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マイナス人間の婚活奮闘記

わたしは精神を病んでいる。
しかも親からはよく容姿が悪いと言われてきた。
一応高学歴なのだが、それがプラスに働いたのは大学時代の勉学の楽しさと就活時ぐらい。
ついでにがっつりアニメ系のオタク趣味。

わたしは『女』としてマイナス要素が多いと自覚している。
だから婚活をした。

マッチングアプリ時代

職場の人がマッチングアプリを使っているのを知り、登録してみた。
名の知れたものは全部登録していたと思う。
プロフにはアニメや観劇が好きなことを書いて高学歴・高収入(当時)であることは隠した。
しかし、わたしの容姿の悪さはどうしようもない。

写真なしで登録した段階で届いた「いいね」は怖い。
おそらく相手は片っ端から送っている。
写真を載せたら、同年代からの「いいね」はほとんど来なくなった。
泣いた。

メンタルダウン寸前の時期にマッチングアプリを使ったのは確実に良くなかった。
メンタルえぐいくらいに削られる悪魔のアプリかと思った。

お一人目

とはいえ、数人とマッチングできた。
最初にマッチングしたのは、10才差の男性。
零細会社の社長をしているという。
チャットのやり取りもテンポが合い、会ってみようという話になった。
なった、のだが……
流石に10才差とマッチングしようとするのはヤバい人なのでは?と突如不安が膨れ上がった。
母に友人のこととしてそれとなく話をしたら「絶対にヤバいから会うな!」と言われ、相手には申し訳ないが前日ドタキャンした。
彼には無事に幸せになっていて欲しいと思う。
余談だが、彼はidを使い回していたのでTwitter(当時)もインスタもアカウントを容易く発見できた。
ネットストーカーには気をつけて欲しい。

お二人目

次にマッチングしたのは珍しく同年代の男性。
おしゃれで清潔感があり、引く手数多だろうと感じさせた。
こちらもチャットのやり取りの後、カフェで会うことになった。
話も和やかに進み、もう少し話たいよねとカラオケへ。

これがいけなかった。

わたしはアニメオタクだ。カラオケで歌える歌、つまり万人ウケする歌がわからないのだ。
当時はまだコロナ前で、アニメは一般の娯楽とは言い難かった。今ならYOASOBIとウタ(Ado)とLISAを歌えばいいのだが。
探り探り、とりあえずBUMP OF CHICKENのカルマ、オレンジレンジのアスタリスク、と進めていったのだが気疲れが半端ない。
彼がお手洗いに立った隙に気分転換にウルトラマンの歌を歌った。
帰ってきた彼はドン引きしていた。
これは終わったな、と悟った。
もうカラオケ行こ!なんて絶対に言わない。言えない。

お三人目

最後にマッチングしたのは同年代のオタク男性。
アニメと特撮も好きだというので前回と同じ失敗はない。
意気揚々と新作の特撮映画を一緒に見てから、感想を語り合おうとスタバへ入った。

しかし、人生何が落とし穴になるか分からない。

彼とはその日のうちに破談となった。
理由は、突然訳の分からないオシャレすぎるカフェに連れていかれて怖かったから、と。
スタバは初心者には怖いところだったのだ。
それ以降、他人とカフェに入る際はドトールを選ぶようにしている。

結婚相談所時代

この時期、わたしと同世代の方の職場恋愛が増えてきた。
「消しゴムを拾ってくれた」というささやかな理由から好意を寄せられている女性を羨ましく思いつつ、わたしも同じ人の消しゴム拾ったんだけどな、と自分の女としてのスペックの低さを目の当たりにした。

そして自然の流れに任せてたら何ともならないと分かり、大金を叩いて結婚相談所に入会した。

相談所では最初に聞き取り調査があった。それを元に紹介するお見合い相手を決めたり、推薦文を書くのだそうだ。
しかし実際に届いた推薦文の内容を見てびっくり。
「お裁縫が得意できっと産まれたお子さまにもお手製のお洋服を着せてあげるような、とても家庭的な方です。」
「一人暮らし中で家事をこなしているので未来の旦那様にも美味しい手料理をつくってくれることでしょう。」

