ハウルの動く城を久々に観た感想
宮崎駿監督最新作「君たちはどう生きるか」を観てから、過去の宮崎監督作品を見返したくなったんですよ。
私はジブリ作品を全て観ているわけではないんですが、宮崎駿監督の作品は全て観ているんです。
と言ってもナウシカやラピュタはもう嫌というほど観ていますから、過去に1回しか観ていないものを観てみようというわけなんです。
というわけで選んだのが「ハウルの動く城」です、公開は2004年ですかー、もう20年近くも昔のことなんだなあ。
こういう映画は歳を重ねると見方が変わって印象も変わってくるものでしょうからね、ちなみに公開当時に映画館でこの映画を観た私の感想は「ん?」でした、よくわからなかったんですよ。
さてあらすじを書くのはめんどくさいので、久々に本作品を観た私の感想をポイントごとに挙げていきましょう。
まずは良かった点からです。
躍動する空のメカたち
まず思ったのが宮崎駿監督は本当に空を飛ぶ機械が好きなんだなー、ということです。
ナウシカに登場したメーヴェとラピュタに出てきたフラップターを足したような少人数乗りの飛行機から、爆弾を満載した軍艦までいろんな空飛ぶ乗り物が出てきます。
これらの機械がとても凝ったデザインで、こういうものを考えるのが宮崎監督にとって一番楽しい時間なんじゃないかなあ。
魔法と科学が並立する世界
これは新鮮に思える設定ですよね、別に魔法と科学が二律背反するものではないのかもしれませんが、他の創作作品でもなかなか両方というのはないかもしれません。
この映画は戦争というのも大きな要素になっています、国家が魔法というものを戦争の道具として使うのが当たり前の世界だということです。
だけどやっぱり違和感がありますね、今作最強の魔術師サリマン先生がその気になれば世界征服も容易なものだと思えますからねえ、何で国王に従ってるんだろう?
動く城の不思議感
まあ城と言うには小さすぎますから「動く家」と言う方がしっくりくる感じですが、二足歩行する拠点というのはロマンがありますね。
出入り口がいろいろなところに通じているんですよね、あれはどういう仕組みなんだろうなあ? 限定的などこでもドアという感じでワクワクしました。
謎のイケメン悪魔
主人公「ソフィー」にとって城の主人「ハウル」との出会いが物語の始まりであり、それが全てと言ってもいいストーリーになっています。
ハウルは謎の多い人物です、空を自由に飛び回る歩く城の主、そして何よりイケメンです。
かつてはサリマン先生のもとで将来を期待された優秀な魔術師だったのですが、悪魔と契約して出奔したということでしたね。それを知ってもまだまだ謎だらけなんですよね。
魅力的なキャラクターたち
この映画にはたくさんのキャラが登場しますが、それぞれ良いキャラなんですよ。
城を動かしているのは炎の悪魔「カルシファー」は、とても愛嬌のあるキャラでしたね、とても悪魔とは思えません。
ハウルの弟子「マルクル」も可愛くて良かったですね、変装したときのセリフが面白かったです。
動くカカシの「カブ」も大活躍でしたね、一言もしゃべらないんですけど好感の持てるキャラでした。
音楽が最高!
