見出し画像

さようなら、バズ・ライトイヤー

 今年10月末をもって、ついに「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」がクローズする。映画『シュガー・ラッシュ』を題材とした、新アトラクションに生まれ変わるということだ。
 バズが存在するエリアであるトゥモローランドは、人々が思い描く未来をテーマにした場所ということになっている。時代が進むにつれ、人々が考える未来像も変わっていくことから、このエリアでは開園(1983年)以来幾度ものリニューアルが行われてきた。私は2001年生まれなので、その歴史の半分ぐらいを体感していることになる。ジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズを題材にした「ビジョナリアム」(~2002)、坂本龍馬や伊藤博文が登場する「ミート・ザ・ワールド」(~2003)までは、Youtubeでしか見たことがない世代だ。フロリダにあるエプコットにもみられるように、当時は万博のような空間が”未来”だったのかもしれない。尤も私自身は、三波春夫が歌う「世界の国からこんにちは」(1970)をノリノリで聞くような人間なので、自分で乗れなかったことがとりわけ残念なのだけれど。人間洗濯機とか月の石とか、聞くだけでワクワクする変わり者なので。
 話を戻すと、件の「アストロブラスター」は、2004年にオープンしたアトラクションである。つまり幼い頃の私にとっては、バズこそがぴかぴかの最新ライドであった。入園したら真っ先に、みんながバズのファストパスを求めるような時代だった。当時は今のように便利なアプリは存在せず、FPを取るためにはアトラクション横の発券機まで直接行く必要があった。それゆえ(あまり良いことではないけれど)全国のお父さんたちによる開門ダッシュが横行していたわけだが、私もまた父にFPをねだった張本人であった。乗れるのが帰る直前になったことも度々あったものの、父が苦労して手に入れてくれたFPは、私にとってはプラチナチケットだった。そんな思い出補正もあってか、バズにはひときわ強い思い入れがある。

バズのファストパス発券機


 あの頃から考えると、トゥモローランドは大きく変わった。「モンスターズ・インク ライド&ゴーシーク!」(2009~)のオープンや、「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」(2012)の改装は、リアルタイムで体感していた。「ミクロアドベンチャー」(~2010)から「キャプテンEO」(~2014)に戻り、「スティッチ・エンカウンター」(2015~)へと移り変わっていったことも、やっぱりよく覚えている。「グランドサーキット・レースウェイ」(~2016)と「スタージェット」(~2017)がなくなった後の大きな区画には、現在ランドの目玉である(美女と野獣や)ベイマックスができた。最近だと、「スペース・マウンテン」が大幅改装のため長期休止の運びとなった。気づけばバズが、エリア内で一番古いアトラクションになってしまっていた。
 そんなバズのクローズは、自分が親しんできた平成ディズニーの終わりを告げるものにすら感じられた。世の中でも何かが終わるとき、「俺たちの青春が……」と悲しむオヤジがテレビに映ったりするけれど、私もそれに近いような感覚をおぼえた。最後に乗っておきたくて、閉まるまでには必ずランドに行こうと思っていた。

 10/9(水)。仕事を早引きして、平日17時からのウィークナイトパスポートを購入した。今の東京ディズニーリゾートは(年ごとのアトラクション改装のような)マクロな単位での変化に寄っている。したがって、頻繁に行く人には代わり映えしない要素も多い。ファンタジースプリングスなどの激戦区を望まないのであれば、夕方からでも十分に楽しめるように思える。
今回は
①最後のバズに乗る
②ハロウィンverのホーンテッドマンション(「ホリデーナイトメアー」)に乗る
③9月からの新ショー「Reach for the Stars」を見る

