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かもしれない弁天

弁天は舳先に腰掛けながら、ぼんやりと波間を眺めていた。

「今回は波乱があるかもしれないわ」
「縁起でもない。ただでさえ弁天が言うと、本当になるんだから……」

大黒天が苦笑いをする。

「まぁまぁ。わしらの旅は順風満帆さ」

恵比寿がのんびりと釣り糸を垂れると、すぐに竿がしなった。

「大物かもしれない

弁天が呟いた次の瞬間、海面が割れ巨大な鯨が跳ね上がった。鯨が起こした大波を被って船が傾く。福禄寿が転げ落ちそうになり、布袋の巨体にぶつかって止まった。
鯨に引っ張られ、宝船が猛スピードで動き出した。毘沙門天が長鉾を放り投げ、なんとか船のバランスを保とうと操舵する。

「恵比寿っ、早く釣り竿を離せ!」
「お気に入りなのに……」

しぶしぶ恵比寿が竿を手放すと同時に鯨が先程よりも高く跳ね上がった。

「こ、これはいかん。船が沈むぞ!」

その瞬間、帆が風をとらえ、船はギリギリのところで鯨のボディアタックを躱し、木の葉のように錐揉みされながらも何とか持ちこたえた。

「こういう波乱万丈も、旅の醍醐味だ」
「弁天よ、次は何が起こりそうじゃ?」

寿老人が尋ねると、弁天はくすりと笑った。

「龍が現れるかもしれないね」

皆が空を見上げると、遠くの雲が不思議な形にうねっていた。

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