AOCの「Weのリーダーシップ」 - 自分たちのVoiceを社会に届ける
SIS・シス発起人の栗原優子と梶原奈美子です。SISは、”Sisterhood(共に助け合い成長する女性たち)”をキーワードにしたミレニアル世代のグループで、「アメリカ女性リーダーから学ぶ人生デザイン」勉強会を運営しています。
今回は、2018年の中間選挙で史上最年少(当選時28歳)の女性下院議員となったアメリカの政治家アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(通称AOC)さんを取り上げました!現在は二期目、民主党所属です。
AOCさんについての記事は日本語でも多く書かれているので、今回は私たちが共感した彼女のリーダーシップの話を中心に書いていきたいと思います。
SIS's POINT①「IからWEへ」民衆と共に歩む新しい「私たち」というリーダーシップのあり方
クラウドファンディングで製作資金を集めたドキュメンタリー映画(ネットフリックスが約11億円で配信権を獲得)「レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-(原題:Knock Down The House)」にその経緯が詳しく描かれていますが、AOCは、政治基盤があった家庭に生まれたわけでも、幼い時から政治を直接的に目指していたわけではありません。彼女は大学卒業後、家計を支えるためにタコス屋でバーテンダー兼ウェイトレスとして、一日18時間にも及ぶシフトで働いていた、労働階級の女性でした。
"I felt like the only way to effectively run for office is if you had access to a lot of wealth, high social influence, a lot of high dynastic power, and I knew that I didn’t have any of those things"
選挙に出るためには、富や社会的影響力、強大な権力がなければいけないと思っていたし、私はそんなもの何一つないってわかっていたのよ。
出典:The 28-Year-Old at the Center of One of This Year’s Most Exciting Primaries, The Cult
そんな”一般庶民”を自認するAOCが政治家の道を進むきっかけになったのは、2017年に、Justice DemocratsというアメリカのProgressive(進歩派)の政治活動コミッティーから、「民衆を代表する政治家を国会に送り込む」ミッションを達成するためにノミネートされたことがきっかけでした。
この選挙戦の背景には、現代のアメリカの社会問題が色濃く影響しています。
権力・権威構造が硬直化
AOCが立候補した選挙区は有色人種が70%、労働階級が多くを占める地域ですが、ベテランのジョセフ・クローリー氏(しかし選挙区に住んでいない)が11期目に渡って選出されている、という状況でした。
全米の民主党議員の中でもトップレベルの有力者であるクローリー氏の当選は毎度の選挙で既定路線でした。地元の有権者を集めた討論会も長年開かれていなかったそうです。そのため、生活者の実態や声は政治に反映されるわけもなく、それどころか、地元の人たち自身、自分が政治や社会に対し何を望んでいるのかなど聞かれたこともないからわからない、そんな状況だったのでしょう。
Everyday Americans deserve to be represented
by everyday Americans
日常生活を生きる普通のアメリカ人は、そのような普通のアメリカ人にこそ(政治的に)代表されるべきなのだ
このAOCの言葉は、ドブ板選挙を勝ち抜いた彼女の信条でした。選挙区に住んでいない、自分たちとはかけ離れた権力と富の世界に生きている人たちが、自分たちの生活のことを代表していることへの疑問を呈し、一向によくならない生活を自分たち=Everyday Americanの手で変えていこうと訴えています。
超格差社会への対策、環境問題など長期的な視点をもった政策が欠如
Winner takes allと呼ばれるほど、経済的な(圧倒的)勝者と弱者が顕在化したアメリカ社会において、これらをどのように解決していくかは非常に困難な道のりです。AOCは、所得税の最高税率を70%にすることによる所得格差の是正や大学の無償化、国民皆保険、気候変動対策(30年後に全てクリーンエネルギーに)など、ドラスティックな政策を通じて変革の必要性を訴えています。
Weのリーダーシップが人々の心を動かした
これまでのリーダー像は、「”I”のリーダーシップ=私についてきて」という民衆に訴えかけ、フォロワーシップを求めるものが一般的でした。素晴らしい政策を提示して、それを支持してもらう。一方、この選挙戦では、彼女の「Everyday American=民衆そのものであり続け、その声を届ける存在であり続けるWeのリーダーシップ」が勝利に大きく貢献しました。政策という公約の手段以上に、AOC”たち”が起こそうとしているムーブメント自体に共感して、参画してもらう。私たちが着目したAOCのリーダーシップの革新性は、ここにあります。
そして、経験や権力、知名度、さらには資金もない中での草の根の選挙活動では、対面、ソーシャルメディアなどあらゆるツールを駆使しながら「民衆と繋がる」「地道に対話から支持を得る」ことを実直に実践していきます。
