彫刻というマインドフルネス【日記:2023/1/8】
・朝からしとしとと雨が降り続いている。じっとりとした寒さを感じる。日の出はまだ9時過ぎなので起きる時間もゆっくりだ。
・同居人は今日から仕事に復帰したようで、すでに出払っていた。いつも通りにパンケーキを焼き、コーヒーを温め直して保温マグに注ぐ。
・今週末にかけて寒波が来るようだ。このところ気温は5度前後で安定していたが、マイナス7度ほどまで落ち込む予報だ。寒くなるのに備えて水道管や薪の支度をする。
・アウトドアシャワーと井戸に断熱材を入れ、簡易ヒーターを設置する。家の中に薪をたくさん積み上げておく。熱く燃える乾いた広葉樹の薪も運び入れる。薪や焚き付け材がずらりと並んだ光景を見ると、豊かさを感じる。
・今日は流石に外を走れそうにはないので、室内でじっくりトレーニングをする。今日は腹筋と脚のトレーニングを30分ほど、あとは下半身のストレッチ。今年の夏のマラソンに向けて、ちゃんと哲学を持ってトレーニングしていきたい。メニューもそろそろ考え始めよう。
・今日は家の掃除と薪仕事だけでほとんどの明るい時間が潰れてしまった。暗くなる前に川で冷水浴をし、シャワーを浴びる。同居人がムースのカレーを作っている。いい香りだ。
・5時からキーランの家でパドル作りを進める予定だったので、カレーは帰宅後にいただくことにする。作りかけの二本のカヤックパドルを車に乗せ、村までの道中のキーランのところへ向かう。
・彼の家はマセットの中でも最も開拓地らしい場所にある。元々は製材場があった場所が更地にされ、そこに小さな小屋が点々と建てられている。キーランも今は家の2階を増築中で、やっと1階と穴を開けてはしごで繋がっていた。
・彼のガールフレンドは日本人のハーフらしく、ホリデー中に遊びに来ていたという彼女が置いて行ったインスタントヌードルがたくさんあった。日本っぽいパッケージに入ったスパイシー・うどんなるものを二人で食べる。
・このところ会えていなかったので近況を話す。来週から数週間グアテマラに遊びにいくのだとか。いいなあ。「1、2月にできるだけ休暇を集中させて暖かいところに逃げる。ここで生き抜くコツだよ」なるほどな。
・今年は一緒に海苔をつくろう、と話す。ハイダグワイで獲れた魚と海苔で寿司が作れたらなんて素敵だろう。「海藻は特別なものだから、ハイダ族の誰かと一緒に獲りに行かないとね」
・土地と先住民へのリスペクトを掲げつつ、村の人々といろいろなプロジェクトを走らせている彼。春からは新しく青少年向けのハイダダンスチームを組織する仕事をするらしい。先日のポットラッチで村のチーフ・マシューズ小学校のダンスグループの演技があったが、その力強さに圧倒された。学校で先住民のダンスや歌を教えることは長年禁止されており、今の親世代・祖父母世代は自分たちの文化を教わることはできなかったのだという。今こうして文化復興を遂げていく環境にいられることは貴重だ。
・食事を終え、パドル作りを進めることにする。2階に続くはしごはとても不安定で、慎重にツールとパドルを2階に運び入れる。
・今のパドルは角材から肩をくり抜き、水をつかむブレードの部分を大まかにマシンで削り取った状態だ。あとは手作業でブレードをダイヤモンド型に彫り、手持ち部分を軽くしていく。密度の高いイエローシダー、まだまだパドリングするには重たい。
・丁寧に中央線を引き、目印にする。彫刻の難しいのはやり直しの効かないことだ。迷ったら手を出さないというのが鉄則。
・2種類のカンナと大きなカッターのようなツールでじわじわとブレードに傾斜をかけていく。木にも彫りやすい方向と彫りにくい方向があり、面ごとに見極めて削っていく。
・無心になれる作業だ。モメンタムをつかむと彫りすぎてしまう、というキーランの過去の弟子たちの傾向から、百点満足するまえに他の面に移行することにする。
・ある程度の進歩が見え、あとは自分で進めそうなところで今日の作業は打ち切る。使わせてもらった2階部分を掃除し、またすぐ村の工房で会おう、と約束して別れる。
・帰宅してタロンが残してくれていたカレーライスを食べる。スパイスが効いていて米が進む。本当に料理のうまい同居人がいるのは幸運なことだ。