宮崎駿監督の映画は絵と音楽が良いのがテンプレです、だけど今作の音楽は特に良かったですね。
「人生のメリーゴーランド」という曲がアレンジを変えながら何度も流れます、まさにこの映画のメインテーマといっても過言ではないでしょう。
この曲がとても素晴らしくて何度も聞き返したくなる名曲です、久石譲先生は天才ですね。
さて褒めるのはここまでです、ここからは気になった点を挙げていきましょうか。
声の違和感
この映画のキャストが発表されたときに大変驚いたのを覚えています、木村拓哉さんと倍賞千恵子さんですよ、ちょっと予想もつかない人選です。
ハウル役の木村拓哉さんは意外にもと言ったら失礼かもしれませんが普通に聞けました、木村拓哉さんと言えば「何をやってもキムタクにしか見えない」などと揶揄されることも多いですからね。
最近木村拓哉さん主演の「レジェンド&バタフライ」という映画を観たんですが最後まで織田信長には見えずキムタクさんでしたねえ。
それだけ個性が強い役者さんだということなんでしょうけど、それが声優になると途端に没個性になるのは面白いですね。
ただ正直言って「聞ける」というだけで魅力的な芝居だったとは思えないんですよねえ、ちょっとアフレコに慣れてない新人声優さんという印象でした。
それより大きな問題は主人公のソフィー役の倍賞千恵子さんですよ、ソフィーは呪いで老婆にされてしまうんですが、若いときも老婆も倍賞さんが1人でやるんです。
これはいくらなんでも無理があるでしょう、実際に老婆のシーンは問題ないんですが少女のシーンはきつすぎて見ていられないレベルです。
倍賞さんはベテラン俳優さんですが、歳をとってから少女の役などやっていないでしょうからね、普段からありとあらゆる年齢のキャラを演じ分けるプロの声優さんとは違いますよね。
それから敵役の方もです、荒れ地の魔女役の美輪明宏さんは文句ないですが、ラスボス的存在のサリマン先生には物足りなさを感じました。
もっとこう強者感というか、静かな物言いの中に圧倒的な力を感じさせてくれるようなものを期待したんですが、そういうものは一切感じませんでした。何というか「品の良いおばさん」という印象です、最強の魔術師とはとても思えませんでしたね。
ストーリーが行方不明
劇中では戦争の真っ最中で激しい戦闘シーンが描かれています、だけどどの国とどの国がどんな理由で戦っているのか全く描写されません、それどころかストーリーに全く絡んでこないんですよ!
戦争のために召集されたハウルが出仕を渋ってサリマン先生に追い回されるのがストーリーの大筋です、これどんな感情で観ればいいんでしょうか?
ハウルが悪魔と契約した経緯も描写されません、面白そうな内容じゃないですか、何でそこを見せてくれないんでしょう。
主人公の呪いというのも大きなファクターだったはずですが、途中からどうでもよくなっていくんです。最後の方で呪いが解けて少女の姿に戻るんですが、本人も周囲もそれについてノーリアクションなんですよ、これでどうやって感動すればいいんですか。
敵の存在感
最初の方で主人公のソフィーが荒れ地の魔女に呪いで老婆に変えられてしまいます、だから当然荒れ地の魔女がラスボスだと思ったら中盤にあっさりとサリマン先生に負けてしまうんです。
これ何かもったいないですよねえ、強敵だと思っていた人物がより強い敵にやられるというのは熱い展開なんですが、それなら魔術師同士の魔法対決を見たかったですねえ、罠にかけてやっつけるというのでは盛り上がりようがないでしょう。
そしてラスボス的存在になったサリマン先生ですが、前述したとおり強者感がないために観ててもつまんないんですよね。
やっぱり悪役って大事ですよね、というよりサリマン先生の方が筋が通っているんだから悪でもないのか、これじゃあますます感情移入できませんよ。
主要キャラに感情移入できない
主人公のソフィーは帽子屋で働くごく普通の娘、見た目はそばかすを取った赤毛のアンというイメージです。
呪いで老婆に変えられてしまうんですが、意外にあっさりとそれを受け入れるんです。
それどころか「年寄りの良いところは~」みたいなことを何度も言うんですよ、いやいや老婆になってから何日も経ってないでしょ。
他にも妙に悟り切ったセリフが多くて困惑しました、見た目は老婆かもしれませんが中身は少女でしょう?
