仙台弾丸旅~最初からクライマックス~
春休み最終日、4月10日。早稲田の授業開始は厳密には12日(水)からなのだが、バイトや私用があり自由に使えるのはこの日がラスト。先週の私は専ら家で読み書きをしていたこともあり、最後ぐらい出かけたい、という気持ちはあった。
とはいえこの程度のモチベーションだから、前夜までは都心をふらつく予定でしかなかった。まだ見られていないし、上野の恐竜博にでも行ってこようかな、と。しかし、当日は生憎の月曜日。博物館は閉まっている。次の選択肢……として浮かんだのは舞浜。だが一人ディズニーは春休み中にしていたこともあり、あまり気乗りしない。ぶっつけ当日で来てくれる友人は流石に望めないし、この案もボツ。
他に何かないかとネットサーフィンを繰り返すと、10日が「青春18きっぷ」の使用期限日であることを知った。今シーズンは買っていないが、チケットショップで「1残し」(1回分残った券)を入手できればまだ間に合う。入手しやすい場所&買ってからの移動のしやすさを考えると、とりあえず東京駅に向かっておくと良さそうだ。前日は、ここまで考えて眠りについた覚えがある。
当日は8時に家を発ち、9時過ぎに東京駅着。多くの店舗は10時オープンだったが、それまで待つと観光するには宇都宮あたりが限界だ。9時から開いている数軒を回るも、そこに目当てのものはなし。
ならば仕方がない。急遽、新幹線を使うことにした。出費は多少痛いが、帰りを夜行バスにすれば片道6000円換算で済む。新学期に出費する暇はあまりないだろうし、こういう日くらい良いだろう。(とはいえ、我ながらぶっ飛んだ選択だったと思う。普通ならここで諦めるはずだ。)
そうなると、行き先を選定する必要がある。西日本はこの前(大隈詣)行ったから、今回は北を目指すことに決めた。北海道や青森まで行くと帰りが怖いので、盛岡・仙台・福島の3択。前回同様「折角なら未踏の地」思考が働いて、福島はパス。盛岡か仙台かはかなり迷ったが、行ってみたい場所があったので(後述)仙台とした。このとき10時。切符売り場で自由席券を買い、その足で「やまびこ」に乗り込んだ。「弾丸ツアー」と括っていいかも怪しいくらいの突発旅は、こうして始まった。
車内では帰りのバスを押さえると、あとはひたすら単語帳。noteとしての面白みはないので、仙台到着まで時を飛ばそう。
未踏の地「仙台駅」に降りると、空気が思ったより寒い。急行を待つ間、出汁茶漬けでの腹ごしらえだ。少し前に友人に牛タン屋を教えてもらっていたのだけれど、機種変でLINEのトーク履歴が消えてしまって探せなかった。もう一回聞くのも気が引けたし、牛タンは夜改めて探すことにした。
さて、例の「行きたい場所」の話をしなければならない。仙台城跡?牛タン?あるいは秋保温泉?答えはいずれも否。私が目指したのは、石巻にある「石ノ森萬画館」である。日本を代表する漫画家・石ノ森章太郎を記念した博物館で、彼が少年時代しばしば石巻の映画館を訪ねていた縁からこの地に建つ。氏の生家(石越)も記念館になっているのだが、バスの便が厳しいこと&月曜が休館日であったことから断念した。
では、なぜ今石ノ森なのか?これは、映画『シン・仮面ライダー』を観て同作品に対するモチベーションが高まっていたからだ。私は元々そこまでの特撮好きではなく、知っているライダーといえばドンピシャ世代の『電王』と、古典として観た1号・2号くらいだった。『シン・ウルトラマン』が非常に面白かったから、系列作の同作にも興味を持って映画館へと。すると、たちまちその世界観に引き込まれてしまった。(読者の皆さんも、是非観てきてほしい。私は公開期間中にあと2回は行きたいから、誘ってくれても構わない。)
こうなると、私の没入っぷりはいつものことだ。睡眠時間を削って藤岡版やV3の視聴を続け、自宅では1週間くらいずっと『レッツゴー!ライダーキック』が流れていた。”帝都大学が東大なら、城南大学は早稲田だ”という噂をどこかで耳にしたことがあるけれど、本当だったら嬉しいな、と思う。「本郷猛と風見志郎の後輩」って、言いたくない?
