映画「リトルマーメイド」の感想
この映画は公開前からずいぶんと賛否両論が飛び交っていましたね、主な理由は主人公アリエルのキャスティングでしょう。
原作アニメファンからの強い非難などが聞こえてきていたのですが、それはなんとなく理解できるんです、やはり思い出を壊されたくないというのは人情でしょう。
しかしながら私はアニメを観ていません、子供のころにアンデルセン童話の人魚姫を読んだのをおぼろげながら覚えている程度です。
だからアリエル役が黒人俳優になろうが私には関係ないんですよ、私は白い熊も黒い熊も同様に好きなのです。
さて前置きが長くなりましたね、さっそくあらすじからいきましょう。
有名なストーリーですから知っている人がほとんどだと思いますが、ネタバレが含まれますので未視聴の人は気をつけてください。
私は字幕版を観ましたので、吹き替え版のことはわかりません。
あらすじ
好奇心旺盛な人魚のアリエルはまだ見ぬ人間の世界に興味津々、沈没船から人間が使う道具などを収集していた。
アリエルの父であるトリトン王はそんな娘の様子を見て心配を募らせる。
ある日1隻の船が嵐で沈没し、海に投げ出され沈んでいくエリック王子をアリエルは助ける。
エリックは命の恩人を探すように指示を出すが、手掛かりは美しい歌声の女性ということだけなので捜索は難航する。
一方アリエルはエリックとの出会いに運命的なものを感じ、人間の世界へ行きたいという思いを抑えられなくなっていた。
そこに目をつけたのが海の魔女アースラ、美しい歌声と引き換えに3日間だけ足を授けてやろうと持ち掛ける。
ただし3日以内に王子と真実のキスができなければ全てを奪われてしまうのだ。
声を失ったアリエルはエリック王子と結ばれることができるのだろうか。
ストーリーの大筋はわかりやすいもので、子供でもしっかり理解できる内容だと思います。
長年世界中で愛され続けている作品ですから面白さは保証済みですね。
登場キャラクター
まずは主人公のアリエル役はハリー・ベイリー。
このキャスティングに賛否があるようですが私は気になりませんでした。とてもチャーミングな女性ですし、好奇心旺盛な少女役を好演していたと思います。
そして何と言っても歌唱力ですよ!
歌声を聞いて鳥肌がたったのは久しぶりの経験です、伸びやかな高音と歌声の圧力たるや!
この評判を聞いていたので普段は吹替派なんですが字幕で見てきたんですよ、聞きしに勝るとはこのことです。
感情表現も豊かです、喜怒哀楽が歌で見事に表されています、これは素晴らしいですね、感動しました。
「人を感動させることが出来るのは人の心のみなのだ」とは美味しんぼに登場する海原雄山のセリフですが、ハリー・ベイリーさんが心を込めて歌っているのは英語がまるでわからない私にも感じられました。
元々歌手だということで歌が素晴らしいのは当たり前なのでしょうけど、演技についても良かったと思います。声を失って人間の世界にやってきたアリエルの、見るものすべてが珍しいという感情が伝わりました。
エリック王子役はジョナ・ハウアー=キング。
エリックは好感度抜群のイケメン王子です。まだ見ぬ海の向こうを目指して船に乗り、船員たちと気さくに交流しながら船の仕事も率先してやります。
アリエルと再会した後(声が出ないので恩人だと気づかない)も謎の女性でしかないアリエルに紳士的に接します、まさに非の打ち所がないプリンスです。
唯一の難点はエリック王子にもミュージカルシーンがあるんですが、他のシーンが素晴らしすぎるために相対的に地味になってしまいましたね。
下手くそというわけではありませんよ、他と比べての話です。
アリエルの父、トリトン王はハビエル・バルデム。
スペイン出身の俳優、「007」「パイレーツオブカリビアン」などに出演。
トリトン王は海全体を統べる王様ということなのかな?
そこらへんの説明が無かったので詳しくはわからなかったんですが、ギリシャ神話に登場するトリトンは海神ポセイドンの息子ですから、たぶんそんな立ち位置なのでしょう。
トリトン王には7人の娘がいて7つの海を任せているようなのです、7人も子供がいて娘ばかりだからお父さんとしても大変だったでしょうね。
末っ子であるアリエルの行動を戒めるような描写が何度もあります、トリトン王の妻が人間に殺されたということも言っていましたから、人間の世界に行ってみたいというアリエルの願いは、父からすれば到底受け入れられないものなのでしょうね。
海の魔女アースラとも何か因縁があるようなのですが、劇中では詳しく語られません。
とにかく厳格な海の王という感じが出ていてよかったですね。
海の魔女アースラ役はメリッサ・マッカーシー。
アメリカ出身の女優、「SPY/スパイ」「ゴーストバスターズ」などに出演。
どうですかこのビジュアル、これだけでインパクト抜群でしょう?
でも下半身はタコになっていて全身だともっとすごいです。
今作のMVPは間違いなくこのアースラですよ、セリフ・表情が素晴らしい悪役です! 良い作品には良い悪役が欠かせませんがその点でアースラは120点です。
そして驚いたのは歌です! アースラにもミュージカルシーンがあるんですが、これが圧巻だったんですよ!