物は言い様とはまさにこのこと。

一つ目についてわたしが話したのは「たまにコスプレの衣装を作るのでミシンがけでうるさくしてしまうかもしれない」
二つ目は「一人暮らしだから食事は野菜炒めみたいな簡単な料理で済ましている」
一つの真実からこうも膨らませられるのか……と感心すると同時に、現実はあまりにも家庭的じゃないのに大丈夫だろうかと不安が募った。

先述の通りわたしが入った結婚相談所では、相談所の担当者から定期的にお相手の推薦がある。
アプリでのマッチングは絶望的だったので紹介された方に片っ端から会うべきか悩んでいたのだが、お相手候補を見て天を仰いだ。
そうだ、ここは東京。
東京で学歴がわたしより上の大学となれば……
条件で「わたしの学歴を気にしない相手が良い」と言ったのを後悔しはじめていた。

お一人目

大学院で研究されている方だった。アニメも見るとのこと。
このお見合いは相手に難はなかった。
難があったのは、わたしである。

お見合いはホテルのラウンジで行われることが多い。そしてわたしははじめてのホテルラウンジで舞い上がっていたのだ。
ホテルのラウンジのアフタヌーンティー。ずっと憧れだった。
「アフタヌーンティー、良いですよね!食べてみたいなあ」
わたしは彼にそう言った。ただの感想のつもりだった。
しかし、これは『お見合い』だ。
その『お見合い』で女性にねだられたら男性は費用を出さざるを得ない状況となる。
そして、わたしは図々しくも奢っていただいたのだ。
過去に戻れたらわたしの頬をぶん殴りに行きたい。
流石に申し訳ないと思い会計時に「わたしも出します!!」と言ったのだが、相談所のルールとしてお見合い時には男性が必ず出すというものがある。
結局全額払っていただき、勿論破談となった。
「お礼すら言えない自己中心的な人はお断りです」とコメント付きで。
流石にお礼は言ったと思うのだが、自分の記憶はあてにできないし、何より高価なものをねだって買わせたという事実は残っている。
何なら今でも払っていただいたお金を返したいと思っている……。

お二人目

前回の大失敗で、もはや婚活がトラウマになっていた。
さらに仕事面でもメンタルが完全にやられていた。
これまではメンタル面で通院している話はしてこなかったが、このあたりから隠せるレベルではなくなってきた。
もうあと三人合ったら婚活は辞めて独身を貫こう。そう決意した。
そんな状態でお会いしたお二人目。
またホテルのラウンジだったので少し前に着いて一番安いメニューを確認しようとしたら、なんと相談所から連絡された時間と実際のラウンジの予約時間が違っていた。
幸いにもその日は悪天候で店内に客は見当たらなかったため、
事情を説明して時間変更をお願いし、無事に中に入ることができた。

そして肝心のお相手が到着したのだが……癖が、癖が強い……。
なかなかマッチング出来なかったという教員の彼は、独特の節回しをしていた。
これ、絶対に学生から裏でモノマネされてるだろうな……と失礼ながら思ってしまった。
また、途中でお手洗いに立たれたのは良いのだが、なんと革靴で猛ダッシュしていった。
ホテルの従業員もびっくりしている。
別にゆっくりで良い、気にしないと言ったのに……。
話は面白かったが、聞いた質問に対し超変化球での答えが帰ってくることが多かった。
わたしの質問が一意でなかったのか、彼がそういうタイプなだけなのか。
分からないままぐったり疲れ果てたわたしはお断りの連絡を入れたのだった。

お三人目

今回はホテルではなくレストランでのお見合いとなった。
オシャレなレストランで、相変わらず事前に最安値メニューをチェックしていたらお相手がやって来た。
塩顔イケメンの部類に入る、高身長の男性。
本当にお見合い相手がわたしでいいんですか、と聞きたくなってしまった。
彼はオタクではなかったものの話が弾み、この時ようやくお相手をオタク縛りで探さなくても良いのかという気付きを得た。
そして、なんと、初めて交際へと進んだ。

結婚相談所ではお見合いのあと、お互いにOKが出れば仮交際に進むことができる。この仮交際で相手を見極めて、その後本命とだけ本交際へ進むのだ。

彼はセンスも良く、ちょっとしたギフトを持ってきてくれたこともあった。
何故わたしとの交際に進んだのか?と聞いたら「明るくて元気なところが良い」と答えてくれた。
明るくて元気、それは誰のことを指しているんだ……?と疑問に思いつつ、
そしてメンタルのことを伝えたら別れることになるのかなと思いつつ、仮交際は進んだ。

