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リンネの目 3.5『鈴音と美鈴②』

「ポチ、帰ってこないなぁ」
 食後の片付けも終え、のんびりとソファでくつろぎながら美鈴が言った。
「まだ探させてるの?」
「うん。近くに気配でも残ってないかと思ってさ」
「きっと、何もないよ」
 鈴音は二つのコップにジュースを注ぎ、一つを美鈴に手渡して隣に座る。
「彼女が目を落としたのだとしたら、あの周辺。だけどポチは目撃者の目しか見つけなかった。だったら、もうあの子の目は他のムシに喰われたんだよ」
「だよねえ、やっぱ」
 残念そうに美鈴はため息をつくと、座ったまま力なくソファに身体を倒す。めんどくさいね、と呟きが聞こえた。顔が白い。
「僕が断わろうか?」
 美鈴は小さく唸るとソファに顔をうずめる。そしてくぐもった声で「ううん」と答えた。
「中途半端って気持ち悪い。それに、もしかしてって鈴音だって思ってるんでしょ。だから、マッキーにあんなこと頼んだんじゃん」
「だって……。めんどくさいけど、一応は受けた依頼だし」
 すると美鈴が顔を上げてにやりと笑った。
「なんだかんだ言って、鈴音ってば良い子だよねえ」
「僕は真面目なんだよ。それに本当に危険だったら断わるよ。美鈴に負担をかけたくないし」
 言いながら美鈴を見た。オレンジのリストバンドが目立つ。彼女は左手でそのリストバンドに触れていた。
「わたしは大丈夫だよ。それに今回の依頼はちゃんとこなしたいな。マッキーのこと、けっこう気に入ったし」
 どこが、と尋ねると彼女は「なんか、目がきれいでしょ」と答えた。その目がどちらを指すのかわからない。
「ただの苦労知らずなんじゃないの。きっと幸せ者なんだよ、あの人は」
 ため息混じりに言って鈴音は立ち上がる。そろそろ風呂を入れよう。今日は美鈴を早めに休ませたほうがいい。
「わたしも幸せだけどね」
 背中に声が聞こえて振り返る。美鈴はぼんやりとテレビに顔を向けていた。
「だって、生きてるもん。鈴音と」
 寂しそうな横顔。彼女の左手は右手首のリストバンドを握っていた。
「……そうだね」
 鈴音は言ってリビングから出た。

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