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「もののけ姫」を久しぶりに観る


 懐かしの宮崎駿監督作品を見直す旅として、ハウルの動く城に続いてもののけ姫を観ました。
 公開は1997年ですか、ずいぶん前のことなんですねえ、時の経つのは早いものです。
 ストーリーについては完全に忘れていましたね、覚えているのは主人公アシタカと主題歌だけです。

 アシタカはちょくちょくツイッターなどでネタにされていましたから忘れませんよね。

我が名はアシタカ!

 どうしたらいいのか困っているシーンだと思っていたら、ただ名乗りを上げているだけの場面なのですねえ。

 米良美一さんの歌う主題歌はとても印象的です、カウンターテナーという言葉もこれで知ったんですよ。何度もカラオケでこの歌に挑戦して喉をやられたものです。

 では良かったポイントと気になったところを挙げていきましょう。

導入部のテンポの良さ

 冒頭いきなりタタリ神になった猪が襲ってくるシーンから始まります。村を守るため勇敢に立ち向かうアシタカの強さと勇気が際立ちましたね。
 呪いを受けてしまったアシタカが旅立つまでの過程がスピーディーです、村の様子や人間関係は一切描写されません。余計なところを省いた完璧な導入部だと言えるでしょう。

アシタカの特別な力

 旅立ったアシタカは戦乱で荒れた世界を知ることになります、襲ってくる武者を弓で射るのですが、呪いの力で強化されたのか相手の首を一撃で跳ね飛ばすほどの威力があるんです。
 ジブリ作品で人間の首が飛ぶシーンがあるのは衝撃的ですよね、子供も観るわけですからかなり思いきった表現と言えるでしょう。個人的にはアシタカにかかった呪いの力を表すもので作品に引き込まれましたね、やはり主人公が特別な力を持つというのは王道です。

ジコ坊の曲者感

 道中に出会う冴えない小男のジコ坊、まさか物語の最後までストーリーに絡む重要人物だとは思いませんでした。
 敵か味方かわからない食えないおっさんという感じでキャラが立っていましたね、こういうキャラはジブリでは珍しいんじゃないだろうか。
 物語終盤でたくさんの部下に指示を出しているシーンもありましたから結構上のポジションにいる人物なのでしょう、ビジュアルも含めてこの映画でもっとも印象に残ったキャラクターですね。

音楽の素晴らしさ

 毎度のことながら久石譲先生の音楽は素晴らしいですね、音が美しいという表現がこれほどしっくり来る作曲家はそうそういないでしょう。
 そして何と言っても主題歌ですよ! 米良美一さんの歌う主題歌は心に染み渡る歌声です、この曲のためにこの映画があると言っても過言ではないでしょう。

 さてここからは気になったところを挙げていきましょうか。

登場人物の既視感

 アシタカがタタラ場という集落にたどり着くことで物語が進み始めます、登場人物も一気に増えて面白くなってくる・・・はずなのですが、出てくる人物がどれもこれも過去の宮崎作品で見たような人ばかりなのです。
 これは見た目のことではありませんよ、宮崎作品に出てくるキャラクター、特に女性キャラクターはみんな同じ顔をしています。髪型や髪の色、服装などでかろうじて個体が判別できるのです。もはや美少女ゲームと同レベルですが、これについては様式美とも言うべきもので気になりません。
 問題なのはメンタリティの部分なんです、例えばアシタカが助けた甲六という男の妻トキは男勝りで威勢がよくそれでいて面倒見が良いという、過去の宮崎作品に出てくる女性モブキャラのテンプレートのような人物です。
 まあモブについては良いでしょうが、重要人物たるエボシ御前は見た目から性格まで完全にナウシカに出てきたクシャナ殿下じゃないですか、キャラクター造形のバリエーションが少なすぎやしませんかねえ。
 こういうことが一度気になり始めるともう物語に集中できません、アシタカがタタラ場に着くまでは非常に面白かったのですが、このあたりから頭の中に?マークが点灯し始めました。

ヒロインの存在感

 タイトルにもなっている「もののけ姫」たるサンですが、脇役のような扱いじゃないでしょうか。主人公アシタカとのロマンス的なことはありますが物語の主軸には絡んで来ません、仮に居なくても物語は成立するでしょう。
 タイトルを「もののけ姫」とするぐらいならもっと彼女の出自に焦点を当てるべきだったと思います、幼い頃から狼に育てられたかわいそうな娘というぐらいの印象しかありませんね。

わかりにくい勢力図

 この映画にはたくさんの勢力が登場します、タタラ場(エボシ御前)・帝の隠密?(ジコ坊)・大名(侍)・山の神々(サン)といった具合です、主人公アシタカはこれらの勢力のどこにも属さない中立な立場なのです。
 これだけ聞くとすごく面白そうに思えますが、各勢力の内情や対立軸などはほとんど説明されないのです。
 人間同士の勢力争いがこの映画の主題では無いんだよということなのでしょうが、それならなぜこんなに多くの勢力を登場させる必要があるのでしょうか?
 無駄な設定を増やして作品に厚みを持たせようとする手法としか思えませんねえ、主題に関わらない余分なものはなるべく排除しなければ語りたいテーマがぼやけてしまうじゃないですか。

