケチャップもチューニャンも水分と糖分があるので、それが油と合わさることで、めちゃめちゃ跳ねるんです。コックコートの上にエプロンをしていますが、赤いソースが跳ねまくって大変です。

↓最初はまだ調味料が合わさっただけの状態。

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↓しっかりと「焼いていく」。

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↓焼き上がって完成した「素」。色も香りも最初とは全然違う。

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建太郎:四川飯店では年末におせちの仕込みをしますが、エビチリもその中に入っています。大量に調理をするわけですが、油は跳ねるし、辛味をまとった煙もすごいんで、スタッフはゴーグルをつけてマスクもしてと、完全防備です。もし家庭でチリソースをちゃんと作ろうとしたら、キッチンが汚れまくって、奥さんにめちゃくちゃ怒られると思いますよ(笑)

宮本:このベースに対してスープを加えて、油通ししたエビを入れます。酒や砂糖、塩などで味を整えてからネギを加え、水溶き片栗粉でとろみをつけます。

ーそれで完成ですね!

宮本:いえいえ、ここからが腕の見せどころです。とろみをつけたものに、今度は溶き卵を加えて炒めます。ここで乳化させてしまうと、ドロっとした仕上がりになるんですが、それは求めている状態ではありません。理想のイメージは、エビとソースと卵がうまく絡んで「サクッとした」仕上がりになることです。言葉で説明するのは難しいんですが、うまくできたときには全体的に「スッと歯が通る感じ」になります。

ーへー!エビチリって、ソースがもったりとエビに絡んでいるイメージでしたが、全然違うんですね。ちなみに、卵を入れるのは一般的ですか?

建太郎:店によりますね。使うところもありますが、「え?エビチリに卵を入れるの?」と思う料理人もいるはずです。

ー卵を加えて、ようやくフィニッシュですね!

宮本:いえ、もう一息です(笑)。最後に油を加えて、もう一度、焼いていくんです。そして仕上げにお酢を回します。もちろんお酢が入っているとわかるほどの量は入れませんが、少しさっぱりと味をまとめるのが狙いです。さあ、これで完成です。ソースの外側に赤い油のリングのようなものができるのが、うまく仕上がった証です。

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ーおー、確かにリングができていますね。ソースのレシピや工程に美味しさの秘密があるのは想像通りでしたが、エビの仕込みとか、卵をいかに仕上げるかとか、そんなところにプロの技が潜んでいるのがよくわかりました。今日はありがとうございました。(終)

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いつも販売しているわけではありませんが、四川飯店のオンラインストアに、自慢の「エビのチリソース」もラインナップされています。冷凍状態で届くので、ご家庭で湯煎するだけで、お店の味わいが楽しめます。機会があれば、ぜひどうぞ。


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