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GWの雑記


(1)『サイボーグ009』や『名探偵コナン』について考えた話


 前回のnoteで「『サイボーグ009』を観ておきたい」と述べていたが、その計画は期を待たずして実現する運びとなった。GWの前半は同作やゴレンジャーをサブスクで見漁りつつ、山田夏樹『石ノ森章太郎論』(2016)を参照するなどしていた。
 この本は、009とライダーを手塚『鉄腕アトム』との連続面から捉えていたところが興味深かった。天馬博士とアトムの関係では、「つくる側」の博士が完全な存在である一方、アトムの心の不完全性が問題となっている。一方でブラックゴーストと00シリーズ、あるいはショッカーと仮面ライダーの関係では、「つくられる側」の戦士たちが問題意識を提示して「つくる側」と戦う展開へと変化している。この場合、不完全なのは組織のほうなのである。CreatorとCreatureの関係は、シェリーの『フランケンシュタイン』以来しばしば論じられるところだが、ここにも応用できるのかと目から鱗だった。
 一方で私は従来この手のヒーローを論じるとき、主人公と敵との同質性をしばしばテーマに挙げていた。ウルトラマンは見ようによっては怪獣だし、仮面ライダーの力の源はむしろショッカーにある。彼らをヒーローたらしめている根拠は、あくまで我々人類の側に立っていることだけだ。009を観て同質性への理解は一段と深まったが、同質なのは遍く特徴なのかと『月光仮面』を観たら認識が揺らいだ。(「月光仮面:?」となっているのはともかくとして)祝探偵は敵組織の力を使っているわけではないじゃないか、と。同質性の起源、どこにあるんだろうね。これは今後の課題にしていきたい。
 で、祝十郎が探偵であることから思い出したのが『名探偵コナン』の話。ここから論点はがらりと変わるけど、気まぐれなエッセーということで許してください。
 こちらの話は、最近大学の友人と『黒鉄の魚影』を観に行ってきたことから始まる。終了後の飲みの席で、私がコナンについてよくわかっていないことに気がついた。大体の筋書きはわかるし、アニメ版もそれなりに追ってきたつもりでいたが、どうも映画版のことを振られると反応できない。鑑賞後の1週間で『戦慄の楽譜』から『緋色の弾丸』まで視聴したのはここだけの秘密。同時期に教職課程で使う教科書が届いたのもあって、「コナン」で授業案を考えるに至ったのだが、その話をメモ程度に残しておきたい。
 コナン自身の名の由来といい、安室さんと『機動戦士ガンダム』といい、コナンって先行文化へのリスペクトが強い作品だよな、というのは前から感じていた。他にも『ルパン三世』なり『金田一少年』なり、日本のミステリー路線漫画って先立つものを大事にしているのかもしれない。元を辿れば、乱歩の名だってそうだろう。そこを起点にすれば、日本における探偵小説の誕生と同作を絡められるのではないかと考えた。
 大岡越前のような作品を例外とすれば、探偵ものというのは近代以降にしか存在し得ない。1つの理由は、「犯罪」という行為が都市化によって発生することだ。土地の武士による自警(解釈を拡大すれば、鎌倉幕府だってそうだと思う)ではどうにもならなくなったところで、統一の「やってはいけないこと」としての犯罪が発生する。また、証拠から仮説を立てるという論理の過程が受けるには、ある程度の合理的思考が浸透している必要がある。更には翻訳文学の影響まで踏まえれば、欧米文化導入の話もすることができる。あれ、題材に向いてそうじゃない?と感じた。日本最初の探偵小説たる涙香の『無惨』が「論理的すぎる」とウケなかった点を鑑みて(この話は堀啓子『日本ミステリー小説史』に載っていたような気がする)、史料読解から「近代社会」としては不完全だったと説明すればオチもつく。明治文化の項で使えるかもしれないなと思うことを、草案として置いていきたい。