そして三回目の仮交際デート。ここで本交際に進むかを決められる。
わたしは覚悟してメンタルのことを明かそうと口を開いた……ら、彼と被った。
先に彼の言葉を優先したら、これまた驚きの展開となってしまった。
「関西に転勤になるけどもちろん着いてきてくれるよね?」と。

まだ仮交際。本交際に進むのかも、結婚するのかも分からない。そのタイミングで引っ越しとは。
会社の都合上とのことで仕方がないが、わたしの会社も全国展開しているから一緒に転勤して欲しいと言われると……。
悩んで相談所に相談した。すると相談所NGが出た。
こうして仮交際で幕を閉じたのだった。

最後の人

これで最後だからと自分からお相手候補の検索をかけた。
わたしが倒れても大丈夫なように年収か所得が高そうな人で、オタク趣味に寛容で、高学歴は避けて、見た目はこの際どうでも良いけどできれば二重まぶたの人が良いかな、といった具合に。
その検索結果から数人にお見合い希望を出し、うち一人からOKが出た。

今回は再びホテルのラウンジ。
待ち合わせ場所には何人かの男性がいた。
しかし写真と顔を合わせていっても見つからない。彼の写真の加工が強かったのだ。
困りながらも片っ端から確認してようやく見つかった。ラウンジの待ち列のふちでずっとスマホを弄っていたのが彼であった。

正直、第一印象は良くなかった。
しかし会話のテンポがあまりにも合う。ボケると欲しいところにツッコミが来る。結婚はできなくても夫婦漫才はできる。そう感じた。

彼もアニメオタクだというのでその頃放送していた好きなアニメの話を振ってみた。だが、なぜか反応が良くない。
反対に何のアニメが好きなのか、と聞いてみた。すると、とんでもない熱量でのプレゼンが返ってきた。
あまりにもオタクらしいオタクである。
たまたまわたしもその関連作品にハマっていたので、お返しにその作品のプレゼンをしておいた。ついでにコスプレしていることのカミングアウトもその場で出来た。

仮交際に進むかどうかはかなり悩んだ。お見合い後の感想としては単に『オタクと話をしてきた』という感覚だったからだ。
第一印象の悪さと会話のやり取りの気軽さを天秤にかけた結果、もうちょっと様子を見ようと交際OKの返事を出した。

翌週。仮交際デートとして池袋にいた。
水族館という定番デートコースなのだが、ここにも一つ問題があった。
わたしはダイオウグソクムシオタクでもある。
ダイオウグソクムシなら一生見ていられる自信がある。そしてその時期、その水族館にはダイオウグソクムシがいたのだ。
ダイオウグソクムシがどういう見た目の生物かというと、白い巨大ダンゴムシみたいな生物。
つまり人によっては生理的に拒否反応が出るタイプの生き物だ。
相手に不快感を与えず、なおかつグソクたんをなんとかチラ見できないか?とわたしは考え込んでいた。

しかし、その心配はあっけなく終わった。
「思う存分堪能してるのを眺めてるだけで楽しいから」という彼の菩薩のような心の広さのおかげで、
じっくり推しを眺め回すことができた。
すっかり気が抜けて、その後はアニメショップに連れ回してみたりゲームセンターを覗いてみたりとかなり自由に行動した。

自由にしすぎて大丈夫かな?と不安に思ったが、帰りの電車で彼から
お見合いの日にプレゼンされた某アイドルアニメを「次に合うときまでに全話履修してきて!」と言われ、別に問題なかったのを確信した。
わたしもお見合いの日にプレゼンした某アイドルアニメを「次に合うときまでに全話履修してきて!」と返しておいた。
なお、前者は全178話、後者は全24話である。
これって出会って二回目の人に勧める量か……?

