山岳フリマ
標高3000メートルの雪山で遭難をした。食料は尽き、ここ2日間は雪を食べて過ごしている。ここで死ぬのだと覚悟をした時、視界の先にぽつんと明かりが灯った。近付いてみると山腹の洞窟の入口に「山岳フリマ」と書かれた布が掛かっていて、光はそこから漏れていた。中を覗くと、市が開かれていて、何人かの客が商品を物色している。
助かった!何でも良いから食べ物をくれ‼
俺はゴザの上の売り物に目を走らせたが、そこに並んでいたのは穴のあいたリュック、片足だけの登山靴、ひび割れた水筒など。どれも使い物にならないガラクタばかりだ。
「食べ物はないんですか?」
店番をしていた老婆が、しわくちゃの顔をゆっくり俺の方に向ける。
「ここは険しい山だから、滅多に新しい商品は入らねぇ。でも幸運なことに、今日は新しい商品が届いたよ」
「新しい商品?」
期待を込めて聞き返すと、老婆は薄く微笑んで、俺の背後を指さした。振り向くと、さっきまで客だと思っていた男達に周囲を取り囲まれている。
ここで死ぬんだ。俺はきょう2回目の覚悟をした。