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ときめきビザ

男は申請書を手に恋愛管理局の前に立っていた。恋愛ビザは審査が厳しく、通るのはほんの一握りだ。でも、彼は必ずビザを取ってみせると決意していた。そして彼女と公に交際するのだ。

待つこと8時間。やっと順番が回ってきた。震える手で、女性職員に書類を差し出す。

「初めての申請ですか?」
「はい」

職員は書類を一瞥すると、目を細めて男の顔を見る。全てを見透かすような視線だ。

「却下です」
「え⁉どうして?」
「ときめき指数が低すぎます。本気度も感じられません」

男は自分の耳を疑った。彼女を想う度に、俺の心臓は早鐘のようになるというのに……。食い下がると、警備員がやってきて役所からつまみ出された。

それ以来、男は来る日も来る日も恋愛管理局に通い続けた。1月経ち、3か月が経ち、1年が経ち、もう、自分の想いを当局に認めさせてやるという意地だけで何度も申請を繰り返した。そんな噂を聞きつけ、テレビ局が取材にやってきた。記者は男の話を聞くと、「当局の横暴を正しましょう!」と帰っていった。

翌日、男はストーカー規制法違反で逮捕された。ニュースでは「絶対に彼女のことを諦めない!」と、目を血走らせて叫ぶ男の顔が繰り返し流されていた。


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