呪いの意味

 冒頭の祟り神との戦闘で呪いを受けてしまったアシタカは「やがて呪いが骨にまで達して命を落とす」と言われて旅に出るんですが、その呪いというのがいまいちピンとこなかったですね。
 というのも呪いの影響で苦しむ描写はあるんですけど、苦しみがだんだんひどくなっていくという感じでもなかったですし、主に起こる現象としては放つ弓矢の威力が上がったり相手の剣をグニャグニャに曲げてしまったりと、アシタカの戦闘力を上げる効果ばかりなんです。
 祟り神からの呪いですからアシタカの精神を蝕んでダークサイドに堕ちるようなことがあっても良さそうなものですが、そういうことは一切無いんです、ずいぶん都合のいい呪いじゃないですか。

山の神々の力

 山の神々と人間勢力の対立というのがこの映画の主なテーマだと思うんですが、神々の強さに大きな疑問符がつきましたね。
 兵糧を運んで不安定な山道を行くタタラ場の人々をモロの君率いる狼たちが襲うんですが、真正面から突っ込んでいくだけなんです。
 案の定鉄砲のような武器で撃退されてしまうんですが、狼神は知能が高いという設定じゃないんですかねえ。相手は不安定な山道を隊列を伸ばして行軍しているんですよ? 諸葛孔明やルルーシュならよだれが出そうなシチュエーションじゃないですか。せめて大きな岩を落として隊列を乱してから襲うとかいくらでも方法はあるでしょう、ただ突っ込むだけでは馬鹿にしていた猪たちと変わらないですよ。
 猪神のリーダー乙事主が「このままでは我らは言葉を失い、ただ肉にされるだけの存在になるだろう」的なことを言うんです、これを聞いて「ああ、宮崎監督はやはり都会の人なんだな」と思いましたね。
 私は過疎化の進む田舎に住んでいますから猪は身近な存在なんです、夜道を歩いているときに大きな猪と出くわしたことがあるんですが、その恐ろしさがわかりますか? 1対1では絶対に勝つことは出来ないでしょうし仮に槍を持っていたとしても勝てるかどうか怪しいものです。
 つまり銃を持たない一般人にとって猪は決して無力な存在ではないんです、農作物を食い荒らす害獣であり危害を加えられる恐怖の対象なんですよ、だから乙事主のセリフには共感できませんでしたね。
 そしてもっとも大きな問題は山の神々のラスボスたるシシ神ですよ、彼がやったのは瀕死のアシタカを回復させたことと祟り神になりかけた乙事主を止めたことぐらいです。
 それぞれ凄い奇跡とも言えるでしょうが、私のイメージでは「ベホマ」と「キアリー」を唱えられる神官レベルの強さという感じです。
 そして何と言ってもエボシ御前の放った火縄銃1発でやられてしまうことですよ! ゾーマが開幕ベギラマ1発で倒れるようなものでしょう、盛り上がりも何もあったものではありません。
 シシ神が倒れたら周りの草木が枯れ果てるのかと思ったら、逆に生い茂る演出に至ってはもはや意味不明です、じゃあ別に居なくても良いんじゃないですか。
 一言もしゃべらないのもマイナスですよ、何か名言のひとつでも言えば印象に残るんでしょうけど、終始無言ではモブキャラ以下の認知度なのも仕方ないでしょうね。

 さていろいろ言ってきましたが、採点していきましょう。

総合評価

・ストーリー 40点
 アシタカがタタラ場に着くまでは本当に面白かったです、この先どうなっていくんだろうというワクワク感がありました。
 だけど中盤から気持ちが盛り下がっていきましたねえ、私は主人公アシタカに感情移入して観ていたんですが、彼は「戦わなくてはいけないのか!」と理想論を言うだけで何も具体策を示しません。
 結果としてどの勢力にも共感できない状態でエンディングを迎えました、残ったのは虚無感だけですよ。

・ビジュアル 70点
 いつものことながら絵は綺麗です、ジブリクオリティですね。

・音楽 80点
 これもいつも通り良いですね、BGMも素晴らしいし主題歌が何と言っても印象的です。

・キャラクター 40点
 主人公アシタカはかっこよかったですよ、呪いについてもうちょっといろいろあっても良かったとは思いましたけどね。
 ヒロインのサンは昔観た時はもっと魅力的に感じたはずだったんですが、今回見直したら薄っぺらい印象でしたねえ、やはり彼女の出自をもっと掘り下げるべきだったと思いますね。
 ジコ坊は良いキャラクターでした、ジブリキャラの中でも5本の指に入るほど好きなキャラです。
 後はなあ、しゃべらないシシ神は論外だしエボシ御前は目的がよくわからないしモロの君は美輪明宏さんの吹替は最高だったけど偉そうなことを言ってる割に弱いしなあ。

・総合評価 50点
 
まあこんなものかなあ、可もなく不可もなくという感じでしょうか。
 ちょっと風呂敷を広げすぎてテーマがぼやけてしまったんじゃないですかねえ、勢力同士の対立を描くのか個人の物語を描くのかがはっきりしなかった印象です。
 エンディングのスッキリ感もいまいちでしたね、結局何だったんだろうというのが正直な感想です。

 さて宮崎駿監督作品を見直してきたわけですが、次は宮崎駿監督の息子吾郎さんの監督作品でも観てみようかなあ。


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