視聴そのものを重ねると、次は歴史に飛ぶのがお決まりのパターンだ。「コンテンツをただ楽しむだけでなく、歴史まで踏み込もうとする」というのは私の売り文句(?)なのだが、その線でいくと原作者・石ノ森章太郎氏の存在は欠かせない。実際、『仮面ライダー』は日本型メディアミックスの祖とされていて、学習指導案的にも面白いテーマだと思っている。TVが普及し、特撮番組が子どもたちの共通言語になると、彼らは遊び道具としてベルトを買ってくれとねだる。それらを特集した漫画雑誌も、彼ら共通の読み物になる。番組→玩具→雑誌のトライアングルが成立し、売り上げが加速して文化圏が形成される。(オイルショックでプラスチック玩具が打撃を受けると、高いながらもポテンシャルがあるエレクトロニクス玩具が注目を浴びるらしい……と、授業としてはテレビゲームの黎明までに繋げていくのがセットだ) その原点を肌で感じるためにも、一度萬画館には行っておきたかった。
何が言いたいのかというと、「史学科なら伊達を目指せよ」という人には、「いや日本史こそ仮面ライダーだろうがよ」と言い返そうということだ。
というわけで、石巻まで急行で。1時間ちょいと思っていたより長い時間がかかったが、新鮮な景色を眺めていると苦にならなかった。駅に着くと、1号の像が出迎えてくれる。記念館に行くまでの道も、石ノ森作品のキャラクターで溢れていた。駅前にV3がいて、かなりテンションが上がったことを覚えている。ロボコンと戦隊もの、『まんが日本の歴史』には触れていたけど、『サイボーグ009』は未読なので近いうち必ず触れたい。
10分少し歩くと、萬画館の建物が見える。北上川の中洲にあることから、マンハッタンになぞらえて「マンガッタン」という粋なネーミング。平日なこともあって、他のお客は数組だった。柄本佑演じる『シン』2号の衣装。藤岡版から最新作まで全作品のライダーマスク。ワクワクするような展示が揃っていた。サイクロン号に乗るゲームあってめっちゃやりたかったけど、大人が乗ると壊しそうだったので辞めておいた。でも、子連れのお父さんやってたなぁ。「されど我が友 サイクロン♪」って乗っておけばよかったかも。今回は突発旅で事前調査なしのこともあり書ける内容は多くないが、『キカイダー』や『変身忍者嵐』など興味がある作品は大きく増えた。卒論調査の合間に、NDLで探していきたい。最後にパフェをいただいて、萬画館をあとにした。
夕方になり、仙台駅までとんぼ返り。次にいつ来られるかわからないし、仙台城跡くらい観ておこうかと夜道を歩く。辺りが真っ暗だったために麓までで諦めたものの、ここま行ったおかげで夜桜を見ることができた。この少し前に行っていた、目黒川の花見(これは昼)を思い出す。屋台はカップルで賑わっていたが、「一人でも一人でも 仮面ライダー♪」なので駅に帰ります。駅近でうまく牛タンも頂けて、いい感じ。
帰りの夜行バスまで3時間ほどあったので、カラオケに入ることに。『宇宙戦艦ヤマト』、『ルパン三世のテーマ』、『マジンガーZ』と、古いアニソンを熱唱していた。みんなで歌うとJ-POPを選びがちだけれど、時代錯誤の人間なので「パイルダーオン♪」したい思いが常にある。最後はご当地ラーメンで締め、大満足でバスに乗り込んだ。
今回最大の教訓は、「1.5万をはたくと、別世界でリフレッシュできる」ということだ。東京からなら、日帰りできるところは結構多くある。行き詰まったときでもよいし、何かのご褒美でもよい。「弾丸旅」という選択肢を頭の片隅に置いておくと、たぶん人生がもっと楽しくなる。また一つ、心が豊かになった気がする。
追伸
夜行バスで帰ってきた朝には、是非築地でご飯探しをしてみてほしい。東京で朝食スポットといえば築地だと思うが、東京に住む人であればあるほど行く機会がないと思うのだ。6時半ごろから動き出しているので、家族が起きるまでの時間調整にもおすすめだ。
※写真は、今回訪れた「牛丼 きつねや」さんのホルモン丼(900円+卵100円)。