の3つに目的を絞っていたので、4時間あれば満喫できる想定でいた。
 朝イチから行く場合の開園待ちとは異なり、ウィークナイトの開園待ちは早くても20分前で十分な印象がある。17時になった直後に入りたいのでなければ、ギリギリに門に着いても大丈夫だ。最速で入る場合の利点は、ショー「ミッキーのマジカルミュージックワールド」最終回に間に合うかもしれないことくらいで、基本的にはゆったり舞浜に向かうことができる。現代のFPである「40周年記念プライオリティパス」もこの時間には発券終了していることがほとんどで、パスの取り方をあれこれ考える必要もない。入園価格の値上げが取り沙汰される中でも、5000円程度で買えるという要素も込みで、実は初心者におすすめのチケットだと思う。
 16:45から並び始めて、17:10頃に入園。ショー「クラブマウスビート」の最終回はここからでも抽選可能なので、観たい人は「エントリー受付」ボタンからチャレンジするとよい。美女と野獣やベイマックスに(課金して)早く乗りたいというのでなければ、これ以外にスマホと向き合う必要はほとんどない。ウィークナイトは、脳にも優しいチケットなのだ。
 私は初っぱなからバズに並ぶ予定だったが、70分待ちとの表示で断念した。クローズ直前とはいえ、平日のバズで70分は長い部類だ。後で短くなるタイミングがきっとあるので、先にホーンテッドマンションから回ることを選んだ。幸い、ホーンテッドは25分待ち。閉園間際になると5分待ちになることもあるのだが、日中60分待ちが平均であることを鑑みると及第点だろう。この辺りの選球眼は長年の蓄積も大きいが、行く前の週に公式アプリを眺めて傾向を割り出すとある程度は身につくので、どうしてもという人は確認するとよい。
※この記事を校正している10/14(月)現在、バズが240分待ちを記録したそうだ。愛されてるんだなあと、却ってちょっと嬉しくなってしまった。

 映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の大ファンなこともあって、やっぱりホリデーナイトメアはよかった。幼い頃はほとんどハロウィンかクリスマスの時期にランドに行っていたから、こっちが自分にとってはデフォルト版だという感覚がある。ジャックの肖像画、不気味なプレゼントたち、そして延々と流れる「サンディ・クローズを誘拐しろ」。最初に読んだディズニー系の新書が『「幽霊屋敷」の文化史』であったことを鑑みると、自分がディズニーにのめり込んだ原点の場所ともいえる。

愛しのジャック!


 アトラクションを出ると、ショー「Reach for the Stars」の初回(17:50~)にギリギリで間に合いそうだった。このショーはキャッスルプロジェクション(シンデレラ城に投影されるプロジェクションマッピング)形式なので、ぐるっと回ってシンデレラ城の正面に急ぐ。城を90度曲がった頃、開演の音楽が聞こえてきた。完全初見のショーなので観るならはじめからと思い、20:15からの2回目にプラン変更。
 ここらでお腹が減ったので、アドベンチャーランドの「カフェ・オーリンズ」へ。温かいガンボスープが体に沁みる。高校時代にカリブの海賊絡みでニューオーリンズに関する本を読み漁っていたことや、その頃に奮発して「ブルーバイユー・レストラン」に一人で行ったときの記憶から、ガンボは印象深い味の一つである。最近のディズニーで一番のマイブームである味変ソース(スパイシーハリッサ、ブラック麻辣、ガーリックシュリンプの3種類がある)も売っていたので、それをかける用にフォカッチャサンドも購入した。

ガンボスープ


 さて、いよいよバズ前へ向かう。閉園間際だと混んでいるかもしれないので、まずは記念グッズの物色から。アトラクション直結のお店である「プラネットM」には、しっかりとフィナーレの装飾がなされていた。『トイ・ストーリー』や『スター・ウォーズ』関連のおもちゃも色々あって、幼い頃親にねだったことを思い出す。使い古して捨ててしまったが、まさにバズの光線銃は家に置いてあったっけ。その光線銃も含めて、ワッペンやクリアファイルなど色々と迷ったけれど、アトラクションのロゴが入ったTシャツを買うことにした。

プラネットM


 このとき、もう少しで19時というところだった。バズは40分待ちに減っていて、良い頃合い。しかし、これに乗ると19時半を過ぎてしまう。19時半というのは、パーク内の多くのレストランが閉まる時間である。アトラクションは閉園間際までやっているものだが、レストランに関してはそうもいかない。何か食べておきたいものはないかよく考えたところ、舞浜名物ターキーレッグがふと頭に浮かんだ。
 というわけで、ウエスタンランドへひとっ走り。ワールドバザールのミッキーワッフル、トゥモローランドのリトルグリーンまんと同様、ターキーレッグは世間的にも有名な舞浜料理(?)の一つだと思う。ちなみに、待ち時間を考えるとこの中ではワッフルだけが極端に長い。インスタ映えを狙う人は、心して並ぶように。

舞浜料理、ターキーレッグ。


 買ってすぐにかぶりつくと、あふれる肉感。ディズニーに来たなという感じがした。テリヤキチキンレッグと違って、肉をむしるのが大変なところもご愛嬌。計20分ほどでバズへと戻ると、待ち時間表示は40分のままだった。意を決して列に並ぶ。

