ハイダグワイに銭湯をつくる【24.2.26】
・8時に猫と起きる。外に出ていないのが1秒でももったいなく感じるほどの美しい朝だ。パンケーキを3枚、たっぷりのメープルシロップと共にいただく。
・今日から隣のタモの家で大工仕事のお手伝いをする。「セントー・プロジェクト」と謳われる今回のプロジェクトは簡単な銭湯式温浴施設をつくることになる。タモの敷地の一角に五右衛門風呂・水風呂・バレル型サウナとともに脱衣所や畳を敷いた茶屋を作り、ハイダグワイの自然の中でのリラクゼーションを提供する施設だ。施設といっても近隣の友達とともに楽しむためになりそうだが。
・ワークパンツとワークジャケットを着て、ワークブーツを履いてタモの家に行く。昨晩あったクリスとタモが誰かと電話を繋ぎ、最終施工図の確認をしている。タモの叔父ハビエルも建築関係の人間らしく、大工のクリスと意見を交換している。
・まず着手するのは基礎づくりと整地。風呂を作る敷地には古いスクールバス、巨大の木の樽、そして離れたところに新しい屋根の枠組みがある。薪小屋になるはずだったその大きな枠組みを風呂の屋根にするため、そのまま風呂ゾーンまで運ぶ必要がある。
「今日の夕方に15人ほど友人たちを呼んでおいた。みんなで持ち上げて動かせるはずだ」とタモ。こちらの人間はふつうにキャビンや家を将棋のコマ感覚ですぐ移動させたがる傾向がある。
・持ち上げる時に軽いように、屋根のトタン板を外す。枠組を運ぶ際に障害になりそうな木々や枝をチェンソーで刈っていく。パワードライバにしろチェンソーにしろ、半年前には触ったこともなかったものを普通に使えるようになっていることに成長を感じる。
・クリスにはタロンと似ているところがある。同じく大工仕事を教える傍ら、自分の敷地でさまざまなプロジェクトを進めている。僕への指示や仕事の段取りを見ていると、この人はやわな大工ではないな、と感心させられる。
・「バンクーバーで育ったんだけれど、叔母の住んでいたヘーゼルトンに遊びにいく夏の数週間がたまらなく好きだったんだ。若い頃はオーストラリアやニュージーランドで機械いじりや畑仕事をしつつ放浪して、どこかに落ち着きたいと思った時、叔母のあの田舎町がピンときたんだ」
ランチにアボカドトーストを作りながらクリスはこれまでの経緯を語ってくれた。やはり大工仕事や機械関係にある程度明るければ、どこでも生きていけるものだ。
・昨日は凄まじい吹雪だったのに、今日は打って変わって雲ひとつない静かな快晴。外仕事にぴったりだ。とはいえ、風呂予定地は木々に囲まれてあまり火が入らないので、ずっと動いていないと体が冷えてしまう。五右衛門風呂の基礎として砂利を敷き詰め、水平にタンピングしていく。
・かくいうタモは先週からコロナにかかっており、その後遺症なのかずっとふらふらしていて朝以降寝ている。大丈夫か。
・夕方にみんなが来る前に屋根を動かす準備をしておく。刈り取った木片や枝を燃やし、屋根を据えつける土台部分を整地する。
・4時過ぎになると近所の友達たちがぞくぞくと現れる。タロンとルークはもちろん、奥の橋沿いに住むレヴィやアグース、シャーとヴィグラム。日本旅行から帰ってきたミドリとダンも。友達が近くに住んでいて声をかければすぐに集まってくれるこの近所関係がとても好きだ。
・クリスが指揮をとり、柱を12人で持ち上げる。12人でぎりぎり持ち上がるといった格好だ。数回休憩を挟みつつ、20メートルほど移動させる。
・一仕事終えた後はタモが用意してくれたいなり寿司と味噌汁をみんなで食べる。まさに炊き出しだ。すこしの間、いつもの友達や久しぶりに会う友達と談笑にふける。ダンとミドリは日本をめいいっぱい楽しんできたようでよかった。
・そのあと、タロンがクリスに僕らの家やキャビンを見せてまわっていた。大工同士、いろいろと話が弾むようだ。「ここのディティール、どう仕上げたの?」「焼杉の仕上げ方が素晴らしい」など。僕は彼らの仕事ぶりを見て、ああ美しいなくらいの感想しか持てないが、技術があるとその「ああ美しいな」を生み出す背景が見えるのだろう。もっと知恵と技術をつけていきたいものだ。
・夕飯にはサーモンでココナッツカレーを作り、タロンとサシャの3人で食べる。カレーはいつも外さない。明日は早番の仕事。本を読んで寝る。