ハリー・ベイリーの歌を聞いた後ですからどうしたって見劣りしそうなものですがさにあらず、なんとも憎々しげに情感たっぷりで歌い上げるのです。
まるで美輪明宏さんの歌を聞いているような感覚でしたね、もちろんシャンソンとは全然違うんですけど、感情の入れ方があまりにも凄かったので連想したんです。
アースラの策略によって物語が進むわけですから重要キャラです、その圧倒的な存在感は特筆ものでしたね。この映画全体のレベルを押し上げた功労者と言えるでしょう。
そして重要な役回りを担う海の仲間たち。
フランダーはアリエルの友達というポジションです、見ての通りの魚ですから活動域は海に限られます。
見た目が気持ち悪いという意見もあるようですが、私は魚好きですのでそうは思いませんでした。
トリトン王の執事のようなポジションのセバスチャン、やはり執事と言えばセバスチャンという名前がしっくりきますね、この作品が元ネタなのかなあ?
トリトン王から無理難題を押し付けられて、表向きは従順だけど影では愚痴をずっと言っているような人間味のあるキャラです。
なんだかんだと言いながらアリエルのために頑張る姿が好きですね。
シロカツオドリのスカットルはアリエルの友達。
物知りを自認しているが実はでたらめばかりのいい加減キャラです。
お調子者なんだけど空を飛べる利点を活かして大活躍します、アースラに向かっていくシーンは熱かったですね。
この3匹がアリエルとエリック王子の仲を取り持とうと奔走するのがこの映画のひとつの見どころとなっています。
それぞれが良いキャラでしたね。
さて登場キャラクターはこんなところですか、では採点にいきましょう!
総合評価
・ストーリー 75点
話の大まかな流れは原作通りです、王道の物語ですから面白いですよね。
メインテーマであるエリック王子とのロマンスについてですが、アリエルの方からアプローチするという描写はあまりありません、というのもアースラの奸計によって「3日以内にキスをしなければならない」という記憶が消されてしまっているからです。
なのでのんびりと人間の世界を楽しんでいるアリエルを見て、海の仲間たちと一緒に観客たちもやきもきするという構成になっているんですね。
原作ではアリエルとエリックの恋物語が主軸になっていたと思うのですが、今作では人間と人魚の種族間の問題もテーマになっているように感じました。
トリトン王からしてみれば妻を殺した人間を憎むのは自然なことですし、人間の方からも人魚は船を沈める魔物と考えているようなので警戒するのは当然でしょう。
それが和解に至るプロセスがあまりにも描写不足に感じられました。アースラが巨大化して暴れる様を見れば、ますます海の生き物に対する警戒心が募りそうなものですからね。アリエルとエリックだけのことならば理解はできたのですが。
アースラとの最終決戦は肩透かしでしたね、巨大化して無敵感があったのにあっさりとやられちゃいました。まあアクション映画じゃないからいいのかな。
・ビジュアル 80点
海の中の描写は素晴らしいです、本当に海の中にいるような臨場感です。
冒頭の船のシーンも気合が入っていましたね、波と風に翻弄される大型帆船は迫力満点でした。
ただ物語が進んで陸のシーンが多くなると何か普通になるんですよ、別にショボいわけではないですけど、海の描写が素晴らしすぎるので相対的に見劣りするんですよね。
劇中に有名な「アンダー・ザ・シー」という曲のミュージカルシーンがあるんですが、このシーンが歌もビジュアルも素晴らしいんですよ。
「海の下は最高だ」みたいなことを歌ってアリエルを引き留めようとする歌なんですけど、見ている方としては海の中の世界があまりにも魅力的に描写されるものですから、アリエルが陸に上がりたいという思いに共感しにくくなるんですよね。
・音楽 95点
これは文句なしでしょう、ハリー・ベイリーさんの歌声には痺れました。
その他のミュージカルシーンも総じて高品質なんですが、中でも良かったのが前述した「アンダー・ザ・シー」のシーンと何と言ってもアースラのミュージカルシーンですよ! あのシーンを見るために映画館に足を運んでも良いと思えるほどに素晴らしいシーンでした。
ただ、声を無くしたアリエルが心の中で歌いまくるんですよ、それはもちろん素晴らしい歌声なんですが、しゃべれないという状況が薄まってしまったように感じられました。
ずっと心の声も無くて声を取り戻した瞬間にあの美声で歌いだすという方が感動が大きかったんじゃないのかなあ。
・キャラクター 80点
主人公アリエルは歌声は100点だけど表情豊かとは言えない感じでした、もちろん大根演技などではないですけど天真爛漫というイメージではなかったかな。
エリックは好印象イケメンですけど薄味だったかもしれません、ちょっとクセが無さ過ぎて面白みが足りないんですよ。でも良い奴という感じはよく出ていました。
トリトン王は威厳があって良かったですね、でもアースラが濃厚だったために存在感が薄れてしまいましたか、とにかく海の魔女は最高でしたね。
海の仲間3匹組はそれぞれキャラが立っていて良かったですよ、特にセバスチャンがお気に入りです。
・総合評価 85点
総じてレベルの高い映画だったと思います、いくつか不満点もありますがミュージカル映画としては満点に近い出来だったのではないでしょうか。
ラストシーンではアリエルとエリックのカップルより人間と人魚の和解の方が強調されていた印象です、純粋な恋物語にしておいた方が幸福感が大きかったような気もするんですが、これが現代風なのでしょう。
映画の中身よりもポリコレ的なキャスティングの方が目立ってしまうのは不幸ですね、種族の垣根を超えるというのがポリコレの神髄だというならアリエルは人魚のままじゃないといけない気もします。
でもこういうファンタジー世界の娯楽作品に現実世界の理想を持ち込むのは無粋というものですよ、純粋に物語の世界を楽しみたいものですね。
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