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文学トリマー

「何故、ベスという名にしたのですか?」

はぁ……この質問攻めはいつまで続くのだろう。私はただ、ベスを可愛くして欲しいだけなのに。出会いから始まり、好物、性格、更には家族の趣味まで根掘り葉掘り……ペットサロンってこうなの?この人もちょっと変。さっきから自分の髪をくしゃくしゃとかき分けて、何かぶつぶつ呟いて、まるで芸術家みたい。

「あの~、カットの希望を伝えて良いですか?」
「必要ありません!」
「え⁉」

トリマーに睨まれる。

「犬種は勿論、生い立ちや性格など、あらゆる観点からワンちゃんを理解し、毛の1本1本を紡ぎあげ、その子らしさを表現するのが私の目指す文学トリミングです」
「はぁ……」
「安心してください。イメージが下りてきました」

言うやいなや、もの凄い勢いでトリミングを始めた。もう私は何も口出しできなかった……

30分後。ベスはコンテストに出てくるような美犬に生まれ変わっていた。

「すごい可愛い!」
「気に入ってもらえて良かったです」
「是非またお願いしたいので、来月の予約をしても良いですか?」
「すみませんが、二度目はお断りしています。同じような作品を作るようになったら、その作家は終わりですから」

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