私が勝ったのは、(Gen Z、若者という)デモグラだったから、という人もいる。まず、それは間違っている。私たちは、全ての層の人々の票を勝ち取っているということ。次に、これは私の一番最初の選挙戦の靴。私は雨水が沁みてくるまで、この靴を履いてドアを叩き続けたのよ。私たちの努力を尊重すべきよ。私たちは、この競争を戦い切ったから勝ったのよ。それ以外の何者でもないわ。
AOCはこの選挙戦を戦いながら、「民衆を代表するWeのリーダー」として、さまざまな試行錯誤と努力を重ね、知見を積み上げていきました。選挙活動資金は大手からは受け取らず個人献金のみ。このような地道な方法を選んでやり切った理由は、この選挙戦のゴールは彼女にとっては自分が勝つことではなく、「US=庶民の私たち」を国会に持ち込むことだからなのです。
支持者たちが自分たちを反映できる、自分の生活や人生を共有していると思えるリーダーへ成長を続けるAOC。AOCは、人々がフォローするべき完璧な存在として自分を押し付ける代わりに、自分の人生のストーリーを共有し、相手のストーリーをただ聞いたのです。議員となった後も、初登庁の日を配信したり、インスタライブで料理をしながらQ&Aに答えたり、と民衆と共に歩むスタイルを続けています。SNSの活用法も、随所で記事になっていますが、流石の一言です。
インスタライブのアーカイブより:https://www.instagram.com/tv/CIpCnIFHoE3/?utm_source=ig_web_copy_link
これまでのSISのNoteを読んできた皆さんには、これが何かを感じられたのではないでしょうか?はい、それは、まさしく言動が一致したAuthenticityであり、それを実現するGritです。
SIS's POINT②I'm enough to do this - 大事なのは完璧かどうかじゃなくて、この挑戦に十分かどうかなんだ - AOCのセルフコーチング力
私たちが次に注目したのは、彼女のセルフコーチング力でした。何もない中から、自分たち自身を代表するべく立ち上がるのは、想像するだけでもとても勇気のいることです。この1シーンでは、AOCは来るべきディベートに備えてセルフコーチングをしています。「きっと相手は私のことを、ちっぽけな存在で、若くて、経験がないということを印象付けようとしてくるに違いない」と言いながら、彼女が繰り返し声に出していた言葉。
I'm experienced enough to do this. I'm knowledgeable enough to do this. I'm prepared enough to do this. I'm mature enough to do this.
I'm brave enough to do this.
私はこれをやるのに必要十分な経験はある。私はこれをやるのに必要十分な知識はある。私はこれをやるのに必要十分な準備はできている。
私はこれをやるのに必要十分な勇気はある。
完璧だからそれをやるのではなく、この挑戦をするのに十分なだけの準備や経験、そして勇気があると自分自身に言い聞かせているのです。無意識に完璧でないと叩かれやすいと刷り込まれている(ような気がする)私たちにとっては、ハッとするシーンの一つでした。
Take up space, I can do this!
空間をたくさん使って自分を大きく見せるのよ!私はできる!!
AOCは、演説やディベートは、中身もさることながらエネルギーの伝達である、ということを認識し、空間を広く取り、自分を大きくみせ、相手に負けないプレゼンスを確保しようとしています。自分の能力を超えると思うような大きなチャレンジに出会った時、大事なことは自分が完璧だと装うことではなく、自分たちのミッションと仲間を信じて、自分を先頭で戦う人間としてエンパワメントできる力なのかもしれません。戦いは、完璧な人間が勝つわけではないですから。これは、私たちにも明日から取り入れられそうなテクニックですね ;)
ちなみに、Acting with Power: Why We Are More Powerful Than We Believe というStanfordのDeborah Gruenfeld教授が書いている本にも、このセルフコーチングテクニックが書いてありますので、ご参考まで・・・。
そして、彼女は民衆そのものにも力と希望を与える言葉を語ります。We deserveという言葉を多用し、民衆は民衆が代表することに値する価値があるんだ、と語り、人々の誇りをかき立ています。"私たちは、労働階級の人間に代表されることに値する価値があるんだ”
そして、当時現職だったCrowleyとの公開ディベートに挑むのです。この迫力。彼女の後ろに、彼女を支持する人たちが見えるような気がしてきますね。
誰でもできるのかもしれない、でもだからこそ私は立ち上がるんだ
この流れで、もう一つ私たちが印象に残ったことがあります。彼女を批判する声の一つにWhy YOU? -「君の何が特別なんだ?」「なぜあなたじゃないといけないの?」というものがあります。
彼女はこう切り返しました。
「なぜ私じゃないといけないのか?もしかしたら、誰でもいいのかもしれない。誰でもできるのかもしれない。誰にもできない仕事かもしれない。だからこそ、私は声をあげて、立ち上がるんだ」
自分が優れているからリーダーになるのではない。信じるものがあるから立ち上がったという信念そのものが、Weのリーダーには何よりも大事なんだということが伝わってきますね。
The Courage to Change: 変化への勇気 - 2018年AOCの選挙キャンペーン動画