もう終わるんだな、と思って悲しくなるなど。


 バズ、好きだけれど得意というわけではない。幼い頃はがむしゃらに撃ってもなかなか当たり判定が出ず、少しずつ増える得点に「こんなものか」と思っていた覚えがある。実は、入口で表示される的のマーク全体ではなく、その中心にある穴の中に光を入れないと当たり判定にならない。最初にある低得点の的で自分の銃の特徴を掴んで(時々光の点が映るので、慣れてくると自分の銃から出ている光がわかるようになる)、高得点の的の穴に合わせに行くのが定石だ。銃の後ろが光るのが、当たり判定の合図である。なお、一度当たりが出たら、方向は合っているので連射で追加点も狙える。ディズニーオタクの中には、的の位置などを記憶していて満点を取れてしまう人もいるが、私はそんなに上手くないので25万点が関の山だ。ちなみに2022年以降、高得点が取りやすい「アストロ・ヒーロータイム」というイベントを開催している時期もあった。あれは激甘モードなので、初心者でも満点を取れるチャンスだった。

当時のスコア。


 建物入口を抜け、バズが任務を説明してくれる区画でもう涙が出てくる。「これが最後か……」とザーグたちに見入っていたら、得点もなかなか伸びず。6万点で終えてしまった。時計を見たら、実質20分ほどで乗ることができていたようだ。

1回目。ざんねん……。


 ショーまで時間もあるし、悔しいので再チャレンジ。今度は35分表示だった。今回も同じくらいで乗り場に到着し、正真正銘のラストゲームが始まる。銃と的との感覚を掴んで、何とか20万点を超えることができた。納得の結果だった。

リベンジ成功!

 バズの出所である『トイ・ストーリー』という映画は、アンディ少年の興味がウッディ(カウボーイ人形)からバズ(宇宙飛行士のアクションフィギュア)へと移るところから始まる。娯楽映画の定番が西部劇からスペースオペラへと変化するのに連動して、おもちゃのトレンドが移り変わるのもまた自然なことであった。それと同じ構造で、「アストロブラスター」がゲームの世界の『シュガー・ラッシュ』になるというのも、コンテンツの流れとしては乙なことだと思う。
 考えれば考えるほど、自分がピクサーの古典で育ったことを自覚する。『バグズ・ライフ』、『モンスターズ・インク』、『ファインディング・ニモ』。今人気のところだと、時代は下って『リメンバー・ミー』くらいまで、作品にのめり込むことで好奇心を広げていたっけ。劇中の名言を引いて、最後くらい“To infinity and beyond”とバズを送り出したいものだ。

 ショーの時間が近づいたので、シンデレラ城前へと急ぐ。「スウィートハート・カフェ」が混んでいて、マイクメロンパンが買えなかったのが心残り。城の正面に陣取って、「Reach for the Stars」に臨んだ。
 一言で感想を述べるなら、「新派のディズニーになったんだな」というところだろうか。『ウィッシュ』『ミラベル』『あの夏のルカ』と、最近観たような映画がいくつも出てきて驚きだった。事前に情報が出ていたMARVELのシーンも、BGMと併せて観ると迫力が違った。アイアンマン、かっこよすぎるだろ……!
 もちろん、見せ場は新派のものばかりじゃない。『WALL.E』『メリダ』『カールじいさん』辺りは、今まであまり出てこなかっただけに感動もひとしおだ。
 ショーやパレードは、各作品を繫ぎ合わせて作る点で、名作童話集なんかを作るのに似ているような気がする。映画としてパッケージ化された後でも、ショーの形で再編成しうるところが、メディアミックスのひとつの価値だと思う。ディズニー作品自体が文学の翻案を多く持つ中で、(オリジナルも含めて)豊富な設定の作品を組み合わせて、物語集を世に出すことができる。選ばれた作品は人々により記憶されやすくなり、個々の話が語り継がれるきっかけにもなる。コンテンツビジネスと言ってしまえばそれまでなのだろうが、物語をもたらす影響力にも気づかされたショーだった。
 
 値上げとシステムの整備によって、東京ディズニーリゾートはべらぼうな待ち時間を克服しかけている。やりたいことを全部やるにも以前はある程度妥協が必要だったが、各種のパスを使いこなせば大体のことは実現できるようになった。初めて行くような人には難しい仕組みとも思うけれど、私としてはいい時代になったように感じる。
 「若者のディズニー離れ」(ほんとか?)というように、一瞬一瞬のコンテンツ力という意味では、人々はテーマパークを求めなくなっているのかもしれない。それでも、世代を超えて愛される『聖地』という意味では、ここには日本一の魅力があると思う。今や舞浜には、そこに通ってきた人々の記憶の蓄積がある。
 私の思い出としてのバズ・ライトイヤーに、こんな形で別れを告げることにしたい。


いいなと思ったら応援しよう!