わたし、亜細亜的功夫世代 〜こじらせサブカル女からの謝罪〜
私が中学1年生の頃の話です。
ある日学校から帰宅すると、父が「うち、スカパー見れるようになったから」と言いました。
えっっっっっ!!!!!!
あの、お金持ちのマイコちゃんの家にしか入っていないという伝説の『スカパー』が!?!?
中1の私はうれしすぎて「お父さん、ありがと~~~!!!!!」と窓の外に向かって叫びました。
その声は遠く八甲田山まで聞こえたと言います
いつも父が好きな「釣りチャンネル」に合わせられているそれを、父がいない日はバレないように別のチャンネルに変えます。
私の目当ては、音楽専門チャンネルの「スペースシャワーTV」でした。
地上波の音楽番組では放送されない、知らないミュージックビデオが次から次に流れるそのチャンネルは、自分だけが知っている世界を覗き見ているような、少し大人になったような気持ちにさせてくれました。
そこで出会ったのです、アジアンカンフージェネレーションと。
眼鏡をかけた小柄な男性が、スプリンクラーの降り注ぐ狭い部屋で、暴風に吹かれながら叫ぶように歌い、ギターを掻き鳴らす…
初めて買ったCDが「だんご三兄弟」だった私にとってはあまりにも衝撃的でした。
なにこれ……
めちゃくちゃかっこいいじゃん…!
2003年4月 『崩壊アンプリファー』発売
私は貯めていたお年玉で、彼らのメジャーデビューミニアルバム『崩壊アンプリファー』を買いました。MVに衝撃を受けた『遥か彼方』だけではなく『羅針盤』や『12』など名曲ぞろいのこのアルバムを、繰り返し繰り返し、飽きることなく聴きました。
アジカンがDJを務めていた『OverDrive』というラジオ番組も、毎週欠かさず聞くようになりました。23:00という中学生にとっては夜遅い時間にやるものだから、姉と相部屋の私は親に借りたラジカセと一緒に布団にもぐり、イヤホンをつけて、ラジカセを電波のよく入る角度にかたむけながら、夢中で聴いたのを覚えています。
彼らは、自分たちの音楽だけではなく、自分たちが影響を受けた音楽、今良いと思っている音楽、仲良くしているバンドの曲をたくさん流しました。
NUMBER GIRLやユニコーン、OASISやweezer、blur、チャットモンチー、サカナクション、BEAT CRUSADERS、ストレイテナー、ELLEGARDEN、ACIDMAN…
ラジオで紹介される曲たちは、深夜に待ち合わせたアジカンがこっそり、これいいから聴きなよ、っておすすめしてくれているみたいで。秘密を共有しているような気持ちで、どきどきしながら私はラジオを聴きました。
そして同年11月『君繋ファイブエム』という1stフルアルバムが発売されました。1曲目の『フラッシュバック』という2分に満たない短い曲で心を撃ち抜かれ、続けざまに2曲目の『未来の破片』になだれ込むあの疾走感。初めて聴いたとき、そのビートに合わせるように鼓動が速くなりました。
2004年10月 『ソルファ』発売
2004年、アジカンは2ndアルバム『ソルファ』をリリースしました。
この名盤『ソルファ』はオリコンチャートで1位を獲得し、一気にその名を世に知らしめます。
※ソルファ収録曲、リライト。サビの「くだらないチョーゲッソン ワスーラーナンソンザイカンヲ」の箇所はあまりにも有名。
Mステのランキングコーナーでは、外国人ナレーターが流ちょうな英語で「エイジアン クンフー ジェネレィショォン」と名前を読み上げます。
チクッ
ん?
何やら、胸がチクリとしました。
私の中でのアジカンは、スペースシャワーTVでしか見られない、家族からこっそり隠れてラジオを聴くような存在で、テレビなんか見ていたって絶対に映ることのない人たちだったはず。
なのに、今みんながアジカンを知っている。街頭ビジョンで映像が流れる。友達がカラオケで歌う。TVでCMが流れる。嬉しいことのはず。嬉しいことのはずなのに、胸がチクリとする。
その違和感の正体がわからないまま、私は高校に進学します。
高校では、私と同じように中学時代からアジカンを聴いていた仲間と出会い、アジカンのコピーバンドを組みました。
スタジオに入り『遥か彼方』や『羅針盤』を演奏したとき「音楽って、聴くだけじゃなくて"やれる"んだ…!」と、当たり前のことなのになぜだかものすごく感動しました。音楽を"やる"、なんていう発想。アジカンに出会わなければ、生まれることはなかったでしょう。
高校の間にも3rdアルバム『ファンクラブ』をリリース。このアルバムに収録されている『ワールドアパート』という曲は、シングルで初めてオリコンチャート1位を獲得しました。
当然のように大学でも軽音サークルに入ろうと決めていた私は、あるひとつのサークルを見に行くことにしました。
見たこともないバンドのライブTシャツを着ている男性の先輩に勧誘されて部室に向かうとき、こう話しかけられました
男「どんなバンドのコピーやってたの?」
私「えっと、アジカンのコピーです」
男「あー、アジカンね(笑)ほかには?」
"あー、アジカンね(笑)"…?
