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tomekantyou1
夜からの手紙
目覚めると、妻が手紙を読んでいた。
ママへ
お元気ですか?わたしは元気です。
きょう、ミキちゃんといっしょに、オママゴトであそびました。
ミキちゃんがおかあさんで、わたしが子どもになりました。
オママゴトをしたら、ママのことをおもい出して少しさみしくなりました。ミキちゃんは「それでいいの。オママゴトは、ママのことをおもい出すためにやるんだから」と言って、本もののママみたいにわたしのことをぎゅっとだきしめてくれたよ。ミキちゃんはやさしいから大すき。でも、ママの方がもっとすき。大大大すき。
また、お手がみします。大すき。
クミより
「また、クミからかい?」
「ええ」
妻は、そこに娘の痕跡を探すように、何度も手紙を読み返していた。私は、そっと寝室を後にする。
半年前、クミが横断歩道を渡っていたところ、信号無視で突っ込んできた車に撥ねられた。運転手の男は朝まで酒を飲んだ帰りで、居眠り運転だった。
葬儀を終えた翌日から、毎朝1通の手紙が妻の枕元に届くようになった。娘の筆跡そっくりのその文字はいつも涙で滲んでいるが、私は気付かないフリをしている。