どうも彼女に共感できないんですよねえ、だから観てて呪いのこととかどうでもよく感じてしまったのかのもしれませんねえ。
ハウルについてもです、謎めいた城の主というだけで魅力全開となりそうなものですが、そうは感じませんでした。
というのも彼の目的がいまいち伝わらなかったからです、戦争に加担するのが嫌なのはわかりましたが、それならきっぱりと断ればいいじゃないですか。
城の仲間を守るために頑張っていましたが、それならサリマン先生の力が及ばない国にでも逃げればいいじゃないですか、空を自由に飛べるんですからね。
髪の毛の色が変わってしまったことでショックを受けてドロドロに溶けちゃうシーンがありましたが、これにも共感できませんでしたね。姿を自由に変えられる魔術師に髪の色など何の意味があるのですか、キャラ付けのためのシーンなんだろうけど薄っぺらい印象しか持ちませんでした。
主要キャラ2人に感情移入できないために、恋の行方なんかどうでもいいという感情しか湧きませんでした。
謎の大団円
ラストシーンではサリマン先生の追手との戦闘で倒れたハウルに、カルシファーから心臓を返してもらってハウルが復活して大団円となるんですが、なんだかなあという感情しか湧いてきませんでした。
だってこれハウルがサリマン先生にボコにされて降伏したようなものでしょう? これで「ああ良かった」とは思えないですよ。
カルシファーがあっさり心臓を返すのも?ですよ、悪魔との契約というのは「やっぱりやめます」というのが利かないものでしょう。だからこそドラマチックにもなるんでしょうけど、ストーリーの都合で契約を反故に出来るんじゃあ話の重みもなにもないでしょう。
最後にカカシのカブの正体が明らかになるんですが、これも蛇足感がありましたねえ。きっとソフィーの親しい人が呪いによって姿を変えられて、ソフィーを守るために頑張っていたに違いないと思っていたんですよ。あるいは描写されていなかったお父さんなのかも、と想像していたんですが・・・。
まさか通りすがりの見知らぬ人だったとはねえ! 隣国の皇太子だとかそんなの知らないですよ、ただの他人じゃないですか。
ストーリーにまったく絡んでこない正体なら謎のままの方が良かったぐらいですよ。
恐ろしい考察
放心してエンディング曲を聴きながらストーリーをあらためて考えていたときに恐ろしいことを思いついてしまいました。
おおまかな話の流れは前述したように「戦争のために召集されたハウルが出仕を渋ってサリマン先生に追い回される」だけなんですが、ハウルが心臓を返してもらって人間に戻ったのを確認したサリマン先生が「戦争をやめさせよう」ということを言うんです。
これよく考えると恐ろしいセリフなんですよね、戦争を始めたり辞めたりする権限は当然国王が持ってるはずなんですが、サリマン先生は国王を意のままにあやつることが出来ることを暗示しています。
そして戦争の目的がなんだったのかは描写されませんからわかりませんが、ハウルが人間に戻ることなど国家にとってどうでもいいことのはずなんです。
だけどサリマン先生はそれを見て戦争をやめさせようとするんです、つまり最初からそれが目的だったんですよ!
弟子を手元に戻すためならば何の罪もない一般人が何人死んでも構わないということです。
この戦争で何人の犠牲者が出たのかはわかりませんが、サリマン先生は恐ろしい人物ですね、もはや純粋な「悪」です。荒野の魔女などよりはるかにたちが悪いですね。
つまりこの物語は巨悪に主人公が屈するという話なんですよ。
さていろいろ言ってきましたが、採点していきましょう。
総合評価
・ストーリー 20点
やはり中身が無さすぎますね、ハウルがかつての師と対決するんじゃなくて逃げ隠れするだけの物語です。
悪魔になった経緯とか面白そうなところを描写しないのでハウルという人物がどんな人間なのかがわからないですね。
主人公ソフィーのかけられた呪いについても、もうちょっと盛り上げようがあったんじゃないのかなあ?
全体的に物足りない印象です。
・ビジュアル 75点
絵が綺麗なのはいつものジブリで素晴らしいですね、ハウルのイケメンぶりは良かったですが悪魔形態がいまいちだったように思いました。もっとおどろおどろしい姿になった方がインパクトがあると思うんですよね。
動く城の外観は良かったですが、内装はちょっとありきたりな感じがしましたねえ、もうちょっと面白いギミックがあっても良かったのになあ。
・音楽 90点
これは本当に素晴らしかった!
前述した「人生のメリーゴーランド」だけじゃなくてすべての楽曲が素晴らしいものでした、聴いていて耳が心地いいんですよ!
倍賞千恵子さんの歌うエンディング曲「世界の約束」も聴き入ってしまうほど素晴らしいものでした、メロディーライン・歌詞・歌唱力全てが完璧です。
・キャラクター 30点
うーん、脇役たちはいい味を出してるんだけど、主役2人がなあ。
とにかく主人公にもハウルにも共感できないためにストーリーに没入出来なかったんですよね。
何なんだろうなあ、やっぱり吹き替えなのかなあ?
・総合評価 35点
こんなものでしょうか、とにもかくにもストーリーですよ。作画スタッフと久石譲先生は素晴らしい仕事をしたと思います、問題は脚本を書いた人ですね。
この作品をひと言で言えば「よくわかんなくてつまんない」ということになるでしょう、やっぱり主要人物の目的がはっきりと示されないのはダメですよ。
さて次は何を観ようかなあ? 「もののけ姫」あたりにしようかな。
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