(2)栃木への弾丸ツアーの話


 GW後半になるにつれ、「せっかくの連休なのに、遠出しないのはもったいない」という考えが強くなった。とはいえ(ゆうちょ銀行ATMの閉鎖を把握していなかったミスもあり)、終日空く+お金も確保できるのは最終日の7日しかない。例の如く、日帰り旅行を模索するしかなくなった。1万を超えるか超えないかくらいで、どこか良い場所はないだろうか。
 そういうわけで4日・5日あたりは、課題を進めつつ行き先について模索する期間でもあった。当初は直前に訪れていたウルトラマン商店街(祖師谷大蔵)との関連から、円谷英二氏の故郷たる須賀川への旅行を考えていた。前回の弾丸ツアーの際も、候補にあった場所である。しかし、GWということもあり移動費用が高すぎた。唯一高速バス(越谷⇔須賀川)だけは予算を満たしていたけれど、最終日に使うのは流石に渋滞が怖い。翌日は休めない授業があるから、確実に帰宅できるプランを組み立てる必要があった。であれば、単純計算で福島より近くなければいけない。そこで日本地図を眺めると、栃木県が目に留まった。実はこの少し前、友人に「東武株主優待券」の存在を教えてもらっていた。チケットショップで800円程度のそれを仕入れれば、東武沿線の片道ならどこまでも行けるというのだ。理論上、宇都宮でも日光でも往復1600円ということになる。これなら食事等にかけても予算に収まりそうだと、ターゲットを栃木に定めることにした。同地の漫画・アニメ系観光地としては、バンダイのおもちゃ博物館が挙げられる。「日本のメディアミックスには玩具が欠かせない」と口では言うけれど、ライダーベルトや超合金の現物に明るいわけではなかったので、一度見に行きたいという思いがあった。そこをベースに、宇都宮で餃子でも食べられれば楽しそうだ。
 ただし、それでは昼過ぎに行程が完結してしまう。折角遠出するのなら、夕方くらいまでは楽しみたい。そう思ってInstagramで「おすすめの場所」を募集すると、2件の提案をいただいた。一つは大谷資料館である。大谷石と呼ばれる上質な石材の採石場跡で、中は涼しげな洞窟であると聞く。宇都宮駅からバスで行けないこともなく、ここを午後イチの目的地に設定した。もう一つは、小山にあるラーメン店「一品香」であった。サークルの後輩イチオシのお店らしい。JRで帰れば小山にも寄りうるので、ここで夕食をとればよいかとまとまった。前日に片道だけ優待券を仕入れ、万全の態勢を整えた。
 当日は6時起床。7時頃の電車に乗って、まずは「おもちゃのまち」駅を目指す。私は田園都市線ユーザーなので、東武なら南栗橋までは一本で行くことができる。乗り過ごしの心配がないので仮眠を取りつつ、まずは終点の駅までたどりついた。途中の春日部では聞き覚えのある駅メロが流れていたが、別に私は”にんきもの”ではないのでスルーした。
 しかし、道中の後半から腹痛に襲われていた。とはいえ本数が少ない区間で途中下車すると、次にいつ電車が来るかわからない。南栗橋まで耐えてトイレに駆け込んだが、乗り継ぎを1本逃し20分待つこととなった。予定では10時前に目的の駅に着くはずだったが、10時15分頃に「おもちゃのまち」到着。
 外は強い雨が降っていて、とにかく寒かった。前日から雨の予報は聞いていたが、「風邪をひいても強行する」と息巻いていたことがウソのよう。洞窟のため用意していた上着をここで着てしまった。Googleマップに従って一本道を10分歩き、ようやく博物館に到着。出発から約3時間半が経過していた。