その後も無事に仮交際デートを行い、三度目、ラストの仮交際デート。
上記のアニメのライブ鑑賞会をしようという話となり、鑑賞会ができるカラオケやフリースペースを探していた。
しかし候補場所一覧を彼に見せたら一言「俺の家(持ち家)で鑑賞会しよう」

勿論大パニックである。

結婚相談所では成婚まで性交渉は禁止されているが、彼の一人暮らししている家に連れ込まれたらどうなるか分からない。
不安になりネットで調べたり相談所に相談したりしたが、今回の相談所からの返事は「大丈夫ですよ!」
それを信じ、恐る恐る彼の家へ向かった。

部屋に入ると、なるほどこれは。
70v型の液晶テレビとウーファーが鎮座していた。
確かにカラオケより良環境だ。
渡されたエロゲキャラのクッションを床に敷き、飾られた数々のグッズコレクションを見ていたら準備が整ったらしい。
視聴開始だ。

ところで、前々回の別れ際に全話履修を求められたのだが、当然観れなかった。たった二週間の猶予じゃフルタイムで働く中で観れる訳がない。
結果、ほとんどが知らない曲だった。サ終したゲームの曲もあったらしい。勿論知らない。
名曲で涙ぐんだり突然クラップや合いの手を入れる彼を見て、水族館で言われた「眺めてるだけで楽しい」という言葉を思い出した。確かに面白い。

この日で仮交際ラストだったため、本交際に進む前に彼にメンタル面の話も伝えた。
これで断られるんじゃないか、詐偽だと言われるんじゃないかと不安だったのだが、これもあっさり「そうなんだ」の一言で終わった。
あっさりし過ぎていてむしろわたしが問い詰めた。
「家事できない日もあるよ!?」「機嫌がめちゃめちゃ悪い日に八つ当たりするかもしれないよ!?」「精神の病気なんだよ!?」
しかしこれらも全部「そうなんだ」「家事なら俺が出来るし」で済まされた。
そんな人も世の中にはいるのだ。SSRどころかURだとは思うが、そんな人がいるというだけで希望だ。

彼にはついぞ愛とか恋とかいった感情は湧いてこなかったが、一緒にいて楽しいから、一緒にいてもらえるから、と本交際に進んだ。

本交際~婚約

本交際に入った後は数回デートした上で婚約(ここでは相手と結婚すると表明すること)するかどうかを決め、お互い婚約となれば晴れて相談所を成婚退会となる。

しかしわたしたちには本交際が始まった瞬間にとんでもない行き違いが発生した。
わたしは相談所から指輪のサイズを聞かれたのでそれに回答した。
一方で彼は相談所から「彼女が指輪を欲しがっている」として指輪のサイズを聞かされたというのだ。
これにより何が起こったのかというと、本交際一日目にして婚約&結婚指輪購入の旅が始まった。

とりあえず銀座を巡り、とりあえず金額が高すぎないところで指輪を購入し、その後夜ご飯でプロポーズを受けた。
順序を踏むとは何だったのか。
わたしたちは本交際一日目にして婚約成立となったのだった。

結婚、その後

その後、それぞれの親に紹介したり両家顔合わせしたりしながら同居を始めた。
同居の中で、わたしが床に落ちて動けない日があることも、本当に家事が出来ない日があることも、ヒステリックになる時があるのも彼に知ってもらった。……というより知らしめてしまった。
それでも「出来る日にお互いに得意分野でカバーすれば良い」と気に留めることなく一緒にいてもらえるのはありがたいを通り越してもはや神様を拝んでいる気分である。
恐らく一生分の対人運をすべて今の旦那に注ぎ込んだのだろう。

そして婚姻届をいつ出すかという話になり、やはり大安吉日でしょうという旦那の家族からの提案から、夏の暑い日に婚姻届を提出した。
結婚式はコロナもあり結婚から一年開いてしまったが、無事に開催できた。
マリッジブルーとは言うけれど、婚姻届を出す前よりも結婚式準備で歩調が合わない時のほうがブルーになるんだなと学んだ。そして二人の歩調の合わせ方をここで学ぶのだとも。
今でもやっぱり彼に恋の感情は湧かない。
でも大切にしてもらえる安心感と愛情は成婚時とは比にならないほどである。

マイナス女でも結婚できた理由は結局、運とタイミングとしか答えようがない。
そもそも彼が結婚相談所に登録していた理由だって、「その時やっていたゲームに出てくる家族が好きで羨ましくなったから」という至極真っ当ではない理由だった。

運とタイミングを逃さないために行動回数を増やし、失敗した箇所を改善する。
どんなことにも通じる話だが、結局何事もこれに尽きるのだと味わった5年間だった。


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