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フジファブリックと私の16年 ~ハットのリズムでどこでも行け!~
私には、16年間憧れ続けている存在がいる。
『フジファブリック』というバンドである。
2004年、その奇妙なバンドがメジャーデビューした年に出会った私は、一瞬で虜になった。
中でも「TAIFU」という曲を聴いたとき、雷に打たれたような衝撃を受けたのだった。
飛び出せレディーゴーで 踊ろうぜだまらっしゃい
飛び出せレディーゴーで 踊ろうぜだまらっしゃい
何?
「踊ろうぜ」って誘っといて最後黙らせるの、何?
驚くべきことに、これが曲中もっとも盛り上がる「サビ」の歌詞なのである。
サビは、フレンチでいうところのメインディッシュ『仔羊のポワレ』である。
サビは、山手線でいうところの『新宿~渋谷』間である。
サビは、スラムダンクでいうところの『山王戦』で桜木と流川がハイタッチするシーンである。
そんな、音楽において超重要な「サビ」が、フジファブリックにかかれば「飛び出せレディーゴーで 踊ろうぜだまらっしゃい」×2になるのだ。
しかも曲の終わり際、最高潮に盛り上がるところでこれが ×4に増える。
この曲を聞いた私は―――――
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あまりにも「最高」になってしまった。
フジファブリックの魅力は歌詞だけに留まらない。掻き鳴らされるかっこいいギターリフに軽やかなシンセサイザーが絡まる独特な音楽世界、飄々と演奏しているにもかかわらず隠し切れない圧倒的な演奏技術の高さ、無表情で演奏をこなすメンバーの妙な冷静さ。その完成された世界観が最高にかっこいいのだ。ていうか『フジファブリック』っていうバンド名もカッケェ。
そして「TAIFU」や「ダンス2000」「銀河」など、その楽曲にいったいなんのメッセージが込められているのか全然わからないのも魅力的だった。
小中高の私は、めちゃくちゃ真面目な生徒だったように思う。学級委員だったり、週6で部活に勤しんだり、メガネだったりした。
読書感想文ではメタ視点での所感を記してありきたりな創造性を発揮し、国語のテストではお手本のように筆者の気持ちを述べた。当時の私には、彼らのようにサビで「だまらっしゃい」する勇気など当然なかった。
そんな真面目な私が迎えた、高校の修学旅行。行き先は長崎だった。
私たちの上の学年は沖縄に行き、下の学年も旅先は沖縄だったという。沖縄と沖縄のミルフィーユ状態で、我々は長崎に赴いた。
長崎にも沖縄にも、共通する歴史的背景がある。それは「戦争」の跡が色濃く残っていることだ。先生は、東京で生まれ育った私たちに、その色を感じてもらうことを期待して旅の日程を組んでいた。
旅行前「旅の思い出を作文に書いてもらいます」という案内があった。
あー、きっと、戦争のことを書いてほしいんだろうなぁ。真面目な私は察した。
修学旅行は、原爆資料館を見学したのち、戦争を体験した人から講和を聞くという厳かな時間をメインとしていた。そのときの話や、資料館で見た原爆の跡は今でも覚えている。覚悟していたよりも痛ましく、衝撃を覚えた。自分の身にもし同じことが起こったらと、想像して震えた。普段うるさい男子生徒もこのときばかりは押し黙っていた。
絶対に、旅の思い出として作文に書き残した方が良いのだろうと思う。私たち高校生が実体験を聞き、悲惨な状況を肌で感じた事実を、この場を用意した大人たちに誠意を持って伝えるべきだ。そして私は真面目な生徒だ。絶対、戦争について書く側の人間だ。これを作文という後に残る形で書き残しておくべき云々
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私の中のフジファブリックが突然、火を噴いた。
戦争はもう二度と起きてほしくないと心の中で強く思っている。痛ましさも身に染みた。でも高校生の私が修学旅行の思い出を作文に書くこととそれとは全然別物なのだった。他人に決められたメッセージを期待通りに書くことに、意味があるのだろうか。むしろ、片手間で書いては失礼ではないか。
私が今、本当に書きたいもの、それは―――
フェリーに乗ったときめちゃくちゃ楽しかった思い出だ。
それが今の私が書きたいと思う、いちばんの旅の思い出なのである。
私は書き進めた。誰がなんと言おうと。
周りがみんな、読むと涙が零れてしまいそうなメッセージ性溢れる作文を書いている中で。私はフェリーに乗ったときめちゃくちゃ楽しかった思い出を黙々と書いた。
希望とか平和とか、大きなメッセージをあまり歌わないフジファブリック。あくまで「踊ろうぜ」と目の前に向けて歌うフジファブリック。そのあと急に「だまらっしゃい」する自由なフジファブリックを思った。
そしてこのとき書いた作文は、全員分が卒業文集に掲載され、すべての卒業生の手に渡ったのだった。
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あれから十数年が過ぎた今、私はインターネットの中で、相変わらず愚にもつかない文章をしたためる日々を送っている。この前、卒業文集をたまたま読み返して、己の成長してなさに愕然としたのちに笑った。
フジファブリックというバンドの魅力として、ひとつ書き漏らしたことがあった。
『TAIFU』のCメロでは、同じ歌詞を4回繰り返し歌う。
感情の赴いたままに どうなってしまってもいいさ
感情の赴いたままに どうなってしまってもいいさ
感情の赴いたままに どうなってしまってもいいさ
感情の赴いたままに どうなってしまってもいいさ
何も歌ってないように見えて、実は結構大事なことを歌っているのである。グっとくることを全然得意げじゃなく演奏するその姿が、とんでもなくかっこいい。
今は「ただなんも言ってない」私もいつかは、「なんも言ってなさそうで実はなんか言っている」フジファブリックみたいになりたいと思っている。
おわり
このnoteはLINE MUSIC公式noteオムニバス連載「#人生を変えた一曲」に寄稿したものです。「だまらっしゃい」しないでいただきありがとうございます。
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