 エントランスには、ゴレンジャーや仮面ライダーの像とともに「キャラクター玩具発祥の地」のプレートが。高度経済成長期の玩具産業を支えたこの地は、後に「超合金」と『マジンガーZ』など玩具発のメディアミックスを数多く送り出してきた。室町時代が大好きな人が京都に行くかのような、「学んだものがここにある!」という興奮がそこにあった。
 館内の展示も、期待に十分応える充実度だった。新聞史料で何度も触れられていた、1971年当時の仮面ライダー変身ベルト。平成ライダーのアイテムと違ってシンプルな作りも、玩具での再現という視点でみると納得だ。あるいは、1996年の初代たまごっち。「爆発的に売れた」とはよく聞くけれど、現物を間近で見たのはこれが初めてだった。(エピソードを語ると尽きないので、このへんにしておく。) これを読んでくれている方の中にはその頃に幼少期を過ごした方もいるかもしれないが、私にとっては生まれる前なので「歴史」として捉えがちである。
 もちろんそうした切り口に限らず、「幼少期に遊んだもの」という懐かしさも随所で感じた。私はウルトラマンなら「メビウス」、スーパー戦隊なら「ボウケンジャー」(いずれも2006)がドンピシャで世代なのだが、当時家にあった玩具を再び見られて嬉しかった。私には双子の姉がいるから、姉が当時遊んでいた「たまごっち」や「プリキュア」のビジュアルにも懐かしさをおぼえた。思えば遠くへ来たものだが、はるばる訪ねて本当によかった。
12時前に博物館を後にして、東武宇都宮駅に向かう。降車すると、駅の周りでは丁度「とちテレ☆アニメフェスタ」の真っ最中であった。アニメに関する企画をやっているのか、コスプレイヤーの方々と出店が多い。「タイムリーでよかったじゃん」と思われるかもしれないが、実はここが私の弱点だ。現在進行形で作品を追いかけているわけではないので、彼らが誰のコスプレをしているかほとんどわからなかったのである。(1)で取り上げた作品からもわかるように、私は「古典」の一部として漫画・アニメを楽しんでいるのだと思う。(古さや伝統に魅力を感じている、というのが近いかもしれない。) 時代が時代なら明治文学を読むノリで、『月光仮面』や『科学忍者隊ガッチャマン』に触れてしまっている。まあ、古典化されればいずれ観ると思うので、スタンスはこのままでいこうと考えている。
 そんなことを考えていると、気づけばJR宇都宮駅。近くの餃子屋をいくつか眺め、一番人気がありそうだった「餃子といえば芭莉龍」に決定。今日やりたいことの2つ目、「餃子とともに昼酒をキメる」がスタートだ。20分近く並んで、パクチー餃子と日光地ビールを選択、おしゃれめな店でカップルも多かったけど、デートに選ばれるのもわかる美味しさだった。セットでつけた水餃子も、比較的さっぱりめでよかったな。
 食事を終え、次の目的地は大谷資料館。ちょうどいいバスに駆け込んで、30分ほど揺られて到着。相変わらずの雨を凌ぐべく、洞窟内へと降りていく。地下神殿と呼ばれているだけあって、ライトアップなどにも力が入っていた。ああいう場所のひんやりとした空気は好きだ。荘厳な雰囲気に、しばし圧倒されていた。「肝心の資料はどうした?」と言われるかもしれないが、そりゃあ読めばわからんこともない(読む授業を受けてきたから)けど、産業史より午前に見てきたものの方が「歴史」としては面白いじゃん?と思ってしまった。そういえばInstagramのストーリーへの「いいね」は、学科の友人に限ってこの資料館に集中していたが、彼らは産業史にひかれたのだろうか。あとは、写真だ。1人旅では普段自分の写真を撮ってもらえることはないのだが、イベントで撮影してもらったこともよかった。(ありきたりな感想しか述べられていないような気がする……。) ともかく、場所としてはとても好きなので紹介してもらえてよかったです。
 元来た道を引き返し、JR宇都宮から小山駅へと移動する。白鷗大学側へずうっと歩いて行くと、お目当てのラーメン店「一品香」の姿が見えた。事前にサイトを見たら行列だと書かれていたが、雨のおかげか2人待ち。寒かったけど、待ち時間の面で得したことは一日を通じて多かったのかもしれない。ラーメンを一杯ネギ盛りで頼んだが、シンプルな中華そばの極みという感じで非常に美味しかった。私立油そば大学(諸説あり)に通い始めてからというもの、麺類は汁がないものを食べることがほとんどだが、一般のラーメンとしてここは強く勧められる。


 さて、あとは帰るだけだ。湘南新宿ラインで、渋谷駅まで一直線。今回行程全てをみても、計1万円かからなかったことは大きな成果である。場所を選べばかなり充実した安旅行が組めると今回も学んだので、お金と時間が許す限り各県を開拓していきたい。

(3)あとがき


 友人との会話、あるいはこういうジャンルの分析をアピールに選択した場合の大人との会話では、テーマの異質性(というか、「楽しみと考えは別だろ」みたいな)について指摘されることが多い。でも私はかなり本気で『ウルトラQ』のような作品を現代の「昔話」だと思っているし、旅先で列に並ぶ間に(純粋に楽しむだけでなく)その場所に関するテーマの本を読むこともある。娯楽と思考が分化しているわけではなくて、どっちも混ぜながら楽しんでいるのだということを、ここ最近の決意表明として最後に述べておきたい。(近頃はSNSまで見られるらしいけど、「採用主任のおじさんは、正義の味方よ善い人よ」と信じています。)

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