SIS's POINT③Stand up for yourself and future - 失礼と無礼に毅然と立ち向かう知識、語彙と精神力
2020年の7月、Ted Yoho議員がAOCと犯罪の増加に関する議論を交わした際、性差別的かつ無礼な暴言を放ったことが報じられました。
事の発端は、共和党のテッド・ヨーホー議員がオカシオ=コルテス議員に対して、「むかつく(disgusting)」「頭がおかしい(you are out of your freaking mind)」と発言したこと。人に対して言うべきでない言葉を投げかけられたオカシオ=コルテス議員は、ヨーホー議員に対して「失礼です」と言ったという。しかしヨーホー議員はなんとその後、「ファッキン・ビッチ(f*cking b*tch)」と発言。放送禁止用語を用いたほどのヨーホー議員の侮辱発言を、現場にいた記者が聞いていたためニュースとなり、大問題となっていた。
しかしヨーホー議員の事務所は、そのような事実はなかったと主張。その後、「45年結婚しており、2人の娘がいる私は、自分の(するべき)話し方を理解しています。記者によって私がしたとされている悪口は、同僚に向けたものではありません。もしそのように解釈されているのであれば、誤解について謝罪します」としたことで、自身の行為を認めず、責任を取っていないと、さらに批判の声が大きくなっていた。
出典:FRONTROW
その後、議会でAOCが行った反論スピーチが多くの共感と賛同を得て、アメリカ中で話題となりました。長いですが、ぜひ見ていただきたいスピーチです。
AOCのポイントは非常に明快です。
・私は弱いから/傷ついたからこのような反論をしているわけではない。私は慣れているけれど、ここで黙ってしまうとそれでいいということになってしまう。これは社会全体の悪しき文化の問題。だから私はここで発言するんだということ
・妻や娘がいることを、Misogyny(ミソジニー、女性蔑視)でないことの隠れ蓑にはできない。人に対して品格と敬意を持って接することが、人を尊重する人間にする。
そして、最後のこの下りに胸がすく思いになりました。
最後に、ヨーホー氏には感謝したいと思います。権力がある男性であっても、女性に対して無礼になれるということを世界に示していただいてありがとうございます。娘たちがいても、罪悪感もなく女性に対して無礼になれるということも。結婚していても、女性に対して無礼になれるということも。世界に対して家族写真を公開して、家族を愛する男性だと見せても、罪悪感もなく、責任を問われることもなく、女性に対して無礼になれるということも。これはこの国で毎日起こっていることです。この国の国会議事堂の階段で、起こったことです。この国の最も高い地位にある公職につく者が、女性を傷つけ、私たち女性すべてにあのような言葉を使うと認めて起こったことです。
出典:FRONTROW
こういった出来事は、働く女性の誰もが経験しうることで、それが起きた時、「本当は自分が悪かったんじゃないか」「つけこまれる自分にも落ち度があった」と自分を責める人も少なくありません。彼女は、Knock Down the Houseでこのような言葉も述べています。
Women tend to be made responsible for the actions of every man in the room. I am not.
女性は、その会議室にいる全ての男性のとった行動の結果や責任を
引き受けさせられることが多い。私は、そうしないわ。
AOCはこの事件だけではなく、人種や年齢などでも理不尽な事態に直面しながら、毅然とした反論を行っています。これは、相手が責任を取るべき事態に、自分が申し訳なく思ったり、自分を卑下することは全くないという考え方に基づいています。日本では、まだこういった議論や反論をオープンに行う慣習がなく、また、事態を丸くおさめることを優先する文化から、アメリカにおける議論と比べて、語彙や前提知識もまだまだ育っていない、とSISでは感じています。しかし、AOCの「社会として繰り返さないために」毅然とした態度でより良い社会や文化にするべきだと訴える姿は、胸を打たれるものがありました。
リーダーシップとは自分のVoice=スタンスが明確にあること
リーダーのポジションにいると、人々をまとめよう、難なく物事を進めよう、とするがあまりに八方美人になってしまうこともよくあります。私たちが、AOCを通じてみた姿は、自分の声、スタンスが明確にあり、ある意味では炎上を恐れずに社会に意見を発信し、議論し、戦い続けるリーダーでした。
社会が二極化し、分断し、多様化し、そして硬直化しているからこそ、この現代社会を前進させるには、散らばってしまった声や、長年埋もれて見えなくなってしまった声を届けるAOCのようなリーダーシップのあり方に人々は希望を抱くのかもしれません。新時代のWeのリーダーAOCのこれからの物語に、今後も注目していきたいと思います。
2018年に選挙当選した瞬間 - こんな風に熱く燃えながら人生を生きたいと思うSISでした。
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今回のエントリーはいかがでしたでしょうか?
SISの活動に興味がある方、コメントがありましたら、ぜひお気軽にご連絡ください!年明けより新メンバーも迎え、今年は活動の種類も広げていきたいと考えています!
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