太陽と大地の力、そして寿司を巻く【24.2.10】
・9時に起きる。緑茶を飲み、ベーコンエッグで朝食にする。卵はふわふわのスクランブルド、ベーコンはカリカリに焼く。カナディアンなメニューだ。
・この世の全てを賞賛したくなるほどに美しい天気だ。日に日に春が近づいていることが感じられる。太陽の光に確かに暖かさがある。
・「今夜の食材だ。クルマエビ3パック、ホタテ、カニ、サーモン。寿司パーティには十分だろう」とタロンが大きな買い物袋を抱えて帰ってくる。日本の友達が来る、と彼に伝えた時から、絶対に寿司を作ってもてなそうと話していた。太っ腹な男である。
・一昨日と昨日は午後に仕事があったが、今日の仕事は代わってもらった。
・家の裏の川が陽光に輝いている。外で体を動かすのにもってこいの1日だ。まりこにヨガを教えてもらうことにする。「わたしも混ざっていい?」とサシャ。
・3人でヨガマットを持って河原に降りる。太陽を仰ぐ形で座り、まりこの指導に従って瞑想から始める。僕が適宜翻訳してサシャに伝える。
・「肌を撫でる風、遠くから聞こえる音、自分と大地が触れている部分。それらに感覚を集中させます。今日こうして十全な身体があり、ともにヨガができることにに感謝します」
彼女の誘導に沿ってゆったりとした呼吸を繰り返す。自然の中にはこの半年ほどずっといたけれど、こうして意識的に自然と自分の関係を見つめることはできていなかったな、と思う。急ぐ必要もないのに、自分はどこかで急いでいたのかも知れない。
・いくつかの複雑なポーズをとり、太陽礼拝を行う。太陽と大地の力が、呼吸を繰り返すごとに体内に染み渡っていく感覚。最後の瞑想のあたりでタロンが帰ってくる。ウォーリーも混ぜて欲しそうに、瞑想中の僕たちの周りを駆け回っている。
・そのあと、まりことウォーリーとビーチに向かう。僕はトレイルランニングシューズを履いて走り、彼女は砂浜の上で瞑想している。村の人々もこんなに美しい1日を放っておくはずもなく、浜辺にはいつもより多くの人が繰り出し、散歩と日光を楽しんでいた。もとより、いつもこの海岸を走る時にはすれ違ってもひとりくらいなので、見回して3人がいるというのが「多い」ということになるのだが。
・明後日が新月ということもあって、潮の動きが大きくなっている。海水はビーチのほとんどを飲み込み、いつものランニングコースは水浸しだ。仕方ないのでビーチ裏のトレイルと波打ち際の砂場を走る。
・家に戻ると、川がこれまでに見たことのないほど満ち満ちていた。今日の満潮は24フィート。7メートル以上の潮汐変化だ。水着に着替え、日課の冷水浴をする。ほどよく熱った下半身をクールダウンさせる。
・キャビンでは、タロンとサシャ、まりこがランチを食べていた。タロンが作ってくれたのはクルマエビのオムレットとハッシュドブラウン。「これまでに俺が作ってきたものの中でも最高級のひとつになったよ」と彼は言う。エビの旨味と卵のコクが混ざり合い、オランデーズソースが味をまとめ上げている。たしかに絶品だ。
・食べ終わった頃にはすでに3時前。今夜の寿司パーティにはたくさんの友達を呼んでいる。準備にそろそろ取り掛かろう、という話になり、母屋に戻る。
・今夜のメニューは揚げ出し豆腐、カニの味噌汁、鹿肉ロースの焼き肉、クルマエビの天ぷら。寿司ロールのためにはコーホー・サーモン、カニマヨペースト、ホタテ、エビ、そしてアボカドやきゅうりが控えている。申し分ない。
・僕は寿司米を炊き、まりこが味噌汁をさっと作って前菜としての揚げ出し豆腐に取り掛かる。さすがは栄養士、どの味付けも極めて日本的で繊細だ。サシャは寿司のための野菜を切り刻み、僕はサーモンとホタテにナイフを入れる。
・しばらくするとタモが犬のモチコを連れてやってくる。なぜかJJも村から自転車で突然訪れてくる。にぎやかになりそうだ。
・揚げ出し豆腐も好評、寿司もどんどんなくなり、僕とタモで交代でどんどん巻いていく。
・「はじめまして。私はクイン。このカニ、私が獲ってきたのよ」たくさんの寿司が卓上に並び始めたタイミングでやってきたのは、小柄なブロンドの女性だ。
「ようこそ。獲ってきたってことは、君は漁師か何かなのかい?」
「海洋生物学者なの。ハイダ評議会からの仕事で、ハイダグワイの海で海藻の調査をしているのよ。潜るたびにそこらじゅうにカニがいるから、時々お土産に持って帰ってくるの」
・先日に湖で会ったビーバー対策チーム同様、ハイダグワイでは環境保全の仕事についている人に出会うことが多い。ハイダ評議会が研究者を雇ったり、国立公園事務局が調査を行なったりしているためだ。海と陸両方において、ハイダ族の文化と結びつきの強い植物や生物を調査し、未来に残すために保存しているのである。
・「英語が話せないから、付きっきりで助けて欲しい」とまりこから当初は頼まれていたが、一昨日から仕事の都合上ほったらかしにしていたこともあって、彼女もひとりで僕の友人たちとコミュニケーションを取れている。やはり外国語を話すということの最大の障壁は、実際に会話するチャンスをつかむことだ。いくら語彙に乏しかろうと、一度コミュニケーションを始めるというハードルを乗り越えてしまえば、あとはどうにでもなるのである。
・近所の僕の友人たちが、極めて素晴らしい人格を持った楽しい大人たちである、ということも幸いした。
・21時ごろにジュディおばちゃんに呼び出しを喰らって、村に顔を出しに行く。毎週恒例のボードゲームナイトである。途中参戦早々に勝ち進むと、「あんたも可愛げがなくなったわよね」とおばちゃんたちに言われる。なんやそれ
・23過ぎに帰宅すると、流石に友人たちはすでに帰っていた。まりこがまだ起きていたので、テニスボールでの筋膜リリースのやり方を教えてもらう。ボールで背中をほぐすのはなかなかに痛いが、終わった後は身体が地面に沈み込んでいく感覚がある。心地よく眠りにつく。