"ほかには"…?
アジカンは誰でも知っているバンド…オリコンに入ってるのって、確かに平原綾香のJupiterとか大塚愛のさくらんぼとか、平井堅の瞳を閉じてとか、まあロックとかとは言い難い音楽で……
もしかして、アジカンってダサいの……?????
そんなアジカンを好きって言っちゃってる私ってダサいの????????
魚の小骨のようにひっかかっていたあの違和感の正体がわかったような気がしました。
あの心のチクチクは、ここにあったのです。
オリコンランキングに入ってる音楽ってダッセ~~~~!!!!!
そう悟った私は恥ずかしさもあってその軽音サークルには入らず、音楽とは無縁のサークルに入りました。
そして密かに、新宿のタワーレコードに通う日々が始まります。
誰も知らないような音楽を探さなければ…
ジャケットがかっこいいという理由のみでCDを買って一度だけしか聴かなかったり、音楽雑誌の端っこに載っているよくわからないバンドのCDを買って正直全然よさが分からないのに無理やり「好きなバンド」と思い込んだりしました。
そして、そうしてせっかく好きになったバンドすらも「売れたら聴くのをやめる」という流れに入っていました。
これがあの有名な"こじらせサブカル女の負のスパイラル"です。
▼【図説】こじらせサブカル女の負のスパイラル
冷静になれば分かることですが、タワーレコードに置いてある時点でそれなりに有名なバンドということだし、雑誌に載っているということは私以外にも聴いている人がいるわけです。
ただ当時、こじらせ切っている私のことは誰にも止められない。
無名だけどいいバンドはいねえが… 知っていると「マニアックだね」と尊敬されるバンドはいねえが… なまはげのごとく、タワレコのCDラックを荒らす日々。
このときの私が音楽を聴く基準は、好きかどうかではなく。
"オリコンチャートに載っていないこと"がすべてでした。
その基準に漏れたアジカンの音楽を、大学生の私が聴くことはありませんでした。
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大学を卒業して一般企業に就職し、数年が経ったある日。高校の友人と会う機会がありました。
「ソルファ買った?」
その問いの意味を、私は最初理解できませんでした。
2016年11月 『ソルファ』再録版 発売
なんとアジカンは2016年に、全曲を再録した『ソルファ(2016ver.)』をリリースしたのです。
にわかに信じがたく、Youtubeで検索をしてもう一度驚きました。
あの時聴いていた『リライト』と同じはずなのに、違う。
私は急いで、アジカンの他の曲もYoutubeで検索しました。
迷子犬と雨のビート、荒野を歩け、ボーイズ&ガールズ……
なんだこれ
めちゃくちゃかっこいい……!!!!!!!
あの、爆発的にヒットしたソルファを出してから12年。彼らはまったく同じメッセージを、違う形で、12年間こじれ続けていた私に届けた。
私が『他人からどう見られるか』だけを考えて音楽を聴いていたその愚かな期間を吹き飛ばすほど、彼らは"変わらず進化していた"のです。
私は胸に手を当てました。
そもそも私が好きなのはなんだ。
偶然聴いた曲に衝撃を受けて、お年玉でアルバムを買いに走ったのは誰だ。
夢中でラジオを聴いていたのは誰だ。
アジカンに憧れてバンドを始めたのは誰だ。
私が好きなのは、『音楽』なのだ。
オリコンチャートなんて、関係ない
いいもんはいいんだ!!!!!
そこからの私は、無我夢中でいいと思う音楽を聴きまくりました。
嵐とか関ジャニもめちゃくちゃいい曲あるし、EXILEや三代目も、かっこいい曲すごく出してる。Mステも欠かさず見て、気になる曲があればダウンロードしました。
アジカンは、私に『音楽』を教えてくれた。
ルーツなんていう、生温い言い方では足りない。
アジカンは、私の恩師です。
私はASIAN KUNG-FU GENERATIONが
本当に本当に本当に
大好きです!
≪本日の一曲≫
ループ&ループ/ASIAN KUNG-FU GENERATION
以上
この記事が受賞したコンテスト
ありがとうイン・ザ・スカイ